『 相棒 ― (3) ― 』
さわさわさわ ・・・・・ 気持ちのいい風が庭の木々を揺する。
「 ふ〜〜〜 ・・・ ああ いい季節ねえ〜〜
ニンゲンだけじゃなくて 木やお花たちも喜んでいるみたい ・・・ 」
フランソワーズは テラスへの窓で大きく新呼吸をした。
「 張り切ってお掃除しちゃおっと。 そうそう ニュクスやクビクロの
ベッドもしっかりお掃除しよっと。 毛布も乾してあげなくちゃ。
ニュクス〜〜〜〜 クビクロ〜〜〜 」
掃除機を手にして 彼女は二人を呼んだ。
「 ・・・・? 返事がないわねえ・・・ まだ寝てるのかしら 」
一応リビングに置いてあるニュクスのベッドも 玄関のクビクロのベッドも
< 空き家 > だ。
「 ? あ ジョーと散歩にでも行ったのかなあ・・・
・・・ あら? 」
わんわん きゅう〜〜ん ・・・ み〜〜にゃ〜〜〜あ〜〜〜
「 二人の声 ・・・ 裏庭からだわ? なにかあったのかな ・・ 」
フランソワ―ズは 掃除機を放りだして玄関から飛び出した。
ギルモア邸の裏庭は 裏山にも通じていてかなり広い。
ジェロニモ Jr. が丹精している温室や 張大人のハーブ畑や
洗濯モノ干し場もあり まださらに余裕があり いろいろな木が植えてある。
時々 ジョーが柿の木やら樫の木に登り 読書をしているのだが・・・
「 え〜と・・・? あ! 柿の木のとこにクビクロがいるわ
クビクロ〜〜〜 どうしたの?? 」
「 きゅう〜ん ・・・ わん?? わわわ〜〜ん 」
柿の大きな木を見上げ鼻を鳴らしていたクビクロは
フランソワーズの元に駆け寄ってきた。
「 よしよし・・・ ねえ どうしたの? 」
「 わ わ〜〜〜ん わんっ 」
クビクロは フランソワーズのエプロンの端を咥えぐいぐいひっぱる。
「 え? なあに、一緒に来いって? 」
「 わん! 」
「 いいけど・・・ どうしたの、裏庭でなにか・・・
あ〜〜 待ってよ〜〜 そんなにひっぱらないで 〜〜 」
「 きゅ〜〜〜〜ん 」
すまなそうな声を出すが 彼はエプロンを離さない。
裏庭のほぼ真ん中に立つ柿の木の下で クビクロはぴたり、と止まった。
「 わん〜〜 」
「 ?? この木が どうかしたの? ・・・ あ ??? 」
みにゃあ〜〜〜〜〜ん〜〜
梢の上のほうから なにやら得意気な鳴き声が聞こえてきた。
「 ・・・ ニュクス? 」
「 み〜〜にゃ〜〜〜〜 」
「 どこにいるの? 」
「 みにゃあ〜 」
「 ・・・ あ いた! すご〜い上までも登ったわねえ 」
「 きゅ〜〜ん・・・ 」
クビクロが鼻づらで つんつん・・と彼女の手をつつく。
「 まあ 心配しているのね? うん 大丈夫、 ニュクスは軽いし
立派な強い爪をもっているし それにね あの子はとても勇敢だから。 」
「 くぅ〜〜〜〜ん 〜〜〜〜 ? 」
「 ああ そうねえ お前は木に登れないから心配してるのよね? 」
「 わ わん!! 」
「 ニュクスは大丈夫よ。 ニュクス〜〜〜 」
「 み〜にゃ〜 」
ガサガサ。 葉っぱの間からニュクスが顔を覗かせた。
「 ほら・・あそこにいるわ 」
「 くぅ〜〜〜ん ・・・! 」
「 みにゃあ〜〜〜〜〜〜 みにゃ! 」
と〜〜ん ・・・ ! 黒い仔猫はジョーの背よりもずっと上の枝から 跳んだ。
「 わ わん っ 」
すた。
裏庭の土の上に ニュクスはなにごともない顔で 着地した。
「 す・・・・ご〜〜〜い〜〜〜〜 ニュクス〜〜〜 足音もしなかったわ? 」
「 きゅ〜〜〜ん ・・・ 」
「 ほら クビクロもびっくりしててよ? 」
「 うにゃ? ・・・ にゅわ〜〜ん 」
ニュクスはクビクロの側に駆け寄ると ぺろりん ・・・ と彼の鼻先を嘗めた。
「 きゅ? 」
「 わあ〜〜 キスしてもらったの? いいわねえ〜〜
ふふふ でもね ニュクス クビクロはとっても心配していたの。
ごめんね〜〜〜 って 言ってあげて
」
「 み? ・・・ み〜〜にゃ 」
ぽふ。 小さな手が クビクロの頬に当てられた。
「 くう〜〜〜ん 」
ぺろ〜〜りん。 クビクロの長い舌が黒猫をヒト舐めした。
「 うふふ・・・ 優しいのね。 あら 柿の樹に蝶々がきてる!
柿の花に寄ってきたのかしら ほら 」
フランソワーズは 大枝の方に手を伸ばした。
「 ああ ずいぶん大きな蝶々だわ ・・・ 初めて見た
」
ひら ひらひら ・・・
なぜか毒々しい模様の羽根をふるわせ その蝶々は彼女の手の方に寄ってきた。
タタタタ・・・・ ぴょ〜〜ん
クビクロを率いて ニュクスがフランソワーズの足元に駆けてきた。
「 うにゃ ・・・ 」
片方だけの金色の眼が ひた! と宙に舞う蝶をみつめている。
「 みにゃ! 」
「 〜 う〜〜〜 」
ぽっ・・・ ! とつぜん 毒々しい蝶が 燃えた。
「 ? な なに? 火 ・・・? 」
激しい火の粉を散らしつつ ソレは地に落ちた。
「 ど どうしたの??? いったい・・ 誰かが火をつけた?? 」
フランソワーズは呆然として燃え殻を眺めるのだった。
「 ふむ ・・・ これは茶毒蛾だな。
」
「 ちゃどくが? 」
「 え 本当ですか! どこにいたのかい? 巣があったら大変だ 」
裏庭までやってきて博士は燃え殻を見、眉を顰めた。
ジョーも話を聞くと すぐに立ち上がった。
「 ・・・ え どうしたの? あれは蝶々じゃないの?
」
「 蝶ではない。 茶毒蛾はその幼虫に刺されたら大変なんじゃ。 」
「 え・・・!? 」
「 ニュクスが刺されなくてよかった〜〜 クビクロだって危ないよ。
ちょっと柿の樹の辺り、見てくる。 幼虫だいたら駆除しなくちゃ 」
え〜〜と殺虫剤は・・と ジョーは納戸にしている戸棚を開けた。
「 そんな恐ろしい蝶 ・・・ いえ 蛾だったのね ・・・ 」
「 ジョー 気を付けて駆除しておくれ。 お前たちも気をつけなければな。 」
「 はい。 」
「 お願いね ジョー。 あ ・・・? 」
「 うん? どうしたね ? 」
「 え ええ ・・・ あの蛾 ・・・ どうして燃えたのかしら 」
「 フランソワーズ、お前が駆除して焼いたのではないのかい 」
「 いいえ。 わたし 大きな蝶々だなあ〜 と思って眺めていただけです。
そうしたら ― 突然 ・・・ 燃えたんです。 」
「 突然 燃えた? 」
「 はい。 あの時 ・・・ そう ニュクスが妙な声で鳴いて・・・
クビクロがじ〜〜っと蛾を見つめていました。
クビクロも気になるのかなあ〜〜って思ってました。 」
「 ふむ ・・・ 動物には不思議なチカラがあるからのう。 」
「 でも ・・・ 火なんて ・・・ 」
「 うむ。 火は扱えんよ。 ともかく茶毒蛾の巣があったら大変じゃ。
まずそちらを駆除しよう 」
「 ええ。 あの柿の樹 ニュクスのお気に入りですものね。
ジョー
わたしも手伝うわ。
殺虫剤と ・・・ ああ ゴム手袋とゴミ袋も 必要よね 」
「 あ いいよ ぼくがやる。 きみの肌だと かぶれたりするかもしれないし。」
「 う〜〜ん ・・・ それじゃ わたし、木の下でサーチするわ 」
「 お 頼む! 毛虫一匹だって見逃さないでくれよ。
あ・・・ 毛虫・・・ダメかい? 」
「 あ〜ら。 003 を見損なわないでくださる?
毛虫くらで騒ぐワタクシじゃあ ありませんことよ。 さ 行きましょう 」
「 あはは 頼むね〜〜 あ 博士〜〜 クビクロとニュクスは 玄関に
居させてますから・・・
」
「 おお それがいい。 ニュクスは邪魔するじゃろうしな 」
「 ええ。 クビクロ〜〜〜 ニュクス〜〜 おいで 」
ジョーは玄関をあけると 庭で遊んでいる二匹を呼んだ。
ガサ ガサ ・・・ ゴソ っ !
柿の葉っぱの間から ジョーのシャツが見え隠れしている。
「 ジョー ・・・ 大丈夫ぅ〜〜? 」
「 う〜 ・・・・ ん なんとか ・・・
なあ 毛虫の巣 ・・・ どの辺? ここにはない・・・? 」
「 えっと ・・・ あ もうちょっと左。 そう そこに巣があるわ 」
「 〜〜〜 みっけ! サンキュ。 えいっ 」
ぷしゅ〜〜 ジョーは 樹の枝に掴り殺虫剤を噴霧する。
「 どうだい? 可視範囲に 巣はまだあるかなあ〜 」
「 ん〜〜〜〜 ・・・ この木はとりあえず完了って感じ。 」
「 そうか〜 それじゃこの辺でお終いってとこかな。
あ・・ 他の木とかは大丈夫かい 」
「 ちょっと待ってね。 〜〜〜〜〜っと ・・・ 」
003 は ず〜〜〜〜っと裏庭を見回す。
「 ・・・ 大丈夫 と思うわ。 ここに来て最初に取り付いたのが
この柿の樹 だったのかもしれないわ。 」
「 かもしれないね。 あ 今日はニュクスに この木に登るなって
言っておかなくちゃな〜〜 殺虫剤は危険だよ 」
「 そうね。 ニュクスはお利口さんだからちゃんと説明すれば平気よ。 」
「 ウン。 クビクロにも教えておこうっと。 これ・・・物置に片してくる。 」
「 お願いします。 手を洗ってお茶にしましょ 」
「 わい(^^♪ 」
ジョーは ぴょんぴょん撥ねつつ 物置の方に駆けていった。
カチン カチン ・・・・ ふわ〜〜〜
いい香の湯気と 焼きたてのマフィンの香がリビング中に満ちている。
「 ふ〜〜〜〜 美味しいなあ 〜〜 フランのお菓子ってなんでも
最高〜〜〜さ♪ 」
「 うふふ・・・ この前のオーツ・ビスケットも 最高〜っていってたわよね 」
「 あれもオイシイし このマフィンも最高さ。 ね〜 博士 」
「 うむ うむ ・・・ このジャムはウチのかね? 」
「 はい ウチの温室で採れた苺です。 ジェロニモの丹精ですもの 」
「 あ〜〜〜 ジャム、 マフィンに塗ろう〜〜っと 」
「 うふふ ・・・ あ クビクロ と ニュクスにもオヤツね〜〜
ドッグ・フード と カリカリよ♪ 」
フランソワーズは 皆の足元で大人しく座っていた < 二人 > にも
オヤツのお皿を出した。
「 あ〜〜 おいし〜〜〜 」
「 ジョー、 害虫駆除 お疲れさま。 」
「 あれで根絶できてたらいいだんけどね。
あ そういえば。 蛾は 燃えた・・・って言ってたよね 」
「 え ええ そうなの。 いきなり ぼ・・・って。 」
「 う〜〜ん ・・・ なんなんだろう? 」
「 わたし、 < 視て > もよくわからなかったわ。 」
「 ちょっとさ 火 って 気になるんだ。
最近 駅の方でね 連続の不審火があるんだって 」
「 え 不審火? ・・ 放火かしら 」
「 わからない。 人気のない駐輪場とかで自転車のサドルが燃えたり
深夜にゴミ置き場から火がでたりしているらしい。 」
「 嫌ねえ ・・・ 」
「 今のところは大きな火事にはなってないんだ。
地元の消防団のヒトたちが パトロールしてくれているんだって。 」
「 そうなの ・・・ 大変ねえ 」
「 ぼくも協力するよ。 今晩からね 」
「 そうね。 お願いします。 」
「 ふむ ・・・・ 実はな 前々からちょいと弄っていたのじゃが・・・
ワシは不燃スプレーを消防団にプレゼントしようと思う。 」
「 え〜〜〜 博士。 新発明ですか? 」
「 スプレーしておけば簡単には燃えない・・ そんなもんなんじゃが。 」
「 わ〜〜〜 すごい〜〜 ありがとうございます。 」
「 いやいや 地域の人々にはワシらも世話になっとるしな
」
「 そうですね。 あ ぼく 今日の帰りに消防団の方々に 臨時パトロールに
参加させてくださいって頼んできたんです。 今晩 博士のスプレー、
もってゆきますね。 」
「 おう がんばってこい 」
「 ジョー 夜食は任せてね。 」
「 頼むね〜〜 」
きゅう〜〜〜ん ・・・・ み にゃ 〜〜
クビクロの足元で ニュクスが首をちょっと傾げシッポを動かしていた。
― 結局 ジョーはパトロールに参加したのは一晩だけになった。
その夜のこと。
ウ〜〜〜〜 ウ〜〜〜〜 ウ 〜〜〜〜
消防車が けたたましいサイレンを響かせている。
ファン ファン ファン 〜〜〜
じきに 救急車のサイレンも混じってきた。
「 ・・・ どうしたのかしら 」
フランソワーズは テラスへの窓からそっと音が響く方向を眺めた。
「 フラン ・・・ 火 みえる? 」
ジョーが革ジャンを着こみ リビングに降りてきた。
「 ジョー・・・ 大きな火は見えないわ 」
「 ふうん? あ パトロールの時間にはちょっと早いけど ぼく 行ってくるね。 」
「 ジョー 気をつけて 」
「 大丈夫〜〜 あ クビクロを出さないようにしておいてくれる 」
「 ええ・・・ さっきね、外にでる〜〜っていって・・・ 裏庭にいるはずよ 」
「 ニュクスも? 」
「 そうみたい・・・ 自分のベッドにもクビクロのベッドにもいないもの 」
「 ちょっと確かめてから出かけるね。 クビクロ〜〜〜 」
ジョーは 裏庭に出てから門に向かった。
わんわんわん ! にゃあ〜〜ん・・・
「 うふふ? ちゃんとジョーを送ってくれたのね 」
玄関で二匹の声を聞き フランソワーズはにっこりしていた。
― その日の未明。
ファンファンファン ウ 〜〜〜〜〜 ウ〜〜〜〜
またまた二種類のサイレンが夜空に響いた。
「 !!? また放火かしら ? 」
フランソワーズは飛び起き そっとリビングに降りてきた。
「 ・・・・ 」
カーテンを細めにあけ 海岸通りの方を見つめる。
「 ・・・ あ。 ジョー ・・・ 」
ジョーが門を開けて戻ってきた。 彼女は玄関に飛んでいった。
「 ジョー ・・・ 放火だったの? 」
「 フラン? 起きていたのかい 」
先にドアを開けた彼女に ジョーは驚いた顔をした。
「 ええ ・・・サイレンが気になって・・・ 夜中のサイレンも不審火だったのでしょう? 」
「 ウン。 夜中は明らかに不審火だった。 大事には至らなかったけど・・・ 」
「 さっきのは ? 」
「 ・・・ それが さ。 どうも放火犯とおもわれるオトコが 大やけどしたんだ。 」
「 え?? 犯人 ・・・ が? 」
「 そ。 その本人は 火をつけられた! と喚いてたけどね。 」
「 火をつけられた って言うの? 」
「 ふん。 自業自得だよ。 消防団の人々も警察すら相手にしてない。 」
「 そう ・・・ これで不審火はなくなるといいわね 」
「 犯人は捕まったもの 大丈夫だろ。 さあ もう寝ようよ 」
「 ええ ・・・ あ ミルクでも温める? ちょっと飲まない? 」
「 わ いいね〜〜〜 サンキュ♪ 」
「 うふふ・・・ マフィンの残りも温めましょうか? 」
「 わお〜〜〜♪ 」
二人は ほっこり・・・ キッチンに向かった。
明け方 ― < ふたり > はひっそりもどってきた。
カサ ・・・。 茶色毛は黒毛を抱きこみ丸くなった。
誰も 火 を 彼らに結びつけることはなかった。
Last updated : 06,27,2017.
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********** 途中ですが
激短ですみませぬ〜〜〜 そして また続く で すみませぬ★