『  海の詩 ( うた )  ― (5) ―  

 

 

 

 

 

 

 

    どろ〜〜ん ・・・・  ごぼごぼごぼ〜〜〜

 

その海域は冷えた水が ど〜〜〜んより溜まっていた。

冷えているだけではなくほとんど動くことなく透明度も低く まだまだ昼日中でも薄暗い。

ぽっかりと空いた洞窟の奥は ますます暗く水の動きはまったく感じられない。

 

「 ぐふふふふ〜〜〜〜 ぐふふふ ・・・・ 

 

そのまたもっと奥から 低い陰にこもった声が地を這うみたいに響いてくる。

首をつっこんでくる小魚などの姿もなく 地を這いずり回る甲殻類も見当たらない。

それもそのはず ―  ここは国境の果てに巣食う黒い魔物たちの巣窟なのだ。

 

「 わはははは〜〜〜〜  上手くいったぞ〜〜〜  あのお転婆姫〜〜〜

 みごと王子の心を惹いたようだなあ〜〜 ぐふふふふ〜〜〜〜 

 自分では全く知らないうちに 我ら黒い幽霊に与しておるのだあ〜〜〜

 ぐふふふ  ぐふふふふ  〜〜〜〜 

 

黒い魔女が ―  いや 今は魔女の黒いローブをかなぐり捨てたオトコが

陰気な声を上げて嗤っていた。

 「 ぐふふふ〜〜〜  花嫁を選ぶ舞踏会 とな!  ぐふふふ〜〜〜 

 あのお転婆姫に似せた 影姫 を送り込んでやろう〜〜〜 

 海ではこんな果てに追いやられてしまったが〜〜  地上の王国を乗っ取れば

 無敵だあ〜〜〜  ぐふふふふふ〜〜〜〜 

振り向いたオトコの顔は髑髏の面で蓋われており、その正体はだれにもわからない らしい。

ぞわぞわぞわ 〜〜 不透明なぐんにゃりした生き物らが 黒い仮面の男を取り巻いている。

 

「 影姫〜〜〜 ・・・ いでよ〜〜〜 魅惑の微笑みと黒い心をもった影姫〜〜 」

黒い男は ぶつぶつとなにか呪文を唱えつつ、大鍋の中を覗く。

「 ぐふふふ〜〜〜 ぐふふ〜〜〜  ここには海に落ちて命を失ったモノの骨が

 集めてあるのだ〜〜 ここに秘薬と黒い海の水を入れてと〜〜おろりとろとろ〜〜 

 三日三晩煮込めばあ〜〜〜  ぐふふふふ〜〜〜 影姫の誕生じゃあ〜〜〜 」

ちゃっぽん・・・ 大鍋からは白い湯気が吹き零れる。

「 アヤツめのココロをがっちり誘惑して虜にし、 目くらましをかけてやる〜〜〜〜

 影姫の前に愛を誓うとき ・・・ 海の王国も地上の国も我らが黒い幽霊の手に

 落ちるのだあ〜〜〜〜 ぐふふふふ〜〜〜〜 

 

  わははは〜〜〜〜  小暗い洞窟の中からはもっと暗くて陰気な笑い声が響き続けるのだった。

 

「 !  た  タイヘンだあ〜〜〜  黒い魔女がとんでもないこと、企んでるぅ〜〜 」

洞窟の入口で 小さな小さな声が聞こえた。

隠れてこそ・・・っと偵察していたカメキチが そう〜〜っと泳ぎ出した。

小さなヒレを必死に動かし ようやっと冷たい海域を抜けるとカメキチは大声でわめき始めた。

「 !  国王陛下〜〜〜 アルベルトさまあ〜〜〜 大変だよ〜〜〜う 」

  

    ぴらぴらぴら〜〜〜〜 ぴらぴらぴら〜〜〜

 

「 うん?  カメキチじゃないのかい? 」

しばらくゆくと前方から するする近づいてくる姿が見えてきた。

しゅるり〜〜っとたちまちカメキチの側にやってくる。 

速いばかりではない、華麗で流麗な泳ぎ方は 海の国の住人そうそう誰にでも

できるものではない。

「 あ!  ピュンマさまあ〜〜〜〜 」

一瞬 隠れようと身構えたカメキチだが、その人物の声と姿にすぐに反応した。

ちっこい亀は 大喜びで泳いでくる人物にすり寄っていった。

「 やはりカメキチだね、 どうしたそんなに慌てて 」

「 ピュ ピュンマさまあ〜〜〜 た 大変ですぅ〜〜〜〜 黒い魔女があ〜〜〜 」

「 なに 黒い魔女が?  お前、 国境の黒い森まで行っていたのかい 」

「 はい ・・・ 姫さまをお護りしなくちゃって・・・

 ボク ・・・ チビでなにもできないけど でも! 黒い魔女のことを探るくらいは

 できますから 

「 そうか〜 ありがとうね。 でも一人で危険な場所に行ってはダメだよ。

 お前になにかあったらカメ母さんが悲しむだろ 

「 で でも〜〜〜 ボクは姫さまを〜〜 

「 ふふ ・・・ ありがとうね も〜〜 あのお転婆姫はなあ〜

 あ それでなにを見聞きしたのかい。 」

「 それが! 」

「 あ〜〜 よし、今から僕が急発進で宮殿まで戻るから 一緒に行って

 お前から直接 父上をアルベルト兄上にご説明してくれよ。 

「 は  はい ・・・!  ピュンマさま〜〜〜 」

「 ようし ・・・ さあ 僕の背中にしっかり捕まれよ〜〜 」

「 はいっ  

小さなカメは きゅっと王子の背に張り付いた。

「 じゃ 行くよっ ! 」

「 は はい〜〜 」

 

   ジュワ〜〜〜〜〜〜   !!!!  シュシュシュ −−−−!!

 

ピュンマ王子の姿はたちまち水の彼方に見えなくなった。 

 

 

 

 

   きら きらきら  きら ・・・

 

象牙の櫛の間から 金の髪がさらさらと零れる。

「 まあ〜〜〜  なんと見事な御髪なのでしょう〜〜〜 」

「 ・・・・・ 」

侍女が感歎の声をあげつつ、 < 海の姫君 > の髪を梳いている。

「 本当の金糸よりも素晴らしいですわ〜〜  ああ この御髪に勝る飾りモノなど

この世にはございませんわ。 」

「 ・・・・・ 」

海の姫君は 鏡越しににっこりと微笑んだ。

 

    ありがとう・・・・ とても気持ちがいいわ  

    

「 え?  まあ〜〜〜 そんな・・・ もったいない 」

侍女は心に響いた声を 耳で聞いたものと思い込んでいた。

「 舞踏会ではきっと一番お美しいに違いありません。  きっとジョー様も♪ 」

「 ・・・・? 」

 

    舞踏会にはたくさんの方がいらっしゃるの?

 

「 はい〜〜 この国の高位の貴族の姫君たちはもちろん、隣国からも ・・・

 ジョーさまはそこでお妃様となられる方の手を取って踊られるのですって。 」

「 ・・・・? 」

 

    え ・・・ そうなの?

 

「 そういうウワサですけど ・・・ わたくしは姫様の手を取ってくださるといいなあ〜

 って思いますわ!  ジョーさまととてもお似合いですもの。 」

「 ・・・・・・ 」

 

    まあ ありがとう ・・・ わたし ジョーさまが好きよ

 

「 きゃ〜〜〜 わたくし 当日のおめかしのお手伝いもぜひぜひ〜〜させてくださいませ」

「 ・・・・・ 」

 

    嬉しいわ、 おねがいしますね 

 

「 はい〜〜〜 喜んで・・・ さあ これでお休みのご用意はできましたわ。 」

「 ・・・・・ 」

 

    ありがとう ・・・ ここは素敵なお部屋ね 

 

「 はい。 こちらは特別な貴賓室でございます。 海の姫君さまにぴったりですわ。 」

「 ・・・・・・ 」

 

    あら ・・・ あちらの窓からは ― 遠くに海がみえるわ!

 

  り〜〜〜ん ご〜〜〜ん  り〜〜ん ご〜〜〜ん

 

部屋の中で金の飾り時計が 夜の時間を告げた。

「 あ 余計なおしゃべりをいたしまして・・・ 申し訳ありません

 わたくしはこれで失礼いたしますです 」

侍女はあわててお辞儀をすると部屋を辞していった。

 

    ありがとう ・・・・

 

一人になると フランソワーズは改めて部屋を見回した。

貴賓室は凝った贅沢な設えで 壁にはゴブラン織りのタピスリーが、そして床には

毛足の長い絨毯が敷き詰められている。

「 ふうん ・・・ 地上のニンゲンはこういうお部屋で暮らしているのねえ ・・・ 

フランソワーズは ぷらぷら部屋の中を歩き窓辺までやってきた。

細かい綴れ織りのカーテンと紗とレースのカーテンを払い、窓を全部開けた。

「 ・・・ ああ いい気持ち 〜〜〜  海の香がするわ!  」

窓わくに腰をかけ、彼女は遠く ― 故郷に視線を飛ばす。

 

    あら ・・・ 波の音も聞こえる! そうよ 耳を澄ませば・・・・

 

すっかり暮れた空には白い月がゆっくりと登ってきた。

「 あれは ・・・ 確か 月。そうよね ・・・ こんなにはっきり見えるのねえ・・・

  カタン。  カーテンに触れてなにかが倒れた。

「 ?  あら ?  これはなにかしら ・・・ きれい・・・ 」

窓の側には 弦を張った金色の竪琴が置いてあった。

 

   ピィ −−−− ン     偶然白い指が弦を弾いた。

 

「 これ ・・・ 楽器 かしら?  ふうん? いろいろな音がする〜〜〜 」

 

 しゃら〜〜〜ん しゃら しゃら〜〜〜〜

 

しなやかな指が巧みに弦を弾き 軽やかな音を紡ぎ出す。

「 これ 陸の楽器なのね。 海のお家でも こうやってよく弾いたわ  ・・・・

 ちょっと手がイタイけど ・・・ ああ 本当に綺麗なお月さま 〜〜〜 」

 

 しゃら しゃら〜〜〜ん  しゃらり〜〜ん ・・

 

華麗なメロディが 遠く響く潮騒に重なって深く静かに、時には軽やかに流れてゆく。

その音に 中空の月も輝きを増してきた星々も踊りだしそうだ。

「 ・・・ お父様 ・・・ お兄さまがた ・・・ もうお休みになったかしら?

 ごめんなさい 勝手に飛び出してきてしまって ・・・ カメキチも・・・

 ああ 海に帰りたい ・・・・ 」

 

 ぽろん ぽろん ぽろぽろ・・・ 

 

碧い瞳から涙がこぼれ落ち それは彼女の白いドレスの上で真珠の玉となっていった。

「 ・・・ だめね、泣き虫は ・・・ わたし、ジョー様を追って どうしても

 どうしてもジョー様と一緒にいたくてここまで来たのですもの ・・・ 

 

  しゃり〜〜ん しゃらん しゃらん 〜〜〜

 

窓辺には竪琴を抱いた乙女の姿 ― そして風にのって流れる流麗な音楽 ・・・

その夜、王宮に住まう人々は皆 耳を傾け感歎の吐息をもらし至福の時をすごしたのだった。

 

「 ・・・ なんて柔らかい音なんだろう ・・・・ 」

ジョーも窓辺に張り付き カギの手になった来賓室の窓をみつめ耳を澄ませていた。

 

 

 

 サクサクサク ・・・・  サクサク ・・・

 

白い砂浜に二つの足跡が並んで続いてゆく。

「 ああ 気持ちがいい朝ですね〜〜  ふ〜〜〜 」

「 ・・・・ 」

ジョーは満面の笑みで 傍らの彼女に語りかける。

  ― ええ ほんとうに 

「 海は ― いいですね。  ぼく やっぱり海が好きだなあ  」

「 ・・・・ 」

  ― 嬉しいですわ ジョーさま

「 ね 王宮のお部屋はお気に召しましたか? 」

「 ・・・・ 」

< 海の姫君 > は にっこり微笑で やさしく頷く。

「 よかった・・・!  貴女をぼくの父上を始め、王宮の皆に正式に紹介します。

 あ ・・・ あの ・・・ ぼ ぼくの き 妃になる方 として 」

「 ・・・・ 」

「 あ  あの ・・・ 勝手に決めてしまって  怒ってる?? 」

「 ・・・・ 」

  ― いいえ とんでないですわ  嬉しい ・・・ 

「 え ほ ほ 本当に?? 」

「 ・・・・ 

白い手が きゅ・・・っとジョーの手を握った。

「 うわ〜〜〜 うわ〜〜〜〜 夢みたいだあ〜〜〜 」

「 ? ・・・ ! 」

ジョーは声をあげて喜ぶと 姫君をきゅう〜〜っと抱きしめた。

  ― きゃ ・・・ もう〜〜 子供みたいな方ね 

「 えへへ ・・・ あ そうだ! ジャンさんに紹介します!  

「 ・・・? 」

  ― ジャンさん ? 

「 うん ぼくの兄上のような方なんだ。 隣国の王子なのだけれどぼく達は

 ほ 本当なら兄弟になれるはずだったんだけど ・・・ 」

「 ・・・? 」

「 でもね、 とってもいい方なんだ。 きみのこともきっと気に入ってくれるよ!

 ジャンさんにも妃殿下が決まったら ― 4人で楽しくお付き合いできるね 」

「 ・・・・・ 」

姫君はにっこりと頷くと 波打ち際に近寄っていった。

「 どうしました?  ああ ・・・ 海と遊びたいのかな 

「 ・・・・ 」

  ― はい。  わたしの家族にも報告がしたいのです。

「 あ そうだよね!  ぼくもきみのご家族にお目にかかりたいなあ 」

「 ・・・・ 」

  ― まあ 嬉しい! 皆 きっと喜んでくれますわ。

    今 呼んでもかまいませんか? 

「 もちろんだよ! 」

「 ・・・・・ 」

   ― ありがとうございます。 ジョー様を家族に紹介したいのです。

「 うわ〜〜 ちょっと緊張するなあ 」

「 ・・・・ 」

  ― 大丈夫。    お兄さまがた 〜〜〜〜

彼女は 髪飾りから真珠を一粒取りぽ〜ん … と 海に放った。

「 ??? なにをしているのですか? 」

「 ・・・・ 」

ジョーは怪訝な面持ちだ。

すると ―

 

     ざわざわざわ 〜〜〜〜〜 ・・・・ ざ〜〜〜ん ・・・ !

 

穏やかだった海面が急に泡立ち始めた。

「 わ??  な なんなんだ ?? 」

 

     ズザザザザ〜〜〜〜   ざば〜〜ん 〜〜〜

 

大きな波、いや渦のような波が吹き上げてきて海面が一挙にせり上がった。

「 あ あぶない ! 」

ジョーは思わず 姫君を抱きしめた。

ところが 彼女は怯えるどころかにこにこして彼の手を押さえた。

 「 ・・・・・ 」

  ―  大丈夫ですわ。  ご覧ください、わたしの兄たちがやってきました。 

「 え??  ・・・  う わ  ・・・・ !! 」

 

  どどど〜〜 ざ〜〜〜〜ん ・・・ 波を割って凛々しい勇者たちが突如現れた。

 

「 !!?  う 海の中から  ヒト が ・・?? 」

ジョーは呆然と立ち尽くしてしまった ― しかしなぜか恐怖は少しも感じない。

「 ・・・・・・ 」

姫君は 満面の笑顔でじゃぶじゃぶと波打ち際に入っていった。

 

「 姫さま〜〜〜 !!  ご無事でなによりです! 」

勇者たちの先頭にいた小さな亀が 口をきいた。

「 わ!?  か カメがしゃべった??  」

「 ボクはカメキチ。  姫様の第一の従者だよ。

 ・・・ あんた ジョーさん でしょ。 ボクの母さんを助けてくれた人だよね?

 ありがとう。 」

「 母さん???  ・・・ あ!  あのカメ母さんのことかい?? 」

「 そうだよ。 でも そのことは別だから。 」

「 別?? 」

「 そ。 ここにいらっしゃるのは〜〜〜 海の王国の王子さま方さ。

 姫君の兄上様たちだ。 さあ 地上のニンゲン、 よく聞くがいい 」

ちっぽけなカメは そっくりかえってやたらに偉そうだ。

 

   ふふふ ・・・ なんか可笑しなカメだなあ〜〜

   あれ? 後ろの人たちも皆 笑ってるよ ・・・

 

   ・・・ なあんだ・・・そんなにおっかない人達 じゃないかも・・・

 

「 えっへん! え〜〜と ・・・ ここにいらっしゃるのは〜〜〜 えっと 」

「 もうよい、カメキチ。 ごくろう。 自己紹介する。 」

見事な銀髪の青年が ずい、と進みでてきた。

「 あ アルベルトさまぁ〜〜〜  」

「 ・・・! 」

姫君はす・・・っと彼に会釈をした。

「 このお転婆姫が。 ・・・ 無事でなによりだ 

「 ・・・・ 」

「 そこな地上のニンゲンよ。 我が名はアルベルト。 この姫の兄だ。 

 後ろに控えるのも皆 姫の兄達だ。 」

  ぎろり。  薄い水色の瞳が ぴたり、とジョーに当てられた。

「 あ  ・・・ ぼ ぼくは。 ジョー といいます。

 この王国の世継ぎの王子です。 」

「 ほう・・・?  姫は君に会いにゆく、と言って我らが海の王国を出ていったのだが 」

「 ぼくが! ぼくが姫君をご招待しました! 」

「 ・・・! 」

姫君は ぱっと顔を輝かせジョーの側に寄り添った。

「 君 が ? 」

「 は はい!  あの 今度、王宮で舞踏会を催します。

 その ・・・ ぼくの妃を決めるための催しなんですが ― そこでぼくは 

 姫君を いえ 妹姫様を 妃にする、と宣言します! 

「 ほう ・・・ それは ― 誓って本心だな? 

「 はいっ !  この天と大海原に誓って ! 」

「 はあ〜〜〜ん ・・・? 

後ろから スキン・ヘッドの勇者が出てきて、ジョーをまじまじと見つめる。

「 言葉とはまことに移ろいやすいもの ・・・ 汝の今の言の葉、きっと確かかね? 」

「 はいっ ! 

「 吾輩は グレート。 汝、その言葉違えたならば ― 汝の舌を引き抜く! 」

「 ・・・ ぼ ぼくは! ウソなど言いません。 」

「 はあ〜〜ん なかなかの心根であるな。 」

「 兄上達。 ともかく、ですね。 」

黒い精悍な面持ちの青年が 冷静に口を開く。

「 僕達の妹姫を きっと泣かせはしない、と誓ってくれるかい  君 ? 」

 

   ざざざ  −−−−−    6人の勇者たちがぎッとジョーを睨みつける。

 

「 ! ・・・ は はい。 ここで誓います。

  ぼくは 決して 決して 姫君を不幸にはしませんっ。 一生 護りぬきます! 

 

ざざざ〜〜〜〜〜  海面がまた泡立ち波立つ。

「 ほんとうだな〜〜〜〜 」

「 その誓い、決して違えまいぞ 」

「 てめェ〜〜〜 わかってんな! 」

「 契約を履行してほしいな。 」

「 ・・・ お前の誠実さ 信じる 

「 ウソつき、閻魔はんに舌 抜かれるでぇ 

 

 どど〜〜〜ん ・・・ !  勇者たちの熱く厳しい想いがどっとジョーに降りかかる。

 

「 ・・・ う ・・・ ! 」

 

   な なんだ???  弓矢で射られたわけでも剣で切られたのでもないのに

   こ  この 痛み  は !?

 

ジョーは きゅっと我が胸を掴んだ。

 

   ・・・ ああ  そうか。

   皆の 兄上達皆の心が ぼくの心を打っているんだ ・・・

 

「 ・・・・ 」

喘いでいるジョーの傍らで 姫君がそっと手を胸に当ててくれた。

「 ?  ・・・・ あ  ああ 〜〜〜  な なんだか ・・・ 」

 

  すう〜〜〜・・・・  痛いほどの重圧は突然温かいモノに変わった。

 

「 姫君 ・・・ あなたの心がぼくを包んでくれたのですね ・・・  」

「 ・・・・・ 」

  ―  はい。

「 ありがとう。 でも これは、ぼくが男としてはっきりさせねばならないことです。

 海の王国の勇者にして姫君の兄上殿がた ― 」

ジョーは すっくと背筋を伸ばし立ち、海に向かった。

 

    「  ぼく には。 この姫君だけ  です 」

 

「 わ〜〜〜〜〜〜い ありがと〜〜〜  ジョーさま〜〜〜〜 」

小さな亀が甲高い声を上げて辺りを転げまわる。

「 ―  感謝する。 

 

   どどどど 〜〜〜〜 ・・・・ ざば〜〜〜〜ん ・・・・ !

 

勇者たちは温かい眼差しでジョーを見つめると 再び大海原へと消えていった。

 

「 ・・・ あっは ・・・・ お 驚いた ・・・ 」

ジョーは 気が抜けたのか、すとん、と浜辺に腰を落としてしまった。

「 ・・・・ 」

  ―  大丈夫ですか ・・・ 

「 あ ごめん・・・ だらしないよね ・・・  

「 ・・・・ 」

  ―  いいえ 当然ですわ。 兄上達ったら〜〜〜

「 いい兄上達だよ、皆 貴女のことをとってもとっても大切に思っているんだもの。

 ・・・ さあ 王宮に戻りましょう 」

ジョーは きゅっと姫君の手を握った。

「 ・・・・ 」

  ― ジョーさま。 一旦 海の実家に戻りとうございます。

    最高の準備をして 舞踏会に伺いますわ

「 そんな ・・・ なにも特別なことは必要ありません。 

 貴女がそのまま その麗しいお姿でお越しくださればいいのです。 」

  ― ありがとうございます。 でも 愛する方のために

    最高の装いをしたい・・・女心をお察しくださませ。

「 あ !  そ そうですね ・・・・ 

 それじゃ!  ・・・ ほら これ! この紋章入りの招待状をお渡ししますから。

 これを持って どうぞどうぞお越しください。 」

「 ・・・・ 

  こっくん。   姫君は深く 深く 頷いた。

 

  ―  そして 

 

「 姫さまあ〜〜〜〜  さあ 帰りましょう〜〜〜〜 」

小さなカメに付き添われ 姫君はあっと言う間に波間に消えてしまった。

 

「 姫君 ・・・   姫君 〜〜〜〜〜〜〜  」

 

ジョーは寄せては返す海原を じっと見つめていた。

 

 

 

 ― その頃。 黒い森の洞窟では。

「  ぐふふふふ〜〜〜〜〜  ぐふふふ 〜〜〜  千載一遇の好機じゃあ〜〜 」

黒い魔女 ― 黒い髑髏オトコが陰気な笑い声を上げていた。

「  ぐはははは〜〜〜〜〜 さあ 生出よ〜〜〜 影姫〜〜〜 紫姫 よ!

  地上にゆき あのボンボン王子を虜にするのだあ〜〜〜〜 」

 

  しゅわわわわ ・・・・  

 

黒い大鍋から零れ出たうす紫の煙は次第に人型をとり始め

 

             やがて  美貌の姫君  となった。

 

 

 

Last updated : 11,17,2015.              back      /     index    /     next

 

 

 

********   途中ですが

え〜〜〜 いよいよあの方?の登場です〜〜

で あと一回!  続きますです〜〜〜

ああ もうなにがなんだか ・・・ (@_@)