『 HOME ― あるいは未来都市 ― (2) 』
サクサクサクサ ・・・・ サクサクサク ・・・・
砂浜の上を 足跡が二組、寄り添って続いている。
その足跡をゆるやかな波が追ってゆき ― また引いて行く ・・・
< リゾート都市 > の海は穏やかだ。
― ホンモノ ・・・ だよな? この海 ・・・
ピュンマはまだ少々疑心暗鬼だった。
無論、隣を歩む女性は気付くはずもなくのんびりと足を運んでいる。
「 まあ あなたも休暇でこの都市に? 」
「 ええ まあ ・・・ 仕事がらみでもあったけど。 今は 休暇ですよ。 」
「 そうなの ・・・ ねえ ここはとても気持ちのいいところね。 」
「 君は え〜と ・・・ その ・・・ 海を知っているのかな。 」
「 うふふふ お察しの通り ・・・ 出身はサバンナ地帯よ。 海を見たのは留学したときが初めて。
今は 大都会のビルの海で仕事をしているわ。 」
「 ― そうなんだ? ここは ・・・ 僕が知っている東洋の国と似ているよ。 」
「 東洋の? チャイナ? 」
「 ううん、 日本。 JAPAN だよ。 」
「 まあ〜〜 ステキ! 私、 一回ニホンに行ってみたいなあ〜って思っているの。
Cool
JAPAN 〜〜ってね♪ 」
「 ふうん ・・・ 」
海辺で出会った女性は キラ と言った。
知的に輝く瞳は大地の色で、 NYのNPOで働いているのだ、と小さく笑った。
「 貴方はニホンでお仕事をなさっているの ? あ・・・ 聞いても構わない? 」
「 ああ別にいいよ。 僕は普段は祖国で仕事しているんだ。 野生生物保護関係のNPOさ。
出身は山奥のちっぽけな部落だったけど。 」
「 うふふ ・・・ 私もご同様。 都会に出るにはジープかトラックで2日はかかったわ。
そりゃあ故郷は懐かしいけど・・・ 帰ってあそこに住むつもりはないわ。 」
「 ずっと帰ってないの?
僕は日本には 身内が住んでいてね。 長期休暇の時とかによく滞在するんだ。 」
「 そうなの? 故郷には ・・・ 大学を出てそのままNYで就職して。 一度も帰ってないわ。 」
「 ふうん ・・・ あ ここへは 友達と来たのかな。 」
「 ううん〜 一人よ。 ここってリゾート都市なのでしょう?
なにかねえ ・・・ ちょっと疲れてしまって。 一人でのんびりしたいなあ〜って
ふふふ ・・・ それなら素直に故郷の自然にどっぷり浸ればいいのにね 」
「 ふうん ・・・? 」
明るい笑顔の彼女なのだが その口調にはほんの少し・・・陰が混じる。
故郷に帰りたくない、なにか特別な理由でもあるのだろうか。
・・・ だとしても 深入りする趣味はないし な。
僕達は一応は <招待客> で 休暇だけど ・・・
ウラは ミッションの一環だし。
余計な口出し無用 ・・・ってとこだね
「 この海岸ってずっと続いているのかなあ。 」
ピュンマはさり気無く話題を変えた。
「 さあ ・・・ 私は水辺に出たいってリクエストしたら ・・・ ここまでガイドしてくれたのよ。 」
キラは腕を上げて例の < ナヴィ・ウオッチ > を示した。
「 ああ 僕も似たり寄ったり さ。 別に海じゃなくてもよかったんだけど・・・
湖とか大きな河川とか ― 滝とかもしばらく見てないなあ 」
「 ヴィクトリア湖やナイアガラ瀑布? ・・・ 私は あまり好きじゃないのね。 」
「 ふうん ・・・ あ 高所恐怖症 とか? 」
「 違うわよ。 あら ねえ あそこにコテージがあるわ? 少し休みません? 」
「 いいね。 お茶でもご一緒しませんか、お嬢さん? 」
ピュンマはわざと慇懃に会釈をしてみせた。
「 まあ ・・・ うふふふ ・・・ ナンパされてしまったわ〜〜
・・・ 外国では気安く誘いに乗ってはいけません、ってママが ・・・ 」
「 外国で仕事をしてもいいけれど 青い眼のお嫁さんなど連れて帰ってくるなってママが〜 」
「 あら。 私の眼をようくご覧になって? あなたと同じ大地の色よ。 」
「 僕は真摯にお誘いしているのですが? お嬢さん。 」
・・・ ぷ ・・・! 大地の色の瞳を見合わせ ― 二人は同時に吹き出してしまった。
「 くくくく ・・・・ さあ 行こうよ。 」
「 ええ。 ほら やっぱりTEA ROOM って看板があるわ? 」
二人は笑いさざめきつつ 海岸線に突き出したコテージめざし歩いていった。
チリ −−−− ン ・・・・ 控え目にドア・ベルが鳴る。
「 ・・・あら ・・・ いいカンジ。 イギリス風な Tea Room なのね。 」
キラは一歩踏み入れると 嬉しそうに店内を見回した。
「 ふうん ・・・ そうだね。 あ ・・・ 二人ですけど? 」
ピュンマもぐるっと店内を眺めつつ、でてきたウェイトレスに告げた。
「 どうぞ。 窓際のお席が空いております。 」
白いメイド・キャップと同じくフリフリエプロンの女性が 二人を案内した。
「 ・・・ ああ ここは ― 海がすぐ下に見下ろせるんだね。 」
「 本当・・・ ちょっと怖いカンジ ・・・ 」
「 あ〜 ほら。 やっぱり君は、キラ。 高所恐怖症なんだよ。 だから滝とか嫌いなんだろ。 」
「 いえ ― 違うわ。 滝が嫌いなのは ・・・ あ メニュウが来たわ〜 」
「 え あ うん ・・・ そうだなあ 僕は ・・・ 」
「 スコーンもスフレも ・・・ う〜〜ん ・・・ シフォン・ケーキも美味しそう〜 」
「 ・・・ まさか全部オーダーしない よね? 」
「 あら。 ちゃんと割り勘のつもりよ? 」
「 そ〜〜いう問題じゃなくて。 僕 ・・・ 目も甘党じゃあないんだ。
目の前にずらり〜と甘いモノを並べられるのは 〜〜 」
「 わ〜かりました。 それじゃ ・・・ スコーンだけにするわ。 」
「 ありがとう。 それじゃ・・・・僕は シフォン・ケーキとスフレ。 」
「 え〜〜〜〜 甘党じゃないのでしょう? 」
「 うん。 実は 激甘党 なんだ。 見てるより賞味したいね。 」
「 まあ。 そんな男性っているのね、この世の中に・・・ 」
「 おいおい・・・ ヒトを特別天然記念物みたいにいうなよ。 」
「 ・・・ そういうお仕事なのでしょう? 特別天然記念物の保護! 」
「 それはまあ 」
それをきっかけに二人の話題は仕事に移っていった。
・・・ ふうん ・・・? こんな女性もいるんだなあ・・・
ピュンマは素直に キラとの会話を楽しんでいた。
彼女は聡明で教養が深く ― しかもそれをひけらかさない嗜みがあった。
自分の知らないことには率直な感想を述べ深い興味を示した。
「 ホテルはどこ? 送ってゆくよ。 」
Tea Room を出るころにはそろそろ昼に差し掛かる時間となっていた。
「 ごめん ・・・ 君の大切は休暇をじゃましてしまったね。 」
「 あら いいのよ。 特に予定もなくてぷらぷらしたかったのですもの。
ああ ・・・ 久し振りよ、こんなに笑ったりしたの・・・ 」
「 僕もさ。 ありがとう キラ。 」
「 こちらこそ。 ありがとうございました ミスタ・ピュンマ。 」
二人は真面目な顔になって 握手をした。
「 あ ・・・ごめん、名刺とか・・・連絡先の書いてあるもの、持ってこなかったんだ。 」
「 ・・・ いいの。 ご縁があったらきっとまた逢えるわ。 」
「 そう かな。 」
「 そうよ。 ― 初めて逢った男性とあまり親しくなってはいけませんって ママが。 」
「 魅力的な女性に一目で夢中になってはいけませんって 僕もママに言われた。 」
「 ・・・・ もう ! 」
「 いや 本当にありがとう。 じゃ 宿泊先まで送ってゆくよ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ あの ・・・? 」
「 はい、なんですか。 」
「 あの。 ・・・ また 会ってくれますか。 」
「 え〜と・・・君はいつまでここに滞在予定なのかな。 僕は ― 」
「 あ そ そうじゃなくて。 あの ― この都市の外でも ・・・ 」
「 あ〜 うん ・・・ でも君はNYだし僕はほとんど故郷 ( くに ) にいるし・・・ 」
「 そ そうよね。 あの でもその・・・ニホンに行くときとか ・・・
あ! もしかしたら 仕事でNYに行くこととかあるかもしれないでしょう?
そんな時とか・・・ 会ってくれます? 」
ひた、と黒曜石の瞳がピュンマを見つめる。
・・・ な なんて魅惑的な 瞳 ・・・!
この瞳 ― いつかどこかで こんな瞳が身近にいた ぞ?
・・・・う〜〜〜ん ・・・ ? 誰だ ・・・?
彼は懸命に記憶の糸をたぐっていたが ・・・ ぷつり、とその先は奈落の底に落ちてしまった。
「 勿論 それは喜んで。 あ 僕からもお願いがあるんだ。
たまには ・・・ ほんの1〜2日でもいいんだ。 故郷の親御さんの所にも帰ってごらんよ。 」
「 うふ ・・・ やっぱりそれは無理 かもしれないわねえ ・・・・」
「 なにか特別な理由でもあるのかい。 あ ごめん ・・・ 立ち入ったことを聞いて ・・・ 」
「 構わないわ。 ― 私、留学するときに 初めてあの故郷の村から出たのよ。 」
「 あ うん そうなんだ? 」
「 そうなの。 そしてその時 ― ああ ・・・ これで逃げられる・・・!って思ったのね。 」
「 逃げられる ・・・? 」
「 そ。 家族とか 部落とか。 ・・・・ 私の居た小さくて狭い社会から ・・・ 」
「 <外> に出てみたいっていうのは、若者なら誰でも抱く望みだろう?
皆 そうやって広い世界へと挑戦してゆくんだから ・・・ 」
「 そ う ・・・? 私は挑戦、というよりも脱出とか 逃亡に近い気分だったけれど・・・
・・・・ でも ・・・ 」
「 でも? ちょっとは心境が変わったんだ? ホームシックかい。
あ、別に恥ずかしいことじゃないと思うけど? 」
「 あの ・・・ そうでもなくて ・・・ 」
キラは少しだけ言葉を切り、俯いていた。
カツン ・・・ 彼女が小石を蹴る。
「 あの ― で でも ・・・・ 次の休暇には 帰ってみようかな なんて思って。
・・・ 向こうでなら もしかしたら ・・・ ピュンマさんと逢えるし。 」
「 あは ・・・ それは光栄だな。 まあその前に家族に元気な顔を見せておいでよ。
兄弟とか甥・姪とか いるだろう? 」
「 あ ・・・ ううん。 一人っ子なの。 」
「 へえ・・・ めずらしいね。 」
「 ― 姉がいたけど。 死んだの。 村の開発援助に来ていた外国のオトコに 勝手に恋をして
そのオトコには勿論祖国には妻子がいて ・・・ あとはお決まりのコースよ。
ええ 別に玩ばれたとかじゃないのに 姉は勝手に悲観して死んだわ。 」
「 ・・・ ああ そうなんだ ・・・ 」
「 全部姉が悪いのよ。 相手の男は普通に親切にしていただけだったしね。
側で見ていてもわかったもの。 それなのに ・・・ 本当に世間しらずだったのよね、
姉は勝手にその親切を勘違いして逆上せあがっていたってこと。
それでも ― 村の長老たちは旧い話を蒸し返したわけ。 」
「 ・・・ふるい ・・・ はなし ・・・? 」
「 そう。 村に伝わる伝説よ。
昔 ・・・ 村一番の器量よしの女性が 銀のウロコを持つ神と出逢って愛し合った。
しかし神とヒトは 交わってはならない って禁忌を破ったのね。
そして ・・・ 彼女は滝つぼに身を躍らせた・・・
だから ・・・ <外の人間には>本当に気をつけろって言うのは 女の子は皆聞かされるのよ。
戒めを守らなかったら 滝つぼに落ちるぞ・・・って。 」
「 ・・・ ふ ふう ん ・・・ 」
「 私 ・・・ そんな旧弊な社会で息が詰まりそうだったの!
そこに 外国の援助隊が来て・・・ まずインターネットを持ち込んだのね。
それで私 ・・・ネットで見ていた世界に 広い世界に行きたくて ・・・ 必死で勉強して ・・・
奨学生試験に合格して ― 飛び出したの。
ふふふ ・・・ 私だって < 外 > という滝つぼに飛び込んだってことよね。 」
「 ・・・ そ そうだ ね 」
「 ? あら? どうなさったの。 気分でも悪いのかしら ・・・ 」
「 あ いや・・・ ああ ほら宿泊施設が見えてきたよ。 あのホテルだろう? 」
「 え ・・・? ああ そうよ。 なんだか帰り道はすごく短かかった気分〜〜 」
「 ・・・ それじゃ ・・・ 」
「 ! あの ! ありがとうございました。 ・・・ これ。 私の連絡先 ・・・ 」
キラは顔を赤らめつつもネーム・カードを差し出した。
「 ・・・ もらってもいいのかな。 」
「 どうぞ? 」 あの ・・・ と彼女は期待の笑顔を向ける。
「 ああ 失敬。 ― これは僕の仕事先さ。 」
ピュンマは慌てて 内ポケットを探り、メモを出すと仕事用の連絡先を書いて渡した。
「 ありがとうございます! あの ピュンマさんもこちらに滞在していらっしゃるの? 」
「 いや ・・・ あちらのコテージに仕事仲間と・・・ じゃあ ・・・ 」
「 あ あの! また ・・・逢えますよね? 」
「 ・・・ あ ああ ・・・ 」
ピュンマは曖昧に返事を濁すと ぎこちなく握手を交わした。
「 ・・・ じゃ ・・・ 」
彼は足早にホテルのロビーから出て行った。
「 ・・・・ ! 」
正午に近い陽射しがやたらと眩しい、と感じた。 いや 陽射しだけじゃ ない。
・・・ ! ・・・ こんな ・・・ こんな所まで ・・・
オマエは僕を追ってくるのか・・・!
因習 という名のオマエは ・・・!
おいおい もう ・・・ 時効じゃないのか ・・・
「 ・・・ ! 」
唐突に彼の足が止まった。
「 も ・・・ しかして。 ここで ・・・ やりなおせ、というのかい ・・・? 」
ピュンマの問いに 応えてくるのは風の音ばかり ―
彼はもぞもぞと端末を取り出すとちらり、と眺めほんの少しの間操作していた。
海人8号@black_ocean
・・・ 天国の中にも地獄は ある
カタリ ・・・ 彼の手から端末が落ちた。
ザワザワ −−− ・・・・ サワサワ ・・・・
心地良い微風が テラスを吹きぬけてゆく。
「 ほう・・・ なんとも気持ちのよいコテージじゃのう。 どっこいしょ・・・ 」
ギルモア博士は資料とおぼしき厚いファイルとノートパソコンをテーブルの上に置いた。
「 博士。 ここで仕事、するのか。 」
「 あ? いや 仕事 ・・・というほどのことではないがな。
まあ ちょいとした思いつきを纏めておこうか と思ったのじゃが。 」
「 この中では 休息 が一番だ。 」
ジェロニモ Jr.は 彼にしては珍しく自分の意見を強く主張した。
「 うん うん わかっとるよ。 ちょちょ・・っとすませて、あとはのんびり昼寝でもするよ。 」
博士はマイペースが常なので 他人の忠告などは普段から歯牙にもかけない。
「 ・・・ むう ・・・ 」
ジェロニモ Jr. はそのまま室内に置いたクーファンの側に戻った。
「 ・・・ イワン。 博士を眠らせてろ。 お前も眠ったほうがいい。 」
≪ ワカッテイルヨ。 じぇろにも。 ボクハ眠リデ自分自身ヲし〜るどスル。 ≫
「 それがいい。 ― ここは 異様だ 」
≪ ソウダネ。 博士モ眠ッテモラウネ。 君ハドウスル、じぇろにも。 ≫
「 俺は大丈夫だ。 沈黙して博士とお前を護る。 」
≪ タノムヨ。 009達ガクルマデ ・・・ ≫
「 まかせておけ。 ・・・ 眠りを護る香を焚いておこう 」
≪ ・・・ウン ・・・ ア 博士モ眠ッタ ・・・・ ≫
― コトン イワンの口からおしゃぶりが転げ落ちた。
「 お休み、イワン ・・・ 」
ジェロニモ Jr.は赤ん坊をクーファンごとだきあげると、部屋の奥に据えた。
「 博士は ・・・ うむ イワンの隣がいい。 」
毛布を取ると、彼はテラスに出た。
老人は軽くイビキをもらし ― テーブルに突っ伏してぐっすりと眠りこけていた。
「 ・・・ 眠りはいい。 一番の <護り> ・・・ 」
やがて コテージのリビングにはかすかに甘い香りが漂い始め ・・・ 老人と赤ん坊の
安らかな寝息が聞こえるのだった。
「 定時連絡。 ― 予定通り。 訪問時 要注意。 ・・・よし。 」
端末を閉じると、彼は脇に置いていた香木を手に取り再び削りはじめた。
足元には深皿があり、その中で削片が燻されかすかな香りを放ってる。
「 この香り ― 平安の眠りに導く。 眠りはこころを護る。
ここは ・・・ 見えない紗幕で息苦しい ・・・ 」
シュ ・・・ シュ ・・・ 香木を削る音だけがコテージの中に響いていた。
「 ・・・ すごいわ 〜〜〜 」
「 え あ〜〜 もしもし お嬢さん? あんまり手元をじろじろ見ないでいただけませんか? 」
ジョーは苦笑しつつちょろっと振り仰ぐ。
この小型機を発進させてしばらくしてから、フランソワーズはず〜〜〜っとパイロット席の後ろに張り付いている。
「 え ・・・ あら。 そんなにじろじろなんて ・・・ 見てはいませんことよ? 」
「 え。 そうかなあ〜〜 ず〜っと熱い視線を感じてヤケドしそうなんですけど・・・ 」
「 うふ? それはパイロットがあんまりステキだからです♪ 」
「 へえ〜〜 ? ぼくの手はそんなにステキですかね?
― きみってばさっきからこっそり航路チェック、してるだろ? 」
「 あ あら・・・ 。 うふふふ〜〜 ご名答〜〜〜〜♪
だからね、 < すごいわ〜〜 > って言ったのでェす♪ 」
「 なにがすごいわ〜 なんだか・・・ ぼくの操縦なんて ドルフィン号でさんざん見てるだろ?
小人数ミッションの時にはその席でナヴィも頼んでいるじゃないか。 」
「 ふふ〜ん ・・・ わたしが すごいわ〜〜 って申しましたはね、
ムッシュ・島村? 貴方がかなり悠々とこの飛行機を操縦してること! 」
離陸後、彼女もナヴィやら気候観察に精を出していたが いつの間にかジョーの側へ
戻ってきて じ〜〜っと手元を見つめているのだ。
「 だ〜から ・・・ なに? きみのその熱い視線の目的は。 」
「 二人っきりなんだもの、いいでしょう? だってドライブみたいで楽しいもの。 」
「 ― フラン〜〜 正直に言って。 」
「 ・・・ 私服で操縦してると ・・・ 後姿とか ・・・ 似てるから。 」
「 え? 」
「 ・・・ だから ・・・ お兄さん と 似てるの。 だから 見ていたかったの ・・・ 」
「 フラン ・・・ 」
「 お兄ちゃんは こんな飛行機には乗ってなかったけど ・・・
でもきっと こんなカンジで操縦してたのかなあ・・・って思って ・・・
ミッションの時は いつも防護服だから ・・・ 気が付かなかったけど ・・・ 」
「 ・・・ ぼく ジョーだよ。 きみの兄さんじゃ ない。 」
「 ごめんなさい。 わかってる ・・・ わかっているのよ。 アタマでも心でも ・・・ 」
きゅ ・・・。 ジョーは片手を伸ばし、フランソワーズの手を握った。
「 ― ごめん。 意地悪、言っちゃったね。 ちょっと妬けたから さ 」
「 ジョー ・・・ 」
「 ぼくはきみの兄さんにはなれないけど ずっと側にいるから。 ずっと一緒に。 」
「 ジョー・・・! ああ わたしも ・・・わたしもよ、ジョー ! 」
フランソワーズは そのまま彼に抱きついた。
「 お〜〜っとォ〜〜 ほらほらかじりつかないでください〜〜 操縦不能 〜〜 」
「 意地悪。 でもとっくに自動航行にしているくせに〜〜 」
「 へへへ ・・・ バレた? きみのあつ〜い視線、感じていたかったから
縦してるフリ、してた。 」
「 まあ ・・・ もう〜〜〜 ふふふ でもいいわ、こうしてくっついていられるのですもの。 」
「 ウン ・・・ なあ フラン? 」
「 はい? あ ・・・ きゃ ・・・ 」
ジョーはそのまま ― パイロット席で彼女を抱きすくめ唇を奪った。
「 ・・・ んんん ・・・ あ ・・・だめ ・・・ 」
「 んんん 〜〜〜 大丈夫、ちゃんとオートシステムに切り替えてるから ・・・ 落ちないよ。 」
「 そういうことじゃ ・・・ あ ・・・ ん 〜〜 だ だめ ・・・ こんなトコで ・・・ 」
「 じゃあ ・・・ 隣の席ならいいよね〜 よ・・・っと ・・・ 」
彼は彼女を抱いたまま、隣のシートに移った。
「 こっちの方が ・・・ いろいろ邪魔なモノが少ないから 〜 」
「 ・・・ きゃ ・・・ う ・・・んんんん ・・・ 」
滑空する機体の中で二人は縺れ合い絡み合い ― 二人だけの <空> へ昂り詰めていった。
― カサ ・・・・ 落ちた衣類を白い手が拾いあげる。
「 ・・・ ほら ・・・ 」
ジョーは反対側からも取り上げて彼女に渡した。
「 ・・・ 本当にもう ・・・ 強引なんだから ・・・ 」
「 ごめん〜・・・ イヤだった? 」
「 ・・・ ジョーのバカ ・・・ 」
「 ははは ・・・ これも二人だけの後発隊の役得 かなあ〜 あ そういえば定時連絡 ・・・ 」
「 あ わたしがチェックするわ ・・・ 」
ブラウスのボタンを留めつつ フランソワーズはナヴィ席に戻った。
「 え〜と ・・・ あら ・・・? 」
「 どうした。 なにか 」
「 ううん ・・・ ねえ、今回定時連絡担当はジェロニモ Jr.よねえ? 」
「 ああ そうだけど。 緊急連絡かい? 」
「 そうじゃないの。 あの ・・ ずっと 異常なし だけなのよ。 」
「 ・・・ ふうん ? それはちょっと ― 妙だな。 」
「 でしょ? 彼 いつも必ずなにかひと言添えてくれるもの。
ジェットならこんなカンジだけど。 ジェロニモ Jr. の通信はもっと丁寧だわ。 」
「 確かに。 あ ・・・ ピュンマの <呟き> はどう? 」
「 ちょっと待ってね ・・・ えっと ・・・ あら。 」
「 朝食の後 ・・・ 呟いていないわ。 どこか出かけたのかしら。 」
「 それなら余計に呟いているはずだろ? 一応休暇ってことになってるんだから。
あの都市のこととか さ 」
「 そうよねえ ・・・ ねえ ジョー。 やっぱり ・・・ ? 」
「 うん。 ― 要注意 ってことだね。 二手に別れていてよかった ・・・ 」
「 まさか また ・・・ ? 」
「 わからない。 とりあえず、ぼく達は作戦通りにゴ招待に <乗って> やろう。 」
「 了解。 ・・・ ふふふ〜〜 ジョーさん? お芝居、頼むわよ〜 」
「 う ・・・ ぼくってホント ・・・ 苦手なんだ〜〜 」
「 期待してます、大根役者さん♪ いいのよ、ぎこちない方が ― この設定には ね。 」
「 そ ・・・ そうかな ・・・ う〜ん ・・・ 」
「 そうです♪ ・・・え〜と まだ時間はあるわね。 ちょっとお茶、淹れるわ。 」
「 わお〜 お願いします。 ・・・ お腹 減りました。 」
「 あんなワルイこと、するからです〜〜 お待ちください。 」
フランソワーズは軽い足取りで コクピットを出ていった。
ジョーは連絡用のモニターをしばらく眺めていたが ピン、と画面を弾いた。
「 ― ふむ ・・・ まあ その手に乗ってやるか 」
ヴィ −−−− ・・・・・ 小型機は一路、 リゾート都市を目指す。
「 うう ・・・・ はあ〜 ・・・ ふう 〜〜〜 ・・・ 」
グレートは大仰に溜息を吐くと、道端のベンチにくなくなと座りこんだ。
「 なんや〜〜 あんさん、ほんのち〜と歩っただけやんか〜 足、痛みはるのんか? 」
「 うう ・・・ 面目ない ・・・ いや 脚ではなくその・・・その ・・・ オツムがな・・・ 」
「 ふふん 飲みすぎアルよ、ほんま! 」
「 ・・・ ううう ・・・ これが呑まずにいられりょか〜 ってなあ ・・・ 」
「 よう知らんわ〜 ほんならワテはちょいと先にゆきまっせ。
野菜市、いう催しがありまんねん。 」
「 へい〜〜 いってらっしゃいまし〜〜 」
よういわんわ ・・・ と 呆れた呟きを残して、張大人はとっとと行ってしまった。
「 ・・・ ふん ・・・ ご苦労サンなこって ・・・ 」
グレートは遠ざかる友人の短躯を見送ると、 う〜〜ん・・・と大きく伸びをした。
「 ・・・ ああ ・・・ いい気分だ ・・・ リゾート都市、 とか言っていたなあ〜
うん このベンチも座り心地もソフトだし ・・・ さすがだなあ〜 金、かけてますってなあ 」
午前中の陽射し、勢いのある光がふんだんに降り注ぐ。
時たま流れてくる風も穏やかで むしろ心地好い。 木々のざわめき 小鳥の声 ・・・
たまに行き交う人々も 誰もがのんびりと歩み同じくのんびりとした表情だった。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ ここはリラックス・ゾーンとでもいう地域なのであるかな ・・・
どうれ ・・・ ちょいとのんびり脚をのばしてみるか ・・・ イテテ ・・・ 」
グレートはふらり ふらり 歩き始めた。
「 ほう ・・・ 以前来た時にはどこもかしこも機械仕掛けで ・・・ ご立派な施設ばかりだったが
随分と意匠を変えたもんだなあ 」
どこででも見る田舎道、 簡易舗装しかしていない道を彼はのんびりと進んでゆく。
いつしか広い草地が右手に見える地域までやってきた。
「 お。 なかなかいい風情だなあ ・・・ ダンディライオンの花が金貨のようじゃないか。
これはヴァイオレットに 野生のポピー ・・・ クローバーもあるなあ
・・・ あの光っているのは ・・・ 小川か? 」
山高帽にりゅうとした背広姿、 そして細く巻いたコウモリ傘、という典型イギリス紳士は
草地に足を踏み入れた。
「 お・・・? 少々雰囲気が変わった・・・かな?
木の間隠れに望めるのは ― 古城か? ・・・ いや あれはシアターだな。 ふむ・・・ 」
興味をもって足を進めてゆくと 草地の中に小川が見えてきた。
両脇から草地が落ち込んでいて 浅そうにみえた川は結構は幅と深さがあるらしい。
川岸の低木が枝を伸ばしており、足をすべらせれば少々危険であろう。
「 ほう ほう ・・・ なんとまあ・・・典雅な、というか うん? 」
川上から 細い歌声が聞こえてきた。
「 ボートでもくるのか? ・・・ いや ・・・違うな ・・・ アレは ・・・?! 」
グレートが低木の陰に身を潜めていると ― なにかが流れてきた。
「 ・・・ こりゃ・・・! これも ・・・演出 ・・・ なの ・・・ か? 」
中世の衣裳に埋もれた若い女性が 流されている。
しかも彼女の視線は空のあらぬ方向をぼんやりと眺めていて ・・・ 歌すら口ずさんでいる。
そのまま 彼女はゆっくりと流れて行った。 いずれは衣裳が水を吸い川中に沈んでゆくのか・・
「 ふん ・・・ オフィーリアでござい、ってとこか?
いやあ 〜〜 なかなか凝った演出だなあ。 どれ・・・シアターを拝見するか。 」
靴の汚れを気にしつつ グレートは川岸を後にした。
「 まあ! ようこそ! グレート・ブリテンさん、でしょう? 」
「 ・・・? 」
丘の麓に見えたシアターは 古城を改築したものと思われた。
入り口とおぼしき玄関から 一歩踏み込むと 若い女性が陽気な声をかけてきた。
「 当シアターへようこそ! 」
さあ どうぞどうぞ・・・と彼女は 手を取らんばかりにグレートに纏わりつく。
「 いかにも我輩はグレート・ブリテンだが。 我輩をご存知かな。 」
「 ご存知もなにも! この業界で知らないものはモグリですわ。
どうぞ! ホールの方へ・・・ 今、丁度舞台稽古中ですの。 」
「 ほう ・・・ ここはシアターなのですかな。 」
「 はい。 劇団の稽古場も兼ねたシアターです。
この都市にいらしたお客様の観劇用と ・・・ ワークショップも開催しています。 」
( いらぬ注 : ワークショップ ・・・ 体験型講座 )
「 なるほど ・・・ ああ いい造りですなあ ここは。 」
玄関ホールに入って グレートは広い吹きぬけになっている天井を見上げた。
「 はい。 ここは旧い貴族の邸宅を改築したそうです。 ホールはこちらですわ。 」
「 ・・・・・ 」
おそらく彼女自身も演劇人を目指しているのだろう、歯切れのよい発声で案内してゆく。
― ガタ ・・・ 重いドアを開ければ グレートの慣れ親しんだ空間が広がっていた。
「 ・・・ ! ・・・・・ ・・・・・ 」
「 ・・・・ 〜〜〜 」
舞台上では俳優が二人、熱心にセリフを交わしている。
装置もなにもない空間、俳優も普通の服装、 ただ女性は重ねた箱の上に立っており
身をよじらんばかりだ。
― どうやらかの有名なシーンらしかった。
どうぞ、と誘うガイド嬢に ここで・・・と彼は手で示し、客席に座った。
「 ・・・ ふん ? この広さで 発声と口跡はまあまあ・・・というところか。
ふん ・・・ しかし その動きは 」
「 ― 少し熱演すぎるとお思いになりません? 」
「 ??? 」
突然 隣の席から声が飛んできた。
グレートは驚いてそちらを見ると ― 若い女性が軽い微笑を浮かべていた。
「 あら ・・・ 失礼しました。 私、舞台に夢中でしたので ・・・
そうしたら あまりに的を得たことを仰っていたので ・・・ つい ・・・ 」
「 いやいや。 我輩のぶつぶつ独り言など お聞き捨てください ・・・ 失礼しました。 」
彼はその女性に慇懃に会釈をした。
「 あら そんな ・・・ でもこんな風にリハーサルに同席できるのは勉強になりますわ。 」
「 貴女もここのワークショップにご参加ですかな 演劇人のお嬢さん。 」
「 ・・・ 目指したい駆け出しです。 でも どうも希望は叶いそうもありません。 」
にっこり笑う顔はタレント志望の軽薄さなどは 微塵も見えない。
― ほう・・・? どこぞの劇団の研究生かな
「 そうですか。 いずれ舞台で拝見できる日を楽しみにしておりますぞ。 」
「 ありがとうございます! ミスタ・ブリテン。 」
「 ! あなたほどのお若い方が 我輩をご存知とは・・・? 」
「 まあ〜〜 ちゃんと存知上げておりますわ。 もっとも ・・・ DVD上で ですけど ・・・ 」
「 あ いやいや ・・・ 我輩こそ大変失礼をば仕りまして・・・ 」
「 まあ おやめくださいな。 それよりも ・・・ ご意見を伺わせてください。 」
「 意見? こちらの舞台についてですか? 」
「 いえ ・・・ 今度の演目は 『 ロミオとジュリエット 』 ですね、ですから そちらについて 」
「 それは まあ ・・・すでに万人に語り尽くされていまして・・・ 」
「 貴方のご意見は初めてですわ ミスタ・ブリテン。 」
「 これは ・・・ なるほど〜〜 一本 取られましたなあ 」
グレートなぴしゃり、と禿アタマを叩いた。
「 は〜い ・・・ ここで休憩 入ります〜 ワーク・ショップの方々〜〜〜
舞台上にいらしてもオッケーですよ〜 」
舞台ではリハーサルが一旦 休止になり 俳優たちは袖に引っ込んだ。
「 お。 いらっしゃらないのですか? 」
グレートは ちょい、ステージの方に顎をしゃくった。
「 え? ・・・ はい ・・・それより私はミスタ・ブリテンのご見解を拝聴したいですわ。 」
「 これは 〜〜 嬉しいことを、お嬢さん ・・・ 」
「 あ ・・・ 私 オガタリエ と申します。 日本人です。 」
「 ・・・ ! あ ああ そうですか ・・・ 」
おがた・りえ ・・・ その名は グレートの心に十分な衝撃を与えた。
「 どうかなさいましたか? 」
「 あ い いや・・・ 似た・・・名前の知人がおりましてな。 」
「 まあ・・・はやり俳優の方? 」
「 いや ・・・ 目指してはいたのですが。 失礼しました、お嬢さん。 」
「 いえ。 あの日本にいらしたことがおありですか? 」
「 おお それは もう。 身内同様のものがかの地に住んでおりますので ・・・
休暇の際にはよく。 お国の伝統芸能 ・ カブキ の虜になりましたぞ。 」
「 まあ ・・・ そうですの? ふふふ 私、日本人ですが歌舞伎には疎くて ・・・
それよりもミスタ・ブリテン? 『 ロミ・ジュリ 』 についてのご見解を 」
「 え ・・・あ ああ ・・・ いやあ〜 見解などとはおこがましいですが ―
我輩の乏しい経験から申し上げますと 〜〜 」
仕方なく、グレートは少々ぎこちなく話し始めた。
・・・ きれいな娘だな ・・・ そして 似ている ・・・
あのコに ― 木曜日に逝ってしまったリエコに
そして ロンドンで同じ劇団にいたオリビアに
・・・ なぜなんだ?
なぜ ・・・ 彼女たちの想い出と出逢わなければならんのだ ?
「 ・・・さすがに実際に演じた方のご見解は素晴しいですのね。 」
「 いや なに ・・・ 単なる感想ですよ。 」
「 とんでもありませんわ。 私の方こそ 」
その女性、オガタ・リエの舞台批評は結構マトを得ていた。
歳若いに似合わず見識が深い。 しっかりと勉強している、といった雰囲気だ。
彼女は英語に堪能で滑舌もよく、なによりも澄んだよく透る声を持っていた。
そして グレートの舞台人としての現場からの意見、2〜3の指摘に対しても素直に頷いた。
「 そうですねえ・・・ そこまでは考えていませんでした。 」
「 いやいや ・・・ 本当にこれは単なる私的意見ですよ。 」
「 でも俳優さんの感覚こそが ・・・
うふ ・・・ やはり私は <観客> で、蚊帳の外、なのですねえ。 」
「 批評があってこそ、次にステップがあります。
それにお嬢さん ・・・ いや ミス・リエ? 貴女も舞台を目指して 」
「 うふふ ・・・ それはやっぱり無理みたい。 」
「 その若さは諦めるには随分と早すぎる、と思いますぞ?
せっかくワーク・ショップに参加されたのですから、 舞台に上がってみては如何かな? 」
「 ・・・ いいのかしら。 」
どうぞ? とグレートは慇懃に身を屈め、彼女の手を取り ―
・・・ カタン。 足元に白い杖がころがった。
「 ・・・・ ! 」
「 ええ 私。 視覚障害者です。 ぼんやりと光を感じるだけなんです。 」
「 ・・・ それは ・・・ 随分とご無礼なことを申し上げてしまった・・・! 」
「 いいえ いいえ。 ミスタ・ブリテン。 お声でちゃんとわかります。
貴方は真摯にこんな小娘の相手をしてくださいました。 」
「 いや ・・・ 」
グレートはなんと言葉を継いでよいのかわからない。
「 私、 なんらかの形で舞台を目指しますわ。 」
「 ・・・ それは ・・・素晴しいことです、ミス・リエ ・・・ 」
リエは 手を伸ばしてグレートの手に触れた。
「 暖かい手 ・・・ ああ ミスタ・ブリテンのロミオを拝見したいです! 」
「 いや こんな老いぼれにあの役は ・・・ 」
「 演劇人に年齢はありませんことよ? 」
「 ・・・でした な。 」
「 ずうずうしいお願いをしても構いませんか? 」
「 我輩にできることでしたら ・・・ なんなりと。 」
「 ロミオのセリフを話してください。 あの・・・ 夜明けのシーンを ・・・ 」
「 ミス・リエ。 それは貴女に相応しい男性 ( ひと ) にお頼みなさい。
ああ 今 ・・・ このシアターの俳優が出てきましたよ。 御案内しましょう。 」
「 ・・・ ミスタ・ブリテン ・・・ 」
リエは戸惑っていたが グレートは彼女の手を引いて舞台に上がり ― 看板男優に引き合わせた。
「 ― ふ ・・・ 若さってのは いいねえ ・・・ 」
暗い客席に戻り、老俳優はぼそぼそと独りごちする。
舞台上では 男優とあの女性がにこやかに談笑している。
・・・ 変身したらどうだね? 若いハンサムなヤツにさ
「 いや。 我輩にはもう ・・・ 似合わん役さ。 」
へえ? あの時とは違うんだね?
「 ― 当たり前だろ。 え? もう一度 あの頃 の年齢 ( とし ) に戻してやるって?
・・・ は。 ゴメンだね。 暗中模索して苦しむのは 二度と御免さ。 」
グレートはどこからか聞こえてくる内なる声に応え続ける。
「 ふん ・・・ 何回でも何千回でも < 若返ることができる > って?
それは 終らない苦しみを意味しているだけじゃないか ・・・ 」
リゾート都市のシアターの隅っこで 老優はいつまでもぶつぶつと呟いているのだった。
― シュ ・・・・! エア・ターミナルのドアが開いた。
「 ようこそ〜〜 リゾート都市・エデンへ ♪♪ 」
満面の笑みで空港のクルー達がずらり、と居並び出迎える。
「 まあ ・・・すごいわねえ・・・ 」
「 ウン。 随分大袈裟だね。 」
「 ・・・ふふふ・・・ ジョーってば。 緊張しているでしょう? 」
「 ・・・ う ウン ・・・ 」
フランソワーズは隣にいる彼の手を きゅ・・・っと握った。
「 舞台袖ではね。 誰でも上がって・ドキドキして 死にそうなの。 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 そのドキドキを収めるにはねえ〜 」
「 え ? なにかオマジナイでもあるのかい? 」
「 ちがうわよ。 それはね、 勇気をもって舞台に踏み出せばいいの。 さあ ? 」
きゅ ・・・ 今度はジョーが彼女の手を握り返す。
「 よ よし。 あとは ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 」
白いツーピースに真新しいバッグの彼女をエスコートし。
びし!っと スーツに姿にキメたジョーは ゆっくりとゲートを潜った。
「 ようこそ!ミスター・ジョー・シマムラ。 そして ミズ・フランソワーズ・アルヌール。 」
入国審査係官と思しき男性もにこやかだ。
「 お待ちしておりました。 ようこそ〜 エデンへ。 リゾートの都市へ。 」
「 ・・ は はい。 あ ・・・ し 新婚旅行 です!! 」
ジョーの声は招待客用の送迎カウンターに 響き渡った ・・・
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updated : 04,12,2012.
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********* またまた途中ですが・・・
RE:で出番が少なかった人・シリーズ??
なんかこの 8番さん と 7番さん は原作設定ですねえ?
8番さん は 『 天使編 』
7番さん は 『 変身編 』 @ストラト・フォン・アポン・エイボン のイメージ?
すいません〜〜 あと一回、続きます〜〜 <(_ _)>