『 それから・ウチの庭 ― (2) ―  』

 

 

 

 

      ごろん ごろん ごろん ・・・

 

でこぼこした黄色い果実が た〜〜くさん勝手口に転がった。

「 お〜い  フラン ・・・ 今年の分 収穫したよ 」

「 わ〜〜〜〜〜  なに??? 」

すぐにすぴかが すっとんできた。

「 夏ミカン だよ。 ほら ご門の側に生えてる大きな木、あるだろ 」

「 うん! トゲトゲのきでしょ  」

「 そうだよ あの木の実さ。 」

「 なつ みかん ?  おみかん といっしょ? 」

「 まあ 蜜柑の親戚かな ほおら 」

「 ・・・ すご〜〜〜 おっき〜〜 でこでこでこ♪ 」

「 うわ〜〜 ごろん〜〜〜 すご〜〜〜 」

すばるもやってきて 大きな実を転がしている。

「 まあ ジョー。 今年もたくさん獲れたわねえ 

フランソワーズもにこにこ・・・ バケツを持って現れた。

「 うん  豊作だね  さあ〜〜〜 恒例のマーマレード作りだあ! 」

「 ふふふ お願いします♪ わたし ウチのマーマレードが

 世界一だと思うわ 」

「 ふふふ〜〜ん♪ 実はぼくもそう思ってマス♪

 シンクに入れておいてくれる?  手を洗ってくるからね 」

「 ま〜まれ〜ろ? 」

すぴかの目は もうこぼれ落ちそうなくらいまん丸だ。

「 そうよ 毎朝 食べてるでしょ 黄色の甘酸っぱいジャム 」

「 すき〜〜〜!! もしゃもしゃ〜〜 すき! 」

「 僕もすき〜〜 あまあ〜〜い♪ 」

毎朝 パンにのっけるマーマレード、 すぴかはたっぷり入っている

果実の皮が すばるはとろとろのジェル部分が 大好きなのだ。

「 さあ  すぴか すばる お父さんのお手伝いしましょ

 美味しいマーマレード、作りましょ 」

「「 はあい 」」

「 じゃあ まずエプロン つけよっか 」

「「 わあい 」」

 

 

   ごろん ごろん ごろん〜〜〜

 

キッチンのシンクは 黄色のでこぼこした果実で満員になっていた。

「 よ〜し まずは水洗いだな 」

「 アタシ〜〜 おてつだいするぅ〜〜 」

「 僕も僕も〜〜 」

「 お〜〜  頼もしいなあ  じゃ 一緒に夏ミカンを洗おう!

 この皮が美味しいマーマレードになるからね 」

「「 うわ〜〜 い 」」

まあ おじゃま虫なのだが チビ達は大きな夏ミカンに触って

そのでこでこした表面をしげしげと見ている。

 

      ま これも学習ってことだな

      よ〜〜く触ってごらん

 

ジョーは にこに・・・子供たちを見ていた。

 

 

 

< ウチのマーマレード > は この邸に住み始めたその年から

作っている。

最初に、門の脇の夏ミカンの木に気付いたのは ジョーだった。

「 あのさあ  門のとこにあるおっきな木、あるだろ?

 あれ・・・ 夏ミカンだから切らないでほしいなあ 」

庭づくりを始めたころ 彼はぼそ・・・っと言った。

「 なつ みかん??  実がなるのね? 食べられる? 」

「 あ〜 うん でも実はさあ めっちゃ酸っぱいからさ〜〜 

 マーマレードにする方がいいんだ 」

「 へえ ・・・ ジョーって マーマレード 作ったこと あるの? 」

「 ウン 庭にでっかい木があってさ・・・

 毎年 手伝わされた ・・・ でもね めっちゃオイシイよ! 

「 すご〜い  ねえ レシピ教えて? 」

「 あ ぼく やるよ。 ちょっと砂糖の量 調べるね 」

「 わあ お願い 」

スマホを操作している彼を ちょっと違う目で見てしまう。

 

     庭に大きな木?  ・・・ ふうん

 

     イイとこのぼんぼんなのかしら・・・

     きっと毎年お母さんの手伝いをしていたんだわ

 

     ・・・ 彼のママンなら美人ね!

     お料理上手でめっちゃ優しいママン か・・・

 

彼女のアタマの中では このセンの妄想がしっかり出来上がっていた。

 

― 以来。 

 

門のところの夏ミカン は マーマレードの供給源として重宝されている。  

毎年 自家製マーマレードは 世界中に散った仲間たちの元に届けられ

この邸に家族が増えてからは すぴかはほろ苦い皮部分が好き、

すばるはとろとろ〜〜ジェリ―部分がお好みである。

 

ジョーは 山ほどの果実を実に丁寧に洗い皮を剥き・刻み 

砂糖を加え丹念に煮込んでゆく。

夏ミカンの皮は結構分厚いし 白い部分を落とすのも案外チカラワザだ。

皮は薄く切って 激すっぱい中身を絞るのだから 手間がかかる。

でも 彼はその工程をとてもとてもとて〜〜〜も

楽しそう〜〜に うれしそう〜〜〜〜に 進めてゆくのだ。

 

 ― やがて 

 

  コトコト コトコト  ・・・

 

大鍋では 甘酸っぱいジェル状のものが煮詰められてゆく。

「 ・・・ ふ〜〜〜ん ・・・ ああ 好い匂い(^^♪ 」

「 フランってば 大好きだよねえ 」

「 ええ 最高に美味しいもの♪  わたし 今までにこんなにオイシイ

 の食べたことなかったわ 」

「 ふふふ ・・・ ぼくとしては きみが作る苺ジャムも好きだよ 」

「 ありがと。 あれはね ウチのイチゴがオイシイから よ 」

「 ははは  それなら マーマレードも あの夏ミカンの木 の

お手柄ってことになるな 」

「 そうね〜  ・・・ ああ 本当にウチの庭は最高だわ 」

「 そうだよねえ ぼくらは本当に恵まれているよね 」

「 ― このお家 大好きよ  ここで暮らせて シアワセだわ 」

「 う〜ん ま ぼくとしてはどこだっていいけど 」

「 ・・・ え。  ここ  ・・・ 好きじゃないの? 

「 いや?  好きさ。 ってか ここしか考えられない 

「 え それならどこでもいいって・・・? 

「 ん ・・・ だってさ きみがいてチビ達がいるトコなら

 どこでも・・ってことさ。  なあ・・・  」

ジョーは 腕を伸ばし愛妻を抱き寄せる。

「 んふふふ ・・・  ん〜〜〜   あ 味見 したでしょう?

 今日のベーゼ ( キス ) は マーマレード気分♪ 」

「 あは ・・・ バレたかなあ 」

「 ステキだわぁ〜〜〜 ねえ ? 」

フランソワーズは するり、と彼に抱き付いた時 ―

 

「 おと〜さ〜〜〜ん できたァ? 」

 

すぴかがガス台の下から 跳ねて伸びあがってくる。

「 こらこら ぴょんぴょんしないよ   うん もうちょっとだよ。

 ほうら 見てごらん 

ジョーは ガスを細めてから ひょい、と娘を抱き上げた。

「 うわ〜〜〜〜  ぷつぷつぷつ〜〜って 」

「 な?  いい匂いだろ 」

「 うん! なつみかんさん〜〜〜  たべたい! 」

「 あは あれはめっちゃ酸っぱいからダメだよ 

「 ふうん  ・・・ 」

「 僕もぉ〜〜〜〜 」

「 ほいよ、 いいかい そうら・・ 見てごらん 

「 ・・・ あっつ〜い  けど あま〜〜いにおい♪ 」

「 こうやってね あの美味しいマーマレードができるんだよ 」

「 いいにおい〜〜〜  ね〜〜〜 なめて いい? 」

「 おっとぉ〜〜 熱いから触ったらダメだよ。

 もう少し 煮込まないとね 」

「 ちょっとだけ〜〜 ねえ おと〜さ〜〜ん 」

 

   にこぉ〜〜  天下無敵?のすばるの笑顔が炸裂した。

 

「 ・・・ うわぁ ・・・そ そうだねえ ・・・

 それじゃ ・・・ ほんのちょっとだけ  」

「 うわあい♪ 」

ジョーは 小皿にとろ〜〜〜り 作りかけのマーマレードを

垂らすと ふ〜ふ〜〜してから息子に渡した。

「 まだ 熱いからね 気をつけて舐めるんだよ 」

「 ん ・・・ ん〜〜〜〜 ・・・

 ねえ おと〜さん?  おさとう、 もっといい? 」

 

   にこぉ〜〜〜〜 ♪ 

 

この天使の笑顔 に父は即行完敗で、もうすぐに砂糖を振りかけてしまう。

「 ・・・ さ これでどうかな 」

「 ウン♪  ・・・ あ〜〜〜〜〜〜 おいし〜〜〜〜 」

「 そうかい そうかい  よかったなあ 」

ムスコの笑みに ジョーはでれでれなのだ。

 

        ・・・ さすがにジョーの息子ね!

        天然タラシ だわ、 すばるって。

 

側で観察してる母は 妙〜〜に納得した気分に浸っていた。

 

 

< 最強・すばるのにっこり > に気付いたのは 

まだ生後間もない時だった。

まだ 寝て 飲んで 出して の繰り返しだけの時期なのだが。

 

 んぐんぐんぐ〜〜〜〜〜〜 

「 ほうら ・・・ すぴかさん いっぱい飲んで大きくなあれ・・・

 ま ・・・ キレイなお目目ですね〜〜 」

ミルク中、すぴかはあの大きな碧い瞳でじ〜〜〜〜っと母を見つめている。

「 ん? オイシイかな〜〜〜  え もっと飲む? 」

 くちゅくちゅ くちゅ 〜〜

「 はいはい すばるクン もっと飲みましょうねえ 

 ・・・ あらあ〜〜  ほらほらあとちょっと 」

すばるは 顔をあげしっかりと母を見て  にこ〜〜〜〜 っと笑う。

 

      ・・・ きゃ〜〜〜〜〜〜

      なに なに これ〜〜

 

      て 天使だわ!  この子本当に天使 ・・・

 

      いや〜〜〜ん どうして?

      すぴかもすばるも 可愛いすぎる〜〜〜

 

      神様 どうかこの天使たちを

      わたしから取り上げないでください ・・・! 

 

母はすぐに二人の特性を感じ取り めちゃくちゃに愛情を注ぐ。

結果 ―  すぴかは  なんでも見るよ! な 大きな碧い瞳が魅力

そして すばるは  − その笑顔に敵うものはいない天然タラシ・ボーイ

となりつつある。

 

このちっちゃな・タラシ君 は両親と < おじいちゃま > を

生後数日で 陥落させ次は近所の掛かり付け小児科医・ヤマダ医院の老先生。

そして 若先生に看護士さん達 もちろん 受付のおね〜さん も☆

さらには 地域の交番のお巡りさんズ を全員蕩ける笑顔にし

・・・  着々と進攻の手を広げつつあるのだ。

 

      ウチの双子って ・・・

      ― 最強だわ !

 

母はしみじみ思っている。

 

      やっぱり  ジョーの子 なのねえ・・・

 

自分の中で育て産んだ存在なのに 彼らの中には紛れもなく

ジョーの姿がある。

 

      ・・・ なんだか不思議 ・・・

      命って とっても神秘的だわ

 

 

「 おいし〜〜〜〜〜!! おと〜さん ・・・ 」

「 そうか そうか  よかった〜〜 」

「 ん〜〜  ねえ もっと〜〜〜 

「 おっとこれはしばらくお預けだな。 」

「 なんで〜〜〜 おと〜さん 」

すぴかが 父のエプロンをツンツン引っ張る。

「 あのね お昼寝してもらうと  も〜〜っと美味しくなるのさ 」

「 ふうん ・・・? 」

「 すぴかもすばるも お昼寝すると元気になるだろ?

 マーマレードさんも一緒さ 」

「 ふうん ・・・   アタシ もしゃもしゃ すき! 」

「 僕 あま〜〜いとろ〜〜  すき! 

「 うんうん お父さんも好きだよ。 

 さあそれじゃ すぴかとすばるもお昼寝しようか 」

「 え〜〜〜〜 まだあそぶ〜〜〜〜〜 」

「 僕ぅ・・・ ま〜まれ〜ろ たべるぅ〜〜 」

「 なあ 二人とも。 マーマレードさんは もっともっと美味しくなるために

 これから瓶の中でしばらくお昼寝するんだ。

 だから すぴかとすばるも もっと元気になるために 

 しばらくお昼寝しようよ 

「 ・・ ん〜〜〜 ・・・ 」

「 ま〜まれ〜ろ〜〜〜 」

「 すばる  おひるね しよ? 」

「 ・・・ ま〜まれ〜ろ ・・・ 」

「 おいしくなったの たべよ〜〜 」

「 僕ぅ〜〜 ま〜まれ〜ろ〜〜 」

「 あとで !! 

「 ・・・ ったあい すぴか ぶったあ〜〜 

「 ぶってないもん 」

「 ぶったあ〜〜 」

「 こらこら ケンカするなよ  ほらほら 」

チビ達はまだぐずぐず言っているが ジョーはさっさとエプロンを取り

二人の手を引く。

「 さあ トイレ 行ってこようね〜〜  」

「「 ・・・・ 」」

むす〜〜っとしつつも トイレを済ませ戻って来れば

 

    ふぁ 〜〜〜〜    あふ・・・・

 

キッチンでの活躍の後なのだ、小さな欠伸が湧き上がってくる。

「 おや〜〜 オネムかな〜〜〜 

 じゃ 今日はここのソファでお休みなさい かな〜〜 」

「 ・・・ ん ・・・ 」

「 ・・・ くちゅう〜〜 」

ジョーの両隣で すぐに色違いのアタマは沈没してしまった。

 

「 あは ・・・ もう寝ちゃったよ〜〜 他愛ないねえ 」

「 ・・・ ジョー すごいわあ 〜〜 」

「 え なにが 」

「 なにって チビ達の扱いよ。 

 わたし 毎日お昼寝タイム、大変なのよ〜〜 

 全然 ねんねしないんだもの 二人とも! 」

「 あ〜 いっぱい遊んでオヤツ食べれば 

 まあ 普通 ニンゲン誰でも眠くなるさ。 」

「 そうだけどね・・・ 」

 

       ほっんとに 小さい子の相手が上手なのよね

 

       ・・・ そうだわ。

       最初に出会った時にも 思ったのよね 

       イワンの世話、すごく手際がいいって

 

       若いオトコの子が ・・

       他人の赤ん坊のオムツなんか替えれる フツ〜?

 

       ・・・ 触るのも苦手って多いはずよねえ

       

       そうよ だからあんなコト、訊いたのよね 

 

まだ出会って間もない頃 ― 声を掛けるにも気を使っていた頃。

それでも どうしても聞かずにはいられなかった・・・

「 あ ・・・ ぜ 009? 」

「 ? あ ・・・ え〜〜と ・・・? 」

茶髪の少年は 赤ん坊を抱っこしつつこちらを見た。

・・・ にこにこして。 ほっんとうに嬉しそうに。

「 え ・・・ 003 よ 」

「 あ そうだったね 3番さん。 なに? 」

「 ええ  あのう ・・・ 」

「 うん? 」

「 009は赤ちゃんの相手が上手ね 世話も 」

「 え〜〜〜?  だってさ なんかこう・・・

 赤ん坊って ほんわかしない? 可愛いよね〜〜

 ってもっとも彼の中身はスゴイけど 」

彼は 屈託なく笑うのだ。

「 ええ  そうね ・・・ でも とても手際がいいのね 」

「 そうかなあ  まあ 慣れてるから さ 

「 そうなの?  ふうん ・・・ 」

その時はそのまま 何気なく話題を変えてしまったけれど ー

 

       慣れてる って 赤ん坊の世話が??

       ベビー・シッターのバイトとかやってた??

 

       でも男の子が ・・・

 

        あ トシの離れた弟とか いたのかしら

 

「 そっか・・・ 」

広い庭のある邸宅で ( 例の夏ミカンの木とか生えていて )

立派で優しい両親と 小さな弟と 仲良く楽しく暮らした・・・?

もう彼女の妄想は止まらない。

 

       きっとそうだわ!

 

       きゃ〜〜〜 なんか 物語の主人公だわねえ・・・

       もしかして・・・ 

       上流階出身で 貴族とかなのかしら?

       苗字に ド とか デ とかついてないけど・・・

       お城に住んでいたのかも・・・

 

       ! でも。 ・・・ こんなコトになって。

       ご両親はさぞかし ・・・

 

ずきん、と胸の奥が痛む。

一番最後に 彼が < 仲間 > になったのは つい最近 なのだ。

「 ・・・ あの  ジョー?  ジョーはこの辺りの出身なのでしょう? 」

「 あ うん そうだね〜  湘南育ち さ 」

「 ・・・ あの ・・・ お家に 帰らない の・・・? 

「 え ー  」 

「 だって ・・・ そのう  ご両親 すごく心配しているでしょう?? 

 探していらっしゃるのでは ないかしら 」

フランソワーズは ものすごく言葉を選んで選んでしまう。 

「 ご ごめんなさい 余計なコト言って・・・でも 」

「 ううん 気にしてないから 」

 

     にこ・・・  彼は屈託なく微笑んだ。

 

そして ― 

 

「 ― あ ぼく。 親の顔、知らないんだ 」

「 ・・・ え ・・・? 」

「 知らなかった? ぼくさ 教会の施設で育ったんだ 

 赤ん坊のころからさ ・・・ 」

「 ・・・ え ・・・ 」

「 だから ぼくが行方不明になっても気にかけてくれるヒトなんか いない 」

「 ・・・ ・・・ 」

フランソワーズは 固まってしまい、思考もなにもかも一瞬停止してしまった。

 

         から〜〜〜ん ころ〜〜ん♪

 

次の瞬間 フランソワーズのココロの鐘が 高らかに鳴った。 

 

       このヒト この笑顔が 好き。

       ― わたし 彼に出会うために

       彼を愛するために

 

        サイボーグになったんだ ・・!

 

どうしてそういう風な思考に至ったのか ― 全然わからない。

でも! 直観的に感じてしまったのだ 閃いてしまったのだ。

 

   そして  ―  しっかりと思い込んだ、瞬間に。

 

女子の思い込み は鉄壁だ。

たとえBGのミサイルでもどこかの超能力者の攻撃でも 難攻不落。

一見 忘れたかに見えるが と〜〜んでもない。

地下に隠し密に温め続ける ―  それが 女子の思い込み!

その強さ 持続性の長さ を 多くのボンクラ・♂どもは気付いていない。

 

 ―  それから  まあ 紆余曲折が多々あったけれど

彼と彼女は 家庭を築き子供たちに恵まれた ・・というワケなのだ。

 

 

        ほっんとうに ・・・

 

        < お父さん > になるために

        生まれてきたんじゃないの ジョー?

 

フランソワーズは 感心しきって夫の姿を眺めてしまう。

「 ・・・ あは もう二人ともぐっすり だよ 」

「 ・・・ すごい ・・・ 」

「 え? なにが 」

「 ジョーってば すごいわあ  天性の保育士さんだわ 

「 え〜〜 なんで 」

「 だってチビ達の扱い方、天才的よ? 」

「 それは さ。  あのチビ達が きみとぼくのコドモ達だから だよ 」

「 そうなの?  でも イワンの世話も上手だったでしょ 」

「 あ〜れは。 慣れ だってば。  施設でさんざんやってたから。

 きみだってさ 最初から見れば随分手早くなったじゃん 

「 ・・・ そりゃ。 毎日 二人分 ですから 」

「 二人分 シアワセだよなあ ・・・ 涙 でちゃうよ 」

「 ・・・ え ? 」

「 一人だって可愛いのにさ ウチは × ( かける ) 2  なんだぜ?

 も〜〜〜 めっちゃ幸せじゃん ♪ 」

「 ・・・ ジョーってば ・・・ 」

彼は 本気で シアワセ 〜〜 と思っているのだ。

二人を同時に育てる 超〜〜〜大変さ は ジョーにとってはシアワセニ倍。

 

        すご ・・・ い ・・・

        大変さを楽しんでいる ってこと?

 

        そうよねえ オムツ替えやら 夜中のミルク、   

        ちっともイヤな顔 してなかったわね

        なんか楽しそう〜〜に やってたっけ・・・

 

 

「 わたし すばるが心配 」

「 え 」

「 だって  めちゃくちゃ可愛いわよ?

 あの笑顔に 勝てないもの。 ワガママを通してしまって・・・ 」

「 ふふふ ぼくも即行敗退だからな〜〜 

 でもさ 大丈夫だよ 多分。 ― ちゃんと テキ はいるよ 」

「 え  て 敵? 」

「 う〜ん 敵 というか、最大の味方かなア  」

「 ?? 誰?? 」

「 あは 常に側にいる彼の半身 さ。 」

「 え あ すぴか ?? 」

「 きんこ〜〜ん♪  すぴかはさ 最強の守護の天使だな 」

「 しゅ 守護の天使ィ〜〜?? 」

クリスチャンの彼女には 常に背後に控える翼をもった存在を

連想してしまい 目を白黒している。

「 そ。 神様ってすごいなあ〜〜って思わない? 

「 ・・・・ はあ・・ そう ねえ  」 

 

天下無敵の笑顔のすばるクン  ―  でもね 神様はちゃ〜んと 天敵 を

遣わされている。

 

 それが  同じ日に同じお父さん・お母さんから生まれた 姉。

    島村 すぴかさん である。

 

彼女に すばるの笑顔 は 通じない。 

ま〜 彼女にとってすばるは半分自分自身みたいな存在だから 

自分が笑って それがなに??  ・・・という気分らしい。

 

「 だめ〜〜〜〜  おか〜さん だめ っていった。」 

「 やあだ。 すぴかがさきだからね〜〜〜 」

「 すばる!  ごはん たべなくちゃ だめ 」

 

すばるに対しては完全に指揮管理下におき、時に暴君・・・でもあるけれど

外敵からは 雄々しく?? 彼を護る。

すばるにちょっかいを出そうものなら すぴかは憤然と立ち向かってゆくのだ。

 

「 すぴか ・・・ ケンカしたらだめでしょう? 」

「 すばるのこと いじめた!  あの子、すばるのかみ ひっぱった〜 

「 そういう時にはね やめてね って言うのよ 

「 いった! でも またひっぱったから ・・・ 」

「 それなら オトナの人に言うの。 わかった? 」

「 ・・ ぶ〜〜〜 」

元気と情熱のカタマリ、島村すぴか嬢は 正義の味方 でもあるのだった。

今 母は彼女の 暴走? を押されるのにあたふたしている。

 

 

双子達の行動範囲はどんどん広がってゆく。

裏庭は 温室だの洗濯モノ干し場だのハーブ畑だの・・・

ごたごたいろいろあるのだが ― それが楽しいらしい。

チビ達は わいわい・・・走り回っている。

すぴかなんか ちょいと転ぶくらいなんとも思っていない。

擦り剥いた膝小僧は 自分で舐めて治す! もちろんちゃんと完治する。

 

「 あ すぴか! その木はまだ登れないよ〜〜 」

「 え〜〜 」

すぴかが裏庭にある細っこい木に取りついている。

その木はすら〜〜〜っと伸びて 枝を上の方に広げている。

樹皮はつるり、といしていて 足を掛けるところもない。

さすがのすぴかも コアラみたいに抱き付いているだけだ。

「 まだ細いからね〜〜 無理に登ったら折れちゃうよ 」

「 ・・・ ふうん  すぴかね〜 このはっぱ すき 

 つるつる ぴかぴかなんだもん。 」

つやつやした大きな葉っぱを すぴかはそう〜〜っと撫でている。

「 キレイだよねえ  これはね 柿 さ。」

「 かき ?  」

「 そ。 秋に食べたの、覚えているかな〜〜〜 」

「 ・・・わかんない 」

「 オレンジ色の実なんだ 美味しいよ〜〜  

「 このきに なるの ?  」

「 あ〜 これはまだだな〜〜  まだちっちゃいんだ 

 すぴか達と同じさ 」

「 ふうん ・・・ いつ なる? 」

「 う〜〜ん  柿 八年っていうからなあ 」

「 ??? かき はちねん ??? 」

「 そ。  そうだなあ すぴかが小学生になってから かな  

「  ふうん・・・ 」

 

ジョーのリクエストで植えた 小さな柿はなんとか生育しているが

まだまだ 実を結ぶには至っていない。

その日から すぴかは毎日  < かき > に お水をあげて

周りの草を引き抜いたり している。

「 かきさあ〜〜ん  おっきくなあれ〜〜 おっきくなあれ〜〜 」

「 すぴか  これ なに 」

「 すばる〜 かきさん だよ。 おいしいみがなるんだって 」

「 え!  あまい かな〜 」

「 あまいよ!   ・・・ きっと 」

「 すばるもお水 あげる〜〜  あま〜くなあれ〜 

 

表庭も裏庭も 家族の歴史と共に変わってゆく。 

 

Last updated : 06.14.2022.           back     /     index     /  next

 

 

**********  途中ですが

賑やかな時代、 庭の方もどんどん賑やか?に・・・

夏ミカン・ママレード作り は かつて名人の友がいました

・・・ どうしているかなあ ・・・ ( 遠い目 )