『 手 ― (1) ― 』
えっほ えっほ えっほ ・・・
「 ふ〜〜〜〜〜 あとすこし〜〜〜〜 がんばれ わたし ! 」
両手に買い物袋を下げ フランソワーズは勇んで目の前の坂を上ってゆく。
かなりの急坂なのだが 慣れた足取りだ。 ぺたんこ靴でがしがし歩く。
もともと 一種の外股 ( ある意味職業病? ) だったけれど 最近ますます
ひどくなってきた ・・・と思う。
「 うふふ〜〜 しょうがないわよぉ〜
なにせ おっきなお荷物、 抱えてるんですもん♪ ね〜〜〜 べべちゃん達? 」
彼女は おおきくせり出したお腹をぽんぽん・・・叩きにこにこと笑う。
「 あら あなた達も賛成? ・・・ あ こらあ〜〜 そんなに蹴っとばさない〜〜
お腹の中で グラン・バットマン しな〜いでね〜〜 」
にこにこ・・・一人でおしゃべりしつつゆっくりと坂を上りきった。
「 ふうう ・・・ さあ〜て 晩御飯はなににしよ〜かな〜っと 」
キ ィ ・・・ 門を開けて よいっしょ・・・と買い物袋を持ち上げた。
「 あ オヤツは ケーク・サレ ね♪ 博士もお好きだっておっしゃったし。
ねえ べべちゃんたちも好きでしょう? おいしいの、すぐに作るわね
一緒に食べましょうね〜 」
えっほ えっほ。 肩をゆらしつつ彼女は玄関に向かった。
すう〜〜〜 秋風が 新しい家族を迎える庭を吹き抜けていった。
ず〜〜っと想い合っていた彼とやっと結婚できた。
それだけでも 天にも昇る心地、 楽し嬉しの新婚生活をしあわせ〜〜〜に過ごしてきた。
そして ― 夢だと思っていた子宝を授かった。
母になるフランソワーズは勿論、 若い父となるジョーの喜びはもう大変なもの・・・
「 ね〜〜 ほら ベビー服〜〜〜 かわいいのがあったんだ 〜〜 」
「 ゆりかご いるよね〜 ほら これ、籐で編んであるんだって。 柔らかくて優しいだろ? 」
「 ねえねえ ベビーカー! 必須だよな〜〜〜 ウチは二人だから・・・
特注してきちゃったよ〜〜 ちょっと加工して安全装置装着だな 」
「 あっは・・・絵本があったんだ〜〜 かわいいの!
ウチの子供たちには理想的な教育環境を整えたいんだ。 ほらほら〜〜
あ 英語の絵本も一緒に買ってきたよ〜 」
まだフランソワーズのお腹が目立たない頃から
彼は大小さまざまな < ベビー用品 > を買ってきた。
「 まあ〜〜 すてき 」
「 あら 可愛いわあ〜 」
「 いいわね〜〜 加工 よろしくね〜〜 」
「 そうねえ 早期教育はいいわねえ 」
フランソワーズは にこにこ・・ 眺めていた。 そして ・・・
「 よいしょ・・・・っと。 必要になる時期まで納戸にしまっておきましょ 」
彼女は自分用のリストにアップすると < ジョーの買い物> を黙ってロフトに収めるのだった。
ジョーは それにまったく気が付いていなかった・・・
「 あ〜〜〜 重い〜〜〜 重いぶん お腹空いたわあ〜〜〜 」
よっこらせ。 よいしょ・・・・
キッチンに入ると 食材を冷蔵庫に仕舞いこみ 彼女は < オヤツ > を
作り始める。
「 うふふ〜〜〜 ケーク・サレ ができました。 ああ 美味しそう・・・
ね〜〜 体力つけておかないとね〜〜 ね? べべちゃんたち? 」
ぽんぽん・・・とお腹をさすりさすり フランソワーズは熱々のオヤツを
頬張るのだった。
「 よく食べるな〜〜〜 」
ジョーは 時々感心して眺めている。
「 あら だってね 」
「 お腹のコドモ達の分もってことだろ? 」
「 それもあるわ。 でもね とにかく体力 つけておかないと 」
「 あ そうだよね 心配しなくても大丈夫、無事に生まれてくるよ 」
「 あら 心配なんかしてなくてよ? ええ 元気な赤ちゃんたちを産むわ。
自信があるの。 これはね〜〜 オンナの直感。 」
「 ふ〜〜ん すごいなあ〜 」
「 で ね。 問題はその後 なの。 」
「 そのあと? 」
「 そ。 二人の < 新人 > を相手に 闘いが始まるの 」
「 た 闘い?? 」
「 そ。 育児戦争。 睡眠時間だって今のうちにし〜〜〜っかり寝だめして
おかないとね〜〜 」
「 ・・・ 育児 せんそう ・・・ 」
「 ええ。 なにせ テキは二人 なんですもん。 」
「 敵 ねえ 」
「 そうよ。 それにね〜〜 いろいろ・・・先輩たちに聞いたんだけど
」
「 せ 先輩?? バレエ団の? 」
「 それもあるけど・・・ 公園とかでチビちゃん達といるママたちよ 」
「 はあ・・・ 」
「 みんな いろいろ教えてくださったわ。 」
「 いろいろ・・・って どんなことなんだ? 」
「 あの ね 」
「 も〜〜〜 大変よぉ〜〜〜 追いつくので精一杯・・・!
も〜〜 体力勝負よぉ 〜〜〜 」
男の子のママは 言う。
「 え〜〜 ? ちっちゃくたってテキは 女 なのよぉ〜〜
も〜〜 こいつぅ〜〜〜ってブチ切れよぉ〜 」
女の子のママは 言う。
「「 ともかくね! テキは若いの! 」」
「 まあ〜〜 そうなんですか 」
でっかいお腹を抱えた 金髪美女ははんなり微笑む。
「 もうすぐ でしょう? 」
「 あ まだ六か月なんです ・・・・ 双子で 」
「 双子! それは ・・・大変ねえ 」
「 ええ でも楽しみです。 」
「 そうねえ 可愛い双子ちゃんをつれてこの公園にきてね
みんなで待っているわ 〜〜 」
「 はい〜〜 よろしくお願いします 」
はやくも ママ友達 を和やかに過ごすフランソワーズなのだ。
「 そっか〜〜〜 オトコの子 と オンナの子じゃ そんなに違うのうか 」
「 らしいわ。 ウチは両方でしょ? だから わたし、体力つけて
がんばる! なにせ 一 対 二 なんですもん。 」
「 ね? ぼくもいるよ? 」
「 え? 」
「 ぼくも育児戦争に参加させてくれよ? ぼくのチビ達の・・・ 」
「 ありがと、ジョー。 でもジョーにはお仕事があるでしょ? 」
「 そうだけど。 チビ達の父親はこのぼくしかいないんだ。 」
ジョーは えへん、と胸を張る。
「 すごくうれしいけど・・・ お仕事に差し障りがあったら大変だもの。
ねえ 任せて? わたし サイボーグなのよ 」
「 あのさ。 ぼくだって! サイボーグ なんだよ?
徹夜くらいでビビる体力じゃあないんだ。 夜泣きだってオムツ替えだって
任せてくれ。 な? テキは二人・・・ こっちだってタッグを組もうぜ 」
「 ! そ うね。 ゼロゼロナンバーサイボーグの強みは チームワーク
ですもんね 」
「 だろ? 今度のテキは本当に手強い と思うよ。」
「 ん。 なにせ彼らはめちゃくちゃに若いんですもんね。 お願いします。 」
「 まかせろ。 」
「 ・・・ よろしくっ ! 」
白い手が すっと差し出された。
「 おう。 頑張ろうぜ 」
大きな手が しっかりと包みこむ。
「「 頑張ろうね !!! 」」
きゅ。 熱い握手で二人はタグを組むことを確認しあった。
― こうして 島村さんち に 待望のチビ達がやってきたのだった。
フランソワーズにとって今までの人生で 一番長く 一番辛く そして 一番幸せに終わった一夜が明け
― ジョーとフランソワーズは二人のコドモたちを授かった。
「 ありがと〜〜〜 お疲れさま〜〜〜 ありがと〜〜 フラン〜〜 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 宝モノをありがとう ・・・ 」
若い父と母は泣き笑いで手を握りあった。 そしてそれは < 新たなる闘い > の
幕開きでもあった。
・・・ 連合軍 は 予想より遥かに強力だった ・・・ !
姉はカンが強く 弟は頑固モノだった!
「 いいこちゃんね〜〜 ほら 泣き止んで・・・ ね ね ・・・ 」
とんとん・・・軽く背を撫でつつ 新米ママンは赤ん坊をあやす。
「 そんなに泣いたら ・・・ 可愛いお顔が台無しよ ・・・ねえ ・・ 」
そういっている母の方が 半分泣き顔になっている。
「 昼間は元気でいいコなのに ・・・ どうして夜になると 泣き虫さんに
なるの? いいこ いいこ ・・・ ね もうねんねしましょ・・・ 」
寝室を抜け出し 赤ん坊を抱っこしたまま、彼女は廊下を歩いたりキッチンに
下りていったり ・・・ ついにはちょっとテラスに出たりもしてみるのだが。
え〜〜〜ん え え え え〜〜〜ん・・・
彼女の小さな娘は ぐずぐずと泣き続けるのだ。
「 ほらほら ・・・ そんなに大きな声をだしたらお父さんが目を覚ませてしまうわ?
お仕事でお疲れなのよ・・・ ゆっくり寝かせてあげなくちゃ
ね? すぴかちゃん。 すぴかはお父さんが大好きでしょう? 」
ぐしゅぐしゅ ・・ び〜〜〜〜〜〜 !
ちょこっと黙った娘は また 声を上げて泣き出してしまった。
「 ああ ・・・ もう ・・・ いいわ お外にお散歩にでもゆきましょうか 」
ふか〜〜いため息をつくと、 母は娘を抱いたままコートを手にした。
「 夜だし・・・・まだ寒いけど・・ あなたを抱っこしていれば平気 ・・・ 」
素足のまま、そうっと玄関に出た。
「 ・・・ やっぱり寒いなあ ・・・ ああ ほら泣かない〜〜 」
コートを羽織ったとき ―
ぽん。 背中を優しく叩かれた。
「 ? ジョー ・・・ 起こしちゃった?? 」
後ろには パジャマ姿のジョーが立っていた。
「 すぴか 引き受ける。 きみはあたたかくして寝ろ。
あ すばるは く〜〜く〜〜 寝てるから安心したまえ。 」
「 みてくれたの? ・・・ ありがと ジョー 」
「 夜はぼくが引き受けるって言っただろ? 遠慮なく起こしてくれよ 」
「 でも ・・・ 」
「 でも じゃないよ。 ぼくだって サイボーグ なんだぜ?
寝不足 なんてテキじゃないさ。 テキは このちっちゃなお嬢さんさ 」
ジョーは そうっと彼の娘を抱きとった。
「 ぼくに任せて。 きみはすばるの寝顔みてから寝ろよ。 」
「 ・・・ ジョー メルシ ・・・ 」
ちょいと涙まじりのキスが飛んできた。
「 うふふ〜〜 まあ 任せろって 」
に〜〜んまりして 彼は玄関のドアを開けた。
「 ふんふん ふ〜〜〜ん♪ すぴか〜〜 ほら お星さまがキレイだよ〜〜〜 」
彼は小さな娘を毛布で包み抱っこして庭に出る。
え〜〜〜 え え ええ 〜〜〜
すぴかはまだぐずぐず泣いている。
「 なんで泣くのかな〜〜〜 すぴか・・・ 」
夜気はかなり冷たいが 抱いている娘がほんわかストーブの代わりだ。
「 えへ ・・・ 温かいでちゅね〜〜 こんなにちっちゃいのに
お父さんよりず〜〜っと温かいねえ ・・・ これがホンモノの命のしるし
なんだなあ 感動だよなあ ・・・ ねえ すぴか 」
花壇のフチまでやってきた。
「 あ ・・・ 最近 お母さんは忙しくて花壇の手入れする暇がないんだ・・・
ねえ もうちょっと大きくなったら一緒にお花を植えようね?
ちゅ〜りっぷ とか 可愛いよう〜〜
」
「 え〜〜 くちゅ?? 」
「 ほ〜ら ちょっと触ってごらんよ 」
「 くちゅ? 」
ジョーは 真っ暗な庭で花壇の側に屈みこんだ。
「 あは よく見えないかあ・・・ でも触れるよ〜〜 ほら 」
「 ・・・? 」
ぎゅ。 ちっちゃなちっちゃな手が 葉っぱを掴んだ。
「 どうだい? こんなの、初めてだろ 」
「 〜〜〜 う〜〜う〜〜〜 」
ぶち。 すぴかは葉っぱを引っこ抜くと小さなお口に直行 ―
「 お〜〜っとっと。 それは食べちゃだめだよ 」
「 ぶ〜〜〜〜〜〜 ! 」
「 あのね この草は毒じゃないとは思うけど ・・・ まだ君には早いなあ 」
ジョーは ぎゅっと握った拳から葉っぱを抜き取った。
「 ? くちゅ? 〜〜〜〜〜 え 〜〜〜〜〜〜 」
またまた カノジョのサイレンが鳴り ・・・
「おっとっと。 ごめんね〜〜 ほ〜ら おいで。 こっちでお星さまでも
眺めようよ 」
わっせ わっせ・・・ と 泣き出した娘を抱いて ジョーはテラスの角に
腰をおろした。
「 ここでならたっくさん泣いてもいいけど。 でもね すぴか。
お父さんがず〜〜っと一緒にいるから 笑ってくれないかなあ 」
大きな手の上に ジョーは娘の背中を乗せた。
「 ねえ ・・・ 見てごらん? ちかちか ぴかぴか〜〜ってしてるだろ?
お星さまさ。 すぴか、 お前の名前はあの星からもらったんだよ・・・
ず〜〜っとずっと 輝き続けるヒトになってほしいな〜って思ってさ。 」
「 ・・・ っく ちゅ ・・? 」
「 可愛いすぴか。 すぴかのためなら ぼくはなんだってできる。
お前たちを護るために ぼくはどんなにぼろぼろになっても這ってでも
生きのびてお前たちのトコに帰ってくる。 これはぼくの誓いなんだ。 」
「 ぶ〜〜〜 ・・・・? 」
すぴかは 碧い瞳でじ〜〜〜っと父を見上げている。
「 すぴかのお目目はお母さんと同じ♪ 空の星よりもキレイだよ〜〜〜
すぴか ・・・ 生まれてきてくれて ・・・ ありがと・・・ 」
「 ・・・ く ちゅ ・・・ 〜〜〜 す〜〜〜〜 」
ジョーがぼそぼそしゃべっているうちに すぴかはいつのまにか大人しくなり
・・・ やがて穏やかな寝息をたてはじめた。
「 ぼく さ。 フランと結婚できただけで さいこ〜〜〜〜にシアワセ! って
思ってたんだけど。 すぴかとすばるが生まれてきてくれて ・・・
もうしんじらんないくらい幸せなんだ。 なあ すぴか 」
「 ・・ す〜〜〜〜〜 」
「 すぴか? ねんねしたのかい? あは 温かいねぇ〜〜 」
ジョーは 温かさのカタマリみたいな娘をそう〜〜っと抱きしめた。
とん とん とん ・・・
フランソワーズは 庭サンダルをつっかけ夜の庭に出てきた。
「 ・・・ ジョー? まだ外にいるの・・・?
すばるはよ〜〜〜くネンネしていたわ ・・・・ ジョー? あら。 」
表庭の方まで回ってきたら ― テラスの角で すぴかを抱いて若い父はす〜す〜眠っていた。
「 あらら ・・・ ジョーまで・・・。 ねえ お父さん? 起きて・・・
ここで寝てたら風邪 ひいちゃうわよ〜〜 」
娘を抱っこしている良人の肩を そ・・・っと揺すってみたが
一向に目を覚ます気配がない。
「 ほっんとによく眠ってるわ・・・ そうよねえ ジョーだって疲れているんですもの・・
毛布、取ってこようかしら ・・・ 」
フランソワーズが サンダルの音を忍ばせ戻ろうとした時。
ファサ。 軽くて大きなブランケットが後ろから降ってきた。
「 ?? ― 博士 」
「 し〜〜〜〜。 これを掛ければ 風邪をひくこともないよ 」
博士が マフラーをぐるぐる巻きにしつつ にこにこ・・・立っていた。
「 まあ あの ・・ お起こししてしまいましたか? ごめんなさい 」
「 いやなに トイレに起きてなあ 〜 ちょいと外の空気を吸おうか と
窓を開けたら ジョーのおしゃべり が聞こえてきてな。 」
「 まあ ・・・ 」
「 ふふふ よく寝とるなあ。 さあ このブランケットは防護服と同じ素材を
使っておる。 ジョーもすぴかも風邪をひくことはないよ。 」
茶色の大きな布が 父と小さな娘をしっかりと包んだ。
「 ありがとうございます 博士。 」
「 さあ お前は 坊主の側に戻っておやり。 ジョーはそっと起こすから。
いくら暖かくしても野外で一晩過ごすのは な。 」
「 ふふふ ・・・ 案外大丈夫ですわよ? 」
「 まあ 夜露に濡れるのは な 」
「 ありがとうございます。 それじゃ お願いします 」
「 うん うん お前は冷えないようにしなさい。 」
ぽん。 肉厚の手がフランソワーズの背中に置かれた。
ああ ・・・ 温かい わ。 博士のこの手 ・・・ 本当に温かい・・・
「 はい。 お休みなさいませ 」
「 お休み フランソワーズ。 」
ちゅ。 彼女のキスが博士の頬に触れた。
「 ・・・・ 」
「 ・・・・ 」
温かい眼差しを交わしあう。 それは 父と娘のそれにも似ていた。
かつて フランソワーズにとっては 憎み恨み殺したいとまで思った相手だった。
しかし その後の真摯な心の交流で黒く冷えた感情は 次第に温かいモノへと
昇華していった ・・・。
「 ・・・・ 」
玄関に引き返してゆく娘の後ろ姿を 博士は目尻に涙を挟んで見送った。
「 ・・・ はかせ ・・・ 」
足元から 小さな声が呼びかけた。
「 ? ・・・ ジョー ・・・ 起きておったのか 」
「 はい。 ― ありがとうございます。 」
「 ・・ ジョー ・・・ 」
娘を抱いたまま ジョーは立ち上がった。
「 おお ・・・ すぴかは起きないかい 」
「 大丈夫です よ〜〜く寝てますから。 なあ すぴか?
ちょっとお手々を貸してくれよな〜 」
ジョーは く〜く〜眠っている娘の小さな手をそうっと持ち上げた。
「 おじいちゃまに ありがとうございます しような〜 」
小さな小さな手が 博士の老いた手に触れた。
「 おお おお ・・・ なんと温かい ・・・ すぴか お前の手は ・・・ 」
「 ね? 赤ん坊ってほっんとあったかいですよねえ〜
ツクリモノのぼく達から こんなに熱い命が生まれてきたって思うと
ぼく ・・・ もう感動なんです。 」
「 ジョー ・・・ ! 」
「 博士。 ありがとうございます。 」
「 ワシは ・・・ ワシは 」
「 こいつとこいつの弟の おじいちゃま としてお願いします 」
「 おお おお 勿論だとも。 ・・・ すぴか ・・・!
生まれてきてくれて ・・・ ありがとうな ・・・ 」
「 命って不思議ですね。 」
「 うむ ・・・ どこからやってきたのだろうなあ
ワシはやはり神の御手によるものだと思うのだよ ・・・ 」
「 ええ ええ そうですね。 さあ もう休みましょう 」
「 うむ ・・・ 」
ジョーは博士とすぴかを ― 老親と娘を護るがごとく歩いていった。
今。 彼らはやっと 家族 になったのだ。
「 きゃ〜〜〜〜い♪ きゃいきゃい〜〜〜〜〜
」
「 すぴかっ! すと〜〜〜っぷ! そこで止まってぇ〜〜〜〜 」
「 おか〜しゃ〜〜ん アタシ へいき〜〜〜 いくよぉ〜〜〜 」
「 まって 待って まってぇ〜〜〜 」
「 きゃ〜〜〜い♪ 」
甲高い声と一緒に ちっちゃな亜麻色の髪のアタマが猛烈な勢いで駆けだした。
フランソワ―ズは必死で追いかけるのだが ― ちっちゃなあんよは信じられないほど
たかたか たかたか 速く動くのだ!
「 すぴか〜〜〜〜 ご門を出たらだめ〜〜〜〜 も〜〜〜 あのコには
加速装置が付いてるんだわ〜〜〜 」
「 きゃ〜〜〜〜〜〜い ♪ 」
「 も〜〜〜〜 あ すばる、ほら一緒に走って! 」
「 おか〜しゃん ・・・だっこ〜〜〜 」
明るい茶色の瞳が に〜〜〜っこりフランソワーズを見上げている。
「 え だっこ??? 走るのっ ! 」
「 僕ぅ まってる 」
「 だめ 走るのっ いくわよっ ! 」
「 ・・・ わ?! 」
ちっちゃな茶髪アタマの手をひくと 彼女は駆けだした。
「 あ。 」
「 ! どうしたの すばる? 」
「 ・・・ おくつがぬげちゃったぁ〜 ・・・ えっとお〜 こっちは
どっちのおくつかなあ〜 」
「 ! ・・・ もう〜〜 」
しゃがみこんで脱げた靴をいじっている息子を靴と一緒くたに母はえいやっと
抱えあげた。
「 すばる! お靴はあとではこ! 行くわよっ 」
「 わお? 」
だ〜〜〜〜〜〜〜 !!!! 003 は 戦場でよりも速く駆けだした。
「 も〜〜〜 毎日が戦争よぉ〜〜〜 」
チビ達がよちよち歩き始めた頃から 母はもう髪振り乱し ― 戦闘状態ニ入レリ
となった ・・・ それも四六時中。
「 ・・・ ただいま ・・・ あれ? 」
ジョーが遅くに帰宅すると ― 彼の愛妻はエプロン姿のままキッチン・テーブルで
突っ伏し眠り込んでいることもしばしばだった。
「 フラン・・・ 疲れてるんだよなあ・・・ 寝てていいよ 」
ジョーは 腕まくりをするとシンクに残る洗いモノを片したりした。
「 ごめんね・・・ チビ達の世話、きみにばかりやってもらって・・・
日曜はぼくが引き受けるからさ ・・・ 」
彼は 愛妻の寝顔に こそ・・・っと口づけをするのだった。
Last updated : 07,11,2017.
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************ 途中ですが
お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズ・・・
手 って とてもいろいろなことを語っていると
思うのです・・・ 言葉以上に ね☆