『  風だけが  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 シュ −−−−   

 

空港ターミナル・ビルをでると ぶわ〜〜っと風が彼らの足元を吹き抜けて行った。

「 おおう ・・・ さすがに名にし負う都市だなあ 」

おっとっと・・・とイギリス紳士は帽子を押さえた。

「 きゃ ・・・ もう〜〜〜  なんなの・・・ 」

「 大丈夫かい? ぼくの後ろに入れよ。 」

「 ・・・ええ  ありがとう ジョー ・・・ スカーフが もう〜〜  あ 」

「 ―   ほら。 」

飛ばされそうになった薄い布を 寡黙な巨人は難なくその無骨な指で捕まえた。

「 まあ ありがとう〜〜  ジェロニモ 」

「 しっかり結んでおけ。 ここの風は平地とはちがう  

「 ええ ・・・ 日焼け防止の意味もあるんだけど 」

「 ふん。 ここで防護服 ってのはマズイか ・・・ 」

「 それも考えたのだがな、 まあ 我々は探検隊という名目で入国しておるから

 ローカル空港についてから、がよかろうよ。 

「 え ・・・ まだ飛行機に乗るの? 」

「 マドモアゼル〜〜 ここは一応 国際空港のある都市 なのであるよ〜〜

 目的の地は ― さらに高く!  太陽と風の国 なのだ。 」

「 ・・・ そう ・・・ 

「 皆!  国内便は〜〜〜 ほら あっちのゲートみたいだよ 

ジョーはさっそく周囲を歩いて検分してきたらしい。

「 それから え〜〜 手荷物は大丈夫か?  スーツ・ケースは積みかえたと思うけど 

 まあ これは航空会社を信じるしかないな 

「 我々の食糧やらテントの類は もうとっくに現地に配送済みだ。

 諸君 安心してくれたまえ。 では いざ!  風の都 プカラへ出発だ 」

グレートが さっそく檄をあげた。

「 ・・・ 風の みやこ ・・・? 」

「 おう マドモアゼル。  一節にはかの地はそう呼ばれていたらしい。

 この風はご当地の名物でもあるのだな。 」

グレートはひらひら・・・ 空中で手を振ってみせた。

「 ・・・ そう ・・・ 」

「 ?  お疲れかな、マドモアゼル? 」

「 ・・・ いえ そんなことは ないわ 」

 

 ― ただ この風が煩いだけ ・・・  フランソワーズは口の中で付け加えた。

 

「 そうかな?  それならよいが ・・・ え〜〜〜 と?? 

 おお ・・・ あそこだな。 」

さっと笑顔を向けると、彼はターミナル・ビルの中をずんずん進んでいった。

「 お〜〜い グレート〜〜 待ってくれ・・・ 」

サイボーグ達は ぞろぞろ老優氏の後を追った。

出口ゲートの外れに現地の人と思しき姿が数人 屯していた。  

一様に よく日焼けしがっしりした体躯の持ち主で そして驚くほど寡黙だった。

グレートが手配した ポーター達と見えた。

 彼らは 国籍・年齢・性別もマチマチは一行が現れた時も ちら と一瞥しただけで

特に驚いた風でもなかった。

そんな < 客 > には慣れっこになっているのか 関心もないのか・・・

グレートはツカツカ ・・・ 足音も高く彼らの前に出た。

「 ポーター諸君  よろしくお願いする。 吾輩がグレート・ブリテン ・・・

 このツアーの責任者だ。  さて 我々の荷物は ・・・ 」

グレートの朗々とした挨拶と指示に 彼らは微かに頷き黙々と荷を運びはじめた。

 

      さすがね、 イギリス紳士   いえ 名優さん

    命令することに慣れた < 人 > になっているわ

 

彼の言葉に 明瞭な支配階級のアクセントを聞き分けたのは フランソワ−ズだけだったかも

しれない。

「 では皆の衆  いざ 風の都へ出かけよう! 」

 

 

一日目は ローカル空港のある町 から 目的の地  古代インカ帝国の 遺跡 いや

廃墟 までの移動に大半を費やした。

最初は ジープでの移動だったが 市街地 というかなけなしの民家や畑とは名ばかりの野原を

過ぎれば まさに道なき道   一行は目的の遺跡手前でジープを降りた。

「 諸君。 ここからは ― 我らがユニフォームを着用しようではないか。 」

ツアー・リーダー氏の指導? により彼らは防護服姿となった。

「 では 出発しよう。  ポーター諸君、 休憩は十分取ってくれたな? 」

派手な生出たちとなった一行に 彼らはほとんど驚きの色すら示さなかった。

こんな奥地まで来る物好きな輩には いちいち関心などもっちゃいないのだろう。

 

徒歩移動が始まったが、勿論  サイボーグ達にとってはどうというほどの距離でも

勾配でもなかった。 

彼らは ごく普通の都会の舗道を歩くがごとく淡々と進んでゆく。

「 わあ ・・・ 面白い形の岩だねえ〜〜 」

「 ・・・ ふん 風の浸食だろう 」

「 緑 ・・・ それでも美しい ・・・ 」

ぽつぽつ言葉を交わし 時にグレートのなが〜〜い講釈が加わったりした。

 しかし    フランソワ−ズは 終始無言で眉間に深く縦じわを寄せていた。

足取りは軽いのだが  ・・・ 不機嫌オーラが漂っている。

「 ・・・ フラン? 大丈夫かい 」

「 え?  どういうこと、ジョー 」

「 いや ・・・ なんか 大人しいから ・・・ 」

「 ― 別に。  これが普通だわ。 

ジョーはこそっと声をかけたが そっけなくかわされてしまった。

「 ・・・ 

肩を竦めると、彼もまた黙って進んでゆくのだった。

 

奥地に分け入るにつれ 風はどんどん強くなってきた。

 プカラ  という名の遺跡は  いや 単なる廃墟、 それも 太古の姿に

戻りつつあるその地は 生命の痕跡が薄い。  

普通なら 繁茂する緑に埋もれてしまうはずが あまりな風の激しさは

貪欲なはずのジャングルの侵入すら退けていた。

 

       ここは   この地は ・・・

 

全員が息を飲み 立ち尽くす。   風と貪爛な太陽に そこはまさに 死に絶えた地 だった。

 

 

「 オーライ・・・ 諸君。  とりあえずこの付近をベース・キャンプとしよう。

 ポーター諸君に 荷卸しと野営の準備をしてもらうことにする。  」

ざっと周囲を検分してきて グレートは大きくうなずいた。

「 了解だ。  アンタは彼らに指示をしてきてくれ。

 俺たちはここで キャンプの準備をする。 」

「 忝い アルベルト。 

「 ・・・ ポーター達はアンタの言葉に盲目的に従うからな。

 俺のドイツ語訛りの英語は 通じないらしい。 」

「 俺。 テントを張る。   003 少し休むか? 」

ジェロニモは そっと紅一点の肩を押し、瓦礫の陰になっている場所を示した。

「 あ ・・・ ありがとう  ・・・ ジェロニモ ・・・

 でも 大丈夫。  わたし、食事の準備をするわ。

 食事・・・っていっても 缶詰やらレトルトものばっかりだけど 」

フランソワーズは なんとか笑顔をつくり、進んで荷開けを始めた。

「 ふ〜〜〜 ・・・ それにしても スゴイ場所だねえ・・・

 遺跡がある村 じゃなくて この場所全てが遺跡なんだなあ 

 いや 遺跡ってか 廃墟 か ・・・ 

風にセピアの髪をゆらしつつ ジョーも少しぼう・・っと周囲を眺めていた。

「 ふん ・・・ ジョー お前 ここから東側をパトロールしてきてくれ。

 俺は西側を回る。  夜を前に一応安全確認だ。 」

「 了解。  ついでになにか遺留品がないかどうかも調べてみるよ。 」

「 ああ  そうだな。 例の・・・英国のなんとか卿ご一行様 の な。 」

「 し・・・ グレートに聞こえるよ・・・ そのなんとか卿 は 彼の恩人なんだ

 そうだから さ。 」

「 ふん。 どうせイギリス貴族の暇と金に飽かせての < 探検ごっこ > だろ 

 ま 自業自得・・・ ってとこだ。 

「 し〜〜〜  ・・・ 本当はそうかもしれないけどさ。

 一応 彼のハナシに乗ったんだから・・・ それは言いっこナシ。 」

「 ふん ・・・ お前 最近ヤケに大人びてきたな 」

「 え〜〜〜 ぼくはもうとっくにオトナだけど? 」

「 18歳がナマ言うんじゃね〜よ ・・・っと それじゃちょいと回ってこよう 」

「 了解。  フラン〜〜〜  アルベルトと手分けしてパトロールしてくる〜 」

ジョーは 荷物の間で食糧を取りだしている彼女に声をかけた。

「 ジョー。 わかったわ   アルベルト〜〜 気をつけてね・・・

 あと 半時間もしないで夕食ができるわ。 

「 ・・・ 火、 熾った。 」

   パチッ ・・・ !   吹き抜ける風に熾きたばかりの炎が揺れている。

「 焚火 俺が守る。  行って来い。 

ジェロニモが大きくうなずいている。

「 うん ありがとう。  じゃ 行ってくる。 」

 

    ヒュウ −−−−− ・・・・・ !

 

二本の黄色いマフラーは風に靡きつつ進み やがて左右に離れていった。

 

 

 

  パチ パチ ・・・  

 

「 ・・・・・ 」

ジェロニモは 小さく裂いた枝を 静かに焚火にくべた。

風の攻撃にゆれる炎を 彼は実に巧みに、そして辛抱強くあやし続けた。

「 そこで吾輩は だな〜〜〜〜 」

その炎の照明を受け、グレートはずっとしゃべり続けている。

「 ・・・・・ 」

仲間達、唯一の観客たちは 焚火の周囲に陣取り耳を傾ける。 

 ― いや  そのポーズをしているだけだ。  

誰も このシェイクスピア俳優の < 演舌 > を聞いてはいなかった。

彼らが聞いているのは  ・・・  風の音 だけ。

 

   ふん ・・・ 一晩中 吹き荒れているつもりなんだな〜

   いや 一年中吹いているのだろう ・・・

   よく こんな場所で暮らして行けたもんだ 

   鈍感なヤツらなのか ―  いや 慣れっこになっていたんだろうな

 

   そうさ ・・・ ヒトはどんな状況でも いつしか慣れてしまう

   いや。 慣れたフリ をしているだけさ

 

ふう ・・・  アルベルトは風にため息を飛ばした。

 

 

   あ〜〜〜 すごい風だなあ〜〜 ずっと吹いてるよ〜〜

   台風の風ともチガウけど すげ〜な〜〜

 

   ― あ 〜  台風の季節ってよく風が強い晩があったよなあ

   こわい〜〜〜 ってチビ達はしがみついてくるし

   皆で一つのベッドに集まってさ ・・・ 一晩中団子になってたっけ

   ・・・ ぼくだって怖かったけど ― 嫌いじゃなかったんだ、皆一緒だから

 

ガサ。  ジョーは姿勢を変えて傍らの彼女を護った。

 

 

   ・・・ 風は吹き荒れているが  声 が聞こえない。

   この地は ― 信じられないほど静かだ。

 

   ― この大地に宿るはずの精霊たちよ  ・・・ どこにいる?

   お前たちは ・・・ 本当に死に絶えてしまったのか ・・・?

 

・・・・  ジェロニモは視線すら動かさない。

 

 

   ああ ああ ・・・ 煩いわ ・・!

   もう〜〜 皆どうしてそんなに平気な顔をしているの??

   この風 ― 煩さすぎるの!

 

   ああ ああ  どうしてこんな旅に付いてきてしまったのかしら

   あっちへ行ってよ ・・・・!  わたしに纏わりつくのは やめてっ

   

ジャリ。  フランソワーズはまた少し座る位置を変えた。

 

「 〜〜〜 で あるからして〜〜〜 おう ・・・ 相変わらずすごい風だな 

 うむ  ―  風よ 吹け!  我は常に風に立ち向かう存在でありたい 」

グレートはやっと言葉を途切らせ 吹く風に立ちはだかった。

「 う〜〜ん  本当にスゴイよね〜〜  ああ もう今晩は寝ようよ?

 捜索は明日の朝 ・・・ 気持ちを変えてゆこう。 」

ジョーは立ち上がり 仲間たちを促した。

「 そうだな。 こんな夜はさっさと休む方が得策だ。 

アルベルトも腰を上げ 燃えさしの薪を足先で寄せた。

「 ・・・・・・ 」

ジェロニモは ちらり、と天を仰いでから立ち上がった。

「 ・・・・・・ 」

「 ?  フラン ・・・?  もう休もうよ 」

立ち上がらない彼女に ジョーはそっと声をかける。

「 ・・・ え ・・・?  あ ああ ・・・ ごめんなさい。

 ちょっとぼ〜〜っとしていたわ。 

フランソワーズは ようやく顔を上げ、彼を見た。

「 うん もう今夜は休もう。 いつまでも焚火を囲んでいても仕方ないよ。 」

「  そう ・・・ ね 」

「 おお〜〜〜 眠りの精は我らのところに訪れてくれるであろうか 

「 グレート 〜〜 さあ 休もうよ 」

ジョーの言葉に 全員が動き始めた。

 

   

    ヒュウ ウ ウ ウ  −−−−− ・・・・ !

 

風は 止まない。  

   

 

 ガサ ・・・ ザリ・・・  足元で岩が砕けた。

「 ふう ・・・ もう〜〜 なんて土地なの? 」

フランソワーズはテントから出て 朝一番に眉を顰めた。

「 ああ ・・・ 今朝も風が吹いているのね ・・・ 」

ため息で見上げた空は快晴 ― しかし依然としてびょうびょうと風が吹き荒れている。

「 ・・・ なんてところなのかしら 朝から強風なんて 」

「 この風は昨夜からずっと吹いているのさ。 

後ろから やはり少々イラついた声が飛んできた。

「 アルベルト・・・ お早う ・・・ 

「 お早う その顔では ボンジュール ( Bonjour 良い日 ) とは言いたく

 はないようだな。 」

「 だって ・・・ この風が 」

「 風は ― ずっとずっと吹いているのだ  太古の昔から 

「 ジェロニモ!  お早う〜〜 あら アナタも風が気になる? 」

「 おいおい ・・・ 気にならない方がよほどどうかしているぞ?

 夜は できれば聴覚遮断したい、と本気で思ったぜ 」

「 うむ … いささか常軌を逸している。 」

「 そうよねえ ・・・ 」

「 コーヒーの用意 できている。  火 すぐに熾きた 」

「 あら ありがとう〜〜〜 嬉しいわあ〜〜 」

「 ん?  おい ジョーはどうした。 」

「 え? さあ ・・・ 知らないわ。 今朝はまだ顔を見ていないもの 」

「 ふん ・・・? 」

一緒ではなかったのか… と アルベルトは一瞬訝ったが そこはプライベートな問題、と

そしらぬ顔を決め込んだ。

「 諸君〜〜 ぐっど も〜〜にんぐ  ははは よい朝であるな 〜 

吹きすさぶ風の中 艶々したスキン・ヘッド氏が登場した。

「 よう ・・・ ご機嫌だな 」

「 ふん 言葉くらい景気よくしないとな〜  この風に場を明け渡すわけには ゆかん! 

 諸君 朝食後、さっそくミーティングを始めようではないか 」

「 むう ・・・ 

「 了解だ 」

「 わかったわ。 

「 ? お ・・・ 我らが茶髪ボーイはいずこに?? マドモアゼル? 」

「 ― 知りません。 わたし、009の番人じゃあありませんから。 」

「 いや ・・・ これは失礼・・・ しかしボーイはどこに 」

 

   カツ カツ カツ ・・・・ 足音高く 当のご本人が戻ってきた。

 

「 あ ごめん〜〜 みんな〜〜 」

「 おお ボーイ、 ご機嫌はいかがかな? 」

グレートはちらり、とフランソワーズに視線を流してから声をかけた。

「 いやあ〜 今朝もすごい風だなあって思って・・・ すこしこの近辺を

回ってきたんだけど・・・ 明るくなってからの廃墟ってのもなんか壮絶だね 」

「 ふん ・・・ 明るく光の下では なおさらな。 」

「 うん ・・・ ごめん、手伝うよ、朝食だろ? 」

「 火は熾きている。 すぐ準備できる。 」

「 さすが〜〜 ジェロニモだな。 えっと・・・ じゃあぼくは食事パックを持ってくるね。 」

「 コーヒーが入ったぞ 」

「 おう 忝い、アルベルト。 さあ 諸君座りたまえ。 マドモアゼル? 」

「 あ ・・・ ええ 今ゆくわ。 え・・・っとパンの缶詰を ね 」

「 俺 もってゆく。  」

「 まあ ありがとう ジェロニモ 」

「 むう ・・・ 」

 

フランソワーズは すとん、とアルベルトの隣に座った。

そんな彼女に ジョーは視線も向けない。

しかし ・・・ 彼女には彼の気持ちがひりひりと感じられる。

 

    ・・・ なによ ・・・!

    今回は ミッションでもなんでもないのよ?

    皆が一緒なんですもの ・・・ 当然でしょ

 

彼女は微笑みを浮かべつつ 心の中でツンツンしていた。

昨夜 ― 寝しなに肩に伸びてきた腕をさりげなく外した。

「 ・・・・? 」

「 ・・・ ! 」

言葉にならない会話で 彼女は彼を拒んだ。

そんな彼女に彼はくるり、と反対側を向いて寝入ってしまった・・・らしい。

 

    わたし。 アナタの所有物じゃないわ 

 

    ・・・ ちぇ。

 

ちぐはぐな想いを 二人とも朝まで引きずっていた。

食事、といってもカロリー摂取のための簡単なものだ。 ただ 熱々のコーヒーは

心底 美味しかった。

 

    ああ ・・・ 美味しいわあ・・・・

    身体だけじゃないわね  心にも染みてくるわ 

 

フランソワーズだけでなく 全員がしみじみと一杯の熱い飲み物を味わった。

「 それでは 諸君。 簡単に本日の予定をお話する。 」

グレートはカップを持ったまま 仲間たちを見回した。

「 諸君もおわかりだろうが なにしろこの風だ。 全員拡散しての調査の前に

 地域を決めて順番に調査しては如何なものか、と思ったのであるよ。 」

「 ・・・・・ 」

仲間たちはじっと彼の説明に聞き入っている。

「 我が恩人の探検隊は 忽然とその姿を消している。 遺留品も多いのに

 なぜか ― ヒトだけが消えておるのだ。  我々はその謎に挑まねばならん。

 しかるに〜〜〜 この地は太古よりの謎も多く・・・  」

「 おいおい・・・演説はいいから。 捜索の手順を指示してくれ。

 今回はお前さんがリーダー、司令塔なんだ。 」

アルベルトは少々強引にグレートの饒舌を止めた。

「 わかっているよ。 午前中、まだ陽の高い間に手分けして捜索しよう。 」

 了解 ― 全員が頷いた。

 

 

  ヒュウ  ウ ウ ウ ウ 〜〜〜〜〜 ・・・

 

太陽が昇っていっても風は相変わらず吹き荒れている。

「 ここに暮らしていた人々は どんな想いだったのかしら ・・・ 

食事の後片づけをしつつ フランソワーズはふ・・・っと < 遺跡 > を眺めた。

「 一年中 吹き荒れる風とどう付き合っていたのかしら ・・・ 」

「 こっち 終わった。  」

「 ありがとう ジェロニモ 」

「 そろそろ交代だ 」

「 そうね ・・・ アルベルトはなにか見つけたかしら ・・・ 

「 ・・・・・ 」

食事の後、 彼らは順番に周囲の探索へと出かけることになった。

一応 グレートは司令塔としてベース・キャンプに残る。

まずは 先遣隊としてアルベルトが出発した。

「 それでは 行ってくる。 」

「 おう 頼むぞ、アルベルト。 」

「  ・・・・ 」

黙って右手を上げると 彼は街でも歩くがごとくごく普通の足取りで出かけ行った。

 

グレートは地図を睨み ジョーはタブレットで付近の気象情報を調べている。

フランソワーズとジェロニモが荷物を整え終えた頃・・・ 瓦礫を踏み分ける足音が

近づいてきた。 ・・・ かなり急いでいる様子だ。

 

  ザ ザ ザ ・・・・!

 

「 !  は ・・・ 遅れてすまん ! 」

アルベルトが 珍しく慌てた表情をして戻ってきた。

「 おう アルベルト。 ご苦労さん。 

「 いや ・・・ 遅くなって ・・・ 」

「 え? そんなこと、ないわよ? ちゃんと予定時刻5分前だわ 」

「 え???? 」

「 うん。 あ なにかあったかい? 」

「 おう 一番隊〜〜 検分はいかに いかに〜〜 」

「 あ ・・・ いや ・・・ 」

アルベルトはしきりと汗を拭う仕草をし、時計をひっぱりだし何回も眺めている。

「 ・・・ あ  ああ ・・・ 時間は 

「 ふふ ・・・・ 相変わらずぴったり よ。 」

「 そ ・・・ そう  か ・・・ 」

「 なにかめぼしい発見はあったかい 」

「 ・・・ いや。 ・・・ ここは  ― 風が強すぎる ・・・ 」

「 ??? 」

「 報告することは ない。 遺跡の他にはなにも ない、 ココには・・・ 

「 お〜〜 左様か ・・・ ご苦労さん。 」

「 うむ。 」

銀髪のドイツ人は それ以上なにも語らずテントの外れに行ってしまった。

「 ・・・・? なにか あったのかしら ・・・ 」

「 次、俺 行ってくる 」

ジェロニモ Jr. がぼそり、と宣言しゆっくりとベース・キャンプにしている場所から

出発していった。

仲間の巨躯を見送った後、フランソワーズはテントの裏に回った。

瓦礫の縁に ドイツ人は腰かけ遠くに視線を飛ばしていた。

 

   ・・・ アルベルト ?  どうしたの ・・・?

   戦闘とかあったわけではないのに ・・・

 

   アナタの気持ちが ・・・ 揺れているみたい ・・・

   それも これも この風のせいなの?

 

フランソワーズの視線にも 彼はまったく反応することはなかった。

 

   なにか とても気にしている ・・・・

   なんなの ・・・・?

 

しかしそれ以上 強いて尋ねる術もなく、彼らは自分自身の担当である作業を進めた。

グレートはポータ―達と話をしているし ジョーは相変わらずタブレットで調べものを

続けている。  フランソワーズは 記録日誌 に簡単な記述をした。

 ― アルベルトは ・・・ 空を眺め座り込んだままだ。

 

 

  ザク ザク ザク ・・・!

 

大きな足音が いささか急いた様子で戻ってきた。

「 ジェロニモ!  お帰りなさい〜〜  なにかみつけた? 」

「 すまん!  俺の時間、過ぎてしまった ・・・ 」

「 え??  過ぎてなんかないよ? ちょうど・・・ ぴったり さ。

 う〜〜〜ん 流石だなあ〜  陽の高さできっちり時間を計ったんだろ? スゴイよ〜 

「 いや ― あそこは 曇っていた 」

「 ??  あそこ?? ず〜〜〜っとここは晴れだけど? 」

「 あ・・・ いや ・・・ 

ジョーの怪訝な顔に彼は珍しくもどぎまぎし、すぐに口を閉じ引っ込んでしまった。

「 それで なにか発見できたかな? 」

「 ・・・・・・ 」

ジェロニモ Jr. は黙って首を振っただけだった。

「 そうか ・・・ う〜〜む 事態はますます容易ならんことになって来たなあ 」

グレートも頭を抱えこんでいる。

「 次はわたしね!  じゃあ行ってきます〜 」

「 待ちたまえ。 」

「 ?? なに、 ジョー? なぜ邪魔をするの? 

フランソワーズの前に ジョーが立ちはだかったのだ。

「 一人で行くのは危険だ。 ぼくと二人で行こう。 」

「 なんで??? わたしはね わたしだって003なのよ? 特別扱いしないで頂戴。」

「 だが ― 

「 ジョー ・・・ マドモアゼルの気持ちを尊重したまえ。

 こんなに陽も高いし ・・・ 危険あるまいよ。 」

「 しかし なにかあってからじゃ遅いよ〜〜 」

「 だから わたしだってね、サイボーグなの! 捜査くらいできます。

 それにお忘れですか 009? 探索は003の専門なのよ。 

「 そうれはそうだけど・・・ 」

「 だけど もなにもないわ。 わたしの担当時間ですから、行きます! 

「 でも 

「 まあまあ ・・・ そうモメなさんな。

 ジョーの心配もわかるが マドモアゼルも我らが仲間・・・信用して任せよう。 」

「 だけど! 」

「 まあ 聞きたまえ。 二人で別々の方向に同時に捜査に出ればいい。

 そんなに広い範囲ではないから ― なにかあったら飛んで行けるだろう? 」

グレートは ジョーにむかって に・・・っと笑った。

「 それはまあ ・・・ そうだけど ・・・ 」

「 よし。 それじゃ 二人とも捜索開始だ! 」

「 うん ・・・ フラン、気を付けろ。 」

「 アナタもね、ジョー。 それでは 003、探索を開始します。 」

すっと背を伸ばすと 彼女は悠然とした足取りでベース・キャンプを出て行った。

 

 

 

  ザ ザ ザ  ・・・  ザ ザ ・・・

 

瓦礫の間には砂が吹き溜まりになっていた。

「 ・・・ いつかここは ・・・ 風に持ち去られてしまうのではないかしら・・・ 」

どこを見ても 溜息が漏れてしまう。

フランソワーズは 眼 と 耳 を全開にしていたが 自然界の音しか拾うことができなかった。

「 ・・・ ダメだわ・・・ 音が大きすぎて ・・・ 少しオフにしちゃお 」

ふう〜 っと大きく深呼吸をした。

「 あ ・・・ これで少し気持ちが軽くなるわ ・・・ 

 あら ・・・ この辺はかなり瓦礫が残っているのねえ 古代の神殿 ・・・?

 まさかねえ ・・・ 

周囲には 石柱とも思える残骸が多く建っている。

「 ふうん ?  この風にも耐えてこられたの ・・・ か ・・・

 ?  あ ?  なにか ・・・ 聞こえる ?? 」

003は咄嗟に石柱のひとつの陰に身を潜めた。

「 なに?  なにか ・・・ とてつもなく大きなモノが ・・・ 来る?? 

 え ???  −−−−− ウソ ・・・・ ? 」

 

  ヴィ −−−−−  ・・・・    

 

空気全体が震え そして次の瞬間  ― 巨大なピラミッド、黄金のピラミッドが現れた!

「 !?!?  な   なに ・・・?? 」

びっくり仰天しつつも 003はその機能をフル回転させ始めた。

「 ・・・ なにも 見えない ・・・ なにも 聞こえない ・・!

 なぜ???   アレは ― 強力なバリアに包まれている ・・・・の?? 」

彼女はじりじりと近づいて行った。

「 これは ―  なに??? どこから 現れたの?  これは ・・・ 」

 

      「 これはね 望みの地 なんだ。 お嬢さん 」

 

「 え???  ・・・ だ 誰??? どこにいるの?  」

「 僕はここに、貴女の目の前にいます ・・・ 魅惑的なお嬢さん 

「 ・・・ !!! 」

 

フランソワーズの前には  柔らかな金髪を風に揺らせた少年が 立っていた。

 

 

 

Last updated : 07,21,2015.             back      /     index    /    next

 

 

*******  途中ですが

えへへ ・・・ これから後が書きたくて〜〜延々書いて来たわけで・・・

あ そうだ〜 Bolivia国際空港とかの描写は例によって

ウソ八百万〜〜〜〜 ですので〜〜〜 <m(__)m>