『 おむすび ・ おにぎり ― (1) ― 』
― カタン ザク ・・・ バサ 〜〜〜
ほわ〜〜〜〜・・・・・! 白い湯気がもうもうと立ち上がる。
「 ・・・・ うわ!? あつあつあつ 〜〜〜 あちっ!? 」
「 だ〜からァ〜〜 < たきたて > って 言ったじゃん! 」
「 け けど! あついうちに ぎゅ!ってしないとダメなんだよォ〜〜 」
「 だ〜から! ちょこっと冷えてからやるの〜〜 あんたさあ、お母さんがつくるの、
見てたこと、ないのぉ? 」
「 み みてたよっ! お母さんさあ・・・ こうやって大皿にだしてさ ・・・
さくさくさく〜〜っておしゃもじでやってさ ・・・・ あつあつあつ・・・って言いながら 」
「 そうでしょ? あんた、いきなり手、つっこんでるじゃん! 」
「 ・・・・ わかったよ。 ・・・・ もう いい? 」
「 う〜〜ん・・・ 熱! いけど ・・・ うん、だいじょうぶ。 ほら お塩。 」
「 う うん ・・・ え・・・っと。 ちょんちょん・・・ってちょっとだけ手にとって ・・・ 」
「 うん。 そんでもって ごはん、 のっけて ・・・ 」
「 そんで ぎゅ ・・・ 」
「 ち が〜〜〜う! ちがうってば すばる! 」
「 え・・・ ちがうっけか? 」
「 なかみ! 中身、忘れてるよっ! あんた、 何いれるのさ。 」
「 あ え〜〜とぉ? ・・・ すぴかは? 」
「 アタシはァ〜〜 うめぼしさん にきまってんじゃん〜〜 えっと これ! 」
「 う うめぼし ・・・ は なあ〜〜 」
「 ・・・っと。 そんでもってェ〜 ごはんをまたのっけて ・・・ すばる? 中身 は? 」
「 う〜〜ん ・・・あ! ぼく、これ! おおさじ いっぱい〜♪ 」
「 げ★ アタシ! そんなの、食べないからね〜〜 」
「 いいよ〜だ。 これは僕のだもん。 ・・・ で もって。 ちょんってごはん もう一回・・・ 」
「 のっけた? 」
「 ・・・ あ うん ・・・ 」
「 よ〜し。 そんじゃ ・・・ 次は両手で 〜〜 」
「 あ まって! ・・・ うんしょ ・・・っと。 よし、 そんでもって両手で 」
「「 ぎゅ ぎゅ ぎゅ 〜〜〜〜〜 」」
キッチンで すぴかとすばるはものすご〜〜〜く真剣な表情で両手を握り合わせていた。
早朝の空気の中、ふわ〜〜〜ん・・・と焚きたて御飯のいい香りが漂う。
二人の前には大皿に空けた < 焚きたて御飯 > が山になり ・・・ その回りには
塩だのウメボシだの佃煮だの・・・果てはチーズだのマヨネーズだのツナ缶だの
べびー・ウェインナーだのジャムの瓶なんかがごたごた置いてある。
二人は きゅ!っとお口も結んで作業を続行している。
「 ぎゅ ぎゅ ぎゅ ・・・・ う〜〜〜ん これっくらい かなあ〜 」
「 だめ! もっとしっかりにぎる! ぎゅ ぎゅ ぎゅ〜〜だよ、 すばる! 」
「 う うん ・・・ ぎゅ ぎゅ ・・・ ぎゅう〜〜〜〜 ! 」
「 ぎゅっと しなきゃ。 こわれないように〜〜っと 」
「 ・・・ う うん ・・・ ねえ すぴかァ〜 」
「 なに。 」
「 何個、つくればいいとおもう? 」
「 え ・・・ アタシ達のとぉ〜 お父さんのとぉ ・・・ あと! おじいちゃまの分も! 」
「 ひえ〜〜〜 いっぱい ぎゅ! しなくちゃ。 」
「 ウン。 いっぱいだよ。 あ! そうだ お母さんにも!
だって今日の夕方には < 人間どっく > は終るって。
おじいちゃまもお父さんも言ってたじゃん。 」
「 そうだね〜〜 お母さん〜〜 なにが好きだっけか・・・
あ やっぱ チーズ かなあ〜〜 僕 次 中身 ちーず にする! 」
「 ・・・げ ★ お母さん そんなの、すきかなあ〜 アタシはァ・・・ あ。 おかか。 」
ころん ころん ・・・ 二つのまるいカタマリが お皿の上にころがった。
「 はい 一個目〜〜 かんりょう。 」
「 つぎ! ゆきま〜〜す! 」
島村さんちのふたご は 目の前の御飯の山にまた手をのばした。
― そう・・・ 二人は お結び を作っているのだ。
や〜っと キッチンの窓からは朝陽が差し込みはじめた。
岬の端っこに立つ洋館には ガイジンさん夫婦とどちらかの親、そして ― この春中学に上がった
ばかりの 双子の姉弟が住んでいる。
彼らがこの地に居を構えて すでに十年を優に超えすっかり地元の社会にも馴染んだ。
周囲からも 穏やかなご隠居さん、イケメン旦那と美人奥さん、そして超〜〜〜可愛い双子たち・・
の < ごく 普通の > 家族、 と思われている。
― しかし。
「 どうしても今週中に執り行いたい。 」
「 あの ・・・ 夏休みになってから、ではダメですかしら 」
「 早いに越したことはないよ フランソワーズ 」
「 あの ・・・ どこにも不具合はありませんわ ?」
「 皆 そう言うものじゃ。 しかしな、不具合が出てからでは遅いのだ。
不具合を未然にチェックするために 必要だ。 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは 大きく溜息をつきしぶしぶ頷いた。
「 おお わかってくれたか。 うん、安心しておいで。
イワンと一緒にいろいろ改良して ・・・ 期間は短縮できるようになったよ。
今回は ― 大きな問題がみつからなければ そうさな ・・・ 3日もあれば充分じゃ。 」
「 3日 ・・・ ですか。 」
「 ああ。 週末からにするか? ジョーが家にいるほうが 」
「 ・・・ いえ。 平日にお願いできますか。 子供達、学校に行っていれば
その間は 忘れているでしょうから。 」
「 そうか? 今晩、ジョーとも相談してみよう。 一応 お前の希望に沿うように
準備にははいっておくよ。 」
「 ありがとうございます。 あの ・・・ 」
「 なんじゃな。 」
「 子供たちは ― くれぐれも悟られないように ・・・ お願いします。
まだ ・・・ 話したくはないのです。 」
「 ・・・ そう じゃな。 まだ知らんでよいことじゃ ・・・
時期がくれば ワシから ・・・ 」
「 それは ― まだもう少し 時間をください。 」
「 ・・・ すまん ・・・ すまんなあ ・・・ なにもかも ・・・ 」
「 博士。 それはもうおっしゃらないで・・・ 」
「 ・・・ すまん ・・・・ 」
フランソワーズは博士の肩に そっと手を置いた。
・・・ ! 博士 ・・・ こんなに小さな方だったかしら ・・・
彼女はその老いて小さくなった姿に胸を衝かれた。
「 お願いします。 ― 主婦には お休み はないですし、忙しいので ・・・ 」
明るく笑ったその顔に 博士は目を瞬かせつつ何回も頷くのだった。
サイボーグ ― サイバネティック ・ オーガニズム
生体の各器官を人工物 ― メカニックなものに置き換え かつ その目的は戦闘用。
改造の主目的は < 兵器 > として存在すること であった。
そう、ジョーとフランソワーズの実態である。
程度の差こそあれ 人工的に構築されている以上、必要不可欠なのが メンテナンス だ。
彼らの仲間たちも常に順次この研究所に戻ってきて博士の手により受けている。
二人も勿論例外ではない。
地下にあるメンテナンス・ルームに篭り数日の間作業は続くのだ。
自然治癒が望めない以上 彼らが生きてゆく上の < 年中行事 > だった。
近年、 作業期間はどんどん短縮されてきており、特に生体部分が比較的多いフランソワーズは
他のメンバーに比べても短期間で終るのが常なのだ。
割り切って考えれば 心配したり悩んだりする必要など少しもない。
が。 問題がひとつ。 ― 子供たち だ。
「 そうか。 うん 大丈夫だよ。 仕事の方はなんとか・・・休暇をとるよ。 」
ジョーは 愛妻からの話に 大きく頷いた。
その日も深夜に近い時間の帰宅で、 さすがの彼も疲れている様子だったのだが・・・
「 え いいわよ、ジョー。 普通にお仕事、行ってちょうだい。
平日ですもの、 子供たちは学校に行っているし ・・・ 部活とかもあるから
帰ってくるのは夕方よ? 大丈夫よ。 」
「 でも ・・・ 」
「 もう中学生ですもの、 大丈夫よ ・・・ きっと。 」
「 中学生だから、余計心配だよ。 今までみたいに適当に誤魔化せると思うかい。
お母さんはちょっと風邪を引いてます ・・・ とか さ。 」
「 それは ・・・ 」
「 だろう? いっそ真実を説明する か? 」
「 だめよ! ・・・ い いえ・・・ まだ だめ。 まだ ・・・ 早いわ 早すぎる・・・
まだ ・・・ あの子達は温かい普通の家族の夢の中にいていいの。 」
「 でも いつかは ― というか 彼らは段々に気付いてゆくだろうね。
つまりその ・・・ ぼく達が歳を取らないってことに さ。 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
「 ああ。 子供の目って案外鋭いんだよ。 特にウチのお嬢さんの感覚は鋭いし。
坊ちゃんもなあ 〜 のんびりしているみたいだけど、 見るべきコトは見てる。 」
「 え ・・・ そ それじゃ ・・・ 二人とも知ってるの? その わたし達のこと ・・・ 」
ドキン ・・・! と心臓が跳ね上がる。
胸の内の、いつもは一番温かい場所に 氷の棘が刺さったみたいだ。
フランソワーズは知らず知らずに 涙目になっている。
「 うん? ・・・ 泣かなくてもいい・・・・ ほら ・・・ 」
ジョーが穏やかに微笑して そっと涙をぬぐってくれた。
「 ・・・ ジョー ・・・ でも でも ・・・ 」
「 大丈夫。 まだ あの子達はなにも知らない、 気付いていない。
ただ ― もう小さな子供じゃないからね、いい加減な言い訳はできないよ。 」
「 ・・・ そ う ねえ・・・ 」
「 う〜ん ・・・・ あ そうだ。 半分くらい本当にコトを言えばいいかも な。 」
「 半分くらい ??? 」
「 うん。 お母さんは健康診断、 いや 人間ドック 入ります、って。
それなら 三日間って期間はかなり妥当だと思うな。 」
「 あ ・・・ そうね。 それで三日後に普通の顔して戻ってきて ・・・
ただいま・・・っていえるわね。 」
「 うん。 まあ ・・・ アイツらが登校してから 病院に行き 帰宅する前に退院してきた・・・って
ことにすればいい。 」
「 そうね! どうせ部活で帰りは遅いから ・・・ それがいいわ。 」
「 うん ・・・ 」
「 あら まだなにか? 」
「 いや ・・・ 順調にゆけば、ってことだけど。 ほら 以前にさ きみ、具合悪くて
ずっと寝込んでしまったこと、あっただろ。 」
「 ・・・ ! そうねえ ・・・ もう あんなことはない、と思うけど ・・・
だってわたし ― 今 がとっても好きよ。 今 この時が。 」
真剣な光を湛えて 碧い瞳がジョーをみつめる。
以前 まだ双子が小学生低学年だった頃、 フランソワーズは心理的な不安定さが
体調にまで及び 原因不明の状態でかなりの期間寝込んでしまったことがあった。
「 ね? もうあ・・・ あの時とは違うわ。 ええ 勿論 兄や・・・あの頃のことを
忘れたりなんかできないわ。 でも わたし、 今 がとっても好きなの。 」
「 わかってる。 ちゃ〜んとわかってるよ、 フラン ・・・ 」
「 ・・・ ジョー ・・・・ 」
二人は深夜、 食卓を挟み あつ〜〜く見詰めあうのだった。
「 だから 心配しないで。 大丈夫、わたしのメンテナンスは最短期間で終了 だわ。 」
「 そう願いたいな。 じゃあ ・・・ 」
「 ええ 博士にお願いしましょ ― あ。 」
「 なんだ いきなり。 」
「 問題よ! 問題があったわ〜〜〜 」
「 ??? 」
「 あの子たち ・・・ もう小学生じゃあないのよ! 」
「 ああ そうだね。 やっと中坊〜〜 一年坊主 さ。 」
「 だ〜〜〜から。 小学生じゃないってことは
お弁当が必要なの !
「 あ ・・・ そっか ・・・ 」
「 そっか・・・って。 ジョー、あなただって毎日お弁当が必要じゃない? 」
「 あ ・・・ う〜〜ん まあぼくはなんとかする。 コンビニ弁当でもなんでも ・・・ 」
「 でも ・・・ 好きじゃないのでしょう? 」
「 そりゃ ・・・ きみの弁当が最高さ。 でも仕方ないだろう? ほんの三日だもの、
ぼくはなんとかするよ。 」
「 そう? ごめんなさいね。 」
「 きみが謝ることじゃあないだろう? う〜ん チビ達の弁当かあ ・・・ 」
「 ええ。 週末もねえ ・・・部活とかあるから必要なのよ。 」
フランソワーズは 大きく溜息をついた。
そう ・・・ 島村さんちの奥さんは毎朝 4個! お弁当を作っているのだ。
「 ・・・ よ よし。 心配するな。 ぼくがつくる。 」
「 − え??? 」
「 え って。 ぼくだって子供の弁当くらい作れるさ。 あ そうだ そうだ、ついでに
ぼくの自分の分もつくっちまえばいいわけだし・・・ うん 決まり♪ 」
「 決まり ・・・って。 すぴかは朝練があるから出かけるの、早いのよ? ・・・ 大丈夫? 」
「 ・・・ く ・・・ だ 大丈夫だっ! これは。 父親の務めさ。 」
ジョーは 断固として きっぱり 爽やかに 宣言した。
「 きゃ・・・ ジョーってばステキ♪ うふふ〜〜〜 もう最高のイクメンさんだわあ〜 」
フランソワーズはそんな夫を惚れ惚れ ・・・ 見詰める。
「 えへへ ・・・ってか そろそろ <イクメン> は卒業だと思うけどね。 」
「 あら。 子育て はまだまだ・・・よ。 やっと第二幕ってとこかしら・・・・
でも大変なのはこれから かも ・・・ 二人とも思春期でしょ 」
「 ・・・ あ〜 ・・・ う〜〜ん おとうさ〜〜ん♪って抱きついてくれなくなっちゃうのかなあ・・・
すぴか ・・・ ぼくのすぴか・・・ 」
「 いつもにこにこ・すばるクン もねえ ・・・ どうなることやら・・・
うっせ〜〜 とか だせ〜〜 とか 言うようになるのかしら ・・・ 」
「 ま いいさ。 変わってゆくことが成長の証、なんだもの。 」
「 そうね ・・・ < 変われる > って 素晴しいことですものね。 」
「 ・・・ フラン ・・・ 」
ジョーは はっとして彼の細君を見つめた。 彼らは ― ツクリモノの身体を持つ彼らは
もうこれ以上 < 変われる > ことはないのだ。
ツクリモノの生命が機能停止するまで このまま なのだ・・・
「 ジョー。 そんな顔、しないで。 ねえ わたし達、ちゃ〜んと変わっているわよ? 」
「 え?? ど どこか ・・・劣化したのかい? やっぱりメンテをもっと頻繁に 」
「 あら そうじゃなくて。 ジョーもわたしも ・・・ 替わりばんこに泣き出す双子の赤ちゃんに
おたおたしていたけど 今は中学生が二人、ぶうぶう言っても平気でしょ? 」
「 ・・・ あ 」
「 いけません! を連発してキレそうになってたわ、わたし。 でも 今は ・・・ ふふふ
大抵のことは < すぴか! > < すばる! > のひと言で効果があるわ。 」
「 ・・・ ははは そうだねえ・・・ きみのひと言は迫力あるもんなあ〜〜 」
「 まあ。 ジョーだって ・・・ びし!っとイッパツ怒ると 二人とも大人しくなるわ。 」
「 ま な。 うん そうだねえ ・・・ ぼく達も < 変わって > きてる、か ・・・ 」
「 でしょ? あの子達のおかげでちゃ〜んと ね。 」
「 ふふふ まあ 子育て的には 成長 かも な 」
「 そうね ・・・ 」
「 よし。 ではその成長の証、ってことで。 チビ達の弁当は任せろ。 」
「 きゃ〜〜〜 ステキ♪ それじゃ お願いします♪ 」
「 おう。 きみは まあ ・・・ ちょっとした休暇だと思って ・・・ 」
「 ええ。 ・・・ ねえ ・・・ 休暇の前に♪ 」
「 はい 〜〜 ? 」
潤んだ碧い瞳が じ〜〜っと彼女の恋人を見上げている。
「 え〜と? なんですか〜〜 なにか御用ですかあ? 」
「 ・・・・ もう〜〜〜 イジワル! 」
「 ははは ・・・ はい、承りました♪ 奥さん♪ 」
ジョーは ひょい、と彼の細君を抱き上げた。
「 今夜は ― 寝かさない よ 」
「 ・・・ あら。 それはわたしの せ り ふ ♪ 」
「 ・・・・・・・ 」
視線を絡め 腕を絡め ― 恋人たちは寝室へと消えていった。
ガタン ガタン ― バサ っ ・・・!
「 ふう ・・・ これで全部かしら ・・・ 」
真夏用の服やらレースのカーテンなどを抱えて フランソワーズが屋根裏部屋から降りてきた。
「 え〜と ・・・ すぴかとすばるのTシャツやら短パンでしょ。 あとはジョーのランニングシャツと
パンツに靴下・・・っと ・・・ 」
よいせ・・・と彼女は衣類の山をソファに置いた。
― 実は普通の女性にはとても一回で抱えられる量ではないのだが ・・・
まだ子供達は帰宅していないので < 人目 > を気にする必要はない。
「 ・・・ 分けておけばいいわね。 あとは各自 お持ち帰り・・っと ・・・
まあね 三日間の <留守> だから ・・・ 大丈夫だとは思うけど ― あら? 帰ってきたかな ・・・ 」
― バッタ −−−−ン っ !!
母の呟きが終る前に 玄関のドアが開いて閉った。
「 ただいま〜〜〜〜〜 お腹すいたァ〜〜 ナンかあるゥ〜〜〜? 」
当家のご令嬢が帰ってきたのだ。
「 おかえりなさい すぴか。 手を洗って鞄、置いて! 」
「 あ〜〜〜〜い ・・・ ねえ お腹ぺこぺこなんでェ〜〜 」
すぴかは 鞄を持ったままリビングに顔をだした。
「 わかりましたから。 ねえ 手、洗って制服着替えてきなさい。 」
「 わ〜ってるってば〜〜 だからさあ 部活ハードでぺこぺこ ・・・ あれ なに? 」
中一坊主の娘は目敏く衣類の山をみつけた。
「 え? これ。 皆の真夏用の服。 あと カーテンとか ・・・ 」
「 そりゃわかるけど。 もう出すの? 」
「 だってもうすぐ7月でしょ。 」
「 ・・・ まだ6月半分じゃん。 」
「 なかば って言うの。 そうだわ、 あのね。 話しておくことがあるの。 」
「 < お知らせタイム > ? なに〜〜 」
「 もう ・・・ 真面目に聞いてちょうだい。 あ 〜 やっぱりすばるが帰ってきてからにするわ。
一緒に聞いて欲しいから。 」
「 え〜〜〜〜〜 アタシが先に聞いて すばるに伝えるから。 ぎゅ!って 。 」
「 ぎゅ ? 」
「 そ。 しっかり言い聞かせるから。 反論 ・ 抗議は一切受け付けませんってモードで 」
「 ・・・ まあ ・・・ 」
相変わらず すぴかは同じ日に生まれた <弟> を 指揮命令下に置いてる ・・・らしい。
「 だから 先に言って、 お母さん。 」
「 う〜ん ・・・ でもやっぱりすばるを待つわ。 」
「 アタシのこと、信用できないの? 」
「 そんな意味じゃありません。 ちゃんと二人に聞いて欲しいから。 」
「 ・・・ あの なにか ・・・ ワルイ こと ・・・? 」
「 いいえ。 そうねえ、 良いことでも悪いことでもないわ。 そうそう すぴかさんが
さっき言ってたわよね、 < お知らせ > です。 」
「 だ〜から〜〜 」
「 さあ まずは手を洗って。 鞄置いて着替えてきなさい。 それからです。 」
「 ふぇ〜〜い 」
母と同じ瞳の色をした娘は ぷくっと膨れてどたん どたん ・・・ 二階の自室に上がっていった。
やれやれ ・・・ 帰ってきてお喋りしたいのはムカシと変わらないわねえ・・・
ま な〜んにも言ってくれないより全然いいけど ・・・
ともかくオヤツ オヤツ ・・・と フランソワーズはホット・ケーキ・ミックスの箱を取った。
お煎餅やらチョコではなく 実質的な?モノでないと またまたブーイングが発生するのだ・・・
「 ― え。 それって なに。 」
「 なんで三日もかかるの〜〜〜〜 」
やっと帰ってきた息子も混じえ、 母は週末に留守にすることを説明した。
「 人間ドック に入るから。 三日間で終るわ。 だからお留守番 お願い。 」
いつもとちっとも変わらない母の口調に 姉弟はかえって動揺している。
母が三日間留守にする ― つまり 三日間 お母さんはこの家には帰ってこない ということなんだ。
今まで < 地方公演 > とかで 泊りがけで出かけることはあった。 でもちゃ〜んと毎晩、
ウチに電話が掛かってきたから お父さんも二人もニコニコしてお留守番をしていた。
小学生の頃 ・・・ お父さんもお母さんも < お留守 > のことがあり、その時には
コズミのおじいちゃまんち に預けられた。 すっご〜〜く淋しいなって思ったけど ・・・
コズミのおじいちゃまやら タクヤお兄さんが来てくれたりして なんとか我慢できた。
「 たった三日間よ。 あなた達 もう中学生だし ・・・大丈夫ね? 」
「 ・・・ う うん ・・・ あ でも 電話、くれるでしょ? メールでもいいや。 」
「 今度はダメなの。 病院に入院するから。 」
「 ! お母さん! 病気なの!? 」
「 いいえ。 人間ドック ってね。 そうねえ・・・ 健康診断と同じよ。
病気にならないために ・・・ 検査をするの。 」
「 健康診断? ・・・ 身体検査みたいなこと? 」
「 そうね。 アレの詳しい版、 かな。 」
大丈夫よね? と念を押され ― すぴかは 渋々頷いた。
「 ― 身体検査なら なんで三日もかかるの。 」
ず〜〜っと黙っていたすばるが ぼそり、と でも かなり強い調子で聞いてきた。
「 あのね。 健康診断の詳しい版 って言いましたよ。
あなた達の学校での健康診断とはちがうの。 」
「 どう ちがうの。 」
「 だから ねえ 」
「 わ〜かった、お母さん。 りょ〜かい。 アタシ、ちゃ〜んとお留守番してるよ。
ね すぴる。 」
「 けど 検査に三日って 」
「 すばる。 わかったよね〜〜〜 ね!? 」
「 ・・・ ワカッタです。 」
常のことなのだが 姉の迫力で押されまくり、 すばるは口を閉じたのだった。
「 まあ よかったわ〜〜 あなた達がわかってくれて・・・ ありがとう。 」
「 ど〜いたしまして。 だって お母さんがホンチャンの病気になったら ― ヤダもん。 」
「 ・・・ うん。 三日間 だよね?! きっとだよね? 」
「 ええ。 ちゃんと三日目の夕方には退院してきますよ。 」
「 ・・・ なら 了解。 」
渋々、という風にすばるも頷く。
「 おいおい〜〜 < なら > ってなんなんだ〜〜 」
子供達の背後から 少し笑いを含んだ声が飛んできた。
「 ? あ〜〜 お父さん〜〜〜 お帰りなさァ〜〜い♪ 」
ぱっと振り向いて 姉娘はぽん、と父に抱きついた。
「 うわお〜〜 こらァ〜〜 重たいよ〜〜 すぴかァ〜〜 」
「 えへへ・・・ ♪ 」
「 お父さん。 お帰りなさい。 」
姉と父をみつつ 弟息子が淡々と言う。
「 ・・・ うわあ〜〜 あはは ・・・・ ( おっと ・・・ ) え〜〜〜〜 すばる。
その言い方はないだろう? 」
「 ・・・ じゃあ 了解。 」
「 じゃあ? ・・・ まあいい、 ともかく三日間は皆で協力して乗り切ろう、いいね。 」
「「 ふぁ〜〜〜い 」」
不本意丸出し・・ みたいな返事が返ってきた。
「 しゃっきりしろよ、二人とも。 もう中学生だろう?
お母さんがいなくても なんでも自分達でやらなくちゃダメだ。 」
「 ・・・ でもぉ〜〜〜 お弁当とかァ〜〜 パンとか コンビニ弁当、買うの? 」
「 なあに。 安心しろ。 弁当はお父さんがつくってやる! 」
「「 え!? 」」
「 おいおい ・・・ なんだ、 その < え!? > は 〜〜 」
「 あ あは ・・・ あ〜〜 おと〜さんのおべんとう〜 たのしみだなあ〜〜〜 」
すぴかが棒読みで発言し ― つんつん!と突かれた弟も
「 ・・・ たのしみだなあ〜〜 」
と 大根役者ぶりを発揮した。
「 よし。 じゃあ 金曜日の弁当は任せろ。 」
「 わかった、お父さん。 ・・・ あのね、アタシ。 朝練あるから早出なんだけど 」
「 わかってる。 ちゃんと間に合わせる。 」
「 ホント? わ〜〜〜い♪ 」
「 すばるも。 いいな? ちゃんと留守番、出来るな? 」
「 わかった。 ・・・ 甘い卵焼き じゃないとイヤだからね。 」
「 はい?? 」
「 だから。 卵焼きにはちゃんとお砂糖を入れて。 」
「 あ! アタシあ! お砂糖じゃなくて! お醤油入れてね! 」
「 ・・・ わかりました。 」
ふう 〜〜〜 ・・・ こりゃやっぱ前途多難かも ・・・と ジョーは内心大きな溜息をついた。
「 それじゃね 皆。 真夏用の服を出してきたから それぞれお部屋に持っていって。
ソファの上に置いてあるから。 」
フランソワーズは ほっとして明るく言った。
「 ・・・ げ ・・・ めんどくさ ・・・ 」
「 なあに? すぴかさん。 」
「 い〜え。 なんでもありません〜〜 」
「 う〜〜〜 ・・・・ 」
子供達はは ちろ〜ん ・・・とお互いに見合ってから 自分達のTシャツだの短パンだのを抱えて
それぞれの部屋に上がっていった。
「 なんだ〜〜 アイツら。 文句ばっかり じゃないか ・・・ 」
憮然とした表情で 父は独り言をいう。
― カチン 。 露を結ぶグラスが ジョーの目の前に置かれた。
「 どうぞ。 お帰りなさい。 気が付かなくてごめんなさいね。 」
「 いいって ・・・ アイツら連合軍の相手はなあ〜 ・・・ お。 これって 」
「 ええ ウチの夏みかんの シトロン・プレッセ よ。 」
「 うお〜〜〜♪ ああ これ飲むとさあ 夏だな〜〜〜って実感なんだよなあ ・・・ 」
ジョーは 涼しげなグラスを取り上げその色をちょっと眺めてから イッキに飲み干した。
「 ・・・・ ん 〜〜〜〜〜 んま〜〜〜〜い♪♪ これだけはウチでしか飲めないもんなあ 」
「 ふふふ ・・・ そうねえ あの夏みかん、あ〜〜んなに酸っぱいのってどこにも売ってないもの。 」
「 うん うん ・・・ でもあの酸っぱさがこの とろり〜〜ん♪ な味になるんだろ。 」
「 そうみたい。 ほら 皮で作るマーマレードも美味しいわよね。 」
「 うん うん けど、アレってすばるがさあ 滅茶苦茶に好きであっという間に喰っちゃうだろ。 」
「 ふふふ ・・・ あのコ、本当に甘党なんだから ・・・・
あ ねえ ジョー。 本当に 大丈夫? 」
ジョーは空になったグラスの中の氷を バリバリと食べている。
「 あ〜〜 うまかった。 え なにが。 」
「 だから お弁当 よ。 作れる? 二つなのよ? 」
「 奥さん? ぼくは三つ 作る予定ですが。 」
「 え ・・・ あ ジョーってば自分の分も? 」
「 そ〜うさ。 弁当なんて二つも三つも同じこと、さ。 おかずは・・・ うん、ウチの定番の
卵焼きとかタコさんウィンナーとかポテト・サラダとか。 ミニ・ハンバーグにぷちトマトかな〜 」
あらら ・・・ お子様ランチ のイメージじゃあないの?
・・・ あ そうか・・・!
ジョーのお弁当って 考えてみれば お子様ランチ っぽいかも・・・
う〜〜ん ・・・ これは是正しなければ!
子供たちから抗議が殺到よ・・・
「 で。 御飯の上には桜デンプとかゴマで すぴか とか すばる って描いてやって。
そうだ〜〜 すばるの御飯は汽車ぽっぽのカタチがいいかなあ〜 すぴかは 」
「 ちょ ストップ〜〜 ねえ ジョー。 あの子たち、もう中学生なの。
カワイイきらきら弁当 とか キャラ弁 を喜ぶ歳じゃあないわ。 」
「 え ・・・ そ そ そうなのかい?? 」
「 ええ。 基本、すぴかのは極力甘い味付けは避けて すばるはともかく卵焼きだけは
激甘。 これは幼稚園の頃からの < お約束 >。 」
「 ・・・え え〜と ・・・ すぴかは 甘味カットで すばるは激甘? 」
「 まあ そんなトコよ。 で すばるの御飯はぎっちぎちに詰めてやってね。
すぴかのはね 彩りよく詰めて。 ぷちとまとは必須なの。 」
「 ・・・ え え〜と〜〜 すばるはぎっちぎち ・・・ すぴかはぷち・とまと ・・・ 」
ジョーは必死でチラシの裏にメモをしている。
「 それで。 金曜日、 すぴかは朝練で早出。 すばるは早めに起こさないと〜〜
絶対に遅刻するから気をつけてね。 」
「 ・・・ う ・・・ は はい ・・・! 」
ジョーは 双肩にどっと ・・・ おも〜〜〜い責務を背負い込み今からくらくら・・・ 眩暈が
する思いだった。
「 あ。 そうそう ジョー? あなた も。 一人で起きられる? 」
― ズン ・・・! ジョーは見事に撃沈してしまった。
「 いってきま〜〜〜す いってらっしゃ〜〜〜い おと〜〜さ〜〜ん !!! 」
「 いってきます〜〜 おとうさ〜ん いってらっしゃい ・・・ 」
金曜の朝。
島村さんちの 双子の姉弟は 大声で挨拶をしつつ家の前の急坂を駆け下りていった。
「 ・・・ おう ・・・ 行って来い。 しっかりな〜 はい、イッテキマス〜〜 」
そんな子供達を ジョーもぶんぶん手を振って見送る。
「 ・・・ さあて。 まずは第一関門 クリア〜〜 っと。
おっといけない〜〜 メンテ・ルームに顔だしてそれから出勤だ! 」
島村ジョー氏 は ピンクのエプロンを掛けたまま わたわたと玄関へ引き返した。
今日の早朝。 お母さんは始発で トウキョウの病院の 人間どっく に行った・・・ ことになっている。
すぴかが起きたときには もうお母さんは出かけた後だった。
「 おはよ〜〜〜 ・・・ 」
大急ぎで着替えて キッチンに駆け下りてきたけれど。 母の姿はもうなかった。
昨夜 しっかり < いってらっしゃい > をしていたけれど、 やはり ちょっとがっかりした。
もしかしたら。 今朝 見送りができるかも・・・と期待していた。
「 ・・・ お母さん ・・・ な〜んだ ・・・ もう行っちゃったのかあ〜 」
― ポスン ・・・ 食卓の自分の席に座る。
あれ ・・・ ウチのキッチンって。 こんなに広かったかなあ〜〜
いつも 母がぱたぱた歩き回りきゅっきゅ・・・と磨いているぴかぴかのキッチン。
いつも いい匂いがして ことこと ・ じゅ〜じゅ〜 ・ ぶつぶつ 音が聞こえるキッチン。
なぜか家中で一番安心できる気がするのは ― そこにいつも母の顔があるからだ。
・・・ おか〜さ〜〜ん ・・・
日頃は元気なしっかりモノも ちょぴっと目尻に涙が滲んできてしまった。
「 ! だ〜らしないよ、 すぴか! たった三日じゃん! 」
彼女はくいっと制服のプラウスの袖で涙をぬぐった。
「 ごはん! 朝御飯のしたく しなくちゃ! ・・・ あれ? 」
テーブルの上に すぴかの席の前に 二つ折りにした紙がある。
「 なに ・・・ すぴかさんへ ・・・ ? あ。 これ ・・・お母さんの字 !! 」
すぴかは熱心に読むと 母からの手紙をしっかり折ってポケットにしまった。
「 うん。 アタシは大丈夫だよ、お母さん。 安心してね〜〜 すばるをしっかりカントクして。
お父さんの面倒もみるから! 」
涙なんか 流しているヒマはない! すぴかは一人、うんうん・・・と頷く。
「 よ〜〜し! 」
なんだか元気がもりもり〜〜沸いてきた。
「 やるよ〜〜〜 アタシ。 お母さん! 期待してて〜〜 」
すぴかが朝陽に向かって誓いを立てていると ・・・
「 うお〜〜い お早う すぴか〜〜 」
後ろからお父さんが ぬ ・・・っと現れた。
「 うわ?? お お父さん?? もう起きたの? 」
「 < もう起きた > よ。 お母さんを ・・・ その 送ってきたしね。 」
「 あ ・・・ そっかあ〜〜 始発? 」
「 あ ああ うん ・・・ 」
実際 彼の愛妻はこの邸の地下 ― メンテナンス ・ ルームで 滾々と眠っているのだが。
子供達の手前、 都心の病院に二泊三日の 人間ドック入り ということになっている。
「 そっか〜〜 お父さん よく起きれたね〜〜 」
「 おいおい? なんだ その言い草は。 ― ほれ。 」
「 ??? 」
― ズム。 すぴかの前に風呂敷包みが置かれた。
膨らんだ包みで ぎっちり上が縛ってある。
「 ・・・ なに これ。 アタシ、なにか頼んだっけ? 」
「 こ〜れは。 すぴか。 お前の 弁当 さ。 」
「 !!??!? え〜〜〜〜〜〜〜〜〜 うっそぉ〜〜〜〜〜〜〜〜 」
娘のキンキン声が キッチンどころか家中に響いた。
「 ! ・・・ おい〜〜 ? 」
「 あ ・・・ ご ごめん ・・・ お父さん ・・・ 」
「 ほら もってけ。 金曜日は朝練なんだろ? お父さん、ちゃ〜〜んと間に合うように
弁当作ったから。 」
「 う わ ・・・ ほ 本当だったんだ〜〜?? 」
「 おいおい 〜〜 お父さんはいつだって約束、 守るだろ? 」
「 う うん! お父さん〜〜 ありがと〜〜〜〜 !! 」
すぴかは ぱっとジョーの首ったまにかじりついた。
「 うは? ・・・ おいおい〜〜 中学生にもなって ・・・ うはははは♪
ほら ・・・ もう支度しないと遅れるんじゃないか? 」
「 あ うん! あ すばる! アイツのこと、引っ張り出しておくからね〜〜 」
「 ああ たのむ。 ・・・ うん? < 引っ張り出す> ? おい すぴか〜〜 」
ジョーが 気が付いたときには 姉娘はだだだだーーーっと階段を駆け登ってゆくところだった。
「 ふん ・・・ あの後姿ったら フランにそっくりだよなあ〜 ああ 娘っていいなあ〜
ふふふ ふふふ 女の子がいてよかったァ〜〜 」
ジョーが一人、余韻に浸ってう〜っとりしていると。
どどどどど −−−−−! ジョーのムスメが階段を駆け下りてくる。
「 起こしたよ〜〜 すばる! ベッドから引っ張り出したおいたから・・・ なんとか なる?
か ・・・ も ? 」
「 お〜 ありがとう、 すぴか。 お前 朝練なんだろ、早く出かけたほうがいいぞ。 。
「 あ うん。 じゃあ ミルクだけ飲んで 」
「 お〜っと。 ちゃんと朝御飯食べて行きなさい。 空きっ腹じゃ チカラでないぞ。 」
「 う うん ・・・ あ 〜 ? 」
「 ほ ら。 すぴかの好きな 味噌汁・御飯・卵焼き バージョンだ。 」
カチャ。 ジョーは 食卓の上に いわゆるニッポンの朝御飯 を並べた。
「 わ♪ う ・ わ〜〜〜〜〜 ♪ タクワンまである〜〜〜〜 ♪♪ きゃ〜〜 」
すぴかは嬉々として食卓につき 箸を取り上げた。
「 よ〜し。 完食の後、 忘れ物ないように登校すること。 OK ? 」
「 むぐ むぐ むぐ ・・・・ OK!!!! 」
すぴかは 指で OK マークを出し、 ( 口には御飯が詰まっていたので ) にっと笑った。
「 よし。 じゃあ お父さんはすばるを起こしてくるから。 」
「 ・・・ んん 〜〜〜〜〜 」
父と娘は ばっちり視線を合わせエールを交わしたのだった。
ぱた ぱた ぱた ― 妙に家中が し −−−− ん としている。
「 ・・・ ふうん ? ウチってこんなに静かだったかなあ 」
ジョーは二階への階段を登りつつ 呟いた。
階下からは 小さくTVの音が聞こえてくるのに ・・・とジョーは不思議に思った。
「 あ ・・・ 起きた時も思ったんだよな ・・・ あの時は時間が時間だったから・・・
でも ? なんで ・・・・ あ そっか ・・・ 」
一人 足りない から。 それも一番この邸に必要な 一人 が。
「 そっか ・・・ フランの声 とか フランの足音が聞こえない から ・・・か 」
実際になにかの音が無い、のではなく、あるべきモノがそこに無い淋しさ ・・・ なのかもしれない。
・・・ ふう ・・・ ウチにはやっぱりきみがいないと ・・・ なあ?
ジョーは溜息をこぼし、息子の部屋のドアをノックした。
「 おい? すば〜〜 起きてるか〜〜 御飯出来てるぞ〜 」
「 ・・・・・・・ 」
返事がない。 すぴかが < 引っ張り出した > と言っていたので 部屋の主が
中にいるのは明白なのだが ・・・
「 すばるっ! おきろ! 開けるぞ!! いいな!? 」
再三の勧告? にも 応答がない ― ので ジョーは実力行使に出た。
まだ寝てるのか? な〜んて寝起きが悪いんだ!?
まったく自分自身のコトは棚よりも上に放り投げ 父はムスコの部屋のドアを開けた。
「 すばるっ!! 」
「 ・・・・ お おきてる よ ・・・ 」
「 なら 早くしろよ! ・・・ うん? 」
「 ・・・ うっく ・・・ 」
ジョーの息子は ベッドの上で丸まっていた。
「 お〜〜い なにやってんだ!? 起きているなら返事くらいしろよ?
あ? 腹でも痛いのか? 」
「 ち ・・・ ちがわいっ! 」
すばるは ばっと跳ね起きたが ― そのほっぺは涙でべとべとだった。
あ? なんで泣いてるんだ? あ ・・・
ジョーはちょいと首をかしげたが すぐにすばるがしっかりと握っている紙に目が留まった。
「 なんだ〜〜 朝っぱらから ・・・ ん ? 」
・・・ ははあ ・・・ フランの手紙、 読んだんだな ・・・
細君が子供達にメモ程度の簡単な手紙を書いているのは 知っていた。
娘はそれを読み 勇気凛々、超〜〜張り切り、 息子は涙ぐんでいる ・・・ のは
ちょいと問題かもしれないけれど ・・・
まあ ・・・ いいか。 コイツ、 マザコンだもんなあ・・・
無理も無いよ うん。 フランが母さんだなんてさ〜
ぼくだって滅茶苦茶に羨ましいんだからな っ!
しかし 中学生にもなって・・・と ここは厳しい・親父 に徹することにした。
「 おい。 いい加減でしゃきっとしろ。 女々しいぞ お前! 」
「 ・・・ う うん ・・・ あの お母さん は? 」
「 は? お母さんなら もうとっくに出かけたぞ。 あ〜 今頃はもう病院だな。 」
「 ・・・ あ そ そうだよね ・・・ 」
「 ほらほら ! 朝御飯食べて さっさと登校しろよ。 すぴかはもう出かけたぞ。 」
「 ・・・ すぴかは 部活の朝練があるもん。 」
「 すばるは? 朝練、ないのか。 」
「 今日はない。 練習、放課後、だもん。 」
「 そうか。 でも早くしろ〜〜 遅刻するぞ! 」
「 ・・・ うん 」
すばるはのろのろと 着替え始めた。
う〜〜〜〜 !!! コイツ、 こんなにのんびり屋だったのか??
決してせっかち、とはいえないジョーなのだが さすがにイライラしてきた。
「 おい。 遅刻厳禁 だぞ! これは我が家の <お約束> だろ。 」
「 ・・・ うん 」
「 じゃ。 朝御飯はキッチンだ。 ― 弁当も。 」
「 え!??!? 」
「 なんだ〜〜 その え? はァ〜〜 」
「 あ。 ご ごめん、お父さん。 うん 僕 ・・・ イッテキマス〜〜〜 」
すばるは 急にぱっぱと制服に着替えると鞄を抱えて階下へダッシュしていった。
な なんだよ〜〜〜 二人とも。
どうして < お父さんのお弁当 > に え?! なんだよ〜〜
ジョーは憮然として息子の部屋に佇んでいた。
ともかく。 子供達には朝御飯を食べさせ、弁当をもたせて登校させた。
あの時間なら すばるも遅刻はしないだろう。
ジョーは やれやれ・・・とキッチンに座り込んだ。
「 ・・・ おっと ・・・ ぼくもそろそろ出かけないと ・・・
その前に メンテ・ルームに顔だしてっと。 博士に差し入れしてフランの寝顔を
眺めて行かなくちゃ ♪ 」
えいや! と立ち上がり、 一人分の朝食をトレイに乗せると、彼は地下に降りていった。
今朝 ― いや まだ未明。 朝陽がそろそろ差し込もうか・・・という頃、
フランソワーズをメンテ・ルームに送っていった。
「 じゃ ・・・ 行ってらっしゃい。 」
「 はい 行ってきます。 三日間、お願いします。 」
「 了解。 日曜日に < 迎えに > 来るからね。 」
「 待ってるわ。 ・・・ ジョー ・・・ ? 」
「 ? あ は ・・・ フラン ・・・ 」
するり、 と伸びてきた白い腕を引き寄せ ジョーは彼の愛妻と熱く 熱く唇を重ねたのだった。
シュ −−−− シュ −−−−
生命維持装置の機械音が やけに大きく聞こえる。
モニターやらチューブを繋がれ 彼女は ― いや サイボーグ003 は横たわっていた。
「 ・・・ フラン ・・・ きみの笑顔が見たいよ きみの声が聞きたいな ・・・
はは ・・・ こりゃ すばるのこと、笑えないな? すぴかにド突かれるな。 」
ジョーは じっとその寝顔を見つめていた。
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: 22,10,2013. index / next
******** 途中ですが
え〜〜〜 ・・・ ジョー君奮戦記?
いえいえ 後半は双子ちゃんもがんばります〜〜
主婦ってのは 留守をするのも大変ですよね・・・
フランちゃんが寝込んだ云々〜 は
めぼうき様 の 『 眠り姫 』 を どうぞ♪