『 風たちぬ
− 4 − 』
*** おことわり ***
今回の冒頭、二人の出会いシ−ンは<入り口>でもお知らせしました様に共同企画時に素適な描き手・i-maさまから
頂いたフレ−ズを使用させて頂きました。 i-maさま、改めてありがとうございます。<(_ _)>
*********
− セ−ヌは眺める人のたくさんの想いを映して、のみこんで、流れてゆくのかしら・・・
橋の隅に寄りかかり ぼんやりとフランソワ−ズは川面を眺めていた。
初冬の日はすでに傾きかけており、川風はなおさらその冷たさを増し始めた。
−ことん・・・ブラウスの下、胸元で聞こえない音とともにネックチェ−ンの先が揺れる。
「 持ってきちゃった・・・
捨てられなかった・・・お馬鹿さんで、甘ちゃんな・・フランソワ−ズ 」
灰色の水面に涙が落ちてゆく。 透明な雫は たちまち濁った流れに呑みこまれていった。
「 一緒に・・・いく・・? いけたら・・・いいのに、ね。 ほら・・・」
川面へ身を乗り出し胸元に揺れるちいさな鍵へフランソワ−ズはそっと話しかけた。
ゆらり、と身体が傾いた時 肩をがしっと捉れた、と同時にばさばさと自分の脇をなにかが落ちていった。
「 あぶないっ!! きみっ! 駄目だ、よせっ 」
「 え・・・っ・・? あ・・・あ・・・。 だ、大丈夫・・・ちょっと眩暈がしただけ。」
「 めまい? ああ、 そうか・・・なんだ、よかった。僕はてっきり・・・」
「 ・・・え? あ! あれっ、あのスケッチブック! あなたの、でしょう?
ごめんなさい! どうしましょう、折角の絵が・・・駄目になってしまったわ・・・」
「 ・・・・いいんだ。・・・・全部。白紙、だから 」
「 ・・・・え ? 」
フランソワ−ズはまだ自分の腕をしっかりと掴かんでいる青年の顔を初めて見つめた。
「 あ・・・!きみ、どうしたんだ・・? おいっ・・・」
くたくたと力無く崩折れる華奢な身体を青年は、慌ててもう一度抱えなおした。
透き通るように蒼白いその頬は氷のようだった。
−とにかく、どこか暖かい場所へ連れて行かなくては・・・
− かちん・・・・
歩き出そうとして、青年は足元で小さな音を聞き、ついっと手を伸ばし拾い上げた。
「 ・・・?・・・ 彼女の、かな・・・ 鍵・・? 」
− ああ・・・わたし、飛行機の中なのね・・・
ゆらゆらと心地好い揺れを感じて、何故か眼を閉じたままフランソワ−ズはぼんやりと思った。
帰る、のよね・・・わたし。 あの邸をでて・・・ジョウと・・・別れて。 わたしの故郷、 あの街へ・・・・。
− サヨウナラ、 トウキョウ・・・。 眼が覚めたら、ただのなんにも知らない女の子に戻れてたらいいのに。
重い瞼を開くとまだはっきりしない視界に見なれぬ天井が、くすぼけた壁が、映った。
「 ・・・・ここ・・・・? あ・・・わたし 。 」
起き上がろうとしてフランソワ−ズはあまりの身体の重さに戸惑った。 身体中の関節がきしきしと悲鳴を上げている。
「 ・・・やあ・・・ 気がついたかい・・・ よかった・・・。 ああ、熱が高いんだ、そのまま寝てた方がいい。 」
静かに部屋へ入ってきた黒髪の青年が そっと彼女の額に冷たいタオルを当てた。
「 ・・・・あの。 わたし・・・・? 」
「 この季節にあんな吹きっ晒しの所に立ってるから。 凍えてしまうよ・・・ ここは僕のアパルトマンだ。
ああ、気にしなくていいよ。 ル−ムメイトだった奴が少し売れ出して 先週 引き払ったばかりなんだ。
空いている部屋さ、好きに使えばいい。 とにかく今夜はもう一度ゆっくり眠る事だよ 」
「 ・・・・ありがとう・・・ 」
− きっとこれは夢の続きなんだわ・・・ 眠ろう、 そうして目が覚めたら・・・きっと、なにもかも・・・きっと・・・
再び 吸い込まれるように眠りの淵に落ちながら フランソワ−ズは必死で自分に言い聞かせていた。
「 ごめんなさい・・・・。 見ず知らずの方にご迷惑をお掛けして・・・。 」
「 気にしないで・・・。 まだ熱が残っているんだから。 暖かくしてなくちゃ・・・。」
ようやく 起きれるようになったフランソワ−ズにその青年はさりげなく、しかし優しく言った。
借り着のガウンに包まってリビング兼食堂兼アトリエのような部屋で 彼女はもの珍しそうにあたりを見回した。
イ−ゼル、無造作に立てかけられた数多くのキャンバス、部屋中いやフラット中に漂うテレピン油のかおり・・・
「 絵描きさんなの? 」
「 ふふ・・・だった、のさ。 ほら。 」
彼は泣き笑いのような顔で 右腕をフランソワ−ズの前に差し出した。
「 ・・・・? 」
「 なんとか くっついているだけ、なんだ。 指は・・・動かない。 細かい動作は、できない。」
「 ・・まあ・・・・」
「 事故で、ね。 医者は機能的には完全に治癒した、と言うんだ。 後は本人の心のモンダイだとぬかしたよ。 」
ふっと吐息をつき、青年は右の掌にじっと視線を落とした。
「 努力したさ! 死に物狂いで・・・。 でも。 ・・・描けないんだ、どうしても。 以前のような線が・・・描けない。
いっそ・・・いっそ無くなっちまえば・・・その方が、諦めもついただろうな・・ 」
「 ・・・・・・! 」
フランソワ−ズはそっと両手で彼の右手を掬い上げほほを寄せた。
「 よかった・・・! こうしてココに無事にいてくれて・・・。ちゃんと生きていてくれて。 」
「 ・・・きみは・・・ ああ。 名前も聞いてなかったね・・・ 僕はユウジ。 」
「 ユウジ・・? わたしは、フランソワ−ズ。 ユウジ、あなた日本人、でしょう? 」
「 ・・・ああ。 でも。 もう・・・忘れちまった・・・・みんな。 以前(まえ)のことは・・・ 」
数日後、まだ冴えない顔色で、それでもどうにか微笑みをうかべてフランソワ−ズは日本式に深く頭をさげた。
「 ほんとうに・・・ありがとうございました・・・ 」
「 ・・・そんな・・・気にしないで・・・・。 ごらんの通り、気楽な独りくらしなんだから・・・。 」
「 ・・・あらためて・・・お礼に伺います・・・必ず・・・ 」
「 ・・・・ ありがとう・・・来てくれたら 嬉しいよ・・・ 」
− 言うべきことは、言いたいことはもっと他にあるのに・・・・!
同じ思いで ふたりはぎこちなく上の空でコトバを交わしていた。
「 じゃあ・・・ これで。 Au revoir ・・・・ ユウジ・・・ 」
「 ・・・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
相手の瞳の中に 自分の姿が映っている。 ・・・置き去りにされる仔犬・・・・
− 帰りたくない・・・・ みんな、忘れていたいの。 ほんのしばらくの間だけでも・・・・
− 帰したくない・・・ 傍にいてくれるだけでいいんだ。 たとえわずかの間だけでも・・・
がちゃり・・・・ ドアがにぶい軋みをたてて、ゆっくりと開く。 客人を 送り出すために。
「 ・・・・・あ・・・その・・。 きみさえ、 よければ・・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
ユウジは 黙ってドアを大きく開いた・・・・・ 新しい住人を 迎え入れるために。
華やかな都会の片隅で。 知り合って間もないふたりの暮らしは、ごく自然に始まった。
フランソワ−ズは花屋でアルバイトを始め、レッスンも町の小さな稽古場に少しずつ通い出した。
「 僕も仕事を見つけたよ。 市場で野菜運びのクチがあった。 いいかげん、社会復帰しなきゃね。 」
「 ・・・ 力仕事して・・・大丈夫? 手は・・・・・? 」
「 こういう仕事の方が、気が紛れていいんだ。 おおまかな動作はできるし、ね。 」
「 そう・・・・・。 でも、気をつけてね、大切な artiste の手、でしょう・・・ 」
「 今のこの手は・・・・いまは 労働者さ・・・。 」
「 働き者ね、 一人二役なんって? 」
何気無いやりとりに こころ和んでいる自分をみつけ、ほっとして。 それは地味な日々の楽しい彩りだった。
お互い仕事帰り、どちらからとも無く待ち合わせ連れ立ってセ−ヌ沿いにゆっくり歩く 。
クリスマスの訪れを前にパリの街はすっかり雪化粧をしていた。
− 寒くない・・・?
− ううん・・・大丈夫・・・
吐く息が白く凍て付いている。 夕闇にますます冷えてきた大気のなか、ふたりは口数もすくなく寄り添って歩く。
腕を組んでいるわけでも、肩を抱き合っているわけでもない。 コ−トの端がかすかに触れ合うだけ・・・・。
・・・・でも・・・・不思議とあたたかい・・・・
ねえ、見て? 綺麗な実・・・・
フランソワ−ズは雪を被った街路樹の低い枝を指差した。 雪のベ−ルの下に隠れたソルヴィエの実。
ユウジはつ・・・っとその枝に手を伸ばし凍えた深紅の実を摘む。
「 ・・・・ほら。 髪かざり。 きみのピアスとお揃いだね。 」
「 ・・・なんて鮮やかな色・・・! どんな宝石よりもきれいねえ・・・ 」
亜麻色の髪に揺れるちいさな深紅の実。 それは。 凍て付く風から隠れて身を寄せ合う二人にも似て。
ちらちらと粉雪が舞いはじめた。 その灰色の視界の中にほっそりとした人影が煌く髪をゆらして歩んでゆく・・・・
「 妖精、なんだ。彼女は僕のもとへ舞い降りてきてくれた亜麻色の髪の妖精・・・」
数歩遅れて、彼女の後姿をながめユウジは穏やかな、少し泣きたいような気持ちにつつまれていた。
「 ・・・ ユウジ・・・? 」
「 ・・・・・・ 」
怪訝そうに振り返った彼女に ユウジは軽く手を上げ歩みを速めふたたび 肩を並べた。
− 舞い落ちる白い切片は そんな二人の姿をひっそりと覆い隠していった。
「 ・・・モデルになってくれないかな・・。 描けそうな気が・・するんだ、きみを見てると・・」
夕食後、彼のシャツを繕っているフランの姿をしげしげと見ていたユウジは思い切ったように口をひらいた。
− 僕は・・・何だか急に生きたくなったんだ・・・きみを見てると。
「 ・・・そんな、モデルって。 ・・・・どうすればいいのかも、わからないわ? 」
「 いいんだ、別に特別なコトはしないで・・・。 ただいつもの、そのままのきみを 描いてみたい・・・ 」
「 ・・・・それだけでいいの? ・・・・・・ 」
返事のかわりに ユウジは部屋の隅に放り出してあったスケッチブックを 手に取った。
・・・・確かに 彼の声だ・・・・
真っ暗な中、フランソワ−ズはそっと身を起こしてもう一度耳を澄ませた。
時計をみるまでもなく夜もかなり深いことが感じられ、彼女はしばらく躊躇ったのちガウンに手を伸ばした。
− ユウジ・・・? どうか、したの・・・? 入ってもいい・・・?
小さなノックと低い問いかけに 応えはない。 ためらい勝ちに手をかけたドアは難なく開いた。
「 ・・・・ユウジ・・・ ねえ、どうしたの・・・ ほら、起きて・・・? 」
「 ・・・う・・・? ・・・・・あ・・・ああ・・・・・。 きみ、か。 ・・・・ああ・・・・ 」
「 大丈夫? あなた、魘されていたのよ。 悪い夢でも見た・・・? 」
「 ・・・・ 夢、か・・・・・。いや・・・ 夢なら・・・どんなにか・・・・マシだろう・・・・! 」
自分を揺り起こし、心配げに覗き込む蒼い瞳を彼は放心したように見詰めていた。
「 ごめんね・・・。 こんな時間に起こしてしまって。 」
「 いいのよ、気にしないで・・・・・・・さあ・・・ミルク・ティ−を淹れたわ、気分が落ち着いてよ? 」
近頃は もっぱらアトリエとして使う方が多くなったリビングで二人は暖かいカップを手にしていた。
「 ・・・ ありがとう・・・・ こんな風にして・・・よく真夜中にお茶を飲んだよ・・・ 」
「 ・・・そう? Avec votre amie ? ( お友達と? ) 」
「 amie・・・そう、僕は、利用したんだ・・・彼女のことを。 amoureux (恋人) の振りをして。
僕よりずっと才能があった彼女を、ね。 純粋な人だったから・・・・ 僕を愛している、と言ってくれた・・・ 」
「 愛しているって・・・? 」
− カチカチ・・・・・ ティ−・カップがフランソワ−ズの手の中で細かく震えた。
「 すべてを愛するって、ね。 ・・・その時はわからなかった。その、彼女の言った意味がね。 」
「 ・・・・ どうなさったの、そのかた。 ・・・・別れたの・・・・? 」
しっかりとカップを両手で胸に抱き、ほとんど聞き取れないほど低く尋ねたフランソワ−ズに、ユウジは
ちらり、と怪訝そうな眼差しをむけた。
「 運悪く、×××のテロ事件に巻き込まれて・・・彼女は死に、この手は・・・死に損なった・・・ 」
テ−ブルの上に投げだされた右手に 彼は視線を落とした。
「 ・・・・そう・・・事故って・・・そのことだったのね・・・ 」
「 彼女を失って、やっと気付いたんだ・・・・彼女が、ただ<居てくれる>だけで自分の周囲が全て意味を
持っていた・・・ということに。 」
− そして。やっとわかったんだ・・・。 彼女は・・・黙って僕の全てを・・・受け入れてくれていた・・・
なにもかも。 僕の まやかしも、 不実も、・・・・ 裏切りも。
この・・・結末は、天が僕に与えた贖罪のしるし、だと思ってる。
低く、しかしはっきりと語るユウジの手に フランソワ−ズはそっと自分の手を重ねた。
「 ユウジ・・・あなたは。 強い人ね。 」
− あなたは。 逃げないもの。 ・・・・わたしは・・・尻尾を巻いて逃げてきたのよ、真実を確かめるコトもせずに。
僕が強いって・・・・? ふふふ・・・そうかな・・・そうかもしれない。 失くすもは もう、何もないもの、
怖いものなんか あるわけ無いだろう・・・?
でも。
僕は・・・きみを知って、また怖くなったよ・・・そう、 生きてみたくなったんだ、きみと出会って、ね。
「 わたしは。 ・・・・あなたに会えて・・・よかった・・・。 」
翌日から、以前にも増した熱心さでユウジはデッサンを始めた。
時間の観念など忘れ果てのめり込む彼の情熱は じっとモデルを務めるフランソワ−ズにもぴりぴりと感じとれる。
「 ・・・ユ・・ウジ・・・ ごめんなさい・・・ ちょっと・・・・ 」
シ−ツを被せた椅子にポ−ズを取っていたフランソワ−ズが くらり・・・と、姿勢を崩した。
「 あ・・・!大丈夫? ・・・ ごめんね!つい・・・夢中になっちゃって・・・。 ん、休憩しよう!
今日は僕が 美味いお茶を淹れるから、少し横になってなよ。 」
「 ごめんなさいね・・・せっかく・・・・ 」
「 平気、平気! うん、もうすこし・・・・、 そしたら キャンバスに写すよ・・・! 」
−バタン・・・!
大きな音と共にキャンバスが倒れた。
「 ・・・だめだ! やっぱり・・・。 僕が描きたいのは・・・欲しいのは・・・こんな線じゃ、ない。 」
「 ユウジ・・・・。 」
フランソワ−ズは 頭を抱えている彼の脇でたおれたキャンバスをそっとおこした。
「 さわるなっ・・・・・・ ああ・・・・ごめん、いいんだ・・・そのままにしておいてくれ・・・・・・
やっぱり・・・駄目だ、この、この手には・・・・ミュ−ズの神は・・・戻ってはこない・・・! 」
なんと言っていいか解らずに、フランソワ−ズはただじっと彼の傍に寄り添いそっとその背に手を当てた。
− ぴくり・・・・っとユウジの背が震え・・・・・くるりと振り向きざまに彼はフランソワ−ズを抱きしめた。
「 ・・・・! ユウジ・・・! 」
「 ・・・・・・ 」
− 突然激しい愛撫が始まった。
フランソワ−ズが知っている彼とは別人のごとく 性急にユウジはもとめてきた。
ほとんど曳き毟るように ブラウスを剥ぎ取り彼女の両手を押さえてそのまま床へ倒した。
・・・・あえて抗うことをしないフランソワ−ズの身体に、嵐のようにキツイ吸い上げが注がれた。
彼女の白い陶器のような肌に 鮮やかな紅い花がてんてんと散らばってゆく・・・
− 愛してる、愛してるはず、よ・・・。 そう・・・よ・・・わたし、このヒトを愛してるはずのなよ。
あの鍵を失くした時に、ジョ−とは終わったのよ、きっとそうなんだわ。
無理にそう思い込まなければ、こころがばらばらになってしまいそうだった。
一方、必死でそう言い聞かせている自分を 彼女は妙に褪めた思いで見詰めていた。
− わたしは・・・・このヒトのものに・・・なるわ・・・ サヨウナラ・・・ジョ−・・・
きゅっと閉じた瞳からつう・・・っとナミダが頬を伝った・・・・。
「 ・・・ユウジ・・・いいの、よ・・・? 」
性急な愛撫のあげく ふと身体を離したユウジにフランはそっとつぶやく。
「 ・・・・ダメなんだ、出来ないんだっ・・・ 」
「 ・・・・?・・・」
「 ・・・・コレこそが事故の後遺症、さ。 医者いわく<こころのモンダイ>だと! 」
「 ・・・ユウジ・・・ 」
フランソワ−ズは黙って身を屈めると 彼の力なく項垂れているものに唇を寄せた。
不思議な時間が流れていった。
夫婦でも 愛人でも 兄妹でも・・・ない。
そんなふたりが 穏やかな小春日和の日溜りに 風を避け 風から逃れ ひっそりとその身を隠す。
傷ついた者同士が 庇いあい羽を寄せ合う ちいさな巣。
ひとつベッドに寄り添い眠りに付く時も、手を繋ぎ合っているだけ。 それだけ・・・・・、でも。
「 ・・・ねえ・・・ どうして あなたは・・・あそこにいたの? 」
「 ・・・あそこ? 」
「 あの日。 セ−ヌで・・・初めて会ったとき。 」
「 ・・・きみと同じ理由、さ。
僕もケリをつけるつもりだった。」
「 ! ユウジ・・・」
「 ふふ・・・お笑いだよね、そんなヤツが・・。でも、自分自身を見ている ようで・・放っておけなかった・・・それで。 」
「 ・・・セ−ヌが、わたしをユウジに遭わせてくれたのね・・・」
触れ合っているのは、手だけなのに。 不思議に満ち足りた安堵感が二人を包んでゆく。
あまりに 脆くて儚くて・・・ だから なおさら大切で暖かくて。
しかし それは ほんのつかの間の休息。 凍て付くセ−ヌに流れる泡沫(うたかた)にも似た・・・
満ち足りてと思う一方、どこかでそう遠くはない <終わり> を二人とも感じはじめていた。
・・・・どちらも 敢えてソレから目を逸らせようとはしていたけれど。
− ああ・・・。 こちら側へ来たのは・・・ほんとうに久し振り、だわ・・・。
クリスマスを目前に、ささやかでも何かふたりで祝おうと、フランソワ−ズは仕事の帰りに久々に
セ−ヌを渡り 華やいだ街並みへ足を踏み入れた。
大きな劇場を目差す通りには 楽しい準備に追われる人々が賑やかに行き交っている。
クリスマス公演目当ての観光客の姿もあちこちに見受けられた。
− ・・・?・・・ まさか・・・。 え・・・・でも・・!
フランソワ−ズの視線はほんのワン・ブロック先に釘付けとなり その歩みは唐突にぴたりと停まった。
年末の 『 くるみ割り人形 』 公演のポスタ−を眺めている栗色の髪の青年。
「 ・・・ジョ−? ジョ−なのね?! 」
「 ・・・? ・・・! フランソワ−ズ!! 」
****** 言い訳 by 管理人 ******
皆様、お気付きですね、原作『 眼と耳 』編のあのヒトを引っ張って?来ました。彼には彼なりの事情が
あったんだろうな、となんとなく気になっていましたので。
・・・あの、パラレルですからね!くれぐれもその辺、ヨロシクご了承の程を・・・
Last update: 6,22,2003
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