Cher Joe,
お元気ですか。
寒い日が続いています。 どんよりと灰色の空が重たいの。
日本の冬がとても懐かしいです。 お日様の顔が見えない日には、あのお家の
風景を思い描いています。
今月に、ちいさな公演のマチネですけど、『 パ・ド・カトル 』 でソロをひとつ
踊らせて貰えました。 ( チェリ−トという役です、知ってる? )
ね?わたしも がんばっているでしょう?
ジョ−のお仕事はいかが? この前、どこか島に行くって言ってたけど・・・
あの・・・ 今度そちらに電話をしてもいいですか?
気になることがあって。 ううん、心配しないで。 多分 わたしの気のせい・・
だと思いますから。 でも・・・あの・・・ ジョ−の声が聴きたいの。
あなたの Francosie Fevrier 10.
Cher Joe,
お元気ですか。
やっぱりみんなの声が聴けるって素敵ね!
ジョ−、この前はヘンな時間に電話してごめんなさい! なんだかわたし、
計算マチガイをしてしまったみたい・・・。
でも・・・うれしかったデス。
ジョ−や博士とお話したら、いろいろ気になっていたことがすっきりしました。
そうよね・・・ たとえ予感だとしても。 怖がることは・・・ないわね?
だって・・・ジョ−、わたしには あなたが、みんながいるもの。
博士にお騒がせしましたって伝えてください。
日本はもうすぐ桜の季節ですね。
こちらは・・・まだ寒い日が多いですが、街角の花屋さんには
春の花が並びはじめました。 パリでは桜は見かけないのがちょっとさびしいです。
イ−スタ−の休暇に ちょっと郊外に行ってこようと思っています。
絵葉書があったら 送りますね。
いつもあなたの Francoise Mars. 15.
Cher Joe,
イワンの具合はどうですか? 熱は下がりましたか、ミルクはちゃんといつもと同じ量を
飲んでくれるようになりましたか。
熱があるときは 汗をたくさん掻くからお寝巻きを何回も換えてあげてね。
ミルクの時間じゃなくても、湯冷ましやジュ−スをあげてください。
博士がいらっしゃるし、ただの風邪ですぐに治ると思いますけれど、とっても心配よ。
ええ、勿論ジョ−がちゃんと面倒をみてくれているって わたし信じているわ!
ごめんなさい、わたしったら何もかもジョ−に押し付けて・・・勝手に飛び出してきたのよね。
ジョ−だってお仕事があるのに・・・。
肝心なときに側にいてあげられないなんて・・・<仲間>として失格よね。
なにも出来ないから・・・可愛いタオル地の涎掛けを見つけましたので別便で送ります。
ジョ−! わたし・・・ 本当にこんな時でさえみんなの足を・・・引っ張ってるわ・・・
ごめんなさいとしか言えない自分が 情けないです。
ジョ−、どうぞ博士のお身体も気をつけてあげてください。
イワンの風邪がうつらないように・・・・
とても心配な Francoise Mars. 21.
Cher Joe,
お元気ですか。
イワンが元気になって本当によかった!!
ジョ−、看病やらお家のことやら大変だったでしょう。 ・・・本当にごめんなさい。
ありがとうの言葉を こころからジョ−にささげます。
前にお友達のアンリのこと、話したでしょう。
わたしがあんまり落ち込んでいたので心配してくれて、いろいろ話を聞いてくれました。
( あ、大丈夫。 家族の一人が・・・って言ったから )
彼はね、本当はずっと日本にいて<蒔絵>のショクニン (マスターのことでしょ?)
になりたかったのですって。
でもね、日本に呼ぶつもりだったモニク( アンリのフィアンセよ )のお母様の
具合が悪くなって・・・
彼女が自分を必要としているから、こちらに帰ってきたそうなの。
僕には まだまだ時間がある。 一番大事なコトだから。
アンリは何気なくそう、言ったけれどきっとものすごく悩んだと思うのよ。
アンリだけじゃなくてモニクもね。
ねえ、ジョ−。 わたし、なにかとても大切なコトを見ていないわ。
先ばかり見ていて、ふわふわと上の空・・・
なにかね、イワンがそのことを教えてくれたみたいな気がするの。
いくら未来が見えても、今日のことすらちゃんと出来ていないのかもしれない。
・・・ ようく考えてみます。
ジョ−、疲れていませんか。ジョ−の好きなチョコレ−ト、ほらあの象の模様のね、
見つけたので送ります。 ・・・夜中にベッドで食べても怒らないから・・
感謝を込めて・・・ Francoise Mars. 23.
Cher Joe,
お元気ですか。
東京では桜が咲き始めたって 海外ニュ−スで見ました。
あのお家は東京よりも暖かいから、坂道の下にあった木はもうずいぶんと
咲いているでしょうね。
ほら、去年ふたりで夜こっそり行った<よざくら>、今年もひっそりと咲いているかしら。
目を閉じると 闇のなかをほろほろと舞っていた白い花びらが浮かびます。
ジョ−、励ましてくれて・・・ありがとう。
わたしが元気で頑張っていることが みんなの励みにもなってるって・・・
すごく嬉しかった・・・。
でもね。 わたし・・・ みんなの役に立ちたいの。
戦闘中にいつもいつもわたしはみんなの足を引っ張りたくなくて
本当にそれだけで 頑張ったりしたこともあるのよ。
だから。
今だからこそ、わたしの出来ることをしっかり見つけなければって思うの。
明日からの休暇、 ちがう場所でようく考えてみますね。
愛をこめて Francoise Mars. 29.
Cher Joe,
今日は 海の側からお手紙を送ります。
お元気ですか。
先日お伝えしましたが、春の休暇に北の海岸地方に来ています。
・・・海がみたくて。
うふふ。気にしてる? ひとり旅よ、ご安心ください。
波の音のせいかしら。 昨夜ジョ−の夢をみました。
ジョ−は・・・ あの赤い服を着ていたの。
でもとっても素敵に微笑んでいたわ。
それでね、わたしは。 どうしてなのかしら、あの服なんだけど、
青いのを着てるのね。
それは、なあに?・・・って
もう一人のわたしに問いかけている自分の声で
目が醒めました。
これもやはり予感、とか予知夢なのかしら。
まだ朝早かったけれど、そのまま起きて
海岸にお散歩に行きました。
寒かったけれど、お気に入りの
白いワンピ−スを着ていったの。
海は ひいて よせて ひいて よせて
日本の海とはちょっと違う色だけど、
やはり黙ってわたしを見ていたわ。
そう、海が、わたしを見ていたの。
− 大切なモノは 目に見えないんだよ
『 Le petit prince 』( 星の王子さま ) のあの言葉が
突然聞こえた・・・気がしたの。
誰もいない砂浜で、波がわたしにこっそりと伝えてくれたわ。
なぜだか、早朝の空が夢にでてきたあの、
青い服みたいに見えました。
ううん、イヤなカンジじゃないのよ。
そう・・・なにか確かな予感っていうのかしら。
ジョ−。
わたし、帰ります。 日本のお家に
・・・・ ジョ−、あなたの側に。
なにもかも中途半端で だらしがないわね、わたし。
でも。
こんどこそ! 逃げるんじゃないの。
わたし、しっかりと見つめたい そして 見つけたい。
わたしにとって 一番大切なもの。
目にみえない、大事なものってなんなのか。
ジョ−、あなたへのこの気持ちは 変わらないわ。
いつも、いつも・・・ずっと・・・。
・・・・ 愛しています。
まだ、すぐにはこちらを引き払えませんけれど、
ジョ−のお誕生日は、きっと一緒に。
日本のあのお家で海を眺めて迎えましょう。
今日は とてもいいお天気です。
愛をこめて Francoise Avril 5.
イラスト:めぼうき