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『 海の詩 ( うた ) ― (2) ― 』
ぱっしゃん ・・・ ぱしゃ ・・・
「 あ いっけね〜〜 勿体ないことしちゃったなあ 」
ジョーは 慌てて両手で大きな樽を抑えた。
「 ふう ・・・ いっぱいに海水を詰め込んできたから 仕方ないけど 〜〜
う〜〜 頑張れジョー〜〜〜 あと少し! 」
彼はきゅっと口を結ぶと 荷車の長柄を引いた。
「 若さま〜〜〜 そんなこと、下僕にお任せくださいまし〜〜 」
後ろでは ころころ太った女官が半ベソになりつつうろうろ着いてきている。
「 いいんだってば メイ夫人。 これは ぼくがやりたいんだ。
いや これはぼくの仕事なんだから 」
「 お仕事?? 若様の、ですか?? 」
「 そうだよ〜 ぼくにしかできない仕事さ。
あ ごめん〜〜 廊下に海水を零しちゃった ・・・ ごめんね。 」
「 え ごめん だなんて〜〜〜 勿体ない〜〜 水なんて拭けばそれでよいのでございますよ
でも ・・・ 海水 ですか 」
「 ウン。 今日の舟遊びで沖から汲んできたんだ。 新鮮で透明な海の水さ。 」
「 はあ ・・・ でもそれを ・・・ どうなさいますのですか 」
「 あ これはね カメの母さん へのお土産なんだ。 」
「 かめのかあさん でございますか? 」
「 ウン。 ほら・・・ 夏にさ、海岸で怪我しているカメを保護しただろう?
あのカメ、産卵の後だったんだ 」
「 まあ〜〜 」
「 鰭に怪我してさ なかなか進めないでいたんだ。 それで連れて帰ってきて・・・
侍医にさ いろいろ聞いて手当てしてやったらすっかり治って元気になったよ。
そろそろ海に帰してやろうかなあと思ってさ。 」
「 まあ そうだったのですか 若さまはおやさしいこと
でもですね、動物ですから放っておいても治るんじゃありません? 」
「 だって! 可哀想じゃないか きっと家族もあるんだよ?
ちゃんと手当てして故郷に帰すよ。
」
「 まあまあ ・・・ シアワセな亀ですこと ・・・ 」
「 ― なんかさ ・・・ ほっとするんだ〜 亀の母さんを見てると さ。 」
池に行ってくるね、 と ジョー王子はごろごろと荷車を引っ張っていった。
「 行ってらっしゃいませ。 ・・・ ホント、変わったご趣味だこと ・・・ 」
乳母の君は こっそりため息をつき王子を見送った。
ゴロゴロゴロ ・・・ 荷車はやっと池の側にやってきた。
大理石でできた優美な池は無粋な板で半分に仕切られている。
片方には色とりどりの小魚が泳ぎ 小さな噴水も設えてあり 他方には大きな亀が
岩の上で甲羅干しをしていた。
「 あ カメ母さん〜〜 昼寝中かなあ? 海の水、もってきたよ〜〜 」
ジョーは小さな子供みたいに 熱心に池の亀に話しかける。
「 やっぱりホンモノがいいだろう? これ・・・ 君が住んでいた海の水だぜ? 」
よ・・・いしょ。 彼は樽を傾け、湛えていた海水を池に流し込む。
ザ −−− ・・・ カメは最初少し驚いた風だったが すぐにドボンと
飛び込んだ。
「 あ〜〜 気持ちいいかな〜〜 ・・・ ねえ カメ母さん。 」
亀はジョーの方にゆっくりと首を伸ばした。
「 なあ やっぱり・・・ 海に帰りたい かい? 」
「 ・・・・・ 」
シワが深い、でも大きな目がじっとジョーを見つめている。
「 カメ母さん ・・・ 母さんの目、ぼくは大好きさ。
辛いことやイヤなことがあっても 母さんがそうやって見つめてくれると ・・・
ぼく、元気が出てくるんだ。 ホントはずっと 側に居てほしいんだけど 」
カメの目はうるうると涙が溢れてきた ・・・ ようにジョーには見えた。
「 ごめん ・・・ やっぱり故郷がいいよね!
鰭の傷も治ったし
…
海に 返すよ。 今度の満月の夜 はどうかな 」
「 ・・・・・ 」
潤んだ優しい瞳が ジョーを見つめる。
「 えへ ・・・ 母さん、賛成してくれるね? きっとさ 家族が待ってるよ 」
「 ・・・・・・ 」
ぱしゃり。 カメは新鮮な海水を飛ばして泳ぎ始めた。
「 へえ・・・ 上手だねぇ〜〜 ああ ぼくも海に入ってみたくなったな ・・・
もうずっと小さな頃に泳いだきりなんだ。
― ずっと 海はキライだった・・・けど ・・・ でも カメ母さんがいるって
思えば 好きになれるさ きっと ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
カメは岩場にヒレを掛けると またジョーを振り返る。
「 ああ 気持ちよかったんだね? よかった〜〜〜
それじゃ 満月の夜に! えへへ・・・母さんとぼくだけの約束だよ?
夜にこっそり出掛けよう。 う〜〜ん この荷車だと音がするから ・・・
そうだ! 馬で行こう! ぼくの愛馬のセレに頼んでみるね! 」
「 ・・・・・・ 」
ぱしゃり。 カメはまた水の中に入るとのんびりと泳ぎ出した。
「 よ〜し。 へへへ なんだかワクワクしてきたなあ〜〜
満月の夜なら 海も明るいよね。 ・・・ちっちゃな姫も見ているかなあ
」
ジョーは やっぱり少し藍色な吐息をもらし、宮殿に戻っていった。
ぱしゃ ぱしゃ〜ん。 海カメはじっと彼の後ろ姿を見ていた。
ギ ・・・ ギ ・・・・ 小舟がゆらゆら〜〜 進んでゆく。
「 ふう ・・・ この辺りまでくればかなり深いよなあ ・・・ うん ・・・
ねえ カメ母さん、家に帰れるかい? 」
ジョーは櫂を漕ぐ手を止め、足元の亀に話しかける。
「 ・・・・ 」
相変わらずシワの中の瞳はうるうると彼を見上げてくる。
「 そうかい? はあ〜〜・・・ ここまで来るのって結構大変だったんだよ〜〜
ばあやや侍従長がさ 見回りしているんだもの。 」
よい …しょ・・・。 彼は亀を抱え上げ 船端に連れていった。
「 さ ここからなら帰れる ね? 道、わかるよね? あ 道っていうのかな?
カメ母さん ありがとう ・・・ 宮殿に帰ってきても母さんが待っててくれるって
とっても嬉しかったんだ ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
亀は大きな瞳でじ〜〜〜っとジョーを見つめている。
「 もう会えないのは とっても淋しいけど ・・・ カメ母さん 元気でね! 」
ざ・・・ぶ〜〜ん ・・・ す〜〜〜い〜〜〜
海に入ると亀はしばらくジョーの方を見上げていたが やがてす・・・っと海中に潜っていった。
「 ・・・さよ なら ・・・ 家族がさ 待ってるよ ・・ きっと ね。 」
スン。 ちょっとだけ涙とハナミズを 彼は払い除けた。
「 さ〜〜 見つからないうち帰らないと〜〜 大変だよ せ〜〜のっ ! 」
ジョーは 櫂を握ると懸命に漕ぎ始めた。
くゆ〜〜〜ん くゆん くゆん ・・・
夜の海は 穏やかに潮が満ちてきていた。
今晩 < 上 > は いつにも増して明るくて 皆が眠る時刻になってもほんわりと
穏やかな光が降り注いでくる。
くる〜〜ん ・・・ フランソワーズは大きく腕で水をかいた。
「 ! あ! ねえ なにか 誰か 降りてくるわ! 」
「 はい! あ! あれは ・・・!!! 」
「 え?? ど どうしたの〜〜〜 カメキチ〜〜〜 」
いつだって彼女の側に着いているチビの亀が 急上昇していった。
「 ねえ! あぶないわ〜〜 どうしたの〜〜 」
「 あ あれは あれは ・・・ ― かあさんっ ! 」
「 え? な なんですって?? 」
彼女もあわててカメキチの後を追い 上ってゆく。
くるん くるん〜〜〜 大きな亀がゆっくりと降りてきた。
しゅば〜〜〜 小さな亀は必死で水をかいて上昇してゆく。
「 か 母さんっ !!! 」
「 ・・・? ま まあ〜〜〜 お前は ・・・ カメキチ? 」
「 母さん〜〜〜 僕の母さんだ〜〜〜 わ〜〜 」
「 まあ まあ カメキチ・・・ お前 ・・・ 」
「 か〜〜さ〜〜〜ん 〜〜〜 」
「 カメキチや・・ 」
親子の亀は鼻づらをこすり合わせ再開を喜こぶ。
「 カメキチ ・・・ お母さんと会えてよかったわねえ 」
「 は はい 姫さま〜〜〜 」
「 まあ まあ フランソワーズ姫さま・・・ これは失礼をいたしました。 」
カメキチの母は 丁寧に姫君に挨拶をした。
「 カメキチのお母さん。 どこにいらしたの? ・・・ < 上 > ですか? 」
「 はい。 ワタクシは産卵に < 上 > の砂浜に登ったときに ・・・
砂浜に捨ててあったモノでヒレを怪我してしまい、動けなくなりました。
陽が昇ってきて・・・ もうダメだ、と死を覚悟したときに あの御方が
いらして ― 助けてくださったのです。 」
「 あの御方 ? 」
「 はい。 < 上 > に住まうニンゲン・・ そこにも王国がありまして、
他のモノは彼のことを ジョー王子様 と呼んでいました。 」
「 王子さまなの?? 」
「 とても優しい方でした。 ワタシを宮殿の池まで運んでくださって ・・・
傷めてしまったヒレを治療してくださいました。 」
「 母さん! よかったねえ〜〜 」
「 カメキチ! 姫様の前ですよ。 ワタシはずっとその池で暮らしていたのですが
故郷に帰りたいだろう・・・って その王子様が ・・・ 」
「 まあ〜〜 じゃあ あの小さなフネでアナタを連れてきてくれた方が ? 」
「 はい ジョー王子様です。 」
「 本当?? ね! ちょっと待っていてね〜〜〜 」
「 あ ・・・ 姫様〜〜〜 」
「 母さん。 姫様はとても速く泳げるから追いつくのは大変なんだ。
ここでお待ちしていようよ? 」
「 だってお前・・・・ カメキチは姫様にお仕えしているのでしょう?
いつだってお側に控えていなければダメですよ ほら 行きなさい! 」
「 え でも 母さんは・・・ 」
「 ワタシはここで待ってますよ、 安心なさい。 」
「 う うん ・・・ 姫さまあ〜〜〜〜
」
小さな亀は 猛ダッシュで姫君に後を追い始めた。
きゅる きゅる すい〜〜〜〜 すい〜〜〜〜
フランソワーズは脚の銀色の尾鰭を上手に使い どんどん小舟に接近していった。
「 ・・・ もうちょっと ね。 あら? ふねの速さが鈍ったわね?
あ〜〜 ・・・・ ふふふ ・・・お疲れかしら じょー王子さま 」
ぱしゃり。 彼女はそう・・っと小舟の側まで寄っていった。
「 ・・・ ふう〜〜〜 あと 少し・・・ えい・・・! 」
パシャ ・・・ パシャ ・・・ オールは結構頑張っているのだが
小舟はのろのろとしか進まない。
「 う〜〜〜 ここならもう海に入っちゃっても大丈夫かなあ〜〜 」
ジョーは漕ぐ手を止めて左右の海を眺める。
「 ・・・ よし ・・・ ! 」
その時。
「 お〜〜〜い ・・・! そこにいるのは ジョーだろう?? 」
海岸から力強い声が 響いてきた。
「 !? あ ・・・ ジャンさん! ジャンさ〜〜ん!!
」
ジョーは大声で返事をし 船底に置いたランプを振った。
「 やはりな。 もうちょっとだ〜〜 頑張って漕いでこいよ〜〜
そこはまだ深いぞ、舟から出るな〜〜
」
「 あ はい〜〜 よ〜〜し ・・ うん しょ! えい えい ・・・ あ あれ??」
今まで遅々として進まなかった小舟が すう〜〜っと動きだした。
「 わ♪ 潮の流れかなあ〜〜 とにかく〜〜 感謝! このまま〜〜 えい えい! 」
ぱしゃ ぱしゃ ・・・ ぱしゃり ・・・
小舟はようやっと勢いが付いてやっとのことで浅瀬へと進んでゆくのだった。
ず・・・ ばしゃ ばしゃ・・・
「 ほら ・・・ 舫綱を投げるぞ〜〜 」
「 ありがとうございます。 ・・・ よ・・・いしょ・・・! 」
ジョーはようよう小舟を海岸に突きでた小さな堤防に着けることができた。
「 ふう〜〜〜 ・・・ 」
「 よ・・・っと。 しっかり舫ったぞ、ほら上がってこい。 」
「 ありがとうございます ジャンさん〜〜 」
ランプを持って 彼はやっと上陸した。
「 ・・・ は〜〜〜〜 やっぱ ちょっと・・・きっつぅ〜〜 ふう〜〜 」
「 ああ おおいに無謀だったな、ジョー王子。
」
「 えへへ ジャンさん ・・・ 」
「 あは ・・・ 俺が夜釣りに誘ったってことにしておこう。 」
「 え ・・・ 」
「 疲れたろ? ちょいと気付け薬の代わりだ。 あ・・・ 中身はラム酒だからな 」
堤防では ジャンが苦笑いをしつつ、ワインの瓶を渡してくれた。
「 うは♪ じゃ ちょっとだけ・・・ ・・・ う〜〜〜〜 ま〜〜〜! 」
「 ははは ・・・・ で 首尾は? 」
「 はい。 無事にあのカメを故郷へ返してやれました。 」
「 そうか それはよかった
」
「 はい! ・・・ でも ジャンさん、どうしてわかったんですか?
ぼく ・・・ 誰にも言わずにそっと宮殿を抜け出してきたのに 」
「 ふふん・・・ お前、馬を引きだしていっただろう?
夜に蹄の音は結構響くもんだ。 」
「 あ ・・・ じゃあ 侍従長にも 」
「 ああ。 安心しろよ、俺が誘ったと言っておいたから。 」
「 ありがとうございます ! 」
「 俺もなんとなく目が冴えてしまってなあ。夜の遠乗りにでもゆくのかな、と月を
眺めていたら ― ジョーが見えた。 池でごそごそやっててどうしたのか・・・と
見ていたらなにか大きな荷物を抱えてたな。 」
「 え えへへ ・・・ 」
「 あのカメ ― 喜んでいるさ 」
「 そうですよね。 ・・・ 夜の海って 案外穏やかなんですね 」
ジョーは ふ・・・っと視線を海面に転じた。
今宵は満月 ― 暗いはずの水面はきらきらと月の光を写している。
「 ずっと 海って ・・・ 嫌っていたけど ・・・ ぼく
」
「 ― ああ 」
ジャンも水面も遠くに視線を投げる。
「 海は ・・・ そんなに悪いヤツじゃないよ な? 」
「 なんか ・・・ 小さい姫が教えてくれたのかもしれません。 」
「 ああ ・・・ ファン ・・・ ありがとう。 さあ そろそろ戻ろう。
俺も馬で来たから夜の遠乗りだ。 」
「 そうですね。 おやすみ、小さい姫・・・ 」
二人は振り返ると 月の光を浮かべている海に微笑を送り去って行った。
「 す ・・・てき・・・!!! 」
くゆ〜〜ん くゆん くゆん〜〜〜
金色に見える波間から 金の髪がゆらゆら揺れている。
「 あの方 〜〜 台地の色の髪と瞳の方〜〜 なんてステキなの〜〜 」
ぱしゃり。 銀の尾鰭が海面を叩いた。
― 地上の人には それはただ海が揺れただけ、と見えただろう・・・
「 じょーさま・・・ ! お会いしたいわあ ・・・・ 」
「 姫さま〜〜〜 もう帰りましょうよ〜〜 」
フランソワーズの側で さっきからずっと甲高い声が聞こえている。
「 ・・ ちょっと静かにしててよ カメキチ 」
「 い〜え! 静かにしません。 こんなに < 上 > の近くまで来ちゃ 危ないです!
お父上の国王様や兄君がたからもしかられます〜〜〜 」
「 それは お前が黙っていてくれればいいのよ 」
「 そんな〜〜 姫さまあ〜〜〜 」
くりゅ〜〜ん ・・・ 大きな亀が寄ってきた。
「 あ 母さんっ 」
「 はい お邪魔しますよ〜〜 姫君〜〜 」
「 あら ・・・ カメキチのお母さんね? ね! < 上 > はどうだった?
あなたは < 上 > で暮らしていたのでしょう? 」
「 はい。 < 上 > に住むニンゲンたちは 全部が全部、悪い奴らでは
ございませんですよ。 ワタシ達とも仲良くなれそうな方だっています。 」
「 そう ・・・ そうなのね! ・・・ 優しい眼をした方だったわ・・・・ 」
姫君は ほう〜〜〜・・・っと熱い視線を上に向けている。
「 ですが − 姫様。 残忍で酷い仕打ちをするニンゲンがいることも確かです。
ワタシは 運よく親切な御方に助けてもらえましたが ・・・ 中には < 上 > で
命を落としてしまった仲間たちもたくさんおりますです。 」
「 そ そう ・・・ 」
「 ね! 母さん〜〜 < 上 > は危ないよね〜〜
さあ 姫様〜〜〜 皆で早く宮に戻りましょうよう〜〜 」
「 ちょっと待ってよ、カメキチ ・・・
ねえ お母さん。 あの方 ・・・ アナタを助けてくれた方が王子様なの? 」
「 はい。ジョー様 ・・・ いえ ジョー王子様です。
< 上 > のこの辺りを支配する王国の跡継ぎの王子様でございますです。 」
「 まあ〜〜 ジョーさま っておっしゃるのね ? 」
「 はい とても優しくてワタシら他の生き物にも惜しみない愛情を注いでくださる方
でしたよ。 ちょっとお淋しい雰囲気の方でしたけれどね 」
「 はあ ・・・ ステキねえ 〜〜〜 」
「 ですが! お気を付けくださいまし。 あの御方はいい方でも周囲の者には
注意を払わねばなりませんです。 」
「 う〜〜ん ・・・・ 」
< 上 > に行ってみたい、なんて言ったら ・・・
カメキチのお母さん、腰を抜かすかしら。
そうねえ〜 お父様も 兄様かたも 大変なお怒り
きっと わたし、一人で外に出してもらえなくなっちゃうかも〜〜
フランソワーズはしばらく黙っていたが 渋々頷いた。
「 わかったわ。 < 上 > に近づくのは やめます。 」
「 さすが〜〜 姫様〜〜〜 ねえ 帰りましょうってば〜〜 」
「 カメキチ。 ちょっと黙っていておくれ。 」
母さんカメは 姫君をまっすぐに見つめた。
「 姫様。 あなた様は < 上 > についてきちんと学んでおかねばなりませんよ
特に あなた様は ・・・ 」
「 ?? なあぜ。 近寄ってはいけないのでしょう? 」
「 なぜでも・・・です。 ワタシはお父上がこの国に婿入りなさる前から
ず〜〜〜っと王国におりますですから ― なんでも知っておりますです はい 」
「 ??? よく わからない けど ・・・ 」
「 さあ〜〜〜 帰りましょうよう〜〜〜
お〜〜〜い 皆 〜〜〜〜 ボクの母さんが 帰ってきたんだ〜〜〜〜い♪ 」
カメキチは先頭を切って 海の底の王国へと泳いでいった。
ざわざわざわ きゅるきゅるきゅる〜〜
海の底の住人たちは ちょっとしたお祭騒ぎだった。
「 あら〜〜 賑やかねえ ・・・ 」
姫君は宮の窓から珊瑚の林を眺めている。
「 姫さま〜〜〜 皆がね、お祝いだ〜〜って喜んでくれてるんです〜〜 」
カメキチが珊瑚の間を縫ってしゅっと泳いできて報告をした。
「 あら カメキチ。 そうなの、よかったわねえ〜 」
「 はい! 母さんも古い友達に会えて喜んでいます。
あ そうだ〜〜 国王陛下にもご挨拶に伺いますって。 」
「 そうなの? ありがとう。 お父様にお話しておくわね。 」
「 姫さま〜 ありがとうございます〜〜 」
「 うふふ・・・ お母さんの側にいたいのじゃないの、カメキチ 」
「 え えへへへ ・・・ 」
「 ・・・ いいわねえ〜 カメキチ。 わたし お母様のこと、覚えていないもの。 」
「 姫様・・・ 」
「 絵姿を拝見するだけだわ。 わたしと同じ金の髪で碧い瞳でいらっしゃるけど 」
「 ボクも王妃様のことは知らないです。 あ 母さんに聞いてみますね! 」
「 ええ ええ カメキチのお母さんならいろいろなことを知っているわよね。
あ わたしの小さな頃こととか・・・聞きたいわ。 」
「 はい! 聞いてみますね。 」
コンコン ― 姫君の部屋の扉でノックの音がする。
「 姫様 ・・・ 失礼いたします 」
「 メイ夫人? どうぞ〜〜 」
「 お父上さまがお呼びでいらっしゃいます。 陛下のお居間へどうぞ。 」
「 お父様が? わかったわ、今 支度するわ。 」
フランソワーズは 奥に入り鏡に向かって金色の髪をなでつけた。
「 えっと ・・・ この服でもいいわよねえ〜〜 なんの御用かしら・・・
あ そうだ。 カメキチのお母さんのこともお父様に報告しなくちゃね。 」
「 お供いたします、姫さま。 」
「 ありがとう メイ夫人。 」
姫君は侍女を供に 国王の居間へと向かった。
「 え ??? 婚約者 ですってぇ?? 」
ほんの数分後 豪華な居間からは姫君の素っ頓狂な声が響いてきた ・・・ !
Last updated : 10,27,2015. back / index / next
******** 途中ですが
す すみませぬ〜〜〜 日本シリーズ見てて ・・・
またまた続きますです〜〜 <m(__)m>