『   木枯らしのエチュード  ― (2) ―   』

 

 

 

 

 

 

 

                                    トン カリリ ・・・ トン カリリ ・・・・

 

「 ・・・・?! 」

バゲットを千切る手が ― 止まった。

 

  トン カリリ ・・・ カリ カリリ・・・

 

ごく小さなノイズが耳の隅に飛び込んできた。  ほんのかすかな音なのだが ひっかかる・・・

フランソワーズは眉を顰めた。

「 ・・・・?  なんの音かしら ・・・ 」

「 え? ・・・ 別になにも聞こえないぞ。 

ジャンはカップを置いて怪訝な顔をしている。

すこし遅めのランチを兄妹はのんびりと取っていた。

兄がランチに戻ってくるのは珍しいし午後の出社はそんなに急がない, と言った。

そんなわけで妹が買って帰ったバゲットと特製のオムレツのメニュウとなり、

久し振りに兄妹はまったりとランチ・タイムを過していた。

 

     ・・・ いっけない・・・ !  独り言のつもりだったのに・・・

     わたしったら ・・・

 

フランソワーズは無意識に<耳>を使っていたことに気がついた。

「 え・・・ あ ・・・ 気のせいみたい。 あは・・・いやァね、わたしったら・・・  」

何気ない風に誤魔化そうとしたが 兄もしきりに耳を澄ませている。

 

     やだ ・・・ 家では絶対に 能力 は使わないことにしているのに・・・

     フランソワーズ ・・・ あんた、少しどうかしているわよ?

 

「 風がでてきただけよ、きっと。 気にしないで・・・ そんな季節ですもの。  」

「 ・・・ そうか?  うん どれ・・・ちょっと見てみるよ 」

ジャンは身軽に立ち上がると 居間の窓を開いた。

「 お兄ちゃん ・・・ 」

「 ・・・ ああ これか ・・・ 」

兄は窓から身を乗り出しごとごと何か作業している。

どうやら張り出し窓に置いてあるプランターを動かしているらしい。

「 うん ・・・ これでいい。  そうだ、後で支柱でも立てておいてやるか・・・ 」

「 お兄ちゃん ・・・ プランターがどうかしたの。 」

「 いや。 ほら 薔薇の枝がさ、伸びて・・・風に揺れて窓に当たっていたんだ。

 お前が買ってきたやつさ。 ・・・ 覚えているか? ずっと・・・前に ・・・

 小さな苗だったけどかなり大きくなってな。  ほら 枝も広がっているよ。

 プランターを少しずらしたから もう大丈夫だと思う。 」

「 ・・・ あ ・・・ そうなの?  ・・・ な〜んだ ・・・

 ねえ・・・ あの薔薇。 ずっと・・・その、あれからず〜っと・・・元気だったのね。 」

「 ・・・ ああ。 小さいけどいい色の花が咲くよ。 」

「 ・・・ そう ・・・ よかった・・・ 」

フランソワーズはほっとして 浮かせた腰を戻し座りなおした。

「 ・・・カフェ・オ・レ、もう一杯淹れる? 風が出てきて なんだか冷えてきたわ・・・ 」

「 ファン。 」

「 ・・・ なに。 」

「 なあ。 何があった。 」

「 え・・・? 」

「 だから、さ。 さっき ・・・ 帰ってきた時になにか言いかけただろ? 

 それになんだかお前、ひどくぴりぴりしているぞ。 気になることがあるんだろう?  」

「 ・・・ お兄ちゃんこそ。 さっき何か言ったでしょう? 帰ってきてすぐに・・・

 その ・・・ 不思議なコトに出合ったんだ・・・って。 」

兄と妹は顔を見合わせ しばらくだまってそのまま見詰め合っていた。

 

   カタ ・・・ カタカタ ・・・・

 

今度は本当に風が吹き出したのだろう、窓ガラスがかすかに鳴り始めた。

その音に促され 兄が口を切った。

「 ふん ・・・ オレの方は 別にたいしたコトじゃないんだが。

 今朝ウチのセスナ機を飛ばしていてたら ・・・ 突然旧い型の複葉機が現れたんだ。 」

「 え ・・・ 複葉機って あの・・・ムカシの戦争映画とかに出てくるやつ? 」

「 ああ。 それでな ソイツが急接近しきて オレは慌てて避けたんだが

 すれ違いザマに軽く接触した。  左翼の先っちょだけだがな。 

 勿論 こっちは損傷ないが 向こうさんはちょいと破損していたな。 」

「 接触??  ・・・ 危なかったわねえ・・・ でも そんなことって・・・ 」

「 ウン。 だいたいあんな型の機が 現在飛んでいるはず、ないんだ。

 なにか映画とかの撮影用かな、とも思ったけど・・・ 違うな。 」

「 違うって・・・ ほんものだってこと? 」

「 ああ。 結構よく見たけど、 アレは扮装などを加えた機体じゃない。

 それに すれ違ってから急旋回して見たんだがソイツは忽然と消えてしまったんだ。 」

「 消えた? ・・・ 上昇したとかじゃなくて? 」

「 違う。 完全にオレの機の周辺空間から消えたんだ。 レーダーも何回もチェックした。

 降りてからその時間に飛行中の機体を検索したんだが、 複葉機なんて当然なかった。 」

「 ・・・ どういうこと? 」

「 つまり ― 幽霊みたいに すっと現れてまたすっと消えちまったってことさ。 」

「 ・・・ 幽霊みたいに・・・?   あの老人も 同じだわ・・・ 」

「 老人だって? ファン、お前は何があったんだ?

 なにかあって・・・ それでお前はナーヴァスになっているんだろう? 」

ジャンは コーヒーを一口啜ると、妹に向き直った。

「 話してみろ。  ・・・ 一人で抱えこむなよ。 お互いさまだぞ。」

「 ― うん・・・  あの、ね。  レッスンの帰りに近道して・・・ 公園を突っ切ったの。 

 人通りもほとんどなかったわ・・・ 落ち葉だけがくるくる・・・舞っていた・・・。

 それで なんだか気味の悪い老人が向こう側から歩いてきたのよ。

 そのヒトが・・・ すれ違い様に呟いたの。 ううん、独り言とかじゃないわ。

   <  ジョーに殺される  > ・・・って  」

「 ?! 殺される??  ・・・ ファンの聞き間違いじゃないのか。 」

「 ううん。 周りはとても静かだったし。 他には誰もいなかっから・・・ アレは空耳なんかじゃないわ。

 確かにその老人が言ったの。 」

「 ・・・ 知っているヤツか? 見覚えがある、とか。 」

「 ううん・・・ チラっとだけ顔、見えたけど。 全然しらないヒト。

 でね ・・・その時、風が吹いて・・・ 次の瞬間、そのヒトの姿は消えてしまったの。

 前後左右ず〜っと見回したけど ― 誰もいなかったのよ。

 そうなの、お兄ちゃんと同じに まるで幽霊みたいにす・・っと消えてしまったの。 」

「 ・・・ う〜ん ・・・ イタズラにしては手が込んでいるな。

 だいたい・・・お前、 ヤツのこと、誰か友達に話したのか? その・・・名前とか。 」

「 いいえ? 誰にも・・・。 でも ・・・明日、ジョーがくるでしょう? だからなんだか・・・ 」

「 ふん・・・ オレの方もなあ。 機体のマークを確認しといたから後で調べてみるが。

 ファン・・・ 明日、オレも付き合うぞ。 」

「 え? 」

「 一緒にアイツを迎えに行ってやる。 例のミスター・イングランドも来るんだろ? 晩めし、奢るぜ。 」

「 え・・・ 本当、お兄ちゃん〜 うわ〜〜 ありがとう! 」

「 ふん。 一応、歓迎するさ。 オレは無理解な兄じゃないからな。 」

「 うん、ちゃ〜んと知ってたわ。 わたしのお兄ちゃんはいつだてステキなのよ。 」

「 ・・・ ふん 今更 。  それにな、 お前が聞いたというその老人の言葉も、

 どうも引っ掛かる。  まあ アイツが来てくれて好都合だが。 

「 そうよ〜 ジョーがいるんですもの、安心よ!  う〜ん・・・ この季節だとフォア・グラをおつまみに

 ワインが美味しいかも♪  あ グレートってね、とっても・・・お酒、強いから気をつけてね。 」

「 おうよ、パリジャンがロンドン野郎になんか負けてたまるかよ〜 

 存分に太刀打ちしてやるぜ。  ・・・そうだ、ウチにもいいワインがあったんだ、アレを開けてもいいな。 」

「 ふふふ・・・ お兄ちゃんだって結構楽しみにしているじゃない? 」

「 そうやって笑っているのが一番よく似合うよ ファン。 」

「 ・・・ お兄ちゃん ・・・・ 

「 明日はお前の友達がこの街にくる  ― それだけのことさ、楽しもうぜ。 」

「 うん ・・・ 」

兄と妹は 穏やかに微笑みあった。

 

 

 

「 ・・・ よい・・・っしょ。 」

その夜、電気を消してしまってから フランソワーズはクロゼットの奥からスーツ・ケースを引っ張り出した。

そっと鍵を開ければ ―

「 ・・・ これ ・・・ 用意しておいたほうがいいのかしら。 こんばんは ・・・お久振りね。

 ううん ・・・ 本当はね 着たくなんか・・・ないのよ。 

 もうちょっと もうちょっとだけ こんな毎日をすごさせて・・・ お願い・・・! 」

フランソワーズは スーツ・ケースの中から赤い特殊な服を取り出した。

 

     まだ ・・・ 着たくはないの ・・・ 

 

この服しか着ない日々だった。 この服は自分を守ってくれる唯一の友人だった・・・

あの日々の汗も涙も ・・・ 血も 全部知ってる大切な戦友なのだ・・・ 

  だけど。

平和な時間に埋もれた今・・・・このひんやりとした独特の手触りに微かに嫌悪感すら持っている。

「 ・・・大丈夫よ。  ジョーは ・・・ グレートと休暇でくるだけ。

 一人でぴりぴり・・・ナーヴァスになって、あんた本当にヘンよ、フランソワーズ・・・ 

 ほら・・・防護服が笑っているわ。  ねえ・・・?  」

まだ ・・・ 休んでいてね・・・ そんな声をかけつつ、彼女は丁寧にその服を仕舞いなおした。

 

「 ・・・ 明日・・・ 晴れるといいな。  ジョー ・・・! 早く会いたいわ・・・

 いっぱい いっぱい話したいことがあるの ・・・ キスして・・・抱き締めて・・・! 

 息もできないくらい強く ・・・ 抱いて・・・! ジョーが ・・・ 欲しい ・・・

 ・・・ ずっと 淋しかった ・・・ ずっと ずっと ・・・ 」

 

   カタカタ・・・・ カタタ ・・・・ ガタン ・・・ ガタガタ  ガタン!! 

 

昼過ぎから吹き始めた風は 夜になって本格的な木枯らしになった。

 

 

 

 

  ゴォ ・・・・ン  ゴォ ・・・ ン ・・・ ゴォ ・・・・

 

耳障りなはずのエンジン音もずっと続いているので気にならなくなっていた。

ドルフィン号とは比べ物にならない酷い乗り心地だけれど、 

今のジョーはそんなことに気を回す余裕はないらしい。

彼は 眉間に皺を寄せじ〜〜っと考えこんでいる・・・! 時折そ・・・っと手の中のものを眺めつつ。

「 ・・・ やっぱりさあ。  これ・・・ 指輪の方がよかったかなあ・・・ 」

ジョーは隣席のグレートに かなり真剣は様子できいた。

「 ・・・ う・・?  な、なんだ〜〜 ふぁ〜〜 もう着いたのか? 」

「 え・・・あ、まだだけど。 」

「 ・・・ ふん・・・? せっかくいい気持ちで寝てたのに〜〜  安眠妨害だぞ〜

 まあなあ・・・ あんなモノ、見てしまえば気になるのは無理ないがな・・・ 」

「 え? なんのことだい。 

「 なんの・・・って。 我らがネス湖の河畔で遭遇したアレさ。 

グレートは大欠伸をすると ジョーの席に向き直った。

スコットランドからパリへ  ―  国際線とはいえユーロ圏内の短いフライトなので機内は賑やかだ。

日常的に使用するヒトがほとんどで 皆リラックスして喋ったり荷物の整理をしたりしている。

長旅の緊張感は ない。

特に目立ちもしないありふれた二人 ― 中年紳士と青年 ― に注意を向ける客はいなかった。

「 アレ・・・?  ああ ・・・ 恐竜のことかい。 」

「 ああ・・・って。 ジョーよ、お主〜〜 よく平然としているな!

 たった一日の休暇旅行で 我らがネッシーに遭遇するなんて お主はウルトラ・ラッキーなんだぞ〜 」

「 え? ・・・ ああ だってさ。 ネス湖にネッシーがいるのは当たり前だろ? 

 まあ・・・ 顔、出してくれたのは運がよかったなあ〜 って思うけど、さ。  

 それよりも さ。 グレート・・・ これ ・・・ やっぱり指輪の方がよかったと思うかい。 」

ジョーは両手で捧げ持っている小箱をじ〜っと見つめている。

「 ・・・ ジョーよ。 お主 ・・・ 大物だなあ・・・ 世紀の大発見よりカノジョへのプレゼントが大事 か。 

「 うん。 ぼくにはフランが一番大切だもの。 

 ずっと離れてたんだ・・・ お兄さんに 会うんだ・・・ 今度こそ、ちゃんと・・・言うぞ! 

 そうさ、お願いするんだ。  ・・・い  妹さんと ・・・って。  ・・・ううう ・・・殴られる、かなあ。 

 やっぱり超ナーヴァスになるさ。 当然だろ・・・

 ネッシーやUFOのことは ・・・ 後でいいよ。 」

「 ・・・ は!  そこまで言い切れれば立派だぞ。  ・・・ ま、健闘を祈る!

 求めよ、さらば与えられん ・・・ いや 当たって砕けろ、 ジョー・・・! 

 ・・・ それじゃ シャルル・ドゴールに着いたら起こせ。  ・・・ グッナイ♪ 」

「 あ ・・・ぐ グレートォ〜〜〜・・・ 」

中年紳士は アイマスクを元に戻し、毛布を顎の上まで引き上げてしまった。

「 ・・・ うう・・・ 一緒についていってやる!なんて言ってたのに!

 ちっとも頼りにならないじゃないか〜〜  

 フランソワーズ・・・!  もうすぐ 会えるね。  コレ・・・ 気に入ってくれる・・・かな・・・ 」

ジョーは再び 小箱をそう〜〜っとジャケットの内ポケットに突っ込んだ。

「 ( ・・・ あ〜あ・・・ boy 〜〜 そんなトコにねじ込んだらまたくしゃくしゃだぞ? )

 ・・・ う〜ん ・・・ むにゃ ・・・ 」

「 ちぇ・・・ いい気なもんだ。  ・・・ ああ、そうだ、取材記事、纏めておくか・・・

 ネッシーとUFOの村から ・・・  うん、これイケそうだ! 

ジョーは取材ノートを広げ 熱心に記事を書き始めた。

 

  ―  機は少しづつ高度を下げ出し ・・・ 雲間から大陸の街が眼下に見え始めた。

 

 

 

その朝、花の都は晩秋には珍しく太陽がすっきりと顔を見せていた。

「 ・・・ おはよう、フランソワーズ! 」

「 お早う、シャルル。  ・・・ 昨日は ありがとう! 」

「 いやあ〜 僕の方こそ・・・ 楽しかったよ。  今日も頑張ろうな〜 」

「 ええ♪ ・・・ 今日は転ばないわよ! 」

「 あ お早う〜 フランソワーズ!  シャルル〜〜 ふふふ さすが!

 アンタ、眼も手も早いね〜〜 ふふふ〜ん 」

「 な、なんだよ〜 シルヴィ!  僕はただ・・・今朝もレッスンに集中したいなって・・・

 同じダンサー仲間として、だな!  」

「 無理しなくていいってば。 フランソワーズはステキな子だもの。

 一番早く眼をつけたアンタの勝ち〜ってことよ。 」

「 え ・・・ そ、そうかな  へへへ・・・ 」

「 なあに〜 二人とも?  」

「 あ ううん〜〜 いい天気だねって言ってただけよ〜  あ、オハヨ、ピエール〜 」

大きなバッグを抱えて ダンサー達が集まってきた。

 

      今日も! 張り切っちゃう♪

      ・・・ ジョー・・・! わたし、頑張っているわよ〜〜

      こうやってまた 踊れるわ   今日はあなたに会えるわ

 

      そうよ ・・・ なんてステキなことばっかり・・・♪

 

フランソワーズは 空を見上げ大きく息を吸い込んだ。

「 あら ミレーヌ、お早う! 」

「 お早う フランソワーズ 。 」

ダンサー達の朝が始まる。

 

 

 

   シュ ・・・!    ・・・タン。

綺麗に回り切り、す・・・っと四番に降りた。  

「 ・・・ うん、それでいいんじゃないかな。 」

「 ・・・ ?  あ  ・・・ シャルル ・・・ 」

フランソワーズは ハア ・・・とひとつ大きく息をついて 振り返った。

「 ちゃんと 32回 回りきったじゃないか。 」

「 ・・え ・・・ え  なんとか・・・ 」

クラスが終った後、 今日もフランソワーズは自習をしていた。

レッスンでは 昨日はすっ転び、 今日は途中で落ちてしまった グラン・フェッテ ―

今 やっと最後まで回りとおすことができた。

「 昨日 上手くかみ合わっていなかったタイミング、ばっちりだぜ。 

 その調子でいいんじゃないか。  今の感覚、忘れるなよ。

 ・・・ やったな。   なあ、よかったら・・ ちょっとだけ時間をくれるかい。 」

「 え?  ・・・ なあに。 」

「 うん ・・・ 踊ってくれる?  ・・・ これ! 」

シャルルは携帯MDを床に置いた。  ダンサーなら誰もがようく知っている曲がきこえてきた。

「 ・・・?  ドン・キ の  GP・・? 」

「 うん。  ほらほら・・・ コーダだけでいいからさ !  どうぞ、キトリ♪ 」

すっと出された手を フランソワーズは素直に取った。

「 お願いします、 バジル♪ 」

 

  華やかな曲 に 華やかな振り。  それを 華やかな二人が  ―  踊っていた。

 

 

 

 

  カツカツカツ ・・・ カツカツ ・・・!

 

落ち葉だらけの石畳を 靴音が高く響いてゆく。

「 ・・・ うわ〜〜 急がなくちゃ・・!  大変〜〜 もう飛行機、着いているわね ! 」

よいしょ・・・と大きなバッグを抱えなおし、フランソワーズは一層足を早めた。

 

   ― 一緒に迎えにいってやるよ

 

昨日、兄はそう言ってくれた。  一緒に晩御飯を食べよう、と・・・

「 うっかり自習に夢中で ・・・ ごめんなさい!!! ジョー〜〜〜 ! 

 ・・・ 近道、しちゃう!  ちょっと気味がわるいけど・・・ でも!真昼間ですもの、平気よ 」

あの不気味な老人とすれ違った公園を イッキにぬけてゆく。

 

     ・・・ 今日は ヘンなヒトがいませんように・・・!

 

  カツカツカツ ・・・ カツカツ ・・・!

 

ほんのちょっとだけ 自習をしてゆくつもりだった。 ほんのちょっとだけ・・・

それが ついつい夢中になってしまい、約束の時間を大幅にオーバーしてしまった。

兄に連絡を・・・ と慌てて携帯を取り出せばとっくに留守電が残っていた。

 

    遅いぞ! 先に空港へゆくからな。

    まっすぐにウチに帰るから ― どこかで合流しろ!

 

「 いっけな〜い・・・! ごめん、お兄ちゃん・・・・ アリガト! 」

空にキスを投げ、彼女は猛烈な勢いでレッスン場を飛び出したのであるが。

 

 

  カツカツカツ ・・・ カツカツ ・・・!   カツカツ・・・・? 

 

「 ・・・ あ!  お兄ちゃん!  ・・・ ジョー ・・・! 」

植え込みの角を曲がると 人影が見えた。

三人づれだ ― 誰の歩き方も みんなよく知っている、 だって あの三人は。

彼女がこの世で最もよく知っている男性たちなのだから。

 

    皆 〜〜 !!  遅れてごめんなさ〜い・・・

 

「 ジョー!  グレート ・・・! 」

フランソワーズは大きく手を振って 三人の男たちに向かって駆けていった。

「 ・・・ フランソワーズ ・・・!! 」

石畳の舗道で 落ち葉の雨を受けつつ、彼らは再会した。

「 いらっしゃい! 待っていたのよ〜〜 お迎えにゆけなくて・・・ごめんなさい。 」

「 あ ・・・ ううん いいんだよ。 きみも忙しいんだもの・・・ 」

「 おお マドモアゼル〜〜  元気そうだな。 」

「 グレート! お久し振り・・・ あ、でもね、新聞や雑誌でちゃんと舞台の記事、読んでいるわ。

 ご活躍ね、 おめでとう! 」

フランソワーズは中年紳士に抱きつき 頬にキスをする。

「 おお これはこれは・・・パリジェンヌのキスを頂けるとは忝い・・・

 いやあ〜 空港でマドモアゼルの顔をみられなかったこの坊やの落胆ぶりが放っておけなくてな。 

 ついつい 兄上のお誘いに乗ってしまったよ。 」

「 グレート!  ・・・ 言わないって約束だろ! 」

だまってにこにこしていたジョーがあわてて割り込んだ。

「 今更〜 なにをかっこつけてるんだ? ま・・・ともかく感動の再会だったな。 」

「 ええ!  あ お兄ちゃん ・・・ 遅刻してごめんなさい。 

 自習してたら ・・・ つい夢中になっちゃって・・・ 」

「 まあったく・・・! なんでもいいが、ちゃんと連絡だけは残せ。

 ・・・ オレはまた ・・・ 一瞬 肝が冷えたぞ。  」

「 ・・・ ご ごめんなさい ・・・ 」

「 まあまあ 兄上。 妹御もいろいろ忙しいのでしょう、若者は忙しすぎる位の方がいい。 

グレートが如才なく助け舟をだし、暗くなりかけた雰囲気を変えてくれた。

「 ミスター・ブリテン ・・・ ありがとう・・・! 

 さ! とりあえずウチに荷物をおいてから ・・・ 出直しましょう。 なあ ジョー? 」

「 はい、ありがとうございます。  ・・・ ここはキレイなところですねえ・・・ 」

「 そうか? この季節、日本はとても美しい、と以前に妹からさんざん聞かされたぞ。 

 まあ な パリの秋もいいだろうよ。  ゆっくり過してくれたまえ。 」 

「 はい、 ジャンさん。 ありがとうございます。  」

「 ・・・ ジョー。  ・・・・ 会いたかったわ・・・ずっと ・・・ 」

「 フラン ・・・ ぼ ぼくも ・・・ 」

二人はじっと見つめ会い ―  グレートに小突かれてやっとジョーがおずおずとカノジョの肩を引き寄せた とき ・・・

 ぴくん! とフランソワーズの身体が硬直した。

「 ・・・・ !?  ああ ?! 」

「 んん? フラン ・・・ どうした?  」

「 ・・・ き 聞こえるの ・・・ なにかとても大きなモノが 接近してくる??? 」

「 なんだって?!  ・・・ 脳波通信に切り替えろ  ≪ どこからかい、方向を指示してくれ。 ≫ 

≪  ・・・ ちょっと待って。  なにか・・・変だわ。 音だけで実物が全然みえない・・・? ≫

≪ それらしい敵影は・・・ぼくにも判らないぞ? ≫

「 ??  どうかしたのか、ファン? 」

「 いや なに、兄上。  妹御はちょいと索敵中でしてな。 」

「 ええ?? なにが起きたんだ?? 」

「 それを探っているところです。 」

 

「  あ!!!  上 ッ !!!! 

 

「 な、なんだって??  ・・・うわあ〜〜 !! 」

「 ・・・ きゃあ 〜〜〜 ・・・・ !! 

フランソワーズっ !! 」

   一瞬の強烈な閃光が辺りを照らした。  なにかが ・・・ そこにある!

その中を フランソワーズの身体が吸い上げられてゆく。  その先には ― 巨大な光る物体!

「 くそっ !  フランソワーズ っ !!! 

咄嗟に地を蹴ったジョーの姿が一瞬 宙に消えた。

「 な なにがおこったんだ??  ・・・ あ ・・・ もしかして・・・ 」

「 兄上、こっちへ!  ・・・ ああ ジョーっ !! 」

次の瞬間 ジョーが落下してきた。

「 ―  フランソワーズ !!! 」

「 ジョー! 大丈夫か!? 」

グレートは 舗道に飛び降りてきたジョーに駆け寄った。

「 ・・・ あ ああ。  しかし・・・加速装置を使っても追いつけなかった。 アレは・・・なんだ? 」

「 う〜む ・・・ 昨日のネス湖上空で見たUFO ・・・ か? 

「 ファンは?!  妹は ・・・ 何処だ?! 」

「 ジャンさん・・・ フランソワーズは ・・・ お!? だ 誰だッ? 」

「 うぬ・・・! またしても気配もなく現れおったな、 コイツ・・・なんだ! 」

 

   彼らの前には 黒装束のオトコが立っていた。

 

 

 

   ひゅるり ・・・・ 

一陣の風を受け 落ち葉が華麗に舞い上がり 力なく散らばった。

石畳の舗道に男たちが3人、呆然と立っていた。

忽然と現れた黒い外套のオトコは 再びすっと消えていった  ― まるで幽霊のように・・・。

「 ・・・ 本当かね? その・・・古い懐中時計がタイム・マシンだって?? 

 時間旅行・・って・・・へ! 一昔前のSFかい ?! 

「 わからないけど。 ともかく今はやってみるしかないよ、グレート。  行こう!

 行ってフランソワーズを取り戻すんだ! 」

ジョーとグレートは渡された懐中時計を睨んでいる。

「 待ってくれ。 オレもゆく。 オレも連れていってくれ。 」

「 ジャンさん! 」

「 兄上・・・・残念ですが。 どんな危険があるかわからんです。 

 妹御のことは我々に任せてください。 自宅で待機をお願いします。 」

「 そうです、どうぞ・・・ぼく達を信じてください! フランソワーズは必ず連れ戻します! 」

「 頼む ・・・ 連れていってくれ!  あんた達のことは勿論信用してるさ。

 だが これは! オレ自身の問題なんだ、オレはアイツの兄として・・・

 二度も同じ絶望を味わいたくないんだ!  ・・・ 頼む ・・・! 」

ジャンは必死の形相で 二人に詰め寄った。

 

UFOにフランソワーズが連れ去られ その直後に奇妙なオトコが出現した。

彼は  サンジェルマン伯爵  と名乗った。 

これが タイム・マシンの役目を果たす。 彼女を救えるのはキミたち次第・・・

時空間移民たちの争いから彼女を救いだすのだ・・! 

彼は そう嘯き再び時間 ( とき ) の間 ( はざま ) に消えてしまった。

  ― 古びた懐中時計を残して。

 

「 ・・・ ジャンさん ・・・! 

「 頼む! オレはあの時 ・・・ 眼の前で妹を拉致され・・・ 必死に追跡したが失敗した。

 あの時! オレが間に合ってさえいれば! 妹は・・・ あんな身体にならずにすんだんだ!

 オレのミスのためにアイツは・・・ オレのせいで!  」

「 兄上・・・ それは。 兄上の責任ではありませんぞ。 」

「 しかし! オレはオレが許せないんだ! だからオレなんぞどうなってもかまわない!

 身代わりになってもいい、妹を ・・・ 連れ戻す! 一緒に連れていってくれ。 」

「 ・・・ジャンさん。 わかりました。 

「 おい、 ジョー!? 」

「 グレート・・・ もし ぼくがジャンさんの立場だったら同じことを言うさ。

 行こう! フランソワーズを ・・・ 取り戻すんだ!!  どうしても。 」

「 よ ・・・ よし。  それじゃ兄上、我輩のもので失礼だが・・・ これを! 」

グレートは長いマフラーをジャンに渡した。

「 こいつでもけっこう役にたちますからな。  さ・・・それじゃ、ジョー! 」

「 ああ。  やってみよう。  念じるんだ ・・・ フランソワーズのいるところへ!! 

 

    カチ ・・・!  三人は同じ想いで祈り 古時計のレリーズを押した。

 

 

 

 

「 ・・・・ シャルル???  あなた ・・・シャルルなの? とても・・・よく似ているわ。 」

「 ああ ・・・ そんな名前だったかもしれない。 」

「 え・・・? だってあなた・・・シャルルとそっくり・・・ 」

「 そうかな。  君の時代に存在するために彼の人格を <借り> なくちゃならなかったから・・ 」

「 ・・・ なんのことか全然わからないわ。 いったいここはどこなの・・・ 」

「 ここは ・・・ 時間 ( とき ) の間  トワイライト・ゾーン。 」

「 ?? なぜ わたしを浚ってきたの。 ここから出して! 」

「 ごめん ・・・ 僕は君を監視する役目なんだ。  君は大切な人質 ・・・ 」

「 人質・・・ですって? 」

フランソワーズは眼の前の青年をつくづくと見つめた。

 あの時 ― 突如 空中に吸い上げられ異様な光源の中で気を失った。 

次に目覚めたとき、この ・・・靄の中に浮き沈む場所にいたのだ。 両手は拘束されていた。

「 ・・・ 今は ・・・ いつなの? もうずっと・・・ 永遠にこの場所にいるみたい。 

 手が痛いわ、これを外して・・・ こんなところで、どこに逃げるというの? 」

「 でも・・・  わかった。  ・・・ ほら ・・・ 」

「 あ ・・・ ありがとう・・・ シャルル、と呼んでもいいのかしら。 」

「 ・・・ 君がそう呼びたいのなら。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 <シャルル> の人格を借りてたけど。  君と踊れて楽しかった・・・!

 想いを一つにするヒトと一緒に踊るって最高にステキだったよ。 」

「 本当のアナタは 誰なの? 」

「 僕は ・・・ 僕たちは時間漂流民 ・・・君たちの遠い子孫、時の迷子なのさ。

 ・・・ あんな熱い想いは 初めてだった・・・ 」

「 わたしも ・・・ とても楽しかったわ。 シャルル・・・いいヒトね。 」

「 そんなこと 言わないでくれ・・・ <シャルル> は、 いや、 僕も ・・・ 本当に君のこと、

 その ・・・ 好きなんだ。  だから !  一緒に踊りたいって思ったのは本気だよ。 」

「 ええ  ええ、 ちゃんとわかってたわ。 

 本気じゃなくちゃあんなにステキには踊れないもの。  キトリとバジルは恋人同士ですもの。 」

「 ありがとう・・・!  決して君をだます・・・とかそんなつもりじゃない。

 僕は心底、 君と踊りたかったんだ。  嬉しかったよ・・ 本当に。

 でも ・・・ 指令を受けていたのも ・・・ 本当なんだ・・・。 」

「 指令??  ・・・誰の? いったいなんの目的があるというの。 」

「 ・・・ フランソワーズ、 君に違った人生を選ばせるために・・・ 」

「 違った・・・ 人生 ?? 」

「 そうさ。 ・・・ 穏健派のボスは 君の遠い子孫・・・ 彼が <いない> 世界にすれば

 僕たちはここから脱出できる。  君が違った人生を歩めば彼は存在しないから。 」

「 ・・・ まあ ・・・! 」

「 たとえば ・・・ <シャルル>と共にダンサーとしての人生を生きる、のも選択肢のひとつさ。 」

「 なんですって・・?! 」

「 そう ・・・ こんな未来もあった・・・かもしれない・・・ 」

「 ・・・・?! 」

二人の前に立ち込めていた靄が すこし晴れてきて  ―  その向こうに ・・・

 

 

 

 うわ〜〜  ブラヴォ〜〜〜   

 

場内は歓声でいっぱいだ。  ライトもぐっと明るくなった。

「 ・・・ シャルル ・・! 」

「 フランソワーズ!  最高のキトリだったよ! 」

たった今、踊り終わった二人は荒い息のもと、微笑みあった。

「 さ・・・ この大歓声に応えなくちゃ 」

「 ええ! 」

主役の二人は 舞台の中央に出ると優雅にレヴェランスを繰り返した ― 何回も 何回も。

 

      わたし ・・・!  やったわ・・・!  

      やっと  やっと ・・・ 主役を踊りきったのね・・・!

 

「 おめでとう、フランソワーズ! 」

「 ありがとう、 シャルル。 あなたがいてくれたから・・・わたし、ここまでこれたのよ。 」

「 ・・・ ひとつだけ お願いがあるんだけど。 」

二人はにこやかにカーテン・コールに応えつつ 小声で話している。

「 え? なにかしら。 」

「 一緒に踊って欲しいんだ その・・・ずっと。 これからの人生のパートナーとして。 」

「 シャルル・・・ それって・・・ 

「 だめ かい。 」

「 ・・・ わたしも。 一緒に ・・・ ! 」

「 うわ〜お〜〜〜 やったぜ〜〜〜 !! 

「 ・・・え?? あ、きゃあ〜〜 なになに〜〜 カーテン・コールなのに〜〜 」

シャルルは彼女をひょい、と抱き上げると満員の観客の前に出た。

そして ―  王子のごとく彼女の前に跪き左手をとり薬指にキスをした。

  ―  そして 彼女は姫君のごとく微笑みつつ頷きかえした。

 

    うわ〜〜〜 あ〜〜〜 −−−−!

 

観客の歓声のヴォルテージはますますハネあがり ・・・ このカップルを祝福する。

 

 

「 ・・・ これは ・・・ なに。  こんなことって・・・そんな・・・ 」

「 これは 君のもうひとつの未来さ。  さあ 見ていてごらん。 」

「 ・・・・・ 」

 

 

舞台は一瞬にして消え ―  再び明るくなった。

また大勢の人々がいる。 皆 歓声をあげ、手を叩き・・・ 微笑んでいる。

 

       リンゴーーーン  リンゴーーン ・・・・ 

 

教会の鐘の音が晴れやかに鳴り響く。 

「 おめでとう〜〜〜!! 」  「 おめでとう! ベスト・カップル、おめでとう! 」

歓声の中、 白い豪奢なドレスに身をつつみ長いベールを引き 花嫁が。

ぴたり、と身についたタキシードを着こなし 花婿が。

満面の笑みで 腕を組んで歩いてゆく ・・・ 

「 おめでとう〜〜 フランソワーズ!! 」 「 シャルル〜〜 おめでとう!! 」

大歓声の渦をくぐり歩むうちに  不意に ・・・ 聞きなれた声が彼女の耳元に届いた。

 

  ≪ フラン ・・・ おめでとう。  どうか 末永く幸せに・・・

    二度ときみの前には現れないから・・・ 安心してくれ。

 

    ・・・ きみは普通の人間として 生きてゆけ。  いいね ・・・ ≫

 

「 ???  ジ  ジョー??  どこ・・・どこにいるの? 

  シュ ・・・   一瞬、小さな旋風が花嫁の裳裾を揺らし 通り過ぎていった。

「 ? どうかしたかい、フランソワーズ。 」

「 ・・・ え  あ  ・・・ ううん ・・・ なんでも ・・・ないわ、シャルル・・・ 」

   ― はらり ・・・ と新婦のブーケから花びらがひとひら、風に紛れて飛んでいった・・・

 

   ≪  ・・・ さ  よう   な     ら ・・・・・ わたしの愛した ヒト ・・・ ≫

 

 

 

 

 

 

「 ほら。  君もこんな一生を ―  成功も愛も手にいれる一生を 望んでいるんだろう?

 世界的に有名なバレリーナになり、パートナーと豪華な結婚式を挙げ・・・皆に祝福されて。

 こんな生き方だって できるんだ。  全ては君次第、 君はどちらを選ぶのかな。 」

「 ・・・ ウソだわ ・・・ 」

「 なんだって? 」

「 ・・・ ウソだ、って言ったのよ。  こんな ・・・ こんなこと、ウソだわッ!!! 」

青い瞳が 怒りに燃えていた。

 

 

 

 

「 ?  フランソワーズ!! 見つけたぞ! 」

「 ・・・ お兄ちゃん!!  どうやって ここまで来たの!? 」

フランソワーズの前に 忽然と兄が現れた。

「 ! 誰だ?! 」

< シャルル > は銃を向け、二人の間に割って入った。

「 このやろう〜〜  オマエか!? ファンを浚っていったやつは!  許さん! 」

「 やめろ!  それ以上接近すると撃つ! 

「 やめて やめて 二人とも!  シャルル、彼はわたしの兄よ。 」

「 ・・・ 兄?  ・・・ ああ データを見たな。  そう ・・・君だって別の人生がある。

 あの日 ・・・ あの時の追跡劇が <成功> していれば ・・・ 」

「 な、 なんだ? コイツは何を言ってるんだ? 」

「 見ろよ・・・ ほら?  ちょいと我々が協力すれば ・・・ こんな後半生もあるんだぞ。 」

「 ・・・ な ・・・ なにが ・・・? 」

「 お兄ちゃん! 惑わされないで!! 」

「 これは失敬な。 別に騙しているのではないよ。

 僕たちは 過去の人々に直接手出しすることはできないんだ。 

 巡り巡って自分自身を<消して>しまうことにもなりかねないからね。 」

「 ・・・ なにを 言っているんだ?? 」

「 だけど。  過去の人々 <本人> の気が変わるのだったら。 ・・・仕方ないよねえ?

 僕たちはその手助けをするだけだもの。 」

「 ・・・ 直接 手を下さなければいい、とでも思っているの?! 」

「 まあ ちょっと黙って ・・・  ほら ・・・ こんな人生もありえるんだ・・・ 」

「 ・・・・・・・・  」

兄と妹は 呆然と眼の前に繰り広げられ始めた光景をみつめている。

 

 

 

一人の青年が必死の形相で車を追いかけている。

「 待て!!! 妹をどうする気だッ !? 」

 

しかし彼の自転車は次第に離され ― 黒塗りの車はどんどん遠ざかる ・・・

 

 「 さあて。 ここでちょっとだけ手助けをしようか? 」

 「 ・・・ え?? 」

 <シャルル> は 悪戯っぽく笑うと手元から一条の光線を発した。

 「 ・・・ それ ・・? 」

 

 

  キキッ ・・・ キュルキュルキュル〜〜〜〜 !!!

黒塗りの車が突然ハンドルを切り損ね ガードレールにぶち当たった。

「 あっぶねえなあ・・・ 」

「 ふん、スピードの出しすぎだ! 」

「 巻き込まれたひと、いなくてよかったねえ・・・ 

野次馬たちが遠巻きにするなか、 駆けつけた青年は車の中から少女を助けだした。

「 ファンション!!  おい! ファンション!!! 」

「 ・・・ あ ・・・ お お兄ちゃん ・・・ 」

「 ん?  おい、車・・・ 爆発するぞ! 逃げろッ !!! 」

「 え・・? あ ・・・ あ  脚が ・・・ うごかない ・・・

「 ファンション  −−−−!! 」

 

    バア −−−−− ン ・・・!

 

蜘蛛の子を散らすごとく、野次馬たちが逃げた直後。 黒塗りの車は大破した。

「 ・・・ お お 兄ちゃん ・・・?  」

少女は兄の身体の下からなんとか這い出した。

「 !!  お兄ちゃん??  お兄ちゃん〜〜〜!!! しっかりして!!  」

「 ・・・ うう ・・・ファン ・・・・  ぶ  無事だった ・・・か ・・・ 」

「 お兄ちゃん!  ええ ええ わたしは大丈夫よ! 」

「 よ ・・・かった ・・・ ファン ・・・ 」

「 ?  お お兄ちゃん −−−−!!! 

青年は妹の腕の中で 微笑つつ眼を閉じてしまった ・・・・

 

 

 

 

「 ほうら・・・ これで君の妹は <無事> に 人間として生きてゆける。 

 そう・・・ こんな選択肢もあるんだ。 」

「 じょ ・・・ 冗談じゃないわ! バカにしないで、わたしがいつこんな! 」

「 ・・・ しかし。 それで ・・・ファンが。 ファンが 無事ならば。

  ―  オレは。  オレは ・・・・ これを  えらぶ・・・

「  ― お兄ちゃん !?  」

トワイライト・ゾーンに フランソワーズの悲鳴が響いた。 

 

 

 

 

Last updated :  10,26,2010.               back     /     index    /     next

 

 

 

********   またまた途中ですが・・・

す、すみません〜〜 またまた終わりませんでした・・・

あと一回! 一回だけお付き合いくださいませ<(_ _)>

話の都合上、 切りのいいシーンで切ったので 今回は短いです。

原作、あのお話〜〜 皆様ご存知、と思いつつ、詳しい説明は

一切していません。 未読の方〜〜 『 時空間漂流民編 』 の 
ACT
1 メイデイ  をご参照くださいませ <(_ _)>