『  沼  ― (4) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

   サ −−−−− ・・・・・・

 

雨脚は一向に弱まる気配はなかった。

薮に近い垣根の陰に 思いがけなく端正な数寄屋作りの邸が現れた。

「 あら。  こんな近くにお家があったのですね。 ちっとも気が付きませんでしたわ。」

フランソワーズは思わず声を上げてしまった。

「 ・・・ ええ  近所付き合いなど煩わしいので なるべく目立たたないように暮らしています。 

 この透垣はわざわざ雑草が生い茂っている風にしているのです。 」

「  まあ  そうなんですか ・・・ 」

「 どうぞ こちらに ・・・ 踏み石のところならおみ足が雨には濡れませんでしょう 」

青年は 傘を傾けてフランソワーズを案内した。

庭への網代戸を開け飛び石伝いに 縁先までやってきた。

 

   ―  カラカラ ・・・  彼は外から縁先のガラス戸を開けた。

 

「 誰も来ませんし、泥棒が入っても盗られるモノもありませんのでね、いつも開けてあります。 

さあ どうぞ ?  雨が上がるまで ・・・ 」

「 お邪魔いたします。  ・・・ まあ ステキな御宅ですのね 」

「 いえ いえ ・・・ 田舎の山奥の苫屋 ( とまや ) ですよ。

 さあ こちらにおかけください。  今・・・ 座布団をお持ちしますから 」

青年は 下駄の音を響かせて玄関とおぼしき方向に駆けていった。

「 あ このままで十分 ・・・ ああ 行ってしまわれたわ・・・ 」

「 ・・・ 濡れてない わよね? 」

自分のスラックスのオシリを触ってようく点検してから そ・・・っと縁先に腰を下ろした。

 

    あ ・・・ 木の 優しく温かい感触 ・・・

 

ほっとした気分で 彼女は縁側の板に触れる。

「 ・・・ すごい・・・ 長年丹念に磨きあげましたって雰囲気 ・・・

 そうね、長い伝統のあるスタジオのお稽古場の床みたい ・・・ 」

縁側を撫で 目を上げれば室内と境の欄間には凝った木彫が施してある。

「 すご・・・  これ ・・・ この紙を張ったドアは しょうじ だったわよね?

 きっとここを開けると 大きな応接間にでもなっているのかも ・・・ 」

まさか勝手に開けることはできないので 彼女はいろいろ想像して楽しんでいた。

  トン ・・・  廊下の奥の木のドアが開いて 青年がやってきた。

手に 盆と土瓶らしきものを下げている。

「 いや・・・ お待たせしました。  熱いお茶でも、と思いましてね。 」

「 まあ ・・・ ありがとうございます。 

「 座敷にお招きしたいのですが ―  

「 お気づかいなく。 わたしはただの通りすがりの者ですもの。 」

「 いや そうではなくて  あっ 

 カチャン ・・・ 盆が傾いた。

「 あ 持ちますわ 」

フランソワーズは思わず立ち上がり縁先に上がると 彼の方に駆け寄った。

「 すみません!  いや ・・・ とんだ醜態を ・・・ 」

「 ちょっと滑っただけですわ?  こちらに置きますね。 」

春慶塗の立派な盆を 艶やかな縁側に置いた。

「 ありがとう!  ・・・ さ 熱いお茶をどうぞ? 」

青年は案外慣れた手つきで 茶を淹れた。

「 ・・・ おいしい・・・! 」

それはよかった!  いや ここの水は自慢できるものですからそのお蔭でしょう。 」

「 んん〜〜〜・・・・  このお茶、どこのものですか?

 お水は勿論ですけど お茶の味と香りも ・・・ 」

フランソワーズは 目を閉じて日本茶の味と香りを楽しんだ。

「 これは ・・・ 異国の方からそのようなお褒めのお言葉をいただけるとは感激です。

 ああ なにかその方面のお仕事の方ですか? 」

「 え ・・・ いいえぇ ・・・ わたし、日本の < お茶 > 好きなのです。

 ああ 美味しいかった・・・ ゴチソウサマでした。 

「 もう一杯どうぞ?  お湯の温度が下がるとまた別の味が楽しめます。 」

「 ありがとうございます。 」

二人は 向き合って静かにお茶を味わった。

 

   サ −−−− ・・・・・・ ・・・・・

 

透明な水が細い糸になって 落ちてくる・・・

「 ・・・ ここは本当に静ですのね。 お庭に落ちる雨の音が聞こえそう・・・ 」

フランソワーズは そっと茶碗を置いた。

「 あは ・・・ なにもない辺鄙なところですから 」

「 あの                    ・・・ ずっとこちらにお住まいですか 」

「 はい 」

「 素晴らしいお庭ですのね ・・・ このお家も・・・ 

 わたし、こういう日本のお家って初めて拝見しますわ。 すごい ・・・ 」

「 ありがとうございます、 いやいやただもう古いだけです。 

 先祖代々 ずっとこの辺りで暮らしてきています。 」

「 そうなんですか ・・・ じゃ  あの 沼 もよくご存じですか? 」

「 沼 ・・・ はい。 」

「 あの沼 ・・・ 皆さんは恐ろしいところだから近寄らない方がいい なんて言いますけど

 とても 静かでキレイですよね。  わたしは最初 池 かと思いました。 」

「 ・・・・・ 

「 ちょっと寂しいけど ・・・ 水面が空の色に染まってとてもきれい・・・

 きっと夕焼けの時とか素晴らしいでしょうね 

「 はい それはそれは ・・・美しいです 」

「 ・・・ あの。  ずっとこのお家に ・・・ いえ ここで暮らして? 

「 はい? 」

「 あ ・・・ 立ち入ったこと、伺ってごめんなさい。  

 さっき ・・・ ほら 近所づき合いとか煩わしっておっしゃってたから 」

「 ああ ・・・ この辺りは田舎なので ・・・・ 」

「 たまには里の方へもいらしては?  ここは ・・・ 美しいけれど静かすぎて・・・

 ちょっと淋しいですよ  ね  ? 」

「 ・・・・・・・ 」

「 わたしも、海に近い辺鄙な場所に住んでいるのですけど・・・

 地元の商店街とかにはよく行きます。  皆さんにいろいろ教えていただいて

 結構楽しく暮らしていますわ。 」

「 ・・・ 私も いつかはもっと広い世界に 出てゆきたいと思っていますよ 」

「 そうして この素敵な山里のこと、街のヒトに教えて差し上げてください。

 きっと ・・・ 都会の人は 避暑地として気に入ります。  

「 こんな辺鄙な田舎を ですか? 」

「 ステキな自然がいっぱいです。 」

 

  ピカ ッ !   突然 空が光った  そして

 

      ガラガラガラ −−−−−  ド −−−−− ン ・・・・!

 

「  きゃ ・・・ 」

フランソワーズは アタマを抱えて身を縮めたが ・・・

 

     「  ―    え  ・・・・?   」

 

ほんの一瞬。彼女の目の裏に残ったのは  玉虫色の鱗に包まれた龍の姿 だった。

「 大丈夫、雷はまだ遠いですよ。 

「 ・・・ あ ・・・ 」

穏やかな声にそっと目を開ければ  あの青年が静かに微笑んでいる。

「 いやあ 〜〜 都会の方には恐ろしいかもしれませんね。 」

 この地域では雷はよく発生しますが 落雷はめったにありませんからご安心ください。 」

「 ・・・ え  ええ  そんな ことは ・・・・ 」

フランソワーズは ハンカチを出し、目を拭った。

「 自然は ― 美しいけれど厳しく恐ろしい面もありますわね。 」

「 恐ろしい ? 」

「 ええ ・・・ あのう この村に残る伝説、というのを聞いたのですが ・・・ 

「 伝説 ですか? 」

「 はい。 大昔から伝わっているって ・・・ 

 水害を防ぐために 沼のヌシに若い娘を生贄として捧げていたって 」

「 ああ その類の話はどこでも残っていると聞きますが 」

「 ええ 確かに。 わたしの祖国にもいろいろ ・・・ ありますもの。 」

「 そうでしょう?  ・・・ でも ・・・・ 」

「 はい? 」

「 これは 私の勝手な推測ですが。 その・・・ 沼のヌシは生贄なんて欲しくなかった 

 と思いますよ。 

「 欲しく なかった? 」

「 生贄は  ね。 」

「 ?? 」

「 そんなもの、いらない。  欲しいのは  ―  トモダチ ・・・・ 」

「 え ・・・? 」

「 あ いえ 失礼しました。 ともかくその類の伝説は < 伝説 > ですから。

 この現代では 誰も気にしたりはしませんよ。 」

「 ・・・・・ 」

フランソワーズは曖昧に頷いた。 

 

    アンタは 帰った方がええ!    あの青年の暗い 暗い瞳が浮かんだ。

 

「 ああ いけない ・・・ くだらないおしゃべりで貴女を引き留めてしまいました。

 ほら ・・・ どうやら雨も小止みになってきました。 」

「 あ ほんとう ・・・ わたしこそ図々しくお邪魔してしまって ・・・

 こんなに美味しいお茶をご馳走になりまして 本当にありがとうございました。 」

フランソワーズは縁先からぴょこん、と立ち上がりアタマを下げた。

「 いえいえ  私こそ本当に楽しいひと時でした。 御礼申し上げます。 」

青年は縁先ながら実に丁寧にお辞儀を返した。

お送りしましょう、と彼も庭下駄を履いて沓脱石に立った。

雨が上がったばかりの庭を抜けて 彼は門口まで送ってくれた。

「 あの! 今度は是非 わたしの家に来てくださいませんか。 」

この道をまっすぐ行けば 里への道にでる、と言いつつ、

青年は灰色の空へ視線を飛ばしていた。

「 ・・・ さあ  それは ・・・ いつかできれば いいですが 

「 是非 ! 

淡い日に透ける微笑みを返事にもらい フランソワーズは山を降りた。

 

 

「 ― ただいま戻りました 」

「 おお お帰り。 雨に濡れなかったかい 」

「 え  ええ  いえ ・・・ 」

「 ああ?  かなり降ったと思うのだが  」

「 あ  あの ・・・ 雨宿り、させていただきました。 」

「 それはよかった ・・・ それで 現場はどうじゃったかい。 」

「 ・・・ あの 雨で 」

「 ああ そうじゃったな。 すまん すまん ・・・ つい 」

「 いいえぇ ・・・  でも とても静かでキレイなところですよね。 」

「 過疎地じゃからなあ。 このまま 雨があがってくれるといいがね 」

「 ・・・ オマツリ は明日ですよねえ 」

「 うむ ・・・ この時期じゃから夕立などは仕方ないのだが・・・

 万一 ゲリラ豪雨などになって水害がでてしまったら 」

「 ・・・ そう  ですわねえ 」

フランソワーズの視線は ぼんやりとやっと雨のあがった空の辺りに揺れている。

「 ― どうか したかね? 」

「 え ・・・? 」

「 なにかあったのかい。 

「 え・・・ 別になにも ・・・ 」

「 そうかい  それならいいが ・・・ まあ明日になればジョーも来るしなあ

 調査を宜しく頼むよ。 」

「 ・・・ ええ  ・・・・ あ 晩御飯の支度、してきますね ・・・ 」

「 ? あ  ああ  頼むよ 」

「 はい ・・・ 」

彼女は ふわふわ〜〜っと ― まるで雲の上を歩いている風情でリビングを横切っていった。

   

  サア  −−−−− ・・・・・ ・・・・ !

 

涼しい風が吹き抜ける。

「 ・・・ 疲れでもでたのかなあ 大丈夫かのう? 

 おお ・・・ 虹 か ・・・ 」

雨上がり空に 薄い虹がかかり始めていた。

 

 

 

 トントントン  ピ 〜〜〜〜 ・・・・ トントン ピ ピ ピっ

 

祭当日は朝からお囃子の音が村中の空気をゆらし陽気に響きわたった。

「 う〜〜〜ん ・・・ いいお天気!  オマツリはきっと大盛況ね 」

フランソワーズは寝室のカーテンを払い 薄い水色の空を見あげた。

「 今日もぐっと暑くなりそうね!  あ そうだわ〜〜 スイカかメロンを買って・・・

 ここの湧き水で冷やしておきましょう。  夕方にはジョー、来るって言ってたし

 ・・・もう〜〜 そんなギリギリに来るなんて ・・・ ぷん。 」

ふう ・・・ ちょっとだけ 溜息。

「 そうよね ・・・ ジョーって。 優しいのよ。 ええ とてもとても優しいの。

 ― 誰にでも ね。  ・・・ そんな彼にヤキモチを妬くって ・・・

 わたし、心が狭いの? ・・・ 嫉妬深い の? 」

ずっとずっと 心に沈んでいる重石は 時にはとても重くて引きずり落とされそうになる。

「 ・・・ だめよ、 フランソワーズ ・・・ ジョーは、ああいうヒトなのよ。

 そんなこと、しっかりわかっているはず、でしょう? 」

 

    「  ほしいのは  ―  トモダチ  」

 

不意にあの青年の言葉が 蘇る。 あの透いた眼差しが 胸を刺す。

「 そうだわ!  一緒にオマツリに行きましょう!  そうよ〜〜〜

 観光客もたくさん来るわよね、そういう方がかえって目立たないわ。 

 決めたわ。  あのヒトをさそってみる ! 」

祭のクライマックスは 宵の口から始まる、と聞いた。

昼間は コドモやら観光客向けの山車が出たり屋台の並ぶ楽しい催しらしい。

「 うふふ ・・・ そうだ、浴衣着て ― 迎えに行くわ♪ 

 どうせジョーは来るのが遅れるし・・・ 一人でオマツリ見ても楽しくないわ。

 なにか楽しいコト、ないかなあ〜〜 ・・・美味しいモノとか ・・・ 」

しばらく彼女はじ〜〜っと考え込んでいたが やがて うん! と大きくうなずいた。

「 あれがいいわ。 き〜めたっと♪  」

彼女は キッチンに入ると あれこれ食材を取りだし始めた。

「 え〜〜と ・・・ ご飯は炊飯器に任せるけど ・・・ にんじん ごぼう はす・・・

 えっと白ゴマでしょ?  卵 に そうそうアナゴ。 それから・・っと 」

先日 スーパーで買ってきたものを並べてみる。

「 うん これでいいわね。  本当ならこの村の特産の野菜とかあればいいのになあ ・・・

 あんなに畑がたくさんあるのに どうして地元の産物とか売ってないのかしら。

 あ ・・・ もしかして県外用にしてるのかな ? 」

独り言をいいつつも くるくる動き回り ― やがて炊飯器が < 仕事 > の完了を伝えた。

「 は〜〜い。 ばっちりのタイミングね〜〜   よい・・・しょっとぉ〜〜〜 」

炊き立てのご飯のなんともいえないおいしそうな香りが どっとキッチンに満ちてゆく。

「 ふう〜〜〜ん ・・・ ♪  うふふ これって幸せの匂い よねえ??

 わたし、この国の食べ物の中で  ごはん がいちばん好きかも ・・・ 」

 

 さあ〜〜 がんばるわ!  と宣言し ― えっほ えっほ ・・・ と楽し気な声と一緒に

< お祭のためのご馳走 > が 出来上がていった。

 

 

  ―  「 ・・・ さあ ・・・  これで いいかなあ・・・ 」

 

並べた皿やらお重を前に フランソワーズは満足気に頷いた。

「 我ながらいい出来♪   うふふ〜〜〜 お重を届けたら あの方はどんな顔,するかしら。 

本当なら ウチで一緒に食べたいわあ〜 きっとね 博士たちと話が合うでしょうし

 ジョーだって たまには全然ちがう世界の人とも友達にならなくちゃ   ね  

 

      ゴロゴロ   ・・・・   微かに遠雷が 聞こえた。

 

「 え??? だって 朝は・・・っていうかさっきは晴れていたのに ・・・ 

キッチンの窓から見上げれば まだまだ水色の空がひろがっている。

「 なあんだ、まだ大丈夫ね。  きっと騒音が少ないから遠くの音もはっきり聞こえるのね。

 ・・・ じゃ ・・・ このお重、もって行きましょう。 」

フランソワーズ・特製 の < 洋風散らし寿司 > を 彼女は満足気に眺めた。

金糸卵の出来が最高で 特に気に入っている。

「 これはね〜〜〜 コズミ先生にも褒めて頂いたわたしの傑作なのよ〜〜

 ジョーも大好きだし。  じゃ ・・・ ちょっと行ってきましょう。 」

お重をそっと小風呂敷で包み、勝手口から出た。

「 届けてくるだけだもの ・・・ このままでいっか 」

彼女はエプロンを外しただけの恰好で サンダルをならしつつ裏の道を登っていった。

 

 

  ゴロゴロ 〜〜〜〜  ゴロゴロ〜〜〜〜  

 

昼ごろになると青空を垣間見ることはできなくなった。 雷の音がはっきりと聞こえる。

「 おやおや ・・・ せっかくの祭が のう・・・ 」

コズミ博士は外から戻ると キッチンに顔を出した。

「 お嬢さん?  雨が降りだしそうですよ  ・・・ おや 出かけたのかな? 」

キッチンは綺麗に片付いていて 食堂のテーブルには散らし寿司が三人前、

布巾を掛けてならべてあった。

「 ??  おお〜〜〜 これはこれは美味しそうなご馳走ですな。

 ここまで出来上がっているところをみると・・・ すぐに帰るつもり、なのかな 」

「 フランソワーズ? すまんが ・・・ 」

今後はギルモア博士が 湯呑みをもってドアを開けた。

「 すまん 茶葉を切らしてしまって ・・・ おや コズミ君。 お帰りかな。 」

「 はい。 ちょいと近所の古老から話を聞いておりましてな。

 なかなか口が重いじいさまじゃったが ・・・ これで懐柔したよ。 」

 ぱちん、とコズミ博士は碁石を置く手つきをした。

「 はっはっは それはいい ・・・ ところでフランソワーズはおらんですか 」

「 どうもね、出かけられたらしい ・・・  美味しそうなご馳走を作ってくれて 」

「 おお〜〜〜 彼女特製の散らし寿司か! こりゃあ いい ・・・

 ジョーも夕方には来ますからなあ アイツも大喜びですよ。 」

「 ほっほっ ・・・ ああ ギルモア君、 茶葉はここです。 」

コズミ博士は戸棚から茶筒を取りだした。

「 おお すまんです ・・・ それで 古老の話はどうじゃった?

 なにか収穫があったかな。 

「 うむ ・・・ それがなあ。 どうやら欲に駆られた輩が < 伝説 > を

 巧みに利用した、というところじゃな。 」

「 ・・ やはり な。  本来の伝説の主がさぞかし憤怒しておるじゃろうて 」

「 ・・・ まったく まったく 」

 

    ゴロゴロゴロ 〜〜〜〜 !!!   ピカッ !

 

「 お? 雷が近くなってきたな これは ・・・ ピンポイント豪雨になる か? 」

「 うむ ・・・ 

老博士たちは厳しい表情で 空を見上げていた。

 

 

「 これは ・・・ すばらしい!  あなたは料理の天才ですね、フランソワーズさん 」

「 え  天才だなんて〜〜〜 ただの自己満足ですわ。 」

青年は心から感動した声を上げた。

「 いやいや・・・ この金糸卵の細かさは芸術品です! 」

「 きゃ〜 そんなにじっくり見ないでください〜〜 本当に自己流で ・・・

 うふふ・・・ ジョーには 西洋流ちらし寿司 って言われてますもの。 」

「 ・・・ ジョー ? 」

「 え あ ・・・ か 家族ですの ・・・ ともかく!  この国の本当の

 散らし寿司 とはちょっと違うみたい・・・ あ 家族とかには結構評判 いいんですけど 」

「 いやいや〜〜〜  さあ そんな縁先じゃなくて・・・ どうぞ座敷にお上がりください。

 今 お茶をもってきますから ・・・ ああ これは飾っておきたいなあ 」

「 うふふ・・・嬉しいです〜〜 」

彼女はほんとうにシアワセな笑みで頬を染めていた。

 

塗りのお重に < フランソワーズの洋風散らし寿司 > を詰めて、

例のあの家まで届けに来た。   道はしっかり覚えたのですぐに到着した。

「 ・・・ ああ あの楠の向こうよね。 ほら竹の垣根が見えてきたわ 」

エプロンを外しただけ、外出着に着替えることもなく彼女は気軽にやってきた。

「 ウチからすぐだったのね。  きっと最初は道がわからなくて遠い風に感じてたんだわ・・

 え〜〜と?  直接 お庭の方から行ってもいいわよね〜〜 」

 

  カタ カタ カタ ・・・  サンダルを鳴らし、敷石伝いに庭先に回った。

 

「 ・・・ こんにちは〜〜 ・・・ いらっしゃいます? 」

「 ―  どちら様ですか  

縁先から声をかけると すぐに返事があった。

 

 ― そして座敷でお重を広げるとこになり、彼女はこの邸の主と差し向かいで

昼餉を楽しんだ。

青年は < 洋風散らし寿司 > にとても感激して 今日も実に味わい深いお茶と

鄙びた和菓子をすすめてくれた。

 

「 ・・・ ふぁ ・・・  あ  ごめんなさい ・・・ 」

「 おや どうかなさいましたか 」

「 え ・・・ いえ   なんかとっても気持ちよくて・・・ 眠く ・・・ 」

「 ・・・・ 」

「 ・・・ ふぁ ・・・・ 」

  

    ことん。   彼女の手から箸が転げ落ちた。

 

 

 

Last updated : 04.21.2015.             back   /    index   /    next

 

 

 

*********  途中ですが

すみませぬ〜〜 激短です ・・・

風邪と多忙で 寝落ちの日々 ・・・ <m(__)m>