『 カントリー・ライフ ― (3) ― 』
ちろりん
ちりん ・・・・
涼やかな音がして 麦茶のグラスが運ばれてきた。
「 どうぞ
まだ季節じゃないですけど … 」
若奥さんは
ちょっとほほを染めている。
「 あいや〜
ワテ 暑がりですよって 大歓迎です〜 いただきます〜
お〜 おいし・・ ええお味ですなあ〜 」
「 ふ〜ん
… おいしい〜 なんかアメリカン コーヒー みたいに いい香り… 」
「 嬢や こないなお味をな
香ばしい いいますねんで 」
「 こうばしい・・・
ふうん 」
大人 と フランソワ−ズ の会話を 養鶏家の若夫婦は にこにこ聞いている。
契約の話もあるから 是非 …
と 誘われ 二人は若い養鶏家の母屋にお邪魔をした。
鶏舎の奥
さらに山に入った地に 古い民家があった。
大きな平屋作りでサッシや窓が 新しくなっている。
「 お邪魔しまっせ〜
」 「 ごめんください 」
二人は
きちんと掃除の行き届いた玄関で靴を脱いだ。
「 ここ … 私の祖父がむか〜し養鶏場をやっていたのですけど
もうず〜っと空き家で 土地も荒れ放題 … 」
若奥さんは ころころと笑う。
「 僕は 養鶏どころか農業の経験もなかったんですけど
彼女と
やってみよっか って ね? 」
「 うん。 うふふ 三年経ってや〜っととんとん です 」
若い二人は いつでも笑みがこぼれている。
「
わかりましたで わての店でこちらさんの
大事な大事な卵さん
扱わせてください。
お客さんら
目ぇ丸くしまっせ〜
おいしいて おいしいて〜〜〜
あ
お値はどうぞ そちらさんで決めてくれはって 」
「 え!? 」
「 こちらの卵さんは そんだけ価値 ありまっせ
ご病人が 食べはったらす〜ぐに元気にならはる お子らは
すくすく育ち
お年寄りは お達者や 」
「 そう言っていただけるだけで・・・ もう嬉しい・・・・ 」
若奥さんは 涙ぐんでしまった。
「 ありがとうございます。 すごく嬉しいんですけど・・・・
ウチはまだ規模も小さくて 生産量が ・・・ 」
「 ええです ええです、 今のま〜んま 鶏さんらにのびのび〜
過ごさせたってください。 ワテの店は余剰分を仕入れさせてくださいや 」
「 そ それで ・・・ いいのですか? 」
「 ご主人はん。 もうすぐ・・・・ ココの卵はんは貴重品になりまっせ〜
そんな時やっても ココのやり方、変えんといてな 」
「 は はい それはもう ・・・ なあ? 」
「 ええ。 ウチは いつも鶏さんと一緒です。 」
「 ほっほ〜〜 これで決まりですな。 契約書たら またもって来ますワ 」
「 あ え 〜〜 あのぅ ・・・ 」
若主人が言いにくそうに口を開く。
「 なんですねん。 なんでん言うてください。 」
「 はい あのう … 出荷の件ですが ・・・
お店は
中華街ですよね ? ウチは二人だけなので配達は無理かも 」
「 お〜〜 どうぞ気ぃを使わんでください。
ほっほ ウチの若いもん
に 頂きに伺わせますよって 心配せんといてや。
だ〜いじにだいじに運ばせます〜 」
≪ 大人、店員さん いるの? ≫
隣で行儀よく麦茶を飲んでいた金髪のお嬢さんは つんつん・・・と
オジサンの膝を突いた。
≪ はあん? ほっほ〜 オウチに 元気な若いもん がおるやないか〜
そうや 配達に加速装置は 厳禁や いうとかんとな 〜 ≫
≪
ふふふ そうね〜 高速配達は得意かもね
≫
≪ ほっほ〜〜〜 ≫
「 ほな これで。 鶏さんらに 美味しいご飯をた〜〜〜んとあげてください。 」
「 美味しいお茶をありがとうございました。 」
オジサンとお嬢さんは 深くお辞儀をした。
ガサ ガサ ガサ ・・・・
二人は草ぼうぼうの路を掻き分け 商店街へと降りてきた。
「 いいな ・・・ あのご夫婦 ・・ シアワセそう〜〜 」
「 そやな。 お二人ともええお顔や 鶏さんらぁもええ顔してたで 」
「 え〜〜〜 鶏の顔の違いなんかわかるの? 」
「 わかる。 ええ顔の鶏からは ええ卵が生まれるんやで。
ほっほ〜〜 ワテの店も運が向いてきたで〜〜
あの宝の卵つこうて ごっつうま〜〜な ふうようはい つくたるわ〜 」
「 ねえ ・・・・ 大人
値段大丈夫?
」
「 任せとき
」
「 ・・・ メニュウ、値上げ するの? 」
「
フランソワーズはん あんたほんに嬢ちゃんやさかい わからへんやろけど。
ウッとこの店、値上げたら
せぇへんで 」
「 え でも ・・・ あの卵 普通より高いでしょう? おいしいけど 」
「 美味しいから値上げせえへんのや。
ええか? 今までの値ぇで 何倍もオイシイもん、出したらどないなるね 」
「 え・・ すご〜〜く来るんじゃない? お客さん ・・・ 」
「 そやろ? 他のメニュウも出るようになる。
ほいで儲かる分 卵さんに投資するんや。 評判たら 買うことはでけへんで。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ なるほど ねえ・・・ 」
「 ワテは あの卵さんに惚れたで。 も〜〜〜 はよ うっとこのお客はんらに
あの卵 食べさせてあげたいねん 」
大人は いや この凄腕料理人は まん丸の頬を染めている。
「 ・・・・・ 」
「 ワテの料理人魂 に がちこ〜〜ん なんや!
ああ〜〜〜 ええ方々とお知り合いになれて ほんまちょう〜〜らっきやわ
フランソワーズはん。 ここは お宝の土地やで 」
「 そう かもしれないわね 」
料理人はあれやこれや卵のメニュウの考案に夢中になっている。
「 うふ・・・ 楽しそう ・・・・
うん 確かにあの卵はとっても美味しかったわ。
わたしが 一番いいな〜〜 と思ったのは、あの二人よ 」
ああいう生き方も あるのね …
・・・ さわやか ね
いい気持ち、わけてもらっちゃったかも
「 ふんふん ふ〜〜〜ん♪ 」
フランソワーズも 軽い足取りで商店街を抜けていった。
「 いってきま〜す〜〜 」
ジョーは 翌週から早朝に卵の配達を始めた。
寝坊大王が 日の出前にがばっとベッドから飛び出し 出かけてゆく。
「 ・・・ ジョー 大丈夫? 」
「 え? もっちろ〜〜ん あ フラン、 起きなくていいよ〜 」
「 とんでもないわ、仕事に行くヒトにはちゃんと朝ご飯 食べてもらわなくちゃ 」
「 えへ・・・ ホントはすご〜〜〜くうれしいんだ〜〜 」
「 ごはん と おみそしる と たまごやき でしょ 」
「 うん♪ ・・・ あ〜〜 うま〜〜〜〜 」
彼は毎朝 熱々の朝ご飯をかきこみ 未明の空の元、出かけてゆく。
「 え 配達? おっけ〜〜〜 自転車でゆくよ l
大人から 卵配達の仕事の件を聞いた時、 ジョーはすぐさま快諾した。
「 ちゃ〜〜〜んとアルバイト代、だすよって。
ホンキのホンキでやってくれはりいますか 」
「 もっちろん ! あのおいしい〜〜〜〜 卵だろ? 」
「 そうや。 う〜〜ん 自転車いうのんはどうやろ?
いっくらジョーはんやかて キツいんちゃうか? 」
「 ぼくを〜〜〜 誰だと〜 」
「 ジョー。 電動自転車をぱわー・アップさせるから。
それを使いなさい。 」
博士もにこにこ・・・応援してくれた。
「 わ 〜〜 いいですか〜 ・・・ 改造車になる かな ・・・ 」
「 ふん。 そんじょそこらのヤツには見分けはつかんよ。
その代わり 絶対安全運転 を頼むぞ。
そうじゃ そうじゃ 卵専用のセイフティ・パッケージも作るぞ。
責任をもって あの美味しい卵を大人の店まで届けておくれ。 」
「 は〜〜〜い♪ わ〜〜〜い 早朝サイクリングだあ〜〜 」
彼は大喜びで そのアルバイトを始めた。
寝坊大王はとっくに返上、 彼は嬉々として配達を続けている。
ふうん ・・・ 頑張っているのねえ
朝ごはんを作りつつ フランソワーズも嬉しい。
「 おみそしる 上手になってきたと思うわ わたし。 」
茄子やら茗荷をいれて 熱々の味噌汁をつくる。
この日本伝統のスープは いろいろな野菜と相性がよかった。
「 〜〜〜〜 よし。 今朝も美味しいわ 」
味見をすませた頃 ぱたぱた・・・ジョーが起きてきた。
「 ふぇ 〜〜〜 おっは・・・ 」
「 あら おはよう。 お味噌汁 できているわよ 」
「 わは♪ いっただっきま〜〜〜す 」
「 はい どうぞ召しあがれ 」
「 ・・・・ ん〜〜〜〜〜 ま〜〜〜〜 ねえ これ 具 なに? 」
「 茄子と茗荷よ。 どっちも地元産。 」
「 ふ〜〜ん 茄子ってこんなに美味しかったんだ〜〜
みょうが なんてぼく、 初めて食べたよ 」
「 あら そうなの? ちょっと不思議なお野菜よねえ
エキゾチック ・・・ 」
「 うん ・・・ でもおいし〜〜〜 ん〜〜〜 」
彼はごはんと卵焼きもキレイに平らげた。
「 ご馳走様。 ではっ 配達に行ってきま〜す 」
「 はい いってらっしゃい。 気をつけてね 」
「 は〜〜い 」
わさわさ手を振ると 彼は自転車で家の前の急坂を駆け下りていった。
「 ・・・ 元気〜〜〜 頑張ってるのね。
さあ わたしも。 掃除ロボットをセットして 畑にお水、ね。
そうそう 来週は皆が工事にくるから その準備も ・・・ 」
彼女も エプロンのヒモをきりりと結びなおした。
裏庭での大人の畑 は ほぼ完成している。
「 ねえ 種まきはいつ? 」
「 まだや。 もうちょい、土にご馳走あげな あかん。 」
「 種や苗 植えないの? 」
「 まだやな〜〜 あ ワテが来れない日に 水やり頼みまっさ〜 」
「 はい 了解。 」
そんなわけで フランソワーズは毎朝 毎晩 せっせと畑に水を撒いてる。
「 ・・・ っと 完了。 ふうん ・・・ ホントに土が濃い茶色に
なってきたわ。 この辺 ガサガサに乾いていたのに 」
温室の隣の空き地は よい畑になりそうだ。
「 ・・・ わたし やっぱりお花 植えたいなあ ・・・
花壇ってあってもいいわよねえ? テラスの横とか ね?
そうだわ! そうよ 自分でやる・・・! 」
えっほえっほ・・・と 大人愛用のクワを担いで表までやってきた。
「 う〜〜ん っと。 そうね こんこに 薔薇 植えたいな。
ふふふ いつかは薔薇のアーチ なんて素敵よね〜〜
で もって〜〜 春にはチューリップが いっぱい咲くの。
いいわよねえ 〜〜 ようし ・・・ えいっ ! 」
ふらり、とクワを持ち上げると 彼女はガチガチの地面に振り下ろした。
ガツン。 大地はこの古風な農具を跳ね返す。
「 ?? なんで〜〜〜?? 大人は ざっく ざっく ・・・って。
ようし。 今度は本気よ? いい? 003のチカラをみよ〜〜〜 」
えいっ えいっ えい っ 〜〜〜
何回かクワを振るうちに ― か弱き女子でも まあ サイボーグであることには違いないので
チカラ比べに ガリガリの荒地は負けた ・・・ らしい。
「 きゃ。 けっこう掘れたかも〜〜 え〜〜っと ここから ・・・
そうね この辺りまで。 ようし・・・ 」
えい えい えいっ えい えい えいっ ・・・
花壇予定地は 荒地を浸蝕していゆく。
「 ふ〜〜〜 ちょっとキツいけど ・・・ でもお花が咲くなら・・
あら? なにか ・・・いる? 」
掘り返した土の中に にょろにょろ〜〜 蠢く存在が・・・
「 ・・・? み ミミズ ?? 」
思わずマジマジと見つめてしまった。
「 きゃ 〜〜〜 ・・・ あ でも 鶏さんたちは 好きって ・・・ 」
そうなのだ、 あの養鶏場では 鶏たちは地面をつんつん突つき ミミズやら
なにかの虫を食べていた。
「 ミミズさんの方が 先に住んでいたのよねえ ・・・・
ほら 逃げて。 きっと いい土にするには必要なのよ 」
そっと土をかぶせ 見なかったことにした。
「 え〜〜と ・・・? 縁にレンガを埋めたいのね〜〜〜
レンガ・・・ 地下にあったかも・・・ いいわ あとでジョーにお願いして
みるわ。 次はお水ね〜〜 ようし 頑張って運んでくるわ!
キッチンからなら 近いし 」
クワを片づけると バケツを手に勝手口に向かった。
その後 ―
パリジェンヌは 次第に 土に触れ花壇を作り野菜づくりにも挑戦するようになる。
大人の薦めもあり まずは温室にプチ・トマトの苗を植えてみた。
ひよひよした苗は それでも案外早くに赤い実をつけた。
そっと口に含んだ実は 日向の味・・・・
「 ん〜〜〜・・・ ? なんか 懐かしい味 じゃない?
あ ・・・ そうだわ。
夏の バカンスで行ってた田舎のおうちで … 畑の野菜を食べてたっけ
あれと同じ味 ・・・・ ああ 懐かしい ・・・・ 」
以来、 毎朝食卓には採れ採れの野菜が乗るようになる。
「 ただいま〜〜 ふ〜〜〜配達 完了
」
午前中に ジョーは元気いっぱいで帰宅する。
「 お帰りなさい〜〜 お疲れ様〜〜 ふふふ サンドイッチ あるわよ? 」
「 うわ〜〜〜い♪ ちょっとシャワーしてくるね 」
「 はい どうぞ。 」
ジョーは玄関からバス・ルームに直行した。
ガシガシバスタオルで髪を拭き拭き キッチンにきて食卓につく。
「 はい どうぞ。 え〜と 何を飲む? ミルク? 」
「 う〜ん と。 あ 麦茶がいいな〜 冷えたの、ある 」
「 どうぞ。 」
カロン ・・・ マグカップの中で 氷がおどる。
「 ・・・ うま〜〜〜 えへ ぼく 一日四食くらい食べてるね 」
「 それだけ労働してるんだもの いっぱい食べてね?
あ 鶏さんたち、元気だった? 」
「 うん と〜〜っても。 毎朝 行くだろ? ぼくのこと、覚えたのかなあ
寄ってきて くわ〜〜 くわ くわって鳴くんだ 」
「 へえ? ジョー 人気モノねえ 」
「 あはは 動物たちにはね〜〜 ああ うま〜〜 」
「 あ お握りの方がよかった?
」
「 ん〜〜 両方歓迎〜〜 んま〜〜 これ サラダ? 」
「 え? ああ ハムとねえ 浅漬けのキュウリサンド。 」
「 ひえ〜 おいしいよう 」
「 うふふ ありがと。 いっぱい食べてよね 」
「 サンキュ ・・・ 」
「 毎朝大変ねえ 」
「 ぜ〜んぜん 早朝の町を飛ばすのって激きもちいいんだ〜
あの電動自転車 すごいよ ホンキになれば軽トラくらいスピードでそう 」
「 あ・・・ スピード違反に注意! 」
「 あはは 大丈夫さ。 大事な荷物、運ぶんだもの。 」
「 そうね ・・・ ねぇ ジョー ? 」
「 なに ? 」
「 ・・・ ああいう生活も いいわねぇ 羨ましいわ 」
「 うん … え き
きみも養鶏 やりたいの? 」
「 あ そういうのじゃなくて
…
あの 二人だけで頑張って仕事して
古いお家、あれこれ工夫して 暮らして ・・・ 」
「 あ〜うん そうだね …
ふ ふたり … で ・・・ 暮したいの? 」
「 え? え ええ … あの ・・・ そ そう ね うん・・・ 」
「 あ は。 ぼ ぼくも ・・・ 」
「 うふ ・・・・ 」
二人しかいないのに 彼も彼女も赤くなってそっぽ向き合っていた。
「 あ ・・・ 来週には 皆 来るんだよね? 」
「 そ そうね ・・・ 地下の拡張工事するから ・・・ 」
「 うん また賑やかになるね 」
「 そうね。 」
「 あ そうだ 今日ね、 植木屋の棟梁がくるんだ 」
「 あら そう? なにか ・・・ 」
「 あのね ずっと頼んでいた 柿の樹、 いいのが見つかったって
裏庭に植えに来てくれるよ 」
「 かき! オレンジ色の艶々した実が生るのよね?
うわあ〜〜 ステキ! 庭に実の生る木がある なんて夢みたいね 」
「 そうそう! ぼくもさ 実は憧れてたんだ〜〜
あ 知ってる? 裏庭の隅に 梅の樹があるんだ。
そんでもってその反対側には 柑橘類の木も見つけたよ、まだ小さいけど
」
「 わあ〜〜 ステキ〜〜 ねえ あとで教えて 」
「 ウン 」
植木屋の棟梁は 昼前にやってきた。
彼は 裏庭の洗濯モノ干し場の近くに さっさと穴を掘り ひよひよ〜した
細い木を植えてくれた。
「 ・・・ これが柿? 」
「 はは まだまだ幼木だけどね 」
「 ふうん ・・・ 秋には実がなりますか? 」
「 あはは・・・ 桃栗三年 柿八年
っていうんだよ〜
ははは
そうさな あんた達のチビさんが登って初生りを
かじるさね 」
「「 え … 」」
「 あっしも楽しみにしてますぜ〜〜 」
「「 ・・・・ 」」
二人は またまた赤くなってそっぽを向き合っていた。
週が明けると 仲間たちが集まってきた。
彼らは 交代で地下基地の拡充にあたっている。 最終的には海に通じる
格納庫も備える予定だ。
人数が増えても ― ギルモア邸の朝は 早い。
まず 朝イチでジョーが配達に出る。 彼を見送り 博士が散歩に行く。
そして 今はアルベルトが新聞を持って出かけた。
「 ただいま 」
「 お帰りなさい〜〜 ? あら いい匂い・・・ 」
「 ふむ・・・ 朝メシだ。 」
アルベルトは 朝の散歩から帰ってきて 長方形の包をテーブルに置いた。
「 ? 」
「 焼きたて、だそうだ。 二斤あれば足りるだろう 」
「 ・・・ あ〜〜〜 食パンだ! 」
さっそく包をあけ ピュンマが歓声をあげる。
「 しょくぱん? わあ〜〜 美味しそうねえ〜
え どこで買ってきたの ? 」
「 下の ほら 国道から別れた道に商店街があるだろ。
そこの中のパン屋だ。 」
「 ・・・ あ〜〜 あのパン屋さんね 」
「 あ アンパン とか くりーむぱん とか売ってるお店だろ?
ふうん 自家製かあ 美味そうだね! 」
「 ちょうど焼き上がったところだった。
店の裏にパン窯があって 毎朝焼き上げるんだと 」
「 まあ そうなの? ちっとも知らなかったわ。
あのお店 美味しいんだけど お菓子みたいなパンばかり・・・って
思ってたのよ。 」
「 ウマいモノは とっとと売れちまうってことだ。 」
「 そうねえ さあ 焼きたてパンで朝ご飯よ〜〜 」
ほどなくして 食卓からは同じ声が聞こえてきた。
おいし〜〜〜〜〜〜
「 ― ここは いい土地だな 」
「 せやろ アルベルトはん。 わて、お宝の地 いうてまんねんで。 」
「 田舎暮らしは 紳士の嗜みだ。 」
「 へえ? ・・・ でも 僕は好きだよ、ここの素朴な土地柄が さ 」
「 むう ・・・ 賑やかな土地だ 」
「 賑やか? 」
「 ああ。 地も木も草も 風も ― よく喋る。 」
「 そうなの? ・・・ そっか ・・・ 」
「 フランソワーズはん? ジョーはんにも パン、残しといてや〜 」
「 はい 勿論。 」
「 寝坊野郎は 放っておけ 」
「 あら 厳しいのね 〜 」
「 今 何時だと思ってる? 」
「 うふふ そうねえ 〜〜 ジェットはパンなし ね 」
「 当たり前だ 」
仲間たちとの 美味しい朝食は 代えがたい時間だ。
ここは もしかして わたしの 二番目のふるさと …
?
わたし ここで生きてゆく わ。
うふふ・・・ カントリー・ライフ って素敵よね!
ジョーにも言わなくちゃ・・・と 彼女はにこにこ、仲間たちを眺めていた。
さて ― 後に
ギルモア博士は 松喰い虫 への駆除特効薬を発明し それとなく植木屋の棟梁に
渡した。
「 へ? これ・・・・ 松くい虫の? 薬品ですかね 」
「 いや 全部天然素材ですじゃ 安心して使ってみてください。 」
「 へ〜ぇ さすが学者センセイ すげ〜ですなあ
」
「 いやいや 友人の植物学者にちょいとヒントを教えてもらってね・・・
これで 海岸の松林は復活しますよ 」
「 いや〜〜 ありがて〜〜 そころで ご隠居さん。 相談なんですが 」
「 なにかな 」
「 いやあ その松ですが。 御宅のご門には なくちゃなんねぇですよ 」
「 ?? 」
「 あっしがみたててきますから 任せておくんなさい 」
「 は あ??? 」
やがて 棟梁の手でギルモア邸の門の脇には 立派な松が植えられた。
そして ― この家で暮らし始めてから 初めての ジョーの誕生日のこと。
「 じゃ〜〜〜ん。 ジョー はっぴ〜・ば〜すで〜〜 」
フランソワーズは 食卓にホールのケーキを置いた。
「 わ ・・・ こ これ・・・? もしかしてきみの手作り? 」
「 うふふ〜〜 もしかしなくても 手作りです。 」
「 わ〜〜〜〜 ・・・ 」
<
茶色母さん > の卵を使ってスポンジを焼き
とびきり甘い 生クリームに
温室でとれたちっちゃくて 甘酸っぱいイチゴを山盛りにして
じょーくん おたんじょうび おめでとう と
チョコペンで描いてある。
「 ・・・ わ ・・・・ ぁ ・・・ 」
ジョーは感激で言葉が出ない。
「 ほら どうぞ? 今日のヒーローは ジョーでしょ? 」
「 ! ぜ ぜんぶ ぼくのため? 」
「 そうよ〜 ジョーのお誕生日ですもの〜
あ なんなら全部一人で食べてもいいのよ ? どうぞ〜 」
「 あは
それは ね〜 いっくらぼくでも・・・・
それに 美味しいモノは 一緒に食べるのがもっと美味しいよ 」
「 うふふ・・・ そう ね 」
甘いケーキは もっともっと ・・・・ あまぁ〜〜〜〜〜く なった。
********************************** Fin.
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Last updated : 07,10,2018.
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****************** ひと言 ****************
あの地は 町外れの辺鄙な土地だけど
と〜〜〜ってもいい地域だと思うのです。
柿の樹には すぴか が得意げに 登ります。