『 風だけが ― (3) ― 』
ヴィ −−−−−−− ・・・・・
低いが強靭な音が周囲の大気を震わせている。
さすがの風どもも ・・・ 気押され気味、いや単に風の音がかき消されているだけだ。
目の前には 巨大な金ピカの壁が聳えたっている。
― 壁ではない。 数歩下がってみればそれがとてつもなく大きな三角錐であることが
すぐに見てとれた。
ピラミッド ― そう、今までもさんざん見てきたものと同じ形状だった・・・
ただ その表面は眩しいほどにピカピカ光っているのだ!
「 な! なんなの??? 黄金の・・・ピラミッド???
」
フランソワーズは仰天しつつも すぐに003としての使命を遂行し始めた。
「 ・・・ ??? ・・・ ヘン ねえ ・・・・ 最大レンジにしているのに・・・
あの音以外の音が ・・・ 拾えないわ。 < 目 > も ダメ ・・・
なにかわたし達の科学を超えた技術で 超強固なバリアをはっているのかもしれない。 」
現在出来る限りの 可視 可聴 で調査をしたが なおも彼女はじりじりとソレに
接近をし始めた。 しっかりとスーパーガンを構えつつ・・・
「 なにも < 見えない > から ― これ以上は危険 かも ・・・
でも索敵は003の特殊任務ですものね! 行くわ! 」
相変わらず周囲の空気を振動させつつ・・・ ソレは聳え立っている。
「 ・・・ このキンキラは金属? いいえ 違う・・・ いえ、わたし達の < 金属 >
という概念とはちがったモノでできている ・・・ みたい ・・・ 」
フランソワーズは慎重に近づいてゆくと ソレの外壁をじっと見つめた。
「 本当に存在しているのかしら。 なんだか空中に浮遊しているみたいに見えるわ 」
こそっと手を差し伸べたが 触れることにはどうしても抵抗がある。
至近距離で003は目と耳の精度を一気にアップさせてみたが ―
「 ! う ・・・ な なぜ ・・・? 」
彼女の視界は 突然ブラック・アウトし、 聴覚は雑音でふさがれてしまった。
「 ・・・ うう ・・・ え?? 」
音も光も遮断された世界に 彼女はうろたえた。
咄嗟に スイッチ をオフにした ・・・ その瞬間、 目の前には廃墟にそびえる
黄金のピラミッドが見え 吹き抜ける風の音が再び聞こえてきた。
「 ふう 〜〜〜 ・・・ もとに戻った わ ・・・ いったいなんなの〜〜 」
足元が がくがくと震えてきた。
「 ・・・ だ だらしなわよ、003! だけど ・・・ 他の皆は コレ に
遭遇しなかったのかしら ・・・・ ん?? 」
彼女の聴覚センサーが アラームを鳴らす。
これは ・・・
! ・・・ だ 誰か ・・・出て くる ・・・!
フランソワーズは スーパーガンを構えなおすと、瓦礫の陰に身を寄せた。
人影は怯えたり警戒したりする風でもなく、ごく自然な態度で中から出てくる。
「 どなたかいらっしゃいましたか? ああ これは 綺麗なお嬢さん 」
ふわふわと風に漂うがごとく軽い足取りで 少年 とおぼしき姿が現れた。
小麦色の滑らかな皮膚に白っぽい薄物の服をつけている。
きらり。 風に靡く髪はプラチナ・ブロンドにも見えた。
・・・ ニンゲン? アンドロイド?
・・・ 〜〜〜 見えないわ ・・・!
機械音 ・・・ 〜〜〜 聞こえない ・・・
これは生身のニンゲンなの? ・・・ 臓器も骨格も見えない・・
呼吸音も聞こえない ・・・
― これは なに???
「 お嬢さん? そんなところの隠れていないで ・・・
僕と話をしてくださいませんか 」
少年、とおぼしき姿は ゆっくりと立ち止まると ほわ〜〜っと微笑む。
「 ようこそ、 我らが風の都へ 金の髪と碧い瞳のお嬢さん 」
相手からはどうやら 自分のことは丸見えのようだ。
・・・ この言葉は なに・・・?
いえ 言語ではない ・・・わね ・・・
あの少年は わたしの心に直接話しかけているんだわ
・・・ 超能力者? だからわたしの機械の目と耳を
完全に遮断しているってわけ?
あちらからは わたしのことが全て<見える> のね
変に隠れても無駄だわ ・・・
武器は ― 持ってない いえ ここからは見えないだけね。
それならば 一人の人間として対峙するまで、と彼女は腹を括った。
フランソワーズは意を決し 瓦礫の陰から踏み出した。
― 少年 とは距離を置き、それでも真正面に立った。
二人の視線が 合う。
「 ・・・ アナタは 何モノなの ? 」
「 ああ ステキな声だ ・・・ なんて柔らかい言葉なんだ ・・・ 」
「 ・・・ これはわたしの母国語。 わたしが生まれ育った国の言葉よ。
アナタの 言葉 はなに? 」
「 優しい言葉ですね もっと聞きたいから今のまま、話してください。
僕は ・・・ アナタの心に話かけています。 」
「 そう ・・・ ねえ 教えて。 アナタは
ナニモノ なの?
これは なあに? どこからきたの?
わたしは ― ええ もうわかっているでしょう? 特殊な よく見える眼 と
よく聞こえる耳 を持っているのだけれど さっきからここを観察しているけど
・・・
なにも見えないし 聞こえないわ。 」
フランソワーズは 大きく腕を上げて聳え立つ黄金のピラミッドをさした。
「 お嬢さん あなた自身の
眼 でみてごらんください 」
「
え … わたし自身の ・・・ ? 」
「 はい 」
少年は 彼女に向かってす・・っと手を伸ばした。
「 あなたが生まれてもってきた 眼と耳 を使ってみてください。 」
「 ・・・え ? 」
「 ほら ・・・ この入口から見ると ・・・ 見える と思いますよ? 」
「 ・・・・・・ 」
彼女は少し躊躇っていたが 思い切って石段に脚をかけた。
・・・ このヒトからは ・・・・ 邪気は感じられない
とても柔らかい気持ちと そして ・・・ 淋しさ
なんだかわたしの方が泣きそうになってしまう ・・・
「 それなら ・・・ ちょっとだけ ・・・ 」
「 どうぞ? ほら ここはこんなに広いんです、いきなり閉まったりはしません。
そんなに用心しなくても大丈夫です。 」
少年は彼女の疑念を読み取ったみたいに言った。
「 ・・・ ネズミ捕り ではないってことね? 」
「 ネズミ捕り? ・・・ ああ そういうモノがあるのですね?
ええ これは ただの入口 ― 誰もが自分自身の意志で 入ります。
戻るのも もちろん ご自由に ・・・ 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
遺跡のボロボロになった石段を数段登ると 黄金のピラミッド の入口がぽかり、と
開いていた。
そこからは ぼうぼうと風がでてくる、いや ある種の気流が発生していた。
なにか ・・・ 色と香りがちがう空気が流れてきているのだ。
・・・ ? 空気が ・・・ 違う わ
ここの乾いた熱い ・・・ あの凶暴な風は 吹いていないのね
?? あ ら ・・・ ? あれは ・・・!
フランソワーズは ピラミッドの入口に佇み大きく目を見張った。
入口は一旦ゲートのように少し狭まっているが その先には目路はるか景色が広がっている。
彼女は一瞬 ピラミッドが素通しになっているのか、と思ったほどだ。
しかし その景色は・・・この風吹きすさぶ廃墟ではない。
― 入口の奥、いや そのずっと先に見ているのは。
「 ・・・ うそ ・・・? そんな はず ・・・ あるわけ ないわ!? 」
「 そうですか? ようく ごらんなさい。 」
「 ・・・・ 」
彼女は < 眼 > や < 耳 > ではなく ごく普通の生身の人間としての
視覚と聴覚を駆使し ― ようするに じ〜〜〜〜〜〜〜っと みつめ耳を欹てた。
そこには 石畳の歩道が続きマロニエの街路樹が揺れる街が あった。
行き交う人々は 薄い日差しに輝く金の髪やら 赤毛やらセピアの髪をゆらし、
柔らかい言葉を交わす。
紳士は洒落た身なり、 マダム達は凝った服、そして ワカモノたちはあっさりしているが
とてもシックな恰好をしている。
腕を組んで行くカップルは 甘くそめそめと囁きあっていた。
誰もが 微笑みをその口元に湛えて背筋を伸ばし粋な様子で歩いてゆく。
う ・・・ そ ・・・? ここ ・・・ パリ ・・?
それも ・・・ わたしが 暮らしていた頃の ・・・
そんなはず ・・・ あるわけないのに ・・・
石畳を歩く靴音がきこえる カサリ、と揺れる葉擦れの音がする。
カフェ・オ・レの香が流れてきた・・・
フランソワーズは つう〜ん・・と鼻の奥が締め付けられる気分になってきた。
「 こ れは ・・・ 幻影なの?? 」
「 げんえい? ・・・ ああ まぼろし のことですか ・・・
いいえ あなたに見えるものはみな ホンモノです。 ほら もっと見てごらんなさい 」
「 ・・・・・ 」
情景に釣り込まれるみたいに フランソワーズは一歩 また 一歩 足を進める。
サワサワ 〜〜〜〜 ・・・・
今度は 暑いけれどどこか爽やかな風が頬に当たる。
「 ?? この風 ・・・ この空気 ・・・ パリ じゃないわ ・・・
でも 知ってる・・・ わたし、 この空気、とてもよく知っているの ・・・ 」
風が漂う向こうには ― 緑 豊かな田舎町が見えた。
! ここ ・・・・ そうよ! そうだわ ・・・
ちっちゃい頃 夏のバカンスにいつも行っていた町・・・
そう ・・・ 中部フランスの田舎のコテージ ・・・!
パパとママンと お兄ちゃんと ・・・ 一緒にすごした夏
「 まって〜〜〜 まって お兄ちゃ〜〜〜ん 」
「 あはは あはは ・・・・ ファンションに追いつけるもんか〜〜 」
「 あ〜〜〜ん まってぇ〜〜〜 」
風にのって甲高い子供たちの声が聞こえてきた。
「 ジャン〜〜 ファンション〜〜〜 ピザが焼けたわ〜〜 」
「 あ ママン〜〜〜 」
「 お やったぁ〜〜 先 ゆくぞ〜〜 」
「 あ〜〜ん まって まってぇ〜〜〜 」
あはは うふふ〜〜 軽い足音と笑い声が遠ざかってゆく。
そう よ ・・・ ああやって自転車で兄さんと走りまわってた・・・
広い畑から トマトやらコルニッション、チシャ なんかと採って
兄さんは蝶を追ったり 木に登ったりしてたわ
そうよ 毎日 毎日 最高にシアワセだった・・・
「 ほら ・・・ あなたの愛した世界でしょう? シアワセに笑っている世界でしょう?」
「 ・・・ そ それは ・・・・ 」
「 もっと見たいですか? 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズは こくん ・・・と頷いてしまう。
「 ・・・ わ わたしは ・・・ 」
コツ コツ コツ ・・・・
一人の男性が重い足取りで歩いてきた。 古びたアパルトマンの前まできた。
暗い表情、そして 服装もどことなくクタビレていた。
「 ・・・ 明日こそ ・・・ 」
低くつぶやくと 彼は身体をぶつけるみたいにエントランスのドアを開けた。
「 ? あ〜〜 お帰りなさい ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
管理人の老婆が声をかけたが 男は無言で会釈しただけだ。
「 ・・・ あ〜〜 首尾はどうだったね? 」
「 ・・・・・ 」
男はやはり無言で首を振る。
「 そうかい ・・・ そりゃ ・・・ 残念だったねえ ・・・
でも もうかれこ3年は経つんじゃないかね ・・・ 諦めた方が・・・ 」
「 ― きっと見つけます 俺が。 」
「 だけどね アンタ ・・・ 」
「 俺が見つけてやらなければ ・・・! 失敬 ・・・ 」
男は低い声できっぱりと言い切ると 重い足取りで急な階段を昇っていった。
「 ・・・ そりゃあねえ・・・ たった一人の妹だからねえ ・・・
けど ・・・ 可哀想だけどあの娘 ( こ ) は もう ・・・ 」
老婆はぼそぼそと独り言を言い、派手な音をたててハナをかんだ。
!!! お兄ちゃん ・・・!!!
ご ごめんなさい ・・・
わたし ここよ! ここに 生きているわ!
・・・ もとの身体ではなくなってしまったけれど
でも 生きているの ・・・
「 ・・・ ジャン兄さん ・・・!!! 」
思わず駆け寄ろうとし 彼女の脚が止まった。
黒い特殊なブーツと 赤い服が目に入ったのだ ・・・
ああ ああ わたしは ・・・ !
「
な なんなの? なぜ ・・・ こんな幻影を見せるの 」
フランソワーズは振り向くと 少年を睨んだ。
「 まぼろし ではありません、と申し上げました 」
「 いいえ 幻よ。 だって ・・・ アレはもう ・・・ありえない光景ですもの。
わたしの 両親はとっくに亡くなっているし 兄は ・・・ 兄だって
もう ・・・ あんな姿では ないわ。 それに! 」
ぐいっと一歩、 彼女は少年に近寄った。
「 なんの目的で … あんなモノを見せるの?
アナタは誰?? アナタの目的はなんなの? そして これは なに?? 」
少年も 真正面から彼女を見つめる。
「 ここ は 入り口 、 ゲートなんです。 」
「 ゲート … ?? 」
「 ・・・ そう あなたの望む世界への 入り口です。 」
「 望む 世界 ・・?? 」
「 あなたが行きたい ずっと住んでいたい、と望む世界です。 」
「
アナタは … なんなの? 」
「 ・・・ 僕は ただの水先案内人
です。 」
「 水先案内人 ??? 」
「 そうです。 ・・・ ずっと昔から ・・・
ええ そうです、 皆 行っきましたよ?
行ってしまった … 」
少年の顔が 初めて曇った ― ずっと 柔らかい微笑みを浮かべていたのに ・・・
あ ・・・ら ・・・?
なんだか 淋しそう ・・ ね
「 あなたは?
あなたは ・・・ 行かないの? あなたの望む世界に ・・・ 」
「 僕は
待っていますから。 ただ
ただ ずっと 待っているのだから 」
「 ・・・
誰 を?
」
「 僕と一緒に
きて くれるヒトを
…
僕の世界に行ってくれるヒトを・・・ 」
「 なぜ・・・?
」
「 創造主は 共にゲートを越えてくれるヒトを つれてこい と 命じました。
僕をつくった創造主たちは そうすれば僕もゲートを越えてもよい、と … 」
「 創造主? ・・・ 」
「 そう ・・・ 僕とこの世界を創った偉大なる人々です ・・・ 」
「 その人たちが ・・・ この黄金のピラミッドも作ったの?
」
「 そうです。 世界の全てを作った偉大なる創造主です。 太陽も星も風も・・・ 」
「 その人たちは どこへ行ったの 」
「 わかりません。 僕を置いて ・・・ 行ってしまいました ・・・
僕は 創造主の言い付けを聞けなかったから置いてゆかれました。
こうしてずっと ・・・ ここにいます。 」
「 あの・・・ 一緒に来てくれるって ・・・ そういうヒトは いなかった
の ? 」
「 皆 僕を置いていった … 僕は
ずっと 風に吹かれて 待っているのに … 」
「 風に 吹かれて ・・・ ただ一人で待っていたの? 」
「 ・・・・・・ 」
こくん、と頷くと 少年はすうっと薄く微笑んだ。
「 ・・・・・ 」
彼女もなにも言えず、ふと 視線を外せば ― まだ パリの街並みが見えた。
・・・ そりゃ・・・ 帰れるなら ・・・
できることなら 許されることなら
・・・ もう一度 ・・・ 帰りたい
そうよ! わたしは・・・・
あの日々に あの世界に もどりたいのよ!
「 あ ・・・ あの角のタバコ屋で よく兄さんの煙草を買ったわ ・・・ 」
もう二度と見ることもできない、と思っていた風景が目の前にある。
彼女は 懐かしさに胸が震えた。 知らぬ間に涙が頬を滴り落ちた。
「 ね? ほら … あなた
が 望む世界 でしょう?
僕がご案内しますよ
行ってみませんか 」
「 アナタは … ?
」
「 僕は
ただの案内人ですから あなたをご案内するだけです。 」
「
アナタはずっと ここにいるの ?
ずっと ・・・・? 」
「 創造主たちは 共にゲートを越えてくれる人が見つからなかったのなら・・・
こちらの世界が終わる日に 迎えにきてやる と 言われました。
その日までは 案内人
を務めよ
それがお前の使命だと ・・・ 」
「 たった一人で ・・・ ? 」
「
はい 皆 行ってしまいました
から ―
多くの人々がここを越えてゆきました ・・・ 皆 行ってしまった ・・・ 」
「 アナタは 一緒には 行かなかったの … ? 」
「 僕は案内人ですから連れて行ってくれる方がいなければ僕は行けません。
でも 中にはすぐに迎えにきてやる というヒト もいました。
・・・
けど 帰ってきてくれたヒトは いない … 」
少年は すうっと遠くに視線を投げた。 その整った横顔はなにを思っているのだろう。
フランソワーズは 一歩彼に近づいた。
「 あの・・・
ね、 アナタのお名前は? わたしは フランソワ−ズ
… 」
「 僕は ・・・ 創造主たちは 時の番人 と
呼びました。 」
「 ああ それは名前 じゃないわ。 なんて呼ばれていたの? 」
「 …
イシュキック …
」
「 きれいな音ね。 ねぇ こちらの世界に来てみない? そしてもし気に入ったら
こちらで 暮らしましょうよ? 」
「 え そ それは ・・・ 」
「 アナタは ここを離れたら生きて行けないの? なにか支障があるの? 」
「 いえ
そんなことは ないです でも・・・ 」
「 それなら!
あなた も あなたの人生を 生きるのよ。 そんな番人なんて・・・
する必要はないわ。 」
「 じんせい ?
いきる ?
僕の ・・・ じんせい ? 」
「 そうよ
あなた の 望む世界とは ・・・わたし達の世界は その〜
ちょっと違うかも しれないけど ・・・
でも 少なくとも 独り じゃないわ!
」
「 ひとり じゃない … そっか・・ 貴女がいますね ふらんそわーず
」
「 うふ 名前 呼んでくださったの、うれしいわ〜〜 メルシ〜〜
ええ そしてね、わたしの仲間たちもいるの。 」
「 ああ あのヒトたちは あはたの仲間だったのですか あなたと同じ服を着ていました
二人とも戻っていった ・・・ 銀色の髪の人と大きな身体の人 ・・・ 」
「 あら 知っているの? 」
「 はい。 この前、こちらに来られました。 でもゲートを潜ることはしなかった・・・
しばらくゲートの前でじっと・・・向こうを見つめていましたけど・・・。
あのヒトたちは帰っていった数少ない人々です。
・・・ とても 淋しい顔をして ・・・ 戻ってゆかれました。 」
「 まあ ・・・ 」
「 きっと二人ともゲートを越えたかったんだと思います。 とてもとても熱心に
見つめていらっしゃいましたから 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
「 とても勇気のある人達だなあって思い増した。 」
「 勇気? 」
「 はい。 誰だって自分自身が望む世界に行きたいでしょう? 」
「 それは ・・・ そう ね ・・・ 」
「 貴女も勇気のある人ですね ふらんそわーず ・・・ 」
「 あら そんなことないわ。 わたし ・・・ 弱虫なのよ ほら?
気がつかないうちに泣いていたの。 ふふ・・・ 泣き虫でしょう? 」
彼女は涙の痕のある頬を指し、ちょっと恥ずかしそうに微笑した。
「 キレイです ・・・ 」
「 え? 」
「 貴女の涙は ・・・ とても キレイ ・・・ 」
「 やだぁ そんなお世辞〜〜 」
「 おせじ?? 僕は見たままを言っただけです。
貴女の白い頬に 露より光る粒が流れ落ちて ・・・ とても とても キレイです 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 泣いて褒められたのって初めてかもしれないわ。 」
「 泣くのは素直な心でしょう? 素直な心は美しいです。 」
「 アナタは とても とても 繊細は人なのね イシュキック 」
「 せんさい ? 」
「 え〜〜と ・・・ ヒトの心がよくわかるのね? 」
「 僕には ・・・ 皆さんの気持ちが流れ込んでくるのです。
僕は僕が受けとったままを言っているだけです。 でも ・・・ 」
「 でも ・・・? 」
「 貴女の涙は 本当にキレイ ・・・ そして ・・・ 貴女も ・・・ 」
「 うふ ・・・ メルシ〜〜 そんな風に言ってもらえたのって久し振りだわ 」
「 貴女の周りには ― 親しいヒトはいないのですか? 」
「 家族は ・・・ もういないわ。 でもね 大切な仲間たちがいるの。
その人たちと一緒にここに来たのよ。 」
「 大切な仲間 ・・・ ああ 同じ赤い服を着ていたヒトたちですね 」
「 そうよ。 一番大切な仲間もこのゲートに連れてくるわ。 」
「 その人は 貴女の家族? 」
「 いいえ ・・・ 」
「 ああ とても とても大切なヒトですね? いつか 貴女の家族になるヒトでしょ? 」
「 え ・・・ そ そんなの、 判らないわ 」
「 そう? 貴女のとても暖かい気持ちが流れてきましたよ? 」
「 ・・・ そ そう ??? 」
「 はい。 」
フランソワーズは上気した頬を隠したくて 少年の後ろに回った。
「 ね! ・・・ さあ 行きましょう 一緒に! 」
「 ・・・ ほ ほんとうにいいのですか? 」
彼は驚いて振り向くが その肩を白い手がしっかりと押した。
「 勿論よ! それにね、アナタに教えてほしいことがあるの。
今までにゲートを潜って ・・・ ピラミッドの向こう側に行った人たちのこと 」
「 あまりよくわからないです、 皆さん 行ってしまったから ・・・ 」
「 でもどんな人たちだったか・・とか 最近通った人達とか ・・・ 教えてほしいの。
仲間の一人がね、人探しをしているの。 」
「 僕にわかることならば喜んで 。 」
「 ありがとう! じゃ 行きましょう 」
はい ―
フランソワーズは少年に手を差し伸べ 少年はおずおずとその白い手に自身の手を伸ばした。
「 ほら〜〜 こっちよ! 日暮れの前にベース・キャンプに戻りましょう。 」
「 ・・・・・ 」
「 ああ ・・・ 相変わらずすごい風ねえ・・・ 」
ヒュウ 〜〜〜〜〜 ・・・・
二人の足元を乾いた風が吹き抜けてゆく。
Last updated : 07,28,2015.
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********** あとちょっとなんですが・・・・
短くてすみませぬ〜〜〜〜 <m(__)m>
暑さバテで寝落ちの日々・・・ 書き上げられませんでした・・・