『 おむすび ・ おにぎり ― (3) ― 』
タタタタタタ −−−−! 今朝も元気のよい足音が二階から駆け下りてきた。
― バンッ ! キッチンのドアが悲鳴をあげ 当家のご令嬢が飛び込んでくる。
「 おっはよ〜〜〜〜 お父さんっ !! 」
「 ・・・ あ〜 おはよう すぴか。 」
くら〜〜〜い ・・・ 地の底からわきあがってくるみたいな声が ぼ〜〜っと響いた。
「 どわ ?? どしたの〜〜 お父さんってば〜〜 」
燦々と朝陽が差し込むあっかる〜〜〜〜いキッチンで すぴか嬢のお父さんは
どよ〜〜〜〜ん ・・・と 重た〜〜〜い雰囲気の中に沈没していた。
「 お父さん? ね〜〜〜 ッてば!? ど〜したの?! 」
「 え? ああ ・・・ お父さんは さ 今 ・・・ そうだなあ・・・土の中に埋まってるんだ。 」
「 は???? ねえ ねえ どうしたの。 どっか具合がわるいのぉ? 」
「 え ・・・ いや。 そうだな・・・ 強いて言えば、 そう、心が病気なんだ ・・・ 」
お父さんは キッチンのスツールに座り低く頭を垂れている。
「 なに??? なにが病気なの? 」
「 ・・・ こころ さ。 お父さんはね 自分自身が大キライになってしまったんだ ・・・ 」
「 大キライ ? へえ〜〜〜 どうして? 」
「 どうしてって ・・・ それは その。 こんないイヤなヤツはいない! と思うんだ。
ああ ・・・ そんなコトを考えること自体、 充分にイヤなヤツだよなあ ・・・ 。 」
「 お父さんっ そ〜いう時にはね。 とっこうやく があるんだ〜〜 」
「 とっこうやく? 」
「 そ。 そっこう! で効くよう〜〜〜 」
「 ・・・ ああ 特効薬、か。 どんなのかい? 」
「 あのね あのね〜〜 簡単なんだよ〜〜 お空に向かってね わ〜〜〜〜って両手あげて
それでさあ 深呼吸するんだ。 そ〜してね 最高〜〜〜に、にっこり するの。
それでね すてきだね! って言うの。 」
すぴかは まん丸にした瞳をくるんくるん回してみせ に〜〜〜っと笑った。
あ ・・・ この顔 ・・・ ううう フランにそっくりだよ・・・
そうなんだ ! あの時 ! ぼくがアイツらの車を止めれば
フランは こんな笑顔の一生を過せた 過せたはずなんだ !
なのに。 ぼくは。 ぼくは ― 一歩も動けなかった・・・
「 ね? お父さん、 やってみて〜〜 」
「 ああ ありがとう、すぴか。 で も ― お父さんの病気に勝てるかなあ・・・・ 」
「 え〜〜 そんなことないよ〜〜 あのね コレってねえ お母さんが教えてくれたんだ〜
だからさあ ちょっとやってみたら? 」
「 ・・・ お母さんが? ・・・ ああ お前のお母さんは本当にステキなヒトだよなあ・・・ 」
「 うん! ね 〜〜 お父さん 御飯 ・・・は? 」
「 ・・・ ああ ちゃんと出来てるぞ。 それから ― 弁当 だ。 」
ずむ。 今日も大きめの包みがすぴかの前に現れた。
「 わい♪♪ ねえねえすぴかね お父さんのお弁当、だ〜〜〜いすき♪
あのね それでね〜〜 クラスの友達とかにも大好評だったよ〜 」
( すぴかは賢明にも < 特に オトコノコ達 に> とは言わなかったので。
ジョーはそれ以上落ち込んでドツボに填まることからは 回避できた。 )
「 そっか〜〜〜〜 アリガトな ・・・・ お父さん 最高にうれしい・・・ 」
「 うふふ ・・・ ねえ 朝御飯 〜〜〜 ? 」
「 ああ ごめん。 すわってろ ・・・ 今もってゆく。 」
「 は〜〜い あ ・・・ いいにおい〜〜〜 お味噌汁だあ〜〜〜 」
「 ・・・っと。 さあ どうぞ。 この味噌汁はちょっと自信作だぞ。 」
「 え〜〜 本当? ・・・・・ ん!!! 美味しいッ!! 」
「 え そうか? 嬉しいなあ〜〜 お父さん、早起きして作った甲斐があるよ。 」
「 ・・・ ん〜〜〜 卵焼きも甘くなくて ぐ♪♪ ごちそ〜さまでした〜〜 」
「 わお〜 全部きれいに食べてくれてありがとう、すぴか。 」
「 だ〜〜って めっちゃ美味しくてェ〜〜 あ お父さん 今日 アタシねえ? 」
「 な なんだ?! ( どき ) 」
「 うん。 アタシね 午後部活だから 〜〜〜 張伯父さんの晩御飯にダッシュ! で
帰ってくるねっ! 」
― ガタン。 気の早いすぴかは 御馳走様 をすると ぱっと立ち上がった。
「 じゃ ね。 お父さん。 すばるにケリいれてから出かけるから アタシ。 」
「 あ ・・・そ そうか??? アイツも今日、部活あり だろ? 」
「 しらない〜〜〜 じゃね〜〜 」
ひらひら手を振り、すぴかは だだだ・・・っと階段を昇っていった。
「 あは。 あのせっかち気味なところは やっぱフランだよなあ〜〜
ああ 後ろ姿は もう〜〜 そのまんま だ・・・ 」
ジョーは ぼ〜〜〜っと二階へと階段を登りはじめた。
「 ・・・ ともかく。 ウチのネボスケ王子 を起こしてこないとなあ・・・ 」
よいしょ・・・ よっこらせ ・・・と一段 一段 のろのろと上がり
とりあえず ・・・ まあ エプロンを外してゆこう ・・・と もぞもぞ紐をほどく。
「 すばる・・・ ホントにアイツの寝起きののんびりはなあ〜〜
一体誰に似たんだ?? 」
毎朝 おなじ理由で細君を悩ませている当の本人なのだが ― 自分自身のことは
どうもなかなかよく判らない と見える。
トントン ・・・ ! たとえ息子の部屋であっても ジョーはちゃんとノックする。
「 ? すばる? 起きろよ。 時間だぞ。 おい すば あ? 」
― カチャ。 ジョーが全部言い終わらないうち ドアが開いた。
「 おはよ お父さん。 僕 もう全部準備できてるから。 ― 御飯は? 」
満面笑顔なジョーの息子が そこにいた。
「 うわ ? ・・・ もう起きていたのかい すばる? 」
「 うん。 だってさ〜〜 お母さんとの約束だし。 今朝はねえ すぴかより早く起きたんだ〜 」
「 へえ〜〜 そりゃ すごいなあ。 あれ でもすぴかはもうとっくに朝御飯も食べたぞ。 」
「 うん 知ってる。 僕ねえ、 いつもの時間 まで待ってたんだ。 」
「 ・・・ へ? 」
「 ねえねえ お父さんも早起きだね〜〜 何時に起きたの? 」
「 え あ〜〜〜 うん。 すばるのちょっと前 さ。 」
「 ふうん。 僕が起きたときは な〜〜んも音がしなかったけど・・・? 」
「 あ そ そうか? 皆を起こさないように そ〜〜っと弁当の用意、してたのさ。 」
「 ふうん。 すごいなあ〜〜 お父さんってやっぱりすごい! 」
そろそろ思春期〜な息子は素直に尊敬の眼差しを向けてくれている。
ジョーは嬉しいやら ちょいと後ろめたいやらで 背中にたら〜り汗が落ちる。
一緒にキッチンまで降りてきた時、 彼は汗だらだらだった。
「 お父さん? 暑いの? 」
「 い いや! ・・・ ははは あ! すばる〜〜 ほら 早く! 御飯たべろよ。 」
「 あ うん。 おかず、なに? 」
「 お前の好きな 激甘卵焼き。 」
「 うわっほ〜〜い♪ あ ねえ お父さん、僕〜〜 お味噌汁にもお砂糖、入れたらだめ? 」
「 ?! すばる〜 お前ほっんとうに甘党なんだなあ ・・・ 」
「 うん♪ ・・・ あ〜〜〜 今朝のお味噌汁、 おいし〜〜 あ ジャガイモだあ〜〜
ジャガイモとタマネギってさあ どんなオカズでも美味しいよねえ〜 」
「 そうだね。 ほらほら ・・・ 料理談議は帰ってから聞くから。 早くしろよ。 」
「 あ? うん。 あ〜〜 美味しかった、ゴチソウサマ。 じゃあ いってくるね〜〜 」
ジョーのムスコは 相変わらずニコニコして非常〜〜にマイペースで支度をすると、
さすがに、じりじりしてきた父親を尻目に たったったっ・・・とのんびり坂道を下っていった。
「 ・・・ アイツ ・・・ すげ〜〜〜 大物かもなあ ・・・ 」
門の前で 父親は思わず感心してムスコを見送ったのだった。
「 ふうう ・・・ やれやれ・・・早朝作戦 完了・・・っと。 」
キッチンに戻るなりジョーはどさり、とスツールに座り込んでしまった。
・・・ ああ ・・・ ぼくって さ・・・
また 堂々巡りが始まってしまった。
― そう 彼は猛烈な自己嫌悪の底に沈んでいたのだ。
子供たちの元気な声に すこしの間紛らわされてはいたのだが ・・・ 静かになった今、
暗い波は どど〜〜ん・・・! とそれこそ数倍の勢いで襲い掛かってきた。
ふうう〜〜〜〜 ・・・・
特大の溜息がキッチン中に充満している。
「 ・・・ ああ ・・・ ! おれは なんてイヤなヤツなんだ。 ひどいよな ・・・ 」
もう何百回繰り返したかとっくに忘れてしまった愚痴が転がりでた。
「 ・・・ ううう しっかりしろよっ 島村ジョー ・・・・! 」
えいや! と自分自身に気合を入れてみたのだが ― サイボーグ009 は一向に起動しない
のだった。
「 ・・・ っとに ・・・ ああ 最低なヤツだよなあ ・・・ 」
ジョーはとうとう頭を抱えこんでしまった。
今朝 ・・・いや、まだ < 朝 > といえる時間の前 ― メンテナンス・ルームで彼は気がついた。
「 ・・・ フラン ・・・! あ ? ここは・・・ あ ああ そうか ・・・」
自分自身の声で はっきりと目が覚めてしまった。
目の前には 愛妻がモニターやら電極につながれて眠っている。
そうだ、 昨夜博士に代わって彼女の側に付いていて そのまま転寝をしてしまったらしい。
その転寝の夢が 今 彼を散々に打ちのめしている。
「 ・・・ フラン ・・・ ああ フランソワーズ ・・・ 」
そうっと手を伸ばし 投げ出されている白い腕を撫でる。 少し 乾いたカンジがした。
「 ・・・ フラン ・・・ 早くメンテナンスが終るといいね ・・・ きみがいないと ぼくは ・・・ 」
甘い言葉を呟いていたが ― 彼は一瞬で蒼ざめてしまった。
・・・ なに甘ちゃんなこと、言ってんだよ?
さっき お前は何をした?
ああ そうだよ。 夢だよ、たしかに。
現実じゃないさ、 そんなことちゃんとわかってる。
けど。 その夢の中でお前は彼女に何をしたのさ?
なにも しなかった じゃないか!!!
そう ・・・ 彼女の側で見た転寝の夢に ジョーは殴り飛ばされた気分なのだ。
「 ぼくって ヤツは ― なんて肝っ玉がちっさくて懐が狭いんだ??
オマエ〜〜 自分が幸せなら 彼女の幸せ なんぞ平気でシカトするのかよ?? 」
夢の中で ― 奇妙にリアリティのある夢だったのだが ― 彼女が連れ去られる現場を
眺めつつ ・・・ ジョーは一歩も動けず、ひと言も発しなかったのだ。
「 そうさ! あの時 ! ぼくがヤツらの行動を妨害していたら!
フランは ・・・ あのまま幸せな人生を送れたんだ! ・・・
けど。 ぼくは ― 彼女を不幸のどん底に落としこんでも、 それでも ・・・
ぼくは フランと巡り逢いたいんだ! ぼくはフランソワーズってコと一緒になりたいんだ!
ぼく自身の幸せに ・・・ 目が眩んだ ・・・ 彼女を不幸に落とした ・・・ 」
カタン ― ジョーはゆっくりと立ち上がった。 もう一度視線を愛しい人の寝顔にあてる。
「 フラン ・・・! 愛してる。 これだけは 本当だよ! 心から愛しているんだ ・・・
こんなヤツだけど ・・・ それだけは信じておくれ。 」
ジョーはそのまま仮眠中の博士を起こし そっとメンテナンス ・ ルームを離れた。
「 うむ ・・・ ? や ・・・ ジョー、どうした。 ひどい顔をしておるぞ? 」
「 博士 ・・・ どうぞ よろしくお願いします。 」
博士の心配顔を後ろに、重い足取りで地上にもどれば ― 朝陽が昇り始めていた。
「 ・・・ ああ それでも朝はくる ・・・って 誰かが言っていたっけなあ ・・・
! そうだ 今朝も弁当と朝食を作らないと ― 父親業まで失格しちまう な 」
ジョーは 苦い笑いを浮かべてキッチンに行った。
「 さて。 まずは弁当、 それから朝食 だ ・・・ 」
「 ねえ ねえ すぴかちゃん! 今日のお弁当〜〜 ? 」
「 うふふ ・・・ 今日もねえ お父さん製〜〜〜 」
土曜日は午前授業、 お弁当を広げるのは午後に部活がある生徒だけであるが ・・・
普段ならとっとと帰宅する生徒までもが うろうろ ・・・ すぴかの机の回りにいた。
「 わ〜〜〜 いいなあ〜〜 ね? みせて みせて〜〜〜 」
「 いいよ〜 アタシもまだ見てないんだけど・・・ ゆみちゃん、一口あげる。 」
「 きゃ♪ らっき〜〜 ・・・って お弁当 なに? 」
「 ナゾです。 えへへへ では 開けます〜〜〜 うっく・・・固いなあ〜〜 えい!
??? あれ? 昨日と手触りがちがう?? 」
すぴかは今日もちょこっと苦労して包みを開いた。 なんだかだら〜っと面積の広い包みだ。
「 おにぎり〜〜〜 ・・・ のはず、 なんだけど ・・・・ あれれれ ・・・? 」
昨日は どでん! と 大玉お握り だった。 でも 今日は ・・・
カサカサ ・・・ 全体を包んでいる紙を広げれば〜〜
「 う? わあ 〜〜〜〜 すご ・・・・ 」
「 え? なになに ・・・ うわあ〜〜〜〜〜 スーパーボールみたい〜〜〜 」
「 なになになに〜〜 あ! すげ〜〜〜〜 島村の弁当、すげ〜〜〜
なあ また親父さん製? 」
「 あ〜〜〜 すごく美味しそうだね〜〜 すぴかちゃん! 」
ゆみちゃんだけじゃなく 男子たちもわらわら・・・・すぴかの机にまわりに寄ってきた。
机の上に広げたお弁当は ―
ピンポン玉くらいの色とりどりの 小お握り がてんこ盛りになっていた ・・・!
「 わあ〜〜〜 お父さんったら やるぅ〜〜〜 」
すぴかも目をまん丸にして 小握りの山をほれぼれ〜〜眺めている。
ゆみちゃんも一緒に眺め観察している。
「 ねえ ねえ すぴかちゃん? これ・・・ 皆 味、違うのとちがう?
だってさ〜〜 これは ・・・ 明太子握り? こっちは炒り卵 ・・・ これは・・・ ハム? 」
「 ウン ・・・ これ、 おかず兼用だな〜 うん。 スゴイな〜 お父さんってば 」
「 いいなあ〜〜 美味しそう〜〜 」
「 あ ゆみちゃん、好きなの、取っていいよ? 皆〜〜 いいよ〜〜〜 食べていいよ〜〜 」
「「「 わおお〜〜〜〜〜 」」」
教室に残ってた数人のクラス・メイトたちは 歓声をあげた。
「 オレ これ! いい? 島村〜〜 」
例の悪戯男子がずい!っと チャーシューにぎり を指した。
「 あ うん いいよ〜〜 あは、そのチャーシューねえ 激ウマだよぉ〜〜 」
「 うほ♪ むぐ ・・・ ・・・・・・・・ うっま〜〜〜 マジ激ウマ〜〜〜〜〜 !! 」
「 すぴかちゃん、僕 これ いい? 」
わたなべ君は 炒り卵握りがご希望だ。
「 うん! それね〜〜 お母さん風だからオムレツ握りかも? 」
「 ・・・・・ うわ〜〜 僕 こんな美味しいおにぎり はじめて〜〜〜 」
「 すぴかちゃん、自分でも食べなよ〜 」
「 あ うん。 ゆみちゃんは何とった? 」
「 あたしはねえ ほら そぼろ握り☆ お〜いし〜〜〜 」
「 よかったぁ〜 じゃ アタシはぁ〜〜っと ・・・ これこれ♪ 辛子めんたい握り♪
・・・・う〜〜〜ん♪ 辛くてお〜〜いし〜〜〜♪ 」
「 ありがと〜〜〜 島村〜〜 親父さんに ヨロシク♪ 」
「 ごちそ〜さま〜〜 すぴかちゃん〜〜 」
「 すご〜〜く美味しかったわあ〜〜 サンキュ すぴかちゃん♪ 」
男子にも女子にも 小握り は人気上々だった。
「 うっふっふ〜〜 コレはぁ 沢庵握り だな。 ・・・ うま〜〜〜♪
部活〜〜〜 頑張っちゃうぞ〜〜〜〜 !! 目指せ 4番♪ 」
すぴかはバスケ部、 まだまだ一年坊主はパスの練習やら走りこみ、 ダッシュ とか
基礎が中心だけれど 彼女はレギュラー それも 4番 ( =キャプテン ) を狙っている。
「 よっし! 行くぞ〜〜〜!! 」
隣のクラスでも 島村すばるクン のお弁当は大人気だった。
「 美味しかったわ、島村君。 ありがとう〜 あの ・・・? 」
「 なに〜〜 斉藤さん? 」
「 ええ あのね。 今度 ・・・ お父さんにレシピ、聞いてきてくれる? あの卵お握りの。 」
「 あ〜 炒り卵入りの? 僕 わかるよ? 」
「 え。 ほんとう??? 」
「 うん。 あ 紙、なにかある? 僕、書くね〜 」
「 え〜〜〜〜 ? すごい〜〜〜 島村君ってば〜〜 」
「 えへへ ・・・えっとねえ? 」
すばるは さらさらと激甘卵焼きのレシピを書いた。
「 すばる〜〜 サンキュ〜〜〜 すげ〜〜〜〜 ウマかったあ〜〜〜 」
「 あ 櫻井く〜ん。 どれ 食べた? 」
「 あ ボク、 鮭フレークの海苔包み〜〜 鮭と御飯が同量ってカンジ♪
ありがと〜〜〜 ちっこいけど ぎゅ!って握ってあるから食べでもあってさ〜〜 」
「 あは 僕も鮭フレーク握り 好きだよ。 」
「 な〜〜 ウマいよな〜〜〜 」
「 島村の親父さんってさ〜 料理人? 」
「 え ちがうよ〜 今さ、お母さんが病院だからピンチ・ヒッターなんだ。 」
「 ・・・お袋さん、病気? 」
「 あ〜 そうじゃなくてね、 え〜と ・・・ ほら なんとか犬 だって。 」
「 なんとか犬??? ・・・・ あ〜〜 それって 人間ドック じゃね? 」
「 あ〜 そうそう その ドッグ。 」
「 ドッグ じゃね〜よ ドック! ふうん そっか〜 けど マジウマ〜〜〜 」
「 よ〜かった♪ あはは 皆食べてくれたから完食〜〜〜♪ 」
すばるは相変わらずにこにこ ・・・ お弁当の包みを畳んだ。
島村君のお父さんの弁当は激ウマ ― が すばるのクラスでは伝説となった。
サワサワサワ −−−− ・・・・ 初夏の風に洗濯物がひらひら揺れている。
「 ・・・ ああ いいなあ ・・・ なんかほっとするよ ・・・・ 」
ジョーは裏庭の干し場でぼ〜〜〜〜っと洗濯物を眺めていた。
子供達の弁当と朝食を作り 博士にも差し入れをし。 あとは掃除に洗濯 ・・・と
休む間もなく ジョーは家事をこなしていた。
ふう ・・・ ま、身体を動かしている間は 余計なこと、考えないで済むし ・・・
こんな最低なヤツでも 少しは役に立つ かもなあ・・・
最低の目覚めの後 彼は <考えること> から必死に逃げていた。
なるべく未明の体験 いや 自己嫌悪な夢のことは思い出したくなかった。
「 ・・・ けど。 いつかははっきり自分の気持ちと対峙しなくちゃならないよ ね ・・・
フラン ― きみが目覚めたら。 きみの笑顔をもう一度 見たら。
全部告白して 謝る・・・ 謝って済む問題じゃないけど ・・・ でも ・・・ 」
ふううう ・・・・ またしても溜息 だ。
「 あ〜あ ・・・ ぼくってつくづくイヤなヤツだったんだあ・・・
フラン ・・・ こんなぼくの本性を知ったら ・・・ 愛想を尽かせてしまう かい ・・・ 」
すこし水色がかった空に翻る真っ白な洗濯物 ― いつもなら幸せの象徴みたいなその風景が
今のジョーにはどうやら 悲しすぎる らしい。
ぽん♪ 温かい手が 彼の肩を叩いた。
「 ・・・ ?? 」
「 ほえ〜〜〜 どないしはったん、ジョーはん?
お玄関、開いてたで? だ〜れも出てこないさかい、勝手に上がらさせてもろたワ。 」
ふくよかな顔が満面の笑みで ジョーを見上げている。
「 あ〜〜〜 大人〜〜〜 ごめん!! 気がつかなくて ・・・! 」
「 ええよ 〜〜 かまへん、て。 ほいで、フランソワーズはんは ・・・ どうね? 」
「 あ はい。 お蔭様で今のところ心配はない・・・って ・・・ 」
「 そらよかったなあ〜〜 で ギルモア先生の方はどないやね?
お歳やさかいナ ちい〜と心配なんや。 」
「 お元気だよ。 昨夜はぼくが代わったから少しは休めたと思う。 」
「 そらよかったなあ〜 ほんなら、今日はぎょ〜さん美味しいもん作ってなあ
皆、元気にしますよって。 、待っててやあ〜 坊と嬢やは? 」
「 あ ・・・ アイツら 部活でね。 まだ帰ってないんだけど ・・・
でも今晩は大人が来るよ〜 って言ってあるから、大急ぎで帰ってくると思うな。 」
「 ほっほっほ〜〜〜 そらええなあ。 ほんならちょいと・・・ ハーブ畑と温室、
覗かせてもらいますワ。 とれとれの新鮮なモン、使いたいよってな。 」
「 お願いします〜〜 ぼく、キッチンを片しておくね。 」
「 頼んだデ。 」
「 了解♪ 」
大人は ギルモア邸の裏庭に自身のハーブ畑を持っていて 香味野菜やらハーブ類を
栽培している。 温室はもともとはジェロニモが作ったのだだが普段から世話は
フランソワーズが主に見ている。 トマトやキュウリ、レタス、ピーマン ・・・ といった
お馴染みの野菜があり、またず〜〜〜っとイチゴが季節を問わず赤い小さな実をつけている。
「 ・・・ ウジウジしているヒマ、ないよな。 もうすぐチビ達が帰ってくるんだ。
しっかり父親業、しなくちゃ。 大人〜〜〜 ありがとう! 」
ジョーは ぱん! と自分の頬を叩き、空の洗濯籠を取ると勝手口へと駆け出した。
「 ほっほ〜〜〜 ほな 始めまっせ〜〜〜 」
土曜日の夕方、キッチンは 張伯父さんの陽気な掛け声で < 戦闘開始 > となった。
すばるは もう大にこにこで伯父さんの側に控えている。
すぴかも ちゃんとエプロンをして弟の後ろに立っていた。
― そして
キッチンは賑やかな楽しい音 と の〜んびりした大人の声でたちまちいっぱいとなり ・・・
やがて美味しいそう〜〜な匂いが流れだす。
「 嬢や はなあ センスがええ。 こう〜〜盛り付けやか 上手やわ。 」
「 坊。 もっともっと修行しなはれや。 お母はんのこと、安生手伝うてや。 」
大人は子供たち それぞれの性格をよ〜く心得ていて、巧みに褒めて手伝わせてゆく。
料理好きのすばる にはいろいろ包丁捌きを教え、 ちょいと苦手なすぴかには
盛り付けやら野菜の組み合わせを教え褒め上げている。
「 え ・・・ へへへ そっかな〜〜〜 」
「 ・・・っと。 これでいいですか 師匠! 」
すぴかもすばるも大人にへばりつき、 その華麗な技を目を丸くして観察するのだった。
キ ・・・ッ ! ジョーの車は きっちりと張々湖飯店の裏口横で停まった。
豪華晩餐の後、 ジョーは大人を店まで送ってきた。
「 ほい、おおきに。 ほんならワテはこれで・・・ 」
「 ありがとう〜〜〜大人!! 最高に美味しかった!
子供達もすご〜〜〜く喜んでいたし ・・・ 本当に助かりました! 」
ジョーは運転席から深々と頭を下げた。
「 ほっほっほ〜〜 そらよかったなあ ・・・ 坊も嬢やも ほんにええ子ォやなあ〜
ワテこそ楽しかったで。 大勢の晩御飯はええなあ〜 」
「 ふふふ 煩くてびっくりしただろ? 」
「 元気な証拠やで。 ギルモア先生もよう〜〜召し上がりはったし、安心やな。 」
「 ウン。 博士も喜んでいらしたね。 」
「 ― ジョーはん? ナンか心配ごと、抱えてるんか? 」
「 ・・・ え? 」
「 いつものジョーはんと ちい〜と違うで。 フランソワーズはんのメンテは順調〜 て
博士も言ってはったやないか。 」
「 あ ・・・うん ・・・ あは ・・・ 大人の目は誤魔化せない か・・・ 」
「 どないしたん。 」
「 ・・・ うん ・・・ ちょっと自己嫌悪で さ。
ぼくって ・・・ こんなにイヤなヤツなんだ〜〜って今更ながらに気がついて ・・・ 」
「 ほ? なんやねん。 言うてみいや? 」
「 ・・・ うん ・・・ 自分の幸せを最優先しちまう最低オトコだなって ・・・ 」
「 そら 誰でもやないか。 」
「 ・・・ え ・・・? 」
「 誰でもそうやで? ジョーはん。 アンタの幸せ、て何ネ? 」
「 あ ・・・ あの ・・・ 」
「 ワテが言うたるワ。 フランソワーズはんの笑顔と坊と嬢やの笑顔 やろ? 」
「 ウン。 」
「 それを一番に護る! のは ジョーはん、一家の主人のあんさんの務めやないか。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 ほんなら! これからも盛大 励みなはれ。 それでええんや。 」
「 そ そうかな ・・・ 」
「 そうやで。 ワテはな〜 ワテの料理を食べたヒトの ああ美味し、いう笑顔を見たい、
っちゅうのんがワテの 幸せ や。 そやからソレが最優先 や。 」
「 ・・・ う うん ・・・ そっかな ・・・ 」
「 そうや。 後で フランソワーズはんとよ〜〜け話あうこっちゃ。 ええな? 」
「 ― ハイ。 」
「 ほな ・・・ また な。 」
「 大人〜〜〜 ありがとうございましたっ!! 」
名料理人は ひらひら丸まっちい手を振り、店の勝手口に消えていった。
そっか ・・・ ! あと一日。 がんばるぞ〜〜
ジョーは勢いよくアクセルを踏んだ。
「 ・・・ あれ?? なんだ〜〜 すぴか〜 すばるも?? もう起きてたのかい。 」
日曜日の朝 ― やっとお日様が水平線から現れた頃なのであるが ジョーはキッチンで
目をぱちくり ・・・していた。
今日、 ジョーは < 休日出勤してからお母さんを迎にゆく > 予定、と子供達に言ってある。
その実、 メンテナンス・ルームで目覚めた愛妻を こっそり連れ出し 一緒に車で帰宅・・・
という筋書きなのだが ・・・
「 あ〜〜 お父さん! お早う〜〜〜 ! 」
「 お早う お父さん〜〜 」
ちゃ〜んとエプロンをして三角巾までつけた双子たちは ちょっと頬を染めて父の側に飛んできた。
「 お早う すぴか すばる。 え ・・・ なにやってたのかい。 」
「 あのね あのね〜〜 アタシ達ねえ お父さんとお母さんと 」
「 あ〜〜 すぴか! 僕も言いたい〜〜 」
「 ! じゃあ 一緒に言お! いっ せ〜の〜〜 せ!
「「 お父さんとお母さんとおじいちゃまと。 アタシ (僕) たちのお弁当つくり ! 」」
ほら〜〜〜 ・・・と すぴかとすばるはそれぞれ包みを差し出した。
「 お父さんってば 今日はお母さんをお迎えに行くでしょ〜? コレ お父さんのお弁当! 」
「 これ お母さんの。 おじいちゃまの分は これ! 」
ずむ! 双子は包みをジョーに押し付けた。
「 う わ。 え ・・・ コレ。 お前たちだけで作ったのかい? 」
「「 うん! 」」
「 へえ ・・・ すっごいなあ〜 いつからこんなに上手になったのかな。 」
「 えへへへ ・・・ お父さんのお弁当のまねっこ なんだけど〜〜
あ! あのね クラスとかでね〜〜 超〜〜〜人気だよ、お父さんのお弁当。 」
「 ウン! 僕のクラスでも! だからね〜 すぴかと二人でまねっこ・弁当。
・・・ お母さん さ〜 喜んでくれる かな・・・? 」
「 ああ ああ 勿論さ。 すご〜〜く美味しい〜〜って褒めてくれるよ。 」
「 うわ〜〜い♪ あ ・・・ お父さんってば もう出かけた方がいいんじゃない? 」
「 あ ほんとだ〜〜 〇〇分の上り だよね? 早くしたほうがいいよ。 」
「 え あ そ そうか? 」
ジョーは都心の病院まで < お母さんを迎えにゆく > はずなのだ。
「 そうだな〜 あ お前たち 朝御飯 ・・・ 」
「 だ〜〜いじょうぶ♪ おじいちゃまの分も ちゃ〜んと作るよ〜 」
「 味噌汁もね〜 家庭科の調理実習でやったもん。 大丈夫さ。
ほら それよりも 早く〜〜 お父さん。 電車に遅れるよ。 」
普段はの〜んびり・・・ なムスコにせかされ ジョーはちょっと苦笑しつつ ・・・ ガレージへ
降りていった。
― トン トン ・・・ メンテナンス・ルームのドアがまたしても密やかにノックされた。
すぐに開いた入り口には 防護服姿の009が立っていた。
「 おお ジョー ・・・ 待っておったぞ。 チビさん達はどうしておるね。 」
「 博士。 はい、 イッテキマス と車を出してきました。 途中でパーキングに停めて ・・・
ご覧の通りの姿で加速装置、 です。 」
「 ・・・ いろいろ気を使うのう ・・・ ほら 早くお入り。 」
「 あの ・・・ ? 」
「 ああ もう自然睡眠じゃから ・・・ じきに目覚めるよ。 問題ナシじゃ。 」
博士はちらり、と部屋の中を振り返った。
「 そうですか! よかった ・・・ 」
ジョーは静かに部屋に入りドアを閉じた。
「 ワシは彼女の目覚めを確認したら 上に戻るよ。 チビさん達と 父さん、母さんの
帰りを待つから。 安心しておいで。 」
「 ありがとうございます。 ・・・ フラン ・・・? 」
足音をたてずに 彼は処置ブースにゆっくりと近づいた。
普通のベッド仕様に変わったブースに 彼女はごく自然な姿で横たわっている。
「 やあ ・・・ まだ眠っているのかい。 お寝坊さん ・・・ 」
ジョーはそう・・っと彼女の亜麻色の髪をなでる。
「 ネボスケすばる はもうとっくに起きてるよ。 すぴかが弁当を作ってくれたよ ・・・
皆 お母さんの帰りを待ってる ・・・ なあ ・・・ フラン ・・・ 」
手をあてた頬はすべすべと弾力があり、ほんのり桜色になってきている。
「 ふふふ ・・・ いいよ。 今日は日曜日だもの、 すこしゆっくり朝寝しておいで ・・・
ぼくはここで ・・・ きみの寝顔をゆ〜〜っくり眺めているさ ね? 」
ジョーは ぱふん ・・・と愛妻の、いや恋人の側に顔を寄せた。
・・・ フラン ・・・ きみが 起きたら。
全部 話す。 そして心から 謝るよ ・・・
ね フラン ・・・ ぼくのフランソワーズ
「 ・・・ うん? 」
フランソワーズの瞼が ほんの少し ― ぴくり、と動いた。
「 やっとお目覚め ・・・ かな? フランソワーズ ・・・? 」
ジョーは白い手を握ってじっと愛するヒトの顔を眺めている。
霧の中を歩いている ・・・と思った。 歩いても歩いても辿りつかない。
「 ・・・ え? わたし ・・・ どこに行くつもりなの? 」
フランソワーズは足を止め、慎重に周囲をサーチしたが ― なにも反応がない。
「 ヘンねえ・・・ あ もしかして妨害波でカモフラージュしているのかしら ・・・
でも 帰らなくちゃ・・・! 急いで帰らないと ・・・ !?
そうよ! わたし。 ― ウチに帰るの!
ふと とても懐かしい視線を感じた。 じっと自分を見詰めている。
「 ・・・ あ。 お兄さん? ・・・ そこにいたの? 今 行く ・・・
ううん。 わたしは ― 帰るの ・・・ ごめんね お兄ちゃん ・・・ 」
視線は温かく それでも 淋しい気持ちが伝わってくる。
「 ごめん ・・・ ごめんなさい ・・・ お兄ちゃん! 愛してる・・・
でも でも。 今 ・・・ わたし は。 帰る の! あの ・・・ 岬の家に ・・・・!
そうよ ジョーと子供たちの側に ― ! 」
目の前に霧の中に手を伸ばしたら ・・・ きゅっと大きな手に包みこまれた。
「 ・・・ あ ・・・・? 」
「 やあ ・・・ 目が覚めたかい? 」
目の前に セピアの瞳が温かい光を湛えて微笑んでいた。
「 ・・・ ジョー ・・・ わたし ・・・ あ ・・・ 終ったの ね? 」
「 うん。 お帰り、 フランソワーズ 」
「 うふふ ・・・ た だ い ま ・・・ ♪ 」
するり、と白い手がジョーの首に絡み付いてきた。
「 ・・ ・・・・・ 」
二人は言葉もなく見詰めあい そしてどちらからともなく抱き合って深く熱く口付けを交わした。
「 なあ ・・・ いきなり加速して大丈夫かい。 」
「 平気よ。 すっかり健康体保証、ですもの。 」
「 そりゃそうだけど ・・・ でも 2日間はずっと眠っていたわけだから ・・・ 」
「 だから充分休養になりました。 ちょっとおなか空いてるけど ・・・ 支障ないでしょ。 」
「 よし。 ほら これ ・・・ 着替えておいで。 」
「 ええ。 ちょっと待っていてね。 」
フランソワーズは メンテ・ブースから降りると 赤い服の上下を受け取り衝立の陰に消えた。
「 ここで着替えてもいいのに 」
「 まあ ・・・ レディはね、 恋人の前で着替えなんかしません。 」
「 ― ぼくだよ? 」
「 だから よ。 もう〜〜 」
「 えへへへ ・・・ じゃあ 後は今晩のお楽しみってことで♪ 」
「 ジョーォ! 」
「 あは ごめ〜ん♪ 」
「 ・・・ はい 準備完了〜〜 」
サイボーグ 003 が颯爽と彼の前に立った。
「 うわあ〜〜 見とれちゃうよ〜〜 」
「 ・・・ こらあ〜 」
す・・・っと腰に伸びてきた手に ぺしっ!とシッペが飛んだ。
「 いて★ じゃあ ・・・ ちょっと加速装置で外出するよ? 」
「 うふふ ・・・ そうね。 わたしは都心の病院で人間ドックですものね。 」
「 そういうこと。 じゃあ いいかな? 003〜〜 」
「 了解。 009 ♪ 」
「 よし ・・・ 」
― シュッ ・・・! 独特の音と共に二人の姿は 消えた。
ジョーは駅前から外れた郊外型・ショッピングモールの ひろ〜〜い駐車場に車を停めていた。
今日は日曜日、 沢山の車と大勢の買い物客が絶えず出入りしている。
そんな中で、ヒトは他人のことはあまり気に留めないものだ。
さっきまで無人だった車に 一陣の旋風と共に突如人影があらわれたとしても ・・・
気がつくひとは誰もいない。
「 ・・・ よし・・・っと。 フラン? 大丈夫かい。 」
「 ジョー。 ご苦労様。 う〜〜ん 久し振りな <加速体験> なかなか楽しかったわよ。
もうちょっと長く味わいたかったわあ〜〜 」
「 おいおい ・・・ 地下のメンテ・ルームからここまできみを抱いてきた身にもなってくれよ? 」
「 ま〜あ 正義のヒーロー009 が な〜にを仰るやら ・・・ 」
「 ゼ 009 だって! 疲れるさ〜〜 ぼくたちはろぼっとじゃないもの。 」
「 うふふ ・・・ そうよ ね。 重くて悪うございましたね〜〜 だ 」
「 あ そ そんなコト ひと言も ・・・ 」
「 ふふ〜〜ん ねえ わたし、お腹ぺこぺこなの〜〜〜
着替えてちょっと降りて ・・・ 何か買ってきてもいいかしら。 」
「 あ ・・・ それじゃなあ いいものがあるんだ。 ちょっと海岸通りの方に寄らないかい。 」
「 いいものって なあに? 」
「 それはヒミツ。 海辺まで御案内しますよ? 」
「 あら♪ いいわねえ〜〜 二人でドライブ〜〜〜♪ なんてホント久し振りね。 」
「 そうかなあ・・・? ま いいや。 じゃあ 車 出すね。 」
「 は〜い ・・・ あ バック バック 〜〜 オーライ♪ 」
ジョーの運転する車は ゆっくりとだだっ広い駐車場から出ていった。
ザ −−−−− ・・・! ザ ・・・・ !!
初夏に陽射しの下で 海は金の波がゆらめき一層の明るさを放っている。
そんな海岸には 誰もいない。
散策には気持ちのよい季節なのだが なにせやたらと辺鄙な場所なのだ。
「 うん ・・・ ここでいいかな。 どう? 」
「 わあ ・・・ お日様の光があんなに海に散って ・・・ 綺麗ねえ 〜〜 ・・・
ねえ ここがいいわ。 この浜でお日様と遊びたい。 」
「 オッケー。 ここなら車 止めても誰もなんにも言わないだろ。
じゃあ ・・・ これ 持って先に降りててくれるかな。 」
ジョーは 後部座席に置いてあった大きな包みを フランソワーズに渡した。
「 いいわ。 ・・・ コレ・・・ なあに? 」
「 ふふふ 弁当さ。 それもお楽しみ弁当♪ 」
「 ??? 」
ジョーは海岸へ降りる小道に脇に車を止めた。
二人は普通の服装になり のんびりと海辺を散歩する。
サクサクサク ・・・・ 砂地に足跡が二組 ・・・ 寄り添って続く。
海風は夏の予感をはらんでいるが まだ熱くはない。
亜麻色の髪を ふわり、と宙に舞わせ ジョーの視線を奪ったり ・・・ イタズラをする。
「 なあ ? 」
ずっと黙っていたジョーが ぽつん、と言った。
「 あの ・・・ さ。 ごめん。 」
「 え?? なにが。 」
「 うん あの うん ・・・ 」
「 なあに? ジョー ・・・ 可笑しなひとねえ 」
「 あの ・・・ いや ちゃんと言うよ。 ぼくって ホントに最低なヤツなんだ。 」
「 え??? なに、いきなり ・・・ 」
「 聞いてくれ。 夢だ・・・って笑ってくれてもいいさ。 でも ぼくは真剣なんだ。 」
「 ジョー。 話して? 」
「 うん ・・・ きみのメンテ中に きみの側についていて ・・・ 転寝したんだけど 」
「 ・・・? 」
ジョーは とつとつと、しかししっかりとした口調で彼の見た < 夢 > について話した。
「 ・・・ あの日の 夢 ・・・ を みたの ・・・? 」
「 うん。 多分 ・・・ きみに聞いたことが潜在意識にあったのかもしれない。
ぼくが知らない場所だったけど アレは絶対に きみ だもの。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 それで ぼくは。 なにもせずに ただ 見ていたんだ ・・・
ぼくは ・・・ どうしても どうしても きみが欲しくて。 きみと巡り逢いたくて ・・・
あの少女が幸せな未来を奪われるのを ― 傍観して・・・ いたんだ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ぼくは きみの幸せよりぼく自身の幸せを ・・・ 優先して あのコを み、見殺しに した 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ぼくって こんなヤツだったんだ。 卑怯でズルくて自己中で 」
「 ジョー。 もういいの。 」
す・・・っと 白い手がジョーの手を握った。
「 え ・・・? 」
くるり、と彼女は彼に向き合い 彼の身体に腕を回す。
「 あのね。 聞いてくれる? わたしの見た < 夢 > の話も。 」
「 きみの? 」
「 ええ。 メンテナンス中 ず〜っと ・・・ わたしも夢をみていたの。 」
「 夢 ・・・を? 」
「 そうなの。 やっぱり ― あの日のことなの。 あの日 ・・・ 少しだけ違った行動を
とっていたら ― わたしは ・・・ 」
「 きみは普通の女の子として穏やかで幸せな人生を送れたんだ! そうだろ?
お お兄さんだって! 」
「 ジョー。 ひとつだけ 違うわ。 」
「 ・・・ ちがう? 」
「 そう。 確かにあの日 ― ちがった運命を辿っていたら わたし ・・・ ごく普通の日々を
過したでしょうね。 パリで生きて暮して年齢を重ねて ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 だけど。 < 幸せな > 人生 かどうかは ― わからないわ。 」
「 そんなこと ・・・! 」
「 ねえ わたしを見て。 今の わたし ・・・ 不幸せ? 不幸に泣いているかしら。 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ 」
「 そして ね ジョー。 あなた、自分自身の顔、 よく見て?
ジョーは ・・・ 今 不幸せ? 不幸で悲しい日々を送っているの? 」
「 ・・・ フラン ・・・ ああ フランソワーズ ・・・! きみってヒトは ・・・!
本当に きみってヒトは ・・・! 」
ジョーは 感極まってきゅう・・・・っと彼の恋人を抱き締めた。
「 ・・・ お兄ちゃんも ね ・・・ ほら、 ちゃんとジョーのこと、認めてくれたでしょう?
すぴか と すばる のこと、とっても可愛いがってくれたわ。
あれは ― 夢なんかじゃないもの。 」
「 ウン。 あれは ・・・ クリスマスの奇跡さ。 そう ・・・だよ ね ・・・
うん ・・・ 子供達だって うん ・・・ 」
「 ね? そうでしょ。 わたしたち ・・・ 今 皆笑っているわ。
そりゃ ・・・ いろいろあったし。 これからも ・・・ その ・・・ いつかは ・・・ 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
愛妻の涙声に ジョーはもう一度彼女を抱きよせる。
「 ・・・ でも 幸せの思い出はちゃ〜んと残るよ。 そうだろ? 」
「 ええ そう ね。 そうよね ・・・ 」
グウ ・・・ フランソワーズのお腹が鳴った。
「 きゃ〜〜 ヤダァ〜〜 あ〜〜〜 もうお腹 ぺっこぺこなの。
ねえねえ お弁当! 食べましょ! お楽しみ弁当 なんでしょ? 」
「 うん ・・・・って コレなんだけど さ ・・・ 」
「 なあに? 」
「 ぼくも < 詳細は存じません > なんだけど ・・・まあ 喰えるだろ。 ほら ・・・ 」
「 え えええ ・・・・??? 」
二人は砂浜に転がっていた流木に腰を降ろし < お楽しみ弁当 > を広げた。
「 ・・・ わあ ・・・ でっか ・・・ 」
「 あらあ〜〜 いっぱいあるわあ〜〜 」
すぴかの < お父さん用 >お握りは大きくて砲丸のようにかっちかちの海苔包み。
すばるの < お母さん用> お握りは一口サイズのものがそれぞれラップで包んである。
「 あのな これ。 チビ達がさ、めちゃくちゃ早起きして作ってくれたんだ。 」
「 え ・・・ そ そうなの?? すぴかとすばるが ・・・ 」
「 ウン。 それもさ、ぼくにもナイショで ・・・ もうびっくりさ。 」
「 そう ・・・ ねえ ジョー。 」
「 うん なに? 」
「 わたし。 ― やっぱりどうしたって この運命を選ぶわ!
ジョーとすぴかとすばるが一緒にいる ・・・ サイボーグ003 の運命を 選ぶの。 」
「 ・・・ あり がと ・・ フラン ・・・ 」
「 もう〜〜 そんな顔、しないで。 さあ 食べましょ? 」
「 ウ ウン ・・・ それじゃ 」
いただきますっ!! ジョーとフランソワーズはお握りの前で手を合わせた。
「 ・・・ うわ!? 沢庵とウメボシと辛子明太子とシャケ・フレークが一緒に入ってる〜〜 」
「 これ ・・・ チーズとジャム? こっちは マロン・グラッセ?? 」
むぐむぐむぐ ・・・ ぱくぱくぱく ・・・ 二人は歓声をあげつつ食べてゆく。
「 ・・・ ね シアワセって。 この味 ね。 」
「 そうだね ・・・ 」
二人で味わうおむすびは ちょっぴりしょっぱい嬉しい涙の味。
おにぎり♪ おむすび♪ どうして美味しいか しってる?
それは ね?
ぎゅ ぎゅ ぎゅ・・・・って。 しっかりにぎって作るから なんだよ
ぎゅ ぎゅ ぎゅ。 いろんな想いを ぎゅ ぎゅ ぎゅ ・・・って。
おにぎり♪ おむすび♪ み〜んな 食べちゃえ!
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Fin. *********************************
Last updated
: 05,11,2013. back / index
************* ひと言 **********
おむすび は美味しいですよねえ・・・・
ただの塩握り でも好きだなあ〜
RE: には食べ物が出てこなくてつまらなかった・・・