『  おむすび ・ おにぎり  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

   カツン −−  カツン  −−−

 

この階段は いつだって足に固く、冷たい。

正確に刻まれた段数は ついぞ数えてみたことがない。

降りるときは 緊急時がほとんどで 昇るときには 一人ではないことが多いからだ。

 

    本当に 固い床ね ・・・

 

フランソワーズはスリッパだけの素足に 床の固さを直に感じていた。

壁と同じ色、ほとんど見分けがつかないドアには 簡単なプレートが着いているだけだ。

 

  メンテナンス ・ ルーム    ―   元は 改造室 と書いてあったっけ・・・

 

彼女はそんなことをぼんやり思い出しつつ、 ドアを開けた。

「 おお  待っておったよ ・・・ 」

「 お願いします。 」

「 うむ ・・・ 大丈夫、おそらく予定の日数より早く終了するだろう。 」

「 そうだと嬉しいのですが。 」

「 そうだな。  では ・・・ 」

「 はい。 」

フランソワーズの、 いや サイボーグ 003 のメンテナンス作業が開始された。

 

他のゼロゼロ・ナンバー・サイボーグ達と違って 生体部分の多い 003 のメンテには

まず <普通の> 全身麻酔を処方し然る後にメカ部分のシステム・ダウン を行う。

「 安心して ― よい夢を ・・・  」

「 はい ・・・ 

 

 

     ・・・ 夢 ・・・?  ああ  ・・・ 夢  ・・・

     

     そ  う ね ・・・  今度はどんな夢 を ・・・ 見る ・・・? 

 

 

 ぼんやりと思っているうちに、 ことん、と睡魔に引きずり込まれ ― なにもわからなくなった。

 

「 ―  よし。  次は システム ・ ダウン だ。  ふむ ・・・ 至極安定しておるな ・・・ 」

多くのモニターからデータを読み取りつつ、ギルモア博士は安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 

    カツン カツン カツン  ―  

 

       あら ?  商店街の舗道 ・・・ 換えたのかしら ・・・

 

フランソワーズは ふと靴音の違いに耳を澄ませた。

地元 ・ 海岸通りの商店街は 昔ながらのアスファルト舗装、 所によっては土の私道も混じる、

といったローカルな雰囲気なのだ。  だから足音も 鈍いことが多い。  

 だけど ・・・ 

 

    カツン カツ カツ カツ  コツコツコツ ・・・

 

今日はやけに行き交う人々の靴音が 高く耳についた。

「 ・・・ へんねえ?  最近 かかとの固い靴とか・・・流行っているのかしら。 

 

     ???   あ  あら ・・・?   ここ ・・・・?    

 

顔を上げ周囲を見回すと  ―  

 

       そこは あの海岸近くの少し古ぼけた町 ではなかった。

 

建物のフォルムからして全然ちがうし、 なによりも太陽の光の色がちがう。

あのまっすぐで鮮烈で ― でもきっぱり潔い光 ではないのだ。

 どこかすこしぼんやりしていて ・・・ そう、シルクのフィルター越しみたいな光だ。

「 うそ ・・・?  ここ ・・・ ウチの近所 じゃない  の ・・・? 」

慌てて目を凝らしてみたが 確かに違う。 

 

       でも。  そこは 見知らぬ場所 ではなかった。

 

「 え ・・・? どうして? だって ここ ・・・ 知ってる ・・・? 」

驚きのあまり言葉がよく出てこない。  でも  だって そんなはず ・・・?

「 ・・・ ここ  パリ だわ?  わたしが住んでいた区画に近い・・・ 

 そうよ、隣の区だわ。  ええ ・・・ レッスンの帰りにはこっちから ・・・ あ pardon ! 」

後ろから彼女の脇をすり抜けて 紳士が追い抜いていった。

「 ・・・ いっけない ・・・ 立ちん坊は よくないわよね。 」

あんまりぼ〜〜〜っと突っ立っていると、妙に思われるしだいたい通行の邪魔なのだ。

「 ・・・ こっち ・・・ 行ってみる? 」

彼女はめくら滅法 足の向く方向へ歩き出した。

 

   カツカツカツ  コツコツコツ ・・・    うふふ  あはは  ははは ・・・

 

人々は足音も軽く 陽気に囀る小鳥みたいにおしゃべりをし笑いあう。

空気かるく乾いていて お日様はいつもよりほんのすこし優しい。

行き交う人々は 皆 彼女と同じ色合いをしている  ― そう 髪も目も 肌も。

「 ・・・  わたし  パリに居る ・・・ あの街に いるんだわ! 」

どうして どうやって −  とかは 今 考えたくなかった。

ただ ただ この空気 ・・・ この場所の雰囲気の中に我が身をおいていたい、と思った。

もう二度と味わえない、 あの頃の空気なのだから。

「 そうよ ・・・ ちょっとだけ。  この街を散歩しても ・・・ いいわよね。 」

 

   カツ カツ コツ。  カツカツ コツ ・・・

 

夢にまで見た音が 石畳の道を行く音が自分の足元から生まれ 散ってゆく。

「 ・・・ うふ ・・・ ああ ほんとうに。  わたし。 パリに居るの ね ? 」

空気の肌触りがちがう。  この滑らかさが  ・・・ そう、故郷の空気なのだ。

ヴェロアの滑らかさと シルクの素っ気無さが混じる、あの街の洒落た空気・・・

フランソワーズはウキウキして歩いてゆく。

 

   ―  とん。    突然小さな生暖かいモノが 彼女の膝にすがりついてきた。

 

「 きゃ  ・・・?   あ? 」

「 ママン ッ ! 」    

彼女の脚の側から 小さな、でもきりっとした青い瞳が じ〜〜〜っと見上げている。  

「   え??  あらら・・・  ほら  よくみて?  間違えたのね? 」

「 ・・・ あ !  ぱるどん ・・・・ 」

よく回らない舌が 一生懸命 < ごめんなさい > を言っている。

生暖かい手は膝からは離れてくれたが すぐにぴたり、とまたくっついてきた。

「 ・・・ 坊や? ね?  ママンじゃあないでしょ? 」

「 ぱるどん。  ママンとおなじいろ だったの。 」

青い瞳の持ち主は ―  3〜4歳くらいの少年だったのだが 真剣な顔で自分の髪を指している。

「 まあ そうなの?  ほら ちがうヒトでしょ? お顔を見てくれる? 

「 ぱるどん ・・・ 」

「 あら いいのよ、 気をつけましょうね? 」

「 ・・・ めるし まどもあぜる。  」

「 え  ・・・ あは ・・・ そ そうねえ・・・  ねえ! ボクは一人なの? 」

「 ・・・ ウウン。  パパと ママン。  」

ふうん? とフランソワーズは辺りを見回したが ・・・ それらしい男女の姿はない。

「 そう ・・・ それじゃ パパたちの所に戻りましょ? どっちから来たのかな? 」

「 えっと ・・・ ボク ・・・ おそらをみてて おっかけてたの ・・・ 」

「 お空?   そうなの ・・・ なにを追いかけていたの? 」

 ほらあれ、と小さな指がつん、と教えてくれたのは ― 見事な飛行機雲だった。

「 わあ〜〜〜〜 ・・・・  綺麗ねえ ・・・  ボクはアレを追っかけてきたの? 」

「 ウン。  パパがね、 ほら〜〜 っておしえてくれたんだ。 」

「 まあ そうなの?  それじゃ ・・・ きっともうすぐパパが追いついて来るわよ。 」

「 ・・・ う  うん ・・・・ 

青い瞳が 不安そうに瞬く。

「 うふふ ・・・ 大丈夫。 パパかママンが来るまで オバチャンが一緒にいるわ。 」

「 ―  オバチャン ??  どこにいるの? 」

少年は きょろきょろ・・・不思議そうに見回している。

「 え ・・・ ああ このオバチャンよ。  

フランソワーズは 彼の様子が可愛くて 思わず笑って自分自身を指した。

見かけは 20歳前後かもしれないが、現実には中学生になる子供がいる身だ。

  ― 子持ちなら  オバチャン。  それはもうしっかり身についた感覚なのだ。

でも その少年には通じなかったとみえる。  青い瞳はますます大きく見開かれる。

「 オバチャン じゃないよ。  おねえちゃん だよ。 」

「 ・・・ まあ ありがとう〜〜 ふふふ  そっか〜 見かけはまだ < おねえちゃん > 

 なのね、わたし。 ふふふ 安心しちゃった 」

「 ??? 」

青い瞳が不思議そう〜〜〜に見上げている。

「 あ ごめん ごめん ・・・ 大丈夫よ。 ここは舗道だからずっと立っていると

 通るヒトの邪魔でしょ。  あ そこにカフェで待っている? 」

「 ・・・ 知らないヒトと いっちゃだめ って。 パパもママンも 」

「 そうねえ ・・・ じゃあ ここにいよっか。 ちょっとこっちに寄って ・・・

「 うん! 」

何気なく握った手 ― 小さな手の感触に どきん、 としてしまった。

 

    な なに??  すばるの小さな頃 ・・・ に似てるの?

    ・・・ ううん ちょっと違うわ  ・・・

 

    でも。   この手 ・・・ とっても 懐かしい ・・・

 

「 おねえさん ? 」

「 ・・・ え  あ  なあに。 」

「 どうか した? 」

少年は少し不安な面持ちで また彼女にくっついてきた。

すこし濃い色の金髪がさらさらと幼い顔にかかる。

 

    あ ら ・・・ 似てる ・・・ ?  

    このコ ・・・ すばるよりも ジョーに似てる・・・?

    ああ この髪が額に掛かったところとかが 似てるのかしら

 

「 ねえ  おねえさん ・・・? 」

「 え  あ  ううん なんでもないわ。  さあ ここでお話、してましょう。

 ねえ ボクはなにが好き? 」

「 パパ。  それから  ママン。 」

「 そうねえ 家族はいいわよね。  で 他に好きなもの、なあに。 オバ・・・ いえお姉さんに

 教えてくれるかしら。 」

「 あのね! ボクね!  ひこうき がすき! 」

「 ひこうき ?   ・・・ ああ オモチャのね? 」

「 それも すきだけど。  でも ホンモノがいっとうすき! 」

「 そうね 飛行機にのっていろんな国に行くのも ステキよね。 」

「 ボク、 ひこうきにね、 のりたい のじゃなくて ひこうきをとびたいんだ。 」

「 ?? ひこうきをとびたい ??  ・・・ あ わかった〜〜

 もしかして 飛行機を操縦したいのかな?  操縦って・・・ 飛行機に乗って飛ばすことよ。 」

「 うん!! ボク ひこうきをそうじゅうしたい。 」

「 まあ 〜〜 いいわねえ。  あのねえ、わたしにはお兄さんがいるんだけど・・・

 兄さんもね 飛行機の操縦をしていたの。  やっぱり飛行機が大好きだったわ。 」

「 え?!  ほんとう?? すご〜〜〜い すごい いいなあ〜〜〜〜

 おねえさん、 おねえさんのお兄さんのひこうきに のったことある? 」

「 ううん 残念だけど。  兄さんは空軍 ・・・ わかる? 」

「 しってる!  フランスくうぐんはね つよいんだぞ〜〜〜 せかいいち! なんだ。 」

「 ふふふ そうよねえ。  で ね  兄さんは空軍兵だったから。 

 兄さんの操縦する飛行機には 乗れなかったわ。 」

「 ふう〜〜ん ・・・ かっこいいよ〜〜  ね〜〜 すごいよね。 」

「 ええ。  あ 革命記念日のパレード、見た? 」

「 うん! もっちろん♪  やっぱいちばん くうぐん がかっこい〜〜〜

 ボクね ボクね あのね ナイショなんだけど〜〜 」

「 ええ なあに。  あ ・・・ 聞いてもいいのかな〜 ナイショなんでしょ? 」

「 う〜ん ・・・ でも いい。 おねえさんなら いいや。

 あのね ボク ・・・ 大きくなったら くうぐんにはいってひこうき そうじゅうしたいんだ〜 」

「 まあ そうなの? ステキねえ〜 」

「 ウン! あ そしたらね〜 ナイショで 」

「 あら またナイショなの? 」

「 えへ・・・ ウン。 あの ナイショで おねえさんのこと、ひこうきにのせてあげる! 」

「 まあ ありがとう。 あ でも叱られてしまうかもしれないわ? 」

「 へいきだよ! ナイショだから! 」

「 うふふ そうねえ ・・・ ナイショですものね。 」

「 ウン!  ・・・ あ! パパだ〜〜  パパ〜〜〜〜 」

少年は 向こうからきょろきょろしつつやってくる男性をみつけると 一目散に駆けていった。

「 パパ〜〜〜〜 ! 」

「 !!  なんだ お前〜〜〜 ここにいたのか!  急にいなくなってもう〜〜〜 ! 」

こら! と こつん、 と軽く拳骨を喰らっている。

「 えへ ・・・ごめ〜んなさ〜い  だってひこうきぐもをおっかけてたらさあ 〜 」

「 ママンに心配かけるな!  ここに一人でいたのかい。 」

「 あ ・・・ ウウン。  あのおねえさんとね おはなししてたんだ。 」

「 え ・・・ どのヒトかい。 

「 あのヒトだよ〜〜 ほら! 

少年は父の手を引っぱりフランソワーズの立っているところへもどって来た。

「 やあ ・・・ すみません 息子がご迷惑を 」

「 あら いいえ ・・・ ちょっと一緒におしゃべりしていただけですわ。 」

「 ありがとうございます。   ―  え ?? 」

男性はフランソワーズに礼を言うと ・・・ 息を呑みそのまま棒立ちになってしまった。

息子の手を引いたまま じ〜〜っと彼女の顔を見ている。

「 ・・・・!? 」

「 あの ・・・ なに か? 」

「 や ・・・ 失礼しました。  いや その ・・・ マドモアゼルが 私の妻の・・・

 その ・・・若い頃にとてもとてもよく似ていらっしゃるので ・・・ びっくりして 」

「 まあ それで ・・・ ナゾが解けましたわ。

「 はあ? 

「 いえ ・・・ 先ほど、 坊やに お母様 と間違えられました。 」

「 え   あ  いやあ〜〜〜 どうもとんだ失礼を・・・!  おい こら〜〜

 マドモアゼルにお詫び したか?! 」

「 したよ! ちゃんと! 」

「 二人で楽しくお喋りしてました。  ありがとう、ボク。 」

「 めるし〜〜 まどもあぜる!   あ ・・・ あのこと、 ナイショだよ? 

「 ええ ええ ナイショね。  じゃあ ・・・ Au revoir petit Monsieur? 」

「 お〜るぼわ〜る まどもあぜる〜〜 」

父と声を合わせて挨拶をして二人は道を引き返して行った。

二人を見送って 彼女も踵を返した。  

「 もう ・・・ ママンが心配してたぞ〜〜  ジャン。 」

 

     ―      え  ・・・・?

 

拾ってしまった会話。  あわてて振り向き、もう一度視線で追いかけた二人連れ。

大人の男性はようく見れば 見覚えのある歩き方なのだ。  ただ とても若い。

 

    ・・・ あれは ・・・  パパ ?   そして  お兄さん ・・・

    わたし が生まれる前 ・・・ の パパとジャン兄さん  ・・・

 

若い父と幼い息子は 仲良く手を繋いで遠ざかってゆく。  

あの向こうに若い母が待っているのだろう。   若い父と母と幼い息子の温かい家庭 ・・・

「 あの 手 ・・・ あったかだった ・・・ 」

フランソワーズは 少年と繋いでいた手をそっと そっと胸に当てた。

「 ・・・ ジャン兄さん ・・・・ 」

 

 

 

「 あ〜 なんだ?   ― ファン?   おい ファンション !?  

「 ・・・・ え ・・・・? 」

「 おい〜〜 なにぼ〜〜っとしているんだよ? 」

「 ・・・?! 」

とん、と肩を突かれ 顔を上げれば ― 同じ色の瞳がじっとこちらを見ていた。

「 ・・・ お  お兄さん ・・・? 」

「 おいおい〜〜 どうした、寝ぼけているのか〜〜 」

「 ・・・ え あ   う  ううん ・・・ 」

「 なら ちゃんと聞けよ。  だから〜 今度は サン・ラザール駅に着くから。 」

「 ・・・ え  ええ ・・・ 」

「 迎にこなくていいぞ。  お前、ちゃんとレッスン行け。 」

「 ・・・ わ かったわ ・・・ 」

「 おい?  しっかりしろよ? なにをぼ〜〜っとヒトの顔、見てるんだ? 

「 え ・・・ あ 別に。 お兄さん  よね・・・ 」

「 はあ?? おい〜〜 お前、大丈夫か? 医者にゆくか? 」

  ―  ドン。  兄は軍用の旅嚢を床に置いた。

「 ―  大丈夫。  ごめん、ちょっと考えごとしてて ・・・ それだけよ。 」

フランソワーズは どぎまぎしつつも何気ない素振りで目の前に立つ青年から 視線を逸らせた。

 

    うそ ・・・? だって ・・・ ホントに お兄さん??

 

「 ふ〜〜ん?? ホントだろうな? 」

「 本当よ。 ・・・ 次の舞台の振り・・・覚えているところだから ・・・ 」

「 ふん?  じゃあ留守、頼んだぞ。 」

「 え ええ。   あ  いってらっしゃい! 

兄と妹はかるく抱き合うと 頬にキスしあった。

「 おい〜〜 寝坊 するなよ?  レッスン、 頑張れ。 」

「 あ〜ら 大丈夫よ。   兄さんこそ気をつけて 」

「 お〜っと? 天下にフランス空軍にな〜にを言うやら  ・・・ じゃあな。 」

「 ええ ・・・ 

兄は ちょい、と手を振るとすたすた・・・行ってしまった。

彼女は窓辺に駆けてゆき 窓を大きく開けた。 

   

    カッ カッ カッ  ― 遠ざかる兄の靴音が聞こえる。

「 兄さ〜〜ん ・・・・ 迎に行くわね〜〜  ああ もう聞こえなか・・・ 」

すこしがっかりして窓を閉めあらためて室内を見回し  愕然とした。

 

      え?  ここ ・・・ パリのアパルトマン ??

 

懐かしい、もう思い出の中にしか存在しないはずの あの部屋なのだ。

それも閉め切りで埃まみれ  ・・・ などではなく、ちゃんとヒトが使っている部屋 ・・・

 そう 今 いるここは < 生きている > 場所だ。

「 ・・・ これは  夢 なの?   さっきは子供時代のお兄さんと会ったし ・・・

 ここは 確かにあの部屋よ、わたしとお兄さんが暮していた部屋だわ。

 あの日 ― わたしが慌てて出かけるまで ・・・ 」

このまま ここで暮してゆけ、というのだろうか。  

「 ・・・ わからない ・・・  あら? お兄さんったらなにか言っていたような・・・?

 よく聞いていなかったけど ・・・ ああ そうそう サン・ラザール駅に着く、って言ってたわよね。

 ・・・ もし。  寝坊しないで早い時間に駅まで  ― ゆっくり歩いていったら。 

  く ・・っと咽喉元が詰まった。  どくん! と心臓が跳びはねる。

 

ゆっくり歩いて。 あら ご近所のマリー小母さんだわ、ボンジュール?  ええ 駅まで。

じゃあ ご一緒しましょうか。   ― わたし達の横を黒い車が静かに通り過ぎるの。

  そして   わたしは駅で兄さんと落ち合うの。  そして いつもの日々が続くの  

そして・・・・ ごく普通の人生を送るの ・・・ 幸せに・・・

 

 

          ううん  ううん  ううん !!!!!   

 

 

フランソワーズは懸命に首を振った。  だれが居る訳でもないのに、必死で振り続ける。

「 だめ。  そんなの  ・・・ だめ!   だってそしたら  ―

 

              ジョー と めぐり逢えない  

 

  ・・・ で でも  ジャン兄さん !  兄さんと一緒にあの部屋で暮してゆける ・・・ 

 

 

「 だめ !  だめよ ・・・ ジョー ・・・!  すぴか  ・・・ すばる ・・・!  」

003がメンテ用のカプセルの中で 微かになにか呟いている。

「 ・・・  うん?  ・・・ 異常なし、か。  ふふふ ・・・ 夢でも見ておるのかの・・・ 」

博士は ふ・・・っと表情を緩めたが 再びすぐにモニターのデータに視線をもどした。

「 よし。 あとは聴覚だな。 」

 

    ウィ −−−− ・・・・・・    

 

メンテナンス ・ ルーム には規則的に低い機械音が流れ続けるのだった。

 

 

 

 

    わ〜〜〜〜〜 ・・・・  わ〜〜〜〜 ・・・ ! 

 

チャイムと同時に学校のそこここから歓声が漏れてくる。

時計に針は二本そろってそろそろ真上 ―  そう、お昼時なのだ。

「 わっほ〜〜〜 メシ〜〜〜〜 ♪ 」

「 腹 減ったあ〜〜〜 めし めし めし〜〜 」

「 ねえ 一緒に食べよ? 」

「 いいよ〜 こっち寄ろうよ。  男子ども うっせ〜から 」

「 ウン ・・・ あ ちぃちゃんもおいで〜 」

「 わい♪ 」

どの教室でも 似たような光景が見られ、生徒たちは一様ににこにこ・・・弁当を広げだす。

一年坊主も三年生も同じこと。  昼食時にはだれもが ほわん・・・とした顔つきになる。

 

「 すぴかちゃん、いっしょしよう? 」

「 ゆみちゃん。 いいよ〜 机 くっつけよ。 」

「 うん。  ・・・っと〜〜 」

一年生の教室で すぴかも仲良しさんとお弁当たいむを迎えていた。

「 え〜っと ・・・ 」

 どん。  すぴかは嵩張る包みを机の上に出した。

「 ??? 」

ゆみちゃんはちょっとびっくりした顔で すぴかのお弁当?を見ている。

「 く〜〜〜 ・・・・ ! 

「 どしたの、すぴかちゃん。 」

「 ・・・ く〜〜 ほどけない〜〜 ぎっちり結んであるんだもん〜〜  えい!  えい! 」

 びり。   ・・・ 包みの端っこが破けた。

「 ・・・ あ。 ヤバ〜〜  ・・・ ま いっか。  よいしょ・・・っと 〜〜 」

 でん。   やたら大きなタッパーを机の上に置いた。

「 ・・・大丈夫、 すぴかちゃん 」

「 うん、 ちゃんと出てきた。  さ〜あ  いただきマスっとぉ〜〜 」

 かぱ。   タッパーの中には ・・・

   ごろんごろんごろん。  グレープ・フルーツくらいな! お握り。

   おかず入れには 卵焼き と タコさんウィンナー と ぷちとまと と。

   ブロッコリーのチーズ焼き と 焼売 がぎっちり詰まっていた。

「 ・・・ うわ ・・・ 」

弁当の持ち主自身が 思わず絶句していると ―

「 ?  ひゃ〜〜〜 島村の弁当 すげ〜〜 でっか! でっか! すげ〜〜 」

目敏く悪戯男子に見つかって 大きな声で実況中継されてしまった。

「 !  いいじゃん! 大きくたって!  」

「 すっげ〜〜 でかパイ〜〜〜 」

「 !! 」

    ― がたん!  すぴかが立ち上がろうとした時 ―

「 わあ〜〜 すごく美味しそうだね、島村さん! いいなあ〜 」

隣の席からわたなべ君が 明るく庇ってくれた。

「 え・・・ あ  うん。 お父さんが作ってくれたの。 」

「 ふうん お父さん?  すご〜〜い〜〜  」

「 あ ウチもねえ お握りはお父さんなのよ〜 ぎゅ!っと握るのはオトコの手だ とか言って 」

ゆみちゃんも話に加わってくれた。

「 へえ〜 じゃ 今度 ボクもお父さんに作ってもらお〜 」

「 そうよお〜〜  ね? すぴかちゃん  ・・・ どんな味? 」

「 え ・・・ あ ちょっと待ってね。   ・・・ むぐむぐ ・・・  おいし〜〜い♪ 」

「 ねえ〜〜 一口 ちょうだい〜 」

「 うん いいよ。  ほら ・・・ こっち側 かじって かじって〜 」

「 いいのぉ? 」

「 いいよ  はい。 」

「 サンキュ ・・・・  がぶ。   ・・・ むぐ むぐ  ・・・・  お〜〜いし〜〜〜♪ 」

ゆみちゃんは大喜びだ。

「 あ いいなあ〜〜 ボクも ・・・ いい? 」

「 いいよ〜〜 わたなべ君なら。  ほら ここ。 」

「 ありがと〜〜  がぶ。   ・・・ むぐ ・・・   うわ ウマ〜〜〜〜♪ 」

「 でしょ? ふふふ〜〜ん♪ お父さんのお握りは大きさも味もでっか〜いんだ〜〜  」

オカズの交換なんぞもして 楽しいお弁当たいむとなった。

「 ふぁ〜〜  ・・・ おいしかったァ〜  ・・・ もう食べれない〜〜〜 」

さすがのすぴかも 大玉おにぎり を一個持て余してしまった。

「 持って帰ろっかな 〜  誰か食べないかなあ〜 ・・・  」 

「 あ! オレ!  オレ 喰ってもいい? 」

でかパイ〜〜って からかおうとした男子がしゅば!っと手を揚げた。

「 え  食べてくれるの? 」

「 ウン。 オレ〜〜 もう腹減って〜〜 弁当だけじゃ足りね〜んだ〜 」

「 どぞ♪ 」

「 サンキュ    ・・・・ うわ〜〜〜〜 うま〜〜〜〜 すげ〜〜 」

彼は すげ〜〜 うま〜〜〜 を連発しつつ夢中になって大玉おにぎり にかぶりついている。

「 ・・・ ひゃ〜〜〜  シアワセ 〜〜〜 」

「 あ ・・・ オイシイ? 」

「 うん!  すっげ〜〜ウマ♪  ・・・  あの さっき・・・ごめん な。 」

「 え?  あ  ううん ううん〜〜 食べてくれてありがと♪ 」

「 オレこそ ありがと! すんげ〜〜マジ美味かった〜 そんでもってさ

 喰っても喰ってもまだあるんだもん、オレ感激〜  すげ〜よ〜 島村んちの親父さん〜 」

「 ほんと〜?  よかったあ〜〜 」

「 ごっそ〜さんでした! 」

「 お父さんに伝えとくね〜〜 」

「 ・・・ また 食べたい ってもたのむ〜〜 」

「 あはは  いいよ〜〜 」

すぴかのクラスで  大玉おにぎり はすっかり有名になったのだった。

 

 ― さて すばるのクラスでは ・・・

「 お〜〜 すげ〜〜〜  島村の、お握り すげ〜〜 」

「 え なになに〜〜〜 ?  うわ・・・・ でっか・・・! 」

「 え〜〜  きゃあ〜〜 すごい〜〜 」

ここでもたちまち すばるの周りにクラス・メイトたちが寄ってきた。

すばるは大玉おにぎり弁当を前に 相変わらずにこにこしている。

「 ウン。  これね〜 お父さんが作ってくれたんだ〜〜 」

「 でっけ〜〜〜 いいなあ〜〜 喰い応えあるだろ? 」

「 ウン。 美味しいよ〜〜  一口 かじってもいいよ 」

「 マジ!? うっわ うっわ ・・・・ いいの? ホント? 」

「 ウン。 」

「 ・・・ せ〜〜〜の!  ・・・がぶ。  うっわ〜〜  ・・・・あ! 中身 ウィンナー♪ 」

「 え〜〜〜 ウィンナーにぎり?  いいなあ〜〜〜 」

「 あ タナカ君も いいよ〜〜 」

「 え!?  マジ〜〜?  うわお♪   がぶ。  ・・・むぐむぐむぐ   うま〜〜〜♪

 うお??  焼肉じゃん〜〜 中身!?  」

「 おいしい?  皆 かじっていいよ〜〜  僕のお父さん・おむすび♪ 」

「 すげ〜〜  ボクもこ〜んなのつくってもらお〜っと! 」

「 オレも!  でっかくて うま〜〜〜♪ 」

島村クンの でっか〜いおむすび はこちらでは中身の斬新さが大評判だった。

「 ふんふんふ〜ん♪  ・・・ むぐ〜〜  卵焼き〜〜甘くておいし〜〜♪ 

 お母さんの味とちこっとちがうけど〜  甘いからいっか♪ 」

いつもにこにこ・すばる君  は  お父さんのお弁当に大満足していた。

 

 

 

「「   え。   お父さんが作るの??   」」

金曜日の晩御飯たいむ ―  ぎりぎりな時間に帰ってきたお父さんの宣言に

当惑の混声二部合唱が響いた。

「 そうだよ。  だからお前たちはちゃんと宿題をしてきなさい。

 あ 復習も予習も、だよ! 」

「 お父さん。  なに、つくるの。 」

「 え。  あ〜〜 ・・・・ ( しまった! メニュウ 考えてないぞ? )   か カレー!  」

「「 ・・・ え ・・・ 」」

「 おい〜〜 なんだ、 その、二人そろっての  え  は!? 」

「 え〜〜〜 あの〜〜ね。  すごくたのしみ〜〜って言う   え   だよ。 」

お父さんコのすぴかまでも 一生懸命言い抜けを考えている。

「 ふん、それならいいが。 じゃあ ― 御飯が出来たら呼ぶから。

 二人ともちゃんと部屋で勉強をすること!  いいね! 」

「  は〜〜い。  ?  すばる! アンタ お返事は? 」

すぴかは隣にいる弟を突いた。

「 ―  お父さん。 今から つくるの? 」

真摯な赤茶の瞳が じ〜〜〜っとジョーを見上げている。

「 あ あ〜〜 もちろんさ。  えっと まずは ジャガイモを剥いて〜〜っと ・・・? 

ジョーはきりり! とエプロンの紐を結びなおす。

「 お父さん。 今から じゃがいもむいて たまねぎ にんじん まっしゅるーむ ・・・とか

 切って煮込むの? 」

「 あ?  ・・・・あ ああ ・・・ 一応 そのつもりだが 」

「 間に合わないよ。  僕 手伝うから。  れとると食品、どこ? 」

「 へ??? あ  あのウ〜〜〜 ? 」

「 あ すばる〜〜 冷蔵庫の横の棚みたいだよ。  」

すぐにすぴかが指した。

「 サンキュ♪  じゃあ〜 まず今夜はァ〜  」

「 うん なにする!?  今晩のごはん〜〜 」

「 あ ・・・ レトルト・カレーあるな〜  そんなら楽勝だよ。 うん あのね。 

 すぴーど晩御飯 にするから。 すぴかも手伝って〜〜 」

「 おっけ〜〜〜 」

「 よ〜し ・・・・ っと。  ここに直接具を入れて 〜〜〜 」

すばるはどんどん カレーを作り始めた。  ジョーのことは  ・・・ まったく無視、というか

眼中にない? ・・・らしい。

「 それから?  なんでも言って! 手伝うよ〜〜〜 」

「 サンキュ すぴか。   それじゃね〜  たまねぎ むいて。  僕 じゃがいも むく 」

「 おっけ〜〜〜 」

「 あ あ・・・ あの・・・? やっぱりカレーにしたのかい? それなら お父さんが ・・・ 」

やっと会話に割り込むことができた父親なのだが ・・・

「 あ お父さんはね〜〜  そうだな〜 テーブル拭いてお皿をだしといて。 それでいい。 」

「 ・・・ はい。  (  それでいい って なんだよ〜〜〜 ) 」

ジョーはかなりむっときたけれど  息子と娘は彼の存在はすでに眼中にない。

 

      くぅ 〜〜〜 ・・・・父親って孤独だなぁ〜〜〜

 

しおしおと彼は < 現場 > から離れた。

 

「 すばる〜 むけたよ。 これ 切る? 」

「 ん。 たのむ〜 うすくっぽく、たのむね。  うん、そんなカンジ ・・・

  ・・・・ じゃがいも よ〜〜し。 あとはにんじん〜っと ・・・ 」

「 ・・・ うわ ・・・ 目 しみ〜〜るぅ〜〜〜 」

「 さくさく切ると 案外へいきだよ〜〜  っと にんじん完了〜〜 」

「 ・・・き〜れたっと。  すばる〜〜 あんた お料理は速いね〜 普段はなんでも遅いけど。 」

「 ふ  ふん!   あ  すぴか〜〜 肉 ある? 」

「 ちょいまち! 冷蔵庫 見る。   ・・・ あった! ブタ肉があるよ〜 薄切り 」

「 よっしゃあ〜〜〜 」

「 あの〜〜〜 すばる?  お皿 出したよ? 」

お父さんが こそ・・・っと後ろから声をかけるのだが ・・・

「 これでいい? すばる。 」

「 ん? ・・・・ い〜よ〜 あとは〜 まぜてェ〜 」

「 あの〜〜〜 すぴか?  なにか手伝うことあるかなあ? 」

「 で にるんだよね?  ・・・ あ なに お父さん。 」

「 あの〜〜〜 」

「 ― よし! あとはね〜 こげつかないようにまぜ〜〜ながら にる! 

 と ・・・ その時にカレー粉をぱぱ〜〜っぱぱぱっ! 」

「 おっけ〜〜  うわ〜〜〜〜ぃ  カレーが出来ちゃったよ〜〜〜 」

「 ・・・ あの〜〜  」

「 じゃあ 御飯 よそうからね〜   あ なに お父さん 」

「 あの だからなにか ・・・ すること、あるかなあ 」

「 ・・・ あ〜。    あ! じゃあさ、 洗いもの、やって。 」

すばるは かな〜り偉そうにシンクを指差した。

「 もうすぐごはんだから。  たのむね、お父さん。 」

「 ―  ハイ。 」

なぜか素直に頷いてしまい ・・・ ジョーはシンクの中で食器を洗いはじめた。

 

     ちょ・・・ なんなんだよ〜〜 コイツ〜〜〜

     態度 デカいぞ〜〜〜

 

      ・・・フランはもっと優しいのに ・・・

 

ぶつぶつ言っているの父親なんか て〜んで無視をして ― カレーはステキに美味しく

そしてかなりの高速で ― 出来上がった。

 

 

「 ほう〜〜 これは すぴかとすばるが作ったのかい? 」

「 うん! おじいちゃま〜〜  ・・・・どう? 」

夕食時 博士は少し疲れた風で現れ それでもにこにこ・・・ テーブルに着いた。

 

ジョーは 今度こそ、父親の威信を示すべく家族を見渡した。 そして ・・・

「 さあ〜 それじゃ 皆そろったね?  では   いただきます! 」

「「「 いただきます〜 」」」

 

   カチャン   カチ カチ カチン ・・・ カシャ ・・・

 

しばらくの間は 食器にスプーンが触れる微かな音と ―  むぐむぐむぐ〜〜〜 

元気な咀嚼の音が 微妙〜 なヴォリュームで流れていた。

「 はああ ・・・ 美味しいなあ〜〜  これ 本当にすばるとすぴかが作ったのかい。 」

ジョーは スプーンを止めると子供たちに声をかけた。

「 うむうむ ・・・ ほんに美味しいのう ・・・ 」

博士もにこにこ ・・・ 孫たちを眺めている。

「 ・・・・・・・・ 

「 ・・・・・・・・ 」

「  おい?  聞こえているのかい? 」

「 ・・・ ?? え ?  あ〜〜 なに、 お父さん。 」

すぴかがや〜〜っと顔を上げた。

「 だから。 おいしいよって褒めたのさ。 」

「 あ  そ。 美味しくて当然よ〜〜  レトルト・カレーが元だもん。 」

「 ・・・ いや・・・ それでもちゃんとウチの味だぞ? 」

「 あったり前じゃん?  あのレトルト・カレー、 お母さんもいつも使ってるも〜ん 」

「 え??? 」

「 だから〜〜 ウチのカレーだってば。 作り方 いつもと同じ。  ね〜〜〜 すばる? 」

「 ・・・ むぐ? 」

「 あ・・・ ヤダなあ お口いっぱいじゃん。  あのさ、 コレ・・・ウチのカレーだよねえ? 」

「  ! ! !  」

エプロンを外したすばるは かくかく首を縦に振っている。

「 あ  そ  そうなのかい?  」

 

       が〜〜〜ん・・・ いつも全部手作り! だと思ってた・・・ 

 

愛妻の手料理が世界一! と今でも信じて止まないジョーには かなりのショックだ。

「 でも だって さ。 フラン ・・・ いや お母さんはちゃ〜んと自分で野菜切って

 肉のカタマリも切ってぐつぐつ煮てる ・・・ よな? 」

「 ヒマは時は ね。 でもさ〜〜 りは〜さる とか 教え とかで超〜〜〜忙しくてェ〜 

 帰ってくるのが 遅い日はさ  すぴ〜ど晩御飯 だもん。 ね〜 すばる? 」

「 ウン。 僕、 お母さんから教わったんだ〜〜〜 レトルト・カレー 使うとす〜ぐに

 美味しくなる〜〜って♪  美味しいでしょ、 お父さん? 」

自分と同じ色の瞳が じ〜〜〜〜〜っとジョーを見詰めている。

「 あ ・・・ うん 勿論! いやあ〜〜〜ホント 美味いよォ〜〜 」

実際に すばるの すぴ〜ど晩御飯カレー は美味しかったので ジョーは力説した。

「 うんうん 本当になあ。 二人ともすごいぞ。 」

「「 えへへへ ・・・ 」」

おじいちゃまにも褒められて 双子はに〜〜んまりしている。

「 それでな 頑張ってくれたお前たちに、プレゼントがあるぞ。 」

「 え〜〜〜 プレゼント?  なになに〜〜 おじいちゃま〜 」

「 うん。  明日の土曜日じゃが。  張伯父さんが来てくれるそうじゃよ。 」

「「「 え??? 」」」

ジョーも一緒になって 嬉しいびっくりだ。

「 昼間 電話があってのう ・・・ 晩御飯 作りに行きまっせ〜、と言ってくれた。 よかったのう。 

 今日は美味しいカレー屋で 明日は張々湖飯店になるぞ。 」

「「 うわ〜〜〜〜〜〜〜い♪♪ 」」

「 あ ・・・ でもね〜 アタシ達、明日も学校あるし、部活もあるんだ〜 」

「 僕も。 

「 わかってるよ。 朝御飯も弁当も ― お父さんに任せろって。 

 それで 夜は張伯父さんの御馳走だ〜〜 」

「「 うわ〜〜〜〜い♪ 」」

「 博士 ・・・ 張々湖飯店は土曜日、忙しいのじゃ・・・? 」

「 うむ、 ワシもそう言ったのじゃがな。   ・・・ 事情を知ったからには〜〜〜 と

 えらく息巻いておって。  まあ 張大人も子供達の顔を見たいのじゃろう。 」

「 そうですか ・・・ ありがたいなあ・・・ 」

「 ま 大人にとっても良い息抜きになるじゃろうよ。 」

「 ・・・ それなら嬉しいのですが ・・・   あ  あの?  ・・・ 順調に行っていますか? 」

ジョーはそれとなく視線を下に向け、訊ねた。

「 うん?  ああ ・・・ 今回はしごく順調じゃよ。 今のところ問題はない。

 状態も安定しておる。  早めに終るかもしれんな。 」

「 良かった・・・!  ありがとうございます。  あ ・・・ 助手は 」

「 大丈夫。  まあ〜〜 気になるのなら いつでも覗きにこい。 」

「 あ ・・・ いや、 邪魔をするだけですから ・・・ 」

 ふふふ ・・・ 顔を見たいのじゃろ? お前の顔に書いてあるわい。 」

「 ・・・ あ  は ・・・ それじゃ ちょっとだけ ・・・ 」

楽しいおしゃべり、 そして 美味しいカレー ・・・ でも やっぱり一人足りない。

家族全員が そんな想いを感じている晩御飯だった。

 

 

 

  ―   トントン ・・・  トン ・・・?

 

メンテナンス・ルームのドアが とても遠慮がちにノックされた。

「  ―   うん ?   ジョーか ・・・ やっと来たか ・・・ 」

博士は検査機器の前から よいしょ・・・っと立ち上がりドアに向かった。

「 今 開けるから ・・・ ほい。 なんじゃな。 」

 重いドアがゆっくりと開き ―  ジョーが少し困った顔をみせた。

「 あの ・・・ ちょっと居ても  いいですか? 」

「 ふふふ 何時来るかな、と思っておったぞ。 」

「 あ は ・・・ あの 一応・・・子供達が寝るのを確認してから、と思いまして ・・・ 」

「 そうじゃな。  さあ お入り。 」

「 ハイ。 」

ジョーは静かにドアを閉めた。

   ― すこしひんやりする空気の中 低く機械音が流れている。

 

      あ ・・・ ああ。  メンテナンス中 の雰囲気だ ・・・

 

彼女は 中央のブースに横たわり昏々と眠っていた。

コードやらモニターが何本も、特に頭部に多く接続されている。

 

      ・・・ こんな姿 ・・・ まだ子供達には見せたくない ・・・

      でも これが現実なんだ ・・・

 

ジョーは胸を衝かれたが 静かにベッド・サイドのイスに腰を降ろした。

「 博士 ? 」

「 うん?  心配ないよ。 前半は無事に終了じゃ。 状態も至極安定しておる。 」

「 そうですか よかった ・・・  では博士、 少しお休みください。 ぼくがここにいますから。 」

「 そうかい? でも お前 ・・・明日の朝はまた弁当つくりやらで早いのじゃろうが。 」

「 はは ・・・ もう段取りはわかりましたから、大丈夫です。 下準備もしました。 」

「 なるほど。 さすがじゃな、父さんや。 」

「 はい。 ですからどうぞ? なにかありましたらすぐに声をかけます。 」

「 そうか ・・・ では 隣の仮眠室におるから。 なにかあれば 頼む。 」

「 はい。 どうぞゆっくり眠ってください。 」

「 ・・・ ありがとう よ ・・・ 」

博士はぽつり、と言うともう一度データチェックをしてから 脇の小部屋に消えた。

 

「 ・・・ フラン。  ここに いるから。 今晩ずっと一緒さ。 」

  ― ぱふん。  ジョーは眠る彼女の側に頭を垂れた。

 

      ・・・  一緒にいるよ  安心して  ・・・

 

   ウィ −−−−− ・・・・   低い機械音が流れ続けている ・・・・

 

 

 

 

  ―  トン ・・・!    後ろから来た若者と 軽く接触してしまった。

 

「 !?  あ ・・・ す すみません ・・・! 」

ジョーは慌てて謝ったのだが ―  青い瞳が訝しげに見ている。

「 ??? 

「 あ  あ 〜〜  そ〜り〜 ・・・? 」

「 ? ・・・ pardon ! 」

ちょっと不機嫌そうな視線を残し、それでも青年はすたすた行ってしまった。

 

    あ ・・・ す すいません〜〜〜〜 ・・・って 通じない のか??

    

    !??  ってか ココ   ―  どこだよ〜〜〜???

 

あまりの驚きに 彼は舗道の真ん中で動けなくなってしまった。

通行人たちは 軽く眉を顰めるだけで、そんな困ったさん をすいすい避けてゆく。

「 う ・・・・ そ ???  だって さっきあの部屋で ・・・  ??? 」

ジョーはきょろきょろ周囲を見るが ― もちろん見覚えのない場所だ。

「 ・・・  海岸通りのウチのご近所 ・・・ じゃない ・・・??  

 銀座? いやいやいや ちがう〜〜〜  ココ ・・・ 日本じゃない ぞ!? 」

ふらふら・・・ 歩き出し 知らず知らずに車道に踏み出していた。

 

   パパパパ 〜〜〜〜!!!!   

 

「 うわっ! ・・・ っと 〜〜 あっぶね〜〜〜 」

派手なクラクションに追いたてられ ジョーはやっと少し冷静になった。

「 ここは ・・・ フランス か?   うん そうだよ!  ずっと前にクリスマス・イヴに来たっけ。

 うん うん そうだよ。  多分 ・・・  じゃあ ここ パリ? 」

今度は用心深く ゆっくりと人波に沿って歩き出した。

大通りを逸れて 商店やらカフェが並ぶ地区から少し離れてゆく。

人通りは減ってゆき、 住宅街と思しき地域までやってきた時には通行人はほとんどいなかった。

「 ふうん ・・・ こんな街に フランは暮していたんだなあ ・・・  」

いつだってジョーの頭に浮かぶのは 愛する彼女のこと、なのだ。

「 えへ ・・・ もうず〜〜っと一緒だけど。  ああ もっともっと一緒にいたいんだ!

 ホントは〜 すぴかやすばるが羨ましいさ。 だって フランがお母さんなんだぜ?

 そんなの、ズルいと思うな〜〜〜  ホントにさ! 」

夢とも現 ( うつつ ) ともつかない状態で ジョーは歩いてゆく。

 

   ―  パン。   前方の建物から 突然若い女性が駆け出してきた。

夢中で舗道を走ってゆく。 ひらひら動く白い脚が印象的だ。

「 ?  ・・・ 遅刻かい? がんばれよ〜〜 」

ジョーななんとなくその後ろ姿を見送っている。

 

      あ  ・・・  うん ・・・?  なんか  見覚えが  ある ・・・・?

 

  キュ キュ ッ !!!  ―   彼のスレスレの脇を一台の乗用車がすり抜けていった。

「 ・・・・ うわ?  あっぶね〜〜な〜〜〜!  ・・・ うん ? 」

その黒い車は ス −−−っと かけてゆく女性に近寄ってゆく。

 

 

           あ  −−−−− ッ  !

 

 

あの時だ!  フランソワーズが やっと最近ぽつり ぽつりと話してくれた < あの時 >

「 !!  ヤツらだ!  待て〜〜〜〜!!!    ・・・・ ッ !?  」

ジョーは走り出そうとして    ―   一瞬にして彼の足は凍り付いてしまった。

 

     だって。 もし ぼくが ―  ヤツらを止めたら。    か 彼女は ・・・

 

そう、彼女は。  003 になることもなく。 兄と離れ離れになることもなく。

ごく普通のパリジェンヌとして 穏やかで幸せな一生を終える  だろう。     幸せ  な。

 

 

     けど。   ぼくは。    フランソワーズと ・・・ あ 逢えない ・・・!!

     ・・・ だ だけど ・・・・!

 

 

黒塗りの乗用車は 女性のすぐ後ろに停まった。

 

 

 

Last updated : 29,10,2013.              back      /     index    /     next

 

 

 

 

********   途中ですが

え〜〜 すみませぬ、 終りませんでした〜〜

あと一回〜〜 お付き合いくだされば嬉しいです〜<(_ _)>

もしも〜話 は面白いですにゃあ〜〜♪♪