『 ふれ〜〜 ふれ〜〜 ― (3) ― 』
もぞもぞもぞ 〜〜〜 玄関の隅で 布団が蠢いた。
「 ! だ だれだ? こんなところに 」
ジョーが 咄嗟に 009 に全てを切り替えようとした その時。
ごそ ごそ ・・・ 茶色のアタマが見えた。
「 !? え まさか ・・・ ? 」
「 ・・ ・ あ お おとう さん ・・・ 僕も はしる〜〜
いっしょに 」
「 ・・・ わ!? す すばる?? おい こんなトコでなにやってんだ〜 」
「 おはよ〜〜 ・・・ おと〜さん ・・・ いっしょにいっていい? 」
布団の中から ジョーの長男・すばるが のんびりした笑顔で出現した!
「 いっしょに・・・って すばる、ずっとここにいたのかい? 」
「 おと〜さん なんじかわかんないから
」
「 だって 寒かっただろう? 」
「 平気だよ〜〜 ふり〜す着て お布団の中〜〜 だもん 」
「 ・・・ こいつ ・・ よし。 さあ 一緒に行こう! 」
「 うん! あの ね。 僕 ・・・ あの さ 」
「 うん なんだい? さあ ちょっとウオーミング・アップ しよう。
いきなり走ったら危険だからね 」
「 あ うん ・・・ らじお体操 する? 」
「 そうだね でも し〜〜〜〜 だぞ? まだ皆 寝てる時間だから 」
「 うん♪ 」
二人は こそっと玄関を出て 門の前でだまって ―
でもにこにこ〜〜 ― ラジオ体操をした。
「 〜〜〜っと。 さあ ゆっくり出発だ。
そうだな〜〜 坂を降りたら 海岸をすこしはしるか 」
「 うん。 おと〜さん あのね 」
「 なんだい 」
「 僕 ・・・ がんばるんだ〜 うんどう会! 」
「 ほう? すばる、リレーの選手 ・・・ 」
「 なワケないよ〜う おうえん がんばる〜〜 あ ときょうそうも ちこっと・・・
えへ ・・・ スニーカー お父さんといっしょだし♪ 」
「 ふうん いいココロがけだぞ〜 お〜 そうだな お揃いだもんな
じゃあ 二人でがんばろうな 」
「 うん♪ 」
すばるは 幼稚園時代から徒競走は 万年ぶ〜び〜賞☆
でも最後までちゃんと一生懸命 走るので いつも拍手〜〜をもらっている が。
今年はようやっと < やる気 > が出てきたのか と 父は思った。
そういえば 先日 ―
「 おと〜さん。 スニーカー 買って 」
「 お? どうした 破れたのか 」
「 ウウン。 破れてない。 けど キツイから 」
「 あ〜〜 足 でかくなるんだなあ いいぞ 一緒に買いに行こうぜ 」
「 わあい〜〜 」
二人は駅の向うの大型ショッピング・モールまででかけた。
そして。 迷いに迷った末 すばるが選んだのが
お父さんと お揃いのスニーカー☆
とん とん とん ・・・ すばるは元気に駆け足をしてみせた。
「 どうだ すばる? 足には当たらないかい 」
「 うん へ〜き。 ね これ はいたら はやく走れる? 」
「 そりゃ 練習次第さ。 速く走れる靴 ってのは ないからなあ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 なんでそんなこと 聞くんだい 」
「 だってさ〜 すぴかってばさ はやくはしろう! って思えば
はやくはしれるっ て言うだけでさ 」
「 あはは ・・・ すぴかは走るの、速いからなあ
なあ すばる。 お父さんと一緒にジョギングしようか 」
「 え〜〜 いまから? 」
「 いや お父さん、毎朝 走ってるから。 一緒に海岸 走ろうぜ。
朝はきもちいいよ〜〜
」
「 ・・・ かんがえとく。 これ はいて帰っていい 」
「 おう いいぞ。 ・・・ ああ どんどん 大きくなってゆくんだなあ
今に お父さん 追いこされるかな 」
「 あは〜〜 それ むり〜〜〜 」
「 いや わからないよ ・・ 見たい な 見られる かな ・・・ 」
「 え なに お父さん。 」
「 いや ・・・ あ アイス、 食べてくかい 」
「 ウン!! 僕〜〜 きゃらめる・すとろべり〜・ちょこ がいい〜〜 」
「 うぇ ・・・ まあ いっか さ 行こうな 」
「 わい〜〜〜〜 」
傍目には 年の差のある兄弟にもみえる二人は 手を繋いでご機嫌ちゃん だった。
そして 玄関には すばるのぴっかぴか〜な スニーカー が並んだ。
「 ふふふ 嬉しいわ〜 すばるが 頑張るって言ってくれて 」
「 ははは やっぱオトコノコだよなあ 」
「 ふふ ウチは すぴかの方が 男らしい けど ね 」
「 あは ・・・ 長男はアイツだな 」
夫婦はこっそり笑いあっていた。
そしたら 今朝。
ううう ・・・ ちょっと大人になったなあ・・・ すばる
ぽっちゃり・にこにこ・すばるクン は そろそろ卒業だなあ
ジョーは 胸が じ〜〜〜ん としてきた。
「 あれ カカト どうした 」
「 うん くつずれ。 でも ばんどえいど 張ったからへいきだよ
あ あのね! すぴかってば カカト 舐めれるんだよ 」
「 は? すぴかが オマエのカカトをなめてくれたのかい 」
「 ち が〜う〜〜〜〜 すぴか 自分のカカト 舐めてね〜〜
いつもそうやって けがとか 治すんだって 」
「 ひぇ〜〜〜〜 すっげ〜〜な〜 お母さんだってそんなこと・・・
できるか?? あ ちゃんとヒモ 結べ。
こう ・・・やって こっちを通す 」
「 こう? あ こっちかあ 」
「 そうそう それで きゅ・っと結んで。 どうだ? 」
「 ・・・ うん あ ぶかぶかしな〜〜い 」
「 だろ? きっちきち も ダメだけど ぶかぶかもよくないよ 」
「 そっか 」
「 どうだ ちゃんと履けたかい 」
「 ん〜〜〜 うん お父さん! 」
「 それじゃ ゆっくりスタートしよう。 ウチの前の坂は歩いてくだる 」
「 え〜〜 なんで〜〜 」
「 足慣らし ― 準備運動さ。 さあ 行こう! 」
「 うん! 」
大小 ・ 茶色のアタマは ならんで早朝の空気の中に出ていった。
うう〜〜〜 息子とジョギングかあ〜〜〜
・・・ 夢みたいだ ・・・
ジョーは こそっと目じりに滲んだ涙を タオルで拭った。
コドモ達が生まれた時 彼がおずおずと広げた腕の中に 彼らは
まっすぐにど〜〜ん と飛び込んできた。
ああ かわいい いとしい ・・・!
自然に湧きあがる想いで そうっと抱きしめた父親に チビ達はそれこそ
シャワーみたいに あふれんばかりの愛をなげかけてきた。
チビ達は ジョーが ジョーであるから 思いっ切り愛してくる。
それはもう日々 続き今に至っている。
・・・ ああ そうか ・・・
そうなんだ ・・・!
愛される って。 こういうことなんだ
愛する って。 こういうことなんだ
愛されることにずっと餓えていた少年は 目が開いたのだ。
愛すれば いい。 そうすれば 何倍にもなり愛はもどってくる。
それを 実感したときに 彷徨っていた不安な目をした少年は
しっかりと地に足をつけた男性になった。
「 すっす すっす ・・・ 息 詰めるなよ〜 」
「 う うん ・・・ はっは はっは 」
「 そうそう その調子〜〜 」
すばるは へたばりつつもちゃんと最後まで父親にくっついて来た。
勿論、ジョーは < いつものコース > などではなく すばる向きの
< 入門コース > をのんびり走ったのだけれど。
「 ほら ・・・ すばる、ゆ〜〜っくりゆっくり ・・・
急に止まってはいけない 」
「 ・・・ は〜〜 は〜〜〜 は〜〜〜 ・・・ 」
「 あ〜〜 気持ちよかったね〜〜 」
「 ・・・ は〜 は〜 」
「 疲れたかい? 」
「 ふう・・・ ううん へいき。 」
「 すばる は 運動会でなにをするのかい 」
「 僕? 僕はわたなべクンと応援団だよ〜〜 大だいこ ! 」
「 ふうん 太鼓で応援かあ 」
「 そ! すっげ でっかい音 でるんだよぉ〜 」
「 あ〜〜 競技はなににでるのかい 」
「 すぴかとおなじ! 組 ちがうけど 僕もすぴかも赤組〜 」
「 お そうなんだ? じゃあ 一緒に応援だな 」
「 うん♪ どん ど〜〜〜〜んって 」
すばるは に〜〜〜んまり 笑った。
「 それじゃ さ〜〜〜っとシャワー浴びよう。
さっぱりしてから 朝ご飯だ。 」
「 うん! ? あ〜〜 僕のおなか ぐう〜〜〜 だって! 」
「 あはは そりゃよかった〜〜 お母さんの美味しい朝ご飯
いっぱい食べような 」
「 うん♪ 」
・・・ すばるの早朝ジョギングは 次の日も 次の日も 続いた。
どうせ一日だけだろう・・とジョーは思っていたのだけれど・・・
すばるは 毎朝 ちゃんと < お父さんのはしる時間 > に
とてとて・・・ 子供部屋から降りてきたのである。
ふうん・・・? ついに今年こそ ブービー賞返上 か?
ま すぴかほどじゃないけど 地道にちゃんと走ってるなあ
ジョーは 少しづつ逞しくなってきた我が息子に やたら感動していた。
さて 一方 フランソワーズの < 和菓子つくり > は ・・・
コトコトコト ・・・ ふわ〜〜〜ん
いい匂い蒸気がキッチンいっぱいに立ち籠めた。
フランソワーズは 蒸し器の蓋をちょいとずらして覗きこんだ。
「 ふ〜ん ・・・ いい具合ね〜〜 」
サツマイモは 牡丹色に艶々蒸しあがってきた。
「 おか〜〜さん いいにおい〜〜〜 なにい 」
ひょこん、と茶色のアタマがキッチンに現れた。
「 すばる。 あのね お芋を蒸かしているの。 」
「 おいも? わ〜〜〜 大好き〜〜〜 ふかす って なに? 」
「 あのね あつ〜い湯気でゆでるの。 柔らかくて甘くなるの 」
「 うっわ♪ ね〜〜〜 今日のおやつ??? 」
「 これでね お菓子をつくるの。 お礼にお届けしようとおもって 」
「 え おかし?? おいもがおかしになるの?? 」
「 そうよ。 茶巾絞り というの。 」
「 ちゃき・・・? ね〜〜〜〜 僕 お手伝いする〜〜 」
「 はい おねがいします。 」
「 わあ〜〜〜 なになに〜〜〜 ふう〜〜〜ん おいも? 」
すぴかの金色アタマもすぐにやってきた。
「 そう サツマイモよ 」
「 いいにおい〜〜〜 なにつくるの、おか〜さん 」
「 あのね。 すぴかに 袴を貸してくださったおばあさまに御礼・・・って
思って。 和菓子をつくってるの。 」
「 すっげ〜〜〜 おか〜さん ! 」
「 ふふふ サツマイモのお菓子よ、 茶巾絞り っていうの 」
「 ふうん ・・・ 」
「 僕〜〜 お手伝いするんだ〜 」
「 あ! アタシも〜〜 」
「 いいわ お願い。 手を洗って〜〜 」
「 今 洗ってるとこ! ね おいも 〜〜〜 」
「 ああ もういいわね〜〜 さあ これ ・・・ 皮むいて 」
「 ひえ あっち っち〜〜〜 」
「 すばる、お箸とかフォークつかって 」
「 あ うん ・・・ あ むけるね〜〜 これ いらない?
」
「 ええ このお菓子には 使わないわ 」
「 じゃ アタシ たべる〜 」
たた・・・っと入ってきたすぴかが 手を出した。
「 ふぁ〜 あちあち〜〜 おいし♪ 」
「 すぴか〜〜
こ〜ら 行儀わる〜いぞ〜〜 」
「 ・・・ 僕もたべていい? 」
「 ちょっとだけなら 」
「 んん〜〜〜 おいし〜〜〜〜♪ 」
「 さあさ おいもさんが熱いうちにやらないといけないのよ
すぴか おいも をこれでつぶして 」
「 ぐっちゃ〜〜していいの? 」
「 ええ いそいでね 」
「 おっし! いくぞ〜〜 」
すぴかは擂粉木で がしがし潰し始めた。
「 僕は 」
「 すばるはね すぴかが潰したのを このフルイの上で裏ごしして 」
「 うらごし ? 」
「 そうよ、 こうやってヘラでね 」
「 うん ・・・ まっしゅぽてと と似てるね 」
「 そうね 」
「 よ・・・っと 」
チビたち二人は 真剣な顔でお手伝いをし始めた。
お料理少年のすばるは なかなか手際よく裏ごしをクリアした。
「 あら〜〜 二人とも上手ねえ〜〜 ありがとう 」
「「 えへへ・・・・ 」」
「 これに お砂糖 と バター と あ こっちはお醤油ちょっと・・・
で 混ぜます〜〜〜 」
「「 うん うん 」」
「 が〜〜〜〜〜〜 っと こねこねこね〜〜〜〜〜 ・・・ どう? 」
お母さんは 小さくもない二つの口に 味見用を放り込んだ。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 おいし〜〜〜 」
「 ・・・ これ すき!!! 」
「 そう? それでね これを・・・ 」
「 うん うん 」」
仕上げの作業が続いた。
「 ― さあ これで よし・・・っと。
うふふ〜〜〜 初めてにしちゃ カワイイかも〜〜〜 」
「 う わ ・・・・ 」
「 わ〜〜〜 」
キッチンに歓声があがる。
お皿いっぱいに並べた 茶巾絞り を 皆でにこにこ眺めた。
「 おか〜さん すっご〜〜い〜〜〜 かわい〜〜〜 」
「 おいしそう〜〜 ね〜〜 僕 たべたい〜〜〜 」
コドモたちは も〜〜 きゃわきゃわ〜〜大騒ぎだ。
「 これは 御礼に差し上げるためにつくりました。
すぴかにお着物を貸してくださった お茶の先生にお持ちします。
でも 余った分は今日のオヤツよ 」
「「 わあ〜〜〜い 」」
「 でも お芋のお菓子だし ・・・ 本当の和菓子じゃないから ・・・
受け取っていただけるかしら・・・。 」
PCで検索した < 茶道 > は なんだかものすごく格式が高く。
みつけた和菓子も 芸術品に近いものばかりだった。
「 いいわ オヤツにみなさんで ・・って。
え〜〜と ・・・ そうそう 御重箱につめてゆけばいいわね。
コズミ先生とこ と お茶の < おてすきせんせい > の御宅っと 」
お正月用のお重を取りだし 茶巾絞り を 丁寧に詰めた。
「 あら〜〜〜 すごく上等に見えるわあ〜〜 ふふふ・・・
えっと これを風呂敷につつんで 」
30分後 フランソワーズは < 暮れのご挨拶〜〜〜 > なんてCMに
出てきそうな雰囲気で ( ちょっと緊張しつつ ) コズミ邸に向かった。
すぴかとすばるも なんだか神妙な顔でくっついてきた。
「 おいし〜って いってもらえる よね 」
「 おいし〜もん! 」
「 だよね〜〜 」
「 二人とも ・・・ お行儀よくしてね 」
「「 はあい 」」
三人は まずは コズミ先生の御宅へと向かった。
「 おおお これはすばらしい 〜〜 」
甘味好きのコズミ博士は 大絶賛〜〜〜 だった。
「 え 御礼? いやあ〜〜〜 お母さん そんな ・・・・
先日のマドレーヌも大層けっこうでしたよ。 いやあ〜〜 これは 」
コズミ先生の目はもう 一 の字だ。
「 あの ・・・ 小林様にも御礼申し上げたいのですが ・・・
受け取って頂けますかしら 」
「 おお〜〜 勿論ですよ。 ああ 今日は御在宅ですからな
行ってらっしゃい。 チビさんたちも 一緒に ね 」
「 まあ よかった ・・・ お邪魔ではないでしょうか? 」
「 なに、稽古中でもお弟子さんたちがおられるから
ちゃんと受け取ってくださるじゃろ 」
「 はい。 じゃあ ・・・ 失礼します。 」
「 おお おお ありがとうございます。
ふふ・・・ 重箱は美味しいモノを詰めて お返ししますでな。 」
「 あら 」
「 あっと ギルモア君によろしくお伝えください。 」
「 はい 」
「「 さよ〜なら 」」
すぴかもすばるも きちんとご挨拶をした。
「 ・・・ あ〜〜 なんか 緊張してきたわ 」
「 ? おか〜さん どしたの 」
「 あ どきどき? 」
「 そうなの〜〜〜 お母さん どきどき よ 」
「 アタシがいるよ っ 」
「 僕もいる〜〜〜 」
「 そうね、 一緒にお願いね 」
「「 うん 」」
いざ お隣の 小林先生の御宅へ ― チビ達も緊張の面持ちでくっついてくる。
「 ごめんくださいませ 」
フランソワーズは 格子戸になっているお玄関をからり、と開けた。
― さて。 いよいよ 秋季大運動会 の日♪
パンパ −−−− ン !!! 盛大に花火が上がる。
この地域では今でも 小学校の運動会は 一大イベントで
皆が 楽しみにしているのだ。
地域のほとんどのヒト達が 卒業生なので 皆 進んでいろいろ手伝ってくれる。
もちろん 子供たちのお父さん・お母さんは 朝から大忙しだ。
「 ジョー〜〜〜 行くわよぉ〜〜 」
「 あ うん 今 ・・・ クーラー・ボックスに氷いれてるから 」
「 クーラーボックス?? この季節に必要? 」
「 子供は冷たいモノが好きさ。 それに運動会で汗た〜〜っぷり流すだろ 」
「 ああ そうね。 お弁当も傷まないわね 」
「 そういうこと。 さあて 我が家の麦茶も満杯〜〜っと 」
「 あ ・・・ なんかドキドキしてきたわ 」
「 え〜〜 なんで?? って 実はぼくも、なんだけど。 」
「 でしょ? すぴか ・・・ 応援団長代理 できるかしら 」
「 すばる・・・ 今年は ブービー賞 脱出できるかなあ
」
「「 う〜〜〜〜 ドキドキがとまらない 」」
天下の! 009 と 003は 本当に青ざめた顔を見合わせるのだった。
さて ― 小学校の校庭には続々 観客たちが集まってきている。
コドモ達のおと〜さん・おか〜さん・おじ〜ちゃん・おば〜ちゃん
地域の町内会のヒト達 給食室のヒト達 主事さん達 などなどなど・・・
ほとんどが顔見知りなので あちこち楽しい談笑の輪が広がる。
そんな中で 荷物を運んでいたフランソワーズは品のいい老婦人に
呼び止められた。
「 島村さん 」
「 はい? あ ・・・ 小林さま 」
「 いやだわ サマ なんて。 先日はもう素晴らしいお菓子を
ありがとうございました。 」
「 あの ・・・ お口に合いましたでしょうか 」
「 もう〜〜 美味しくて可愛くて!
ふふふ お稽古に使ってはもったいなくて ・・・
お客さまのお茶席にお出ししたらねえ 皆さん 大喜びでしたわ。
今日のお茶菓子は どこで?? と 全員から聞かれました。 」
「 まあ ・・・ 」
「 これはね 私の小さなお友達のお母様手作りです、 とお話ししますと
皆さん 感心してらっしゃいました。
本当に ご馳走さまでした。 これ ・・ 御重箱ね 」
小林のおばあさまは 先日の重箱を差し出した。
「 あ ありがとうございます。 ・・・ あら? 」
受け取った重箱は なにかずっしりした手応えだ。
「 ふふふ どうぞ 開けてごらんになって 」
「 ・・・??? ま あ〜〜〜 」
お重の中には 艶々・・・ お赤飯がみっちり・ぎっちり 詰まっていた!
「 今朝 炊いたできたてほやほやなんです。 どうぞみなさんで
召しあがってくださいな。 」
「 まあ〜〜 ありがとうございます。 おいしそう ・・・ ! 」
「 うふふ ウチの孫もね 好物なんです。
冷めてからも もう一回蒸していただければ 美味しく召しあがれますよ。
あ これはコズミ先生からです。 お預かりしてきましたので 」
小林さんは もうひとつ、重箱を差し出した。
「 こちらも開けてくださいな 」
こちらは 軽い。
「 ありがとうございます。 ?? お こ し? 」
中には 四角張った小さな包みたたくさん入って居た。
「 ご存じないかもしれませんね。 これは 雷オコシ といって
東京名物のお菓子なの。 かた〜〜くて ・・・
お嬢さんがお好きでしょう、とコズミ先生がおっしゃっていました。
」
「 まあ まあ 本当にありがとうございます。 」
「 いえいえ さあ 今日は運動会を楽しみましょうね。
ウチの孫は白組なんですって。 ふふふ 負けませんわよ? 」
「 はい 赤組も! 」
二人は 笑い合いお辞儀をした。
「 知り合いかい? 」
保護者応援席にもどると ジョーがあれこれ荷物を開いていた。
「 ええ ・・・ 例の キモノを貸してくださった方。
これ 御礼ですって。 こちらはコズミ先生から 」
「 ? ひょ〜〜〜〜 お赤飯じゃ〜〜〜ん♪
うわ〜〜〜〜 すっげ久しぶりだなあ〜〜〜 」
「 あら ジョー 食べたこと あるの 」
「 うん、施設時代に何回か ・・・ あ これ 冷えてもねえ
また蒸せばオイシイよ 今晩 皆でいただこうよ
こっちは ・・・ あ〜〜〜 オコシだあ 雷オコシだね〜〜 」
「 ジョー 知ってるの このお菓子 」
「 うん トウキョウ名物ってか 浅草名物かなあ
すっげ固いから すぴかが大喜びするぜ きっと。 美味しいしね 」
「 そうなの? 楽しみ〜〜〜
えっとじゃあ お昼のお弁当はここに置くわね
」
どん。 フランソワーズは会心の作を ちょっと自慢気に置いた。
「 おっとぉ〜〜 ・・・で なに? 」
「 うふふ ・・・ 巻き寿司♪ 唐揚げ オムレツ 筑前煮
あと こっちにサラダとフルーツ。 オレンジと梨よ 」
「 うっわ〜〜〜〜〜〜♪ きみの巻き寿司、さいこ〜〜だもんな〜〜〜
あ〜〜〜 昼が待ち遠しい・・・ 」
「 ふっふっふ〜〜 わたしは お弁当でガンバリました♪ 」
「 ごくろ〜さまです 」
ジョーは こそ・・・・っと愛妻のほっぺにキスをした。
ぽんぽ〜〜〜〜ん♪ 花火があがり秋季大運動会 が始まった。
わ〜〜〜〜 わ〜〜〜〜〜 ぱちぱちぱち〜〜〜〜
歓声だの 拍手だの 先生方の笛の音、そして 例の運動会バージョンの音楽が
わんわん〜〜〜聞こえている。
競技は順調に進み ― 午前中最後となった。
赤白双方 得点は拮抗していて 各応援団長は声を張り上げ枯らして応援している。
『 次は 五年生の徒競走です。 午前中最後の競技です。
赤組 白組 さいごまで全力でがんばりましょ〜 』
放送部員が 棒読みをする。
「 お。 すばるが出るヤツだ 」
「 そうよ!! ジョー !! 録画とカメラ! お願い 」
「 はいっ 」
ジョーは機材を手に応援席を飛び出した。
「 あ〜〜 すぴかちゃんとこの〜〜 すぴかちゃん 出れないんだって? 」
八百屋のオジサンが声をかけてきた。
「 八百藤さん・・・ ええ アイツ 足 挫いちゃってね 」
「 残念だな〜〜 すぴかちゃんが出れば ぶっちぎりで赤組 勝のに 」
「 はあ ・・・ 」
ふうん ・・・ すぴかの俊足は有名なんだな〜〜
「 すばるくんのお父さん、こんにちは 」
「 あ だいち君のお父さん〜〜 この前はどうもありがとうございました。
ものすご〜〜〜く楽しかったって すばるが 」
「 あはは 僕もだいちもものすごく楽しかったですよ〜〜
で すぴかちゃん、走れないとか 」
「 そ〜なんですよ、足 挫いちゃってね 」
「 そりゃ残念〜〜 すぴかちゃんが走ったら赤 優勝〜 ですよ〜 」
「 はあ ・・・ あ 徒競走 始まりますよ 」
「 お。 まあ ウチの大地はビリを争う方なんで 」
「 すばるもご同様です あ ・・?? 」
「 お〜 始まりましたな〜〜 どれどれ 」
どどど どどど 〜〜〜〜〜〜 !!!
五年生ともなると 全力疾走するとかなりの迫力だ。
あ 次はすばるの組だな・・・
アイツ ぼくのトレーニングにお邪魔虫して
けっこう 頑張ってたけど〜〜
どうかな〜〜 少しは ・・・・?
「 よ〜〜い どんっ !! 」
わあ〜〜〜 五年生男子が6人スタートした!
「 お? あ あ〜〜〜 すばる ・・・ ウソだろ〜〜〜〜 え?? 」
万年ビリっケツの島村すばるクンは もう必死〜〜〜の形相で頑張り
うっそだろ〜〜〜〜〜 ええ???
彼は 歯を食い縛り なんと 人生初! の三位で ゴールに飛び込んだのである。
・・・ うっそ ・・・・
ジョーは 我が息子のゴールを呆然と ― ビデオもカメラも忘れ ―
見ていたのであった。
「 すばる〜〜〜〜 」
ゴール地点には すぴかが待っていた。
「 すばるってば〜〜〜 すご〜〜〜〜 三番だよっ 」
「 ・・・ はっ はっ は ぁ 〜〜〜 ご ごめん すぴかぁ・・・ 」
すばるはなんだかものすご〜〜〜くしょげていた。
「 へ??? 」
「 ・・・ごめん すぴか …
一等 とれなくて …
すぴかのかわりに 僕 ・・・ 一等とる!って
が ・・・がんばった んだけど は〜〜〜〜 」
「 い い〜よ い〜よ すごいよ〜 すばる〜 すばる〜〜さいこう〜〜〜
すばる〜〜〜〜 かっけ〜〜〜〜〜〜 !!! 」
すぴかは 同じ日に生まれた弟を きゅ・・・っとハグした。
「 ・・・ え へ そ そう・・・? 」
「 うん!!! おと〜さんとおなしくらい かっけ〜〜〜 」
「 え えへへ ・・・
」
すばるは 生まれて初めてもらった 三等のリボン を大事そ〜に撫でた。
「 くすん くすん ・・・ 」
観客席では フランソワーズがタオルに顔を埋め感涙に浸っていた・・・
お昼は〜〜 もう楽しい楽しいお弁当たいむ☆
校庭で み〜んなそれぞれ美味しそうなお弁当を広げている。
お仕事のぱぱ の代わりに おじ〜ちゃん が来てくれたり 仲良しの家族同士、
一緒に輪を作ったり 皆 楽しそうだ。
ジョー達の隣にはわたなべクンの家族が レジャー・シートを敷いている。
「 わたなべクンのお母様 これ ・・・ 先日の御礼なんです。 」
フランソワーズは 袋いっぱいのマドレーヌをお届けした。
「 まあ〜〜〜 すばるクンのお母さん特製のマドレーヌ!!
ありがとうございます〜 ウチ中の大好物なんですのよ ね あなた。」
「 そうなんです〜 うわ〜〜 うれしいなあ。 なあ だいち? 」
「 うん! すばるクンのおか〜さん ありがと〜です♪ 」
「 嬉しいです〜〜 午後も応援 頑張ってね だいち君 」
「 うん♪ 」
大太鼓係のわたなべクンは ニコニコ・・・ 彼はなかなかリズム感がいいのだ。
「 あ〜〜 お腹いっぱい〜〜〜 」
「 僕もぉ〜〜〜 おいし〜〜 かったぁ 」
皆で食べるお弁当 ― これはもうどこのお家も最高にオイシイのさ。
ぱんぱ〜〜〜ん !!! さあ 午後の部が始まった。
「 さ これでいいわ。 がんばってね 島村応援団長 代理さん 」
「 は はい ! 」
小林おばあちゃま は ぽん、とすぴかの背中を叩いてくださった。
すぴかは最後の <高学年のリレー> の前に テントの中でささっと着付けをして
頂いたのだ。
「 この足袋だと 足首まで包むから大丈夫。 飛んだり跳ねたりできますよ 」
「 わあ〜〜 ありがと〜〜ございます。 」
「 はい 応援お願いね 」
「 はい! 」
白っぽいキモノに海老茶の袴を短めに着付け、赤い襷をきゅっと掛けた。
必勝と書いた鉢巻も締めた。
すぴかは 足袋裸足でのっしのっし?と 赤組応援席の前に現れた。
わ? す すげ〜〜〜〜〜
わああ〜〜 すぴかちゃん〜〜
ざわざわ〜〜〜 応援席は騒めいている。
「 お 島村さん。 カッコイイなあ 」
「 ハヤテ団長! 」
「 よ〜〜し。 こっちきて 」
「 ウン 」
応援団長は 応援席中央にすぴかと立った。
「 で〜は! 島村すぴかさんに 赤組の応援をたくします〜〜〜 」
ハヤテ団長は ずっと手にして応援していた白扇を すぴかに差し出した。
「 はい! 島村すぴか たしかにあずかりました 」
きりり と袴をつけ、赤い襷をしたすぴかは しっかりとハヤテ団長の
扇をうけとった。
すぴかは ― 燃えていた。
「 それでは ・・・ あ 赤組の皆〜〜 声をあわせて〜〜 」
ざわざわ ・・・ すぴかの声は騒めきに消えそうだ。
「 皆でっ 声 そろえ て ・・・ 」
ざわざわざわ ・・・ どうも 皆 気が散っているらしい。
ど どうしよう ・・・ もうすぐリレー で
ハヤテ団長 が 走るのに ・・・
「 あ あかぐみ の みんな〜〜〜 いっしょに〜〜 」
どん どん ど〜〜〜〜〜んっ
突如 大太鼓が鳴った。 は ! 皆 ぱっと前を向いた。
どんがらがった どんた どんた〜〜〜♪ どん どこどん
大太鼓がリズミカルに鳴る。
わたなべクンとすばるがほっぺを赤くしてバチを捌いていた。
気が散漫になっていた赤組のコドモたちは 太鼓の音で
ぴ・・・!っと緊張した顔になった。
「 ! ・・・ ありがと! わたなべくん すばる・・・! 」
すぴかは 勇気・元気百倍〜〜 す〜〜っと深呼吸をして ―
ではっ! リレーきょうぎ の 勝利を ねがって〜〜
ふれ〜〜〜っ ふれ〜〜〜〜 あ か ぐ みっ
赤い襷姿も凛々しく 扇をかざし 皆を扇動する。
ふれ ふれ あかぐみ ふれ ふれ あがぐみ〜〜〜〜 はいっ!
ふれ ふれ あかぐみ ふれ ふれ あがぐみ〜〜 わあ〜〜〜〜
今後は 皆が声を揃えることができた。
「 よ よおし。 皆〜〜 われらがおうえん団長 にえ〜る!!!
ふれ ふれ 赤組 ふれ ふれ ハヤテ団長 はいっ ! 」
パ――ン !! 皆 一斉に応援をする中、最後の競技・高学年のリレーが
スタートした。
「 そぉれ〜〜 ふれ ふれ あかぐみ〜〜〜 ふれ ふれ〜〜〜 ハヤテ! 」
すぴかの扇に合わせ 歓声が巻き起こる。
そんな中 ― ハヤテ団長は ぶっちぎりでゴール・テープを切った。
パン パン パ −−−−− ン !!
わあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 !!!! グラウンドは大歓声の渦となった。
「 ・・・ や やったあ〜〜〜 !
皆 〜〜〜 ハヤテ団長はじめ 赤組の皆の健闘をたたえ〜〜〜
はい さん さん なな びょ〜〜〜し ! 」
しゃん しゃん しゃん しゃん しゃん しゃん 〜〜〜
コドモたちも先生も 応援席のお家の人達や地域の人々も
み〜〜〜んなで 拍手をしたのだった。
西の空に傾いてきたお日様が 皆の顔を真っ赤に染め始め ―
秋季大運動会 は 閉会した。
閉会式は いつもあっさりしているけれど ・・・
「 みなさん 赤組も白組も よく がんばりましたっ ・・・・
せ せんせいは うれし・・ みなさん ありがとう 〜〜〜〜 」
校長せんせいは ― 泣いていた ・・・
そして すぴかとすばるのお父さんも ― 泣いていた ・・・ こっそり。
「 さ〜〜あ お家に帰ろうね 」
「 ええ 皆 がんばったわね 」
すぴかとすばるは お父さんとお母さんの間に挟まって手を繋いだ。
「 お赤飯 食べような〜〜 」
「 うふふ 楽しいねえ 」
「 わ〜〜〜い〜〜〜 」
「 えへ ・・・・ 」
お父さん ・ すぴか ・ すばる ・ お母さん
四人の影が ゆ〜らゆら ・・・・ 長く道に揺れている。
ふれ〜〜 ふれ〜〜〜 島村さんち
秋の風が 四人にエールを送ってくれた。
***** おまけ *****
すぴかの勇姿は PTA会長さんがばっちり写真を撮り、学校ニュースに載せた。
< 大和撫子 ここにあり > のコメントが ちこっと物議を
醸しそうになったが ・・・
「 ま この顔みれば 」
「 ええ ええ 皆笑顔になりますよね 」
「 ふふふ 可笑しくて 可愛い〜〜〜〜 」
「 ははは おかしすぎて可愛いすぎて笑いがとまらないね 」
・・・ な感想が圧倒的で 誰もそれ以上問題にはしなかった。
「 ・・・ なんか 日本男児ここにあり みたいだなあ 」
すぴかのお父さんは こっそり呟いていた とか・・・
***************************** Fin.
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Last updated : 12,04,2018.
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************** ひと言 *************
話がどんどん広がってしまった〜〜〜
茶巾絞り、普通はサツマイモを茹でるのですが
蒸した方が甘くなって美味しいよん♪