『 白鳥達の湖 ― (2) ― 』
***** 最初に お願い *****
・・・ とろ○でろ とか ぐらん・でぃ〜○ とかを連想しないでね☆
さて すこしばかり時間は遡る。
温かな日差しにほっこりとしていた空気も 日暮れとともにすう・・・っと冷えてきた。
どこまでも青く透明な光に満ちていた空は 次第に茜色に染まり始めた。
ザワザワザワ ・・・ 黒の森が 夕風にその夥しい葉やら枝を擦り合わせる。
― 森に 夜がやってくる。日の光から疎外されたおどろおどろしい漆黒の世界が・・・
ぴちょん ・・・・ !
湖では 大きな魚が跳ねた。
くる〜〜〜ん ・・・ クルゥ 〜〜〜〜 !
一際大きな声が聞こえて ― 白鳥達の大きな群れが降りてきた。
バサ バサ ・・・・ クルルル 〜〜〜〜〜
ザザザ ・・・ 〜〜〜〜
白鳥たちは次々に着水し、その度に水面が大きく揺れる。
「 クルゥ 〜〜〜〜 ? 」
先頭を飛んできた白鳥が 高い声で鳴いた。
ザザザ 〜〜〜 湖のあちこちに散らばっていた鳥たちは次第にその鳥を
中心にして集まり始めた。
「 ・・・ クル 〜〜〜〜 ン ! 」
クウクウ ・・・ ギャギャ 〜〜
彼らのおしゃべりなのか、賑やかな鳴き声が響く。 一日の情報を交換しているのかもしれない。
カ −−− ン ・・ カ −−− ン ・・・・
遥か彼方から 風に乗って鐘の音が聞こえてきた。
村の教会の鐘が 夕べの祈りの時間を告げているのだ。 この鐘の後、この季節だと直に
すとん・・・と 暗くなる。
ギャ ギャ ・・・ ク〜〜ゥ ・・・ 鳥たちの声が小さくなった。 眠りにつくのだろうか・・・
ザザザ 〜〜〜 キュゥ 〜〜〜 声はどんどん小さくなり彼らは集まったまま岸辺に
上がりだした。 大きな白鳥達も小さな、やっと羽根が白くなった子白鳥達も ・・・・。
― やがて 夜の帳が降り始めた時。
湖の畔には 茶色い髪の青年が立っていた。
カツ カツ カツ −−− ・・・・ !
駿馬の蹄の音が 夜の森に吸い込まれてゆく。
「 どうどう ・・・ そんなに急がなくてもいいのよ、ベル。
暗いから足元に気を付けてね ・・・ あ そろそろ湖が見えてくるはずよねえ・・・ 」
白銀のマントをゆらして 一人の少年が馬を駆ってくる。
「 あ。 見えたわ〜〜 湖よ〜〜 うわあ〜〜〜 お星さまの光がいっぱい映っているわ
すご〜〜い ・・・ 星の海 だわあ〜〜 ちょっと触ってみたいな・・・! 」
少年はひらり、と馬を降りた。 その瞬間 背中に豊かな長い髪がうねり、星の光を集め
煌めくのだった。 彼、 いや 彼女は 汀に近づいてゆく。
「 うふふ〜〜〜 いいわあ〜〜〜 夜の湖って ・・・ ステキ♪ 」
そうっと 水面に手をつけてみた。
「 きゃ・・・ 冷たい〜〜〜 そうねえ もう夜ですもの。 ふうん ・・・・
夜の湖って神秘的ねえ ・・・ もっと恐い感じかと思ってたけど ・・・ キレイ〜〜
あ いっけない〜〜 イワンちゃんを帰してあげないと ・・・ 」
彼女は チュニックの胸元にしっかり結んでいた肩かけを解いた。
「 〜〜〜 っと。 ごめんね〜〜 窮屈だったでしょ ・・・ よいしょ・・・ほら。 」
抱いていた赤ん坊が ぽろん、と肩かけの中から現れた。
フウウ 〜〜〜〜 ・・・ アリガトウ、ふらんそわーず姫 ・・・
「 ごめんなさいね〜 馬に乗ってきたから ・・・ びっくりしたでしょう?
あは ・・・ でも イワンちゃんって結構重いのねえ ・・・ びっくり。 」
姫君は こきこき・・・ 肩を回している。
フ フン ! デモ温カカッタヨ〜〜 イイニオイダッタシ♪
「 あら そう? よかったわ〜〜〜 さあ・・・ お仲間はいるかしら。
ねえ この湖のどこの岸辺に皆は降りてきているの? それともずっと湖に上に
浮かんでいるのかしら。 」
彼女は きょろきょろ辺りを見回した。
さすがの 遠目姫 でも、 星明りしかない水辺なのでよくわからない。
エ〜ト・・・? ア ホラ。 アノ木ノ向コウダヨ。
「 え? どこ? さっき飛んでいた白鳥さん達の群れがいるの? 」
ウ〜〜ン ・・・ マア 鳥ノ群レ トハちょっと違ウケド ・・・
「 ??? あ あっちね。 行ってみましょ。 よいしょ・・ 」
姫君は まるまる太った赤ん坊を背負い歩き出した。
「 ごめんね、窮屈で。 でもね〜 こうやっていれば 弓矢も使えるでしょ。 」
大丈夫ダヨ。 シカシ 勇マシイオ姫様ダネエ ・・・
「 うふふ〜〜 わたし ね。 弓矢も剣も一生懸命修業したの。 だから強いのよ〜
だって ・・・ お兄様みたいになりたかったから ・・・ 」
兄君ガイルノカイ。 イイナア 〜〜
「 とっても素敵で強くて優しいお兄様だったの ・・・ でも ・・・ 」
デモ・・・?
「 わたしがまだ小さい頃に ・・・ 浚われてしまったのよ。 」
いつも闊達で明るい彼女の声が 低くなった。
浚ワレタ? ・・・ 姫君ノ兄君ナラ王太子殿ダロウ?
「 ええ ・・・ わたしはよく覚えていないの。 でも何年も何年もお父様や
近衛隊の方々が必死で探しているのだけれど ・・・。 」
フウン・・・ 兄君ト似テイル? ヤッパリ金髪デ碧イ瞳カイ?
「 ええ。 お兄様の方が少し濃い青の瞳だけれど ・・・ 髪は同じよ。
森の悪魔に浚われた ・・・ なんていう人もいるわ。 」
フウン・・・ チョット僕ニ心当タリガアルカモシレナイ
「 え!? 本当??? お兄様の名前は ・・・
・・・ あら? だ 誰か いるわよ?? やだ ・・・ 盗賊かしら。 」
姫君は さっと木立の陰に隠れた。
前方のすこし開けた岸辺に なにやら大勢の人の姿が見えた。
騒いでいるわけではないが ザワザワとした空気が伝わってくる。
「 隠れていた方がいいかも ・・・ 盗賊はすっかり退治したって聞いていたけど・・・
国境を超えてきたのかしらねえ 」
背中の赤ん坊を背負いなおし 彼女はじっと様子を窺った。
ウン? ア! ヤア 〜〜〜〜 皆 〜〜〜 !!!
赤ん坊の声が いつになく大きく彼女のアタマの中に響いてきた。
「 え え??? 皆 ・・・って なに?? え 〜〜〜 」
ザワ ・・・! 人々が一斉にこちらを見つめた。
「 ! 見つかってしまったかしら。 ようし ・・・ 今夜は弓矢もあるし。
ベルのところまで戻れればなんとかなる ・・・ かも ・・・ 」
姫君はしっかりと弓を構えた。
姫? 大丈夫ダヨ〜〜〜 皆〜〜 タダイマ〜〜
「 ????? 」
ザ ・・・。 集団の中から 一人の青年がゆっくりとこちらにやってくる。
茶色の髪が揺れ、その間から柔らかい光を湛えた瞳がこちらを見ている。
「 ・・・ イワン?? そこにいるのかい。 」
穏やかで優しい声だ。
「 え ・・・ 盗賊ではないの?? イワン・・・って ねえ イワンちゃん、
あの人・・・ アナタの知り合いなの? 」
仲間ダヨ。 大丈夫、皆ノトコロニ連レテ行ッテクレルカナ〜
「 え ええ いいわ ・・・ でも 弓はこのままで行くわ いい? 」
姫君は しっかりと弓を構えたまま 茂みの陰から身を現した。
「 ! ・・・ これは これは ・・・ 」
青年は脚を止め 目をぱちくりしている。 驚いているが微笑を浮かべている。
「 あ あの! イワンちゃんが 連れて行ってって あの〜〜 」
珍しく姫君が口ごもっている。
なんだか ― 素敵なヒト ・・・ ね!
その時 森の真上にゆっくりと月が昇ってきた。
柔らかな優しい光が 森に湖に降り注ぐ ・・・ 夜の帳にレースの優しいカーテンがかかる。
「 あ ・・・ キレイ ・・・ 」
姫君は思わず 視線を空に向けた。
「 ! いっけない ・・・ あら ・・・? 」
「 やあ 初めまして。 勇敢な姫君 ・・・ 」
彼女の目の前に 茶髪の青年がはにかみがちに微笑み身を屈めて挨拶をしていた。
「 え!? あ あなた ・・・ 盗賊 には見えないけれど・・・ 旅の方? 」
「 あ あ〜〜 そっかあ〜〜 あのウ ぼくは いや ぼく達は皆 ・・・
あ〜〜〜 こんなこと、言って信用してもらえるかなあ??? う〜〜ん 」
「 あの ? なにかお悩みですか。 わたくしで宜しければ 伺いますが 」
「 え〜〜 そ そう?? う〜ん それじゃ 思い切って言うね。
「 はい? 」
「 ウン ・・・ あの〜〜 ぼく達ってさ。 あ〜〜〜 ダメだ、きっと爆笑されて
ちょっとアブないんじゃない? とか 言われるに決まっているよ ・・・ 」
「 え そんなこと、ないわ。 あの ・・・ わ わたしは笑ったりしないわ! 」
「 そ そう??? それなら 〜〜〜 言うけど ・・・ 」
「 ええ ええ 教えてください。 」
「 う うん ― え〜〜〜 あのう 実は・・・ 白鳥なんだ って言ったら信じる? 」
「 ?? はくちょう って ・・・ あの 鳥 ですか? 」
「 うん。 ねえ 驚かないのかい? 」
「 別に・・ 白鳥ってキレイですよねえ。 湖に浮かんでいる時もキレイだな〜って思けど
わたし、大空を飛んでいるのも大好き。 こう〜〜 ばっさばっさ・・って。
いいなあ〜 って見ているのよ。 」
「 へぇ・・・・ きみって そのう 変っている ・・・いや 面白い感性の持ち主なんだね。」
「 うふふ・・・ 変わり者で結構よ。 わたし、この国では 変わり者のじゃじゃ馬姫 だし。
近隣の姫君たちの社交界には全然興味ないし ね。 」
「 ううん! とっても とっても素敵だよ! 」
「 うふふ ・・ ありがとう〜〜〜 あ ! そうだわ。
このコ ・・・ イワンちゃんっていうんだけど。 あなた達のお仲間でしょう? 」
姫君は 肩かけを解いて背中に括り付けてきた赤ん坊を抱き下ろした。
「 え! あ〜〜〜 イワン!! 」
ヤア じょー。 タダイマ〜〜 コノ姫君ニ助ケテモラッタンダ
「 わ〜〜〜〜 よかった!! スカールに連れ去られたって聞いて・・・
今晩 救出隊を出そうって相談していたんだ。 」
青年は赤ん坊を抱き上げ さかんに頬ずりしている。
「 すかーる? あの大梟のことかしら。 」
「 うん アイツ、昼間はあの大梟の姿をしていてね、 獲物を狙っているんだ。
イワンも夜だったらあんなことにはならなかったんだけど・・・
昼間 雛の姿で岸辺で遊んでいいて ― 捕まってしまったんだよ。」
「 まあ ・・・ それで あの大梟の正体はなんなの。 」
「 悪の化身 ― ってところかな。 」
「 え! それって ・・・ 森の奥には悪魔が住んでいるってことよね?
へえええ・・・ アイツったらそんなワルサもしているの! 許せないわっ 」
「 うん。 それでもって さ。 ぼく達もアイツにやられてしまったんだ。 」
「 やられる? ・・・ でも・・・ どこにも怪我はしていらっしゃらいないですわよね? 」
フランソワーズ姫は まじまじと目の前に青年をみつめてしまった。
彼はまるまる太った赤ん坊を抱き にこにこしているのだが・・・
「 あ〜〜 うん。 怪我とかはしていないんだけど ・・・ 」
「 けど ? 」
「 ウン。 ぼく達 ・・・ あ 仲間があっちに大勢いるんだけど。
皆 すかーるに捕らわれて アイツの邪悪な術を掛けられてしまい 昼間は 」
ゴ 〜〜〜〜〜〜 −−−−− ・・・・・ !
一瞬 つむじ風が森をゆらし青年の言葉を遮った。
「 う ・・・ そ ?? 本当??? 」
姫君は大きな瞳をますます大きく見開き 彼をじ〜〜〜〜〜っと見つめている。
「 あは ・・・ きみってヒトは 」
「 あ ご ごめんなさい・・ 不作法なマネを・・・失礼いたしました。 」
彼女は < 騎士 > として きっちりした態度で丁寧に詫びた。
「 え〜〜〜〜 ううん ううん〜〜〜♪ えへ・・・ ぼく シアワセだよ〜〜〜
きみほどの美女にさあ こんなに熱心に見つめられちゃって ・・・ 」
彼は頬を上気させ楽しそうに、照れくさそうに笑っている。
あ ・・・ なんかこの笑顔 〜〜〜 可愛いわあ〜〜
うふふ〜〜 素直なヒトね ステキな人ね
ああ わたし ― この人の笑顔、好き ・・・ だわ!
「 あ あのう〜〜 気を悪くした? 」
突然だまりこくってしまった姫に 青年は困った顔をした。
「 え あ! い いいえ〜〜 あの わたしがあんまり失礼なことしちゃったから・・・
じろじろ見てごめんなさい。 だって ・・・ 」
「 だって? 」
「 ええ だって ・・・ こんなに素敵な方が そんな ・・・ 」
「 あは♪ ありがとう〜〜 ねえねえ 仲間に紹介したいんだけど。
よかったら ・・・ 一緒にどう? これから宴会なんだ〜〜 楽しいよ〜〜 」
「 え えんかい?? あ〜〜 ・・・ 舞踏会のこと かしら 」
「 あ 〜 ちょっと違うけど。 うん 踊るヤツらもいるからさあ。
姫君はダンスが得意ですか? 」
「 ええ。 でもねえ おとなしいワルツとかは好きじゃないのよ。ジプシーの踊りとか
一回だけ見たけど もっと勇壮な踊りの方がいいわ。 」
「 わお♪ じゃあ 是非どうぞ。 いろんな仲間がいるから ・・・
いろいろなダンスが見られるよ〜〜〜お 」
「 え ・・・ あのう お邪魔してもかまいませんか。 」
「 勿論〜〜 イワンを助けてくれたお礼、皆がしたいって言ってるし。
ねえ イワン? この姫君がいなかったら 君は ・・・ 」
ウン。 僕 コンナニ強イ姫、初メテ見タヨ〜〜〜
じょ〜〜? 君ノ理想ノ人カモ〜〜〜
「 ・・・理想? 」
「 あ! なんだもないんだ〜〜 ほら 向うの岸辺です、どうぞ 姫君〜〜 」
青年は礼儀正しく礼をすると 腰を屈めて手を差し出した。
「 まあ ・・・ うふふ でもね、わたし達、お友達でしょう? 」
「 え まあ そうですけど。 きみ ・・・いえ 貴女はお城の姫君ですから・・・ 」
「 でも 騎士としての友達になりたいわ。 だから ― 握手! 」
「 へ?? あ は はい ・・・ あ ぼく ジョーっていいます。 」
「 うふふ ・・・ イワンちゃんから聞きました。 わたしは うふふ もうご存知ね? 」
「 フランソワーズ姫君 でしょう。 」
「 < 姫君 > はいらないわ。 弓矢や剣の仲間はフランって呼ぶの。
だから アナタ、 いえ ジョーさんもそう呼んでください。 」
「 うわ〜〜〜 いいのかな。 じゃあ ぼくも ジョー ですから。
さあ 仲間達に紹介しますよ。 ・・・ えっと フラン。 」
「 ありがとう〜〜〜 ジョー。 ・・・ 大勢いらっしゃるのねえ 」
「 そうなんです。 ・・・ 皆 スカールの魔法に絡め取られてしまったんだ・・・ 」
「 そう ・・・ 」
二人は湖の岸辺伝いに進みんでゆくと 開けた台地に出た。
若者たちが集っていて あちこちに篝火が焚いてある。 中央には大きな焚火を用意し始めていた。
「 あ ジョー。 どこへ行ってたのかい、ほらもうすぐ宴を始めるよ。
月の出を合図に大きな火を灯そうよ。 」
黒い肌をした怜悧そうな青年が 二人を迎えてくれた。
「 あれ? お客さんかい。 わ〜〜〜〜 キレイなオトコノコだねえ〜〜〜 」
「 あは ピュンマ。 よ〜く見てごらん? 君だって知っている人だよ。 」
「 ええ ? 」
「 うふふ ・・・ よろしく。 ピュンマさん。 」
金の髪の < 美少年 > が笑っている。
「 ・・・ あ。 も もしかして〜〜〜 お城の〜〜 姫様 ??? 」
「 うふふ 当たり。 でもね 今は フランって呼んでね。 」
「 イワンをね〜〜 スカールから奪い返してくれたんだ。 」
「 え!? すごい・・・・ ありがとう〜〜〜 姫様 じゃなくて フラン 」
「 なんだって ?? 」
ピュンマの声に わらわらと青年たちが集まってきた。
年齢層はさまざまだったが いずれも人柄のよさそうな、そして元気な騎士たちだ。
皆 ・・・ タダイマ。 僕、無事ニ帰ッテ来タヨ。
イワンの声が 皆のこころ届いた。
「 お〜〜〜 無事でよかったなあ〜〜 イワンよぉ〜〜 」
ぽん、と赤毛の青年が赤ん坊を抱き上げ 高い高い〜〜をしてあやす。
イワンは きゃらきゃらと可愛い声をあげて笑っている。
― その様子はどうみても < ごく普通の赤ん坊 > なのだが・・・
「 ・・・ 不思議な赤ちゃんねえ ・・・ 」
「 うん? ああ イワンはな、俺達仲間の知恵袋なんだ。
なんとかして スカールの魔法の呪いから解き放たれる方法を探っているのさ。 」
側にいた銀髪の青年が説明をしてくれた。
「 まあ そうなの。 それで・・・捕まってしまったのかしら。 」
「 うむ。 昼の間は なんというか ・・・ 俺達は本当に無力な姿だからな。 」
「 イワンちゃんでさえ 捕まってしまうのね。
どうやったらあの大梟をやっつけることができるの? アイツの魔法の呪いを解く方法って
難しいのかしら。 」
「 方法はわかっている。 だが 出来る者がいない。 」
ぬ・・・っと巨躯の持ち主が現れ 木で組み立てたイスを差し出した。
「 精霊が宿る木で作った。 お掛けください、疲れを癒す。 」
「 まあ ありがとう〜 ・・・ ステキなイスね。 じゃ 失礼して〜〜 」
姫君は ちょこん、と腰かけた。
「 アイヤ〜〜〜 可愛いらし〜〜 お姫さん、ようお越し。 どうぞ。
歓迎のしるしやで〜〜 」
陽気な太っちょのオジサンが現れ 瑠璃の杯を差し出した。
篝火を受けて杯はきらきらと輝く。 中には深紅色の飲み物が揺れている。
「 まあ きれい〜〜 クリスタルの杯ね ・・・ 」
「 李酒やで。 甘うて美味しいで〜 お姫さんにも召し上がれるよって ど〜ぞ。 」
「 ありがとう〜〜 まあ キレイなお酒 ・・・ 」
姫君は 杯を星明りにかざし その美しい色合いを楽しんでいる。
先ほどの茶髪の青年 ― ジョーが前に出た。 彼はしばらく夜の空を見上げていたが・・・
「 ・・・ ん〜〜〜っと。 そろそろいいかな〜 」
ざわざわしていた若者たちが 一斉にジョーの方を向いた。
「 月も登ってきたので〜〜 皆 イワンが無事に帰ってきたよ!
助けてくれた姫 ・・・ あ いや こちらの令嬢フランさんに嵐のような感謝を! 」
わあ〜〜〜〜 ありがとう〜〜〜〜 パチ パチ 〜〜〜
若者たちの間からはどよめきと拍手が上がった。
「 さあ〜〜 焚火に火を入れるよ! 今宵は皆 楽しもう 〜〜 」
彼は手にしていた篝火を 中央の大きな薪の山に移した。 ぱあ〜〜っと辺りが明るくなる。
おお 〜〜〜 再び軽いどよめきが起こる。
リュートの音が流れてきた。 芦笛を器用に吹いている者もいる。
焚火を囲んで あちこちから楽し気な声が聞こえ始めた。
「 いいわね ・・・ 皆 楽しそう・・・ 」
「 姫君? どうなさいましたかな。 」
「 はい? 」
不意に後ろから声をかけられ、振り向くとスキン・ヘッドのオジサンが立っていた。
「 突然ご無礼を。 吾輩は グレート・ブリテン と申すもの ・・・
お見知りおきください。 」
彼は正確な発音で礼儀正しく話し愛想よく会釈をした。
「 まあ ミスタ・ブリテン。 ご丁寧にありがとう〜〜 」
「 いえいえ ・・・ 我らが宴会に 姫君をお迎えできることとは〜〜
感謝いたしましょうぞ。 」
「 あら ・・・ わたし、なんにもできませんわ。 」
「 いやいや ご謙遜を・・・ あの悪魔めから我らがイワン坊を救ってくださった。
さぞ武術にご堪能なのでしょう、勇ましくりりしい姫〜〜 」
「 あ ・・・ うふふ・・あれはちょっとラッキーだったのです。
あの大梟が油断していたみたいなの。 石礫攻撃であっさり逃げて行ったわ。 」
「 ほう〜〜〜 石礫で?? これはますます頼もしいお方ですなあ〜〜
それにこの素晴らしい美貌・・・きっと引く手数多の憧れの姫君でいらっしゃるのでしょう。」
「 え〜〜 あの ね。 本当のこと、お教えしましょうか。
わたし、お転婆のじゃじゃ馬すぎて・・・ 武術仲間はたくさんいますけど ・・・
お父様もばあやも これじゃ貰い手はいない って困っていらっしゃるの。 」
「 それは 周りのぼんくらどもに見る目がない、ということですな。
しかし ― 本当にまだお約束を交わしたお相手はいらっしゃらないのですか。 」
「 ええ。 近隣諸国の王子様、高位貴族のご子息様たちは あのじゃじゃ馬姫は
ちょっと・・・って相手にしてくださいませんの。」
「 え。 こんなにお美しい姫君なのに! 許せんですなあ〜〜 」
「 わたし、お城に籠って刺繍をしたりお花を摘んだり ・・・って得意じゃないですから。
ねえねえ それよりも。 あの大梟のこと、教えていただけません?
どうやったら完全に退治できるのかしら。 悪魔の呪いを解くことはできないの? 」
「 それは ― 姫君、失礼ですが秘密を守ることがお出来になりますか。 」
「 はい。 騎士は約束を違えたりはいたしませんわ。」
「 これは 失礼をいたしました。 」
グレートはつるり、と光るスキン・ヘッドを下げて詫びた。
「 では お話し申し上げます。 我々は皆 アヤツめの術に罹り拉致されてしまったのですが
もともとは我らが王子を護る騎士軍でありました。 」
「 王子って ・・・ イワンちゃんですか。 」
「 いえ。 ― ジョー王子殿下 です。 」
「 え えええ 〜〜〜〜 ?? あのセピアの髪をした方? 」
「 御意。 彼は東の国の王子殿下なのですが 狩に出た時にスカールめに捕まってしまった
のです。 我々騎士達も面目なくもお護りできませんでした、 」
「 まあ〜〜 それでスカールを倒すにはどうしたら・・?? 」
「 それは ぼくがお話しましょう。 」
後ろから爽やか声が響いた。
「 まあ ・・・ ジョー様。 」
「 これは王子 ・・・ 失礼を 」
さっとグレートは身を屈め礼をした。 姫君も会釈をする。
「 あの・・・王子殿下でいらしたのね。 重ね重ね失礼いたしました。 」
「 ぼくはただの ジョーです。 ぼく達は同士でしょう フラン。 」
「 ええ ! そうね。 同士・ジョー。 それで スカールは・・・? 」
「 スカールは森の奥に巣食う悪魔 ・・・ 大梟はヤツの仮の姿なのです。 」
「 昼間は大梟となって 森を監視しているのね? 」
「 そうです。 ばさばさと飛び回り次の獲物に狙いを定めるのがヤツの常套手段です。」
「 ああ それで雛の姿だったイワンちゃんを ・・・ 」
「 はい。 イワンはスーパーベビー、 ぼく達の中で最強な存在ですが・・・
昼間の姿ではひとたまりもありません。 」
「 酷いことをするわ! ね それでどうやったら 」
姫君は 熱心にジョーに尋ねる。
「 笑ってくださってもいいですよ。 フランソワーズ姫。 」
「 ・・・ 急にどうなさったの? 」
「 ぼくの話を聞いて 信じてくれますか。 」
「 なぜ そんなことをお聞きになるの? 」
「 今まで 何人かの方にお話しましたが ― 夢でも見てるんじゃないかって
笑った人もいました。 おとぎ話みたいってバカにされたこともある。 」
「 わたしは ― ジョー様のお話を いえ、 ジョー様を信じますわ。 」
姫君の碧い瞳が まっすぐにジョー王子を見つめている。
「 ありがとう 姫君! 」
「 わたし ・・・だって ・・・ あの 」
「 ふふふ 可愛い方だなあ〜〜 それで ね。 スカールの呪いは
真実の愛を誓ってくれた人が現れ その勇気と愛で闘い、ヤツを仕留めた時に
― あの呪いは解ける。 」
「 まあ ! それじゃ わたし が! 」
「 落ち着いて聞いてください、姫君。
今まで何人ものヒトが < 誓い > をたてる、と言いました。 」
「 で ・・・ その方達は? 」
「 ・・・ さあ どこへ去って行ったやら。 もう姿も見せやしませんよ。
そしてぼく達は ― 昼間ご覧になった姿のまま なのです。 」
「 まあ ・・・ ええ わたし。 誓いを立てます。 それでアイツと対決しますわ。
そして ― 撃ちます ! これは騎士としての誓いです。 」
凛凛とした声がきっぱりと宣言した。
「 わたくしは この王国を治めるギルモア王の ただ一人の娘です。
わたくしのただ一人の兄、 本来ならばこの国をやがて治める王太子の妹としても
誓いますわ。 」
「 フランソワーズ姫 ・・・ ああ なんてという方なんだ〜〜〜 」
「 わたしからもお願いがあります。 来週、わたくしの成人を祝う宴が
城の大広間でおこなれます。 どうぞ その宴にご招待いたしますわ。
・・・あ ごめんなさい。 どうぞいらしてください。 お待ちしていますわ。 」
「 姫君。 性急に 騎士の誓い などたててはいけません。 ようくお考えなさい。 」
「 あら ・・・ ジョー様はわたしに スカールを斃すのは無理っておっしゃるの? 」
「 そうではありません。 しかし 今までに高名な騎士や腕利きの猟師たちでも
斃すことはできませんでした。 アイツのために大勢の人々が命を落としています。 」
「 でしたら なおのこと。 スカールを斃すのがわたしの使命ですわ。
そう ・・・ 騎士としての誓いがダメなら 乙女の愛の誓いを天に立てます。 」
姫君は さっと立ち上がると天に向かって右手を差し伸べる。
「 ― 姫 ・・・ 」
青年は その手を彼女ごと抱き留めた。
「 あ ・・・ ? 」
「 姫。 乙女の誓いこそ安易に立ててはいけません。
それは ・・・ 姫君の 生涯の伴侶となる方に誓ってください。 」
「 あなたではいけませんの? ― ジョー様。 」
「 ― え ? 」
青年の腕が緩み 姫君はくるり、と身体の向きを変えた。
色違いの瞳が ― セピアと碧の瞳が深く見つめ合う。
「 ・・・ きみってヒトは ・・・ 」
「 あなた って 」
「 さあさあ〜〜〜 お二人さん! こっちで皆に混じってくれよ〜〜〜 」
赤毛ののっぽが わさわさ手を振りつつ呼んでいる。
「 あ ・・・? 」
「 あら 」
「 お〜い とっておきの演奏を始めるぞ〜〜〜 」
「 皆 焚火の周りに集まるよろし。 オイシイもん、仰山でけたで〜〜〜 」
「 あ は ・・・ さあ 一緒に宴にどうぞ。 ね? 」
ジョーは にっこり笑って手を差し伸べた。
「 え ええ。 そうね、騎士の方々と楽しみましょうか。 」
す ・・・。 白い手が素直に預けられる。
「 えへ・・・ありがとう! さあ〜〜 皆〜〜 盛り上がろう! 」
おう!!
「 フラン嬢〜〜〜 さあ ここに座った 座ったぁ〜〜〜 」
姫君は騎士たちに囲まれ、先ほどの手作りの椅子に案内された。
「 いろいろあるけど。 今宵は 楽しもうぜぇ ! 」
赤毛ののっぽが陽気に言って リュートを奏で始めた。
「 お〜っと俺も 」
先ほどの銀髪の青年は ヴァイオリンを手にして調弦している。
「 わあ ・・・ 皆すごいのねえ 」
「 あ ほら。 子供たちがね、踊るよ。 見てやって。 」
「 え? あら〜〜〜 可愛い。 4人一緒なの? 」
「 うん あの子達は4つ子の兄弟なんだ。 」
はにかみつつ 子供たちが前に出てきた。
「 おし! 音は任しときな! いくぜ〜〜 アルベルト〜〜 」
「 ったく〜〜 出だしは俺がリズムを取る。 お前 ついてこい。 いくぞ! 」
「 ちぇ〜〜〜 まあ いっか〜〜 っと〜〜〜♪ 」
ヴァイオリンとリュートが歯切れのよい曲を演奏しはじめ、四人の子供たちは
手を繋いだまま 上手に踊った。
「 わあ・・・ 可愛いし上手ねえ〜〜 音もすごい〜〜♪ 」
「 うんうん わ〜〜〜 良かったよ〜〜〜 」
子供たちの踊りを皮切りに 剣を使った舞を披露するコンビやら 自慢ののどで朗々と
歌い上げる騎士もいて 賑やかに盛り上がってゆく。
「 いいわね〜〜 こういうのって最高だわ〜〜 ウチの舞踏会は ・・・ 全然面白くないの。
みんな取り澄まして ・・・つんつんして。 ふわふわした歯切れの悪いダンスばっかり。」
「 あは それぞれいいところがあるよ。 城の大広間には優雅な踊りが似合うだろう? 」
「 そりゃ そうだけど ・・・ わたしは好きじゃないの。 」
「 そう? ぼくは ― 嫌いじゃないよ。 その ・・・ お相手がきみならば ・・・ 」
「 ― え? 」
「 えっと ・・・ 踊っていただけますか。 」
ジョーは 照れくさそうにちょっと笑って、彼女に会釈をした。
「 あ ・・・ は はい! 喜んで ・・・ 」
ごく自然に二人は手を取りあって ― 優雅に踊りはじめた。
ヴァイオリンとリュートは 宮中の楽師たちよりも数段素晴らしく嫋々とした曲を奏でるのだった。
「 ほい、まあ一息いれなはれ〜〜〜 」
さきほどの太っちょのオジサンが 大きなゴブレットを勧めてくれる。
「 野葡萄のジュースや。 湧き水つこうてるさかい、ウマいで〜〜 」
「 まあ ありがとう ・・・ うふふ ・・・ 素敵なダンスをありがとう、ジョー様。」
「 ジョー です、フラン。 きみこそ〜〜 すごく軽く踊るね! 」
「 そう? 〜〜〜 ああ 美味しい・・・ ここの皆さんは陽気で楽しいかたばかりね。 」
「 いろいろ・・・あるけど。 楽しむ時は忘れることにしてるんだ。
本当なら全員で集まりたかったんだけど・・・ 」
「 あら もっとお仲間がいらっしゃるの? 」
「 うん。 記憶をなくしてずっと療養している仲間がいるんだ。
身体の傷は治ったんだけど ・・・ 今日は一緒には来なかった。 彼もイワンのこと、
心配していたから喜ぶよ。 」
「 そう ・・・ ねえ その方もスカールに捕まってしまったの? 」
「 うん。 高貴の御方だと思うんだけどね〜〜 なにせ記憶が・・・
あ そういえば ・・・・ フランと似た髪の色かも。 ああ 瞳の色は空の色だけど。 」
「 どこの ・・・方ですの。 」
姫君の声が 少し震えた。
Last updated : 15,07,2014.
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********* 途中ですが
BGM は 勿論! チャイコフスキー♪
妙なところで切ってすみません 〜〜〜
JFのダンスは グラン・アダージオ だと思って♪