『 相棒 ― (2) ― 』
みゅう〜〜 ・・・ くう〜〜ん
心細そうに鳴く仔猫を クビクロはそっと自分の顎の下に抱えこんだ。
「 クビクロ・・・ お願いしてもいい? 」
「 クビクロ〜〜〜 大丈夫かい 」
フランソワーズとジョーは クビクロのベッドの横に張り付きっぱなしだ。
< 彼 >、 クビクロが拾って・・・いや 咥えてきたのは 瀕死の黒い仔猫だった。
彼は とてもゆっくりと家の前の坂を登ってきた。
― できるだけ 仔猫に負担をかけないよう、そっとそ〜〜っと・・・運んできたのだ。
「 ! 博士〜〜〜 お願いします〜〜〜 」
クビクロからはっきりいってぐちゃぐちゃな仔猫を受け取ると フランソワーズは声を
張り上げつつ 玄関に駆けていった。
「 なあ お前 ・・・ どこで拾ってきたのかい 」
ジョーは ぽんぽん・・・とクビクロのアタマをなでた。
「 くう〜〜ん 」
彼はアタマをめぐらせ 国道の方を向いた。
「 あ ・・・ あの道かあ ・・・ よく気がついたねえ
」
「 わ わん 」
「 もしかして ・・・ あの仔猫の鳴き声とか・・・聞こえたわけ?
気になって それで ・・ 門を飛び越えしたまでいったのかい 」
「 わん ! 」
ぱたぱたぱた・・・ 彼は太いしっぽを元気よく振った。
「 そっか・・・ 心配しちゃったけど。 お前は理由もなく勝手なコト、
するようなヤツじゃないもんなあ
」
「 わん。 くう〜〜? 」
「 うん ・・・ 博士に任せておけば大丈夫さ。
覚えてるかい? お前も博士に助けていただいたんだぜ 」
「 わ わん! 」
「 なあ ・・・ クビクロ。 お前がこんなに元気なんだもんな〜
あのチビっこだって助かるよ きっと。 」
「 くうん 」
ぱたぱた ・・・ 尻尾をふるとクビクロはジョーのひざにそっと
顎を乗せた。
「 よしよし・・・ あのチビ猫が元気になったらチビ専用の
新しい小屋を作ってやるかあ 」
「 わん? わわ〜〜〜ん 」
トントン。 クビクロの太い前肢がジョーの脚をたたく。
「 なに? 」
「 くぅ〜〜ん くん 」
「 え? 一緒がいい って? 」
「 わん 」
「 そうか〜〜 それじゃお前のウチをもうちょっと広くするかい 」
「 わわん わん! 」
「 よ〜し それじゃこれから地下のロフトにいって建築資材を
もってこよう そうだ お前も来るかい? 」
「 わん! 」
「 おいで! あ ・・・ でもそ〜〜っとな。
あのチビの治療の邪魔しないようにな 」
「 くん。 」
相棒同士は 足音を忍ばせつつロフトに降りていった。
・・・・・ くぅ ・・・・ く ぅ
仔猫はなんとか息をしている ・・・ ふうに見える。
肢には小さなギブスが嵌められ 顔の半分はガーゼで隠されている。
点滴の細い細いチューブが繋がれてゆっくり栄養液が落ちてくる。
「 ・・・ ああ 可哀想に ・・・ 」
フランソワーズは箱ベッドの脇で半分涙声になりそうだ。
足元にはクビクロが控えている。
「 うむ ・・・ 今はなんとか一命をとりとめたがなあ ・・・
この後はこのコの生命力にかかっておる 」
博士は ほ・・・っと息をつく。
「 やっぱり交通事故 ですか 」
「 おそらく な。 跳ね飛ばされ また撥ねられたのじゃろう 」
「 ひどい・・・っ! 」
「 そのまま道路にたたきつけられたら そこで絶命しておったじゃろう 」
「 え それじゃ・・・? 」
「 アイツが クビクロがキャッチしたらしいなあ 」
「 え〜〜〜 そうなんだ?? やったな〜〜 オマエ 」
「 わん ! 」
「 ただ ・・・ 」
「 え? 」
「 片方の眼が ダメかもしれん 」
「 ! 」
「 人工のモノにする か? 」
「 ・・・・・ 」
フランソワーズが 博士をじっと見つめ 静かに首を横に振った。
碧い瞳が 博士を捕え離さない。
「 ・・・ そう じゃな。 自然 が一番じゃな 」
「 はい。 」
「 くう〜〜〜〜ん ・・・ 」
「 あ クビクロ 」
クビクロは そっと仔猫の側に寄り添うとぺろり、と舐めた。
「 うん 今はそっとしておいてやろうね 」
「 くぅ〜〜 くう〜〜〜ん 」
太い前足がジョーの脚をちょんちょん・・と叩く。
「 うん? なんだい 」
「 きゅ〜〜〜う! 」
クビクロは仔猫に顔を近づける。
「 え? お前が ・・・ 看病するって? 」
「 わん! くぅ〜〜〜 」
若い犬はそう〜〜っと仔猫を咥えようとする。
「 ・・・ あ〜 ・・・ 動かしても大丈夫かなあ 博士? 」
「 そうじゃなあ ・・・ 保温だけには気を配ってやれば 」
「 そうですか じゃ クビクロ〜〜 頼んでもいいかい 」
「 わん! 」
ぱたん。 クビクロは毛足の長いカーペットの上に横になった。
「 それじゃ ・・・ えっと ? 」
ジョーはそう・・っと仔猫を両手で持ち上げた。
「 ジョー・・・! 大丈夫? 」
「 うん 細心の注意を払っているよ〜 クビクロ、 お腹の側に 」
「 わわん! 」
「 え 違うって? どこにこのコを寝かせればいいのかい 」
「 きゅ〜〜ん
」
クビクロは アタマをカーペットにつけ顎を上げた。
「 え・・・ の 咽喉? 咽喉元に寝かせろって ? 」
「 くうん。 」
「 じゃ ・・・ これで・・・いいかい? 」
「 クビクロ 苦しくないの? 」
ジョーはフランソワ―ズの手助けを得て 弱っている仔猫を
そう・・・っと クビクロの顎の下に寝かせた。
「 くぅ〜〜〜〜 」
ぺろり。 彼は仔猫をそっと舐めた。
「 まあ ・・・ 頼もしいわあ〜〜 あ タオルケットを掛けてあげるわね。 」
「 うむ。 これはクビクロに任せるのが一番かもしれんな。
動物同士には不思議な癒しのチカラがあるのでな 医学的な治療は済ませた。
あとは この仔猫の生命力によるものだよ 」
「 そうですね。 クビクロ お腹減ったらすぐに知らせろよ? 」
「 わ わん 〜〜 」
それじゃ ― 静かにしていようね・・・と ニンゲン達はリビングを離れた。
「 頼む な ・・・ 」
ジョーは最後に振り返り ライトを落とした。
「 み〜〜〜 にゃ〜〜〜〜あ!!! 」
「 うわ・・ ! 痛いよぉ〜〜〜 こらあ〜〜 」
真っ黒な仔猫が弾丸みたいに駆け寄ってきて ジョーのジーンズを駆け上る。
「 こ こらあ・・・ いて いててて〜〜〜 」
「 みにゃみにゃ み〜〜〜にゃ〜〜 」
仔猫はジョーの肩まで一気に登ると ぺろり。 彼のほほを舐める。
「 うへ〜〜〜〜 ニュクス・・・ カワイイなあ〜 」
「 み〜にゃ! 」
「 あ お腹 減ってるのかい? え〜と ミルク ミルク〜〜っと 」
「 みにゃ? にゃああ〜〜〜ん 」
ジョーの肩に留まったまま 仔猫は声を張り上げた。
トン。 タタタタ ・・・・
ドアが開いて 茶色毛の若い犬が駆けてきた。
「 あは クビクロも かい? 」
「 みにゃ! 」
「 わんっ 」
「 よしよし・・・ 今 もってくるね〜〜 あ 一緒にゆくかい 」
ジョーは 二匹を従えるとキッチンに入っていった。
クビクロが拾って ― いや 助けてきた真っ黒な仔猫には ニュクス という
名前がついた。
「 ニュクスってね 夜の女神のことなの。 ね〜〜 このコ お腹もしっぽも
どこもかしこも真っ黒なんですもの 」
フランソワーズは 愛しそうに仔猫の咽喉元を撫でる。
「 ふうん ステキな名前だねえ〜 やあ 金色の眼が素敵だね 」
「 ね? 夜空の一番星みたいね? 」
「 うん うん 綺麗な星だよ 北極星みたいだ 」
「 うふふ・・・・ ニュクス。 お前の名前よ〜〜 」
「 みゅう〜〜〜〜〜 」
仔猫は ちょいと首を傾げ フランソワーズを見上げている。
最初 ・・・ 拾われてきた仔猫は かなり危うい状態だった。
骨折と打撲 ― ニュクスはその小さな身体で必死に闘った。
残念ながら ・・・ 片方の眼は助からなかった。
片目を失ってしまったけれど 本にゃんは気にすることもなく 生きよう! とする
エネルギーのカタマリになっていた。
この家にやってきた夜からクビクロが 徹夜で看病してくれた。
彼は 仔猫を身体で温め 舐め 世話をした。
傷の痛みだけでなく 保護した最初は生きる気力も失いかけていた仔猫だったが ・・・
クビクロの看病のお蔭で ゆっくりと、しかし着実に回復していった。
みにゃ〜〜〜〜〜ん !!!
ある朝 仔猫はしっかりと立ち上がりクビクロの肢の間で声をあげ宣言をした。
あたし。 げんきになったよぉ〜〜〜〜〜〜
「 くう〜ん 」
そんな小さな存在を クビクロは優しく舐めるのだった。
クビクロとニュクス。 二人はいつも一緒に過ごす。
「 あら・・・? ニュクスがいないわ? ニュクス〜〜〜 どこ? 」
寝る前に 彼女の箱ベッドをのぞき、フランソワーズは声をあげた。
「 ヘンねえ・・・ 晩ご飯の時にはちゃんといたのに・・・
あのあと・・・ クビクロと遊んでいたけど ・・・ クビクロ〜〜〜
ねえ ニュクス、 しらない ? 」
フランソワーズは玄関へのドアを開けた。
クビクロの寝床は 玄関に置いてある。 番犬として当然のポジションだ。
「 ぼくの部屋で一緒に寝ようよ? あ ・・・ ちゃんと掃除するから
いいでしょう? 」
クビクロを拾ってきた当初、 小さな彼はジョーのベッドで一緒に眠っていた。
精悍な若犬になったとき 彼は自分から玄関に座った。
「 え そこで寝るって? 」
「 わんっ!」
「 え〜〜 ・・・ 一緒に寝ようよ〜〜 」
「 ・・・ く ぅ ん・・・ 」
クビクロは ちょっとすまなそうな顔をしたがすぐに顔をあげた。
「 わん。 わわん ! 」
「 どうしてもここがいいのかい 」
「 わんっ。 」
玄関にきりりと位置どり 彼は太いしっぽをぱたぱた振った。
「 そうかあ ・・・ うん それじゃさ。 淋しくなったらぼくがここにくるね
たまには一緒に寝ようよな〜〜 」
「 わん♪ 」
「 えへへ・・・ あったかいなあ〜〜〜お前は 」
ぺろぺろ〜〜〜 温かい舌がジョーのほっぺを嘗めた。
そんなわけで クビクロの寝床は玄関にあるのだが・・・
「 ・・・ ねえ クビクロ ・・・ 寝てるかしら・・・・
起こしてごめんね・・・ あの・・・ ニュクス、知らない? 」
フランソワーズはそう〜〜っと彼のベッドに近づいた。
「 〜〜 くぅ〜〜ん 」
クビクロはゆっくり首を擡げた。
「 眠っていたわよね・・・ ごめん・・・ あのねニュクスがいないのよ。
まさか外には出ていないと思うだけど ・・・ 」
「 きゅぅ〜〜ん 」
かさ。 クビクロは姿勢を動かさずしっぽだけを振る。
「 え? ・・・ あ あら ・・・ 」
「 くぅ〜ん 」
クビクロの茶色毛のお腹には ― 真っ黒な小さなカタマリがあった。
「 あらら・・・ ニュクスってば〜〜 」
「 ・・・ くう〜ん 」
静かにしてください ・・・ クビクロの茶色い瞳がじっとフランソワーズを見つめる。
「 うふふ ・・・ はいはい 静かに、でしょ。
あなたと一緒なら安心だわ。 クビクロ、 ニュクスのことお願いね 」
「 きゅん。 」
彼はほとんど動かない。 仔猫はもう安心し切った様子でく〜く〜〜 ・・・
穏やかな寝息をたてている。
「 ふふふ・・・ それじゃ ゆっくりお休みなさい〜〜
明日の朝は一緒にゴハンね。 」
「 きゅ〜ん 」
「 うふふ・・・ 仲良しさんね。 ニュクスもすっかり元気になったし
本当にクビクロ、あなたのお蔭よ・・・ ありがとうね 」
「 くぅ〜〜ん 」
フランソワーズは そう・・・・っと彼の背中を撫でた。
クビクロはこそっと尻尾を振ると 仔猫を抱えこむ風に丸くなり眼を閉じた。
「 ・・・ 温かいわね、クビクロ・・・ あら? 」
「 し〜〜〜〜
」
リビングへのドアの後ろに ジョーが立っていた。
「 ・・・ ぼくもさ ニュクスのことが気になって見にきたんだ 」
「 まあ ・・・ 」
「 でも 大丈夫。 彼に任せておけば安心さ。 」
「 そうね。 」
「 具合が悪い時でもさ クビクロと一緒にいればすぐに治るんだぜ 」
「 まあ そうなの? 」
「 ウン。 経験者は語る さ 」
「 あら ・・・ ジョーも? 」
「 うん。 ぼくだっていろいろあるもん、 落ち込んだ時には クビクロが一番。
特効薬だよ〜。 だからね ニュクスはもう大丈夫さ。
あは ・・・ ぼくも二人と一緒に寝たいよう〜〜〜 」
「 あらら・・・ じゃ ジョーのベッドは玄関にする? 」
「 え ・・・うん。 ホントはさ きみの ・・・ となりが いいなあ 」
「 え なあに? 」
「 ・・・ なんでもなあい〜〜〜 ぼく 毛布もってくるね〜 」
「 あ ・・・ ジョーったら 」
ジョーは ぱたぱた〜〜 二階に駆けあがっていった。
「 うふふ・・・ 可笑しなジョーねえ 」
「 くう〜〜ん?? くう〜〜 」
クビクロはアタマを擡げると フランソワーズの手をそっと舐めた。
「 ふふ 温かいのね 」
「 きゅ〜ん?? 」
「 え なあに? 」
茶色の瞳が じっと彼女を見つめる。
「 きゅ〜〜ん ・・・? 」
「 ? なあに。 お腹空いたの? ちがうの? もしかしてジョーのこと? 」
「 くうん 」
ぱたり。 尻尾が一回振られた。
「 ジョーは お前の親友なのね? いいわねえ 」
「 わん。 くぅ〜〜ん 」
「 お前はジョーがだい好きでしょ? 知ってるわ。 え・・・ なあに? 」
「 ・・・・ 」
くい。 濡れた鼻づらがフランソワーズの手に触れた。
「 わたし? ええ わたしもジョーのこと、好きよ? 」
「 くう〜〜〜ん くん♪ 」
「 ・・・うふふ ・・・ ナイショだけど。 クビクロだけに教えちゃう。
わたし・・・ ジョーのこと 好き♪ アイシテルの♪ きゃ ナイショよう〜〜
ジョーは わたしのこと・・・ 好きかなあ・・・ 」
「 くうん くう〜〜ん 」
茶色毛の犬は 優しい瞳で彼女をみつめると ぱたぱた・・・尻尾を振り
くるり・・・と丸くなった。
そのお腹のところには 黒い仔猫がく〜く〜〜・・・ 眠り続けている。
「 ・・・ ありがとう。 聞いてくれて・・・
ね? ニュクスのこと、お願いね。 それとさっきのハナシは ナイショにしてね? 」
白い指が茶色毛の耳の後ろとほっぺたを掻いた。
「 それじゃ ・・・・ お休みなさい。 」
「 わん。 」
彼女は 玄関の灯を常夜灯だけにしてそっと離れた。
「 えへ ・・・ やったぁ〜〜〜〜〜 」
リビングのドアの陰で ジョーが一人で真っ赤になって盛り上がっていたのを
さて 知っているのはクビクロだけ だったかもしれない。
数日後の朝 ―
「 クビクロ〜〜〜 散歩に行くよ〜〜 」
ジョーはリードをもって玄関前で相棒を呼ぶ。
「 みにゃ〜〜〜〜〜〜 !! 」
まず 真っ黒な弾丸が飛んできた。
「 ニュクス〜〜〜 お前は留守番だよ? これからずっと
海岸線を走るんだから ・・・ お前にはちょっと無理だよ 」
「 にゃにゃっ! にゃ〜〜 」
仔猫は ジョーの足元に座り込み動かない。
「 え〜〜 ウチで待っててくれよ〜〜 あ クビクロ〜〜 」
「 わ わん! わん? 」
クビクロが裏庭から駆けてきた。
「 散歩に行こう! さあリードをつけるよ〜 」
「 わん。 」
彼は す・・・っとジョーの側に寄った。
その途端に ― すたっ! 仔猫がジャンプした。
「 わ? え〜〜〜 ニュクス〜〜〜 」
「 にゃん♪ 」
「 わん♪ 」
ニュクスはちゃっかりクビクロの背中にのっかったのだ。
「 ニュクス〜〜〜 降りてくれよ クビクロだっていやだろ? 」
「 わ わん。 」
ジョーは慌てて仔猫を下ろそうとしたが ― クビクロがすっとジョーから離れる。
「 え〜〜〜 いいのかい? 」
「 わん。
」
「 にゃ〜〜〜ん 」
「 え・・・ それじゃ途中で草臥れたら ぼくのリュックに入るんだぜ?
いいかい ニュクス。 」
「 にゃ〜〜ん 」
「 それじゃ ・・・あ ペット・シートを入れてくかあ。
そうだ フランに言っておかないと・・・ フラン〜〜〜 あのさあ〜〜 」
「 なあに? 」
テラスの窓が開いて フランソワーズが顔をだした。
「 あのさ ・・・ ニュクスも散歩に行くっていうから 」
「 あら ・・ わ〜〜〜 ニュクス いいわねえ・・・ クビクロ、お願いね〜 」
「 海岸線 ず〜っと走ってくるから。 ペット・シート、くれる? 」
「 はいはい。 あと タオルとお水もよ ジョー。 」
「 あ そうだった ・・・ ありがと〜フラン。 」
準備万端、 リュックを背負ったジョーは ニュクスを背にのせたクビクロの
リードを持って 門を出ていった。
「 いってらっしゃ〜〜い ・・・ ふふふ なんかいい風景ねえ 」
フランソワーズは にこにこ手を振り 一人と二匹を見送った。
はっ はっ はっ ・・・・
クビクロは軽快な足取りで駆けてゆく。
「 ・・・ は 速いな〜〜〜 クビクロ・・・ ふ ふ ふ
おいおい お手柔らかにたのむよ〜〜 ふ ふ ふ ・・・ 」
ジョーもかなり真剣に駆ける。
「 ニュクス・・ 大丈夫かい 」
「 み〜〜にゃ〜〜〜 みにゃ 」
クビクロの背に張り付いている仔猫は 元気な声をあげる。
「 振り落とされるなよ〜〜 」
「 みにゃ! 」
当たり前よって顔で 仔猫は余裕な表情だ。
「 二人ともスゴイなあ・・・ あ あっちの河口の方まで行ってみようよ 」
「 わんっ ! 」
三人は海岸線をず〜〜っと走り 川が流れ込んでいるところまでやってきた。
「 はっ はっ ・・・ あ〜〜〜 こんなトコまで来ちゃったなあ
あ なんか橋っぽい板が渡ってるよ あっち側 いってみようか 」
「 わん。 」
「 ・・・・ 」
「 ふうん〜 この辺は初めてだよね 面白いそうだ 」
「 わん! 」
ジョーは クビクロと一緒に簡易の橋に見える板キレが連なっているところまで来た。
「 う〜ん ・・・ ぼくの体重 ・・・大丈夫・・・だよな? 」
トントン ・・と片脚をかけ ジョーは橋の上に登った。
「 わん!!! 」
クビクロが ずい・・・っと前にでる。
「 え 先に行くって? うん うん 頼むね 」
「 わんっ 」
クビクロは慎重な足取りで橋を渡ろうとし始めた ― が。
「 みにゃっ! にゃ〜〜〜〜ご!!
」
突然 茶色毛の背中で黒猫が立ち上がった。
「 うわ? ニュクス! 危ないよ 〜〜 」
「 にゃ! にゃ〜〜〜〜〜 あああ〜〜〜 」
ぱし。 仔猫はクビクロの首の方までにじり寄り彼を打った。
「 こ こら〜〜 イタズラはだめ え? 」
「 にゃああああ〜〜〜! 」
ぱし ぱしっ。 仔猫の小さな手は動きを止めない。
「 ? ・・・ ! くぅ〜ん 」
最初 驚いていたクビクロは すぐにくんくん・・・ 橋を嗅ぎ始め
歩みを止めた。
「 なにか あるのかい?
」
「 わ わんっ ! 」
ガリリ。 前足で板をひっかく。
「 ここ・・・? 」
ジョーは橋の上に慎重に屈みこんだ。
彼には 003のような透視能力はないが 常人を遥かに凌ぐ視力が備わっている。
「 この板が どうかしてるのか・・・? あ。 」
身を起こすと ジョーはそろそろ・・ 後退を始めた。
「 アブナイトコだった・・・ クビクロ〜〜〜 ニュクスを連れて先に
この板から降りろ。 この先は ― 裏側がひどく損傷している!
水に浸かって朽ちて・・・ 抉られている。 知らずに歩いたら踏み抜いて
河に落ちてしまうよ! やっば〜〜〜〜 」
「 わんっ ! 」
クビクロは さらに慎重な足取りで元の位置に戻った。
「 よ〜し じゃあ ぼくも ・・・ ジャンプしたいとこだけど・・・
そんな力には耐えられないだろうな 」
「 わんっ 」
「 大丈夫だよ ・・・・ っと ・・・ 」
最後の一足 二足は 水に浸かってしまったが なんとか撤退できた。
「 ふぅ〜〜〜〜 ああ 助かったよ、クビクロ 」
「 わ わん !! 」
「 え? 」
「 きゅ〜〜ん きゅう〜〜 」
クビクロは 背中に乗る相棒にアタマをめぐらせる。
「 あ そっか! ニュクスが気がついたんだよね〜〜 猫のカンかなあ〜
ありがとう ニュクス〜〜
」
「 みにゃみにゃあ〜〜〜〜 」
ジョーに撫でてもらい クビクロにぺろり、と舐めてもらいニュクスは
長い尻尾をくるり くるり 回した。
「 ここは危険だね。 あとで交番に届けておくよ。
さあ ちょっとここで休憩しようよ。 ほら 水 飲むかい? 」
ジョーは 河原に座り込むとリュックを開けた。 大き目な包みが入っていた。
「 ・・・ あ。 ドッグフードとカリカリが入ってる〜〜〜
お。 こっちはオーツ・ビスケット〜〜♪ フラン〜〜 サンキュ〜〜
さ クビクロ ニュクス、 オヤツにしようよ。 水もあるぜ 」
「 わん♪ 」
「 にゃあ〜〜ん 」
< 三人 > は 一緒にオヤツタイムを楽しむのだった。
「 まあ そうなの? ニュクス〜〜 ありがとう! 」
フランソワーズは 膝の上の子猫を抱き上げ頬ずりをした。
帰宅して ジョーは散歩の顛末を語ったのだ。
「 うん ・・・ 動物のカンってすごいよなあ ・・・
あ オヤツ、ありがとう! 美味しかったよ〜〜 」
「 うふふ・・・ ちょっとサプライズ〜って思って 」
「 すご〜〜くうれしいサプライズだった♪ 」
「 うふふ ・・・ ね ・・・ 今度はわたしも一緒に行って いい? 」
「 もちろんだよ〜〜〜 」
うっは〜〜〜 やったあ〜〜〜
ジョーはもうすっかり舞い上がってしまった。
「 あ・・・ これって あの事件じゃない? 」
「 ― なに?? 」
フランソワーズが 付けっ放しのTVを指した。
「 ほら ・・・ 轢き逃げの容疑者 逮捕って ・・・ 」
「 え ・・・ あ そうだね ! クビクロ 喜べ〜〜
お前の両親を轢いたヤツがつかまったぞ 」
「 酷いニンゲンもいたものね! 許せないわ! 」
「 うん。 」
「 ・・・・・ 」
「 ・・・・・ 」
憤る二人の足元で クビクロ と ニュクスは じっと画面を見つめていた。
Last updated : 06,20,2017.
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************* またまた途中ですが
ニュクス は 多分 かなり 犬っぽいにゃんこ に
育ったと思うのですにゃ☆ 続きます〜〜 <m(__)m>