『  カントリー・ライフ  ― (2) ―  

 

 

 

 

 

   ガラガラガラ ・・・  

 

買い物カートと一緒に 二人は地元商店街まで帰ってきた。

「 あ・・・ お花屋さん 寄っていい? 

「 うん 商店街にあったはず・・・ 」

「 あのね なにかお庭に植えたいな〜って思うの。

 花壇つくって・・・ わたし ずっとアパルトマン暮らしで

 お庭のあるお家って 憧れだったのよ。 」

「 そっか〜〜 ぼくも 教会の庭の水やり くらいしかやったことないなあ

 順番の<仕事> で 冬はホントにいやだったけどね 

「 あ  お庭はあったのね? 」

「 ウン。 教会のね。   神父さまがよくいろんな球根を植えたりしていたよ 」

「 球根! いいわね〜〜 今から植えれば春に花が咲くわね  」

「 あは なにを植えたらいいかとか ぜんぜん だけど・・・ 」

「 ・・・ わたしもよ。  全然わからないの。 」

「 ね 花屋さんに聞いてみようよ?  え〜〜〜っと ? 」

商店街の入口で ジョーは ず〜〜〜〜っと見回した。

「 どこかな ・・・ 」

「 ・・・ ん〜〜〜   ・・・ あった! いちばんむこう よ  

「 わ さすが 」

「 あら ちゃんと自分の目で見ましたよ?  ほら・・・ 先〜〜〜のほうに

 緑がいっぱい道に出てるとこがあるでしょう? 」

「 ・・・ あ そうだね!  花屋さんだね  行こうよ 

「 ええ 」

二人は少し元気になって 歩き始めた。

 

商店街の外れ、< お花屋さん > は   ― 植木屋さん だった・・・

道にも緑の鉢がいくつかならんでいた。

店の中は広い土間があり 中くらいな丈の鉢ものがならんでいる。

「 ・・・ ここ  お花屋さん ? 」

「 うん ほら いっぱい鉢物があるだろ ? 」

「 そ うねえ ・・・ あの ブーケとか売ってないの? 」

「 ブーケ?  ・・ ああ 花束か  え〜〜と  

「 んん〜〜〜  ?  あ あったわ! あそこ  」

「 あ 」

土間の隅に大きな缶に入った切り花がいくらか置いてあったが ・・・

フランソワーズは すぐにちかよりしゃがみ込んだ。

「 えっと・・・?  仏花  ですって。

 ねえ 仏花 ってなあに ジョー。 そういう名前のお花なの? 」

フランソワーズは 全て違う色の花を集めた花束をしげしげと見ている。

「 仏花?  ・・・ あ それ。 お仏壇とかに備える花だよ  

「 おぶつだん? 」

「 ウン。 亡くなった先祖とか家族の写真やら位牌を飾っとくんだ 」

「 いはい??? 」

「 あ〜〜 メモリアル・グッズ っていうか・・・・ 」

「 そうなの ・・・ セメタリ―関係なのね 」

「 まあ そうかな〜〜  種とか球根は あるかもなあ〜〜 

 すいません〜〜〜 」

「 このブーケ カワイイから欲しいわあ〜〜  賑やかで楽しいし 」

 

「 お〜〜  らっしゃい〜〜〜  なにか? 」

奥のガラス戸が開いて手拭を首に巻いた男性が出てきた。

「 あ あのぅ〜〜  岬の家に越してきたんですけど・・・

 庭に植える花とか 球根とか ・・・ 欲しいんですけど  」

ジョーは にこにこしつつ臆することなく話かける。

「 岬の?  ・・・ あ〜〜〜 コズミのご隠居の  そりゃそりゃ

 あの荒れ地に住んでくれるんですかい。 

「 はい。 」

「 そりゃありがたい〜〜 アッシはこの辺りの植木職を束ねてるモノです。

 まあ 花屋は附録だな 〜    それで用件は? 」

「 えっと ・・・・・今度 家 建てたんです。

 で 庭に花壇とかほしいって・・・ 」

ジョーは彼女を振り返った。

「 はい。 オハナのたね とか きゅうこん とか ほしいのです。

「 ひょ〜〜〜〜 べっぴんさん♪  兄ちゃんのカノジョ? 」

「 あ その あの〜〜〜 」

「 あはは こりゃいいね〜〜〜  で なにが欲しいって 」

「 あの〜〜〜 ですから庭に花壇を 」

「 あ〜〜 あそこは海ッ端の荒地だからねえ 海風も強いし。

 花壇よか まずは庭のぐるりに木を植えるがいいな。  潮風にも強いヤツ 

「 え・・・ 松とかですか 」

「 あは 庭の周りに松 はちょっとな  シャリンバイなんかがいいよ。

 垣根の代わりに植えたらいい 」

「 そうですか〜〜 しゃりんばい・・・ 

「 肉厚の葉で 乾燥にも強い。 黒い実が生る。 丈夫で育てやすい。 」

「 ふうん それじゃ そのシャリンバイをください。 えっと何本必要かな〜〜 

 庭のまわり ず〜〜っとっていうと・・・ ? 」

「 よければ あっしが下見しますぜ 

「 わあ〜〜 お願いできますか 

「 あそこは荒れ地だけど 裏山があるから 手入れ次第ではいろいろ育ちますぜ 」

「 そうですか!  ぼく 実の生る木とか植えたいです。 」

「 実のなる樹? ははあ・・ この辺りだったら柿や柑橘類だね 」

「 そうですか。  あ フラン なにか欲しい種とかあるかな 

ジョーはやっと気がついて フランソワーズの方を向いた。

「 これがいいわ。 」

彼女は まだ先ほどの場所に立っていた。

「 え ・・・でも それは ・・・ 仏花でさ 」

「 カワイイもの。 この色が楽しくて好きなの。  これがいいの。 」

「 ・・・ わかったよ。 え〜〜と これも一対ください 」

「 あら 一つでいいわ。 」

「 え ・・・ あ ああ うん すいません、一つ。 」

「 はいよ。 ・・・ 兄ちゃん 惚れてるねえ〜〜 」

「 え! ・・・ そ そんな ・・・・ こと ・・・ 

「 あっはっは〜〜 若いっていいねえ〜〜〜 」

「 ・・・ あは ・・・ 」

「 ? 」

なぜか真っ赤になっているジョーを 彼女はすこし不思議そうに眺めていた。

それじゃ あとで見積もりに行くから宜しく! という棟梁のコトバに

送られ 二人は店を出た。

「 ふんふんふ〜〜〜ん ♪  綺麗なお花さん〜〜〜 

フランソワーズは 五色の花束を抱えご機嫌である。

「 ・・・ ウチには仏壇、ないんだけどなあ ・・・

 ま 喜んでいるから いっか ・・・ 」

 

    ガラガラガラ 〜〜〜〜〜

 

仏花を抱えた金髪美女の後を ジョーはカートを引いて付いていった。

 

 

 

「 ただいま〜〜〜 もどりましたァ〜〜 

ジョーは 玄関で声を張り上げた。

「 おお お帰り。  ご苦労さん。 大人が来てくれておるよ。 」

博士がにこにこ・・・迎えてくれた。

「 わあ〜〜〜  えへ  お昼ごはん、期待しちゃうなあ 

 あ 博士。 庭のことなんですけど 

「 うん? 

ジョーは勢いこんで植木屋の棟梁との件を話しだした。

「 ・・・  ほう?? 庭の周りに?  おお〜〜〜 そりゃいいな!

 おう ウチまで来てくれるというのかい。 そりゃ ぜひぜひお近づきに

 なりたいのう 

「 ね 博士!  ウチの庭、充実しますよ〜〜〜 」

「 そうだな。 実はな・・・ ワシも盆栽に興味があっての〜〜 」

「 あ〜〜 いっぱいありましたよ 店内に。 」

「 ほう ほう〜〜 今度 覗きにいってみようかのう 」

「 ですよね〜〜  あっと・・・ 食材をしまってこなくちゃ 」

ジョーはカートから野菜やらパンや肉をとりだした。

「 えっと・・・ これとこれは冷蔵庫・・っと 」

リビングを通ると 時計の下、一番目立つ場所に 仏花 が

きっちり花瓶に活けてあった。

 

    ・・・  あっは ・・・ ま カワイイからいっか

 

ジョーはそのままキッチンに抜けた。

「 大人〜〜〜 買ってきたよ〜〜   あれ? 

きっちり片付いたキッチンに 丸まっちい料理人の姿はなかった。

「 あれえ?  出かけたのかなあ・・・・ あ?  外かあ 」

裏庭への勝手口が少し 開いていた。

「 では ま〜ず 肉類から・・・ 」

冷蔵庫のドアを開けていると  外から声が聞こえた。

「 あ  フランも外にいるのか ・・・ ぼくも覗いてみよ  」

彼は 買い物の山と格闘を始めた。

 

 

  裏庭では  ― 温室の横で 大人が大地にクワを入れていた。

 

「 張大人〜〜〜  いらっしゃい〜〜 」

フランソワーズは 花を活けてすぐに裏庭にでた。

「 フランソワ―ズはん?  おかえり。 買い物はどないやった? 

「 う〜〜ん なんか・・・ あの ここ。 田舎なのね 」

「 ほっほ〜〜 緑ぎょうさんあるし 空気も水もおいし。 ええとこやで。 」

「 ・・・ それは そうだけど・・・・  なんにもないんだもの・・

 ねえ なにをしているの? 」

「 ふん?  土、耕してまっさ。 ここ 畑にしまっさ。 」

「 ・・・ はたけ??  なにか植えるの? 」

都会育ちのパリジェンヌにとって お花は買うか公園でみるもの、 

野菜は店で買うモノ だった。

「 はいな。 お野菜やらなんやらぎょ〜さん植えまっせ〜〜〜 」

「 まあ ステキ。 種や苗は?? 」

「 フランソワーズはん ・・・ 

大人はクワを止めると 身体を起こし、とんとん・・・と腰を叩いた。

「 はい? 」

「 畑作りはなあ〜 まず 土や。 」

「 つ つち?? 」

「 そや。  ええ土、ぎょうさん栄養のある土、つくらんとな 

 土、よ〜〜〜くしてからやで 種やら苗、植えるんわ 」

「 そ そうなの?? ・・・ ちょっと触ってもいい? 」

「 ええよ。  ここ、ええ畑にしまっせぇ〜〜 」

「 ・・・ 

フランソワーズは 屈みこむと そ・・っと掘り返したばかりの地面に手を伸ばした。

初めて触った土は ちょっぴりひんやりしていた。

「 ・・・ こっちは少し湿ってるけど 上はぱさぱさしているのね 」

「 ここ ほったらかしの荒地やよって ・・・ 今はまだまだや 」

「 ふうん ・・・ 」

「 綺麗な花 や 美味しい野菜はなあ 土をしっかり育てて

 しっかり掘って  植えるんやで。 」

「 ふうん ・・・   きゃ ・・・ 」

すこしほじくってみたら なにかもぞもぞ動いているものがいた。

 土の中には  生命に 溢れていた。

 

          温かい  

 

「 なんかおったか? ええ ええ そのまんまいさせてたって 」

「 ・・・ ハイ 」

「 さあ〜〜〜 ワテ、ここを畑にしまっさ〜〜〜 」

「 なにかお手伝いします。 」

「 おおきに〜〜 ほんなら 水 汲んできてや  じょうろ? 

 いやいや バケツでええよ〜〜 」

「 はいっ 」

スカートがじゃまだな と思った。

即行で部屋にもどりGパンに着替えた。

スニーカーにも履き替え 彼女は裏庭にとびだした。

「 うん しょ ・・・・  」

バケツに数杯 水を運んだ。

「 お〜〜〜  おおきに 〜〜 」

「 うふ・・・ なんか気持ちいいのね  ここの空気って 」

「 そやろ? ワテ 田舎出身やさかい、ここは気持ちいいで 」

 

空に向かって 深呼吸をしてみた。

 

「 ・・・ あ  そっか ・・・ この空気 知ってるわ 

 そうよ 夏休みの バカンスの空気だわ ・・・  」

 

  田舎暮らし > は  夏のバカンスを思い出させた。

とりたてて裕福な家庭ではなかったけれど 夏休みには家族で田舎のコテージで

過ごした。

 

     そうだわ  緑いっぱい ひろ〜い畑があって

    とりたてトマト のサラダをたべたっけ

 

   パパがズッキーニをいっぱい採ってきて

   ママンが ラタトゥイユ 作ってくれて・・・

 

   ひろ〜〜い畑の間を

   お兄ちゃんと 自転車で駆けまわったわ 

 

そう こんな空気だった・・・

彼女は目を閉じ 胸いっぱいに風をすいこんだ。

 

  ガッ  ザ ザ  ザ  ・・・  ガッ   ザ  ザ ザ

 

足元の荒地はだんだんと掘り返されてゆく。

「 中の方は 色がちがうのね・・・ 」

「  ほっほ〜 土いうんもんは 正直でっせ  手ぇかければ それだけの結果がでたぁる。  

 手抜きすれば バレバレやが。 」

「 まあ そうなの? 

「 はいな。 ニンゲンよかず〜〜〜っと正直やで 

「 ふうん ・・・ わたしにもお花やお野菜 つくれるかしら 

「 でける。 そのためにも のんびりやりまほな〜 」

「 はい。 土さんにいろんな栄養をあげるのね 」

「 そや。 ワテは自然の堆肥やら生ごみをつこうたろ、おもてます。 」

「 ふうん ・・・  あら 誰か来たわ  あ さっきの植木屋さん 」

フランソワーズは 立ち上がって手を払う。

「 は〜〜い 今 ゆきます〜  ジョー? 植木屋さんよ〜〜 」

「 あ わかった〜〜 今 でるよ〜〜 」

ジョーは玄関に駆けていった。

 

「 ええ こっちです。 ここのとこ、ず〜〜〜っと生垣にしようかな 

 と思ってるんですよ 

ジョーは 表庭で植木屋の棟梁と話こんでいる。

「 ふ〜ん  なるほどねえ ・・・ 

「 やあ わざわざすみませんなあ 〜 」

博士も笑顔で応対をしている。

「 こちらの家主さんで?  あ〜〜〜 コズミ先生から伺ってます〜〜

 下の商店街の植木屋です〜〜 ようこそ、この町へ 」

棟梁は丁寧に挨拶をしてくれた。

「 いやいや こちらこそ どうぞよろしく。

 彼から聞いたのですが 生垣の件でお願いしたいと・・・ 

「 了解です  そうさなあ〜〜 ここだったらやはりシャリンバイだね。

 丈夫だし風除けにもなりますぜ 」

「 ほう〜〜 ここいらではそれを使いますか 」

「 大抵の家ではそうだね。  海岸通りにはずっと松が植わってるけど

 最近松喰い虫の害が深刻でね  」

「 ほう? ・・・ 農薬は効かない・・・? 」

「 どうもね 〜〜〜  効き目イマイチってとこで 困ってるんです。 」

「 ・・・ ふむ? ちょいと知り合いに薬学に詳しいのがいます

 聞いてみよう 」

「 お〜〜 頼みますよ。 で 生垣の件ですが 

「 あ お願いします。  こう〜〜〜 ずっと植えたいですな 」

「 よっしゃ。 任せてくだせい。  あ〜〜 時にコズミ先生から聞いたんですが

 盆栽に興味あり とか・・・ ご隠居さん 

「 おお〜〜〜  実はそうなで ・・・ いや 全くの初心者なんですが 」

二人は生垣そっちのけで 盆栽談義に没頭していた。

 

 

裏庭では 大人が黙々と土を掘り返している。

「 ・・・・ ほいっと。  さあて お昼ご飯にするかね〜 

「 うわ♪ ねえ メニュウはなあに。 」

「 そやね〜〜  おーぷん・さんどいっち はどやろ?

 ハムやらお野菜やらこうてきてくれはったよって・・・ 」

「 まあ 嬉しい〜〜〜  ねえ オムレツも作ってくださる? 」

「 もちろんやで〜〜 」 

「 あ! たまご、たまご! 買ってくるの忘れちゃったわ〜 」

「 まあ なくてもヨロシ。 」

「 ううん ううん〜〜 オムレツ、食べたいの、わたし!

 今から買いに行ってくるわね  駅の向こうのスーパーにたしか 」

「 あ 商店街にも 卵 うってるよ〜〜 」

バケツを運んできたジョーが 口をはさんだ。

「 まあ ありがとう!  えっと・・・どのお店 ? 」

「 あ 肉屋さんとか 」

「 あのお店ね! ありがとう〜〜  行ってきます! 」

フランソワーズは 財布とトートバッグだけを持って 門から駆けだしていった。

 

 

   はっ はっ はっ ・・・・  フランソワーズはイッキに坂道を駆け下りた。

 

「 え〜〜っと? 」

先ほど歩いた商店街を 左右をながめつつ通ってゆく。

「 肉屋さん〜〜〜 っと ・・・ あ あそこ! 」

さきほど立ち寄った店に 彼女は駆けこんだ。

「 ・・・ あの!  たまご ください ! 」

「 らっしゃ〜〜い  ああ さっきの美人さん♪  なにか? 」

「 あのぉ〜 たまご ください。 」

「 卵?  あ〜〜〜 悪いね〜 今日入荷した分、売り切れちゃったんだ 

「 え ・・・ もう ・・・? 」

「 はっはっは ウチの卵は評判いいからね〜〜 昼すぎには売り切れなんだよ 」

「 ・・・ そうですか ・・・ じゃ 駅の向こうのスーパー に・・・ 

「 美人さん、時間はあるかい? 」

「 ?  はい? 

「 この先の路地から山側に入るとな ウチが卵を仕入れさせてもらってる

 養鶏場があるんだ。 そこに行ってみれば まだあるかもしれないよ 」

「 え そうですか?? いきます!  どこから・・・? 」

「 あのな〜〜  ほら あの横丁から入るのさ 」

肉屋の親父は 道に出て教えてくれた。

「 ありがとうございます〜〜  いってきます! 」

フランソワーズは ぺこり、とお辞儀して道を急いだ。

 

「 ・・・ え〜〜と ・・・ こっちでいいのかしら ・・・ 」

路地を抜けると民家が数軒ありそのまた先は 草ぼうぼうの路になった。

「 ・・・ 養鶏場 って言ってたけど ・・・ それらしい建物・・・

 う〜〜〜ん ・・・ < 眼 > 使っちゃおうかなあ  」

ちょっぴり心細くなってきた時 ―

 

  こっ こっ こっ  こけっこっこ〜〜〜〜〜〜〜 !!

 

賑やかな声が響いてきた。

「 あ !  この声〜〜 知ってるわ  こっちでいいのね 」

フランソワーズはずんずん草だらけの路を分け入っていった。

 

   くわ〜〜〜〜 かっ かっ かっ  こけっこ〜〜〜〜

 

声はどんどん盛り上がってくる。

「 うふふ・・・ 元気そう〜〜  あ 鶏舎ね〜〜   

こんにちは〜〜〜 と 彼女は元気に声をかけた。

「 あの〜〜〜〜 ?   うわあ〜〜〜 」

覗いてみた鶏舎の中はとても広く ― そこかしこに 白や茶色の鶏が歩きまわっている。

「 すご・・・・  いっぱいいる〜〜〜 

 あら ひよこちゃんもいるわ ふわふわね〜〜〜  

「 あ〜〜 なにか??? 」

鶏舎の奥から 長靴を履いた女性が出てきた。

「 あ あのぉ〜〜  こちらで卵、売っていただけますか? 

「 え? 」

「 あの・・・ 商店街のお肉屋さんに行ったんですけど・・・

 今日の分は売り切れで ・・ こちらを教えて頂いたんです 

「 まあ そうなですか ・・・ 日本語、お上手ですね〜

 どちらから? 」

「 あ  フランスから来ました。 それで あのぅ〜 今度岬の上に

 住むことに ・・・ 」

「 へえ〜〜〜  そうなんですか〜〜 あ 卵ですよね 」

「 ハイ。 」

「 今日の出荷分は完売なんですけど・・・ ちょっと待ってくださいね

 茶色かあさん〜〜  また生んでるかも 」

女性は 鶏舎の中に戻っていった。

「 ・・・ すご〜〜い 鶏さんたち 皆元気ねえ ふうん ・・・

 ひよこちゃん いっぱいいるんだ? かわいい〜〜〜  」

フランソワーズは金網ごしに 広い鶏舎の中を観察していた。

「 お客さん〜〜 ありましたよ〜〜  産みたてです。 」

「 まあ すてき! 」

女性は 大切そうに卵を四個、持ってきた。

「 ごめんなさい、これしかなくて・・・  」

「 いいえ いいえ〜〜 すごく嬉しいです ありがとうございます。 」

「 はい どうぞ 」

「 きゃ ・・・ ほんわり温かい ・・・・ 」

「 ウチの茶色母さんが生んだばかりですから。 」

「 茶色母さんにお礼、言ってください 」

「 うふふ はいはい 」

「 あのう〜〜 ずっとここで養鶏場をやっているのですか? 」

「 いいえぇ  二年前から主人とここに来て ・・・ 始めたばかりなんです。

 二人とも東京っ子でね〜〜  」

「 え・・・ 養鶏、初めて?? 」

「 ええ そうなです。 な〜〜〜にもわからなかったですけどね 

女性は ころころ楽しそうに笑う。  

 

    あ いい笑顔〜〜 すてき・・・!

    このヒト なんていい顔 してるのかしら 

 

フランソワーズは思わずじっと彼女を見つめてしまった。

「 まあ そうなんですか ・・・ 鶏さんたち 自由に歩いてて元気そうですね 」

「 朝のうちは この辺りに放してるんです。  この辺りはほら・・・

 裏山に続いて草地が 広がっているから ・・・ 

 鶏たちが鳴いても騒いでも どこからも苦情、きません。 

 誰も住んでいませんから 」

「 鶏さん達の数の方が 多いかもしれませんね 

「 うふふ・・・ そうかも。   匂いについても苦情ナシですもの。 」

「 鶏さん達 シアワセそう ・・・ 

 

   こっこっこ〜〜〜〜 こけ〜〜〜

 

好奇心満々な 若鶏が金網のところまで寄ってきた。

「 あらあら  鶏たちも美人さんが好きなのねえ 」

「 え やだあ   あ ありがとうございました。

 うふふ〜〜〜 美味しそう〜〜〜 」

フランソワーズは代金を支払い ぺこり、とお辞儀をすると卵を抱きしめて

草ぼうぼうの路を戻っていった。

 

 

「 ただいま〜〜〜 大人 たまご!  はいっ 」

「 アイヤ〜〜〜 おおきに。  さっそく使わせてもらいまっせ 」

ギルモア邸のキッチンで 大人は四個の卵を押しいただいた。

「 美味しいお昼ごはん つくりまっせ〜〜〜 」

さっと卵を洗うと ―

 

  こんこん  かん。  彼はボウルに卵を割り入れた。

 

「 ・・・ む・・・  フランソワーズはん これ  どこでこうてきてん 」

「 え?  ああ あのね、養鶏場があってそこで ・・・

 そうそう 産みたて ですってよ 」

「 う〜〜む ・・・ その養鶏場、案内してくれはりまっか 」

「 ええ ・・・ あのなにか? 」

「 この卵 ・・・ 最高級やで。 ほれ この黄身のテリ具合 ・・・

 白身の盛り上がり・・ 見てや〜〜  」

「 美味しそうね 」

「 ・・・・ 」

う〜〜む ・・・ と大人は腕組みをししばし唸っていた。

「 ちょいとお味見させてもらいまひょ。 」

大人は箸の先で 器用に白身と黄身を少量、口に運んだ。

「 ・・・・・・・ 」

彼は モノも言わずじ〜〜〜〜っと卵をみている。

「 あの ・・・ 味 ヘン・・・? 」

フランソワーズは おそるおそる聞いた。

「 ・・・ あ うんにゃ。  う〜〜〜む ・・・

 皆はんに食べていただきまほ。  それでお判りになりまっせ〜〜 

「 ・・・? 」

 

 そして 博士と大人、 そして ジョーとフランソワーズは昼食のテーブルについた。

 

「 おお オープンサンドかい。 美味しそうだなあ 」

「 わわわ すご〜〜い オムレツにハムにサラダ〜〜〜 すげ〜〜 」

「 ジョー。 パンに乗せて食べるんじゃよ 

「 あ そうなのかあ ・・・ ん〜〜〜 おいし! 」

さっそく頬張って ジョーは感嘆をあげた。

「 ・・・ わあ  このオムレツ・・・ おいしい〜〜〜 」

「 うむ・・・ こりゃ美味い。 素晴らしい味じゃの 大人 」

「 そうでっしゃろ  この卵は ・・・ タカラモノでっせ 」

「 え あの・・・さっき買ってきた卵 ・・・? 」

「 そうやで。 ワテが今まで食べて卵の中でも 最高ランクや。 」

大人は しみじみとオムレツを味わい ふか〜〜〜い溜め息を吐いている。

「 どうしたね 大人。 」

「 ギルモア先生。 この土地、いんや この地域は宝の山やねえ 」

「 はん? 」

「 こないな美味しモノやら ええお人らがいてはるんやから ・・・ 」

「 そうだなあ ・・・ ここを選んでよかった かな  」

「 はい!  ぼくはすごく賛成ですっ 

「 ふふ  ジョー ありがとうよ 」

美味しいランチに 笑顔と楽しい雰囲気でいっぱいになった。

 

 

「 フランソワーズはん。 お手数やけど案内してくれはりますか 

片づけの後、 大人は丁寧に請うた。

「 はい もちろん。 あの養鶏場ですよね  」

「 そや。 ワテの店もウンが向いてきたで〜〜〜 」

「 お店・・・? 」

「 そや。 あ〜〜〜 楽しみやなあ〜〜 その鶏さんらにはよ会いたいワ 」

「 いっぱいいたの。  ひろ〜〜い鶏舎の中をね 白いのやら茶色のが

 歩きまわっていたわ。  朝は外にだすんですって 

「 ほうほう〜〜〜 ええなあ ええなあ〜〜 

 ほな ゆきましょか  あ ワテは 親戚のおじちゃん いうことで 」

「 ハイ。 オジサマ。 」

「 ほっほ〜〜 ほな ゆこか 

二人は 仲良くでかけて行った。

 

 

「 ワテに店で仕入れさせてくれまっか。 お値段は任せますよって 」

先ほどの養鶏場で 大人は丁寧に頼みこんだ。

「 え ・・・ そ そんな 」

若いご主人は 絶句していた。

山側の畑で鶏達用の菜っ葉の世話をしていたのを 呼んでもらったのだ。

「 最高のお味でっせ。 宝モノですワ。 」

「 ありがとうございます  でも そのう〜〜 まだあまり多くは

 生産できなくて・・・ 地元に卸す分もありますし 

「 ええです ええです、余った分 ぜ〜〜んぶワテの店で買わせてもらいます。

 あ〜〜〜 楽しみやで〜〜〜 

「 と〜〜っても美味しかったです。 あのね ランチにオムレツにして

 頂きました。 」

フランソワーズも応援した。

「 いやあ〜〜  ありがとうございます 

「 まあ もう食べてくださったのですか 」

養鶏家の若夫婦は もうびっくりやら嬉しいやら ・・・

「 ええトコに来はりましたナ。  ココいらは 宝の土地やで 」

「 はい そう思います。 」

若夫婦はしっかり頷いた。

 

     ・・・ タカラの土地?  

 

     こんななんにもない 田舎の町が ・・・?

 

フランソワーズの笑顔は 少し曇ったかもしれない。

 

 

       こけっこっ こっ こ〜〜〜〜〜 

 

 

鶏舎の中で 雄鶏が高々と鳴き上げていた。

 

 

Last updated : 07,03,2018.                back    /   index  /   next

 

 

*********   途中ですが

え〜〜〜 またまた続きますが ・・・・

こちらの設定では < ギルモア研究所 > が

ボコボコにぶっ壊されることは ナシ なのです〜