『 ふれ〜〜 ふれ〜〜 ― (2) ― 』
ことん。
骨だけの模型が机の上におかれた。
博士は すばるにもよく見えるように前に押し出した。
「 これが 足首の模型だよ 」
「 ・・・ すっげ ・・・ 」
すばるの茶色の目はまん丸だ。
「 よく見てごらん。 これが骨。 その周りに血管や腱、靭帯などがある。」
「 ふうん ・・・・ じんたい ってなに おじいちゃま 」
「 靭帯は そうさなあ 骨と骨を繋いでいる強力なゴムヒモみたいなものさ。
すばるは チキンの腿肉を食べたことがあるだろう? 」
「 チキン? うん だいすき! 」
「 あれを食べている時に 足の部分に こう・・・びろ〜んと
伸びるヒモみたいなものがあっただろう? おぼえているかい 」
「 ・・・ あ うん! ある! 」
「 あれが靭帯さ。 ニンゲンの脚にもああいうのがある。 」
「 びろ〜〜ん って? 」
「 いや 身体の中では ぴん・・・っと張っているさ。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 それで だな。 捻挫 とは こう〜〜 少し骨がズレてしまう状態だ。 」
「 すぴかのあしくびも? 」
「 そうだ。 骨がズレれば周りにある腱も伸びたりする。 」
「 ・・・ 痛い? 」
「 痛いな、神経も通っているからな 」
「 ・・・ すぴか ・・・ 」
「 山田医院の先生は すぐに骨を元に戻してくれたから ・・・
あとは 周りの組織の回復だけじゃ。 」
「 かいふく? 」
「 うむ。 お母さんがすぐに冷やしてくれたから 普通より回復は
速いだろう。 」
「 ふうん・・・ おくすりでよくなるの? 」
「 それもあるが・・・ニンゲンとは素晴らしいモノでな・・・
怪我をしても 自然に治ってしまう。 すばるも転んだ時
しばらくすると 治っているだろう? 」
「 うん。 」
「 すぴかの足首も 今 一生懸命に自然治癒しているのだよ。 」
「 ふうん ・・・ すご〜〜い・・・ 」
すばるは熱心に模型をみている。
「 さわっても いい ? 」
「 おお いいぞ、 この模型はちゃんと動くからね 」
「 わ〜〜〜 すげ〜〜〜 ニンゲンの足ってすっげ〜〜 」
ことん こちん ― 骨の模型はかくかくと動く。
「 ほう? すばるは こういう話に興味があるかい 」
「 うん! すご〜〜くおもしろい〜〜 」
「 よいなあ 頼もしいぞ 」
「 ?? そう? でも おもしろい〜〜〜〜 」
「 そうか そうか もっとよくみていいぞ 」
「 うん! 」
翌日、出張から帰った博士に すばるはさっそく < ねんざ >ってなに??と
質問攻めをしたのだった。
「 ねんざ? ああ すぴかが足首をひねった・・・と
お母さんから報告があったなあ。 すぴかや どうだい
」
博士は お茶を飲みつつ すぴかの歩き方に注視している。
「 すぴか ちょっとこっちへおいで 」
「 おじいちゃま〜〜 お帰りなさい。 あ あのねえ
山田先生がね おじいちゃん先生の方ね、 またしあいしましょう って 」
すぴかは ぱち・・・っと エア・囲碁をやった。
「 おうおう 楽しみじゃなあ。 それで すぴかや、足の具合は
どうかね 」
「 え〜 っと・・・ ぎゅっとつくとね〜 なんかヘンなかんじ 」
「 痛いかね? 」
「 ん〜〜 ・・・ 痛い じゃないけど 痛くない でもない かな〜 」
「 そうか そうか。 しばらく走ってはいけないよ 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 今年の運動会は残念じゃが なに 来年、がんばればよい。 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 えらいな すぴかは。 さすが 父さんと母さんの子じゃ 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
すん。 すぴかは またちょっと滲んできた涙を ふっとばした。
おじいちゃまの大きな手が ぽんぽん・・・と背中をやさしく撫でてくれた。
「 アタシ ・・・ なおったら いっぱいはしる! 」
「 そうじゃな。 」
つんつんつん ― すばるが博士のセーターを引っ張る。
「 ね〜〜 おじいちゃま〜〜 はい、しつもんです。 」
すばるは 側でず〜〜っとうずうずしていたのだ。
「 おう すばる。 なにかな。 」
「 ウン あのね、 ねんざ についてしつもんです。 」
「 ねんざ? おう いいよ。 あ それじゃ 書斎までおいで 」
「 うん♪ すぴか? あれ・・・? 」
「 ああ すぴかは 外に飛び出していったよ 」
「 も〜〜〜 あぶないのに 」
「 ははは 普通に歩くのは 大丈夫さ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 ほい では説明するぞ 」
「 わい〜〜 」
すばるは ちょんちょん跳ねつつ博士に着いていった。
一方 すぴかさん は ―
「 ふれ〜 ふれ〜〜 あっかっぐっみっ!!!
ふれ ふれ あかぐみ ふぁいと〜〜〜〜〜〜 」
裏庭で応援の歌を歌いつつ ケンケンしていた。
「 すぴかさ〜〜ん お洗濯もの 乾すの手伝って〜 」
「 おか〜さん は〜い 」
「 足はどう? 無理をしてはだめ。 今 ガマンすれば
もっとはやく治るわ 」
「 う〜ん ・・・ 」
「 ね シーツを乾すの。 洗濯ロープに掛けるから ぴん・・・・っと
なるようにひろげてくれる?
」
「 うん いいよ ぐい〜〜〜〜ん ・・・ いきま〜〜す〜〜 」
すぴかは 結構上手にシーツを広げていった。
「 ね〜 おか〜さ〜〜ん これでいい〜〜 」
「 ん? あらあ 上手ね〜〜 いい いい ありがと〜〜〜 」
「 えへへ つぎは? 」
「 また シーツ。 いい? 」
「 うん。 ぐい〜〜ん ・・・ ね〜〜 おか〜さん
おと〜さんはぁ? まだねてるのぉ 」
「 え ううん ジョギングに行ったわよ 」
「 へえ?? おと〜さん がんばってるんだ? 」
「 みたいね〜 さ あと三枚 おねがい 」
「 ふぇ〜〜い 」
「 ゆっくりでいいのよ〜 おじいちゃまのお土産 な〜んだ? 」
「 え おみやげ あるの 」
「 あるわよ〜〜 すぴかさんの好きなもの 」
「 あ ! ・・・ おせんべい? 」
「 ぴんぽん♪ オヤツにいただきましょうね 」
「 うわ〜〜い♪ 」
ああ よかった・・・ ちゃんと笑顔が出るようになったわ
フランソワーズは ほっとしていた。
月曜日 ―
「 おか〜〜さん おか〜〜さん〜〜〜〜 アタシねっ !!! 」
島村すぴかさん は ほっぺを真っ赤にして帰ってきた。
ケンケン・・・は 素晴らしく速くなっている。
「 お帰りなさい すぴかさん。 あ〜〜 足はどう? 」
「 いたくないよ〜〜 ねえ 聞いて ! 」
「 はい。 でも まず ランドセル置いて 手 洗ってうがい〜 」
「 あ うん ・・・ ぱぴゅっ 」
けんけん けんけん −−−− だ〜〜〜〜
すぴかは 超・高速ケンケンで 子供部屋まで階段をのぼり
バス・ルームに行き ・・・ リビングに戻ってきた。
「 アタシ! おうえんだん長、 だいり!! 」
「 ほら オヤツ。 え なあに? 」
「 あのね! うんどう会〜〜 おうえんだん長 だいり するのっ 」
「 ?? 五年生でも応援団長になれるの? 六年生・・・って
保護者会で聞いたけど ・・・? 」
「 そ! 応援団長は六年生だよ。
アタシは だいり! ハヤテ団長がね〜〜〜 うふふふ〜〜〜
すぴかに お願いしたいって♪ 」
「 ?? 代理 ・・・ って なにをするの ? 」
「 だ〜〜からあ〜〜 応援団長のだいり。
ハヤテ団長が リレーにでているとき、 アタシがね
ふれ〜〜〜 ふれ〜〜〜〜 あっかっぐっみっ!!!
って やるんだ 」
「 へえ ・・・ あ 足 大丈夫? 」
「 へ〜〜き! あるいても痛くないもん。
ね ね それよかさ〜〜〜 なんか かっこいいおうえんってある? 」
「 え 応援? ・・・ う〜〜ん ・・・・? 」
「 おか〜さん おうえんってやったこと、ないの? 」
「 ないわねえ・・ 運動会 なんてなかったし ・・・
舞台での < 応援 > は 拍手 でしょ? 」
「 そっか〜〜 ・・・ おと〜さんに聞いてみよっ 」
「 ああ それがいいわ。お父さんは 学校で応援団 やったと
思うわよ 」
「 う〜〜ん ?? おじいちゃまは? 知ってるかな 」
「 さあねえ・・・? 日本で過ごした方じゃないし・・・
ふれ〜ふれ〜ってやるよりもお勉強を していた方じゃないかしらね、
おじいちゃまは 」
「 う〜〜ん ・・・ あ ! そだ!!
コズミのおじいちゃま に聞いてみる! 日本のヒト だもんね 」
「 ああ それはいいかもよ。 すぴかさん、足 本当に大丈夫?
まだ 走ってはだめよ 」
「 はあ〜〜い こんばん、おと〜さんに聞いてみよ 」
「 あんまり期待はできないかもよ すぴか 」
「 う ん ・・・ 」
果たして ― すぴかのお父さんの答えは
「 運動会の応援? ・・・ 覚えてないなあ〜〜
中学や高校の体育祭は フケてたことが多いし ・・・
ごめんよ すぴか 」
つまり てんで参考にはならなかったのだ。
「 う〜〜〜 いいもん! コズミのおじいちゃまに 聞く ! 」
「 あ それならね、 このお菓子、お届けしてちょうだい。
どうぞ オヤツにめしあがってください って 」
「 ・・・ おやつにめし? 」
「 めしあがって ください。 」
「 オヤツにめしあがってください 」
「 ぴんぽん☆ では お願いね。 」
お母さんは キレイな紙に包んだ箱をすぴかに渡した。
「 は〜い ・・・ これ けーき? 」
「 マドレーヌよ。 」
「 あ〜〜 おと〜さん や すばる 好きだよねえ 」
「 すぴかさんは 」
「 アタシ おせんべいがいいの。 いってきま〜〜す 」
「 あ お母さんが自転車で送るわ 」
「 え〜〜 へいきだよ〜〜 」
「 だめよ 今 無理しちゃ。 はい 出発しますよ。 」
すぴかは マフラーを巻き お使いの箱をしっかりもつと
お母さんの自転車の後ろに のっかった。
そして ― コズミ博士の研究所 兼 自宅 へ !
「 それじゃね お話が終わったら メールしてね 」
「 わか〜った〜〜 デス 」
「 じゃね すぴか 」
お母さんは コズミ邸の前ですぴかを自転車から下ろすと
ぴゅ〜〜〜・・・っと 行ってしまった。
自分のコトは ちゃんと自分でやりなさい ってことらしい。
これは 島村さんち の基本なのだ。
「 ・・・ えっへん・・・。 こんにちは〜〜〜 すぴか で〜す〜 」
すぴかは ちゃいむ ( コズミ先生は 呼び鈴 と言う ) を押した。
お母さんが 電話をしてくれたので コズミ老先生は にこにこ・・・
待っていてくれた。
「 こんにちは! あの これ どうぞ! おか〜さんのまどれ〜ぬ デス!」
すぴかは 大事に抱えてきた箱をずい・・・っと出した。
「 お〜 こりゃ 美味しそうじゃな〜
すぴかちゃんのお母さんのお菓子は 最高じゃよ〜
」
コズミ先生は どうやら甘党らしい。
「 えへへ ・・・ あ!
おやつにめしあがってください なの!」
「
ふぉ ふぉ ご丁寧にありがとうございます と
お母さんにお伝えください
」
「 ・・
ごていね〜に〜 」
すぴかは 口の中で ごにょごにょ繰り返して 暗記していた。
「 それで ― なにか相談があるのじゃて? なにかな すぴかさん 」
「 うん! あ はい。 あのね〜〜 」
「 ほい? 」
「 コズミのおじいちゃま〜〜 なんかさ こう・・・ めっちゃつよくなれる
おうえんって ある? 」
「 応援? おお 運動会かね 」
「 そうなんだけど ・・・ ウチ おか〜さん は チンプンだし〜
おと〜さんは フケてたからなあ〜 って参考にならないし〜 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ・・・ らしいのう・・・ 」
「 コズミのおじいちゃまならなんかいいアイデイアあるかなって・・・ 」
「 お〜 それなら よしよし ワシのハカマを貸してしんぜよう。
娘のキモノ、 いや ワシの白いのがある、 あれと そうそう
赤組か? それなら 赤い襷と鉢巻じゃ。 」
「 うっわ〜〜〜すっげ! ・・・ たすき ってなに? 」
「 百聞は一見に如かず、じゃ。 いまもってくるよ。
ちょいとお待ちなさい。 」
「 はあい 」
ほんのちょっとの後、 コズミ先生はなにやら平たい包みを両手でもってきた。
「 あったぞ〜〜 袴に着物、そして 襷 じゃ。 」
「 わ・・・ あ お正月とかにきるの・・? 」
「 そうじゃよ あれは他所行き用のおべべじゃがな〜〜
う〜む 問題は着付けじゃが … おお そうじゃ
そうじゃ
ほい すぴかちゃんや。コタツに足つっこんで ちょいと待っておいで 」
「 ?? 」
コズミ博士
は すぴかに
お煎餅 と うーろんちゃ を出してくれてから
部屋の隅にある固定電話
を取り上げた。
「 ・・・ モシモシ
コズミですが いま お手空きさんですか
」
おてすき さん
ってだれかな〜 と思いつつ すぴかは おせんべいを かじっていた。
素敵に固くて 海苔がついていて、とて〜〜も美味しいお煎餅だった。
「
ま〜ま〜 こんにちは
」
おてすきさん は
すぐにやってきた。
ぴん とした背筋の にこにこ〜した おばあちゃま だ。
「
こんにちは しまむらすぴかです
」
すぴかは
ちゃんとおじぎをし ご挨拶をした。
「
ま〜 えらいこと
はい 私は 小林といいます。 」
おてすきさん じゃないのか〜 あ 小林おてすきさん
かなあ
そのおばあちゃまの白髪だけど銀色にみえる髪は とても綺麗だった。
「 ふふ・・・ ウチにね 昔娘が穿いた子供用の袴がありましてね
これなんだけど いかがかしら
」
海老茶いろの 布がでてきた。
「
お〜 いいですなあ〜 うむ。 すぴかちゃんにぴったりですな 」
「 でしょ? さあ ちょっとこっちにいらっしゃいな 」
「 ? なに・・・? 」
「 おきもの、着せてあげますよ〜〜 こっちにいらっしゃい。 」
「 はあい 」
お座敷のお隣の部屋で おばあちゃまは あっという間に着付けしてくれた。
「 うわ
うわ! これ なに おばあちゃま この ばふばふ〜〜 」
「 これが 袴ですよ〜 はい
もう少しね
こっちの足を ・・・
あら 足 どうしたの 包帯が巻いてあるけど 」
「 ねんざ。 だから あたし・・・ うんどう会 … け けんがく・・・ 」
「 まあ そうなの 応援で参加ね 」
ちょいと涙声になったすぴかを 老婦人は明るい声ではげましてくれた。
「 あ うん! 」
「 じゃあ 応援 がんばらなくちゃね。 さ これ・・・ 履きましょうね 」
「 ?? これ なあに 」
「 これはね 足袋といって・・・ 昔の日本のソックスですよ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 ここに座って そう・・・ 足 だしてね 」
「 はい。 」
おばあちゃまは とても上手にさささ〜〜と 足袋を履かせてくれた。
「 これなら 足首をきっちり固定するから 安心よ。 」
「 きゅっとしてて・・・いい気持ち。 うわ〜
おもしろ〜い 」
とんとん ・・・ すぴかは足踏みをしてみた。
「 さあ 如何ですか 」
からり、と襖をあけて お待ちかねのコズミ先生にご披露してくれた。
「 おお おお〜〜〜 なんと凛々しい〜〜 」
「 うふふ 私もね 孫の応援に運動会に行きますから
学校で当日 着付けしてあげますよ 」
「 お! そりゃありがたいですな〜 お手数ですが ・・・ 」
「 いえいえ 喜んで。 しまむら すぴかちゃん よく似合うわ。
・・・ あら 島村さんって もしかして ・・ 」
「 そうですじゃ いつぞや ウチの娘の振袖を着付けて頂いた女性の
娘さんじゃ 」
「 ええ ええ 覚えていますとも。 金髪のキレイなお嬢さんでしたね
まあ〜〜 まあ すぴかちゃん お母さん そっくりねえ 」
どうぞ・・・って 小林・おてすきさんは コドモ用の袴を貸してくださった。
「 これね もう誰も着ないから ・・・ 遠慮なく使ってね 」
「 わあ ・・・ すご〜〜い あ ありがと〜ございます 」
「 あらあら 礼儀ただしいのね。
ああ そうなの あの綺麗なお嬢さんが 結婚なさってあなたのお母様なのね〜
まあまあ 可愛いこと 可愛いこと・・・ 」
おばあちゃまは すぴかのアタマを優しく撫でてくださった。
「 えへへへ … ありがと〜〜です〜〜 」
すぴかは なんだかと〜っても ぽかぽか … 嬉しい気分だった。
「 さあ 乗った乗った すぴかちゃん! 」
帰りは
コズミ先生が 自転車で!
送ってくださる! とおっしゃるのだけど。
玄関の前で コズミ先生は自転車に跨り すぴかを促した。
すぴかは ず〜〜っともじもじしている。
そんなことは 普段のすぴかにはありえない! 態度なのだが・・・
拝借したお着物と袴は きっちり包んで前籠に入っている。
「 あ〜〜
あの さ
コズミのおじいちゃま ・・・
ウチの前
坂道だよ〜 すっげ〜坂道だよ? しってる? 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ〜
ちゃーんと知っとるよ。
なに、このすーぱー電動自転車 なら 朝飯前さ!
いくぞ すぴかちゃん ほら 乗った 乗ったぁ〜〜 」
「 は は〜い
」
すぴかはあわてて後ろに跨ると ぎゅ〜〜〜っとコズミのおじいちゃまの
ジャンパーを掴んだ。
「 しゅっぱ〜〜つ !!! 」
ガタン ジャリ。 コズミ先生は力強くペダルを踏んだ途端 ―
う ・・・? わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
びゅう〜〜〜〜〜〜 ちょっと見、ふつ〜の自転車はいきなり疾走し始めた。
・・・ すっげ〜〜 う わ うわ〜〜〜
ひぇ〜〜〜 もすこし ゆっくりのがいいんでない
う わ 〜〜〜 うびゃ〜〜〜〜
コズミ先生は チャリンコ暴走族 で さすがのすぴかも
しっかりしがみつき固まっていた …。
キキィ〜〜〜っ !!! 自転車はきっちり門の前に止まった。
「 ほい 着いたぞ すぴかちゃん。 」
「 ・・・ ほへ? 」
「 さあ〜〜まず ワシが先に降りるからな。 ちょいと待ってておくれ 」
「 ・・・ へい 」
「 お? 面白い返事をするのう〜〜 よっこら せ・・・。
そして これこれ・・・ 拝借した着物と袴の包 じゃな。
これをしっかり持って ― おや 」
すぴかは まだ後ろの座席で固まっている。
「 降りてよいよ、 ほいっ 」
「 ・・・ あ あ〜〜 うん。 ひとりでおりれる・・・ 」
― ぽん。 すぴかは身軽の飛び降りた。
「 おお おお 元気じゃな ほい この包みを持って
お母さんにわたすのじゃよ 」
「 ウン ・・・ あ はい。 ね〜 あのおばあちゃまは
コズミせんせいの おともだち? 」
「 お? ああ そうじゃよ、長年のお隣さんじゃ。 」
「 おとなりさん?? お隣は公園かとおもった 〜
」
「 広い庭があるからの お茶室もあってなあ〜 風流じゃよ。
ああ あの小林さんは 茶道のお師匠さんじゃ
」
「 ?? さどう ?? 」
「 ま〜 簡単にいえば お茶のセンセイさ 」
「 おちゃ・・・ 」
「 ほい それじゃ またな、すぴかちゃん。
お父さん お母さん そして ギルモアクンによろしくな 」
「 は はい 」
「 じゃ な〜〜 」
ガタン。 ぴゅう〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・ !!!
コズミ博士は 白髪をなびかせ、例の急坂を自転車で疾走していった。
「 ・・・ すっげ ・・・ 」
すぴかは 心底感心して見送っていた。
「 たっだいま〜〜〜〜 」
ずり落ちそうな包みを 持ち直すと すぴかは玄関の前で声を張り上げた。
「 それでね〜〜〜〜 あのね〜〜〜 」
すぴかは お煎餅を齧るのもわすれ < ほうこく > に夢中だ。
フランソワーズは にこにこ・・・ お茶を淹れつつ聞いている。
ふふふ ・・・ いつものすぴか に戻ったわね
ああ よかった ・・・
なかなか電話がかかってこなくて 心配していたら ―
「 ただいまっ おか〜さん!! 」
すぴかは ほっぺを真っ赤にして玄関に飛び込んできた。
大きな包みを抱えて ・・・・
「 ふうん ・・・おちゃのせんせい なの? その・・・ おてすきさん? 」
「 うん そうなんだって。 おちゃ って なに? 」
「 ・・・ さあ ・・・ このお茶かしら 」
お母さんは 飲み差しの湯呑み茶碗を指した。
「 う〜〜ん?? なんかね〜〜 ぴっとしたおばあちゃまだった〜
あ! おか〜さんのこと 知ってたよ 」
「 え え??? お母さんのこと? 」
「 うん。 あのきれいなおじょうさん がね〜 っていってた。
おきもの きたの、お母さん 」
「 ・・・ 着物? ・・・ う〜〜ん?
あなた達の七五三の時は 自分で着たのよ、振袖とかじゃないから 」
「 あ〜〜 おぼえてる〜〜 すばるがさ おきもの きたとき でしょ? 」
「 そ〜そ〜 すばるったらご機嫌ちゃんだったわね〜〜
すぴかは お父さんとお揃いのスーツで、かっこよかったわあ 」
「 えっへっへ〜〜 」
「 着物、着たのは ・・・? う〜ん ・・・
あ! あの時の ! 」
「 なに。 お母さん 思い出した ? 」
「 ええ ええ 思い出したわ〜〜 まだあなた達が生まれる前よ、
そう お父さんと結婚する前! 」
「 ひょえ〜〜〜〜 」
「 そうなのね あの時のおばあさまが ねえ ・・・
で なんの先生 ですって? 」
「 お ちゃ 」
「 ふうん ・・・ お茶の淹れ方、 教えるのかしら 」
「 ?? 」
「 あとで検索してみるわ。 それで ・・・ すぴかさんは そのう〜〜
おきもの と はかま? 拝借してきたのね
」
「 うん! たすき と はちまき も〜〜〜 」
「 見ても いい 」
「 うん ! これ〜〜 」
「 わあ ・・・ すごいわ・・・
でも すぴか、これどうやって着るの? お母さん わからないわ 」
「 ふっふっふ〜〜〜 ダイジョブだよ〜〜ん 」
「 すぴか 教わってきたの? わあ ・・・素敵な色ねえ 」
お母さんは袴をひろげ しげしげと眺めている。
「 あのね〜〜 おてすき・おばあちゃま もね〜〜
うんどう会、 応援にゆくんだって。 だから きせてあげますよ〜 って 」
「 まあ ・・・ どうしましょう ・・・ コズミ先生にお電話してお礼に
伺わなくちゃ・・・ 」
「 コズミのおじいちゃまのね〜 おとなりさん なんだって。
そんでもって 孫もアタシ達とおなじ小学校なんっだって
」
「 まあ そうなの? ね すぴか 着てみて どんな気分だった? 」
「 え・・・ う〜〜ん なんか やるぞ! ってきぶん〜 」
「 そうなの ・・・ ステキねえ
」
「 ただいま〜〜〜 」
玄関から のんびりした声が聞こえてきた。
「 あ すばるだ! すばる〜〜〜 」
けんけん とん けんけん とん ・・・ すぴかは玄関に飛んでいった。
「 あの時の写真 ・・・ ジョーが必死で持ちだしてくれたんだったわ
どこかにしまってあるはず・・・ なんだけどなあ ・・・どこだったかしら
あ すばるのオヤツ ね。 」
フランソワーズは ミルク・テイ ( お砂糖三個! ) を用意しに
キッチンに入っていった。
「 おか〜さん〜〜 ただいまあ〜〜〜 」
「 それでね〜〜〜 ねえ すばる、聞いて! コズミのおじいちゃまってばさ〜
あれ? すばる、顔 あかいよ? 」
「 ・・・なんもしてない〜〜 もん。 」
「 オヤツあるよ、 おか〜さんの まどれーぬ 」
「 わい〜〜〜♪ いて・・・ 」
すばるは 片足を宙に浮かせている。
「 あれ 足 どしたの。 アタシのマネ〜〜?? 」
「 ちがうよっ 新しいスニーカー でさ 」
「 あ そか! 昨日、 新しいの、買ってもらったんだよね 」
「 ウン。 ちょっと < しうんてん > してきたんだけど 」
「 しうんてん?? 」
「 すばる〜〜〜 オヤツよ〜 手を洗って・・・ あら 足? 」
「 新しいスニーカーで くつズレだって 」
「 あらまあ 」
前の日 珍しくも
すばる から おねだり して 新しいスニーカーを 買ってもらっていた。
黒いボディにかっこいいロゴ・マークが入っている。
「 新しい靴だとねえ ・・・ 消毒してバンド・エイド貼っておけば 」
「 しょ しょうどく ・・って しみる? 」
「 あ〜 そんなの なめとけばすぐ治るよ 」
「 ・・・ なめる? 」
「 ウン、 アタシはいつもそうやってるもん。 こうやってさ〜〜 」
すぴかは すとん、と座り込むと挫いてない方の足を
口元までひょいと持ち上げてカカトを舐めてみせた。
「 ・・・ すぴか すご ・・・ 」
「 え〜〜 できないのぉ?? お母さん できるよね 」
「 ・・・ お母さんは 大人だからもうできません。
すばるは ちょっと無理でしょ、 まず お水で洗っていらっしゃい 」
「 しみるかなあ ・・・ 」
「 早く治さないと〜 運動会で新しいスニーカー 履けなくなっちゃうわよ 」
「 やだ。 洗ってくる 」
とたとた ・・・ すばるはバス・ルームに駆けていった。
「 すぴかさん。 」
「 なに お母さん 」
「 すぴかさんは 怪我したとき、いっつも舐めてるの? 」
「 え だいたいね〜 すぐ治るから 」
「 ・・・ これからはなるべくお薬つけましょうね 」
「 え〜〜〜 なんで〜〜〜 」
「 舐めても治らない時もあるし ・・・ ね? 」
「 う〜ん 」
「 さあさ オヤツにしましょ。 キモノのハナシももっと教えてちょうだい。 」
「 はあい 」
ごそごそ がたん。
その夜、 フランソワーズはジョーの帰りを待つ間に 納戸の大捜索をしていた。
「 え〜〜と ・・・ 確か ここにしまったはずなんだけど ・・・
あ ! これ これよ! うわ ホコリだらけ ・・・ 」
変色した袋の中には 厚紙で表装された写真が入っている。
そう・・・っと開けば ―
「 わあ ・・・ ジョーったら 」
歳をとらないはずのサイボーグなのだが 写真の二人は確かに今よりも若い。
初々しい青年と 輝ける少女なのだ。
「 ・・・ やっぱり 歳、取ったわあ〜〜 わたし。
二人の子持ちのオバチャンだもの。
子育てって ねえ ・・・ 老けて当然よねぇ・・・
あらあ〜 ジョーも若いわあ 」
緊張しまくり 怒ったみたいな表情のジョー そして 襟の高い艶やかな
大振袖にも負けない微笑のフランソワーズ。
「 いい思い出 ってことね。 ・・・ この写真は ・・・ ここに・・・
置いてゆきたい な ・・・ お父さんとお母さんの青春よ って 」
鼻の奥が ツン・・・となり あわてて彼女は写真をしまった。
「 そんなの。 まだまだ ず〜〜っと先のことよ。 ず〜っと ね
その日 まで ・・・ まだまだ眠っていて ね 」
フランソワーズは 包みをそっと元通りしまいこんだ。
「 ふう ・・・ あ! そうよ、 あのおばあさまに御礼!
えっと おちゃのせんせい って すぴかは言ってたけど ・・・ 」
ホコリだらけの手を洗ってから フランソワーズは居間のPCに向かった。
「 おちゃ ・・・ って言ってたわね、先生 だって 」
カチカチ ・・・ しばらく検索をしていたが。
< おちゃのせんせい > とは 茶道の先生だ ということを発見した。
「 さ ど う ・・・・ ねえ ・・・
ふうん ・・・ ムズカシイのねえ わたし、日本式の座り方はできないし
どうやってお礼したらいいのかしら・・・ あ お菓子を使うのね・・・
そうだわ お礼に 和菓子 をつくりましょう! 」
翌日 ―
フランソワーズは 丸々とした地元産のサツマイモを買ってきた。
「 うふふ これで ね〜〜 ・・・
これはね わたなべ君のお母さんに教わったのよ。
えっと ・・・ そう! 茶巾絞り ! そういう名前だったわ 」
蒸したり 裏ごししたり 混ぜ込んだり ラップで絞り
最後は頂点に ほんのり紅をちらし ・・・ 可愛い茶巾絞り が出来上がった。
「 ふう ・・・ これで どうかしら ・・・
喜んでいただけるかなあ ・・・ お口に合うかしら ・・・ 」
心配しつつ そうっとお重に詰めると 彼女はまずはコズミ邸に向かった。
ほんの少し、時間は遡る。
― カタン。
まだ辺りは明け初めてはいない。
薄暗い中 ジョーは静かに玄関に出てきた。
「 ふんふ〜〜ん♪ だが われわれは〜〜〜 ♪ っとぉ 」
ハナウタ混じりに スニーカーを履こうと ―
うん? なんだ? 玄関の隅に 布団があるぞ?
Last updated : 11,27,2018.
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************* またまた 途中ですが
え〜〜 途中にでてきる 写真云々〜〜〜 は
ず〜〜っと前の拙作 『 記念写真 』 で どうぞ☆
( ちこっと設定変えちゃったけど )
ジョー君 出番 なくて ごめん〜〜〜〜 <m(__)m>