『  片恋  −(3)− 』

 

 

 

 

 

サンル−ムの奥には がっしりとしたサイドボ−ドがあり凝った茶器が幾組も納められていた。

フランソワ−ズも見知っている有名な一品モノの絵皿なども さりげなく飾ってある。

 

 ユウのお母様の趣味かしら。

 由緒あるお家のご出身かもしれないわね・・・

 

落ちついた壁紙に彩られた一角に緞子のカ−テンが下がっている。

その足元から 彫刻のある額縁の裾が覘いていた。

 

 ・・・ ? あ・・・。 この絵が落ちたのね。

 あら。 これって ・・・ まあ。

 

フランソワ−ズが壁際から拾い上げたのは 一枚の女性の肖像画だった。

けぶる金の髪、スミレ色の瞳。 

白い頬には 珊瑚の唇には あかるい笑みがうかぶ。

古風な立襟のドレスが よく似合っていた。

絵全体の繊細なタッチと淡い色使いが彼女の優しい雰囲気を余す所なく伝えている。

 

 もしかして。 ユウの ・・・ ママン? 目の辺りが良く似ているもの。

 優しそう ・・・ 貴女は幸せだったのですね?

 だって ・・・ この絵には描いたヒトの愛がいっぱいつまっているわ・・・

 

「 フランソワ−ズ? なにか・・・ ? 」

「 ユウ。 絵がね、ここに飾ってあった肖像画が一枚落ちていたの。 

 ・・・ お母様? 」

「 ・・・ うん。 」

手渡された絵、額縁に触れただけで少年にはすぐにわかったらしい。

「 あら・・・ 他の絵も見てもいい? 」

「 うん・・・ 僕が案内するよ。 隣のは ・・・ 」

「 今度はわたしが当てる番よ? これは 赤ちゃんの頃のユウとママン、でしょ。 」

「 当たり。 ここの庭で描いたんだって。 」

「 まあ、そうなの? わ〜・・・ ユウ、可愛いわぁ〜〜 ユウはお母様似、ね。 」

「 そう、かな。 僕には よくわからないけど・・・ 」

「 わたしが教えてあげる。 ユウのこの優しい瞳と細い顎のラインはお母様そっくり。

 ちょっとウェ−ブがかかった髪もお母様譲りね〜 

 ユウの方がすこし色が濃いだけよ。 」

「 ふうん ・・・ 僕。 初めてだ・・・そんな風に僕の容姿について教えてもらったのは・・・ 」

「 ユウは、凄く素敵なタカラモノをいっぱい持っているわ。 」

「 ・・・ こんな出来損ないでも? 」

「 ユウ。 」 

フラソソワ−ズは ぴたり、と指を少年の口に当てた。

「 そんなこと、絶対に言っちゃいけない。 パパとママンが悲しむわ。 

 ・・・次は ・・・ 判った! ユウのパパ。 これは自画像ね。 」

「 なんだか不機嫌な顔してる? うん、僕のパパさ。

 ・・・ それでも ママンが生きている間はウチではよく笑って 庭で僕を肩車してくれた・・・ 」

「 素敵なパパね。 うん、気難しいア−ティストってかんじ。 天才の苦悩、かしら。

 ・・・ あ ・・・ これ・・・ 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

 

最後の一枚を前に フランソワ−ズは息を呑み立ち尽くした。

 

そこには。

一人の少年の 輝く姿があった。

風にそよぐ柔らかい髪、 温かい光を湛えた絹ベルベットの瞳、

白皙の頬には 透明な微笑が漂う。

 

・・・これ ・・・ ユウ ・・・?

でも ちょっと ・・・ なにか、そうどこかが ちがう・・・

 

フランソワ−ズの沈黙にユウは察しよくちょっと肩を竦めて答えた。

「 ・・・これは 僕のパパが希望した<息子像>です。 

 僕が赤ん坊の頃、パパが大きくなった僕を想像して描いたの。 

 こんな ・・・ こんなんじゃなくて。  ちゃんとした ・・・ 息子 ・・・」

「 ユウ・・・ 」

思いがけない近さで ユウの呟きが聴こえた。

「 ・・・ 僕。 こんなだから・・・ 置いてゆかれたのかな。

 待っても待っても もう誰も ・・・ いない 」

掠れた声と一緒に熱い吐息がフランソワ−ズの項にかかった。

あ・・・っと思った瞬間にするり、と少年の腕が彼女の身体に絡みついた。

「 ユウ、ふざけないで。 」

「 ・・・ふざけてなんか いない・・・ 僕は あなたが・・・ 」

「 ・・・ ユ ・・・! 」

思いがけない力で少年は年上の美しい女性 ( ひと ) を押し倒した。

 

 − バシャ ------ ン !!

 

突然 閃光がサンル−ムを埋めつくしほぼ同時に雷鳴がとどろいた。

 

「 ・・・ あ! ・・・・ 」

フランソワ−ズは反射的に目をきつく閉じ、身を竦めてしまった。

「 そう、そうなんだ。 どうぞ目を閉じていて・・・? 僕と同じ闇を見ようよ。

 あなたはいつも僕を子供あつかいするけど。 僕・・・ オトナだよ?

 ・・・・ 僕だって オトナの男だよ。 あなたが ・・・ 欲しい ・・・! 」

「 ユ ・・・ ウ ・・・・! 」

 

 ・・・ヘンだわ? ユウ・・・どうしてこんなに力強いの? 

 

いくら男の子とはいえ、サイボ−グの自分なら簡単に跳ね除けられるはずなのだが・・・

少年の力が強い、というよりもフランソワ−ズ自身が負けていた。

なにか ・・・ 見えない糸がぎりぎりと彼女をしばりつける。

彼の意のままに組み敷かれ、わずかに首を振り唇を避けていたが

たちまち捕らえられてしまった。

 

 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・・!

 

少年の巧みな舌に絡みつかれ、フランソワ−ズは全身が痺れ手足は全く動かない。

そのくせ感覚だけは妙に鋭敏になってゆく。

 

 ぴく・・・っと 動かないはずの身体が跳ね上がった。

 

濡れて張り付いていた胸元が押し広げられ、しなやかな指が白い胸の隆起をさぐる・・・

あの ・・・ 繊細な音を生み出した指は思いの他強靭で巧みだった。

 

 ・・・ や ・・・ やめ ・・・て ・・・・・ッ !

 

霞む意識の片隅で、 フランソワ−ズは懸命に叫び続けていた。

 

 

  − カシャ−−−−−−−−ン!!

 

ガラスが割れる音とともに さっと雨まじりの風が吹き込む。

 

「 ・・・ あ ? 」

「 ・・・ ユウ! やめて ・・・・! 」

少年がふっと気を逸らせた瞬間、フランソワ−ズは渾身の意志のちからで彼を跳ね除けた。

 

「 だめ ・・・ だめよっ! 」

 

カ−テンが吹き込む風にばさばさと身をよじっている。

叩きつける雨音と間遠になってきた雷鳴を聞き ・・・ 身を起こした二人はただまじまじと見つめあっていた。

 

  怒ってる ・・・ ?

  ・・・ ちょっとだけ

 

  僕。 本気だよ、本当にあなたのこと ・・・

  だめ。 ・・・ お願い、それ以上言わないで 

 

  淋しい 淋しいんだ ・・・ 一緒に 来て。 一緒に ゆこうよ?

  ユウ ・・・ どこへ ・・・?

 

  あなたが 居るべき場所へ  生きていた時間( とき ) へ

  ・・・ ユウ ?

 

言葉にならない会話が 二つの眼差しで交わされた。  

 

「 ・・・ 帰るわ。 」

 

やがて。

くしゃくしゃになった髪をかき上げ、胸元を掻きあわせ。

フランソワ−ズはのろのろと立ち上がった。

 

「 ・・・ごめん、フランソワ−ズ。 ・・・ また来てくれる・・・? 」

「 ・・・ ええ。 もう ・・・ オイタをしては・・・ダメよ。 」

「 ・・・・・・ 」

 

ベルベットの瞳が 彼女の全身に縋り付く。

フランソワ−ズはまだ強張りが残る身体を引き摺り、黙って出ていった。

少年は床に座り込んだまま・・・ ただじっと。

帰ってゆく美しいひとの足音に耳を傾けているだけだった。

夏の嵐は いつしか遠のき始めていた。

 

・・・ どこかで 名残の雷が鳴った。

 

 

 

 

 

「 迎えに行くっていつも言っているのに。 」

ジョ−は不機嫌さを隠そうとしない。

「 ・・・ ごめんなさい。 こんな時間だし ・・・ ジョ−もお仕事で疲れてるかなって思って。 」

「 こんな時間だから、尚更だろう? 」

「 ・・・・・ 」

 

フランソワ−ズがギルモア邸下の国道までタクシ−を飛ばし、息せき切って玄関に飛び込んだのは

そろそろ日付も変ろうとする頃だった。

案の定玄関では ジョ−が待ちあぐねていた。

イライラしつくし、車のキ−をチャリチャリ鳴らしていた彼の表情は険しい。

 

「 ごめんなさい。 」

ぷつっと一言呟き、フランソワ−ズはジョ−の脇をすり抜けた。

羽織っていた薄物のカ−ディガンの裾がひらり、と翻る。

 

「 ・・・ おい。 どうした、なにか ・・・ あったのかい? 」

「 なにも ・・・ ないわ。 」

「 フランソワ−ズ。 」

 

腕をつかまれ、半ば強引に引きとめられ フランソワ−ズは初めてジョ−をはっきりと見つめた。

碧い瞳が 冷ややかに燃えている。

 

「 なにも、ないわ。 」

「 ・・・・・ 」

「 ・・・ あ! ジョ−! 何をするの?! 失礼よ! 」

 

ジョ−は ぱっと彼女のカ−ディガンの前を開いた。

 

まだ湿り気を残し、肌に張り付いていたブラウスはボタンが弾け飛んでいる。

亜麻色の髪を巻き込んでいた白い首筋には ・・・ 紅の花が跡を刻んでいた。

フランソワ−ズの蒼白な頬に さっと血の気が昇った。

 

「 なにかあったのかい。 」

同じ質問をゆっくりと繰り返す、ジョ−の声音は重く低い。

言葉は少ないが セピアの瞳がじっと、瞬きもせずにフランソワ−ズに注がれる。 

 

ジョ−の怒り、いや彼の嫉妬・哀しみ・・・ そんなひどく重い感情が

どっと音をたててフランソワ−ズにぶつかってきた。

 

「 なにも。 あなたが心配するようなコトは、なにもないわ。 」

「 フランソワ−ズ。 」

「 放っておいてくださる? ・・・ ジョ−は 忙しいのでしょう。 

 お仕事も・・・ お付き合いも。 気に掛けてあげるヒトは他にもたくさん居るんじゃない? 」

「 ・・・ 本気で言っているのかい。 」

「 手を離して。 」

「 だめだ。 なにがあったの。 話してくれないか。 」

「 ・・・・・・・ 」

フランソワ−ズは俯いたまま口を噤んでいる。

ジョ−はそんな彼女の腕を放すと そっと肩を抱き寄せた。

「 ぼくは ・・・ その、うまく口では言えないけど。

 ぼくにとって きみは。 ・・・ 一番大切だから。 きみの事、なんでも知っていたいし。

 きみにもぼくの事、知っていて欲しい・・・ 」

「 ・・・・・ 」

「 怒ってもいい、だから・・・ ぼくの方を向いていてくれ。 」

「 ・・・・ ! 」

フランソワ−ズは くっと頭を擡げると、背筋を伸ばしジョ−を真正面から見つめた。

「 わたしは。 いつも。 いつもジョ−だけを見ているわ。 ジョ−を待っているわ。

 なのに。 

 あなた、いつもどこかへ行ってしまうじゃない。 

 わたしを置いて何も言わずに  ・・・ ひとりで行ってしまうわ。

 話してくれないのは あなたの方よ。 」

「 仕事だもの、仕方ないだろう? 」

そんな子供みたいな・・・と、ジョ−はふっと軽い笑みを浮かべた。

「 ・・・ やっぱり全然わかってくれてないのね。

 そんなコト、言ってないのに。 そんなんじゃ、ないのに! 」

つう・・・・・っと 一筋、 碧い瞳から涙が尾を引いて彼女の足元に落ちた。

「 な ・・・? 」

「 ずっと ・・・ これがわたし達なんだって こんな間柄なのがわたし達なんだって

 思ってきたわ。 ・・・ ううん、そう思おうって努力してきたわ。 」

でも ・・・

 

なぜか、お皿に半分残されていたビスケットやら、素っ気ないメモ、

そして 宝飾店からの小包が目の裏に浮かび上がった。

 

ぽろぽろぽろ・・・・

鼻の奥がつぅんとなり ・・・ あとは涙の粒が止め処なく零れ落ちてしまった。

 

「  ・・・ イヤ・・・ わたし もう ・・・ 疲れたわ

 あなた ・・・ 勝手よ、ジョ−。  わたし もう待っているのは ・・・ イヤ。 」

「 ・・・・ フラン、それは・・・! 」

 

 

「 ・・・ フランソワ−ズ 」

 

 

突然、ギルモア邸の玄関ホ−ルに 青白い影が立った。

不意に空間から現れた影は ゆらゆらと揺らめき次第に容貌 ( かたち ) を露わにしていった。

 

柔らかい麦藁色の髪、 すんなりと伸びた手脚、 そして ・・・ ベルベットの茶色の瞳。

 

「 ・・・・ ユウ・・・?  ユウなの?? 」

「 うん。 フランソワ−ズが呼んだから来たんだ。 あなたが・・・望んだから。 」

「 わたしが ・・・ ? 」

「 フランソワ−ズのこころが ・・・ 淋しい、淋しいって・・・

 あなたの居るべき場所は ここじゃないよ。 」

「 ユウ・・・・ 」

 

今ははっきりと姿を現した少年は にっこりと微笑んだ。

そして 息を呑み立ち尽くしているフランソワ−ズにすっと手を差し伸べた。

 

「 一緒に ・・・ 行く? 」

 

あ・・・・

ふらり、とフランソワ−ズの身体が少年にむかって傾いだ ・・・ その瞬間。

 

「 誰だっ!? 」

 

ジョ−はがしっと彼女を抱きとめ、低く誰何した。

ホ−ルの真ん中の白い影は 初めてジョ−に向き合った。

薄暗い空間で 二つの視線が冷たい火花を散らしぶつかり合う。

 

「 フランソワ−ズ? ・・・ このヒトが あなたを悲しませるの。

 あなたは このヒトのために涙を流し辛い想いをしているの? 」

「 ・・・ ユウ、 それは ・・・ 」

「 ふうん。  僕、許せないなあ・・・ 」

 

 − ・・・・ パンッ !!!

 

少年がジョ−に向かって手を上げると 一瞬空気が激しく揺らめき

次の瞬間、 ジョ−の身体は玄関ホ−ルの隅に弾き飛ばされていた。

 

「 ジョ−っ! 」

「 ・・・ な ・・・ んだ? 身体が動かな・・・ うっ!! 」

 

 − バンっ!

 

再びジョ−の身体は宙に持ち上がり激しい勢いで反対側の壁に叩きつけられた。

「 ・・・ う ・・・・ 」

加速しようにも屋内では動きが取れずどうしようもない。

ジョ−はただ・・・ なす術もなく壁に、床に、天井に打ち付けられ続けた。

 

「 ユウ ・・・ ! あなた、なの? あなたが・・・? 」

フランソワ−ズは身動きとれずに、掠れた声で呟いた。

「 あなたを悲しませるモノは 許せないんだ、僕。 」

振り返り彼女の顔を覗き込んだのは ・・・ あの微笑みを湛えたベルベットの瞳。

 

 − ・・・ バシ−−−−ンッ

 

とうとう壁の一部に亀裂が生じてしまった。

 

少年は悠然とホ−ルの真ん中に立ち、軽く掌を向けるだけなのだが・・・

 

「 ユウ! お願い! もう・・・ やめて。 ジョ−が ジョ−が 死んでしまうわ! 」

「 フランソワ−ズ? 

 こんなヤツのために ・・・ もう涙を流さないで。

 あなたは散々 コイツのためにコイツのせいで涙を流してきたじゃない。 」

「 ユウ、それは ・・・ それは。 」

ユウはフランソワ−ズの肩に腕をまわし、柔らかく彼女を引き寄せた。

 

「 ねえ、お兄さん? 」

ホ−ルの暗がりで声も無く蹲っているジョ−に、少年は朗かに声をかける。

 

「 フランソワ−ズは 僕がつれてゆくよ。

 お兄さんの側に居ても ・・・ 彼女は不幸せなだけさ。 彼女に涙は似合わないもの。 」

「 ・・・ 許さない ・・・ 僕は ・・・ 命をかけて ・・・ 彼女を護る ! 」

顔すら上げられないジョ−の くぐもった声が切れ切れに響いてきた。

少年は首をかしげ、微笑みすら浮かべてジョ−を見つめている。

「 ふうん? 身をもって彼女を護るの。 自己犠牲? 生命を掛けて?

 立派だね〜  愛に殉じるんだ? ・・・でも、そうやって また、彼女を置いてゆくの。 」

「 ・・・ ユウ ・・・ 」

フランソワ−ズの肩にユウの指が食い込む。

少年の蒼白い頬は 次第に厳しく引き締まってきた。

「 みんな ・・・ 勝手だよ! 逝ってしまうヒトは酷いよ。 

 残された者は 残った想いを抱えて ・・・ ひとりぽっちだ・・・ 」

ジョ−はゆらり、と身を起こした。

服は裂け彼自身、傷だらけだった。

「 ・・・ 置いて・・・ゆきはしない。 ぼくは死んだりしない。

 彼女の命あるかぎり、ぼくはどんな状態になっても生きて・生きて・生き抜いて ・・・

 彼女を護る・・・! ぼくがその使命を終えるのは ・・・ 彼女がこの世を去るときだ。 」

 

「 ジョ− ・・・ ! 」

 

少年の手を振りほどき、フランソワ−ズはジョ−の元へ駆け寄った。

「 ・・・ フラン ・・・ 

「 動いてはだめよ。 ・・・目は、耳は? 脳波通信はちゃんと使える? 」

フランソワ−ズはカ−ディガンを脱ぎ、ブラウスの裾を引き出すとぴりり・・・と裂いた。

「 目の上の傷が ・・・ 酷いわ・・・ 」

「 ・・・ああ、そのせいかな。 ぼくにはあの声の主がはっきりとは見えないんだ。

 時々透けてしまう・・・・ 少年みたいだけど。 」

「 ・・・・ え? 」

フランソワ−ズは思わず振り返った。

 

ホ−ルの中央には ・・・ 麦藁色の髪をした少年がじっとこちらを見ている。

 

「 見えない・・・ の? ユウの姿 ・・・ 」

「 レ−ダ−に映る影も曖昧だな ・・・ ちくしょう、やっぱりどこかイカレタか。 」

「 そんな ・・・ 」

 

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

 

「 ・・・ ユウ。 あなたは ・・・ なに。 あなたは、あなたの身体は ・・・? 」

「 フランソワ−ズ。 」

少年はゆらり、と一歩彼女に近づいた。

その様子はサンル−ムでお茶を飲み、クッキ−を齧っていた彼と寸分も変らない。

 

ただ。

彼の瞳はいま。 はっきりと彼女を捕らえ ・・・ 澄んだ光が溢れている。

すう・・・っとその光が彼の頬を伝って宙に散った。

 

「 あなたには あなたを待っているヒトがいるんだね。 

 ・・・ それじゃ 一緒に連れては行けないや ・・・ 」

「 ユウ? 」

少年の腕が 彼女の頬に伸びる。

 

「 ・・・ その・・・手を ・・・離せっ! 」

 ・・・くっ・・・・!

 

ジョ−は渾身の力を込めて起き上がろうしたが 瞬時に床に叩き伏せられてしまった。

 

「 ・・・ とっても良く似合っているのに。 残念だね。 」

「 あ・・・? なにを ・・・ ? 」

ユウはふわり、と彼女を抱き寄せ亜麻色の髪をかきやった。

「 ・・・ さあ、これで・・・ お別れだね。

 使命を全うできなかったものは 消えるしかないんだ。

 あは ・・・ 僕って 本当に最後の最後まで 出来損ない だったよ・・・ 」

「 ユウ・・・? 」

「 これ。 本当に僕のママンの形見なんだ。 よかったら ずっと持っていてほしいな。 」

「 ・・・・ ピアス ・・? 」

フランソワ−ズの掌で ちろろ・・・とピアスが触れ合い音をたてた。

「 ごめんね。 こんな ・・・ こんな風にしてフラソソワ−ズと出会いたくなかった。

 僕 ・・・ ズルい子なんだ。 あなたの優しさを利用した・・・ 」

「 ユウ!! そんなコトない! あなたは あなたは 本当に優しい子なのよ

 わたし ・・・わたしこそ・・・あなたの優しさに寄りかかって甘えていたの。 」

「 ・・・ それでも ・・・ 僕は楽しかった。

 ママンやパパが亡くなって ・・・ ずっと、ずっと一人だったから・・・

 フランソワ−ズのビスケット、忘れないよ。 

 フランソワ−ズの微笑み、忘れないよ。

 ・・・ フランソワ−ズのキス、 ・・・ 忘れない! 」

「 わたしもよ、ユウ。 わたしも あのサンル−ムが ・・・ ユウが大好きよ。

 なぜ? どうして ・・・? どこへ 行ってしまうの?? 使命って・・・なに。 

 ねえ、 ユウっ!! 」

「 フランソワ−ズ・・・ きみには 待っているヒトがいるよ。 

 僕は ・・・ 必要ないんだ。 」

「 ユウ! ユウ、 待って・・・! 必要ない、なんて! 」

「 ありがとう ・・・ あなたは僕に対して一度も 眼 を使わなかったね。 」

「 ・・・・! 当たり前でしょう!? あなたは ・・・ わたしの大事なお友達なのよ? 」

「 僕・・・ すごく嬉しかった。 本当に ・・・ごめんね 

 フランソワ−ズに会えて ・・・ よかった。 こんな出会いでも、会えてよかった・・・ 」

「 ユウ! わたしも。  ・・・ あなたのこと・・・わたしは・・・ 」

「 だめだよ、それ以上言っちゃいけない。 」

 

少年は ただじっと。 あの絹ベルベットの瞳を美しい女性 ( ひと ) に当てた。

 

「 フランソワ−ズ ・・・ ごめん。 もう ・・・ 時間がない・・・ 」

す・・・っと少年の唇が フランソワ−ズの唇を捉え ・・・ ふいに彼の姿は揺らぎ始めた。

 

  ・・・ a dieu  ( さようなら ) ・・・・

 

  ユウ! Au revoir ( また会う日まで ) よ・・・!

 

フランソワ−ズの声だけがギルモア邸の玄関ホ−ルに響いていた。

 

 

 

 

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