『 HOME ― あるいは未来都市 ― (1) 』
「 ヘン! いっくらオレ様だってな! 二回も同じテは喰わね〜〜ってことさ! 」
赤毛のノッポは吐き捨てるように言った。
「 ど〜せな! トラップに決まってるじゃん? オレらのこと、アホにばっかしてね? 」
― どん。 大きな拳がテーブルに降り降ろされ ・・・ ぱさり、と封筒が床におちた。
「 ・・・・・・・・ 」
居合わせて誰もが動かなかった。
全員の冷ややかな視線が床の上に集まる ― その手紙自身に毒液でも含まれているかのように。
砂漠に作られた人工都市 − コンピュータの牙城、ともいうべき街での彼らの活躍は
最早遠い思い出となっていた。
いや 思い出すことさえ疎ましく、彼らの間で話題になることはなかった。
誰もが意識的に思い出の中から消そうとし、そして確実に <忘れられて> いった。
相思相愛、と囃された二人も例外ではなかった。
「 ・・・ ごめんなさい。 皆が ・・・ ジョーが 懸命に助けてくれたのに ・・・ 」
「 いいんだ。 ぼくだって ・・・ あの衝撃はもう忘れたい。 」
「 本当にごめんなさいね・・・ イヤな想いをさせてしまって 」
「 きみのせいじゃない、いや きみは被害者だ、あやまる必要なんかないよ。 」
「 ・・・ ジョー。 わたしにはあなたがいてくれてほんとうに良かったわ。 」
「 ぼくだってさ。 さあ もう ― 忘れよう。 」
「 ええ ・・・ 」
他の仲間たちも 当然同じ思いだった。
それが。 思い出からもほぼ完全に消えていった頃に、 それは再びやってきたのだ。
今、彼らの足元の床に鎮座ましましている ― < 招待状 > という形で。
「 本当に ・・・ エッカーマン博士からのものなのかしら。 」
フランソワーズが静かに口を切った。
彼女は皆の視線を感じつつ、ゆっくりと床から封筒を拾い上げ丁寧に中身を引き出した。
上質の紙に金箔でレトリックが施されている。 なかなか凝ったデザインだ。
「 ど〜だかな! でもよ、アイツの名を騙るヤツならもっと怪しいじゃんか! 」
「 いずれにせよ、係わり合いにはなりたくないな。 」
「 ― ちょっと見せてくれるかな。 ・・・ ふうん ・・・普通の形式だね。
だけどさ、今時・・・手紙? あの都市から、いやあの人からなら当然メールだろうに ね・・・ 」
「 くんくん ・・・ ど〜も胡散臭いニオイやな〜〜 ほかした方がええのんちゃいますか。 」
「 ― 彼は ・・・ あの都市を大々的に根本から改築した、と聞くが。 」
「「「 博士 ・・・ ? 」」」
肘掛け椅子からの発言に 全員が注目した。
「 ご存知なのですか ・・・ その後のことを ・・・ 」
「 あ ・・・ いや。 個人的には知らん。 ただ 学会のウワサでな 小耳に挟んだ程度だよ。 」
「 マドモアゼル ちょいと拝見 ― ふうん ・・・改築して ・・・ コレ ねえ? 」
グレートは フランソワーズから引き取った < 招待状 > をしげしげと見つめ・・・
その金ピカな紙を ピン ・・・と弾いた。
「 ま。 一応の体裁は整ってるな。 これは社交界での正式な招待状であるよ。 」
「 しゃこうかい? 」
「 my boy? オヌシらの国には存在せんであろうが な。
・・・ まあ セレブ達専用のお付き合いの世界とでも言うところさ。 」
「 へえ 〜〜 だけどなんでまたそんな形式に拘ったのかなあ・・・・ 」
ぼくにも見せて、 とジョーは件の紙キレを手にとった。
「 ふうん ・・・ 結婚披露宴の招待状みたいだね?
ご欠席 にマルをして返送すれば ・・・ ダメかなあ・・・ 」
「 ― 真面目に考えろ。 エッカーマン氏の真意はなんだ? 彼は何を求めていのか? 」
「 もっちろんフランにまた色目使ってよ〜 」
「 でも ・・・ スフィンクスは自滅したわ ・・・ 」
「 あまり聞きたくない名前ですな、マドモアゼル? 」
「 ・・・ ごめんなさい。 」
全員の視線を感じ、 フランソワーズは項垂れてしまった。
「 フランのせいじゃない、 きみにはなんの責任もないよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ちょっと 二人の世界 は ちょっとばかり凍結しておいてくれないかな。
僕はさあ この招待に乗ってみるのも面白いかなあ〜って思うんだよね。 」
「 !! ピュンマ?? 」
仲間たちは一斉に彼の発言に目を剥いた。
「 いつも冷静なオヌシがどうしたね? 」
「 え ・・・ 皆 そんなに感情的にならないでくれよ。 僕はいつだって平静だよ?
だってさ、向こうさんだってあの時にはすごいダメージだったんだ。
そこから再起したってことは なにか大きな目標があったからって思えるんだよね。 」
「 ふむ。 まあ一理あるな。 」
「 アルベルト ・・・ オヌシまで・・・ 」
「 博士。 あの後のエッカーマン博士の消息はご存知でしたの? 」
「 うむ・・・ ご存知、などと言える程度ではなかったがの。 また聞きに近いが。 」
「 あの・・・! 」
フランソワーズは 意を決して博士のまん前に座った。
「 あの。 教えてください。 あの・・・ 皆はごく平然としてますけど ・・・ 本当は ・・・
誰だって血塗で転がっている姿なんかは忘れたいですわ。
そして わたしは ― あんなことが二度と起きて欲しくはないです。 」
彼女は一旦、言葉を切り ほんの少し言い澱んでいたが ・・・
「 そのためにもわたし。 もう一度あの場所へ行かなくては、と思うのです。 」
「「 フランソワーズ?! 」」
「 行って 確かめて来たいのです。」
「 フランソワーズ ・・・ お前の気持ちはようく判るよ。
しかし残念ながら わしが聞いていることはたいしたことではないんだ。
エッカーマンはあの事件の後、実験都市を大幅に改築した。
いや根本から作り直した とな。 その新しい都市の理念はリゾート、だそうだ。 」
「 へ!? 砂漠の中にハワイを作ったってかよ?? 」
「 ジェット。 静かに聞いて。 」
「 ・・・ったよ。 」
「 それで その都市の名は エデン ― 」
「「「 エデン ??? 」」」
全員が 鸚鵡返しのその仰々しい名を発音してしまった。
サワサワ −−−− ・・・・・
午後の微風がレエスのカーテンをのんびりと揺らす。
久々の <集会> は ティー・タイムを挟んで一時休みとなった。
フランソワーズは ぼんやりとテラスから海を 空を 眺めていた。
「 ・・・ いい風だね。 」
ひそやかな足音とほぼ同時に 穏やかな声が聞こえた。
「 ジョー ・・・ 」
「 きみの気持ち わかるよ。 」
「 ― え ・・・? 」
「 さっきの。 あの都市へ行きたいって。 確かめたいのだろう?
あの事件の確かな終結を その ・・・ きみ自身の目で。 」
「 ジョー。 ええ ・・・ そうなの。 あれはもう済んだことなのよね。
わかっているわ わかってはいるのよ ・・・ でも ・・・ 」
「 ぼくも同じだもの。 ぼくは 時々・・・ あの時の情景を夢に見て魘される・・・
いまだに、だよ。 きみが ・・・ いや きみの姿をしたアンドロイドが
ばらばらに吹っ飛ぶ情景の夢をね。 」
「 !! ジョ − ・・・! 」
「 うん。 だから ぼくもあの場所へいってはっきりとこの目で確かめ、
自分自身の心に刻み込みたいんだ。 アレはもう 終ったことなんだってね。 」
「 ・・・ ジョー ・・・! ああ ジョー ・・・ 」
「 フランソワーズ・・・ 」
ジョーはすっと彼女の身体を引き寄せた。
― ことん。 しなやかな身体がすっぽりと彼の腕の中に おちる。
「 二人で確かめよう。 そして ぼく達の気持ちの中でも終焉にするんだ。 」
「 そう そうね ・・・ええ ・・・ 」
「 皆だって同じ思いだよ。 あそこでは誰もが酷い目にあったんだからね。 」
「 ええ そうね。 皆だってはっきりしたいでしょう。 」
「 うん。 晩御飯の時に聞いてみる。 あんまり食卓には相応しい話題じゃないけど ・・・
張大人に叱られるかもな〜 」
「 あら。 気掛かりなことを無くして 気分爽快で食事がしたい、って皆いうわよ。 」
「 あは ・・・ そうかも。 」
「 ともかく、皆の意見を聞きましょう。 今回、わたし達に単独行動は有り得ないわ。 」
「 ウン。 ぼく達もそれ相応の体制で対峙しなくちゃな。 」
「 ええ ・・・ 」
夕食前に ジョーは仲間達に提案をした。
― で。 似たり寄ったりの思いだった仲間たちからも提案があった。
「 え ・・・ そんな。 」
「 い〜や。 これは呑んでもらうぞ。 これは俺たちの総意だ。
俺たちが先発隊で あの都市に出向き調査する。 その報告を待って ― お前らは来い。 」
「 でも なにかあったら ・・・ 」
「 おやおや なにもないはず、なんだろう? なにせ エデン なんだから。 」
「 それは ・・・ 」
「 これだけは譲れない。 」
「 単独行動は避けましょうよ。 何があるかわからないのよ? 」
「 ああ そうだ。 判らないから ― 二手に分かれよう。
これは潜入索敵時の定石だろう? 003。 」
「 ・・・ そう だけど ・・・ 」
「 ワシも行くぞ。 エッカーマンに直に会って話をしたいのじゃ。 」
「 ハカセ。 ソレジャ、僕モ一緒ニ行クヨ。 僕モ彼ノ深層心理ニ興味ガアル。 」
「 むう。 では 俺、二人をガードする。 」
「 え? またさらに二手に別れるのかい? あまり感心できないなあ〜 」
「 だがな。 老人子供連れご一行様・・・ はちと機動力に欠ける。
現地では 博士と001、本部で待機してください。 ジェロニモ Jr.、頼む。 」
「 了解。 」
「 ちょ ちょっと待ってよ? わたし達抜きで話を進めちゃうの? 」
「 ああ そうだ。 お前らは情報収集担当だ。 」
「 アルベルト ― 」
「 前回のことをしっかり思い出せ。 <仕事>が終った後、それぞれ自由にあの都市を
見学している最中に 攻撃された。 」
「 それは ・・・ あの時は 」
「 スフィンクスの仕業だったからな。 」
「 もう ・・・ アレは存在しないわ。 その上での ご招待 でしょう? 」
「 しかしね、マドモアゼル。 」
ずっと黙って聞いていたグレートが口を挟んだ。
「 え? 」
「 なにがあるかわからない、という状況はなにも変わっておらんのだよ。
確かにあの時 ・・・ エッカーマン博士は己の、いや <息子>の所業を恥じ、
あの都市の理念のコア部分が壊滅した、と言っていた。
だがな ― その確証はないし、今度の件も100%信じてよいものか ・・・これはわからんよ。」
「 ・・・ そう ・・・ ね ・・・ 」
「 ワシからもひと言、よいかな。 」
「 博士 ・・・ あの エッカーマン博士は そのう ・・・ お友達でしょう? 」
「 昔の、な。 その後の彼のことは知らんのだ。 これはお互い様だがの。
だから ・・・ あまり懐疑的にはなりたくないが、こちらとしても十分注意して行った方がよい。
ひとつ、提案じゃが。 脳波通信の周波数を変更してみようと思のじゃ。 」
「 え ・・・ そんなこと、出来るのですか? 」
「 根本的には無理じゃ。 しかし暫定的ならば 」
≪ 変更用ノ装置ヲ作ル。ソレヲ装着スレバ大丈夫サ ≫
「 なるほど〜〜 しかしあまり嵩張ると・・・ 」
「 わかっておる。 超小型、イヤホン程度にしてみよう。
そして ― ジョーとフランソワーズはもしも、に備えて別行動をとっておくれ。
ワシは招待状の返事かたがた、エッカーマンに連絡を入れておく。 」
「 わかりました、博士。 それでは 皆 ― 先発隊、宜しく頼む。 」
ジョーがきっぱりと言い切った。
「 了解。 任せておけ。 」
「 オッケ〜〜〜♪ ま〜な〜 オレらで隅から隅まで調べてやらあ〜 」
「 ほっほっ〜〜 それでは皆はん? お食事にしまほ♪ 」
張大人がぽん、とソファから立ち上がりう〜〜〜ん! と伸びをした。
「 腹が減ってはイクサどころか な〜〜んもでけへんよって。
ジェットはん! ちょいと鍋を運ぶの、手伝うてや。 ジェロニモはん、テーブルの用意、
たのんまっせ〜 誰かワインを選んでくれはりまっか。 」
「 俺が行こう。 」
わいわいがやがや ・・・ やっと <いつものリビング> に戻っていった。
数日後、万全の装備をしドルフィン号は エデン に向かって出発した。
ジョーとフランソワーズは 地下のコントロール・ルームのモニター画面で見送った。
「 ・・・ 行っちゃったわね ・・・ 」
「 うん。 」
「 うふ ・・・ こんなこと、初めてなのじゃない、ジョー? 」
「 こんなこと? 」
「 ええ ・・・ ジョーがウチからドルフィン号の出発を見てる、って。
わたしは博士とイワンと・・・留守番ってこともあったけど・・・ 」
「 ああ〜 そうかも ・・・ そうだねえ・・・ うん。 」
ジョーはどこか上の空だった。
「 ― ジョー。 どうか した? 」
「 ・・・え? なにが。 」
「 なにがって なにかとても気掛かりなことがある? 」
「 え あ ・・ うん・・・ いや。
きみの言うとおり、 <初めて> なので妙な気分なのかも・・・ うん、きっとそうさ。 」
「 そう? ・・・ それならいいけど。 お茶にでもしましょうよ。 」
「 そうだね! う〜ん リクエスト、してもいい。 」
「 まあ珍しいわね、なあに。 」
「 きみ特製のクロック・ムッシュウが食べたい〜〜〜♪ 」
「 おっけ〜〜♪ うふふ ・・・ すぐに作るわ、手を洗って待っていてね。 」
「 了解〜〜 あ、カフェ・オ・レはぼくが淹れる。 」
「 まあ ありがとう♪ ちょうど飲みたいなあ〜って思っていたの。 」
「 じゃ ・・・ 行こうよ。 」
「 うん。 」
軽くキスを交わすと 二人は腰に手を廻し合い地上の我が家へと戻っていった。
ヴィ −−−−− ・・・・・ ・・・・・
微かに耳に届くエンジン音と共に ドルフィン号は リゾート都市・エデン を目指し飛行してゆく。
急ぎの旅でもなく、通常の空路をゆくのでほとんどの路程自動操縦だ。
「 ふ〜んふんふん・・・・♪ とォ〜 ・・・ あと30分くらいかぁ〜 」
一応はメイン・パイロット席で 赤毛のノッポは脚を高く組み時間をもてあましている。
「 ちゃんと座れ。 なにがあるかわからんからな。 」
メインのコンソール前でアルベルトが渋面している。
「 え〜〜 だってよ〜〜 一般空路だぜえ? それもアチラさん指定じゃん 」
「 だから だ。 」
「 < 外 > では心配はいらないんじゃないかな。 アチラさんも もうこれ以上トラブったら
リゾート都市としての客足に響くだろうからね。 」
「 そうだなあ。 しかし リゾート都市・・・とはね? ターゲット層はどこなのかね。
どんな仕様なのか・・・ その辺はどうなのだろうなあ。
我輩ら ヨーロッパ人種ならリビエラやニース ・・・ 地中海の島々・・・だが。 」
グレートがつるり、と禿頭をなでる。
「 ふうん ・・・ 僕達なら逆に都会に出るな。 NY行きだって僕らには リゾート さ。 」
「 まあ人それぞれだろう? 日本人ならやたら秘境へ行きたがるやつもいる。 」
「 ― ジョーは ・・・違うと思うけどな? 」
「 はん。 アイツは ワン公と一緒に海岸でも駆けてりゃ楽しいんじゃね〜か? 」
「 ほっほっほ〜〜 ちゃんまんねんな〜 ジョーはんのお楽しみ はフランソワーズはんと
一緒のキッチン やろ。 」
「 ははは 違いねえ〜 」
ドルフィン号の中は のんびりした雰囲気が満ちている。
「 ・・・ おお そうじゃった! 諸君らには私服でおねがいします、との伝言があったぞ。 」
後部座席で 資料に目を通していた博士が 思い出した風に言った。
「 え。 コレじゃマズいんですかい? 」
グレートがへえ??という顔で 赤い特殊な上着と引っ張った。
「 ふん ・・・ またぞろなにか企んでいやがるのか! 」
「 どうもね。 あの御仁は見た目とは違うようだね。 普通の学者サンじゃないね。」
「 理由がない。 」
メンバー達の表情が一瞬にして硬化した。
「 あ・・・ いやいや・・・ あまり他意はないと思う。
このドルフィン号も一般用の滑走路に誘導するそうじゃし ・・・ 到着ロビーには他の客達も
おるじゃろう。 あまりその ・・・ 」
「 あ〜 ・・・ 目立ちまくっちゃマズいってことかよ〜〜 」
「 ふうん ・・・ 要するに 普通のヒト としてどうぞってことか。 」
「 ― この際 ジョーの真似をしたほうが良さそうだな。 」
アルベルトが ふん・・・と肩を竦めて言った。
「 ボーイの真似? 」
「 ?? あ。 下に防護服を着込めってことだね? 」
「 御明察。 表向き、我々はエッカーマン氏の招待客だからな。 一応は礼儀を尽くそう。 」
「 ちぇ〜〜〜 めんどくせ〜〜〜 」
ツーン ツーン ! 低いアラーム音が響いた。
「 お。 ご招待圏内間近っだてよ〜 そんじゃ いっちょ行くか〜 」
ジェットは勢い良く座りなおし、他のメンバー達もそれぞれのシートで任務に戻った。
「 うん・・・ ドーム都市上空の気流は良好。 このまま進めるよ。 」
「 ふん。 外観はたいして変わってはいないな。 」
「 あのドーム都市の構造は千年でも維持できるものだからの。
その根本を変えるのはかえって厖大な時間と費用がかかるじゃろう。 」
≪ 特ニ 危険ハ無イヨ。 コノママ普通ニ着陸デキルネ ≫
「 お〜 イワン、起きたのかよ? 了解〜〜って あ〜 誘導電波来たぜ〜 」
ヴィ ・・・・・・・
ドルフィン号は砂漠地帯の中の巨大な泡粒みたいなドーム都市へと降下していった。
「 ・・・ ? あっは・・・ 」
ジョーがモニターの前でにこにこしている。
「 どうしたの、ジョー。 お友達から嬉しいメールでも届いたの? 」
洗濯物を抱えたフランソワーズが通りすがりに声をかけた。
「 え? あ ごめん〜〜 取り込むの、手伝えなくて・・・ 」
「 いいのよ、今日はとても少ないから・・・ 二人分なんてすぐですもの。 」
「 あ そうだよねえ ・・・ なんかやっぱり ・・・ちょっと淋しいね。 」
「 そうねえ ねえねえ メールなんでしょ? 」
「 あ ううん、 ツイッターさ。 これ・・・ ピュンマの < つぶやき > なんだけど 」
「 ・・・? 」
フランソワーズはそのままモニターを覗き込んだ。
「 定時連絡とは別にさ、 ピュンマがちょろちょろ呟いているんだけど ・・・ ほら? 」
「 え ・・・ あら ・・・ 」
海人8号 @black_ocean
空中なう
海人8号 @black_ocean
天気晴朗 気流よし。 ・・・ちゃんと仕事しろ〜パイロット〜
海人8号 @black_ocean
天国へ〜〜〜 到着なう
「 ね? ともかく無事にあの都市に着陸できたみたいだよ。 」
「 ふふふ・・・ なんだか楽しそうねえ・・・ ちょっと羨ましいわ。 」
「 ウン ・・・ やっぱり全員が揃うって楽しいよねえ。 戦闘なんかそうそうあっては困るけど 」
「 ねえ いつか ・・・ ドルフィンで皆で遠出したいわね! お弁当、持って♪ 」
「 おいおい・・・ ドルフィン号は遊覧バスじゃないで〜す〜 」
「 あら たまにはいいじゃない? わたし、ガイドさんやってみたいし〜〜 」
「 お〜〜 きみのガイドさんなら大歓迎さ。 ・・・ おっと定時連絡だな 」
ジョーはモニター上に専用回線を開いた。
「 ― 〇〇:〇〇 ドーム都市到着。 ね。 よかった・・・ 」
「 いや これからが問題さ。 こちらもいつでも出発できる準備をしておこう。 」
「 了解。 ふふふ・・・もうオッケーよ? でもその前に、お昼、食べましょう? 」
「 そうだね〜 一応端末は食卓にも持ってゆくね。
「 お願いします。 温室のキュウリがねえ、美味しそうになってたから。
ジョーが好きな お味噌 をのせてみるわね。 」
「 わお〜〜♪ あ 洗濯もの、畳んでおくから。 」
ほら 受け取るよ・・・とジョーは彼女へ手を広げた。
「 まあ ありがとう。 それじゃ・・・お願いしますね。 」
「 了解〜〜〜 ・・・ ああ いいにおいだなあ・・・ お日様の匂いだ ・・・ 」
「 でしょ? だからわたし、天日に干すのが止められないの。
乾燥機を使えば簡単なんだけど ・・・ この匂いだけは真似できないわ。 」
「 うん。 ぼくも外に干すの賛成。 」
「 じゃ ランチの仕上げ、してくるわ。 」
「 あ ・・・ そうだ。 あの都市ね、私服で来てほしいそうだよ。 」
「 え。 防護服じゃいけないの? 」
「 なんでも 一般客と一緒だから・・・って。
それで ね。 あ〜・・・ねえ フラン・・・ ぼくからのリクエストなんだけど ・・・ 」
「 リクエスト? ジョーの? まあ 珍しい〜〜 」
「 え ・・・っと。 あの白っぽいスーツ、あっただろ? あれ・・・着てくれないかなあ。 」
「 白っぽいスーツ? ・・・・ ああ わかったわ、アレはねえ、オフ・ホワイトのツーピースです。 」
「 なに?? 」
「 あ〜 あのね、ワンピに共布のジャケを合わせるの。 」
「 ?? なんかよくわかんないけど・・・ほら ちょっと裾がひらひら〜ってゆれるヤツ。 」
「 フレア・スカートになっているのよ。 いいわ、あれね、わたしのお気に入りなの♪
この季節には丁度いいかも ・・・ 」
「 あれ・・・とってもきみによく似合うと思うんだ・・・ それで その・・・しんこん 」
「 え? 」
「 あ いや ナンデモナイ・・・ ぼ ぼくもちゃんとスーツにするつもり。 」
「 まあ〜〜 珍しいわね。 あ・・・ スーツ 持ってるの、ジョー。 」
「 一着きり なんだけど。 博士が、職場に着てゆけ・・・ってプレゼントしてくれたんだ・・・ 」
「 あら〜〜 そうなの? わたし、ジョーのスーツ姿ってみたいわあ〜〜 」
「 え・・・ 似合わないんだ〜 でも ・・・ その ・・・折角だし・・・
き きみもオシャレするんだろ、ぼくも一応 きちんとした恰好しないと ・・・ 」
「 きゃ 嬉しい♪ ね・・・ ジョーと二人っきりの旅行って 初めてかも。 」
「 え ・・・ あ ああ そ そうかも ・・・ 」
「 うふふ うふふ〜 わたし、う〜〜んとオシャレしちゃうわ♪ 」
「 うん 楽しみにしてる。 あ! 防護服一式、忘れるなよ? 」
「 だ〜いじょうぶ☆ そうだ、この前買ったおニューのパンプス、履いてゆくわ〜 」
「 うん ・・・ あ じゃあ コレ・・・畳んでおくね? 」
「 ありがとう〜 ジョー。 お昼の用意するわね。 」
フランソワーズはご機嫌でキッチンに行った。
「 ぼくも ― ケジメをつける。 うん、チャンスだよな ・・・ 」
ジョーは洗濯物を抱えつつ ・・・ うんうん、と頷くのだった。
少しだけ時間は遡る。
ドルフィン号は順調に航行し、ドーム都市の空港めざし降下して行った。
そして 着陸予定の滑走路が目視できる高度になったとき、 とんでもないものが視界に入ってきた。
どんな方にでも 楽しい休暇を♪ あなたのお好みはなんですか?
なんと全ての滑走路にはみ出さんばかりの大きさで、キャッチ・コピーが記されていた。
「 なんだあ〜〜 ありゃ? 」
「 えらく俗っぽいキャッチ・コピーだな。 ファースト・フード店じゃねえぞ。 」
「 誰にでも楽しい ・・・ 無理やねんな。 万人にウマイ、いうもんがないのと一緒や。 」
「 そうだ。 有り得ないし不可能だ。 」
「 だよねえ・・・ あ テーマ・パーク みたいになっているのかな? 」
「 う〜〜〜 こんな時にマドモアゼルがいてくれればなあ〜〜 」
メンバーたちの驚愕とボヤキを乗せて ドルフィン号は滑らかに着陸した。
ぴんぽ〜ん ぴんぽ〜ん ・・・ 御案内いたします〜 到着ロビーNO.2に 〜〜
空港のロビーにはひっきりなしに明るい声のアナウンスが響き それに合わせるが如くに人々が
ざわざわと行き交う。 家族連れも多く、甲高い子供の声も多い。
どこの空港でもよくみかける光景なのだが ― 一つだけ特徴的なことがある。
それは 人々の顔 ・・・ 満面の笑顔。 忙しさや疲労でむっつり不機嫌な顔が見当たらない。
「 ふ〜〜〜〜ん ・・・ 皆 ユルけた顔してやがんな! 」
「 どういうことだ? 」
「 過ぎたるは及ばざるがごとし ・・・とは少々違うが。 どうも作為的臭いぞ? 」
平服に着替え メンバー達はがらがらとスーツケースを引っ張り移動する。
全員異なる人種に年齢、そして風貌 ― 普段であれば人目を引いてしまう集団なのだが・・・
なぜか全然目立たない。
いや ・・・ というか周囲が反応を示さないのだ。
確かに一般の観光客たちなのだがそれぞれ己のことにしか関心がない らしい。
ほんの形ばかりの入国手続きがあり、彼らはすんなりパスした。
「 ふん ・・・ ? 」
「 空港側も無関心だね。 ガードマンとか入国審査とかもさ? 」
「 あ〜 観光客慣れ してるんじゃね〜の? 」
「 うむ・・・ あ おお 〜 エッカーマン君 ! 」
博士の声に全員が ぎくり、として無意識に博士を取り囲む体勢に移行していた。
「 ギルモア博士! ようこそ! ようこそ〜〜 」
ドタドタドタ ― 大きな足音と共に あの人が、エッカーマン博士が駆け寄ってきた。
「 ・・・・! 」
メンバーズは 無言のうちにさっとギルモア博士を守る体勢を取った。
「 ああ いや〜〜〜 どうもご迷惑をおかけいたしましたな〜〜
面目ない、申し訳ない〜〜 」
エッカーマン博士は平身低頭・・・といった雰囲気で初っ端から下手に出てきた。
「 いや あ〜 この度はどうも ― ご招待いただき感謝しています。 」
「 いや〜〜〜 ほんのお詫びの印というかご報告も兼ねまして・・・
生まれ変わった都市・エデン を皆様にご紹介したくしてご招待しましたのじゃ。 」
さあさあ どうぞ・・・とエッカーマン博士は自ら彼らを案内する。
「 こちらへ ・・・ 空港管制室が見学できる部屋ですので ・・・ どうぞ〜〜 」
全員ぞろぞろと立派な設えの部屋に通された。
「 ふ〜ん ・・・ 待合室・・・にしては豪華だね。 」
「 貴賓室なのではないか。 おっほん ・・・ 諸君ら、相応しい態度をとりたまえよ。 」
山高帽に細く巻いたコウモリ傘 ・・・ グレートは完全に英国紳士仕様だ。
「 ギルモア博士 そして 皆さん ! 」
エッカーマン博士が部屋にある大きなスクリーンの前に立った。
「 本日は遠路はるばるよくいらっしゃいました。 ここに改めてワシからのお詫びと ・・・
リゾート都市 ・ エデン をご紹介いたします。 」
スクリーンがぱっと点灯し ― 空港管制室の様子が映し出された。
「 え〜 当都市ではお客様の自家用飛行機は そのまま手を触れずに格納しております。
いつでも出立可能です。 」
≪ ふ〜ん ・・・ 出入り自由ってことか。 ・・・ おい 皆 聞こえるか? ≫
≪ うん、感度良好〜 周波数変更装置は上手く稼働しているね。 ≫
≪ ・・・ まてまて ・・・ ああ これでいいのか。 お〜い 我輩の声がきこえるかな? ≫
≪ よ〜聞こえまっせェ〜 こりゃ便利がええなあ〜 ≫
≪ おい! ジェット! ≫
≪ −−−−− ピッ!! ・・・ あ〜 わりィ〜 忘れたぜ〜 ≫
「 おお なるほど ・・・ 」
「 皆様の機もこの通り ・・・どうかご安心ください。 」
格納庫に待機しているドルフィン号が映し出された。 周囲に人影はない。
「 では〜〜 どうぞ〜〜 皆様、 エデン でお楽しみください。
必ずや皆様のご希望に添えるおもてなしができると確信しております! 」
画面が変わって広大な都市が ずず〜〜〜っと写しだされる。
緑豊かな光景が続き 三々五々・・・といった風に観光客らがゆっくり歩いている。
「 ・・・ なにか施設があるのですかな。 」
「 はい、今から御案内しますが。 ご覧の通り広大な都市ですので これをお付けください。 」
エッカーマン博士が合図をすると、空港係員がトレイを押してきた。
「 それは・・・? 」
「 GPS付きのガイド・ウォッチです。 都市の御案内はコレに任せてください。 」
トレイに上には ごく普通の腕時計が並んでいる。
バンドには < リゾート都市・エデン お帰りには回収いたします > と記されている。
「 お客様全員にお配りしています。 ご覧ください、皆様こうして ・・・ 」
スクリーンには観光客が 腕時計を覗き込み うんうん・・・・と頷いたり、簡単な操作で
検索したりしている姿が見えた。
「 ふ〜ん ・・・ ? 」
「 コレを頼りに自由行動、とうことなんですね? 」
「 そうです。 おや? ・・・ そういえば ・・・ 全員いらっしゃいませんね? 」
エッカーマン博士は やっと気がついたらしい。
「 ああ 少々所用があるメンバーがおりましてな。 なに、後程合流します。 」
「 左様 左様 ・・・ なにせ我々は世界中に散っておりますゆえ。 」
ギルモア博士の対応を何気なくグレートがフォローした。
「 そうですか。 それではまずは皆さま、ガイド・ウォッチを付けられましたか?
よろしいですかな。 」
「 はあ ・・・ ≪ ふうん ・・・ これはごく普通のGPS機能付きの機器だね。 ≫
≪ ふん。 003が居ればなあ。 しかしまあ妙な装置ではなさそうだな。 ≫
≪ ― であることを祈りたいぞ、我輩は。 腕時計型超小型端末、ってとこか? ≫
「 え〜〜 皆さん〜〜 ご準備は宜しいですかあ〜〜 」
エッカーマン博士は上機嫌でサイボーグ達に自分の腕を指し示す。
「 え〜 地図については音声ナヴィ対応ですので〜 こうして・・・イヤホンを当てていただければ
必要な情報がすぐに聞けます。 これはわが都市の自慢の装備でして〜〜 」
「 へえ・・・ ほう ・・・ これは便利だな。 」
≪ ・・・ 日本のスマホとかじゃとっくに対応済みだよ? ≫
≪ し 〜〜 ・・・ なんでも新発明! をウリにしてるようだからな。 黙っていてやろう・・
武士の情け・・ってヤツさ。 ≫
≪ 聞こえるわけね〜って ≫
サイボーグ達の <新・周波数> での私語を知らずに エッカーマン博士は上機嫌だ。
「 皆様〜〜 では出発いたしましょう。 」
全員が 再びギルモア博士とイワンを中心にぞろぞろと部屋を出た。
― その頃 ギルモア邸では ・・・
「 ・・・ あれ? 定時連絡が まだだなあ? 」
ジョーが端末の前で首を捻っている。
「 え? そう? それならピュンマのツイッターは? 」
サラダを取り分けていたフランソワーズも首を傾げた。
「 あ 今、見てみるけど ・・・ う〜ん ・・・ 最後のつぶやきは 30分前だよ。 」
「 きっと手続き中とかで 端末に触れないのじゃない? 」
「 う〜ん ・・・ それならいいんだけれど。 しかし定時連絡は必ず入れるはずなんだ。 」
「 担当は誰? ピュンマ? 」
「 いや 今回はジェロニモJr.なんだ。 」
「 あら。 それじゃやっぱり ・・・ なにかあったのかしら。 」
「 うむ ・・・ 」
二人は真剣な顔で モニターを覗き込む。
ピュンマも几帳面だが ジェロニモ Jr.はそれを遥かに上回り、通常定時連絡などは
所定の時間に遅れることなど皆無、といってよいほどなのだ。
「 最後の連絡は ― ああ これね。 エッカーマン博士のガイダンス ・・・ ? 」
「 多分 あの都市の説明を受けているんだろうね。 リゾート都市だろうだから・・・
場所とか施設の使い方とか ・・・ 」
「 ふうん ・・・ それじゃもう少し様子を見る? それとも緊急通信、送る? 」
「 スクランブルの暗号は届いてないからな。 少し 待とう。 」
「 それなら その間にお食事、済ませましょう。 はい、サラダ。 」
「 ありがとう。 わあ 〜 美味しそうだねえ。 」
「 ふふふ ・・・ ウチの温室の野菜は見てくれはちょっと悪いけど 新鮮なのが取り得よね。
・・・ あ 美味しい〜〜〜 」
「 ・・・うん これ ウチの味だよねえ 」
「 ホント ホント ・・・ 」
パリパリと音をたて 二人は取れたてのキュウリやらラディッシュのサラダを楽しんだ。
― 定時連絡は 途絶えたままだ。
< このまま直進して 次の角を左折してください。 >
ピュンマンの耳元でナヴィの声が指示を送る。
「 ふうん ・・・ これは結構便利だなあ。 イヤホンも対応できるってのは画期的だね。 」
例の腕時計型端末を軽く操作しつつ 彼は進んでゆく。
エッカーマン博士自慢のリゾート都市・エデン に入ってから サイボーグ達は散開した。
荷物は宿泊施設 ― 豪華なホテルだったが ― に残し、彼らはぷらぷらと歩きだした。
この都市は 基本は自然豊かなリゾート地、といった趣らしく、 街中に緑が多く
道の両側には大きな木々が豊かに枝を広げ葉を茂らせている。
「 ・・・ ちゃんとホンモノだ。 大体が広葉樹だね。 温帯をイメージしているのかな。
おっと ・・・つぶやいておくかなあ ・・・ 」
ピュンマは個人の端末を取り出すと 短い呟きを送った。
「 定時連絡はジェロニモ Jr.が送ってるから ・・・ まあ 僕は単なる個人的感想ってとこで・・・
・・・ 通常に送信できてるね、 妙な妨害はなし、 か。 」
端末を仕舞うと、彼はのんびりと進んでゆく。
時々 他の観光客と行き交うが、皆もリラックスした表情で散策を楽しむ、といった風情だ。
「 え〜と ・・・ ああ この角を左、だね。 うん? これは ・・・ 松林 ??
・・・え なんだ、この感触 ・・・ 砂 ? 」
街路樹の種類が替わり、 足元の道にザラザラしたものが増えてきた。
「 ?? 砂漠?? まさかな。 この都市の中に周囲の砂漠の砂が入って来ているのかな?
いや〜 それは有り得ないよ。 しかし ・・・? 」
一本道を進むと左右に民家風な建物が見えてきた。 休憩所なのかもしれない。
「 風景が変わるのかな。 次の < テーマ・パーク > は何だい? 」
彼はナヴィに質問を送る。
< 貴方のお好みの場所です >
「 え?? 僕はなにもリクエストは送っていない ・・・・ え ??? 」
民家風の建物の角を曲がると ― そこは 海辺だった。
「 !! そ そんな ・・・ 都市の中に ・・・ 海??? 」
― ザ ・・・ ザザザ ・・・・ ザ ・・・ ザザザ ・・・
気がつけば 耳慣れた音が彼の周囲にあった。
穏やかな波が寄せては返し 砂浜がずっと・・・続いている。
「 ・・・ ウソ だろう ・・・?? そんな ・・・有り得ないじゃないか! これは ・・? 」
ピュンマは無意識に小走りになり、砂浜を突っ切る。
波は静かに彼の足元をぬらす。 砂の感触はギルモア邸近くの砂浜とほとんど変わらない。
「 ・・・ ほ んもの?? イメージ・スクリーン・・・じゃない ・・・ 」
慎重に伸ばした指に触れたのは ― 紛れも無く天然の海水だと感じた。
「 海 ・・・ だよ。 まさか ・・・ 都市内に海流を引きこんだのか?
いや ・・・ ドーム都市の位置からしてそれは有り得ないはずだぞ?
じゃあ これも ・・・ <創った>? まさか ・・・ それは絶対に無理なはず・・・ 」
彼はしばらく呆然と海風に吹かれ 足元を波に洗われていた。
どこの景色も 空気すらも ・・・ どこかで見た気分なのだ。 いや気のせいかもしれないが・・・
「 ・・・ と ともかく ・・・進んでみよう。 もしもの時には 潜ってみるか。
ああ ・・・ 満ち潮なのかなあ ・・・ 」
バシャ バシャ バシャ ・・・ 彼は慌てて砂浜に引き返した。
「 ・・・ 風も波も ・・・ 自然のまま か? あれは カモメ??? 」
彼はどこか呆気にとられて波打ち際を進んでゆく。
どこから見てもごく ごく・・・自然な海辺の光景で、それは彼がよく知ってるものと似ていた。
「 これは ・・・ 日本の海辺だよな? うん ・・・ ギルモア邸の下の海岸みたいだ・・・ 」
サクサクサク ・・・・ サクサクサク ・・・ 足元の砂は乾き心地よい。
「 こんにちは 」
唐突に後ろから声が飛んできた。
「 !?? 」
驚いて振り返ると ― 若い黒人女性がにこやかに佇んでいた。
「 どれ ・・・ ワシらはここで休憩とするか。 」
「 むう。 それがいい 博士。 」
ギルモア博士は イワンをクーファンごと抱いたジェロニモ Jr.と共に休息ゾーンに入った。
それは広いテラスのある、瀟洒な別荘といった建物だった。
「 ほう ・・・ いい雰囲気じゃのう・・・ テラスの藤椅子で昼寝でもしたい気分だよ。 」
「 静かな森 ・・・ 大丈夫、天然の森だ。 」
「 そうか そうか ・・・ ここは本当に心身を休める場所のようだな。
うん・・? イワンはもう眠ってしまったのかの? 」
「 穏やかな普通の眠りだ ・・・ 」
「 ふんふん。 ではワシらものんびり ・・・ 休ませてもらおうじゃないか。 」
「 むう ・・・ 」
博士は着替えたい、と室内に入っていった。
ジェロニモ Jr. はテラスに佇みじっと森の声に 風の音に耳を傾ける。
「 静かだ ・・・ ここの森は 自然は 眠っているのか ・・・ ? 」
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: 27,11,2012. index / next
******** 途中ですが
なんとかして全員を動かしてみよう! と思ったのですが・・・
( ほら 特に RE: で不遇?だった人々とか ・・・ )
う〜〜 やっぱり難しいです〜〜
勿論 93♪ この二人はどうも 平ゼロカプっぽいですね?