『 それから・ウチの庭 ― (1) ―  』

 

 

 

 

    ぺたぺたぺたぺた 〜〜〜〜

 

    きゃは〜〜〜〜 わい〜〜〜〜〜

 

小さな足音とご機嫌ちゃんな声が 庭中に響き回る。

「 ! すぴか〜〜〜〜〜 !! お靴 はいて〜〜〜〜 」

後ろからお母さんの声が追い掛けてゆくが 全然追いつかない。

 

    きゃははは〜〜〜  わあああい〜〜

 

「 すぴか〜〜〜〜〜  まって まって〜〜〜〜 」

母は必死で追うのだが ― 

「 ! もう〜〜〜  なんて速いのぉ〜〜  すぴかぁ〜〜 

はあ・・・と お母さんはもう諦め顔で足を緩めてしまった。

「 はだしでお外にでたら ダメでしょう〜〜 怪我しますよ

 あんよ イタイって!  ねえ 戻ってらっしゃ〜〜〜い 」

 

     きゃはは〜〜 おか〜さ〜〜ん  きて〜〜♪

 

歓声は 戻ってくるどころかますますヴォリュームアップしてゆく。

「 っとに〜〜  す ぴ か 〜〜〜〜 !!! 」

「 おか〜さん ? 」

ぴと。  母の手に小さな手と茶色の髪がくっついてきた。

「 あ すばる。 ごはん 全部食べた? 」

「 ん。 ぎうにうものんだ〜〜 」

彼女の小さな息子が にこにこ・・・ 見上げてくる。

「 そう いいこね〜 ちょっと待っててね すぴかを連れ戻すから 

「 すぴか どこ? 」

「 ほら・・・ お庭の中 走り回ってるの!

 お靴も履かずに!  足の裏、怪我をしちゃうわ〜〜 」

「 あんよ いたい になるの? 

「 そうよ だからすばるクンはちゃんとお靴を履きましょうね 」

「 ん〜〜   すぴかぁ〜〜〜 おくつ〜〜〜 

すばるは 庭で駆けまわる姿に向かって 呼んだ。

「 すぴかぁ〜〜 」

 

     ぺたぺたぺた〜〜〜  とん。

 

突然、というか あっという間にフランソワーズの小さな娘が戻ってきた。

ぴと。  姉は同じ日に生まれた弟のほっぺに顔をくっつける。

「 すばる! ごちそ〜さま した? 」

「 した〜〜 」

「 じゃ あそぼ 」

「 ウン! すぴか〜〜 あんよ ふきふき  」

「 ・・・ ん 」

姉は 実に素直にぺたん、と座って自分の足の裏をみている。

「 ふきふき〜〜 するね? 」

弟は雑巾で 姉の足の裏を撫ぜ撫ぜ・・・

 

       なんで すばるが呼ぶと速攻で戻ってくるわけ??

       そんなに大きな声でもないのに・・・

       なんで 聞こえるわけ??

 

       ― やっぱり双子には敵わないわあ 

       特殊・極秘の 脳波通信 搭載 かも・・・

 

       ・・・あ〜 もうわたし 本当におばあちゃんだわ

       お古の時代遅れ・サイボーグ・・・かも

 

003は なんだか情け無い気分でチビ達を眺めてしまう。

「 ほうら ・・・ すぴか あんよをキレイキレイして 

「 きれい した!  すばる がふきふき〜〜 」

「 ん! 僕 ふきふき〜〜〜 」

二人の間では ちゃ〜〜んと役割分担? が成立している。

「 ・・・ なんかさすが というか 

母は すこし感心、というか呆れ顔で我が子たちを眺めている。

 

「 ああ すぴか、戻ってきたか  ほれ これで足を 」

博士もにこにこ 雑巾を差し出す。

「 すこし濡らしてあるから・・・ さあ一人で できるかな? 」

「 できゆ!  あ〜〜〜 おじ〜ちゃま〜〜  ありがと〜 

すぴかは テラスにぺたん、と座りこむと

小さな足をごしごし拭いている。

側には すばるがぴったりくっついている。

「 すぴか お母さんを困らせちゃだめだぞ?

 まあ ウチの庭なら裸足でもいいのではないかい 」

「 庭だけなら、ですけど。 放っておけば ご門の方まで行っちゃうんです

 敷石の上でも砂利の上でも 平気でどんどん〜〜  」

「 ・・・ そりゃ・・・ 」

「 ほうら あんよ だして? キレイになったかなあ? 」

「 ん! 」

すぴかはちっちゃなあんよを ひょいと母の目の前に持ち上げた。

「 ・・・ん〜 よし!  すぴか〜 すとれ〜〜っち! できる? 」

「 ん! すとれ〜〜〜〜 っ 

今度は反対側のあんよをお耳の横までひょい、と持ちあげた。

「 はい お上手〜〜 すばるくんもやってみる ? 」

「 ・・・ 僕 いい。 すぴか〜〜 あそぼ 」

「 あ〜〜 すぴかさん すばるくん そろそろオヤツですよ〜〜 」

お母さんがにこにこしている。

「 わあい〜〜 お手々 あらってくる 」

「 いっしょ いく〜〜〜 」

 

   ぺたぺた とたとたとた・・・

 

可愛い足音は 一緒にバス・ルームに向かう。

「 あ〜らら ちょっと待って おか〜さんも一緒します 」

「 おか〜さんも おてて ごしごし? 」

「 ごしごししますよ〜  ほら一緒 」

「「 うん! 」」

ちび達は お水をいじれるのでご機嫌ちゃんなのだ。

 

        だって見てないと!

        たちまち 水遊び になっちゃうから!

 

母は監視役を果たすために双子を追ってゆく。

 

    きゃ〜〜 あはは  うふふふ〜〜〜  ほら お手手!

 

バス・ルームからの歓声を楽しみつつ 博士は一人、頷いていた。

「 ― やはり 池は埋めるとするか。

 子供は水遊びが好きだし ・・・

 すぴかが ざんぶり、してからでは遅いからのう 」

博士の視線は笑みを含んではいるが きっちり庭を見据えている。

「 チビさん達が大きくなったら また造ればよいし なあ 

 ジェットもオッケーしてくれるだろう 

 

  ― 庭の 池。  築山の裾に造った < 水溜り >。

 

ジェットのリクエストで 掘った池なのだ。

もっとも ご本人の希望よりもか〜〜なり ( いや 激しく )

ミニチュア化したけれど・・・ 。

「 あ〜〜  みずたまり かあ〜   ま いいじゃん? 

 わほ!?  なあなあ 池の水にさあ雲が映ってんじゃ〜〜 」

「 掃除するぜ〜〜〜  石とか洗ったる!

 え?? そのまま?  え〜〜〜 緑色になってんじゃん?

 ・・・え?? 金魚のエサになる???

 へえ〜〜〜〜〜〜〜  」

来日するたびに 結構熱心に 池 の周りをウロウロしていた。

 

「 なあ ピュンマ〜〜〜   潜ってみっか? 」

 

この発言を巡り 彼は < 鼻白む > という表現を

身をもって学習した ・・・ はず!

 

さて その池 だが ― 

それなりに不思議と和洋中華折衷な風景にマッチしていた が。

結局 カモは飛来しなかったし。 

何匹も放った金魚は 遊びにくる近所の猫さんたちのお腹に入ってしまった・・・・

最近、庭に出ると 双子たちが池の縁に座り込み

親たちも博士も 水面に手をのばす光景を何回も見ていた。

必ず誰かが側にいるので  お手手〜 濡れちゃうよ、と 彼らの

野望 を阻止してきたが・・・

 

「 ま ウチが静かになったら また造ればよいのじゃ。

 今は チビっこ台風 に しっかり備えておかんとなあ 」

 

    トタトタトタ ・・・ ぱたん ぱたん ぱたん

 

件のチビッ子台風が バス・ルームから戻ってきた。

「 おじ〜ちゃまあ〜〜  あのね あのね さっきおにわ でね〜〜 」

すぴかが ぽん、と飛び付く。

「 ほいほい すぴか。 今日はなにを見つけたのかな 」

「 ん〜〜〜 あのね  おにわにね かえるさん いた! 」

「 ほう? カエルさんか  茶色の大きいのかね 緑のちびっこかい 」

「 みろりのちびっこ!! あじさいさんのとこにいた 」

「 そうか そうか  あとで一緒に会いにゆこうか 

 ちびっこカエルは元気かな〜〜って?

「 うん!! 」

「 それで お手手はキレイになったかい? 」

「 うん!! 」

すぴかは紅葉よりも可愛い手を パア〜〜っと広げてみせた。

「 ほうほう  キレイに洗えたな 」

「 ぼ 僕も 僕もぉ〜〜〜 

 

   ドタドタドタ ・・・ すばるが姉の側に滑り込む。

 

「 はい! おじ〜ちゃまあ 見て! 」

「 お〜〜 すばるのお手手もキレイじゃなア 」

「 うん!! 」

「 それでは  さあ オヤツかな 」

「「 うわああ〜〜い!  」」

「 これこれ ・・・ 家の中では走らんよ。

 ゆっくり行きなさい 」

「「 はあい  」」

二人は 素直に手をつないでキッチンに飛んでいった。

一生懸命 早足 で。 はしってないも〜〜ん って顔で。

 

「「 おか〜さ〜〜ん  お手手 あらったア 」」

「 はいはい それじゃ 椅子に座ってね〜〜 オヤツです  」

「 きゃい〜〜〜〜  アタシ! はい す〜〜わった 」

すぴかは即行で 子供椅子 によじ登る。

「 ・・・ ぼ 僕 ・・・ あ あ〜〜 う〜〜

オシリの重いすばるは ぼてぼて苦戦中。

お母さんは 笑ってみているだけ。 手を貸してはくれない。

「 すばる! 」

すぴかは するり、と椅子からすべり降りると 弟の側に飛んでゆき

「 う〜〜〜んしょぉ〜〜 」

彼のふくふくオシリを押し始めた。

「 あ  うん う〜〜んっと・・・ あ  の のぼれたア 」

「 やた。  〜〜〜〜 ん。  おか〜さ〜〜ん すわったぁ 」

すばるを押し上げてから すぴかは即行〜〜 で自分の椅子に登るのだ。

 

      ・・・ この子、加速装置 あるの??

      なんでこんなに素早く動けるのかしら

 

「「 オヤツ〜〜〜 」」

「 はあい。 二人ともよくできました(^^♪ 」

 

   ちゅ♪  ほっぺにママンのキスでチビ達は大にこにこ☆

 

「 さあ ミルク・ティ ですよ 

ミルク・ティのポットを手に 母は笑顔で でもよ〜〜〜く

チビ達を観察している。

すぴかもすばるも 小さなマグ・カップから大好きなミルク・ティを

一生懸命飲んでいる。

 

   こくこくこくこく〜〜  すぴかは咽喉を鳴らし

 

   ぺろぺろぺろりん〜〜  すばるは舌をだして舐める

 

「 すぴかさ〜ん もうちょっとゆっくり飲みましょう?

 すばるく〜ん 猫さんや犬さんじゃないから 舐めないの  

「 ん〜〜〜  おいし〜〜〜 もん、 おか〜さん  

「 んん おいし〜から 僕 ゆ〜っくりのむ〜〜 」

「 ほらほら こぼしてますよ すぴか。

 ゆっくりでもいいから 飲んで ください、舐めませんよ、すばる。

 あなたは 猫さんでも犬さんでもありませんよ 」

「 ・・・ ん〜〜〜 っ!  おいし〜かったァ〜〜〜

 おか〜さん おかわり ほしいで〜す〜〜〜 」

「 すぴかさん 麦茶でもいい? 」

「 いい! むみちゃ すき〜〜〜〜〜 」

「 おか〜さ〜〜ん 」

「 はい すばるもお代わり? 」

「 ん〜〜んん 僕ね もっとおさとう いれて〜〜 」

「 すばるクンのには ちゃんとお砂糖、入ってます。 」

「 もっと・・・ 」

「 ビスケットと一緒に食べれば? 甘い味、するでしょ? 」

「 ・・・ おか〜さん アタシィ〜〜〜 」

「 はいはい すぴかさんは 堅焼き・おせんべい ですよ 」

「 わい〜〜〜〜  おせんべ だいすき〜〜〜〜 」

姉は 煎餅をばりばり齧り 弟は ビスケットをちまちま齧っている。

「 二人とも ゆっくり食べましょうね 」

母は 布巾片手にがっちり監督をしている。

 

     ・・・ ホントに。

     全然違うんだから ・・・

 

     一緒にお腹の中に詰まってて

     同じ日に生まれてきた って

     わたし自身でも信じられないわ

 

「「 ごちそ〜〜さまでした 」」

お行儀よく手を合わせた後 ・・・

「 おそと ゆく! 」

すぴかは子供椅子から半ば飛び降りて テラスへ ―

 

   がし。  母がトレーナーの裾をがっちり握った。

 

「 すぴかさん。 食べた後は <ちょっと おやすみ >。

 リビングで ごほん よみましょ 」

「 ・・・ はあい ・・・ 」

「 ほら おじいちゃまが新し絵本ですよ〜〜って。

 『 わらしべ ちょうじゃ 』 ですって 」

「 わ!  新しいごほん〜〜〜??  どこどこ〜〜〜 」

「 こっちよ〜〜〜  すばる?? まだ食べてるの? 」

「 ん〜〜〜 まだ びすけっと ・・・ 」

すばるは ちまちまビスケットを齧り、楽しんでいる らしい。

「 そう?  食べたらいらっしゃい。 ご本 よみますよ 」

「 はあい 」

リビングには 低いソファがあり、 ご本を読む 時には

いつもここにチビ達があつまるのだ。

「 おか〜さ〜〜〜ん  ごほん どれ〜〜 」

「 はいはい  ・・・ もう いっつも加速中なんだから ・・・ 」

 正反対に近い姉弟の性格に 母はこっそりため息をつく。

「 ねえ ねえ ごほん〜〜〜 」

すぴかは 手近な数冊の絵本を抱え 駆け寄ってきた。

「 あらら ・・ リビングのソファで待っててって・・

 ほら 一緒にゆきましょ 」

「 ウン! すばる〜〜〜 ごほん よも? 」

「 すぴか〜〜 僕ね びすけっと たべてるから 」

「 ふうん? じゃ まってるね〜〜 」

「 うん! 」

 

   どぴゅ ・・・ !  金色アタマはキッチンから消えた。

 

「 ・・・ もう・・・ いつだって駆け足なんだから 」

母は 低くつぶやきつつ 息子に椅子から降りて、と言った。

「 え〜〜 でも まだ びすけっと ・・・ 」

「 お母さんがとっておきます。 さあ いっしょにごほん、

 よみましょ? 」

「 ん 〜〜〜〜 」

「 すばる〜〜〜  はやくぅ〜〜〜 」

 

   どぴゅ  どぴゅ  再び金髪アタマが飛んできて 去った。

 

「 ・・・ もう ・・・ い〜っつも走ってるのねえ 

 いったいどこからこのエネルギーが沸いてくるのかしら 」

 

この元気すぎる娘に  多動では  と母は心配したが 

掛かり付けの小児科医・ヤマダ老先生は明快に解説してくれた。

この老医師は 近隣のコドモ達のことはすべて! 了解していてくれる。

 

「 いやいや。  ほれ すぴかちゃんは大人しく座ってお話が

 聞けますよ? 自分で絵本も読める おしゃべりも得意だし。 

 大人の会話にもついてゆく。

 心配はいらんですよ、お母さん。 むしろ とてもお利口さんですな。 」

「 でも ・・・ 走りだすと もうあっと言う間に・・・ 」

「 ははは その答えは簡単ですよ 」

「 え ・・・? 」

「 ふふふ  すぴかちゃんはね ― 生まれつき滅茶苦茶に足が速いんです。」

「 ・・・ はあ ( ジョーの子だものねえ ・・・ ) 」

「 将来が楽しみですな  アスリートへの道 一直線です 」

「 ・・・ どうですかしらねえ ・・・ 」

フランソワーズは こっそり、ため息だ。

待ちに待った娘の誕生に 彼女は大喜びだった。

 

     嬉しかったのよねえ ・・・

     最高の味方が生まれてきてくれたって。

 

     ええ 勿論 オトコノコも大好きよ

     けどね やっぱり女の子同士って特別なの。

     可愛いリボンやレースで飾るの♪

     ふわふわのスカートを着せてレエスのソックスに

     赤い靴(^^♪ 

 

     きゃ〜〜〜 お揃いのワンピもいいわね〜

     少し 大きくなれば ―

     一緒にお稽古 できるわ〜〜って。

     一緒に踊れるわ〜〜 って

 

生まれてきた娘は しなやかな腕や脚をもちとても元気な子なのだ。

フランソワーズは 密かに?狂喜乱舞していた・・・ 

「 確かに ものすごく元気で丈夫な子よね ・・・

 でも ・・・ ちょっとわたしとは違う かなあ 」

ほとんどネンネしている赤ちゃんの時代から そんな風に感じていた。

 

     可愛いわ 食べちゃいたいくらい!

     でも ね。

 

     やっぱり わたしとは違うヒト なのよねえ・・・

 

     確かにわたしが生んだわたしのコドモなんだけど。

 

     でも 違うニンゲン なんだわねえ

 

淋しいとかがっかり とかではなく、フランソワーズは

自然にその感情を受け入れていた。

 

 

 ― さて  リビングでは・・・

 

「 〜〜 くらしたのでした。  おしまい 」

フランソワーズはゆっくりと絵本を読み終わった。

「 ・・・ おしまい? 

「 はい。  おしまい よ。 」

「 おうじさま と おひめさま どうしたの?? 」

すぴかが とてもとても真剣な顔で母にたずねる。

「 え ・・・ だから ふたりはいつまでもしあわせに

 くらしました  ですって 」

「 しあわせ ってなあに 」

「 あ〜〜  えっと ・・・ 毎日 にこにこ笑っていました 

 っていうこと。  すぴかさん達みたいに ね 」

「 ごはんたべて あそんで? 」

「 ・・・ ああ そうねえ お城でね 」

「 ふうん ・・・ 」

「 オヤツも たべたよね〜 」

反対側から すばるがの〜んびり口をだした。

「 そうね オヤツもね、美味しい、美味しいって 」

「 びっくりまん・ちょこ たべた? 」

「 う〜〜ん ・・・ わかんないけど・・・・ 

 チョコレートはきっと食べたと思うわ 」

「 そっか〜〜 びすけっと たべた? 」

「 ええ ええ ビスケットも きっとプチ・ケーキも食べたわね 」

「 えへへ  僕 おうじさま と おひめさま といっしょだあ〜 」

「 そうねえ すぴかとすばるも < いつまでもシアワセに

 くらしました > でしょ 」

「 うん!  おか〜さん おにわ、いっていい 」

「 僕も 僕も〜〜  」

チビ達、しばらくは大人しくしてたが もう元気があふれ出てきたらしい。

 

       ・・・ ほんとに ・・・

       若い というか 

 

       元気 が服を着ているんだわ

 

少々げんなりしつつも 母はにっこりしなければならない。

「 はいはい  ちょっと待っててね 

 お母さん ご本をしまってお帽子を取ってきます。 」

「「 はあい 」」

「 ここにいるのよ? まだお外に出てはだめよ? 」

「「 はあい 」」

すぴかもすばるも 可愛い笑顔でいいお返事・・・なのだが

これはてんで信用ならない ― 母はちゃ〜〜んと知っている。

「 ん〜〜  サッシの鍵 閉めておこうかしら  

「 ああ ワシが見ているから。  安心しておくれ。

 ゆっくり準備をしてきなさい 」

博士が ちゃんと助け船を出してくれた。

「 わあ ありがとうございます〜〜  じゃ ちょっと・・・ 

 すぴか〜〜 すばる〜〜〜 待っててね 」

「「 はあい  」」

 

   パタパタパタ −−−  

 

フランソワーズは二階に駆けあがり 日焼け止めを塗り髪をまとめ

帽子をとって ― お手洗いにもゆき 駆け下りてきた。

 

「 おか〜さ〜〜ん はや〜い 」

「 はや〜〜い 」

姉弟は ちゃ〜んと博士と待っていた。

「 はい お待たせね〜〜  すぴか すばる 

「 あのね〜〜 おトイレ いった! 」

「 おトイレ〜〜〜  ね〜 おじいちゃま〜 」

「 ちょいと水を飲ませて トイレも完了、じゃよ 」

「 まあ 博士 ありがとうございます。

 じゃあ お庭に行きましょうか。  おくつ はいてね〜〜 」

「「 はあい  」」

 

    カタカタ トタトタ  ごそごそ ・・・

 

チビ達は苦戦しつつも 一人で自分のスニーカーを履く。

左右逆でも どんなに時間がかかっても ― オトナは < 見守る > だけ。

「 さあ〜〜 お靴 はけた?  さ〜 お庭で遊びましょ 」

 

    わああ〜〜い !!   わ〜 きらきら〜〜〜

 

すぴかもすばるも 声をあげて駆けだした。

この邸の表庭は ずっと芝生になっている。

玄関の方や 門にでる小路に飛び出してゆかない限り 

チビたちは 自由に駆けまわれる。

 

「 すぴかってば 走りっぱなし ・・・

 ああ きっとこの子は ずっと まっすぐに走ってゆく のね。

 ・・・ それがすぴかの幸せなら それでいいわ 」

 

自分とはちょっと違う感性を持った娘を フランソワーズはちょっと

複雑な想いで眺めている。

チビ達は 花壇の縁なんかを伝い歩きして大騒ぎ。

その花壇は  雑草の温床になっていた。

 

「 あ〜 今年も花壇の手入れ、出来てないなあ ・・・

 ごめんねえ ・・・ チビ達がもうちょっと大きくなったら

 また いろんなお花 植えたいなあ ・・・ 」

テラスからずっと建物に沿って伸びている花壇 ― 四季おりおりの花を育て

楽しんでいたが ―  今は  少々休憩中。 

 

      ああ また球根とか 植えたい〜〜〜〜

      アサガオだっていっぱい咲かせたいなあ・・・

      あれって 夏の朝〜って気分で好きよ

      向日葵も素敵よねえ・・・

      

      !  あ〜〜〜〜〜 !!!

 

ふと 視線を移せば ― 庭の出口の 薔薇のアーチが揺れている。

薔薇本体は 園芸ライフを少々パスをしている間に

反対側に伸びていってしまい アーチだけが残っているのだが ―

 

「 きゃは〜〜〜 おあ〜さ〜〜〜ん ! みて みてぇ〜〜〜 」

「 すぴか〜〜〜〜  おりてぇ〜〜〜〜 」

 

すぴかが 細いアーチの途中にとりついて にこにこ手を振っているのだ。

「 ! ・・・ じっとしてて! 」

 

  ( 加速そ〜〜ち! ) 心の中で唱え一歩 踏み出した時―

 

「 こおらあ〜 すぴか。 ここはのぼっちゃダメだよ? 」

大きな手が すぴかをゆっくり抱き留めていた。

「 あ〜〜〜〜   おと〜〜〜〜さ〜〜〜〜ん !!! 」

「 おと〜〜さ〜〜〜〜ん ! 」

すぴかは そのままその腕にぎっちりと抱き付き

珍しく駆けてきたすばるは どん! と父の脚にしがみつく。

 

「 あはは すぴか〜〜 すばる〜〜〜 ただいまあ〜〜 」

「「 おと〜さ〜〜ん おかえりなさああい〜〜 」」

「 ジョー! お帰りなさい〜〜 早かったのね 」

「 ただいま フラン。  あは 今日は土曜だよ? 」

「 あら そうだったわね。  ランチ、まだでしょう? 」

「 ん〜〜 そうなんだけど・・・ 今はチビ達と遊びたいな  」

「 あらら  じゃあ お願いします。 」

「 お任せ〜〜  これ たのむ 」

「 了解! 」

彼はジャケットとカバンを細君に預けると ―

 

「 さあ〜〜 すぴか すばる〜〜 おと〜さんとあそぼ! 」

「「 きゃい〜〜〜〜 」」

「 すぴか  このアーチはねえ 薔薇さんのものなんだ。

 薔薇さんのために作られてるからさ   すぴかが登ったら どうなる? 」

「 ばらさんの? ・・・  ばらさん いないよ? 」

「 いま ちょっとお留守なんだ。   だから登って壊したりしたら

 薔薇さんは悲しいな って思うよ  泣いちゃうかな〜 」

「 ばらさん なかないで ! 」

「 じゃ のぼるのはもうナシ な。 」

「 ・・・ ウン ・・・ 」

「 そうだね すぴか。 それじゃ ― ほうらアーチよりも

 高いぞう〜〜〜 ? 」

ジョーは ひょい、と彼女を抱き上げるとちょん、肩車をした。 

「 ひゃっほ〜〜〜〜 

「 おと〜さ〜〜ん 僕もぉ〜〜 だっこぉ〜〜 」

ジョーの小さなムスコは 彼の脚にとりついたままだ。

「 お。 いいぞ 〜 お父さんにのぼっておいで 」

「 う  うん ・・・ 」              

「 よしよし さあ 引っ張るぞ〜〜〜 」

「 う うん・・・ 」

ジョーは小さなズボンを引き上げ すばるを小脇に抱えこんだ。

「 さあ ここでどうだい ? 

「 うわ〜〜 たか〜〜い〜〜〜 」

「 すばる〜〜〜 やっほ〜〜〜 」

「 すぴか〜〜 ヤッホ〜〜 」

父の肩の上から すぴかが手を振り、すばるもわしゃわしゃ振り返す。

「 ふふふ さあ〜 それじゃ 三人で 山登り しよっか  」

「 やまのぼり?? 」

「 そ。 山登り 」

「 え〜〜〜 おにわに やま あるう? 」

「 あるよ〜〜  ほら ここさ 」

「「 あ〜〜〜 」」

ジョーは 庭の真ん中のちょいと土を盛り上げ躑躅やら紫陽花が植えてある

築山の上まで 一跨ぎ。

「 ん〜〜〜 けしき いいですね〜〜 すぴか なにがみえる? 」

「 えっとぉ〜  あ なつみかんのき! 

「 ほう? すばる なにがみえるかな〜〜 」

「 ん 〜〜〜  おいけ! 」

「 そっか〜〜 それじゃしばらく周遊ツアーです♪ 」

「「 なに なに〜〜  」」

ジョーは ムスメとムスコを身体にくっつけたまま ゆっくり庭を

歩きはじめた。

 

 

 ― カタン。

フランソワーズは 戻ってきてゆっくりサッシを閉めた。

「 ? おや ・・・ チビさん達は・・・ 」

「 はい。 専任保育士が帰宅しましたので 」

彼女は ジョーのジャケットとカバンをみせた。

「 ・・・ ははは そうか。 それなら全面的に預けて正解だな 」

「 はい。  ― ただ 三人とも げでげで になりそう・・・ 」

「 ふふふ  ありゃ親子というより兄弟に近いなあ 」

「 ・・・ ホントに・・・  晩ご飯は一品 ふやします 」

「 いいことじゃ。 皆 たっぷり遊んでたくさん食べて 」

「 ― そうですね 」

 

       ―  ホントにねえ ・・・

       ジョーって こんなヒト だったなんて 

 

フランソワーズは シアワセの吐息を漏らすのだった。

 

 

Last updated : 06.07.2022.              index        /      next

 

********* 途中ですが

え〜〜 『 ウチの庭 』 その後、であります。

時間軸が移りまして 【しまむらさんち】 です♪