『 そして 愛と ― (3)−1 ― 』
§ ほし
ざわ ・・・・ ざ・・・・ さわ さわ ・・・
心地よい風に 庭中の木々や花々がゆれた。
「 ふう ・・・ 気持ちいいな。 ああ この辺りはもう水やり完了だね〜
それじゃ フランは奥の庭のほうかなあ
」
青年は花壇の間をゆっくり歩きつつ きょろきょろ辺りを見回している。
茶色の髪が さわさわと風にゆれる。
「 朝一の水やりに・・って言ってたけど ・・・ お〜〜い・・・? 」
彼は少し声のトーンを上げた。
ぶ〜〜ん ・・・ 蜜蜂の羽音が聞こえるだけだ。
見回す限り 人影はない。
「 ・・・ 外に出たのかなあ ・・・ 最近 物騒なのに
」
彼は庭のぐるりに張り巡らせされた バリアのフェンスに視線を飛ばした。
・・・ といっても広大な庭の周囲、 通常の視力では花壇の草花やら
境界代わりの木々に遮られ 見ることはできないのだが。
「 こんな時は ・・・ 便利な能力 ( ちから ) だなあ ・・・
あれえ ・・・ ホントにどこにもいないよ?
ちょっと探しにいってこなくちゃ・・・ 」
茶色の髪を揺らし 彼女を探しに行こうと屋敷の方へ戻ろうとした。
カツン カツン カツン ・・・
すこし重い足音が 屋敷のテラスの方から聞こえてきた。
「 うん? かえってきたのかなあ ・・・ いや 足音が違う。
あ ・・・ ギルモア博士 だな。 」
彼は足をはやめた。
カツン コツ コツ
はたして 白髪白髭の紳士がゆっくりと室内から出てきた。
「 おはようございます ギルモア博士! 」
ジョーは元気よく声をかけた。
「 あ シマムラくん。 おはよう。 あの・・・ 」
博士は すこし笑顔をみせると きょろきょろと辺りを見回している。
「 はい? あ〜〜 博士。 ジョー って呼んでください
」
「 あ そ そうだなあ ・・・ え〜と ・・・ ジョーくん 」
「 ジョー でいいです〜〜 みんな そう呼びますし。
「 そ そうかな・・・ では ジョー 」
「 はい なんでしょう ? 」
「 あの・・・ マドモアゼル・アルヌールは どこだね ? 」
「 フランソワーズ。 」
「 うん? 」
「 博士。 マドモアゼル〜 じゃなくて。 フランソワーズ ですよ 」
「 あはは どうもその・・・ すまんなあ 」
「 そんなことないですってば。 一緒に住める方が増えて楽しいです。
で・・・ 彼女になにか御用ですか 」
「 あ ああ・・・ フランソワーズさんはまだ戻っていないのかな 」
「 え? ― ああ 彼女、出かけているのですか?
ぼく・・・ 庭に出ているのかなって思って探していたんですけど ・・・ 」
「 あ〜 先ほどなあ ・・・ ちょいと散歩に・・・って
その ・・・ イワンをつれてでかけていったのじゃよ。
かれこれ30分以上前じゃったか・・・ 」
「 なんだ〜 そうですか。 それじゃ・・・ あの特製・ベビー・カーで
きっとこの辺りを歩いているんですね、 うん そろそろ戻りますよ。 」
「 そうか ・・・ それならいいじゃが。 」
「 あ コーヒー 淹れます。 ぼく 結構上手なんですよ〜 」
「 おお そうかね・・・ それはありがたい 」
「 じゃ ・・・ 行きましょ 」
「 うむ ・・・ ああ こちらは屋敷も立派じゃが なんとも広い庭が
あるのじゃなあ ・・・ 見事な薔薇だ ・・・ 」
博士は テラスから庭を見渡し ほう・・・と吐息をついた。
「 あは ・・・ あの薔薇はね、 フランソワーズが熱心に世話してて・・・
もう ず〜〜〜っとムカシからここは薔薇の海なんです。 」
「 なるほど・・・ 代々のご当主の丹精の結果、というわけか 」
「 ・・・ ええ まあ そうですね。 さあ どうぞ? 」
「 ありがとう ・・・ しかし ・・・ 赤ばかり、というのもなかなか・・
凄まじい感もあるなあ ・・・ 」
博士は 口の中で呟いていたが ジョーの耳はちゃんと拾っていた。
しかし 素知らぬ顔で彼は 屋敷の中へと博士を促した。
その街はずれには古い屋敷の跡に 丸いドーム型の天文台つきの立派な家が建っていた。
広い庭もありかなりの敷地なのだが いつからその屋敷が存在するのかを
知る人は ほとんどいなかった。
ただ ― 旧い家柄の外国人が 代々ずっと住んでいるらしい とだけウワサが
町の古老の間に残っているだけだ。
― そして 人々が宇宙にも頻繁に行き来する今では ごく若い男女が暮らしている。
その屋敷に 最近新しい住人が増えた。
代々この地域に住まう < 学者センセイ > として人望のある
コズミ博士の紹介だった。
「 まあ コズミ先生。 いらっしゃいませ。 お待ちしておりましたのよ。
ジョー、 コズミ先生よ〜〜 」
ある日の午後 ・・・ 老先生は町外れの屋敷を訪問した。
迎えてくれたのは ― うら若い金髪美人。
満面の笑顔で 重厚な樫の木の扉を開いた。
「 こんにちは フランソワーズさん。 お元気そうじゃな 」
老先生はにこにこ ・・・ 花束を差し出した。
「 こちらの庭は いつも花でいっぱいですなあ・・・
そんな御宅にナンですが ・・・ ウチの庭で咲かせた百合です、お部屋にもで
活けてやってください。 」
「 まあ〜〜 ありがとうございます。 ・・・ふう〜〜 いい香り・・
あ センセイ どうぞ おあがりくださいな。
」
「 お邪魔してよろしいですかな 」
「 ええ ええ 久し振りのお客様ですもの〜〜〜
あ 紅茶の美味しいのがありますの。 シフォン・ケーキも焼きましたわ。
どうぞ どうぞ 」
「 これは ・・・ どうもすまんですなあ 」
「 ああ お客さまとお茶たいむって 本当に久しぶり・・・ 」
かちゃり。 奥のドアが開いて茶髪の青年が顔をだす。
「 コズミ先生 こんにちは。 さあ どうぞ、もうお茶がいい具合です 」
「 ジョー君。 久し振りです。 では お言葉にあまえさせてもらいます・・・
実はなあ〜 お願いがあって・・・ 」
「 お話はお茶たいむにどうぞ? さあ さあ どうぞ 」
「 いや これは ・・・ 」
コズミ老は それでもにこにこ・・・ 青年に促され屋敷の立派な玄関から上がった。
〜〜〜〜 ・・・・ いい香の湯気が古風な天井に向かって揺れている。
「 〜〜〜 これは いい紅茶ですなあ〜 天然で? 」
「 ええ・・・ インドに栽培畑をもっているので 」
「 ほう〜〜〜 それは本格的ですなあ。 今時、天然の茶葉とは本当に
素晴らしい・・・ うん ・・・ 美味い・・・ 」
老先生はすっかりご満悦だ。
「 まあ 御気に召してよかったですわ。 どうぞお代わりなさってくださいね 」
「 ありがとう、フランソワーズさん。 」
彼はじっと ・・・ 乙女の顔を見た。
「 あ あの ・・・ なに か? 」
「 いやいや これは失礼しました。 ただ ・・・ その。
お母さんのお若い頃に よう似てこられましたなあ〜
」
「 え あら そうですか? ・・・ 母にお会いになったことが? 」
「
ええ ワシがまだはな垂れ坊主じゃった時分 こちらのお屋敷の庭に
入れて頂いたこ とがありましてなあ 」
「 まあ〜 」
「 なに
野球のボールが飛び込んだ、 などとウソの理由をこじつけて
鈴を押したですよ 」
「
そうでしたの ・・・
」
「 いつもはいくら鈴を押しても何の応えもないのに あの時だけは ―
とてつもなく 綺麗なお嬢さんが出ていらして ワシのハナシを聞いて親切に
庭に入れてくださったです 」
「
… 若い頃の ・・・ 母に 」
「 はい。 その後 ・・・ 結婚なさってどこか遠い地へゆかれた・・・と
ウワサだけが流れてきました。 」
「 ・・・ そう ですか。 そんなことがありましたっけ ・・・ 」
「 お聞きになったことがありますかな? 」
「 あ・・・ いえ・・・ 」
彼女は俯いてしまったので コズミ老はさりげなく話題を変えた。
「 ・・・ あ〜 。 君達は
姉弟 ではなさそうですな。 ご夫婦ですか?
」
「 あ
い いえ あの〜 」
「 おお これは失礼しましたな。 」
「 いいえ。 」
それまで黙って話を聞いていた青年が 顔をあげにこやかに答えた。
「 あ あの。 ぼく達
許嫁 ( いいなづけ )同士 なんです! 」
「 許嫁 ( いいなづけ ) ?
ほう ほう・・・ それはまたクラシカルな言い回しじゃなあ…
まあ 仲よきことは美しき哉 ですな。 」
「 ありがとうございます。 ぼくは 彼女とこの屋敷をしっかり護って
ゆきたいと思っています。 」
「 それは素晴らしいことじゃ。 フランソワーズさん、すばらしい婚約者さんを
お持ちだ。
」
「 ええ ・・・ ありがとうございます。
さあ 先生、 シフォン・ケーキのお代わりもどうぞ? 」
「 おお〜〜 これも素晴らしい〜〜
と・・・ いかん いかん。 肝心のお願いをまだお話しておらんわい。 」
「 はい?? なんでしょう? 」
「 ぼく達でお役にたてることであれば・・・ 」
若い二人は 穏やかに微笑んでいる。
「 あ〜〜 実は ですな。 私の古い知り合いなのじゃが・・・ 」
老先生は ゆっくりと話始めた。
ティ−・テーブルの上で お茶がゆるゆる・・・ いい香を放っている。
やがて。 コズミ老は長い話を終えた。
「 ― そんなワケで その御仁をこちらに寄宿させて頂けんでしょうかな。 」
「 はい どうぞ。
家は広いですし 西の棟は空いていますもの。 」
この屋敷の女主人である乙女は 即座に返事をした。
「 そうだよね。
あ 天文台も
使ってくださってかまいません。
結構専門的な設備があるんですよ。 」
婚約者くんも朗かに 応じてくれた。
「 ありがとう … フランソワーズさん、 ジョーくん
ありがとうございます。 」
「 あらまたそんな・・・ コズミ先生のお友達ですもの、喜んでお迎えしますわ。
科学者の方には 静かでいい環境だと思いますわ。 」
「 うん うん・・・ あ。 庭の奥に古い塔があるんですよ。
そこは その・・・ この一族の納骨堂なんです。 ちょっと奇妙に思われる
かもしれませんが・・・ こちらの習慣なので 」
「 ああ 大丈夫。 細かいコトを気にするニンゲンではないですから。
では 後日、連れてきますじゃ。 」
「 コズミ先生。 明日でも構いませんわ? 西棟の一部屋に新しいリネン類を
届けておきますから。
」
「 さささっと掃除しておきますよ〜 」
「 それは ・・・どうもすまんですなあ〜〜 あ・・・
それと ですな〜 」
「「 はい ??? 」」
その後のコズミ先生の発言に 若い二人は目をまん丸にしてしまった。
え。 赤ん坊 ???
翌々日。 コズミ先生から紹介された外国人の博士と赤ん坊がやってきた。
アイザック・ギルモア。 彼はかなり流暢な日本語で自己紹介した。
「 そして その ・・・ これが 」
「 あら・・・ 」
フランソワーズは さっそくベビーカーに眠るぷくぷくした赤ん坊を覗きこむ。
「 うふ?
丸々太って可愛い赤ちゃん … お孫さんですか? 」
「 い いや この子は
その … 」
「 はい?
」
「 あは よく眠っているねえ〜〜 」
ジョーも ちょん・・と赤ん坊の頬に触れた ― その時。
ヤア ヨロシク。
僕ハ いわん。
吸血鬼諸君
ジョーとフランソワーズは同時に さっと顔色が変わった。
「 ・・・・ ! 」
「 ( ど
どうして それを ? ) ・・・ ! 」
≪ アハ 驚カセテゴメン。 僕
キミ達ノこころノ声ヲ 聞ケルカラサ ≫
「「 え ? 」」
「 ・・・? どうかされましたかな? 」
ギルモア博士は 少し驚いた表情だ。
「 あ ・・・ い いえ ・・・ 」
「 ・・・ あ あの! どうぞ そのう〜〜 西の棟を自由にお使いください。
ねえ フランソワーズ? 」
「 え ええ・・・ あ でも そのう〜〜 よければお食事とか・・・
ご一緒にしません? わたし達も賑やかな方が嬉しいですわ。 」
「 そうだよね〜〜 」
「 ・・・ すまんですなあ ・・・ ありがとうございます。 」
老博士は静かに頭を下げた。
― そんなワケで。 町外れの薔薇だらけの屋敷に新しい住人が増えたのだ。
ギルモア博士は 静かなる住人 で 一日の大半を研究室やら ジョーの
天文台に籠っている。
「 博士。 ご専攻はなんなのですか? 」
ある日 ジョーは何気なく質問した。
「 あ ・・・ 今は 宇宙関係 ですな。 天文、というか 」
「 あら すてき! わたし、いつか惑星に行ってみたいですわ 」
「 月とかはね〜 わりと気楽に行けるけどね ・・・
そうだなあ ぼくももっと遠くまで行ってみたいなア 」
「 お若い方は夢があっていいですな ・・・ 」
老博士は すこしばかり淋しそうな表情をしつつ静かに頷いていた。
ある日。 さらに郊外の荒地に なにか大きなモノが落下した。
Last updated : 08,15,2017.
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******** 途中ですが
すみませぬ〜〜〜〜〜〜 寝落ちの日々で最後まで
書けませんでした (ノД`)・゜・。
あと一回 ・・・ 続きます〜〜〜 <m(__)m>
あ 今回は ちょいと近未来なハナシです〜