『 そして 愛と ― (2) ― 』
§ ばら
その町の外れには いつからかわからないが広大な敷地に堅牢な洋館が建っていた。
町自体、 人口も減ってきており近年は少々さびれてきているので
郊外の洋館について 気に止めるモノはほとんどいない。
ただ ― ごくまれに 旅のワカモノが興味をもつこともあるが・・・
尋ねられれば 古老が面倒くさそうに応えてくれる。
「 あ〜? 十三番地の あのお屋敷ぃ?
あ〜・・・ あそこはさ むか〜しから
どっか外国の侯爵の旦那の屋敷だよ。
町のモンじゃねえんだ。 」
ぱっぱと手を振って 爺さんはあまり面白そうな顔は しない。
それでもしつこく聞いてゆけば ―
「 ああ? こうしゃく ってなんだ ってのか?
ち。
最近のわけ〜もん は なんもしらね〜んだな〜 がっこでな〜に教えてるんだね??
侯爵ってのは! あ〜 まあ
お偉いサン さ 金持ちのな。
あ
そ〜 イマドキの
せれぶ
ってことさ。 代々
立派な主みて〜だぜ 。 」
さらにさらに聞きほじれば・・・
「 中ぁ〜〜? 入れるわけ ね〜だろうが。 なんか無口な女中やら下男がいてさ
ありゃ たぶん外国人だな〜 家の仕事、やってるみたいだけどな〜
ああ。 町内のモンとの付き合いはねぇ。 別に困ることもねぇんだろうしな 」
まだまだ食い下がれば ・・・
「 え?? 家族?? 知るわけね〜よ あ〜 わけ〜頃 一回 なんか
運転手つきのクルマで出かける夫婦を見たけど 髭はやした旦那とこう・・・顔を
隠した奥方のガイジンだったなあ・・・ それっきり さ。
今じゃ この町もニンゲンが減って ・・・ だ〜れも
他人 ( ひと ) のことなんぞ気にとめちゃいねぇよ 」
これから行ってみる! と 勇みたつモノがいれば
「 やめとけ〜〜 延々塀が連なっているだけだぜ?
ああ ・・・ そ〜そ〜 今は きれ〜な金髪のお嬢さんが
ひとりいて
庭中
花だらけにしてるってさ。 町の植木屋の爺さまが言ってた 」
金髪美人?? に 色めき立つと・・・
「 さ〜〜 美人かどうか 誰も知らんよ はっきり見たヤツはおらんでな〜
けんど ・・・ あの花はなあ ・・・ 」
花がどうかしたのか? あ! 毒の花かい? と 意気込めば
「 毒ぅ? うんにゃ・・・ あ〜 あれさ
・・・ ほれ 血ぃ みて〜な 真っ赤なバラよ。 庭は 真っ赤な海
さ 。
遠目にみりゃ 血の海 だよ。 ったくなあ ・・・・
ど〜いう趣味なんだか ・・・ ガイジンのことはわかんねえな〜〜 」
旅のワカモノは 代々ガイジンさんが住んでるんですかあ〜 と 少しばかり躊躇している。
「 そうさ。 それに なあ・・ 」
と オッサンはわざと声を潜めた。
「 ほれ
あっちのもっと先には ふる〜い墓地があっから … 夜な夜な
出るのさ 」
え ・・・ 墓地に? ってことは ― ゾ ゾンビ とか??
「 なんだ その ぞん・・・なんとかっつのは?
出るってば決まってるだろが。 もう 供養もしてもらえないムカシの亡者どもさ。
そんなヤツらが … 血
ぃ 吸って よみがえるってさ
吸血鬼の伝説は
ず〜〜っとこの町に伝わってるのさ。
ふふん ・・・ うろうろしてっと襲われるぞ〜〜 」
ムカシの亡霊 と聞いて 現代のワカモノは逆に張り切った。
十三番地ですね? と念を押すと・・・・ もう駆けだしていった。
「 あ ! やめとけってば〜〜〜 ・・・ ああ いっちまった・・・
ったく ・・・ どうなったって 知らんぜ もう 〜〜 」
町外れを目指した旅のヒトは ― この町に戻ってくることはなかった。
隣街に抜けたんだろ ・・・ 誰もがそう思って気にするヒトもいない。
そう ・・・ その町外れには 庭中に真っ赤な薔薇が揺れる古風な洋館が
建っていた。 ・・・ いつの頃なのか 誰もしらない ・・・
ぶ〜〜〜ん ・・・ ミツバチが軽い羽音を立て飛び回っている。
「 さあ こっちへおいで? 今朝咲いたばかりの花よ 」
金色の髪の乙女は ハチ達をそっと花の方に促す。
「 今年もいい色の花がたくさん咲くわ。 いっぱい蜜を集めていってね。 」
ぶ〜〜〜ん ・・・ 一匹が乙女の白い指に留まった。
「 あら ハチさん? いらっしゃい ・・・ ねえ ・・・
あなた達へのご馳走の この花 ・・・ 血の海みたい ですって・・
聞こえちゃった・・・ 無粋なことを言う人がいるものねえ・・・
― でも ・・・
血? そうかもしれないわ … 」
ころん ころん 小さなチャイムが屋敷から聞こえてきた。
「 ・・・ お母様がお呼びようね・・ 」
少し躊躇ってから 彼女は身を屈め鉢をひとつ、取り上げた。
「 えっと? ・・・ これならキレイに咲いているから美味しく召しあがって
頂けるわね。 それじゃ ハチさん〜〜 また来てね? 」
ぶ〜〜ん 蜜蜂は鉢植えの薔薇の一輪にもキスをして飛んでいった。
「 うふふ ありがと。 さあ これをお持ちしましょ 」
金髪の乙女は 薔薇の鉢を抱え、屋敷へと戻っていった。
コンコン コン ・・・ 重厚な樫のドアを形ばかりノックする。
「 お父様 お母様 ・・・ 入ってよろしいですか 」
「 ・・・ お入り。 」
「 はい ・・・ 母さま この花はいかが? 今朝咲いたばかりです。」
乙女は 鉢植えの花を指しだした。
「 おお これは ・・・ 」
「 今 お庭から上げましたの。 母様 どうぞ手折ってめしあがれ 」
「 ・・・ ありがとう 」
夫人は 白い指で花を一輪、折りとると口元に近づけた。
・・・ しゅ ・・・・ う ・・・・
活き活きとしていた赤い花は ― 見るまにその新鮮な命を失っていった。
「 ・・・・・ 」
金髪の乙女は 側に控え見守っている。
長椅子に物憂げに掛けていた夫人は 優美に薔薇の花を < 吸った >
− と。 蒼白かった夫人の頬に ほんのり桜色が見えてくる。
「 ・・・ ああ ・・・ 新鮮な ・・・・ 」
夫人は ほ ・・・っと 息を吐く。
その手には 萎れてしまった花の残骸がほろろ・・・・と崩れる。
乙女は それをさっと受け取った。
「 お気に召しまして? 」
「 ・・・ ありがとう、フラン。 気分が晴れました 」
「 母様 お顔の色がよくなりましてよ。 今朝 開いたばかりの花の
チカラですわね。 」
「 ・・・ ありがとう フラン。 そなたも頂いていらっしゃいな。 」
「 わたしは後でお庭で ・・・ 」
「 ああ それもいいわね。 ・・・ あなた ? 」
カタン。 部屋の奥の扉から 長身の紳士が出てきた。
当家の主人、侯爵らしい。
「 ・・・ おお 今朝は顔色がいいね 」
「 あなた ・・・ フランの薔薇を頂きましたの。 」
「 そうか それはよかった。 ・・・ もっといいものが手に入るかもしれん。
「 もっといいもの・・・? 」
「 そうだ。 花の精気も必要だが 我々に最も必要なのは
ニンゲンどもの精気 ・・・ エナジーだ。 」
「 ・・・ でも 最近は 」
「 うむ。 勝手に連れてくるわけにはゆかんしな。 」
「 父さま ・・・ 母さま 」
「 お前も 本当にエナジーが必要だ。 仲間も増やさねば 」
「 ・・・・・・ 」
乙女は なぜかとても哀しい顔をした。
「 そんな顔をしないでおくれ フラン。 お前の気持ちはわかっている。
今 ― 命を 粗末にしようとしているワカモノ を見つけた 」
「 まあ どこに? 」
「 蝙蝠たちが知らせてくれた。 暗くなったら確かめてくる 」
「 ・・・ お気をつけになって あなた ・・・
まだまだ < 枯れる > わけにはゆきません。 この娘 ( こ )のためにも。 」
「 うむ ・・・ 」
「 ・・・ そのワカモノを この屋敷に ? 」
「 見てみないとわからんが。 我らが一族に加わるの相応しいモノでなければ 」
「 見目良い誠実な若者でしたらいいですわね。 ウチには年頃の美しい娘がいるのですもの。
ねえ フランソワーズ? 」
「 ・・・ 母様 」
乙女は ぱっと頬を染める。
「 ・・・ 本当に綺麗ね、フラン・・・ 」
「 うむ。 フランソワーズと共に一族を束ねてくれるような存在が必要だ。 」
「 ええ ・・・ この屋敷に閉じこもっているばかりでは ね 」
「 ふむ 」
「 ・・・ あ。 見えたわ。 」
夫人は ふ・・・っと中空に視線を投げた。
「 見えたか? 町外れの教会にいたのだが。 」
「 ・・・ 今は。 なにか 必死に訴えています。 ああ でも
あの若者の心が とても とても 哀しんでいます ・・・・ 」
「 哀しむ? 」
「 はい。 淋しさと 哀しさ で 彼のこころはぽっかりと
大きな穴が開いてしまっているわ ・・・ 」
「 ・・・ それで か・・・ 繊細な精神の持ち主なのだな 」
「 ご覧になる? 」
夫人は すい・・・・と白い手を差し伸べた。
「 うむ。 」
侯爵は夫人の手に 大きな手を合わせた。
・・・ ふむ ・・・ なるほど ・・・
「 ―
若くて純粋な命 ですのね 」
「 では 迎えにゆくとしよう。 」
「 お願いします。 陽が落ちてからになさったほうが 」
「 無論だ。 なにやら官憲沙汰に巻き込まれているようだ ・・・
少し 手を回しておこう 」
「 そうですわね。 あの少年は 真っ白 です。 彼の手は
未だ血に染まってはおりません。 」
「 うむ。 なかなか淋しい人生が見えたな 」
「 ええ ・・・ 孤独だけが彼のトモダチですわ。
・・・ 私達と一緒に 時を超えてゆければ ・・・・ 」
「 できれば な。 フランソワーズも気に入るのではないかな 」
「 きっと。 私達のフランを護ってくれる存在になってくれれば・・・ 」
「 そうだな。 出かけてくる。 フラン 一緒においで 」
「 はい 父様 」
「 いってらっしゃい。 ああ 庭でフランの薔薇を召しあがってらっしゃいませ。
エナジーを蓄えて ・・・ 」
「 うむ 」
侯爵は ふ・・・っと微笑み 夫人の頬にキスを落とし、出ていった。
赤色灯が忙しなく点滅している。
煙とキナ臭い風の中 大勢のひとが出入りし、騒がしい。
空気はささくれ立ち 固い声ととげとげしい言葉でいっぱいだ。
「 !! ぼくを 信じてください ・・・ ! 」
少年は 絶叫した。 ― 耳を傾けるモノは誰も いない。
無線の声も淡々と響き ニンゲンらしい感情はどこからも流れてこない。
「 お願いです! ちゃんと調べてください っ !
ここは ここは ぼくが育った場所なんだ ・・・ し 神父さまは
ぼくの お 親代わり ・・・ 」
必死に絞りだす声に でも 誰も振り向かない。
「 なんで ぼくが! ぼくが ・・・ そんなこと・・・・!
ぼくじゃない ぼくじゃないんだ ・・・ !
」
「 ・・・ それは署で聞く。 大人しく車に乗るんだ 」
「 ! 行ったら ちゃんと聞いてくれますか !
ちゃんと 調べてくれますか 」
「 ともかく 来るんだ。 」
「 ・・・ 」
「 ― 容疑者を確保しました。 時間 〜〜〜 」
少年の耳に 無線の会話が飛び込んできた。
「 ! ぼ ぼくは!! なんにもしていないって言ってるのにっ
ぼくは 容疑者なんかじゃない〜〜〜〜 」
彼は 身悶えし拘束を解こうとした。
「 こら。 大人しくしろ。 お前が火をつけるのを見たヒトがいるんだ 」
「 ! 誰ですか!? 今晩は ぼく ・・・ 誰にも会っていない!
神父さまだけだ ! 」
「 それで犯行に及んだってわけか 」
「 勝手に邪推するな〜〜〜 」
「 いずれすぐにわかることさ。 」
「 ― 窓から ・・・ なにか黒いモノが忍び込んでくるのが見えて ・・・・
最近 ヘンなウワサがあるから ・・・ ソレかと思って ぼく 」
「 ヘンなウワサ? 」
「 墓地で ― 吸血鬼が出る って。 夜中にうろついていると ・・・
ヤツらの手にかかって ・・・ きゅ 吸血鬼 に ・・・
だから そんなヤツを追い出そうと ・・・ 」
彼は 首に掛けていた十字架を指した。
「 いい加減なことを言うもんじゃない。 吸血鬼が犯人だ、とでもいうのか 」
「 犯人かどうか わからないけど ・・・ でも ぼく以外にも
御聖堂 ( おみどう ) に入ったモノはいるんだ〜〜〜 」
「 わかった わかった あとは署できく。 さあ 来るんだ 」
ぐい。 警官が少年の肩を押す。
「 ― どうして ・・・ 信じてくれないんだ ・・・!
ぼ ぼくが ・・・ 身寄りのない孤児だから か ・・・・ ! 」
「 あ こら。 大人しくしなさい。 」
「 〜〜〜〜〜〜〜 !! 」
しゃりん。 少年が激しく身悶えした時 なにかが飛んでいった。
「 さあ ゆくぞ 」
「 ・・・ !! 」
「 あっ !! 」
・・・・ ざざざ ・・・・ だっ!!!
茶髪の少年は 制止する手を振り切ると ― 目の前の崖へ走った。
「 おい 待て !! ここから 飛び降りたら・・・ 」
「 ― おねがい ! ぼくを しんじて 〜〜〜 」
ざっ !! ・・・・・ だっぱ〜〜〜〜ん・・・・
彼は 崖から身を躍らせ眼下に広がる海へと ― 身を投げた。
「 あ〜〜〜〜〜〜 」
「 しまった ・・・ ! 」
「 下で すぐに確保を 」
「 ・・・ いや ここは・・・ 遠回りしないと海岸には降りられないんだ。
それに 海岸といっても急に深くなり岩場だらけで 」
「 ・・ それじゃ 容疑者 は ・・・ 」
「 ああ おそらく 」
ざわ ざわ ざわ ・・・・
崖の上は 思わぬ展開に 人々が騒めきたっている。
「 ともかく確認しなければならない。 」
「 今 ・・・ 捜索隊を派遣するよう本署に連絡しました。 」
「 うむ。 ・・・ なにも飛びこまなくても・・・ 」
「 この場は封鎖。 撤収する。 」
「 はっ 」
ガヤガヤ ・・・ ザっ ザワザワ・・・
崖の上からは やがて人影は完全に消えた。
ふぁさ 〜〜〜〜〜 ・・・・
闇の中、黒い翼を広げたモノが 悠々と飛び去っていった。
― ほんの少し 時間は遡る。
崖の上で少年が 絶望の声を上げたとき・・・
その上空に 夜の闇に紛れ浮いていた黒い影に気が付いたヒトは いなかった。
「 ・・・ ほう? 」
影の中から 低い呟きが聞こえる。
「 あの少年は ― 飛び込む。 」
「 ええ??? この崖から ・・・? 」
「 ・・・いらない命なら もらうことにしよう 」
「 お父様 」
「 フランソワーズ。 なにかね 」
「 わたしが ・・・ 」
「 そうか。 では やってごらん 」
「 はい。 」
数秒後 少年は地を蹴り宙に身を投げた。
わあ〜〜〜 ああ 〜〜〜 叫び声が波に呑まれる。
「 ・・・ 今 ・・・! 」
しゅ ・・・・ !
真っ暗な海面に落ちる直前に ― 黒い影が さ・・・っと 少年を浚った。
「 よくやった フランソワーズ 」
「 お父様! ・・・ さあ 今は眠っていてね 」
乙女は そうっと少年の顔に手を翳す。
がくん ― 少年の身体から力が抜けた。
「 ・・・ ふむ ・・・ 眠って全てを忘れることだ。 さあ 戻ろう 」
「 はい。 」
黒い影は 夜の帳の中に消えていった。
ぶ〜〜〜ん ・・・・ 蜜蜂の低い羽音が聞こえている。
「 いい朝ね ・・・ 」
乙女の金の髪に 朝陽が煌めきを飾っている。
彼女は 庭に笑顔を向けて 客用寝室の前に立った。
コンコン。
軽いノックの音がしてドアが静かに開いた。
「 お目覚めかしら ? 」
溢れるばかりに薔薇を活けた花瓶を持ち 金髪の乙女が顔を覗かせる。
「 ・・・ う ・・・ ? 」
ベッドから 微かに声が聞こえた。
「 ちょっと失礼しますね。 ここに置いて・・・ 窓を開けましょう。 」
花瓶をチェストに置くと 彼女は窓を大きく開いた。
すう 〜〜〜 レースのカーテンが揺れ 涼しい風が入ってきた。
「 ・・・ ふう・・・ いい風 ・・・ ほら 薔薇の香も運んできてくれたわ
ああ 本当にウチの庭は 真っ赤な海 ねえ 」
ほっと吐息をもらし 彼女は花だらけの庭に視線を向けた。
「 ・・・ あ りがと う ・・・ 気持ちのいい風 ・・・ 」
「 !? 」
ベッドからの声に 彼女ははっと振り返った。
「 まあ お目覚め? 勝手に入ってしまって失礼しました。 」
「 ・・・ ここ は どこ ですか 」
「 ここはわたしの家です。 」
「 ぼ く は ・・・どうして ここに ・・・・? 」
「 安心して休んでいらして 」
「 ・・・ なんだかアタマがぼんやり してて ・・・・
昨夜 ・・・ そうだ 昨夜! どうしても神父様にハナシをしなくちゃ
って ・・・ 消灯後に 部屋を抜け出したんだ ・・・ 」
「 そう? なにかお話があったのね 」
「 ・・・ そうなんだけど ・・・・ ああ なんだったのか ・・・
アタマの中が ぼんやりして ・・・ 」
彼は アタマを押さえ軽く呻き声をあげている。
「 ! 頭が痛むの? ご気分は? 」
乙女は 慌ててベッド・サイドに駆け寄った。
「 ・・・ いや ・・・ でも なんだか ・・・
なにもかも 霧の向こうみたいで ぼんやりしてて
ぼくは どうしてしまったんだろう ?? 」
「 落ち着いて ・・・ あの ね。 ちょっとしたアクシデントがあって
あなた、 その・・・高いところから落ちたのよ。 」
「 ― 落ちた ・・・ ? 」
「 ええ ・・・ でも もう大丈夫。 」
「 どこから ?? ・・・ あ ・・・ もしかして 海 ?? 」
「 ― いいえ。 落ちる前に わたしの父が助けたのよ。 」
「 ぼく ・・・どうして落ちたんだろ ・・・ 」
「 アクシデントよ、もう大丈夫。 」
「 そ うですか? あの ・・・ 最近 なんか黒装束のオトコたちが
教会の辺りをうろうろしてて・・・ 心配だったんだ ・・・ 」
「 そう? ね もう一回眠ったほうがいいわ。
これ ・・・ 温かいお茶なんだけど どうぞ? 」
乙女は香たかい湯気のあがり カップを差し出した。
「 お茶 ですか 」
「 そうよ。 身体と心を休めるエキス ・・・ 薔薇の花のエキスが
入っているの。 どうぞ 」
少年はカップを受けとると 素直に口に運んだ。
「 〜〜 すごく いい香り だ ・・・ 美味しいです 」
「 アナタが休んでいる間に わたしはちょっと仕事をしてくるわ。
アナタが気になっていることについて 」
「 そ そんな ・・・ 迷惑でしょう? 」
「 いいえ。 ねえ 時には他人を頼ってもいいのよ 」
「 で でも ・・・ 」
「 アナタ、 わたしの兄に似ているわ 」
「 え そうなんだ? お兄さんもここにいるんですか? 」
「 ・・・ いえ ・・・ 兄は もう ・・・ 」
「 ご ごめんなさい ・・・ 」
「 いいのよ 謝る必要なんて ないの。 」
「 ・・・でも ・・・ 」
「 ほら 笑って? そして 少しゆっくりしていらっしゃい。 」
「 ・・・・ 」
「 出かける前に 一仕事してくるわ 」
「 ?? 」
「 アナタが見たという 黒装束のオトコたちのこと。
とんでもないヤツらだわ。 ヒトの命をなんだと思っているのかしら。 」
「 ・・・ 神父さま を・・・ 」
「 ええ。 そして ね。 ― 濡れ衣を着せられては わたし達、困るのよ 」
「 ・・・ き きみ達は ・・・ ? 」
「 吸血鬼 よ。 ホンモノの ね 」
乙女は ぽきり、 と薔薇を一本手折った。
しゅ ・・・う・・・・ 見事な紅薔薇はみるみる生気を失っていった。
「 ・・・!! 」
「 薔薇の精気と血のエナジーを糧に わたし達は生きているの 」
「 ・・・ 血??? 」
「 血を啜るなど 下劣な輩の仕事だ。 」
長身の紳士が 静かに入ってきた。
「 そうですわ。 私達は血のエナジーを欲するだけです。 」
ろうたけた夫人が寄り添っている。
「 ?? あ あなた達は ・・・? 」
少年は身じろぎもできない。
「 恐れないで ― 一緒に 行く? 時を超えて わたしと一緒に ゆく ・・? 」
乙女は そっと少年の手を取った。
彼は 一瞬く・・・っと息を呑むと はっきりと応えた。
「 き きみと! 行く。 」
「 ・・・ ねえ あなた、 お名前教えて 」
「 ぼ ぼくは しまむら じょー ・・・ 」
「 わたしは フランソワーズ。
ジョー。 さあ 一緒に行きましょう 」
「 ・・・・ 」
少年を加えた < 家族 > は ふ・・・と夜の闇に消えた。
後に残るは ― 満々の赤い薔薇 ・・・ 薔薇だけが全てを見ていた。
Last updated : 08,08,2017.
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*********** 途中ですが
やっと ジョー君 登場〜〜〜〜〜
はい 平ジョーです☆ 平ゼロ第一話をどうぞ♪
でも ジョー君は ぜろぜろないん にはならんのでした☆