『 ごめんください ― (2) ― 』
こつこつこつ ことことこと ・・・
二組の足音が ゆっくりと石畳の道に響いてゆく。
なんとなく小雨もようの空の下 有名な港街のショッピング・ロードは閑散としていた。
「 ・・・ ふうん ・・・ ここが モトマチ ? 」
「 うん ず〜〜っとねえ ショッピング街が続いているんだ。 いろんな店があるよ。
ほら そことか向い側とか・・・ 輸入モノの靴とか服とか 見てみようよ。 」
ジョーは広げていた傘を傾けて店を示す。
「 ・・・ ふうん キレイね 」
フランソワーズは一応視線を送るが すぐに戻してしまう。 どうもあまり関心はないらしい。
輸入モノって ・・・
向い側は フランス製のバッグの店ね わたしでも知ってるわ
こっちは ・・・ ドイツの靴 かしら。
・・・ わたし、この国のこの街のものが見たいなア・・・
服とか靴も この街のモノが着てみたいの
「 この道もさ ほら・・・ シャンゼリゼとかと似てるってオンナノコたちが
読んでる雑誌とかに出てたよ 」
「 ああ そう ね ・・・ 」
ことことこと。 ペースの変わらない靴音は 止まらない。
「 なにか買いたいものとか・・・ 見たい店とか ある? 」
「 え ・・・ え〜と ・・・ う〜ん? 」
ジョーは熱心に聞いてくれるのだが ― 彼女はあいまいな返事を繰り返すだけ。
「 あは ・・・ 一応ぼくの地元だから。 なんでも言ってくれよね。 」
「 ええ ありがとう。 」
カッツン。 爪先で石畳を蹴ってみる。
確かに ここは石畳っぽいけど・・・
パリの道なこんなに綺麗じゃなかったわ。
修理 修理 ででこぼこが多くてガタガタの石畳で
でも 皆ひょいひょい上手に歩いてたっけ
・・・ それはそれで楽しいのよね ・・・
この道は ・・・ 石畳風な模様になっているだけよ
だから 音が違うんだわ ・・・
雨の日だって水たまりは出来ないのよね
細かい雨が そめそめ裾を湿らせる中、二人はちょっぴり間を空けて歩いてゆく。
先にゆく大きな傘は 後ろの傘が気にかかる。
着いてゆくピンクの傘は 先の傘に気を使う。
だけど いつまでたっても二つの傘の距離は縮まらない。
< 行き違い・ピクニック > の翌週、 ジョーはフランソワーズとモトマチに出かけた。
いや ジョーが彼女を誘ったのだ。
今度は待ち合わせなんかせずに、ウチから二人一緒に出る。
天候はあいにくの小雨だったけど ― 彼はこっそり緊張し そして張り切っていた。
勿論 ちゃ〜んと下調べはしてある。 ネットで検索しまくり〜〜〜
オンナノコに人気の店とか流行の服とか靴とか・・・ レポートが書けるくらいに調べまくった。
― だから 余裕で彼女を案内できる、と思っていた ・・・ のだが。
モトマチは行き交うヒトも少なかったので 二人はゆっくり歩くことができた。
「 ほら ・・・ あのバッグとか人気なんだって。」
「 あ あのドレス〜〜 秋っぽくていいよね? 」
昨日調べたデータをもとに日頃の彼に似合わず あれこれ彼女に話を振るのだが・・・
「 え? ああ ・・・ 可愛いわね でも。 あれじゃ全然入らないわ。 」
「 あ そ そうなんだ? 」
「 わたし達、 いろいろ持ち歩くから・・・ バッグは大きくないと ね 」
「 あ ああ そうだったね あ〜 うん ・・・ 」
ジョーはふと、この前持った彼女の荷物が意外なほどに重かったことを思い出した。
「 そっか〜 ・・・ うん ・・・ ね あのドレス いい色だね〜〜 」
「 ・・・ どれ? 」
「 あれ さ。 ほらあそこのケースに飾ってあるヤツ・・・ 」
「 ・・・ ああいうの 好き? 」
「 え!? だ だって アレ・・・ 女性の ・・ 」
「 だから ああいうタイプの服を女性が着ているのを見て うれしいですか。 」
「 あ ・・・ あ〜〜〜 どうだろ?? 」
「 あの色が好きなの、ジョー? 」
「 え あ〜〜〜 あ うん まあ ・・・ 」
「 ふうん ・・・ 」
フランソワーズは ベビーピンクと白のフリフリしたドレスをじ〜っと見上げている。
「 あ あ〜〜〜 やっぱきみのムードじゃないよね。あ こっちはもっとカジュアルっぽいよ
ちょっと入ってみようか。 セールだって。 」
「 いいけど ・・・ ジョー なにか買いたいもの あるの? 」
「 え? ・・・ あ ( ここはたしかメンズもあるはず ) く 靴下! 」
「 そ。 それじゃ・・・あっちみたいよ? 」
「 う うん ・・・ 」
「 わたし ここで待ってるから。 」
「 え あ ・・・ じゃ すぐにすませてくるから・・・ 」
「 どうぞ ごゆっくり。 わたし 隣のお花屋さん、見てるから。」
彼女はスタスタと隣の店に行ってしまった。
く〜〜〜〜〜〜 なんだってこうなるんだよ〜〜〜
おい〜〜〜 ジョー?
もっとはっきり すっきり彼女を案内しろよっ!
ジョーは 自分自身に悪態をつきつつ・・・別に欲しくもない靴下を2足も買うハメになった。
「 あ〜〜〜 お客さまぁ〜〜 その靴下に合うパンツ、お勧めしますぅ〜〜 」
「 同系統のお色のシャツはいかがですかぁ〜〜 うふ なんでもお似合いですよ〜〜 」
「 い い いえ これで 結構〜〜 」
「 あ〜〜〜ん お客さまぁ〜〜〜 」
黄色い声の店員さん達が四方八方から寄ってくるのだ。
「 あ! いけね〜〜 電車の時間だあ〜〜 シツレイ! 」
だだだだ ・・・ ついに彼は敵前逃亡を試みたのだった。
「 あ〜〜〜ん♪ ・・・ ちょっとぉ 靴下2足だけぇ?? 」
「 逃がしたわね〜〜 」
お姉さんたちは悔しそうに 茶髪ボーイを見送った。
「 あ ・・・ フラン〜〜〜 ??? 」
花屋の前には誰もいない。 ジョーは慌ててそこら辺をうろうろし始めた。
「 あれ? 花屋の中にいるのかなあ〜 入ってもいいのかな? 」
彼はおそるおそる花屋を覗き込む。
「 ここにいるわ。 」 ぽん。 背中を軽く叩かれた。
「 あ! ふ フラン〜〜 どこに いたの ・・・ 」
「 ずっとさっきの店の前にいたわ。お買いものは終わった? 気に入った靴下 あった? 」
「 え? あ ・・・ ウン。 」
「 よかったわね〜 ジョーってばオシャレさんなのね。 」
「 え!? そ そんなことないよ? 」
「 そう? だって靴下ひとつにも拘っているのでしょう?
わたしの兄なんて丈夫ならなんでもいいって 同じモノばかり何足も持ってたわ。 」
「 あ そ そうなんだ? ( ぼくだってそうだよ〜〜〜 ) 」
ジョーはごそごそ・・・ 靴下の包みをポケットに突っ込んだ。
靴下の話題は ― もういいよ! 話題、変えなくちゃ!
「 あ あの ランチとか何が食べたいかな〜〜 」
「 わたし? ・・・ サンドイッチ。 」
「 え ・・・さ サンドイッチかあ ・・・ う〜〜〜ん?? 」
フレンチ とか チャイニーズ とかを予想して 幾つかピック・アップしてあったのだが・・・
まさかサンドイッチ と言われようとは ―
「 え〜〜とぉ ・・・ あの どんなサンドイッチがいいのかなあ 」
「 どんな? 普通のでいいの。 パンの間になにか挟まっていれば。 」
「 あ そのう〜〜 中身のリクエストは なにかな〜って・・・ 」
「 中身? ・・・ ハムとチーズ。 」
「 ・・・ ハムとチーズ ・・・か ・・・ 」
小雨模様のモトマチを歩きつつ ジョーはアタマを抱えてしまった。
ハムとチーズのサンドイッチ だってぇ???
・・・ コンビニで買えってのか?
それなら ウチでぼくにも作れるよぉ〜〜
― 結局 さんざん歩き回った挙句 ・・・
某有名チェーン店で < ハムとチーズ > のサンドイッチをtake out した。
「 えっと・・・ これ どこで食べようか? 」
「 ・・・ どこでも ・・・ ウチに帰る? 」
「 ね 海が見たいって言ってたよね 」
「 え ええ ・・・ 」
「 じゃ あっちの公園に行こうよ 運がよければ大きな船が入港しているかもしれない。 」
「 え 大きな船 ?? 」
「 うん 外国の豪華客船とか 〜〜 」
「 わたし こう〜〜 高台から海を見渡せるみたいな公園に行きたいの。 」
「 え ・・・ そ〜いうのって・・・ ないかもなあ。 」
「 そうなの? < 港の見える丘公園 > っていうのがあるって聞いたわ 」
「 あ〜 そんな名前のトコ、あるけど。 あそこからは海、見えないんだ。 」
「 え そうなの? 」
「 ウン。 だからさ こっちこっち。 広々してて気持ちいいよ〜〜
あの公園でサンドイッチ たべよう! 」
「 え ・・・ あ 〜 ! 」
ジョーはついに彼女の手をむんず! と掴んで歩きだした。
しとしとしと ・・・ ず〜っと細かい雨粒が空中に浮遊している。
そんな中 ・・・ ヨコハマ港の見える公園に人影はほとんど見えなかった。
肝心の港も霧雨のカーテンの向こうにぼんやりと海面が見えるだけだ。
外国の豪華客船も いない。
そして 公園の方もたくさんあるベンチも空席ばかり ― たった一つ、傘が二つ並んでいる。
「 あ・・・ そっち濡れない? もっとこっち来たら ・・・ 」
「 ありがとう でも大丈夫よ ・・・ 」
傘 ・・・ 一緒に入った方が濡れないと思うのね〜
あ ― 同じ傘 なんてイヤなのかしら
う〜〜〜 相合傘 って フランスでもあるのかなあ・・・
こっち、入らないかい? なんて誘うのはロコツかなあ・・
ぴっちょん ぴっちょん ・・・ 傘の雫が二人の足元に小さな水たまりを作りはじめた。
「 あ・・・ 最近 レッスンの調子 どう? 」
「 ええ だいぶ慣れてきたわ。 」
「 そりゃよかったね。 あ また公演とか ・・・ ある? 」
「 来月定期公演があるの。 ・・・ わたしはまだコールドだけど・・・ 」
「 こ〜るど??? 」
「 あ 群舞のこと。 え〜と・・・ <その他大勢> の一人ってこと。 」
「 あ そ そうなんだ? 頑張れよ〜 」
「 ええ ありがとう。 」
もっと話をしたいのだけど すぐに話題が切れてしまう。
空白の時間を持て余し、二人はもくもくとサンドイッチを口に運ぶ。
あ・・・ あと一切れかあ〜〜
ちょびっとづつ 食べないと ・・・ う〜〜
「 そういえば ジョー、お仕事は? 」
「 あ うん ・・・ まだまだ見習いだよ。 覚えなくちゃならないことばかりさ。 」
「 そう 頑張ってね。 」
「 ウン ありがとう。」
また話が切れてしまった。
あら これが最後の一つ?
・・・ 困ったわあ〜 ゆ〜っくり食べなくちゃ・・・
「 こ このサンドイッチ オイシイね〜 」
「 そうね ・・・ 」
「 あ! コーヒー買ってくればよかった! あそこの自販機で缶コーヒー 」
ジョーが腰を浮かしかけ その途端に傘から水がぼとぼとと流れ落ちた。
「 ・・・ きゃ ・・・! 」
「 あ ! ご ごめん〜〜〜 服、濡れちゃった?? 」
「 ・・・ 大丈夫 ・・・ ちょっとだけ だから・・・ 」
「 え〜〜〜 あ は ハンカチで 〜〜 」
ジョーは大慌てでポケットをさぐっている。
「 大丈夫ヨ、ジョー。 ・・・ ねえ もう帰りましょう 」
カタン ・・・ 彼女は立ち上がると包み紙を袋にまとめた。
「 あ そ そう? そうだね なんか雨 強くなってきたし ・・・ 」
「 ええ。 ウチで暖かいお茶でも飲みましょう。 」
「 う うん ・・・ 」
こつこつこつ ことことこと。
二つの傘が公園から出てゆく。 ・・・ 今度はピンクの傘が先に進んでゆく。
そして ― 傘と傘の間には 微妙な空間が保たれているのだった。 帰宅するまで ずっと。
「 おやすみ〜〜〜 あ 濡れて冷えなかった? 」
「 ええ 大丈夫。 おやすみなさい。 今日は ― ありがとう。 」
「 え あ ああ ・・・ ぼくこそ・・・ありがとう。 」
帰宅して なんとなく湿気た服を着替え あつ〜〜いシャワーを浴びれば ― 少しすっきりした。
― バタン。 自室のドアを閉めて ・・・ ぼすん、とベッドに腰を下ろす。
フランソワーズは少しの間 エアコンをドライしセットすることに決めた。
「 〜〜〜〜 んんん 〜〜〜〜〜 ああ さっぱり〜〜 」
う〜〜ん・・・ と伸びをすれば 公園で食べたサンドイッチがなんだか愉快に思え・・・
くすくす ・・・ 彼女はいつのまにか笑いだしていた。
「 うふふ ・・・ わたしが想像してた < ヨコハマ > 行き、 とはちょっと
ちがってたけど ・・ うふふ〜〜〜 面白かったわ。 」
・・・ふわり と開いた裾からフリルの多いキャミソールが覗く。
今日 ジョーと一緒に 二人だけで出掛けれわかったことは
「 あ〜 ・・・ 彼って信じられないほど気を使うヒトなのねえ 」
というコトだった。
「 なんかすご〜〜くPCで調べていたみたいだけど ・・・ もっと単純にね、
ねえ どこに行きたい? って聞いてくれればいいのに〜〜 」
乙女心は フクザツなのだ。
「 そりゃね? 新しいファッションやら流行のバッグ ・・ は気になるわ。
でも わたしは ・・・ ジョーと一緒におしゃべりしたいなあって思っているのに・・ 」
ガサガサガサ ・・・ 今日 もっていったバッグからゴミを取り出す。
「 ふふふ それにしても〜〜 雨の公園で ベンチに並んで ハムとチーズのサンドイッチ
齧ってた なんて 〜〜 みんな 笑うわよねえ 」
せっかくのデートだったから かなり期待もしていた。 だからちょびっとがっかり気分もある。
「 ヨコハマって 外国のモノが多きのね・・・異人館とか輸入品の店とか・・・
でもわたし この地域のモノとかこの国のオイシイモノとか教えてほしいのね ・・・
せっかくジョーはこの辺りの出身なのになあ 〜〜 」
ぱったん・・・ 着替えるのも面倒になり、そのままベッドに突っ伏してしまった。
― ぼすん。 枕を蹴りあげて・・・ 受けとった。
「 ・・・やっぱり ・・・ 世代の差 なのかな・・・ 興味あることが違っちゃうのかしら。
でもあの家で会ったヒト達なんだか波長が合っわ。 そうね、雰囲気が馴染んでたっていうか・・・ 」
あの日、帰宅後いろいろ思い出してみたことは どれもこれも楽しかった。
今まで美術・工芸関係のヒト達との交友はなかったけれど 彼らの話題はどことなく身近に
感じられた。
「 う〜〜ん ? まあ バレエも芸術だからかしら ね?
ああ あのヒト達にまた会いたいなあ ・・ おしゃべりしたいわ ・・・
そうだわ! 今度は 写生用にどうぞ・・・って果物とか差し入れするわ! 」
がばっと跳ね起き スケジュール帳を繰ってみる。
「 おっけ〜〜〜♪ ようし。 ウチの自慢のいちごと すっぱ〜〜〜い夏ミカン
ももって行くわ。 き〜〜まり♪ 」
ぽ〜〜ん ・・・ ! 枕もとのクマちゃんが宙を飛んだ。
カタッ! ドアの音に開けたジョー自身が びくっとした。
・・・ キッチンの中はたった今まで誰かがいたみたいな雰囲気だ。
「 ・・・ フラン? まだ起きてるのかな ・・・ 」
ジョーはこそ・・・っと ドアの隙間から中を見回した。
「 誰も いない ・・・ よな。 あ 〜〜〜 よかったぁ・・・ 」
彼は心底ほっとしてそのままスリッパを引きずってキッチンに入った。
「 ・・・ な〜〜んかないかな〜〜〜っと 」
男子の通性? として 冷蔵庫に突進し中をいろいろ掻きまわす。
― そして ごとん。 ぷしゅ。
「 ん 〜〜〜〜 ・・・・ ま〜〜♪ 」
お約束! のコークをイッキ飲みをし、ふ〜〜〜っと脚を放り出してイスに座った。
「 ・・・ ふう〜〜〜 あ〜〜〜 なんかめっちゃ疲れたなあ 〜
慣れないコトはやめておけってことなのかな・・・ 」
イスに座ったまま 彼は首やら肩をコキコキと鳴らす。
「 ひえ・・・・ 肩こったぁ〜〜 ヘンなかっこして傘 差してたからなあ・・・ 」
ぐいっとペット・ボトルを傾け 残っていたコークをしっかりと飲み乾した。
「 ・・・ ん〜〜 ・・・ けど。 フランってば何が好きなのかなあ〜〜
< オンナのコが選ぶ店 > から選んだんけど・・・ 」
ことん。 空っぽのボトルをテーブルに置いた。
「 服とか靴とか〜〜 人気ベスト3に入るトコばっかピック・アップしたんだけどな・・・
なんか ・・・ あんまし興味がないっぽかったし・・・ 」
ごとん。 彼はそのままテーブルに突っ伏した。
「 わかんね〜〜〜 オンナノコってな〜に考えてんだよ〜〜 」
この恋する青少年は カノジョ ≠ 一般的なオンナノコ ということにまだ気づいて
はいない。
「 う〜〜〜 でもな〜〜 絶対リベンジする〜〜〜
でもさ ホント・・・ 何処に行きたいんだろ? わんない〜
あ。 ・・・ 海の見える高台にある公園 とか言ってたよなあ・・・
ソレって、もしかしたら < 港の見える〜 > 公園かもな。
けど あそこっからの眺めってめっちゃがっかり って聞いたけど
だいたいあっち側って もうず〜っと前に工場とか建ってるもんなあ 」
ころん。 空っぽのボトルがテーブルに転がった。
「 ぁ・・・ もしかして工場とか見たいのかな??
今 結構工場とか見るの、流行ってるって聞いたもんな。 工場女子 なのかも 」
つんつん。 転んだボトルを突いてみる。
「 食べ物だってさ・・・ サンドイッチがそんなに好きなのかなあ・・
女子だったら ぱんけ〜き とかが好きなんじゃないのか? 」
― ごっとん。 空きボトルは床に落ちてしまった。
「 ・・・ あ。 ヤベ〜〜〜〜 うん 今度はもっとばっちり検索してさ
食べろぐ とか ランキング、見てみよ。 ・・・ あ〜〜腹減ったかも・・ 」
ぴょこん、と跳ね起きると、彼はもう一本 コーラを取りだした。
しゅぽん。 指一本でペット・ボトルをごく無造作に開ける。
サイボーグの指力?を発揮した・・・のではないだろうが そのまま呷った。
「 ・・・ う〜〜ん♪ やっぱイイネ♪ 」
ふんふんふ〜〜ん♪ ハナウタ混じりに彼は寝室に戻って行った。
― ジョークン。 君が彼女をゲットできるにはまだまだ <修業> が必要ですな。
朝からの曇り空は とうとう雨粒を落とし始めていた。
道行く人々は 俯き加減で足早に行き交う。 ホコリが舞う心配はなくなったが今度は湿気だ。
雨粒は地に落ち、 足元から瘴気となってじわじわと這いあがってくる。
スカートの裾はすぐに脚に纏わり付き始めた。
フランソワーズは駅を降りて どんどん山の手の方に登ってゆく。
「 ― あ み〜つけた♪ やっぱりここだったのね。 シツレイしま〜す 」
フランソワーズは 玄関と思しきドアの前に立った。
「 あら? インターコムとか ・・・ チャイムはないのかしら。
・・・ ヘンねえ〜〜 あ ノッカー ・・・ ああこれは装飾ね。 お勝手口とか
あるはずよねえ・・ 」
家にそってず〜〜っと歩いてみたが どこもかしこも夏草が腰の高さくらいまで繁っていた。
「 あら この前はもっとすっきりした雰囲気だったと思うんだけど・・・
え〜と ・・・ ? たしかこっち側からも入れる・・・ はず あ あのドア! 」
フランソワーズは ガサガサと夏草を掻き分けて青いドアに近づいていった。
「 ・・・ なんだか壊れそう ね? トントン ・・・
ごめんくださ〜〜い 」
キシ。 一瞬、ほんの一瞬 空気が揺らいだ ・・・ ふうに感じた。
「 ?? なに? 海風が吹いたのかしら? 」
振り返ってみたが 雨の歩道が続いているだけだ。
「 ・・・ は〜〜〜い どちらさんですかぁ〜〜 」
きょろきょろしていると 直に中から声が聞こえてきた。
「 あ こんにちは! フランソワーズです、この前お邪魔した え〜と ・・・ <動くモデル> です。」
「 あ ・・・ マドモアゼル〜〜 いらっしゃい〜 こっちからどうぞ 」
「 わあ〜〜 ありがとう! 」
ガッタン。 青いドアが開き、上がり框にはひょろりと長身の男性が立っていた。
「 ・・・ ハニワさん、そうですよね? 彫刻家の 〜〜 」
「 あは うれしいコト、言ってくれるね〜〜〜 マドモアゼル〜〜
さあさあ どうぞ。 あ ・・・ もしよかったらまたモデルやってくれるかなあ〜
「 ええ 勿論・・ってわたしなんかでいいんですか?
今日はね〜〜 皆さんのモデルにって果物とかもってきたの。 」
「 うわ〜〜〜〜お♪ ・・・後が楽しみ〜〜 」
「 うふふ? 普通の店頭にあるようなのだと、つまらないでしょう?
だ〜から! ウチの温室の不揃いなひょこひょこしたイチゴとねえ、
食べたら口が曲がるくらい激すっぱ〜〜い夏ミカン! そんなのももってきたの。 」
「 あ ・・・ ははは ( く 喰えるかあな・・・ ) ま とにかく ど〜〜ぞ〜 」
「 はい。 ごめんください、お邪魔します〜〜 」
フランソワーズはぺこり、とアタマを下げると靴を脱ぎ 丁寧に揃えた。
「 わあ ・・・・ すごい ・・・ 霧の海 だわ ・・・ す て き ♪ 」
リビングに通され 彼女は目を見張った。
先日は元サンルームの部分には日差しがまったりと溜り 広くて樹木の多い庭はきらきらしていた。
今日は 一転 乳白色の靄でおおわれている。
「 あ? あ〜〜 やっぱね〜 海に近いから湿気がさあ〜
ふふふ〜〜〜 女子にはロマンスたっぷりに見えるだろうけどね。 」
「 そ。 も〜すぐにベとべとなんだよな〜 」
「 あら ユウジさん ごめんください、お邪魔してます。 」
「 いらっしゃい〜〜 モデル またやってくれるんだって? 」
「 ええ それとね、 静物、というの? その材料にって・・・ ほら フルーツ。 」
フランソワーズは持ってきた イチゴやら夏ミカンをサンルームのテーブルに並べた。
「 お〜〜〜 イチゴかあ〜〜 この季節には珍しいね。 」
「 あら そう?? ・・・ あ〜〜 でもね売ってるのみたく大きくて
恰好もすっきり、じゃないの。 ほらあ〜〜〜 」
でこぼこ どがひょがした でも真紅の果実が並ぶ。
「 え? わは〜〜〜 こりゃ愉快 愉快〜〜〜 」
「 これ。 いいな! モチーフにしてもいいかな。 」
小柄な青年が そう・・・と不揃いのごちごちしたイチゴを摘み上げた。
「 どうぞ どうぞ! あ ・・・ え〜〜と? 」
「 あ 僕 七宝とかが専門の ウラベっていいます。 」
「 美術工芸作家さん なのね? ウチのいちごね〜〜〜 不格好だけどオイシイの♪ 」
「 あは ともかくデッサンが先だな〜〜〜 」
芸術家を目指す若者たちは この前と同じに広いリビングでそれぞれの作品に取り組んでいる。
「 ・・・じゃ わたし お茶でも淹れて・・・ 」
「 あ〜〜っと マドモアゼル? きみはこの部屋で自由に動いていてくれないかな〜〜
クロッキーしたいヤツもいるし、 なんつ〜〜か 雰囲気が華やかいなるよ。 」
彫刻家の ハニワ がおおきなスケッチ ・ブックの影から言った。
「 まあ うれしい〜〜 そんなコト言ってもらったの、初めてで〜す♪ 」
彼女は満面の笑みを浮かべつつ さりげな〜くごたくたのリビングを片したりしている。
午後のひと時 広いアトリエにはまったりと落ち着いた空気でいっぱいだ。
ボ −−−− ・・・・
突然 なにかくぐもった音が聞こえた。
「 ?? な なに??? 」
「 え? ・・・ ああ 今の音か。 霧笛だよ、多分 ほら・・・ 」
デッサンに熱中していたウラベが ひょいと顔を上げ庭の方を指した。
「 ・・・ むてき ? あ ・・・ わあ〜〜〜 すごい・・・」
晩秋の午後、なのだろうか。 橙色の灯が 霧の中にぼんやりと浮かぶ。
庭の半分以上に 霧の海が進出してきていた。
「 こんなにすごい霧って・・・ 見たことないわ。 すご〜い ! 」
「 そうかい? この季節にはよくあるよ。 特にこの家は海に近いしね。 」
「 ふうん ・・・ ちょっと外に出てみても いいかしら。 」
「 どうぞ。 あ でも濡れると冷えるからな〜〜 冷たいぞ。 」
「 はい、ちょっとだけ ね。 」
カラリ。 木枠のついたガラス戸を繰って 彼女は庭に出た。
ボ −−−−− ・・・・ また霧笛が聞こえた・・・
「 ふうん〜〜 ロマンチックねえ〜〜 霧ってなんだかドキドキするわ!
・・・ あら? わたし 梅雨の雨降りの日 に出掛けてきた ・・・ はずよね? 」
外はウラベが言った通り ひんやりとして冷気が足元から這い上がってきた。
「 ・・・ 寒 〜〜〜 熱いお茶 淹れましょう〜〜 」
カタカタカタ ・・・ 庭下駄を鳴らしてテラスへと戻っていった。
「 どう? 霧の海は・・・ 冷たかった? 」
「 ええ でも 霧はスキよ、なにかとても神秘的 ・・・ 」
「 ああ ・・・ 霧の中では奇跡が起きるかもしれないし ・・・ 霧は悪戯モノなんだ。 」
「 え?? やっぱりそうなの? 」
「 そうさ。 だからね〜 注意して歩かないとね。 僕は信州の出身なんだけど
故郷 ( くに ) では 霧の日は遠出するなっていわれたよ。 」
「 冷えるから、かしら。 」
「 それもあるけど ・・・・ 霧の中を歩くと道に迷ったり とんでもないところに
行ってしまったりするからだって。 」
「 とんでもないところ? ・・・ ああ 危険な場所ね? 崖っぷちとか
沢があるのに気づかない とかでしょ。 」
ウラベはなにも答えずに 懐かしそうに霧の海を眺めている。
「 ・・・ ヒトとヒトの心もな、霧の中なのさ。 だからちゃんと双方で
霧笛を鳴らして存在をしらせなくちゃな。 」
「 そんざい ? 」
「 そう。 ここにいるよ〜〜ってね。 君は? フランソワーズ。 」
「 ・・・ え わたし? 」
「 大事なヒトに霧笛を鳴らしている? 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 おぅ〜〜い 珈琲、淹れるよ〜〜〜 珍しくも挽き立ての豆を買ってきたんだ! 」
リビングの戸口でユウジが叫んでいいる。
「 おおおお〜〜〜〜〜 それはそれは 」
「 !! 金欠モンがどうした? 」
アトリエの住人たちが四方八方から 喜びの野次を飛ばす。
「 へへへ ・・・ デッサンをね〜〜 3枚ばかり画商が預かってくれてさ・・・ 」
それはめでたい !! 全員が拍手をする。
「 ありがとう〜〜 へへ ・・・実はさ、この前 ・・・ フランソワーズのクロッキー
から起こしたモノなんだけど ・・・ 」
「 お〜〜〜 それじゃ その珈琲はまず最初にモデル嬢に奉らなくちゃな〜〜 」
「 もっちろん。 さあ どうぞ〜〜〜 マドモアゼル 〜 」
ユウジはテラスまで駆け寄ってきて フランソワーズに会釈をした。
「 まあ〜すごいわ〜〜 おめでとうございます♪
ねえ みなさんでお祝いのコーヒーを頂きましょうよ。 」
「 いいねえ〜〜〜 おう なにか食い物、 ないか? 」
「 う〜〜〜〜 パンもメシもなんも食ってしもうた〜〜〜 」
「 あ あの〜〜〜 小麦粉 あります? あと お砂糖。 そうね もしあったら卵も。 」
彼女の問いに青年たちは顔を見合わせたが すぐにハニワが答えてくれた。
「 卵 は残念ながら今朝、最後のを食っちまったですな〜
でも小麦粉と え〜〜と 砂糖 は確か食糧庫の奥にあった はず! 」
「 まあ よかった! それじゃ ・・・ ちょっとだけ待ってて・・・
ハニワさん、お手数ですけど、その小麦粉とお砂糖、取ってきてくださいませんか。 」
「 お〜〜す! お〜 ユウジ〜〜 お前も来てくれやあ〜 砂糖については自信がない。 」
「 おっけ〜〜 しかし あの食糧庫に入るのは ― 何か月振りかなあ〜 」
「 じゃ ついでに中身の整理、できるかもしれませんわ。 」
「「 ハイハイ ・・・ 」」
・・・ 30分も経たないうちに キッチンから香ばしい空気が流れはじめた。
「 お??? なにか食い物のニオイ〜〜〜 ♪ 」
「 こりゃ 楽しみだなア〜〜〜 」
アトリエ中に期待の声 ( 腹の虫か? ) が溢れ始めた。
キュ ・・・ ジョーは静かに車を路肩に寄せた。
「 えっと ・・・ こちらでいいのですか コズミ博士。 」
「 ・・・ う〜ん? おお ・・・ もう着いたのですかな。 ジョー君。 」
助手席でなにやら書類を広げていた博士は 驚いた風だった。
「 もう・・って。 あの〜〜 大学のキャンパスの周りを辿ってきただけですから・・・
えっとこの辺りが根津なんですが ・・・ 」
「 おっとそうじゃったですな〜〜 う〜〜んと ? おお おお ここです。
どっかに車止めて ・・・ 君も一緒にいらっしゃい。 」
博士はそそくさ〜〜と荷物をまとめた。
「 え? いえいえ ぼくは今日は運転手ですから〜〜 ここでお待ちしてます。
どうぞごゆっくりご用事を済ませていらしてください。 」
「 ほっほっ・・・ その ご用事 がな、ジョー君、きみも必要なんじゃよ〜〜
さ さ ・・・ ほら そこの角っこなら無断駐車も大丈夫じゃよ〜〜 」
「 え? うわ〜〜〜 ・・・ いいのかなあ〜〜〜 」
「 へ〜きへ〜き ソコはな両側は空き家で奥はアパートじゃ。 だ〜れも他人のコト
なんぞ気にせんよ。 さ さ 〜〜 」
「 は はい ・・・ うわ・・・ いいのかなあ・・・ 」
コズミ博士に急き立てられ ジョーは慌てて車を路上駐車させるのだった。
< 雨のモトマチ・でーと > の数日後。
ジョーはギルモア博士から用事をいいつかった。
「 ジョー〜〜 すまんが〜〜 東京まで車をだしてくれんか〜〜 」
「 はい いいですよ〜 すぐに用意します。 で 東京のどこですか?
いつもの大学ですか それとも研究室? 」
「 あ・・・ワシではなくてコズミ君なんじゃが・・・ 東大まで頼む。 」
「 はい。 東大って うわ〜〜 東京大学ですかぁ〜〜 すげ〜〜 」
「 いやいや その ・・・ ほら、またやっかいな事件に巻き込まれてもなあ・・・
ガードマンも兼ねて ・・・ 頼めるかなあ ? 」
「 勿論ですよ〜〜 うわ〜〜 東大かあ〜〜 緊張〜〜 」
「 なんじゃな、別に試験を受けにゆくわけでもあるまいに ・・・ 」
「 そりゃそうですよ〜〜 でもね ぼくなんかには東大とか別世界でしたからね〜
キャンパスを見れるだけでもわくわく ドキドキです。 」
「 そうかそうか ・・・ まあ ゆっくり頼むよ。 」
「 はい! 」
― というコトがあり、ジョーはコズミ博士を乗せて首都までゆき。
最高学府のキャンパスまで送り ・・・ 案外と早く博士は戻ってきた。
そして < ぐる〜〜っと根津の方向まで行ってくれるかのう > というリクエストに応じていたのだ。
「 ジョーくん ・・・ こっちじゃ こっち〜〜 」
路地の向こうで博士が手招きをしている。
「 あ ・・・ お待たせしました〜〜〜 」
「 うん こっちじゃよ〜〜 この辺りはなあ 相変わらずコチャコチャしておるの・・・」
「 はあ ・・・ 」
木造二階建て やら 古いアパート やら ・・・ 間にぴかぴかのワンルームマンションも
あったが・・・ そんな間を縫ってゆくと ぽっかり空間が開いた。
「 あ・・・? ああ 神社かあ ・・・ 」
「 ちょいと挨拶してゆきますので 待っててください。 」
「 あ はい ・・・ 」
コズミ博士は飄々と進み
どれ ごめんくださいよ
・・・ と言ってから 社に向かって拝んだ。
「 ほい、待たせましたな。 」
「 え ・・・ あ いえ ・・・ あの ・・・ 」
「 なんですかな。 」
「 いえ あのう〜〜 ごめんください って。 なんか いいですねえ・・・ 」
「 ほっほ・・・ワシの習慣みたいなモンですな。 神社仏閣やら他所様の御宅を訪ねる時の。」
「 ・・・ そうなんですか。 」
「 そうです。 ・・・っと〜〜 そこを右です ジョー君。 」
「 はい。 ・・・ もんじゃやき??? 」
小ぶりでかなり年季の入った店が 忽然と現れた。
「 そうです。 さ ― 入りますぞ。 」
「 え ??? 」
「 ― 時に ジョー君。 ワシでよければ何でも話してくださいよ? 」
「 はへ??? 」
― ジョーは口をあんぐり開けたまま もんじゃやきの店にひっぱり込まれていった。
Last updated : 09,09,2014.
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******** 途中ですが
話はどんどん横道に逸れてきました・・・・★
でも もう一回 続きます〜〜〜
あ この二人は 平ゼロ93 であります