『 海の詩 ( うた ) ― (6) ― 』
ゆる〜〜〜るるるる・・・・・ ゆるるるる・・・・
フランソワーズはゆったりと < 家 > に向かって水の中を降りてゆく。
「 ・・・ ああ ・・・ やっぱり水はいいわあ ・・・
ほんの少しの間離れていただけなのに こんなに懐かしく感じるもの ああ 」
しゅるしゅるるる ・・・ 脚の尾鰭は黒い魔女の魔法で消えてしまっているが
彼女は実に悠々と 海の底へ、 海の王国へと泳いでいった。
「 ふう ・・・ もうちょっとね。
あ〜 きっとお父様にお説教ね〜〜 う〜〜ん 兄さま方、味方してくださるかしら 」
金色の髪をゆらめかせ 白いドレスの海の姫君は潜ってゆく。
「 ふんふ〜ん♪ ・・・ あら?? 」
ごごごご 〜〜〜〜 突然 黒い水が彼女の周囲に流れ込んできた。
「 ?! まあ な なに ・・・?? いやっ いたいっ なに?
イヤだ これは冷たいんだわ! 冷た過ぎて痛いのね ! 」
その痛いほど冷たい水がぬめぬめと身体に纏わり付いてきた。
「 ! いやっ なんなの?? あっちへ行って! 」
必死に手足をうごかし黒い水流から逃れようとするのだが ―
お前は〜〜〜 約束を破ったなあ〜〜〜
二度と海には戻れぬ と言ったはずだあ〜〜
身体を締め付けるみたいに冷たい水流の中から 陰気な声が響いてきた。
「 !? く 黒い魔女 ?? 」
約束を違えた上は 〜〜〜
覚悟しておるだろうなあ 〜〜〜
先には声 をもらった 〜〜 今度は その命を貰おうかあ〜〜
「 あ ・・・ きゃあ〜〜〜 」
ぶろ〜〜〜ん ・・・ ぐゆん。
周囲の黒い水がぐるん、と逆巻くと 彼女をぎっちりと包みこんだ。
水は あっという間に格子戸状に変化してたちまち 檻 となった。
檻は 水でできているのに がっちりと固まっている。
「 く・・・! で 出られない 〜〜〜 」
ぐふふふふ〜〜〜
それは 水の檻 じゃ〜〜 簡単には抜け出られん
では 地上の王子に目くらましを掛けにゆくとするか
ぐふふふふ〜〜〜〜
「 な なんですって?? ジョー様になにをするのっ ? 」
さあなあ〜〜〜
愛の誓いだかなんだか知らんが おめでたいヤツらだ〜〜〜
その脆さを しっかと知るがいい〜〜
ぐふふふふ ぐふふふ ぐふふふ〜〜〜
黒い魔女の声は黒い水流の中に消えていった。
「 ! 出しなさいよっ!! もう〜〜〜 」
フランソワーズは 水の格子に取り付いてがたがたゆすったがビクともしない。
「 う〜〜〜 ふん! こんなことくらいでメゲるわたしじゃないわ!
チビの頃 お兄さま達とさ〜んざん < 脱獄ごっこ > やったんですもんね〜 」
ようし・・・ と 彼女は少し下がると ― ドレスの裾をたくし上げ〜〜
「 え〜〜〜いっ !!! 」
ぐわん〜〜!! 白いしなやかな脚が黒い格子を蹴飛ばした。
++++ ぐにゃ〜〜〜ん ・・・ 格子は一瞬 ぶるっと震えるとヘタってしまった。
「 や〜〜ったわあ〜〜〜 よし ここから脱出よ〜 よいしょ・・・
う〜ん じゃまっけねええ〜 こうやって・・・っと。 」
彼女は裾を絡げて水の檻から抜けだす工夫をし始めた。
「 よっいしょ・・・ きゃ ・・・ もう〜〜 裾が引っ掛かっちゃったあ〜 」
水の檻と格闘していると ―
「 姫さまあ〜〜〜〜〜〜〜 」
遠くから聞き覚えのある声が 響いてきた。
「 う〜〜 ・・? え あれは・・・ あ! カメキチね!
お〜〜〜い ここよぉ〜〜〜 カメキチ〜〜 ちょっと助けてぇ〜〜〜 」
「 姫さま! ああ ここにいらしたのですか! ・・・ それ なんです? 」
チビっこい亀が必死に泳いできた。
「 これ、 黒い魔女の檻なのよ。 あとちょっとで抜け出せるんだけど・・
ほら 裾が引っ掛かってしまって 」
「 ・・・ 魔女の檻を ・・・ どうやって破壊したのですか、姫さま??
あれはサメだってシャチだって逃げられないんですよ?
」
「 え? 別に・・・ 簡単よ。 一発 ケリを入れただけ。 」
「 ケリ?? ・・・ す すご ・・・ さすが姫さま だけど ・・・ 」
「 ねえ カメキチの鋭い顎ならば わたしのドレスの裾を噛み切れるでしょう?
ほら ここ・・・ 破って? 」
「 え ・・・ で でもぉ〜〜 姫さまのお召し物を噛み切るなんて そんな ・・・ 」
「 いいのよ ほら ここを噛み切って! 」
「 は はい ・・・ あ〜〜む!! 」
カメキチは目を瞑って 白い光沢のある布地に喰らい付いた。
あむ あむ あむ〜〜〜〜〜 びりり・・・・
「 ! あ 外れたわ〜〜〜 ありがとう カメキチ。
うふふ〜〜〜 裾が短くなって動き易いわあ〜〜〜 気持ちいいし♪ 」
「 ひ 姫さま ・・・ 」
白い脚を惜し気もなく晒し、ひらひらうごく姫君に カメキチは真っ赤になって俯いてしまった。
「 さ。 これから宮に戻って・・・と思っていたけど もう時間がないわ。
黒い魔女の企みから ジョーさまを護らなくちゃ! わたし 地上に行くわ。
カメキチ、 お兄さま方にお知らせしてね 」
「 姫さま〜〜〜〜 どうぞ一回王宮に お戻りください〜〜 」
「 そうしたいけど ・・・ 急がなくちゃいけないのよ。 」
「 でも でも〜〜〜 国王陛下もご心配なさってますよ〜〜 」
「 う〜ん ・・・ カメキチ、お父様にお伝えしてちょうだい。
フランソワーズは お父様の、海の国の王者の娘として信じる道をゆきますって 」
「 え ・・・ 」
「 じゃあ お願いね、カメキチ。 それじゃっ 」
「 あ! 姫さまぁ〜〜〜 」
姫はひらひら・・・白いドレスを揺らし白い脚をみせて瞬く間に海上へと昇っていって
しまった。
「 う〜〜 姫さまってば〜〜〜 ・・・ もう〜〜 ほっんとにお転婆さんなんだから〜〜
あの優しそ〜な王子さんとはぴったり かもなあ 」
チビの亀は しばらく呆然と姫君の後を見上げていた。
「 ! いっけね〜〜 急いで王宮に戻って それから 姫様の側に駆け付けなくちゃ!
ふふん だって僕は姫様の親衛隊だもんな〜 行くぞ〜〜 」
とぽん。 カメキチの姿もあっと言う間に見えなくなった。
トタトタ トタ ・・・・
白いドレスの女性が金の髪を靡かせ一生懸命砂浜を駆けてゆく。
きらきら ・・・ 陽の光に煌めき 光のドレスを纏っているみたいに見える。
― しかし ドレスの裾は短く千切れて白い足は裸足だ。
「 あ〜〜 もう ・・・ ! 歩く ってなんて遅いの??
泳ぐ方がず〜〜〜っと楽で速いのに 〜〜 ああじれったい〜〜 」
彼女は頬を紅潮させ 海岸から防風林を抜け、ようやく城の庭園のゲートに辿り付いた。
「 ふうう ・・・ ああ 舞踏会に間に合うといいのだけれど・・・
黒い魔女の黒い魔法から ジョーさまを護らなくちゃ! 」
王宮の庭園に入るゲートは形ばかりのものだけれど 一応門番がいる。
「 あの ・・・ 庭園に入れてくださいな。 」
姫君は 番小屋とおぼしき小屋に声をかけた。
「 うお〜〜〜い 誰だあ? ・・・ うんにゃ? どこの娘さんかね 」
門番は欠伸をしつつ のろのろと出てきてじろじろと彼女を眺めた。
「 え あの 海の宮からきました。 庭園に入れてくださいな。 」
「 海? 海岸の方に住む漁師の娘かな ・・・
あ〜〜 今日はダメだよ〜 お城で舞踏会があるんだと。 そんで外国からも
貴族・王族の客人さん達が見えるんでね〜〜 庶民は入れらんないよ 」
「 あの その舞踏会に用があるのですけど 」
「 そ〜か そ〜か また明日 遊びにおいで さあ 帰った 帰った〜 」
門番は 彼女を追い返す風にぱっぱと手を振るとゲートの鍵を確かめて
またのそのそと番小屋に戻ってしまった。
「 ! もう〜〜〜〜 ・・・ いいわ こんなゲート、朝メシ前だわ! 」
トン。 ・・・ 姫君はゲートに足を掛け登ると難なく超えてしまった。
「 ・・・っと。 ふ〜〜ん だ! さあ 急がなくちゃ! 」
すとん。 芝生の上に着地し さっと金の髪を後ろに払う。
「 ジョーさま・・・! 待っていてくださいね。 」
彼女は 再び金の髪を靡かせて走り出した ― 王城の居館目指して。
ぱっぱらぱ〜〜〜 ぱぱぱ 〜〜〜〜 ぱぱぱぱ〜〜〜
ファンファーレが華々しく響いた。
「 ○○王国の マルガレ―テ姫様〜〜〜〜 」
「 △皇国の アントニア皇女さま〜〜〜 」
侍従の一人がよく透る声を張り上げ 入室してくる姫君たちを紹介している。
「 ふむ ふむ ・・・ 近隣の国々から大勢お越しになったなあ〜〜〜
この中でどなたがジョー様のおこころを捕えるのかのう 」
侍従長は 会場の最終確認をしつつゆるゆると大広間を巡っている。
「 いずれ 陛下もご臨席になるしな ・・・ うむ うむ 準備はカンペキじゃな。
うん? 肝心の主役殿は ・・・・ と? 」
「 ― 侍従長さま どうなさいました ? 」
銀盆をささげた侍女がさりげなく近づいてきて そっと尋ねた。
彼がきょろきょろ会場を見回しているのを目ざとく気づいたのだ。
「 あ・・ いや。 ― あ〜〜 本日の主役殿はどこかね? 」
「 は? ― あ ああ ・・・ 」
一瞬 目をパチパチしていたがすぐに合点すると、彼女はクスっと笑った。
「 主役殿は ― カーテンの向こうに・・・ 待機していらっしゃるようですわ 」
彼女は視線で窓辺を指した。
「 うん? ・・・ ああ もう〜〜 」
侍従長は こっそりため息を吐くと ゆっくり大広間の窓に歩み寄っていった。
緞子のどっしりしたカーテンの内側に 一人の青年が立っている。
「 あ〜 おっほん。 ― ジョーさま。 ・・・ なにか面白いモノがありますかな
」
「 ・・・・・・ 」
本日の主役は 美々しく礼服を召し ― 熱心に窓から外を眺めている。
彼は 降り向きもしない。 いや ・・・話しかけらていることにすら気づいていないのだ。
「 ? おっほん〜〜 ジョーさま 王子さま! 」
「 ・・・・ 」
「 ジョー王子殿下! 」
ツンツン。 業を煮やし 侍従長はついに世継ぎの君の肩を突いた。
「 ・!・ え??? あ ・・・ ああ ・・・・ 侍従長 ・・・
なんだい? 」
「 なんだい ではございません、殿下! 花嫁候補の姫君の皆さまが続々ご到着です。
さ ・・・ 今晩の主役の殿下はお出迎えなさってください。 」
「 う ・・・ ん でも ぼくはあの姫を待っているんだ。 」
「 あの姫?? どちらの姫君ですかな 」
「 あの姫だよ! 白いドレスの 金の髪で空よりも海よりも碧い瞳の ・・・ 」
「 はて そのような麗しい姫君がいらっしゃいましたか 」
「 うん。 きっと舞踏会には来るって約束してくれたんだ ・・・ まだかなあ 」
ジョーは窓にへばりつくみたいにして ひたすら遠くを見つめている。
「 あ〜〜 殿下? 御客様をお待ちになるのでしたら・・・ 城の馬車寄せの方を
ご覧になったら如何ですかな? そちらにあるのは海だけですが ・・・・ 」
「 だからいいんだ。 あの姫は 海の姫君 なんだから。
う〜〜ん ・・・ まだかなあ・・・ あの兄上達も一緒に見えるのかなあ 」
相変わらず 窓の外だけにしか関心を示さない王子に さすがの侍従長もイライラしてきた。
「 殿下! そろそろ広間の中央にお戻りください。
主だったお客人たちもいらっしゃいましたし・・・ そろそろ舞踏会を開催 」
「 え! ま まだ ダメだよ〜 あの姫がまだ ・・・ 」
「 ― 侍従長 」
女官長が 寄ってきてなにやら耳打ちをした。
「 あ ・・・ わかりました。
殿下、さあ いらしてください。 国王陛下もそろそろお出まし、とのことです。 」
「 ・・・ 父上が? ・・ う 〜〜 ん それじゃ ・・ 」
ジョーは不承不承 窓辺を離れた。
ざわ ざわ ざわ 〜〜〜〜 うふふ ・・・ きゃ・・・
大広間は 煌びやかな騒めきで満ちていた。
三々五々集まり、客人たちは談笑していて満員! というわけでもないのだが ・・・
華やかな雰囲気でいっぱいなので 広間の空気は今にも歌いだしそうだった。
各国からの姫君たちが集っているので キラキラの輝石のティアラやら首飾りに耳飾り、
チュールやレエス、そしてシルクのドレスの艶やかな光り ・・・
それらがシャンデリアの光の下で 華麗に揺れるのだった。
そして なによりも華やかなのは 花嫁候補の姫君たちの笑顔だろう。
いずれ劣らぬ若く美しい女性ばかりだ。
「 あ〜〜 皆さま 本日はようこそいらっしゃいました 」
侍従長が 進み出て厳かに挨拶をした。
笑いさざめいていた人々は さっと姿勢を正し会釈を返した。
さあ・・ と促され 正装したジョー王子が少しばかりはにかみつつ前に出た。
「 皆さん ようこそ ・・・ どうか楽しいひと時をお過ごしください。 」
ざ ・・・ ! さわさわさわ・・・・
居並ぶ王族 貴族 そして 我こそは! と自信満々の花嫁候補の令嬢たちは
一斉にうやうやしく 頭を下げた。
「 では 楽師殿たち とっておきの演奏をお願いします。
ジョー王子殿下が これよりお妃候補の姫君たちとダンスを踊られます 〜〜〜 」
〜〜〜 ♪♪ ♪♪ 〜〜〜 ♪
軽快な音が流れ始め 美々しく着飾った姫君たちがジョーの前に進み出た。
「 あ ・・・ こ こんにちは ・・・ 」
ジョーは もじもじしつつも一応にこやかに姫君たちに挨拶をした。
う〜〜 ・・・ 困ったなあ 〜〜〜
皆 キレイでカワイイ人たちだけど ・・・
あ〜〜 海の姫君 はまだかなあ ・・・
ぼくがこのヒトたちと踊っている間に 来てくれるかなあ
「 ジョーさまぁ〜〜〜 」
「 ・・・・ 」
少々ぎこちなく微笑むと ジョーは先頭の姫君の手を取り踊りはじめた。
♪ 〜〜〜〜 ♪♪ ♪♪ 〜〜〜
音楽に乗ってジョー王子は次々と花嫁候補たちと踊ってゆく。
「 お 始まっているようじゃな 」
こそっと衣擦れの音がして いつのまにか国王が玉座に着いていた。
「 ! これは これは国王陛下〜〜 」
仰天した侍従長は 慌てて音楽を止めさせようとした。
「 ああ よい よい ・・・ そのまま続けさせなさい。
ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ あのはにかみ屋の王子が お嬢さん達と踊っておるわ〜 」
「 はい ・・・ どなたも どなたも美しい姫君たちです 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ いったいどの姫を選ぶのかの〜〜 」
「 さ さあ・・・・? 」
国王も侍従長も 興味深々である。
ほう〜〜 いずれ劣らぬ名花たちですなあ〜〜
本当に・・・ 殿下はどの方を選ばれるのかしら
う〜〜ん ・・ あ あの金髪の姫かな?
いえいえ あちらの赤毛の方も素晴らしい美貌だわ
それなら 後ろのブルーネットの姫も 大きな瞳が素晴らしい
外野はざわざわ・・・ 好奇心満々で下馬評?に喧しい。
「 ・・・ ジョー様! もっとにこやかになさらなければ〜〜〜 」
「 ジョーさま! お笑いになって〜〜 」
侍従長と女官長は 気が気ではない。
〜〜〜 ♪♪ ♪
やがて音楽は終わりダンスは終わった。
― さあ ジョー王子はどの姫君の手を取るだろうか ・・・!
広間中の人々が固唾をのんで王子を見つめている ― のだが。
「 ・・・・・・ 」
ジョー王子は 淡く微笑むと花嫁候補達の会釈をして玉座に戻ってしまった。
〜〜〜 お〜〜〜 ・・・
人々の失望の声が広間に満ちた。
「 ジョーよ ・・・ 意中の姫君はどの方じゃな 」
隣の玉座に座する国王陛下も さすがに心配気な顔だ。
「 父上。 残念ですが ・・・・ ぼくが心に決めた姫君は 今日はいらして
いないようです。 」
「 はて。 国中の、そして近隣すべての国の妙齢の姫君たちに招待状を
送ったのだがな 」
「 ・・・ はい、 ぼくも彼女と約束をしたのですが ・・・ きっといらしてくださいって ・・・
なにか 不都合なことでも起きたのかなあ ・・・ 心配だなあ 」
「 ??? それよりも 今日は是非ともそなたの妃を決めねば 」
「 父上。 ぼくの妃となる女性 ( ひと ) はもう決めています。
彼女がいらしたら さっそく父上にご紹介し、皆にも紹介したいと思っています。 」
日頃は口数の少ない王子が 父王に向かって熱心に訴える。
ほう〜〜 コイツにこんな想いをさせている姫君とは
いったいどこの姫じゃろうなあ
「 うむ わかった。 しかし もう客人たちはほとんど到着されているぞ 」
「 ええ ・・・ いったいどうしたのだろう 」
ぱぱぱぱ ぱっぱっぱ〜〜〜〜〜 ・・・ !!!
突然 ファンファーレが響いた。
「 黒公爵様と ご令嬢の紫姫さま 〜〜〜 ご到着〜〜 」
「 ?? 黒公爵?? そのような御方をご招待したかの 」
ラッパ卒の口上に 侍従長は首をひねりつつ客人を迎える用意を急ぐ。
ざわざわ ざわ〜〜〜
大広間の客人たちも 怪訝な表情だ。
コツ コツ コツ ・・・ 高い靴音とともに黒光りのする衣装をつけた人物が
堂々と案内されてきた。
ぽ う ・・・ ほんの一瞬、黒い粉が広間全体に散った。
しかし 誰もその現象に気がついた者はいなかった。
それどころか どの人もこの人も黒公爵と姫君に視線がくぎ付けなのだ。
はて どこのお国の方ですかな?
あまり耳にしたことのないお名前ですが ・・・
まあ ご覧なさいな〜〜 煌びやかな装いで
公爵もだが あのお連れになった姫君の美しいこと!
「 ジョー王子殿下。 遅参 申し訳ござらぬ。 黒公爵と申します。
これにあるは わが娘 ― 紫姫。 」
黒い衣装に身を固めたオトコは 慇懃に挨拶をした。
「 ・・・ よ ようこそ ・・・ 」
「 ジョー王子さま 紫姫 と申します。 」
淡い紫のドレスに身を包んだ美姫が 嫣然と微笑みかけた。
「 あ あの 踊っていただけます か 」
王子は すとん、と立ち上がると すすす・・・っと紫姫の前に歩み寄った。
! あ あなたは ・・・ ! 海の姫君 ですね??
そう マチガイない !
ああ ずっとお待ちしていました〜〜〜
彼は 半ば呆然と彼女を見つめている。
「 まあ 王子様〜〜 嬉しいですわあ〜 勿論 お相手いたしますわ 」
にっこり ・・・ 蕩けそうな笑みを浮かべると紫姫は 白い手を差し出した。
「 あ ありがとう! さあ ここは狭いから広間の中央にどうぞ ? 」
「 まあ ありがとうございます。 」
ふぁさ ・・・ 薄紫の裳裾を翻し彼女は王子に手を預けた。
「 ! あ ああ 楽師殿たち … 音楽を ! 」
侍従長は 慌てて指図をし、 楽師たちも我に返り楽曲を奏で始めた。
♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜〜〜
「 ・・・ 素晴らしい ! 海の姫君 ですよね? 」
「 うふふ ・・・ さあ どうかしら? 」
紫姫はサファイアみたいな瞳で ジョーをみつめる。
「 やっぱり来てくださったんだ! さあ ダンスが終わったら父上に紹介します! 」
「 まあ〜〜 なんてご紹介くださいますの? 」
「 それは勿論 ! ぼくの ― 」
ち ちがうわっ !!! ジョー様〜〜 よく見て!!
その女は わたしではないわ!
黒い魔法使いの罠なのよ〜〜 目を覚ませてっ !!!
その時 大広間の窓の外で可憐な影が必死で訴えているのに ― 誰も気づいてはいない。
Last updated : 11,24,2015.
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********* またまた 途中ですが
すいません〜〜 またまた終わりませんでした・・
その上 またまた激短です <m(__)m>
ハナシも も〜〜〜 なにがなんだか・・・ ホントに(;´Д`)