かたん・・・
小さな音とかすかな軋みをたてて、フランソワ−ズは窓を閉めた。
古びたロックをしっかりとかける。
・・・ああ。 これでお終いね。
閉じた窓を背に フランソワ−ズはがらんとした室内を眺めため息をついた。
この部屋で暮らしたのは一年にも満たなかったけれど
天井のシミひとつにも 手を振って別れを告げたい気分だった。
ここも、わたしの故郷なんだわ。
やさしいまなざしを部屋中にめぐらせてから、フランソワ−ズは一通の封筒を手に取った。
ついさっき書き終えて 丁寧に納めた手紙。
いつものラベンダ−色のものとは違うその封筒を彼女は もう一度ながめた。
これを出して。 ・・・さあ、 出発よ! フランソワ−ズ !
小ぶりのス−ツケ−スとバッグを肩に、
フランソワ−ズ・アルヌ−ルは 弾む足取りでアパルトマンの階段を下りていった。
温暖な気候のこの地域には 春は一足さきにやって来る。
吹きわたる海風はときにキツイこともあるけれど、日差しの暖かさに勝るほどではなかった。
4月も下旬にかかれば 地元の人々は軽い服装で腕を出してすごす。
岬の影にぽつんと立つちょっと古びた洋館も 最近どこか華やいだ様子だ。
ずっと閉じられたいた窓は大きく開け放たれ、レ−スのカ−テンが翻っている。
− 春だもの、なあ・・・
誰もが やさしい季節の訪れを心から喜んでいるのだ。
「 ・・・ジョ−? お帰りなさい! 」
ガレ−ジに車をいれ、ジョ−が玄関のポ−チに近づくと 絶妙のタイミングでドアが開いた。
ひょこん・・・と 飛び出してくるのは 亜麻色の髪の。 青い瞳の乙女。
「 ・・・ただいま、フランソワ−ズ。 」
相変わらずジョ−はすこしもじもじしてから、出迎えてくれた乙女の頬にキスを落とす。
「 ほら。 て・が・み。 パリからだ。 」
「 え・・・? あら、これってジョ−、あなた宛よ。 ・・・え、あれ? 」
「 ふふふ・・・ 見覚えがない? 」
「 やだ! コレってわたしの・・・ 」
「 ぴんぽ-ん! 手紙よりも本人方が先に到着したのさ。 」
「 ・・・・ よかった・・・ 」
「 え、なに? なにが? 」
「 ・・・あ! ううん、ううん。 なんでもな〜い。
じゃ、これは差出人に戻すことにします。 」
「 あ〜 それってぼく宛なんだよ? 読ませて・・・ 」
「 だぁめ♪ 」
「 そんなの、ずるいよぉ・・・ 」
ひょい、と彼の手から封筒を摘み取ると フランソワ−ズはひらひらと
階段を上っていってしまった。
「 なんだよ・・・ 」
何がなんだかわからずに ぼう・・っと突っ立っている彼を玄関に置いたまま
フランソワ−ズは二階の自室へ飛び込んだ。
・・・ああ、よかった!
手紙って・・・顔がみえないから結構大胆なことも書けるけど。
コレを目の前で 読まれたくはないもの。
ほんのり染まった頬で フランソワ−ズはその封筒を見つめる。
これは・・・わたしの秘密! 隠しておきましょ・・・
上質の封筒に納められた手紙は そこに連ねられた愛の言葉を思い出したのか、
ちょっと困ったように かたり、と揺れていた。
***** Fin. *****
Last updated: 03,26,2005.
*** 後書き ***
めぼうき様から<青防護服・フランソワ−ズ>の素敵絵を
頂いた時、こりゃ〜『完結編』ベ−スのお話を書かなくちゃ♪と
張り切ったのですが・・・いやあ・・・どうもわたくしには『完結編』は
料理できませんでした。 それで『ヨミ編』から『完結編』にいたるまでの
日々を妄想してみました。 ・・・さて、ジョ−君はどんな返事を書いて
いたのでしょうね?(>_<)