『 手 ― (2) ― 』
たた たたたた たっ たっ たっ
コツコツコツ
大小三組の足音が 国道沿いから脇道にむかって折れてくる。
「 おか〜しゃ〜〜ん おかいもの なに 」
先に歩いていた赤い長靴が ちょっとだけ止まった。
「 すぴかさん、一緒に行きましょうね。 ほら お手々つないで 」
「 アタシ〜〜〜 ひとりでいけるもん 」
「 商店街はヒトがいっぱいいるから 迷子になったら大変よ 」
「 アタシ、みち しってる! 」
「 お母さんとすばると 一緒に行きましょ。 オヤツのお煎餅 買おうかな 」
「 ! いっしょ する!
」
「 いいこね〜 ? すばる君? ほら 行きますよ〜 」
母が振り返ると 青い長靴は道端にしゃがみこんで地面をみている。
「 すばるくん? お買い物 行きましょう 」
「 おか〜しゃん ありさん 」
「 え? 」
「 ありさん いっぱいいる〜 」
「 あり?? なにがあるの? ・・・ ああ あの 蟻さん ね〜 そうね
ありさんのお仕事をじゃましちゃだめよ〜 ほら 行きましょう 」
「 おしごと? 」
「 そうよ ごはんを見つけておうちにもってかえるの。
さあ すばる君もありさんみたいに お仕事しましょう 」
「 僕のおしごと ? 」
「 そうよ すぴかと一緒にお母さんのお手伝いしてちょうだい。 」
「 ・・・ ありさん ばいばい ・・・ こっちのありさんも ばいばい 」
すばるは這いつくばりそうになり 蟻に挨拶をしている。
「 ばいば〜い って。 ほら 行きましょ! 」
母はついにシビレを切らし 小さなムスコを抱き上げた。
「 ・・・ わあ〜い だっこ〜〜 」
「 道 渡ったら一人で歩くのよ! あ?? すぴか〜〜〜〜 ??? 」
振り返った時 赤い長靴の亜麻色アタマはどこにも見えなかった。
「 ! すぴか すぴか〜〜〜 どこにいるの〜〜 」
っ! しまった・・・! すばるに気をとられて・・・
ずっと下を見てたわ。
すぴか・・・どこへ行ったの???
― 眼 のスイッチ 入れておけばよかった !
・・・ 馬鹿な 003!
003の眼が 50キロ四方をサーチし始めたとき。
と〜〜〜ん ! 柔らかいモノが勢いよくぶつかってきた。
「 !? な なに? 」
「 おか〜〜しゃ〜〜〜ん〜〜〜〜 えへへへ 」
「 ! す すぴか??? どこに行ってたの! 」
「 アタシ〜〜 おみせのとこ までいってきたの〜〜〜 」
「 え?? 広い道 ひとりで渡ったの?? 」
「 う〜〜うん 〜〜〜 」
「 ??? 」
「 お嬢ちゃん 元気ですね〜〜 」
どこかのおばあちゃん がにこにこ・・・ すぴかの後ろに立っていた。
「 は い? 」
「 いえね・・・ 横断歩道の手前で小さなお嬢ちゃんがうろうろしていたので・・・
思わずお節介をしてしまいましたよ。 お母さんと一緒になれてよかったわねえ
」
「 うん! あのね アタシ すぴか! じょ〜 は おと〜しゃん よぉ〜 」
「 すぴか! 」
フランソワーズは屈みこんで娘を抱きしめた。
「 も〜〜 一人で行っちゃだめよって言ったのに。 あ す すみません〜〜〜 」
母は娘を抱いたまま 年配の女性にアタマを下げた。
「 しゅみ 〜〜〜 せん 」
茶髪のオトコノコが 母のスカートの裾をぎっちり握ったまま一緒にぺこり、
とお辞儀をした。
「 まあ まあ もう一人いるのね・・・ 大変ねえ・・・
おじょうちゃん お母さんの側をひとりで離れてはだめよ 」
「 はあ〜〜い
」
「 ありがとうございました! も〜 走るの、速くて・・・ 」
「 ふふふ ・・・ お転婆さんなのね 」
「 おてんば? 」
「 ええ ええ 日本の古い言い方でね ・・・ こんなふうに元気で
ちゃきちゃきした女の子のことを言うのよ。 」
「 まあ そうなんですか 」
「 お母さん、お国はどちらですか ? 」
「 あ ・・・ フランスです 」
「 まあ〜〜 そうなの。 どうりで・・お綺麗でお若いのねえ
こちらの坊やもカワイイこと わんぱくさんかな 」
「 わんぱく ・・・ は 知ってます! 元気なイタズラ坊主のことですよね 」
「 そうそう そうなのよ。 最近はこんな言葉、若いお母さんたちは
あんまり使わないようですけど 」
「 わたし 使います! も〜〜〜 ウチのすぴかは おてんば で大変です。
すばるは 」
「「 わん! ぱっく 」」
フランソワ―ズの足元から 混声合唱が響いた。
すぴかとすばるは オトナのハナシをじ〜〜〜っと聞いていた ・・・ らしい。
「 あらあら ・・・ カワイイわんぱく坊やね。 」
「 はあ ・・・ あの 本当にどうもありがとうございました。 」
「 はいはい またね 」
「 ばいばあ〜〜い おばちゃん〜〜〜 」
「 ばいばい〜〜 」
フランソワーズはもういちど腰を折って深く頭を下げた。
すぴか と すばる は ぶんぶん手を振った。
「 さあ お買いもの 行きましょう。 すぴかさん。 一人で勝手に
走っていってはだめ。 危ないのよ、これはお約束。 」
「 う・・・ん ・・・ だあってぇ〜〜 すばるってばさ〜〜〜 」
「 そうね すばる君もね、一人でのんびりしない。 」
「 僕 ・・・ ありさんとおトモダチに ・・・ 」
「 それはね 公園とかお庭でやりましょう。 道ではダメよ 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 さあ 一緒に横断歩道を渡ってお買いもの、ゆきましょ 」
「「 うん! 」」
母は 左右に子供たちの手を取って 海岸通りへと道を横切っていった。
海岸から少し入った山の道に 地元の商店街が広がっている。
クルマはほとんど通らなのでまあまあ安全地帯だろう。
島村さんち の双子は 足元がしっかりし始めるとおか〜さんと一緒に
< おかいもの > に来るようになった。
一人前にちっこいリュックを背負って ちゃ〜んと荷物を持って帰る。
・・・ りんごひとつ とか ジャガイモ三個 とかだけど・・・
「 おか〜しゃん どのおみせゆくの 」
「 え〜〜とねえ まず 八百屋さんかな 」
「 は〜〜い。 すばる いこ! 」
「 ウン 」
すぴかは弟の手をぎっちり握り たたたた・・・っと歩き始めた。
「 やおやさんのおじちゃ〜〜ん こんにちは〜〜 」
「 お〜〜〜 きたね〜〜 ふたごちゃん〜〜 」
「 こんにちは・・・ 」
「 すぴかちゃ〜〜ん すばるく〜〜〜ん 元気かな 〜〜 」
すぴかが大きな声で挨拶をするので 左右の店から返事がぽんぽん返ってくる。
「 はあ〜〜い げんきよ〜〜 」
「 げんき〜〜 」
チビたちはにこにこ・・・返事をする。
「 可愛いねえ ・・・ 」
「 ああ 可愛いよう 可愛いだけじゃない、 あの美人のおっかさん、きっちりシツケしてるよなあ
二人ともホントいいコだよ
」
「 うん うん いつも元気でさ・・ こんにちは〜! って あのコたちの笑顔をみると
オレは ま〜 この世もまだ捨てたモンじゃね〜なって思うよ 」
「 そうそう! オレんとこもさ。 あ オクサン〜〜〜 美味しいトマト、
入ってるよ〜〜 地元産だよ 」
「 まあ すてき! ここのトマトは本当に美味しいですもの。
ウチの子供たちも大好きなんです 」
「 そうかい そりゃうれしいなあ〜〜 何個、もってくかい。 」
「 えっと・・・あ その一箱全部ください。 トマト、オヤツにもなるんです 」
「 あ〜〜 ウチのトマトは甘いからねえ。 そんじゃ・・・っと
こっちの箱の方がいっかな 」
八百屋の親父は真剣に吟味し 艶々赤い顔が並ぶ一箱を選んでくれた。
「 オイシソウ! あ あと セロリとほうれん草、お願いします 」
「 ほいほい〜〜 」
「 おか〜しゃん アタシ にんじん! にんじん〜〜〜 」
「 僕 ・・・ ニンジンさん いい ・・・・ 」
「 あ そうねえ ニンジンもください。 すばる君 ニンジンさんも
食べましょうね 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 アタシ! にんじんさん すき〜〜〜〜 」
「 そりゃ頼もしいなあ〜 オクサン このニンジンは今朝掘ってきたヤツだし
柔らかいから生でも十分美味しよ。 チビちゃん達だって大丈夫さ。 」
「 おか〜しゃん ニンジンさん もつ〜〜〜 」
「 はいはい じゃ すぴかさん ニンジンお願いね 」
「 ん! 」
すぴかの背中の、ちっちゃなリュックに ニンジンが収まった。
「 僕も〜〜〜 」
「 すばるクンは ・・・ じゃあ ほうれん草ね 」
「 は〜〜い 」
「 さあ 次はねえパン屋さんとお肉屋さん。 最後にお魚屋さんよ 」
「「 は〜〜い 」」
三人は のんびり商店街を歩いてゆく。
パン屋さんとお肉屋さんでも 愛嬌を振りまき周りを笑顔でいっぱいにした。
「 おか〜しゃん つぎ〜〜〜 」
すぴかは元気に先頭になって歩く。
「 次はねえ お魚屋さんよ。 ・・・ すばるくん? ほら行きますよ 」
「 う ん ・・ 」
フランソワーズは息子の手を引いたが すこし重くなってきた気がした。
「 ちょっとクタビレちゃったかな? それじゃ・・・ え〜と? あ 」
中央にはちょっとした広場があり ベンチが数脚、設置してある。
端っこには灰皿もあり 一応・・・ 喫煙所 になっているらしい。
中年の男性が ぷか〜〜り一服している。
「 ここで ちょっとお休みしてゆこうか 」
「 ウン! おか〜しゃん アタシ ニンジンたべる 」
「 え ここで? 」
「 ウン。 にんじんさん たべる 」
「 ・・ じゃあ 小さいのね〜〜 ・・・ これでいっか ・・・ 」
フランソワーズは娘のリュックから 細い人参を一本取りだし
きゅきゅきゅ・・・っとブラウスの袖でぬぐった。
「 ん〜〜 ? 平気よね? はい どうぞ 」
「 わあい 」
すぴかはベンチに座ると ぽりり・・・ ニンジンを齧り始めた。
「 すばる? すばるはなにか食べる? 」
「 じゅ〜す〜〜 」
「 咽喉かわいたの? それじゃ・・・ トマトはどう?
お水なら ペット・ボトルにあるわ。 」
「 ・・・ 僕 とまと いらない。 おみず も いい。」
「 そう? それじゃ すぴかが食べ終わるまで待っててね 」
「 ウン。 僕 ありさん さがす 」
すばるは ベンチの下にしゃがみこんだ。
「 ありさん いるかな〜〜 」
「 ・・・う〜〜ん ・・・ あ? 」
ぽとり。 すばるの目の前に白いモノが落ちてきた。
側には 男性の脚と靴がみえる。
「 おじしゃん おちたです 」
すばるは ぷっくりしたその指で投げ捨てられたモノ ― 吸い殻を摘み上げた。
「 ・・・・! 」
男性は はっとして幼い男の子の指先を見つめた。
「 ・・・ あ ・・・ あ ありがと ・・・ 」
彼は震える手でたった今 自分が捨てたモノを受け取った。
そして。
「 坊や! 手! ごめん オジサンが悪かった! 」
彼はポケットからハンカチを出すと すばるの手を懸命に拭った。
「 あれえ〜〜〜ぇ?
」
「 ウチに帰ったらゴシゴシ洗うんだよ? ごめんな ・・・ 」
「 おじしゃん ばいばあ〜い 」
「 ウン バイバイ ・・・ 」
男性は商店街のゴミ箱に 煙草とライターを思い切りよく放り込んでいった。
「 すばる? お手々 洗って行こうか 」
フランソワーズは ゆっくりと息子に話かけた。
「 あ〜 うん。 」
すばるはに・・・っと母に向かって笑った。
「 すぴか〜〜 ちょっと公園まで行くわよ〜 」
「 こうえん? わあ〜い 」
母が買い物袋を持ってベンチから立ち上がると ・・・
「 あ すばるく〜〜〜ん ウチで洗ってゆきな 」
広場のすぐ隣の鮮魚店から 声がかかった。
「 あら すみません。 でも公園で洗いますから ・・・ 」
「 いいって。 ほら おいで すばる君 」
魚屋のオジサンは一部始終をちゃ〜〜んと見ていたのだ。
「 はあい♪ 」
「 ありがとうございます。 」
「 アタシもいっていい? 」
「 すぴかちゃんもおいで〜〜 ・・・ いやあ お母さん、 すばるくんって
スゴイなあ 」
「 え? 」
「 だってさ あのオヤジにポイ捨てやめさせ煙草まで捨てさせちゃったんだぜ? 」
「 ・・・・ 」
「 それもさ〜〜 この笑顔だけで さ。 さあさあ こっちの水道で
おててをきれいにしな。 ほ〜ら ・・・ 」
「 はあい わ〜〜〜 つめたい〜〜
」
「 ほいほい ・・・っと。 オジサンが拭いてやるよ ・・・ 」
「 ありがと〜 で〜す〜〜〜 」
「 わあ ・・・ おさかな いっぱい〜〜 」
弟にくっついてきたすぴかは 店の中できょろきょろしている。
「 ほうら・・・ こっち見てみな。 タコだぜ。 今朝水揚げしたヤツだから
まだこんなに元気なんだ 」
「 た こ? 」
「 そうさ。 あし みてみな。 八本あるんだ 」
「 え〜〜〜 うわ〜〜〜 にゅる〜〜〜って にゅるにゅる〜〜〜
」
「 ・・・ にゅる〜〜 」
すばるは姉の後ろから こわごわ・・・覗いている。
「 たこさん ・・・ ここのおうちのたこさん? 」
「 いや〜〜 これは売り物さ。 晩にはどこかで晩御飯のオカズになるだろ 」
「 お おかず ・・・ なの ? 」
「 そうだよ。 ウマイよ〜〜〜 チビさん達はもうちょっと大きく
なってからな〜 」
「 ・・・ う ・・・ん ・・・ 」
「 ありがとうございました。 すぴか すばる こっちにいらっしゃい。
あ 魚屋さんに ありがとう 言いましょうね。 」
「「 ありがと〜 ごじゃいました 」」
チビたちは ぴょこん、とアタマを下げた。
「 いや〜〜 いいって いいって 」
「 えっと こちらの鱈の切り身、五切れください。 あと・・・
あ 鮭フレークもお願いします。 」
「 ほいほい・・・これは今朝獲れだからね〜〜 新鮮だよ 」
「 ええ こちらのお魚、本当に美味しい・・・
コドモたちも大好きなんです 」
「 そっか そっか 頼もしいねえ〜 いつもありがとうね〜 」
「 いいえ こちらこそ 」
さあ 帰りましょう、 と 母は子供たちを促す。
買い物袋で両手がふさがっているので 手を引いてやることはできない。
「 はあ〜〜い ばいばあ〜〜い オジサン 」
「 ばいばあ〜〜い ・・・ 」
コドモたちも 膨れたリュックを背負い母の側をちょこまか歩く。
「 ああ ばいばい〜〜〜 」
魚屋の親父だけでなく 行き合う地元の人々もにこにこし
手を振り返してくれるヒトもいる。
「 さあ がんばって〜〜 オヤツはね オーツ・ビスケットよ 〜〜 」
「 わあ〜〜い♪ お〜つびすけっと だいすき〜〜〜 」
「 お〜〜 びすけ すき〜〜〜 」
三人は 元気よく急坂を上っていった。
― こつ こつ こつ ・・・
軽い足音が聞こえてきた。
「 ・・・ あ 帰ってきたわ! 」
キッチンのテーブルから フランソワーズはがばっと顔を上げた。
「 う〜〜〜ん ・・・ また居眠りしちゃったぁ・・・
チビたちの相手してると ・・・ へとへとになっちゃうのよねえ 」
さささ・・っと髪を整え 食器棚のガラスに向かって笑顔をつくった。
「 さ 笑顔 笑顔〜〜って。 ジョー〜〜〜〜 」
彼女は 玄関に向かって駆けだした。
ん 〜〜〜〜 ・・・ うふ ・・・
玄関の上がり框で二人はあつ〜〜〜〜いキスを交わす。
「 ・・・ おかえりなさい 」
「 ふ・・・ ただいま 」
やっと離れたジョーとフランソワーズは またまた熱い視線を絡め合う。
「 お仕事 ご苦労さま 」
「 ありがと・・・ チビ達は? 」
「 チカラいっぱい遊んで ゴハン食べて ベッドにばたん。 」
「 そっか〜〜 ちょっと寝顔、みてくるね 」
「 うふふ・・・ 毛布を蹴飛ばしてないか見てきてね〜〜
その間に 熱々の晩御飯、仕上げておくから 」
「 お〜〜 いいね。 頼むよ 」
ジョーはにこにこ・・・ 足音を忍ばせつつ子供部屋へ向かった。
キシ。 子供部屋のドアを開けた。
常夜灯に照らされた中 可愛い顔がふたつ、ぼんやり見えている。
「 すぴか〜〜 すばる〜〜 お父さんだよ ・・・
あ〜あ すぴか ・・・ ほら あんよが飛び出してるよ ・・・
すばる そんなに潜って苦しくないのかい 」
父は娘のちいさな足を毛布の下にもどし 息子の顔を半分かくしていた毛布を
整えた。
「 あ 〜〜 ・・・・ いい寝顔だねえ すぴか すばる・・・
どんな一日を過ごしたのかなあ ・・・ 一緒にいたいよう〜〜 」
ちょん ・・・ と娘の拳をつつくと ― きゅうう〜〜。
反射的に すぴかはジョーの指を握った。
「 あ は。 すぴか〜〜 情熱的に握ってくれるなあ〜
すばる? こらまた潜るんだから・・・ 」
彼は息子の柔らかい茶色の髪を指でそっと梳いた。
「 ・・・ お前たちのためなら ぼくはなんだってできる。
たとえぼろぼろになったって 這ってでもお前たちのトコに帰ってくるさ。
・・・ あ〜〜〜 最高の癒しだよなあ ・・・ 」
二人のすべすべのほっぺを擦り ジョーは名残惜しそうに子供部屋を後にした。
コトン。 ジョーは静かに箸を置いた。
「 ごちそうさま。 ・・・ あ〜〜〜 うまかった・・・! 」
「 よかった・・・ 美味しいお魚、買ってきたから ・・・ 」
「 ウン もう最高さ♪ フラン 料理の腕 上げたよね 」
「 え そう?? 素材がいいからよ きっと。 あんかけにしたお野菜も
み〜〜んな地元産ですって 」
「 ふうん ・・・ ここは海のモノも畑のモノも豊かでいいね 」
「 そうね。 気候も温暖だし ・・・ 子育てには最高だわ。
」
「 そ〜だよね〜〜 今日も元気に走り回ってたんだろ? 」
「 ええ 特にすぴかはね。 おてんばさんっていうのでしょ。
地元のおばあちゃまが教えてくださったわ。 」
「 あは ・・・ そうそう そんな風に言うよね。
あ〜〜 懐かしいなあ・・・ 神父さまがさ、女子達に注意するとき
お転婆がすぎますよ なんて言ってたっけ・・・ 」
「 まあ そうなの? 」
「 確かに すぴかは立派なお転婆さん だな〜 毛布を蹴っ飛ばしてたし 」
「 あらら・・・ 」
「 ちゃんと直してきたけどね。 なあ チビたちの手ってさ なんかこう〜〜
魔法だよねえ。 」
「 魔法 ?? 」
「 ウン。 さっきさ、多分無意識だろうけど、 すぴかがぼくの指 握って
くれたんだ。 そしたら ・・・ イッキに元気になった。 」
「 うふふ・・・ そうねえ 手って。 ぱわ〜 があると思わない? 」
「 うん。 手は 不思議だよ。
・・・ ぼくは イワンの手 で みんなの仲間になれた・・・ 」
「 わたし ね。 この手が好きなの。 」
白い両手が 大きな手を包みこむ。
「 フラン ・・・ 」
「 ねえ この手で ・・・ 愛して 」
「 ・・・・ 」
ジョーは あつ〜〜〜いキスで愛妻の望みに応えた。
わいわい がやがや わあわあ ぶうぶう・・・
双子たちは賑やかに成長してゆく。
カッチャ カッチャ カッチャ ・・・ ランドセルの音がして。
「 ただいま〜〜〜 」
亜麻色のお下げを振り回しつつ 島村さんちの長女が帰宅した。
「 すぴかさん お帰りなさい。 」
「 ね〜〜〜 おか〜さん。 だいえっと したら 手もやせる? 」
「 え?? どういうこと ? 」
「 だから〜〜 だいえっとすると 手もほそくなるかなあ 」
すぴかは母と同じ色の瞳で じ〜っと見つめてくる。
「 ・・・ 手? 」
「 そ! 」
ば。 すぴかは母の前に両手を広げてみせた。
すぴかは 年齢の割にはがっしりした大きな手を持っていた。
指も長くちょっとゴツイ感じだけど、鉄棒やらソフトボール投げには
男子にもひけをとらない強さがあった。
「 きゃ〜〜〜 すぴかちゃあ〜〜ん がんばってえ〜〜〜 」
ドッジボール大会では いつも ヒーロー ・・・ いや ヒロイン。
「 ・・・ 島村にはかなわね〜や あいつ、手 でかい〜〜 」
男子たちも彼女には一目置いていた。
けど。 ご本人は あんまり嬉しくはない らしい。
「 アタシ ・・・ お母さんみたくなキレイな手だったらいいのに ・・・ 」
「 すぴか。 お母さんは すぴかのこの手が好きよ。
お皿を洗ってくれたりお買いものに行って重い荷物も持てるこの手・・・
あったかくて大好き 」
「 ・・・ でも ・・・ かっこわるい 」
「 あの ね。 お母さん、すぴかさんの手とよく似た手を知っているの。
その手も とっても温かくて素敵なの。 」
「 え〜〜 だれ? すばる・・・・じゃないよね〜〜 」
同じ日に生まれた弟は ぷっくり丸まっちい指を持っている。
「 え〜〜〜 だれ〜〜〜 アタシのしってるひと ? 」
「 ええ ええ よ〜〜く 知ってるヒトよ 」
「 ?? だれ〜〜〜 」
「 大きな手よ。 すぴかもすばるも その手に抱っこしてもらって
遊んでもらって お風呂に入れてもらって ・・・ 」
「 ・・・ おとうさん ? 」
「 ぴんぽん♪ お父さんの手はね 魔法の手 よ。
どんなにつらい時も 苦しい時も お母さんはお父さんの手に救われてきたわ。 」
「 すくう?? 」
「 お父さんの手があったから乗り越えてこれたってこと。
その素敵な手に すぴかさんの手は似てるの。 ステキな手だわ、この手。 」
母は娘の手を静かに撫でる。
「 そっかな ぁ ・・・ 」
すぴかは まだ口がちょっと尖がっている。
「 そうよ。 」
「 ・・・ でもぉ〜〜 アタシはお母さんみたく〜 白くてほっそりした手が
い〜な〜〜〜 おか〜さんの手って いつもいっつもキレイだもん。 」
「 ・・・・・・ 」
すぴかのお母さんは なぜかとても淋しい顔をした ― とっても。
!? ・・・ お お母さん ・・・?
Last updated : 07,18,2017.
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************* 途中ですが
< 009のシモヤケ指 > 好きなんです〜〜〜(^^)
なにも起きませんが ・・・ まだ終わりませぬ <m(__)m>