『  風だけが   ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 その地には いつも風が吹いていた

 

     びょうびょうと大気を震わせ 

 

      ざらざらと大地を剥ぎ取り 

 

    いつも いつも 我が物顔にその地を吹き荒れていた   

 

    太古の時から   日と月と星々が見おろす下  

 

    ヒトは去り 命の焔が消え 時だけが流れる中

 

 

              そう  ―   風だけが

 

 

 

グレートは 苛々していた。   ジェロニモはますます内側に閉じ籠った。

アルベルトはいつにも増して不機嫌だった。  ジョーは 珍しく饒舌だ。

 ― そして フランソワーズは ・・・

 

「 ・・・ それでさ  ?  フラン どうしたんだい。 」

ジョーが話を途切らせた。

「 ・・・・ 」

フランソワーズは 微かに眉を顰めあらぬ方向を眺めている。

「 フラン?  なにか ・・・ 気になることでもあるのかい ? 」

「 ・・・・ 」

「 マドモアゼル?  場外の景色はそんなに魅惑的ですかな? 」

反応しない彼女に グレートがおどけてその視界の中に入ってきた。

「 !?  あ ・・・ グレート ・・・ なあに? 」

「 いや〜〜 お目にとまりましたか マドモアゼル?  

 なにやらこの世ならぬモノに魂を奪われていたご様子ですが ? 」

「 え ・・ あ  ああ  ・・・ ごめんなさい ・・・

 なんか すごい風だなあ・・・って思って。 」

フランソワーズはやっと視線をもどし、焚火を囲む輪に向き直った。

「 なんだ、驚いた。 なにか ・・・ 見えるのかな、って思ってしまったよ。

 ここに来てから ぼくらのレーダーは全く役に立たなくなってしまったからね 」

「 左様 左様 ・・・ 自然の猛威の元には人のチカラなどまことに無力なもの  」

「 ・・・ ふん。 この砂塵と風は最高の防御煙幕だ。 」

アルベルトは弄んでいた薪の切れ端を ぽん、と焚火に放り込んだ。

「 なにか見えるのかい? 聞こえる ・・・? 」

ジョーの声音が低い。

「 ・・・ いいえ ・・・ ここには なにもないわ ・・・ 」

「 ―  そうか ・・・ 」

グレートは 落胆の色を隠そうとはせずどさり、と座り込んだ。

「 ・・・・・・ 」

ジェロニモは相変わらず黙したまま 姿勢すら変えない。

 

    ああ ・・・ ここは ・・・ 煩しい ・・・

    風の音が気になって仕方がないのよ

 

     雑音が多いから?  ・・・ ううん そうじゃなくて 

 

    肌をなぶる風が 心の奥まで忍び込むみたいな気がして

     思わず耳を塞ぎたくなるの 全てのアクセスを閉じたくなるの・・・

 

フランソワーズは じっと身体を固くしてジョーの陰にいた。

「 うん? マドモアゼル〜〜〜 やはり背の君の側が最上のシートですかな 」

「 ・・・ え ・・・? 」

ふっと会話が途切れた時 グレートがやっと紅一点の静けさに気がついた。

「 おう これは失礼いたした。 熱い時間を邪魔してしまったかな? 」

「 ・・・ え ・・・ このコーヒーは熱くておいしいわ ね 」

彼女は 相変わらず中空に視線を彷徨わせたまま答えた。

「 おやおや ・・・ これはどうも 」

老優は肩をすくめると 口を噤んだ。

「 フラン? なにか気になることでもあるのかい。 」

「 ・・・ ジョー・・・?  え  いいえ ・・・ 別に ・・・ 」

「 それなら いいけど。  まあ今晩はゆっくり休もうよ。

 明日の朝から  本格的に活動開始 さ! 」

ジョーは勢いこんでいる。 

「 え  ええ  ・・・  そう  ね 」

彼女の彼の背中にむかって曖昧に頷いた。

 

    気になること って ・・・

    ねえ この音が この空気が この雰囲気が

 

    ―  ねえ なにも気にならないの ???

 

    ここには ―  何千 何万の 気持ちが残っているのに ・・・・

    ここは  とても 煩い わ  ええ とても ・・・

 

フランソワーズは そっとため息を飲みこんだ。

できれば頭を抱えてシュラフにでも潜りこみたい。

どうしてこんな旅に着いてきてしまったのか ・・・自分自身の軽はずみな決定を

激しく後悔したけれど まったくもってもうどうしようもない。

今の彼女にできることは ― 身体を固くし露出を最小限にして ・・・・

耳も眼も許されるかぎりレベルを低く抑えることくらいだった。

それでも ― 

 

    ああ  ああ ・・・!  うるさい ・・・!!

 

    いくら 耳 を閉じても  眼 を絞っても

    皮膚を通して  髪の毛一本一本を這い上って 

    こころの中に押し入ってくる ・・・

 

    ああ  ああ ・・・ !  うるさい !

 

     なんて 煩わしいの   ―  この風 ・・・ !

 

「 しかし なんという空模様なんだ?  おお〜〜 天も地も嘆いておるのか・・・

 おお 我が恩人はいまや何処におわす ・・・ 天よ 地よ〜〜〜

 我らを導きたまえ〜〜〜 」

  ―   パチ ・・・・!

くべた焚火の枝だけが 老優の饒舌なセリフに拍手のごとく爆ぜた。

 

「 ・・・ さあ もう今夜は休もうよ。 いつまで起きていても仕方ないよ。 」

「 ふん。 ま 無駄な活力は費やさん方が得策だ。 俺は寝る。 」

「 むう ・・・ ここ 静かすぎる ・・・ 

寡黙な巨人が呻いた。

「 え? 静かすぎる?? この風の音が ?? 」

ジョーが 驚いて尋ねた。

「 ジェロニモ ?  君、聴覚は大丈夫かい。 この嵐で不通になったとか? 」

「 いや。  ここに ・・・ 精霊の声は ない 」

「 ない??  ここは太古の都市で 多くの人々が暮らしていたと聞くぞ?

 そんなところには沢山の霊が眠っているのではないのか?  」

「 ・・・ 音は 無機質の音だけ だ。  この広大な地に ・・・ 霊はいない

 この風の中にも 精霊の声は混じっていない 」

「 そ うなのか?  ほう ・・・ この地には霊もおらぬのか ・・・ 」

「 ふん。 寝るぞ!  おい フランソワーズ 大丈夫か? 」

「 ・・・え  ええ ・・・ 」

「 ひどい顔色だぞ?  さっさと休め。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

フランソワーズは誰の顔も見ず、のろのろと立ち上がった。

「 俺 不寝番している。  」

「 ジェロニモ ありがとう。 しかし今晩は君も休め。 

 明日からこれだけの人数でこの広大な地域を調査するんだ、 休んでおいたほうがいい 」

「 ・・・ ジョー  そうか。 」

「 さあさあ諸君〜〜 明日に備えてしっかり休もうではないか。 」

「 おしゃべりは 終いだ。 」

「 そうだね。 ぼくが焚火の始末をするよ。 」

「 俺 テントの用意をする。 ポーター達の分も ・・・ 」

「 おお〜〜 ありがたい ジェロニモ Jr.  ポーター達には吾輩から

 明日のことなど話しておくよ。 」

「 ふん ・・・ 俺はこの周辺を一回りしてくる。 一応警戒しないと な。 

「 ・・・ わたし ・・ は 

「 きみは休んでいろよ。 ひどい顔色だぞ 」

「 ・・・ そ  そう ・・・ 」

  ― わたしだって003なのよ?  そんないつものセリフを吐くこともなく

彼女はのろのろと・・・ 荷物置き場に歩いていった。

 

    ああ  ああ  ・・・・ うるさい ・・・ !

    もうなにもかも 切り捨ててしまいたいのに ・・・・

 

風は 止まない。  いや この地では止むことなどあったことはないのだろう。

風は 今もいつもずっと 吹き荒れ続けている。

 

         この地  ―  南米の廃都  プカラ に。

 

 

 

 

ボリビアの奥の奥に 009 007 005 004 そして 003 がやってきていた。

 

そもそもの発端は  我らが名優ミスター ブリテン である。

彼は ―   突如 トウキョウにやってきた。

 

「 あら ・・・  グレート?? いらっしゃい 」

ギルモア邸の玄関で フランソワーズは歓迎の声を上げた。

鉄壁のセキュリティを誇るこの玄関ドアに前には 艶やかなスキン・ヘッドが佇んでいた。

「 マドモアゼル〜〜 いきなりの登場〜〜 お許しめされ。 」

りゅうとした背広に身をつつんだ英国紳士は すっと身を引いて挨拶をした。

「 許すなんて 〜〜 いつだって大歓迎よ! さあさあ お入りくださいな。

 博士〜〜  ジョー?  グレートが来たわよぉ〜〜 」

たちまち華やいだ雰囲気が 岬の邸に広がってきた。

 

 

「 ・・・・ ふ〜〜ん ・・・ いい香じゃのう〜〜 」

博士は カップを揺らし、立ち上る香りを楽しんでいる。

「 ほんとう・・・!  トウキョウでも直輸入品は買えるけど ・・・

 全然香が違うのねえ ・・・  〜〜〜〜 ん〜〜〜 オイシイ! 」

フランソワーズは一口含み 目を閉じて余韻を楽しんでいる。

「 う〜〜ん ・・・ 美味しいね! 味オンチなぼくでもわかるよ 

「 ジョー〜〜〜 それは褒めているのかね それとも〜〜 」

「 ほ 褒めてるんだってば!  ホント オイシイよ〜〜 」

「 ありがとう。  いやねえ ・・・ ホントのことを言うとさ

 我が国はなあ 〜 特別品は決して < 外 > には出さないのさ。 

 本当のホンモノは自国民が味わうって ね。 」

「 ふうん ・・・ イギリス紳士さんのおかげで こうして外国でも味わえるってわけなのね 」

「 まあ そんなトコさ。 ところで ― 」

グレートは カップを静かにソーサーに戻し ― がたん、と立ち上がった。

「 ?? なあに いきなりどうしたの? 」

「 うん? 虫でも入ってきたかい? 」

フランソワーズもジョーも怪訝な顔をしている。

「 いや ―  そのような些細な問題ではない。 え〜〜 あ〜〜〜 」

「「 ??? 」」

老優氏は ちょいと発声練習をしていたが さっと姿勢を正すと仲間たち ― と言っても 

現在この家に常住しているのは4人だけで そのうち一人はぐうすか眠りこけている  ― 

にむかって軽く会釈をした。  そして ―

 

「 あ ・・・あ〜〜 ・・・   諸君! 諸君らのお力を是非是非拝借したい!  

「「「  ????  」」」

三人は一斉に顔を見合わせてから 再び老優氏を見つめた。

「 チケット等の手配は一切お任せあれ。 諸君らにはあの赤い特殊な服と

 わられがこの身に備えた武器のご準備のみ、をお願いしたい。 」

「「 ??? 」」

「 なんですって?? 防護服・・・?  ということは ・・・

また闘えということなの???    やっと平和な日々が続いてるのに! 」

フランソワーズが少し気色ばんで詰め寄った。

「 あいや〜〜〜 そないなコト、アリマセンワ。 ただそのう〜〜〜 

 そのような心構えをお願いしたいということで ・・」

「 こころがまえ??  いったいなんのことなの 」

「 グレート ・・・ 真面目な話なのだろう?  」

若い仲間たちに詰め寄られ 老優はタジタジとなっている。

「 ああ わかった わかったよ。 平たく言えば だな。

 あ〜〜   つまりは諸君らにある御仁の捜索にご協力を願いたいのさ。 」

「 捜索? 人探しの手つだいをしろってことかい?

 それなら ― こんな目立つ恰好はかえってマイナスだろう? 」

「 そうよ!  」

「 グレート ・・・ 君のハナシはいっこうに判然とせんが ・・・

 人探しなら世界に冠たるスコットランド・ヤードに任せた方がよいのではないかい。 」

ついに博士までが 首をひねっている。

「 う〜〜〜〜 いやいや〜〜 それが ですね!

吾輩が人探しへの助っ人をお願いしたいのは ― ご当地、日本でもなく吾輩の故郷

大英帝国でもないんで ― 」

「 ?  はっきり言ってよ〜〜〜 

「 ・・・ 言えばなぜ諸君らにお願いしたか ご理解いただけると願いたいんだが・・・

 その場所は ―  インカ さ。 」

「 ??? いんか? ・・って あの古代都市の?? 」

「 しかしそれはもう何千年も前のハナシだろ?  今は廃墟になっているはずだよ。 」

「 まあなあ  遺跡 とでも言ったほうがいいだろうよ、ジョー 」

博士が穏やかに口を挟む。

「 左様 ―  そのインカ帝国の跡、正しくは プカラ という廃墟なのであるよ。

 その地での人探しに 是非! 諸君らの手を拝借したいのさ。 」

「 はあ ・・・ 」

「 では さっそく! 現地へ出発だ。 諸君 準備はいいかな? 」

「 現地って ・・・ インカ帝国ってどこにあったの? 

「 え?  え〜と・・・南米のどこか だったと思うけど? 」

「 ボリビアだ!  我らがめざすは南米の国、ボリビアだ。

 あちらのエル・アルト国際空港で アルベルトとジェロニモ Jr.が待っている。 」

「 ええ??  彼らにも声をかけたのかい? 

「 左様 左様〜  我らが004と005とは現地集合ということで・・・

 おお そうだ、現地でのガイド ポーターの類いはしっかり予約済みだ、安心したまえ。 」

「 え ええ ・・・ 」

「 う うん ・・・ 」

「 それじゃ 我らの旅の成功を祈って ―  」

グレートは勢い込んで テイー・カップを高々と差し上げた。

「 あ ・・・ああ ・・・ 」

「 ・・・ え ええ ・・・ 」

「 では〜〜 おお 博士も頼みますよ、 乾杯! 」

「 かんぱい ・・・ 」

ひどく不景気な < 乾杯 > の声とともに カチン ・・・ とカップが鳴った。

 

 

 

  ヒュウ −−−−− ・・・・

 

ターミナル・ビルの外は ずっと風が吹き荒れている。 

「 ち。 なんて土地だ ・・・! この風はいつ止むんだ ? 」

アルベルトはガラス越しに空を睨みつけた。

「 ったくなあ ・・・なんだってこんな辺鄙な土地に来ちまったんだ ・・・ 」

グレートからのハナシに乗ったのは自分自身、と十分にわかっていながらも

毒づきたい ― それは自身の軽はずみな判断への侮蔑だったのかもしれない。

「 ・・・ ふん ・・・ 人探し か ・・・ 」

銀髪のドイツ人は高地への出発点となる空に 再び視線を放つのだった。

 

 ― 特に現在の境遇に不満があったわけではない。

消えた人物を探す、ということに特別にこだわったわけでもない。 

強いていうのであれば決まりきった日常から 彼自身がふ・・・っと 

< 消え > たくなったから ― なのだろう。

「 ふ ・・・ 根なし草の暮らしにいつのまにか馴染んじまったのか ・・・ 」

過去には自ら故郷を捨てた身を 時には自嘲したくもなる。

「 ま ・・・ たまには意味のない行動、成り行きまかせ・・・ってのも

 気晴らしになるかもしれんな。 」

再び 三度 ( みたび )  深いため息を吐くと、アルベルトはゆっくりと振り返った。

 ― 聞き覚えのあるどっしりとした足音が近づいてきたからだ。

「 ・・・ おう ・・・ 」

「 ―  ・・・ 」

寡黙な巨人が 微かに表情を和らげ片手を上げていた。

「 ジェロニモ Jr. ・・・ 久しぶりだな。 」

「 むう ・・・ 元気そうだ、アルベルト。 

二人は ― 004と005は がっしりと握手を交わした。

 

 

仲間の中年イギリス人が 突然連絡を入れてきた。

東の果ての国からの緊急か … と一瞬身構えたが ― 受話器の向こうからは明朗にして

闊達なクイーンズ・イングリッシュが流れてきた。

 

「 よう〜〜〜 元気か、アルベルト・ハインリヒ 」

「 ・・・ グレート ・・・ お前か  」

「 お前か、はないんであろう? これでも最年長者だぞ。 

「 ふん ・・・ 用件はなんだ。 

「 まあ そう急かすな、といいたいところだが 今日は違うぞ〜 緊急だ 

 お前さんの防護服、虫が喰っちゃおらんだろうな? 」

「 ! ・・・ またぞろアイツらか ・・・! 」

「 あ〜〜 ちがう ちがう。  しかしな、緊急の頼みなのだ。

 エア・チケットは用意したからすぐにエル・アルト国際空港に発ってくれたまえ。 」

「 える・あると?? どこだ、それは 」

「 ボリビア ・・・ 南米さ。 お前さんの名でチケットは取った。

 吾輩はこれから日本経由で現地に向かいので ―  現地集合だ !  」

「 おい!  説明不足だぞ ! 」

「 うん? あ〜〜 そうだったかな ・・・ 行方不明者の捜索 さ。 」

「 行方不明?? 南米で か? 」

「 そうだ。 ジェロニモ Jr. も合流する、万事はそれからだ。 では ・・・

 See you again !!  」

言いたいことだけを言うと イギリス人は一方的に通話を切った。

 「 おい!!!  おい グレート??? ・・・ なんだ アイツ!? 」

怒りをこえて呆れはて 俺はどうなろうが知ったこっちゃない とばかりに

アルベルトは電源をオフにしようとした。

 

   いきなりなんなんだ?? 失礼なヤツだ・・・

   こっちの都合も聞かずにチケットを取るなんざ・・ 大馬鹿野郎だ!

 

   行かんぞ。 俺は断固としてゆかん。 

   この地を離れるのは俺自身の意志による場合のみ だ

 

もう知らん・・・と 彼はソファにひっくり返り新聞を広げた。

「 あ〜〜〜 ・・・・ ふん 相変わらず世間は同じことの繰り返し だな

 ふ〜〜ん ・・・? ちょいと旅にでもでて視点を換えんと ・・・  あ ・・・? 」

自分自身の言動に ほんの少しとまどいを感じてしまった。

「 ・・・ 俺としたことが ・・・まるで矛盾しているぜ おいおい・・・ 

テーブルの上に放りっぱなしのコーヒー・カップを持ち上げた時。

  ― 彼の中で 心の中でほんの少しの漣がたった。

「 変えるのは ― 自分自身 か。  ふん ・・・ やってみる価値はある。 」

冷えたコーヒーを飲み干しアルベルトは立ち上がった。

「 ― よし。 ケルン・ボン から行くか 」

 

    行方不明 だと?  ふん ・・・ どうせ無謀な探検家の類だろう 

    俺にとっては 違う空気を吸うのが目的だからな ・・・ どうだっていい

 

    うん ・・・ 南米の空の下で 深呼吸してくるか

 

アルベルトは全くの物見遊山気分で ボリビア行きに参加したのだった。 

 

  

 

「 ―  この風が  よくない   この風は 禍々しいニオイがする 

 この風は 災いを運んでくる   この風は  ・・・ 精霊の声が聞こえない! 」

寡黙な巨躯の持ち主は 空港に降り立つなりぼそぼそと呟いた。

「 ここには なにもない。 なぜだ??  なぜなんだ ・・・ 」

清明な高地へと向かう地で ジェロニモ Jr. は 厳しい顔で空を見上げていた。

 

いつもシニカルな表情の仲間は 案外穏やかな顔で現れた。

がっしりと握手を交わした後 どちらともなく話り始めた。

無機質な空港ビルの片隅に 銀髪長身の男と地元民ともみえる巨躯の持ち主が話し込んでいると

こんな辺鄙は地では旅行者たちの目を引く。

当の二人は歯牙にもかけていないが・・・・

 

「 なんだ ― お前にも詳しい話はなし、か 」

「 うむ。 フライトの便名を言っただけだ。 」

「 やはりな〜〜 ・・・ しかしそれだけの情報に < 乗って > きた

 お前もお前だな。 慎重なお前には珍しいな。 

「 それはお前も同様だ。 」

「 ふん ・・・ 」

004 と 005 は にやり、と笑い合った。

「 次の便で大将ドノが到着するな。 出迎えにいってやるか 」

「 むう ・・・  」

「 巻き込まれたのは俺達だけじゃあないらしい。 」

「 ? 」

「 日本経由、と言っていた。 例のカップルも引っぱりこまれているはずだ。 」

「 ふふ ・・・ 珍道中 になるな 」

「 違いない 」

あっはっは わははは  ―   がらん・・・としたターミナル・ビルの一角に

オトコたちの愉快な声が響くのだった。

 

 

 

    ゴ −−−−− ・・・・・

 

聞きなれたドルフィン号の音とは少し違うエンジン音が 耳の底を引っ掻いている。

その雑音に ジョーは少しいらだっていた。

「 ・・・ パイロットの技術・・・ってか〜 エンジンそのものの問題だな ・・・・

 いや ぼくならこういう風には操縦しないな 

ドルフィン号の主席パイロットは密かに舌打ちをする。

「 ・・・ま この機種なら仕方ないか  高度も高いしなあ 」

今度はあからさまにため息をつき、彼は窓の外に目を向けた。

「 ちぇ・・・ 雲の中 か ・・・ 」

「 ・・・ どうしたの ・・? 」

隣の席から低い声が聞こえた。 

「 あ フラン ・・・ ごめん、起こしちゃった? 」

「 眠ってないわ。  ただ目を閉じていただけ よ 」

「 そっか ・・・ いや〜 外 見ようと思ったら雲海の中だったから 」

「 ・・・ 少し高度を下げてきているようね ・・・ そろそろ着くのかも 」

「 う〜〜ん  時間的にはまだもう少しかかるんだけどね 」

「 そう ・・・ じゃ ちょっと眠るわね 」

「 それがいいよ ・・・ 現地に行くまでは歩きだから 」

「 ・・・ そう ・・ 」

「 ごめん、もう起こさないから ・・・ 」

「 ・・・・ 」

返事はせずに フランソワーズは膝に掛けていた毛布を引き上げると反対側を向いた。

「 ・・・ ゆっくりお休み ・・・ フラン ・・・ 」

ジョーのつけたしみたいな言葉は飛行音に呑みこまれてしまった・・・

 

   あ 〜〜 なんか機嫌 よくないなあ ・・・

   う〜〜ん フラン、あんまり気が進んでなかったもんなぁ 

 

彼は少しばかりうしろめたい気分になった。

グレートが今回の突発的な < 仕事 > を 持ち込んで着た時、 ジョー自身も

あまり乗り気ではなかった。

しかし興奮気味なグレートから なんとか事情を聞きだすにつれ、ジョーは俄然興味を

覚えた。  いや なぜか早くかの地に行きたくてウズウズしてきたのだ。

 

 

「 ・・・ ジョー ・・・ やはり行くの? 」

ギルモア邸で お茶タイムの後片付けをしつつ、フランソワ―ズがこそっと聞いた。

「 あ  うん〜〜 そうだねえ 〜  このところ大きなミッションもないし・・・

 グレートの恩人探しだろう? まあ協力しようよ 

「 そう ・・・ ね ・・・ 」

「 あ 嫌かい? 」

「 いいえ ・・・ 」

「 なにかひっかかることでもあるのかい? 気に障るとか・・・ 」

「 そんなこと、ないわ。 」

「 そうかい? それなら出来るだけ早く出発しよう  なにせ南米だからね〜〜 」

なぜだか高揚感いっぱいなジョー  は やたらとやる気満々だ。

 

    なぜ ・・・?  なぜ そんなに熱心なの ・・・?

 

行方不明者の捜索  という言葉に、なぜか兄の面影が浮かんでくる。

 

    !  可笑しなフランソワーズ !

    今までだって 不明者の捜索なんてしょっちゅうあったじゃないの?

   

    なんだって・・・ 急にお兄さんのことなんか ・・・

    ええ ええ ただの言い訳よね。

    グレートの、仲間の頼みなんだもの、喜んで協力しなくちゃ ・・・

 

わかっていてもなぜか気持ちが重い。 彼女はのろのろと食器を片づけ始めた。

リビングからはジョーの声が聞こえてくる。

 

    うふん ・・・  今日は随分とおしゃべりなのねぇ  ジョー?   

    そんなに辺境での人探しに行きたいのかしら ・・・

 

 カチャン ・・・!   スプーンが音を立ててソーサーに落ちた。

 

 

 

 

「 やあ やあ やあ〜〜 諸君〜〜 よく来てくれたなあ〜 

朗々とした声がターミナル・ビルに響き渡った。

入国ゲートから出てきた観光客たちも 三々五々散り始めていたのだが ― 

その声音にほとんどの人が振り返ったほどだ。

「 ・・・ グレートったら ・・・ 」

「 まあ いいじゃないか。 彼は舞台俳優なんだし ・・・ このツアーは

 彼が主催なんだからね。 」

ジョーは苦笑しつつ囁いた。

「 ツアーって ・・・ 今回は人探しのミッション、でしょう? 」

「 まあ そうだけど ・・・ そうそうこんなところまでは来られないからね〜

 この際 いろいろ観光もしようよ? 」

「 まあ ジョーったら ・・・ 」

「 楽しもうよってことさ。  お〜〜い アルベルト〜〜 ジェロニモ Jr.〜〜

 元気か〜〜い 」

ジョーは 久々の仲間達の姿を認めると足早に行ってしまった。 

 

     ・・・ ほっんとに 楽しそうねえ ・・・

 

フランソワーズはため息をつきターミナル・ビルの中を見回した。

「 あら 売店 ・・・ まあ〜〜 絵葉書があるわ〜〜 今どき珍しいわねえ 」

ありきたりな < 観光土産 > を並べ、閑散とした店が数軒並んでいる。

客の姿はほとんどなく 現地人と思われる店員が暇そうな顔をしていた。

「 ・・・ あら これ・・・ いかにもインカ帝国〜〜って感じね 

 あ これ くださいな。 

「 イエス マム。  ぷり〜ず ・・・ 」

「 ありがとう ・・・ そうだわ〜 ちょっと・・・ 

首を伸ばせば仲間の男たちは相変わらず賑やかに喋っている。

彼女はバッグからペンを取りだすと 一枚の絵ハガキにさらさらと走らせた。

 

「 お〜〜い フラン? 出発するよ〜〜 

ジョーがこちらを見て声を張り上げている。

「 あ ・・・ すぐに行くわ  ちょっと待ってて・・・ 

 え〜と… あの ポスト・オフィスはどこですか?  あと スタンプ、あります? 」

「 ひや ゆ あ〜 」

「 メルシ〜〜  あ ・・・ サンキュ〜 

  ・・・ Boliviaにて  フランソワーズ・・っと ・・・ 」

彼女は絵葉書を空港のポストに放り込むと 仲間たちの後を小走りに追っていった。

 

 

     ヒュウ −−−− ・・・・・   風は 今日も止まない。

 

 

 

Last updated : 07,14,2015.               index       /      next

 

 

 

************   途中ですが

え〜〜〜 原作あのお話 なんですが・・・・

後半はどうなるかなあ〜〜〜 (^_-)-

あ 平ゼロでもいいんだけど ・・・?