『 海の詩 ( うた ) ― (1) ― 』
****** メルヘン・パロディ です、苦手な方、ご注意を! ******
くる〜〜〜ん ・・・ くるん くるん ・・・
今日も 彼女の周りの大きな水はゆったりとそして穏やかに揺れている。
「 ふう ・・・ん ・・・ 」
娘は豊かな髪を周囲に漂わせつつ < 上 > を 仰ぎみた。
彼女の ― ずっとずっとず〜〜〜っと 上 は いつだって明るい。
暮らしている世界が眠りに入る時も < 上 > からは ほのかに煌めきが見える。
そしてそれは いつだって魅惑的に微笑みかけるのだ。
「 ― 決めた。 わたし、どうしても 行くわ! 」
くゆん 〜〜 くゆん・・・ 水がゆれる。
「 だって。 お父様や兄さま達だって ・・・ 行ったことがあるから
あんなことが言えるのでしょう? だったら。
わたし。 わたし自身の目で見て確かめたいわ!
」
彼女の父や兄たちは いつもいつも言っている。
< 上 > は 危険だ と。 そこに棲むモノは 残酷で凶暴だ、と。
特にお前のような若い娘は 浚われてしまうから大層危険なのだ と。
だから 決して近づいてはいけない ― と固く固く戒めるのだ。
「 フランソワーズ。そなたにはこんなに広い王国があるではないか。
友もたくさんおる。 そなたに仕えるものたちもいる。
冒険がしたいのならば 兄たちと王国のすみずみまで行ってみるがよい。 」
この地を統べる父は 白い髭をゆらしつつ言う。
偉大なる王にして 厳しくも慈悲深いギルモアはいつも愛娘には優しい。
しかし < 上 > に関しては断固とした態度を取る。
「 お父様 ・・・ でも ね! わたしは 〜〜 」
「 いずれ北の国から婿を迎えて そなたと共にこの王国を治めてほしい。
そのために王国を知ることは必要じゃぞ。 」
「 え 〜〜 でも 兄さま達がいらっしゃるわ 」
「 兄たちはそれぞれ外国 ( とつくに ) から 是非、跡取り姫の婿に、と
望まれておるのじゃ。 そなたも知っておるじゃろう? 」
「 ― はい 父様。 」
彼女たちが暮らす地では < 婿取り > が習慣なのだ。
所領は原則、娘が継いでゆく。
彼女には六人の兄がいるのだか 皆すでに婿入りしていたり、婚約が調ったりしている。
二の兄は 病弱な姫を助けるべく北の国へ 四の兄は 西のヒルダ姫の国へ、
五の兄は 海の社を統べる国の巫女姫の元 へ、 そして
六の兄は海の生き物を司る国へ
七の兄はセイレーンの精を統べる国へ そして
八の兄は暖かい南の大国へ
― それぞれが赴くことになっている。
この地を治める彼らの父王も元々は他国から亡き母の元へ婿入りしてきたのだ。
「 それならばそなたの使命もわかっておるじゃろう? 」
「 でも わたし。 いろいろな世界を見てみたいの、おとうさま! 」
「 危ないことは許さん。 ワシが言いたいのはそれだけだ。 」
父王は きっぱりと言い切ると政務室に入ってしまった。
「 あ〜〜 お父様〜〜 ・・・ もう ・・・! 」
閉まった大きなドアの前で 彼女はぷ・・・っと頬を膨らませる。
「 危ないかどうか は ― わたし が自分で決めるわ! 」
姫君は金色の髪をゆらし 宮殿から出てゆく。
ぱしゃり。 彼女のほっそりとした銀の尾鰭がたゆたう水を打った。
この国の人々は 脚に立派な銀の尾鰭が生えているのだ。
その鰭を使い、彼らは素早くそして優雅に泳ぐことができる。
「 あ 姫様〜〜 どこへ?? 」
乳母の君があわてて声をかけてきた。
「 ちょっと・・・お散歩よ 」
「 それでは ばあやがお供を 」
「 いいの、一人で行きたいの。 大丈夫、 危ないことなんかしないから
」
「 本当でございますか 姫さま〜〜 」
「 わたし、ウソはつきません。 ばあやはのんびりお昼寝でもしていたらいいわ 」
じゃあね・・・と 姫君は金の髪を揺らしつつ流れに乗っていってしまった。
「 あ〜〜 姫様〜〜〜 ・・・ っとにお転婆なんだから〜〜〜 」
「 乳母様〜〜 ボクがお供しますぅ〜〜〜 」
甲高い声をあげて 小さな姿が彼女の後を追っていった。
「 あ〜〜〜〜 カメキチ〜〜 頼みましたよ〜〜〜 」
乳母の君は 声を張り上げたが ― 聞こえたかどうだか。
ふうう 〜〜〜 ほっんとに困ったモンだわ ・・・
「 乳母の君 どうなさったの? 」
同年輩の女性がふゆ〜ん・・・と寄ってきた。
「 え? ああ ・・ 女官長さん ・・・ いえね ウチのお転婆姫様がまた
一人でふわふわ〜〜〜 外出なさっちゃったので 」
「 ・・・ フランソワーズ姫様は < 上 > がお好きよねえ・・・
やはりご出自が ・・・ 」
「 しぃ〜〜〜! それを口にしてはダメよ!
姫様はなにもご存じないんだから。姫様はこの国王陛下のただおお一人のお嬢様です! 」
「 ・・・ そうね ・・・ ああ そうよねえ 」
「 そうですとも。 」
「 だからこそ! あのお転婆はもうおつつしみ頂かなければ ・・・ 」
「 お転婆? そうですねえ〜 でも来月にでも婿君になられる王子様が
ご訪問になりますから 忙しくてそれどころじゃなくなりますよ。 」
「 ・・・ だといいんですけど・・・ 早く姫様の婿取りが決まるといいですねえ 」
「 本当に ・・・ そうすれば国王陛下もご安心なさいますよ 」
「 ほんにねえ ・・・ 」
中年の女性達は溜息をながしつつ ほわ〜〜んと明るい < 上 > を見上げていた。
くゆ〜〜ん ・・・ くゆん くゆん 〜〜
白い腕が水を掻き分けてゆく。
「 ふう ・・・ ああ いい気持ち。 周りがどんどん温かくなってきたわ♪ 」
「 姫君〜〜 まだもっと上までゆくのですか? ハア ・・・ 」
必死で付いてきている小さい姿は もう息も絶え絶えだ。
「 あら カメキチ・・・ うん、もうアナタはお帰りなさい?
これ以上 < 上 > は 苦しいでしょう? 」
「 い いえ! ボクたち一族は < 上 > でも生きてゆけます! 」
「 そう? でもそれは・・・ もっと大きくなってから、じゃないの?
わたしは大丈夫よ、ほら お帰りなさいな。 」
「 い いいえ! ボクも だ 大丈夫です! 」
「 そう? ほら ・・・ 」
姫君はスピードを落とし、小さな友達に手を差し伸べた。
「 ああ ・・・ ふう〜〜〜 この位のスピードなら ・・・ 楽になりました・・・ 」
カメキチは ほわ〜〜ん と水に漂いつつ に・・・・っと笑顔を見せた。
「 それなら・・・ いいけど。 ねえ カメキチは < 上 > に行って
< 外 > に出たことがあるの?
」
「 いいえ。 ボクはまだ・・・ でも ボクの母さんは産卵のために
< 上 > の < 外 > までゆくんです。 」
「 そうよねえ ・・・ すごいわあ〜 」
「 それで ・・・ 帰ってこなかったんだ ・・・ ケド。 」
「 ・・・ ごめんなさい、カメキチ 」
フランソワーズは カメキチの背をそっとなでた。
「 あ 姫さま・・・ そんなもったいないです〜〜 」
「 だってカメキチはわたしのトモダチでしょ? 」
「 はい! それで ボクは姫様の親衛隊です! 」
「 うふふ・・・ それじゃゆっくり行きましょうね。
ほうら どんどん明るくなってきたわ! 明るいわねえ 〜〜 」
「 姫様! ぼ ボクが先に行きますから! 」
「 はいはい 」
カメキチは用心深く周囲を見回しつつ < 上 > をめざす。
ぱしゃん ・・・・ ぱちゃ ぱちゃ ・・・
二人は海面から半分顔をだした。
「 ・・・ ふう〜〜 姫さま〜〜 大丈夫ですかあ〜 」
「 ふ・・・ う 〜〜 え ええ ・・ うわあ〜〜〜 すごい〜〜 」
「 夜 が近いのかなあ? あ 天気が悪いのかあ 」
「 てんき ってなあに、カメキチ。 」
「 え〜と ・・・ お日様が顔をだすかどうかってことです、姫様。
ほら・・・ 雲の間から少しだけ見えます 」
「 ふうん ・・・ あ! あれは ふね ね? 」
「 あぶないです〜〜〜姫様〜〜 そんなに近くまで行っちゃだめです〜〜〜 」
「 平気よ ! わあ〜〜 大きな船ねえ ・・・ あら? 」
すう〜〜〜・・・・ フランソワーズは静かに近づいていった。
ぱっしゃん ぱっしゃん 海面は穏やかにたゆたっている。
帆船 ・ どるふぃん は白い帆を半分だけ上げてゆっくり進んでゆく。
船員たちものんびりと甲板を行き来している。
「 ・・・ ふう ・・・ 静かな海だな ・・・ 」
青年は 舳先に近いデッキからぼ〜〜っと海面を眺めている。
さら ・・・ さらさら ・・・ 海風が彼の茶色の髪を揺らしゆく。
「 今は穏やかな顔しているが ふん、信用なんかするもんか! 」
ぱしゃん ・・・ ! 彼は手にしていた小石を投げ込んだ。
いて! なにか小さな声が聞こえた ・・・ 気がした。
「 ?? な なんだ?? 」
彼は身を乗り出し海面をみたが ― そこには 青い水が揺れているだけだった。
「 ・・・ 気のせい か ・・・ 」
「 ― ジョー君。 ここにいたのか 」
「 あ ・・・ ジャン王子さま 〜〜 」
後ろから ぽん、と肩を叩いたのは ジョーより年長で背の高い青年。
「 王子様 はいらんって。 俺たちは ― 親戚だろ 」
「 あ はい ・・・ ありがとうございます 」
ジョーはぱっと立ち上がると 会釈をした。
「 あ〜〜〜 ・・・ 今日は穏やかだな ・・・ こんな日の海は ― 」
「 ええ。 でも 信用できないですよ
」
「 ふ・・・ どうした、機嫌がわるいじゃないか。 海はキライかい。 」
ふぁさ ・・・ ジャンの金色の髪が揺れる。 陽の光がキラキラと映る。
ジョーはその髪を しばし目を細めて見て居いた。
「 ジャンさんは 好きなんですか。 この海が! 」
「 海 ・・・ そうだな ・・・ こんな海は嫌いじゃない。 」
「 ぼくは! 嫌いです。 大人しそうな顔 してるけど ・・・
こんなヤツは信用しない。 ・・・ 姫を奪った海なんか! 」
「 ジョー ・・・ 」
茶髪の青年は きゅ・・っと上着の胸の辺りを掴んでいる。
「 ― ジョー。 まだもっているのか 」
「 当たり前ですよ! 姫の ・・・たった一つの形見ですから。 」
「 ありがとう。 でも ・・・ もう捨てろ。 」
「 ジャンさん!!! 」
「 この航海から帰ったら ― 婚約の宴 なのだろう?
婚約者の遠国の姫はなかなか美しい人だというじゃないか。 」
「 そりゃ 美人ですけどね。 夜よりも黒い髪で 闇よりも深い黒い瞳の女性ですよ。 」
「 いいじゃないか。 ジョーもそろそろ身を固めないと 」
「 ジャンさん! ぼくは。 ぼくの妃になるヒトは ― あの姫だけ なんです。 」
彼は チュニックの胸から鎖を引きだした。
銀の鎖のその先には ― 小さな黄金の指輪が煌めく。
小さな指輪は まだ小枝よりもほっそりとしていた指がはめていたものだ。
「 ・・・ シアワセだった ぼくはシアワセな世界しか知らなかった。
どんなに嫌なことがあっても 小さい姫の笑顔が消してくれました。
・・・ 皆 笑顔でしたよね ・・・・ 」
ジョーは黄金の輪を通して 視線を遠くへなげている。
「 そう だったな ・・・ 俺もアイツをつれてこの王国を訪問するのが楽しかったよ。」
「 ぼくだって ! はやくジャンさんのように背も伸びて胸板も厚くなって・・・
小さい姫をお妃にしたい! って思ってた ・・・ 」
うふふふ ・・・ ほら こっち〜〜 ジョー王子さまぁ〜〜
わ〜〜 待ってください〜〜 姫君〜〜〜
金の髪の女の子とセピアの髪の男の子が 笑いさざめきつつ庭園を駆けている。
「 ジャン兄さまあ〜〜〜 兄さまもいらしてえ〜〜 」
「 ほらほら ・・・ そんなに駆けると転ぶぞ。 」
少し年嵩の少年が やはり微笑みつつ二人を眺めている。
「 まあまあ お楽しそうですこと。 」
白い大きなエプロンをした乳母が 銀の盆をもって現れた。
「 王子様がた〜〜 姫さま〜〜〜 美味しい水蜜桃をどうぞ〜〜 」
「 ほうら ・・・ オヤツだぞ〜〜 チビさんたち。 もどっておいで。 」
少年は 笑いつつ小さな子供たちを呼んだ。
「 まあ♪ オヤツですって〜〜 ジョーさま 」
「 わあ〜〜い さあ 姫君、 ごいっしょに 」
「 はい。 」
茶髪の少年は真面目くさって少女に手をさしだし、少女は気取った様子で可愛い手を預けた。
「 オヤツ〜〜〜〜♪ ね ジョーさま 」
「 いっしょにたべるとオイシイですよ 姫君 」
「 まあまあ・・・ お似合いのお二人ですこと! 」
「 乳母の君〜〜 ありがとう。 」
幼い姫はスカートを摘み 優雅に会釈をした。
「 まあ〜〜〜 なんとお可愛い〜〜〜♪ 」
「 えっへん。 姫はぼくのお妃になる方ですから。 」
「 はいはい そうでございましたね。 さあさ お召しあがりくださいませ〜 」
あはは うふふ ・・・ そこにはただ明るい笑みしかなかった。
さわさわさわ ・・・・ 海風が青年たちの頬を弄ってゆく。
「 ― アイツは 妹姫は ・・・ 天に昇ったんだ ・・・
ジョーのシアワセを空から見守っているよ。 だから ジョーも新しい道を 」
「 ・・・ まだ もう少し。 ああ 遠国からくる姫君がせめて金の髪の人だったらなあ ・・・ 」
「 ジョーがしっかりこの国を治めるようになれば 俺も安心できる。 」
「 ジャンさんこそ! お妃を決めて 」
「 ふふ ・・・・ ああ そうだなあ ・・・ この空と海を眺めていたら
なんだか ― 少しはふっきれた気もするなあ 」
「 海は ― 不思議ですね。 ずっと嫌っていたけど ・・・ 」
「 俺も さ。 ジョーも俺も この海を疎み避けてきた。
もう ― 終わりにしよう ・・・ アイツもそれを望んでいるさ。 」
「 ・・・ そうでしょうか ・・・
あ ・・・ 母さんカメ に海の水をお土産にもって帰るって約束したんだっけ 」
「 母さんカメ?? 」
「 ええ ・・・ 浜辺に産卵に来てて、ヒレに怪我をしていたカメがいたんです。
それを連れて帰って手当てしてからずっと宮殿の池に住まわせています。 」
「 ほう? そのカメも海が恋しいのかもしれないぞ? 」
「 ・・・・・・ 」
ジョーは 空を眺め そして ぐっと身を乗り出して水面をみつめた。
ぱっしゃん − なにかが 落ちた。
「 あ! ・・・ ああ〜〜〜〜〜 姫の指輪が 〜〜〜 」
「 おい 危ない! 落ちるぞっ 」
ジャンはあわててジョーのチュニックを掴んだ。
「 姫の指輪が〜〜 」
「 ・・・ もう 返してやろう。 海に ・・・ アイツに 」
「 でも ・・・ たった一つの ・・・ 」
「 アイツは お前の心の中に居るだろう? 」
「 ― はい。 」
「 ありがとう、ジョー君。 」
「 ジャン兄上 ・・・ 」
茶髪の青年は淋しく微笑むと まだ名残惜し気に海面に目を転じた。
「 ? ・・・・ あ あれ?? 」
ふゆ〜〜〜ん ふわり 海の少し奥でなにか金色のものが揺れた。
「 なにか・・・いる??? あれは金色の髪??? 」
「 まさか・・光のイタズラだろう? さあ そろそろ昼餉だぞ。 」
ぽっちゃ〜〜ん ・・・ ゆら ゆら ゆら・・・・
ソレは くゆ〜〜んくゆん〜〜 ・・・ フランソワーズの掌に落ちてきた。
「 ・・・ まあ キレイ・・・ これはなにかしら 」
彼女は < 上 > を見たが 大きな船の底が見えるだけだった。
「 これ ・・・ 頂いてもいいわよ・・・ね? 」
金の輪を彼女は自分自身の金の髪に結び付けた。
「 姫様〜〜〜 もう戻りましょう〜〜 」
「 え ・・・ もうちょっと〜〜 ねえ あのふねの後を付いていってみない? 」
「 だ だめですよ〜〜〜 地上のニンゲンは恐いんだから!
さあ帰りましょう。 」
「 怖いかどうか ・・・ よく見ないとわからないわ。 もうちょっと・・・ 」
「 ダメですってば〜〜 それに ・・・ 波が暴れてる。
きっと地上の嵐がきます。 」
「 海の中なら平気よ。 」
「 王国ならば ね。 でも < 上 > に近いと危ないです。
ほら 帰りましょう〜〜〜 」
カメキチは 姫君の髪をくいくい引っ張った。
「 あ・・・ん わかったわよ〜〜 でも また来るわ! 」
― ぱしゃり・・・!
銀の尾鰭を煌めかせ姫は海の底の我が家へと戻っていった。
Last updated : 10,20,2015.
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********* 途中ですが
あ〜〜〜 短くて申し訳ありませぬ〜〜〜 <m(__)m>
あれこれ継ぎ接ぎの めるへん・ぱろでぃ??
ふふふ〜・・・って笑っていただけましたら幸いです〜〜