『  風だけが  ― (4) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 

  ― 少し時間は遡る。

 

「 ・・・は!  遅くなってしまった! すまん! 」

アルベルトは大股で、ほとんど走っている速さでベース・キャンプの場所に戻ってきた。

「 あ お帰りなさい アルベルト!  お疲れさま〜 」

「 おう 首尾はいかに?? なにか興味深い事実は発見できたか? 」

フランソワーズとグレートが 飛んできた。

「 お疲れ〜〜 ほら コーヒー入れるよ〜 」

「 ちょうど 湯が沸いた。 」

ジョーとジェロニモは 焚火の前から声をかける。

「 ・・・ あ  いや。 その ・・・ 帰還予定時間を その ・・・

 かなり過ぎてしまったのではないか ・・・ すまない 」

アルベルトはしきりに謝るのだ。

「 え? そんなことないわよ  ねえ? 

フランソワーズが ジョーを顧みた。

「 うん  ほぼ予定通り、さ。 多少の遅れは仕方ないよ、想定内時間さ。

 それよりも なにか見つかったかい。 

ジョーも 湯気のたつコーヒーを手に寄ってきた。

「 ・・・ え ?  時間は ・・・ 」

「 ええ ほとんど予定時刻通り よ? なにか気になるの? 」

「 あ ・・・  いや  ・・・ ああ ダンケ。 」

アルベルトは 彼には似合わずおずおずとコーヒー・カップを受け取った。

「 それで どうだったのかな? 報告を ― 」

「 ・・・ あ ああ ・・・  なにも ・・・ なかった。

 行方不明のイギリス探検隊にかかわる遺留品は みつけることはできなかった。 」

「 ・・・ そう か ・・・  うむ、そうか ・・・ ありがとう。 」

グレートは気落ちした様子だったが 彼の労をねぎらった。

「 ・・・ いや ・・・ 」

低く答えると アルベルトはコーヒーを持ったままテントの外れへ行ってしまった。

「 ?? ・・・ なにかあったのかしら ? 」

「 え?  ああ ・・・ やはり疲れたのかもしれないよ 」

「 アルベルトが? 」

「 あ〜〜 これだけの環境だもの ・・・ 精神疲労ってこともあるさ。

 まあ 少し休憩してもらおうよ 」

「 そう ね ・・・ 」

「 俺の番だ。  行ってくる。 

「 あ 行ってらっしゃい〜〜 お願いしますね 」

「 宜しく頼むぞ。 」

「 焚火はちゃんと守っているからね〜〜 」

「 ・・・・むう 」

ジェロニモ Jr. は短く答えると 普段と変わらぬ落ち着いた足取りでベース・キャンプから

出て行った。

 

「 ・・・ ふう ・・・・ 」

ドイツ人は コーヒーを一口飲むと大きく息を吐いた。

こんな地でそれも焚火で淹れたそのその飲み物は 驚くほど美味かった。

「 ああ ・・・ さすがにジェロニモ Jr. だな ・・・ 」

 ― 五臓六腑に沁み渡る ・・・ そんな表現通りに熱い液体が 

ほぼ人工物であるはずの自身の身体を癒してくれる。 

「 ・・・ は ・・・ 俺としてたことが ・・・  ふん ・・・! 」

自分自身に悪態をつきつつも アルベルトはぼんやりと空に視線を向けた。

 

    ああ ・・・  空が 青いな ・・・

    こんな空は 故郷では見たことはなかった

 

灰色の空 そして いつも重苦しい空気が満ちていたあの街が思い浮かぶ。

最後に彼が見た光景は ― 雨の夜のあの現場 ・・・

そしてついさっき 彼の目の前に広がっていたのは。

あの故郷の街で 質素だががっしりしたコートに身を包み行き交う人々・・・

皆 穏やかな表情で、紳士たちは充実し威厳のある佇まいで 婦人たちは慈愛に満ちた笑顔で

 そして親子は睦み合い 恋人たちは楽し気に歩いていた。

「 !  こ  ここは ・・・ !? 」 

 

  コツ コツ コツ ・・・!

小さな靴音が 駆け寄ってきた。

「 ―  アルベルト〜〜〜  遅くなってごめんなさ〜〜い   

「 いや 俺も今来たところさ 」

「 うふふ・・・ 本当? 手が冷たいわよ?  ・・・ はい、お土産! 」

「 うん?  おう これは 

ぽん、と渡された紙袋は冷えた手にはその熱さが心地よい。

「 向うの角で売っていたの。 もう焼き栗の季節なのねえ 

「 ああ ・・・ おい、食うか? 

「 ええ。 」

「 ちょっと待てよ  ・・・ ほら 

「 ん 〜〜〜〜  美味しい!  

「 ・・・ ああ 美味い! 」

一組の恋人たちは熱々の果物を剥き合い頬張り ― 微笑みあう。

「 ―  ここは素晴らしわ ・・・! 」

「 ああ ・・・ 」

「 いつまでもずっと ・・・ ここで過ごしましょうね 」

「 勿論さ。 ここは俺達の故郷なんだから 

「 そうね! 」

 

ゲートの向こうは ― 色彩の乏しい冬景色だったが 温かい想いが満ち溢れていた。

 

「 ふん! ・・・ どういう仕組みのトラップか知らんが。

 ヒトの心にずけずけと踏み込んでくれたな! 」

今  現実に見上げる空は風が吹き抜ける濃い青、だ。

「 俺は ― あの世界に行きたかった のか ・・・?   

 いや。  ちがう ・・・ 断じてちがう。  そうさ、 俺は・・・ 」

アルベルトは 冷えかけてきたコーヒーをもう一口含んだ。

 

   あそこにいたのは 彼女だ ・・・!

   間違えるはずなど ない。 俺と彼女だ。

   いや 俺が行きたかった世界だ

 

   だが な。 生憎俺は知っているのさ。

   俺は しっかりと覚えている のさ・・・

 

   ― 残念だったな トラップを仕掛けたヤツら !

 

そう・・・ゲートを抜けてゆかなかったのは。

 ―  あの夜。

彼は 彼女が息絶えたことをこの手で確認していたから。

腕の中で 彼女がもうこの世のヒトではないことをしっかりと感じていたから。

 

  ふううう ・・・  乾いた空に重い吐息が散っていった。

 

 

そんなに時間が経ったとは思えない頃に 聞き慣れた重厚な足音が近づいてきた。

「 ・・・ うん?  ああ ジェロニモが戻ってきたのか ・・・ 」

 

    ! ・・・ いつもと 違う。

    と いうことは 彼も ― 見た のか ・・・

 

アルベルトは やっと腰を上げ焚火の側に戻った。

「 お帰りなさい、ジェロニモ〜〜 お疲れ様! ほら コーヒー 」

「 お疲れ〜〜〜 どうだった?? 」

若者二人が 賑やかに迎えるが ・・・ その中で中心となるべき人物は

 ― 非常に珍しいことだが ― 困惑の表情を浮かべている。

「 ・・・ う ・・・ すまん ・・  

「 あ〜〜 やっぱりなにも見つからなかった? そうねえ 仕方ないわよ 」

「 うん  きみの責任じゃないよ、ジェロニモ  」

「 いや ・・・時間に ・・・ 」

「 え?  ああ ぴったりだわ。 

「 !?  そ  そう  か・・・? 」

「 やあやあ 首尾は如何に 如何に〜〜〜〜  

グレートが勢いこんで尋ねてくる。

「 いや  それが ・・・ 

「 なに・・・ やはり手がかりはナシ か・・・ 」

「 すまん 

005は 素直にアタマを下げると 焚火の側には戻らずにベース・キャンプの裏手に

行ってしまった。

「 ・・・ あら。 疲れたのかしら 

「 まあ 彼だっていろいろ・・・ ほら 瞑想とかして感覚アップするんだろう 」

「  あ そうね〜〜 さすがねえ〜〜 」

「 う〜〜む 残念であるなあ〜 」

 

   ― やはり 見た んだな?  そして < 戻って > きた ・・・

 

コトン。  アルベルトは静かカップを置いた。

「 じゃあ 次はわたしね!  グレート〜〜〜 索敵はわたしの専門ですから。

 どうぞ任せてくださいね。 」

「 おお〜〜〜 マドモアゼル〜〜 これは力強いお言葉、多謝多謝〜〜〜

 おおいに期待しておりますぞ。 」

「 はい 任せてね。 それじゃ・・っと 時計を合わせて ・・・  」

「 一緒に行くよ。 」

ジョーがす・・・っと彼女の側に寄ってきた。

「 あら ジョー。 あなたの受け持ち時間はわたしの後 よ?

 どうぞお利口さんにして待っていて頂戴。 

「 ・・・ こんな未開の地を一人で・・・なんて危ないよ。 ぼくが先にゆくから

 きみは後ろでナヴィをして欲しい。 

「 ! どういこと???  わたしだって003、サイボーグ戦士の一員です! 」

「 それはわかっているよ。 しかし状況が状況だから 」

「 だから 索敵にゆくのです。  それは003のメイン任務だわ。

 009 はっきり言いますけど 索敵中には邪魔です。 」

「 そういう意味じゃなくて 

「 どういう意味なのよ?? 

 二人が いつもの・恒例の・痴話喧嘩に近い言い合いを始めたので グレートは肩を竦め

ソッポを向き アルベルトもだまって席を外した。

 

広い背中を少し丸め 彼はやはり空を見上げていた。

「 ・・・ 見た のか 」

「 ? ・・・ アルベルト。  ああ 見た 」

彼の問いに ジェロニモ Jr. は振り返りもせずに答えた。

「 そう か。  俺も 見た 」

「 むう ・・・ 戻ってきた 」

「 ああ お前も戻ってきた な 」

「 戻ってきた。  あれは ・・・ ちがう。 」

「 ちがう? 」

「 ああ。 ちがう。 」

巨躯な仲間は ほう〜〜〜〜っと大きく吐息をつくと再び空を仰いだ。

「 いい景色だった ・・・ それは確かだ。 」

「 そうか。 

「 ああ ― 案内人 見るように言った。 強制しない、自分の目で見ろ と 」

「 同じだな。 」

「 お前もか。 

ジェロニモ Jr.は 空を見たまま言った。

「 ああ。 ゲートを潜るかは自分自身で決めろ とな。 」

「 むう ・・・ 本当にいい景色だった 」

彼は同じことを言い、また大きく息を吐く。

「 そうか。 そんなにいい景色だったか 

「 むう。 多くの同胞 ( はらから )たちが ゆったりと暮らしていた。 」

彼はぽつんと言葉を切った。  アルベルトもそれ以上は聞かなかった。

― 聞かずとも 凡その見当はついていたからだ。

 

    コイツも 理想の世界を見たのだろうな ・・・

    彼の望む、 いや 彼が求めている世界か

 

「 ・・・ ふう ・・・ 」

ジェロニモ Jr. は もう言葉を続けなかった。

 

  俺の見た世界には ・・・ 仲間たちが沢山いた ・・・・

   さすがにテント生活はしていなかったが

  ログ・ ハウスのような 質素だか頑丈で自然に近い家が見えた

 

   祭りの日だったのか ・・・ みなが集い焚火を囲み伝統的なダンスをしたり

  煙草を回し呑みしたり していたな・・・

 

  いい風景だった  ―  だが。 あれはちがう。 現実ではない。

   俺のジイサマが話してくれた生活 だ。

 

  理想じゃない、遠い昔の生活だ。

 

「 俺 戻った。 お前たち、仲間がいる場所に 」

「 そうか。  ― 俺もさ 」

「 ・・・ そう か アルベルト、お前もか 

「 ああ 」

「 ・・・・ 」

「 ― あそこでは 何も見つけることはできなかった 」

「 むう ・・・ そう だ。 」

ジェロニモ Jr. と アルベルトは てんでに空を見上げつつ、頷き合った。

 

 

    カツ カツ カツ ・・・・   性急な足音が近づいてきた。

 

「 アルベルト!  ジェロニモ!  ちょっといいかな 」

「 ? ジョー  どうした 」

「 ? 」

二人は 少々怪訝な顔でジョーを見た。

「 あの!  フランソワーズがまだ戻らないんだ。 

 ぼく これから探しに行くので ・・・ 焚火の管理、頼めるかな 」

「 ・・・ 戻らないって まだ彼女の担当時間内のはずだと思うが? 」

「 むう ・・・ 」

時計を確認しジェロニモ Jr.も頷いた。

「 あ うん ・・・ そうなんだけど さ。  ちょっと心配なんだ ・・・

 一緒に行く、とさんざん言ったのに ・・・ 結局一人で言っちゃうしさ! 」

「 おいおい?  彼女は 003 なんだ。 それにここは激しい戦場でもない。

 探索には一人で十分だ 」

「 だけど!  ここは何人ものヒトが行方不明になっている土地じゃないか!

 それにこの風だし ・・・  そろそろ日が傾いてくる時間だし 」

「 ― ジョー。  彼女を信じろ 」

「 ジェロニモ!  だけど 」

「 大丈夫だ。  そんな声は彼女の担当時間が過ぎてからにしろ。 」

「 ・・・ でも 

「 おい! どうした ジョー。 どん、と構えていろ。

 そもそも今回の司令塔氏 はなんといっているのか 」

「 え ・・・ ああ グレートは ・・・ 待ってみようって。 

「 それ見ろ。  お前 ・・・ あんまり過保護をすると嫌われるぞ 

「 え なに? 」

「 あ〜 なんでもないよ。  ともかく時間まで待て。 」

「 ・・・ わかった。  

不満気なジョーを促し、彼らは焚火の周りに戻った。

「 なあ 諸君 ―  待てば回路の日よりあり ということであるよ。 」

「 ?? なに??  カイロに行くのかい? 」

「 は・・・  」

年長者たちは呆れ顔をしたが 黙って腰を下ろした。

 

    003 見ている。

 

    ああ 見ているだろうよ。

 

    戻ってくる。 

 

    ああ 必ず。

 

先発組は無言のまま ちらり、交わした視線で了解しあった。

 

 

ほぼ時間通りに 軽い足音が戻ってきた。

「 戻りました。 」

「 ああ お帰り!  よかった〜〜 時間ぴったりだね 」

彼女が瓦礫の間を抜けベース・キャンプにしている場所に戻ると ジョーがすぐに駆け寄ってきた。

「 ただいま ジョー。 」

「 おお マドモアゼル〜〜 お疲れ〜〜 」

グレートは眉間に皺を寄せ日誌を書いたが 顔を上げた。

「 お疲れ ・・・ 」

「 むう 」

ジョー以外は 静かに仲間を迎えた ・・・が。

 

   カサリ。 

 

「 ! ・・・・ 」

「 誰だ ? 」

焚火とテントの周辺にいたジェロニモとアルベルトが 瞬時に身構えた。 

「 ・・・・ 」

ジョーは 一瞬大きく息を呑み ゆっくりフランソワーズに近寄って行った。

 

   彼女の後ろには 人影があった。

 

仲間たちの誰もが フランソワーズは一人で戻ってくるもの、と思い込んでいた。

サイボーグ戦士としては まったく油断をしていた、というところだ。

「 ?? フラン。 その少年は???  ポーターの一人、じゃないよね? 

「 ジョー ・・・ 彼は  イシュキック。 

 アルベルト、 ジェロニモ・・・ あなた達は知っているでしょう? 」

「 ・・・・ 」

「 ・・・・ 」

無言が肯定のしるしだ。

「 いしゅきっく だあ??  どこのどなたサンですかね。

 そのひらひらした服は どうみても我々の時代のモノとは違うようだが・・・ 」

「 あ ぼく達だって十分 変わった服装 だけど ね 」

ジョーがとりなすみたいに あわてて口を挟んだ。

「 ボーイ。  ココは吾輩に任せろ。 」

グレートがジョーを押しのけて前に出た。

「 どこか他の国の探検隊の御人かな? 」

「 ・・・あ  あの ・・・ 」

「 グレート。  そんなにぽんぽん聞かないで。 彼は ・・・ 慣れないのよ。

 その ・・・ 現代のペースに 

「 マドモアゼル。 吾輩は この少年と直に話がしたいんでね・・・

 申し訳ないが 少々発言を控えていただけんかな。 」

「 ・・・ わかりました。  イシュキック、わたし、隣にいるわ。

 大丈夫、 皆 いいヒトたちですもの。 

「 ハイ ・・・ 」

「 おっほん それでは改めて伺うが。 君は何モノなのかね。 」

「 僕は ― ゲートを守り水先案内をするものです。 」

「 ゲート?  水先案内?? それはなんだね?  」

「 それ は ・・・ 

「 あ グレート。 アナタも行ってみるといいわ。

 わたし ゲートの向こうを見てきたの。  アルベルト、ジェロニモ ・・・

 あなた達も ・・・ そうでしょう? 

「 ― ああ。 俺は 見た。 

「 むう ・・・ 俺も見た。 しかし あそこにはなにもない。 」

アルベルトはごく端的に、そして ジェロニモ Jr.ははっきりと断言した。

「 ほう ・・・ それならば吾輩も行かねばならんな。 」

「 あ ・・・ グレート。 それよりも ここから早く引き上げましょう! 」

「 マドモアゼル ? 」

「 ほら テントを畳んで・・・ 今 出発すれば暗くなる前にこの廃墟から出られるわ。

 イシュキックも街に出られるのよ。 

フランソワーズはぱたぱたと焚火の周辺を片づけ始めた。

「 それはダメだ、マドモアゼル。 

「 どうして??  ここには ― なにもないの、そうよね ? 」

「 まだミッションは終わっておらんよ? 吾輩は 恩人の手がかりすら見つけておらんのだ。 」

「 ・・・ それは ・・・ でもここから早く出たほうがいいの、それは確かよ。 

 ねえ アルベルト、 ジェロニモ  手つだってちょうだい。 」

フランソワーズは 仲間たちの間をそわそわと歩きまわる。

「 ― フランソワーズ。 」

ジョーが静かに そしてゆっくりと彼女の前に立った。

「 ジョー? なに? ねえ テントを畳むのを手伝って ? 」

「 フランソワーズ。 」

彼はそっと彼女の肩に手を置いた。

ぼくの受け持ち時間はこれからなんだ。 < 見つけに > 行かなければ。 

 ぼくは ここに来てからまだなにも仕事をしていない。 」

「 ― !  こ  ここには  なにも ないわ! 」

「 それはぼく自身が判断するよ。 」

「 同感だな。 ジョー、吾輩も吾輩の仕事をしたいと思う。 」

「 だから ここには ・・・・! 」

「 それならば ご自分の目で確かめて下さい。 僕がご案内します。 」

少年が す・・・っとサイボーグたちの前に出てきた。

「 ! イシュキック ! 

「 お嬢さん、 僕の仕事は 水先案内人 なんです。 さあ みなさん どうぞ。 」

「 うむ。 ならば案内をお願いする。 」

はい、 と小さくうなずくと 少年は先頭にたちスタスタを歩き始めた。

「 イシュキック!  そんな ・・・ ねえ わたし達と一緒に帰りましょう?

 ねえ こんなトコロから出てあなたの人生を 」

「 僕の仕事です。  さあ こちらですよ、みなさん。 」

大きな瓦礫の陰から出ると ―  

 

   ヴィ −−−−−−   ・・・・・・! 

 

そこにはあの光輝く巨大な三角錐が 辺りの空気を震わせつつ立っていた。

「 !  な  なんだ ??? 」

「 ― 黄金の ・・・ ピラミッド ・・・か ・・・ 」

グレートとジョーは 仰天している。

「 ふ〜〜〜ん ?  なにも ない って? 」

「 え ・・・ だからそれは 」

「 そう なにもない。 この中にはな。 」

フランソワーズは口籠ってしまったが アルベルトが断言した。

「 それは実際にぼくの目で確かめる。  君 ・・・ ここから入るのかい。 」

「 そうです、 どうぞ。  ご案内します。 」

「 イシュキック・・・! 」

少年は フランソワーズに微笑みをみせると先に立って段を上り始めた。

「 ここは ― 何なのか??  強欲なモノ共のへの戒めの階段か?? 」

グレートも唸りつつ共に上る。

「 ― ジョー ・・・! 」

「 きみは そこで待機していてくれ。 < なにもない > っことは

 きみの 眼と耳 ではなにも発見できなかった、ということなのだろう? 」

「 ・・・ そうよ。 その中で003の眼と耳は ― 何にも反応しなかったわ・・・ 」

「 そうか。 」

少年の案内で グレートとジョーはゲートの前に立った。

 

  ― そこには。

「  !!!  これ  は ・・・ ! 」

 グレートは まじまじと前方を見つめ ― 絶句している。

やがて 彼は 首を振り振り深く長くため息を吐いた。

「 ・・・ ああ ああ … わかったよ ・・・ 」

 ジョー も黙って前方を凝視していたが やがて案内人の少年を振り返った。

「 これ ・・・   心理作戦かい? 人拐い君。 」

「 ひとさらい? それはなんですか ? 」

「 ジョー!!!  なんてことを言うの ! 」

ピラミッドの外から フランソワーズの高声が飛んできた。

「 おっと ・・・ おっかないなあ〜〜

 ま 人さらい は言い過ぎかもしれないけど。

青い鳥 を求める心につけこんでどこかへ連れ去るのかい? 

「 そんな!  僕はただ・・・ご案内するだけです。

 皆さん 自分の意志でこのゲートをくぐります。 

「 ふうん?  これは君が作ったのかい? 」

ジョーは黄金のピラミッドを見上げた。

「 いいえ。 これもゲートも そして僕のことも偉大なる創造主たちがお作りに

 なりました。 ぼくの仕えるご主人様です。 」

「 創造主??  ソイツらはどうした? 」

「 行ってしまいました。 僕にここで案内人をするように、と言い付けて・・・

 幾星霜の昔 ・・・ 行ってしまいました 」

「 ふん ・・・ その創造主とやらは いや お前さんのご主人サマは ― 

ヒトの心を読み反応することができたのだな。 

グレートはゲートの向こうから視線を外し 大きく吐息をついた。

「 こころをよむ? 

「 ああ そうさ。  その人物が望んでいるモノ、 憧れている世界 を読み取り

 それを 再現し見せる ・・・ それが創造主さんとやらの仕事だったのさ。 」

「 ・・・ グレート!  それじゃ ・・・ ゲートの向こうの世界は幻ってことかい?」

「 う〜む ・・・ はっきりとはわからんが な。

 ジョー、お前はこのきんきらな三角錐の中には 何が居ると想像したかい? 」

「 え ・・・ ぼくは 」

少年が ふ・・っと顔を上げた。

「 ああ わかりました。 アナタは たとえば ・・・こんな怪物の出現を

 予測していたのですか? 」

「 う?   !!??  うわあ〜〜〜〜 」

突如 彼らの前の空間に 巨大な埴輪とも見える怪物が現れた。

「 ! グレート!  援護射撃を頼む! 」

「 が 合点 ! 」

ジョーは大きくジャンプをし、怪物に狙いをつけた。

「 ジョー!! ソレは ・・・ 実体がないわ! 」

フランソワーズの声が届く。

「 な  に ・・・? 」

「 ソレ、イメージホログラフィのようなものみたい ・・・ スーパーガンは

 おそらく突き抜けてしまうわ。 

「 そうです、これは ― すぐに消えますよ。 

「 な んだって?? 」

 

   ふ ・・・。 怪物は現れた時と同じに突然 消えた。

 

「 ね? アナタの思ったモノにすぎません。 

「 ・・・・ 

ジョーは憮然とした表情で立ち尽くす。

「 ― そう ・・・か。 」

グレートは 深い深いため息を吐いた。

「 わかった よ。 いや ― 了解した。  さあ 諸君、帰ろう。 」

「 グレート??  だってグレートの目的は   

「 目的は果たしたのだよ、ジョー。 

「 恩人のなんとか卿をみつけたのかい??? 

「 ああ ―  あのゲートとやらの向こうに な 」

「 向う側に その恩人氏たちがいたんだ? 

「 あれは ― 確かに サー・バン・アレンとその一行だ。

 彼らは ・・・ 嬉々としてインカの遺跡を掘り返していた ・・・

 ともかく彼らは 満足し、あそこで過ごすことが本望なんだろうさ。 」

「 それで グレートは・・・ いいのかい。 」

「 ボーイ ・・ 吾輩は納得したのだよ。 

 おそらく 古代インカの人々ももっと豊かな世界を求めて 向こう側 に消えたのだろうさ。 」

「 そして 誰も帰ってこなかったんです。 

ぽつり、と少年が付け加えた。

「 さあ 戻ろう。 いや ― 帰ろうじゃないか 我々の世界へ。

 そこの坊や?  よかったら一緒に来たまえ。 」

「 アナタは ・・・ ゲートを越えないのですか 」

「 ふふん ・・・ 吾輩はまだまだこちら側でやりたいことがあるんでね。 」

「 グレート ・・・ 」

「 ジョー〜〜〜  グレート!  イシュキック〜〜 帰りましょう〜〜〜 」

「 ほうら ・・・ 外でマドモアゼルが呼んでいる 」

「 ウン ・・・ 」

「 坊や? いや イシュキック と言ったな ・・・ 行こう。 

「 僕は ―   やはり行けません  」

少年は ぴたり、と足を止めた。

「 皆〜〜〜  ねえ 帰りましょう! 」

フランソワーズが痺れを切らし 階段を駆け上ってきた。

「 早く!  イシュキック、あなたもよ! 

「 僕は 往けません。  望む世界に行きたい人がいる限りここにいて 

 僕は  案内人を努めなければ   

少年は踵を返しゆっくりと戻ってゆく。 

「 ― イシュキック!! 」

「 さよなら ・・・ きれいなお嬢さん・・・ 」

 

  ひらり ・・・ 彼は薄物の服を翻しゲートの向こうに去っていった。

 

「 ―  あ ・・・ イシュキック ・・・ 」

「 彼は 彼の意志で残ったんだ。  誰の意志でもなく、彼自身の意志で ね。」

「 ジョー ・・・・ 」

「 ううむ。  ―  すべて 塵にかえる   か ・・・ 」

グレートはぼそり、と呟くと仲間たちを促し、黄金のピラミッドを後にした。

 

 

 

「 どうして 一緒に行かなかったんだい  その アイツと   」 

帰路の飛行機の中で ぽつんとジョーが尋ねた。

「 え? 」

「 フラン ・・・ きみは <向こう側> に行きたかったんじゃないのかい。 」

「 ジョー。 あなたは? ジョーこそ ・・・ 」

「 ぼくには   ― なにも見えなかったんだ。 

「 え ?? 」

「 ゲートに向こうには なにも見えなかった・・ プカラの廃墟が広がっているだけ

 だったんだ。 」

「 ・・・ そんな ・・・ 」

「 いいんだ。    ぼく   望む世界   仲間がいるこの世界、そして  ―

 きみのそば  だから … 」

「 ・・・ ジョー ! 」

  きみは  

「 向こう側には   ジョー ・・・  あなたは いないもの。

 ふふふ・・・ 古代人は全然女心をわかってないわ   わたしは  」

「 フラン ・・・ 」

二人は見つめ合い 狭い座席で唇を重ねた。

 

 

 

「 よ〜よ〜  なにが あったんだよ〜  」

ギルモア邸の戻ると 合流し損ねたジェットがしつこく聞いてきた。

「 なにもないよ 

 全員が素っ気なく否定する。 

「  よ〜  フラン〜  ホントのこと 教えてくれよ〜 」

  にも なかったわ。   あの町  いえ 廃墟には なにもないの。

  ええ なにも   夢の跡すら残ってはいないわ    ただ    」

「 ―  ただ?   」

「 ・・・  風が  吹いているだけ       

 

                   そう   風だけが        」

 

今も あの空の色の目をした少年は 金の髪を風に靡かせ 待っているのだろうか

 ただ  風だけが吹き抜ける あの場所で

フランソワーズは 遠い空へと視線を飛ばすのだった。

 

 

 

********************************    Fin.    ****************************

 

Last updated : 08,04,2015.                   back      /      index

 

 

**********  ひと言 *********

やっと終わりました ・・・・

こういうテイストもいっかな〜〜 なんて・・・

あの巨乳オンナは好きじゃないんですよ★