『 そして 愛と ― (1) ― 』
******* はじめに *******
パロディ です、苦手な方〜 引き帰してください。
御大の初期名作 『 きりと ばらと ほしと 』 の ゼロナイ・キャラ版?
以前にも扱いましたが リライトいたします、大丈夫な方のみ どうぞ。
§ 霧
カッ カッ カッ ・・・ !
濃い霧が辺りを白い闇にとじこめている朝 ― 一台の馬車が
街道筋を飛ばしていた。
「 親方。 たいそう霧が深いようだが ・・・ 大丈夫か 」
馬車の窓から 立派な髭を蓄えた紳士が顔を覗かせた。
「 旦那! ここいらは霧の名所なんでさ !
俺ら地元っこは慣れっこでさ! イッキに駆け抜けますぜ 〜〜 」
御者は得意気に 振り返る。
「 そうか ・・・ 頼もしいな。 賃金は望みのままだ 」
「 ありがてえ! ・・・ おい 頼むぜ。」
親方は身を乗り出し ぽんぽん・・・と先をゆく愛馬の尻を撫でる。
「 お前もこの道はよ〜〜く知ってるはずだ。 俺は無用の鞭なんざつかわない。
お前のカン通りにすすめ。 うしろの馬たち〜 頭 ( かしら )の後をちゃんと
ついてゆくんだぞ! 」
ヒヒ〜〜〜〜ン っ 黒毛の馬たちは勢いよく嘶いた。
ガタンっ 馬車は一際大きく揺れた。
!! 馬車の中では 貴婦人が顔をこわばらせた。
「 ・・・ あなた ・・・ 」
「 心配するな。 今日中には我が領地に戻れる。 」
「 だとよいのですが・・・ 」
「 大丈夫だよ。 姫 そなたも安心しなさい 」
「 はい おとうさま。 外は真っ白ですのね 」
「 ああ ・・・ 霧がひどい。 しかし この霧の元なら昼間でも
安全に動けるというものだ。 」
「 ・・・ はやく館にもどりたいものです。 」
「 おかあさま ・・・ 」
す ・・・ ! なにか白い影が馬車の前を横切った
「 わ??? わあ〜〜〜 」
ぶひひひ〜〜〜〜〜〜っ !!! がた〜〜〜ん ・・・!!!
馬たちは驚愕し 突然棒立ちになってしまった。
馬車はバランスを失い 激しく揺れた。
わあ〜〜〜 きゃあ ・・・ !!!
「 ! ど どうどう〜〜〜 ほら 落ちつけ〜〜〜 」
親方は必死で手綱を操作し 馬たちを鎮める。
「 ・・・ ひえ・・・ ああ な なんとか馬車はひっくりかえらんかった・・・
えれ〜目にあっちまった ・・・ 」
かっ ・・・ かっ ・・・ 馬たちはやっと落ち着きを取り戻した。
「 はあ ・・・・ い いけね〜〜 旦那方は ・・! 」
親方は手綱を手繰り寄せ固定すると 慌てて御者台から飛び降りた。
どんどん・・・ 馬車のドアを叩く。
「 す ・・・ すんません 旦那 ・・・ 」
「 おお 御者くん、 無事だったか 」
「 へ へい・・・ 面目ねぇ ・・・ ナンか妙なモンが突然前を通って・・・
馬たちが驚いちまって ・・・ お怪我はありませんかい 」
「 ・・・ ふむ ・・・ 我々はなんとか無事なのだが ・・・
娘が ・・・ 」
紳士は 室内を示した。 貴婦人が娘をしっかり抱いている。
「 あ! 嬢様が?? 」
「 ええ ・・・ アタマでも打ったのかしら・・・気を失ってしまって 」
「 そりゃ て〜へんだ! ああ ここからなら ご領主さまの館がすぐでさ!
ちょっくらお願いにいってきますだ ! 」
「 領主の館 ? ・・・ いや それは ・・・ 迷惑だろう? 」
「 いやいや ワシらのとこのご領主さまは それはそれはお優しい方で・・・
すぐに援けてくださいますだ! お待ちくださいまし! 」
「 あ ・・・ 」
親方は たちまち霧の中に駆けだしていった。
「 あなた ・・・ ここは お願いいたしましょう。 」
「 しかし ・・・ 」
「 この霧ですし ・・・ 姫の容態が心配ですわ。 」
「 うむ ・・・ 早急に館にもどり 夜、迎えにきてもよいな 」
「 ええ ええ その方が自由に動けますし 」
「 ふむ・・・ 」
紳士は深くうなずき、 貴婦人はトーク帽の乱れたヴェールを直した。
― 早く 館に戻らなければ ・・・ !
霧は、まだ辺りを埋め尽くし、馬たちも馬車もすっぽりと包みこんでしまった。
街道から すこし入ったところにがっしりした塔を抱いた勇壮な城がある。
周囲に濠を巡らせてはいるが 大門はいつも開いていて跳ね橋は下りている。
「 領民たちよ 困ったことがあったらいつでも訪ねてくるがよい。 」
代々この地を治める城主・ アルヌール侯爵 は 豪放磊落・・・おおらかにして
慈悲深い御方だ。
領民たちは 心からこの領主さまを慕い頼りにし 心を寄せていた。
「 いざって時には! いつだって駆け付けますだ! 」
「 おうよ! 俺たち 猟師の腕を頼ってくだせい 」
「 おお ありがとうよ、 皆のもの・・・ まずは家族や自分らの畑やら
山を大切にしておくれ 」
領主さまは にこにこ・・・応じるのだった。
その城も ― 今朝は白い霧にすっぽり覆われていた。
「 わあ〜〜〜 すごい霧だわあ〜〜〜 」
金髪の少女が 白い寝間着姿のまま窓からおおきく身を乗り出した。
「 ぜんぜん向こうがみえないわ! う〜〜ん 外に出てみようかしら 」
えい・・・! っと 窓に足を掛けた 時。
トントン ・・・ !
「 入るぞ。 ・・・? おい フラン? 」
入口のドアでノックの音がして ― やはり金の髪の青年が顔を覗かせた。
「 まだ寝ているのかい ? 入るぞ〜〜 」
「 ?! きゃ お兄さま 」
少女は窓辺に足をかけたまま 固まってしまった。
「 ・・・ ! フラン。 なんて恰好だ! こらこら 何をするつもりだい。
それも 寝間着姿で・・・ はしたないぞ 」
「 お兄さま〜〜〜 」
「 もうすぐ婚約しようという娘が ・・・ ほら はやくきちんとした服を
着なさい。 」
「 ・・・ はあ〜〜い ・・・ 」
娘は 窓から離れると 部屋の奥の帳の陰に隠れた。
「 ・・・ 兄さまあ〜 」
「 なんだ。 」
「 なにか ・・ おきたのですか? 」
「 ・・・・ 」
窓際に立っていた兄は 少し驚いた表情をみせた。
「 ねえ ・・・ なにかあったのですか 」
妹は帳の後ろから尋ねてくる。
「 ファンは どうしてそう思うのかい。 霧ふかい静かな朝なのに ・・・ 」
「 う〜ん あのねえ ・・・ なにか 空気が震えていたの。
馬が嘶く声を 霧がわたしに運んできたわ 」
「 霧が・・・? 」
「 ええ。 霧さんとはね〜〜〜 お友達なの。 風さんもよ?
遠くの出来事を運んできてくれるわ 」
「 ほう ・・・ 」
「 兄さま! ねえ なにか ・・・・ 」
空色のドレスを纏った少女が 兄の前に駆けてきた。
「 おお よく似合うなあ ファン。 」
「 うふふ〜〜 これ お兄さまのお土産ですもの。 海の向こうからやってきたのでしょう? 」
「 そうだよ。 これはシルクといって・・・ 遥かとおいとおい東の国から
やってきた布なんだ 」
「 しるく? ・・・ すべすべしてとてもいい気持ち・・・ 」
少女は スカートをつまむと くるり、と回ってみせた。
「 ほら 〜〜 裾がこんなキレイに揺れるの・・・ 大好きよ このドレス。 」
「 それはよかった ・・・ 」
「 ね 兄さま。 なにかおきたの? お父様のお馬の、ほら あの大黒の
声が聞こえたわ・・・ おでかけになるのかしら。 」
「 ファン お前は・・・ 」
兄は 妹の感覚の鋭さに舌を巻いた。
「 父上はお出かけにはならない。 万一にそなえて大黒に鞍を置いただけだ。 」
「 そう? それなら いいけど ・・・ 」
「 じつはな 街道筋で旅の方の馬車がひっくり返りそうになって 」
「 まあ! ・・・ 怪我をなさった方でも ? 」
「 まだわからない。 御者の親方が援けを求めてきた。
父上は街道の整備は 領主の責任、とおっしゃり ただちに救援の人々を派遣したよ。
侍医の先生にも朝早いが ご足労ねがった。 」
「 そうですの・・・ それで 空気がザワザワしているのね 」
「 うむ。 母上は女中たちに指図して湯をわかし軽い食事の用意をしているよ。 」
「 お兄さま! わたしもなにかお手伝いを ! 」
夜着のまま ぴょんぴょん撥ねる妹の髪を 兄やさしく押さえた。
「 ま〜〜ずは。 きちんと髪を結いあげろ。 領主の姫としてはずかしくない
恰好をせよ。 」
「 ・・ はあ〜〜い あのぅ お兄さま? 」
「 なんだい 」
「 あのぅ・・・ わたし あの方 ・・・ ちょっと 」
「 あの方? 」
「 ええ。 エッカーマン伯爵 ・・・ 」
「 おや フランは婚約者どのがお気に召さないのかな 」
「 ・・・ あの方 ・・・ ちょっと ・・・ 」
「 わかった わかった 父上 母上ともうちょっとよく話あってみよう
フランには笑顔の花嫁になってほしいからな 」
「 ありがとうございます〜〜 兄さま〜〜
うふ ・・・ 兄様に似たかたがいいなあ
」
「 おやおや・・・ さ ちゃんと髪を整えておいで 」
兄は 妹の髪をやさしく撫でた。
「 はあい♪ 」
妹姫の肩口で 金色の髪がくりん・・・・ と 撥ねていた。
「 これでいいですか お兄さま 」
白いうなじを見せ フランソワーズが帳の陰から出てきた。
「 うん いいね。 さあ 厨にいって母上のお手伝いをしておいで 」
「 はあい。 」
ドレスの裾をつまみ、かるく会釈をすると 妹姫は部屋から駆け出していった。
「 ふふふ・・・ いつまでも子供だと思っていたけど
・・・ もうすぐ嫁にいってしまうのか ・・・ 淋しいなあ 」
ふ・・っとため息をつき ジャンは城門へ戻ろうとした。
シャリン ・・・
靴の先で なにか涼やかな音が聞こえ きらり、と光が飛んだ。
「 うん? なんだ ・・・ 」
彼は屈んでそれを拾いあげた。
「 ・・・ これは。 ああ 祖母上の形見の十字架じゃないか。
フランのヤツ、いつもしっかり身につけているのになあ 」
ジャンは手にした銀の十字架をしげしげと見つめる。
「 あ・・・ 鎖が切れてしまったのか。 あとで直してやろう・・・
紛失しないように ・・ うん ここに付けておこう 」
彼は襟の内側のボタンに銀鎖ごと十字架を括りつけた。
「 よし・・・っと。 さあ 城門を広くあけて準備をしなければ 」
カツ カツ カツ ・・・ 城の若君は靴音を上げて急いだ。
― 外は まだ 霧。 白い霧が城の中庭をすっぽりと埋め尽くしていた。
ガラ ガラ ガラ ・・・
一人乗りの小型馬車が土煙を上げて 城門を潜ってきた。
「 どうどう! そんなに急がなくてもよい。 もっと静かにせよ 」
待機していたジャンは 飛び出していって御者を制した。
「 ― へ へい ・・・ 若様〜〜〜 」
「 親方、ご苦労! さあ 馬を緩めよ 」
「 へ へい ・・・ どう どう ・・・ 」
ガラ ガラ ・・・・ ガタン。
小型の馬車が 止まった。
「 若様〜〜〜〜〜 中に嬢さまが〜〜〜 」
「 わかった。 親方、 馬を労ってやりたまえ そなたも休息せよ 」
「 へ へい! ありがとうございますだ〜〜 若様 」
「 ジャン。 はやく馬車の中を ・・・ 」
城の中から 城主の奥方とおぼしき貴婦人が足早に出てきた。
女中たちが後に控えている。
「 はい 母上 ! ― 失礼いたます! 私はこの城の嫡男で
ジャン・アルヌールと申します。 」
バン。 ジャンは 外から丁寧に声をかけてから馬車のドアをあけた。
「 ・・・姫君? ! 母上 お願いします ! 」
「 わかりました。 ・・・ もし お嬢さん? 」
アルヌール夫人は 馬車の中に身を入れた。
そっと馬車から運んでこられた娘は 白い肌に漆黒のゆたかな髪をまとわりつかせていた。
「 ・・・ ほ う ・・・ 」
ジャンは 彼女を初めて見て吐息をついた。
「 この方は どちらの姫君なのかい
」
一緒に付き添ってきた親方に聞いた
「 へい 外国の伯爵さまの嬢さまで ・・・ 伯爵さま夫妻は急ぎの御用で
ご領地にお帰りになるところでして 」
「 どちらの伯爵なのかい 」
「 さあ・・・ 手前は ただ国境までお送りするってことで ハナシを伺って・・・
過ぎた馬車代を頂戴しておりまして・・・ 」
「 そうか ・・・ それでその伯爵夫妻は 」
「 一旦 ご領地に戻られ必ず娘を迎えにくるから・・・と ・・・
そのまま領地境まで馬車を進められました。 手前の厩の一番弟子が
責任をもってお送りしてゆきましただ 」
「 そうか。 それは大変だったね 親方。 」
「 いえ 〜〜〜 」
その時 ― コツ コツ。 足音がひとつ、悠然と近づいてきた。
「 ・・・・! 」
ジャンは さっと身を引いた。
「 そうじゃ。 親方、これからは城の、この若の厩を任せたい。
ジャン、かまわぬか。 」
「 はい 父上。 親方 よろしく頼みます。 」
「 ご ご領主さま〜〜 若さま〜〜〜 命に代えましても〜〜 」
御者の親方は その場に蹲った。
「 本当にご苦労だったな、ゆっくり休んでゆきなさい。
奥に食事を出してもらっておくれ。 馬くんたちも休ませよ 」
奥方が 静かに歩みよってきた。
「 はい 承りました。 どうぞこちらにいらっしゃい。
姫君のことはわたくしにお任せなさいね。 」
「 へ へい〜〜 奥方さま〜〜 ありがとうございます〜〜 」
親方は愛馬とともに 厨の方に案内されていった。
「 ジャン。 この姫君を客用寝室にお連れして。 」
「 はい。 母上。 姫君 ・・・ 失礼いたしますよ 」
ジャンは ブランケットに包まれたままじっと動かない姫君を抱きあげた。
蒼白い透けるような頬に 睫が濃い影を落としている。
「 ・・・ う うん ・・・・? 」
姫君が 僅かに身じろぎをした。
「 ! 気がつかれましたか? 」
「 ・・・ ・・・・ こ ここ は ・・・? 」
うっすらと開かれた瞳は ― ぬばたまの闇より深い漆黒。
「 当地の領主、 アルヌール公爵の城です。 私は嫡男のジャン・アルヌールと
申します。 」
「 ・・・ 若君さま ・・・ 」
するり。 白い手がジャンの首に絡みつく。
「 姫君 ・・・・? 」
「 ああ ・・・ すてきな 方 ・・・ ! 」
す ・・・。 白い顔がジャンの首筋に擦り寄ってゆく。
「 ・・・・? 」
「 うふ ふ ・・・ 魅惑的な若様 ・・・ 」
「 ・・・ 」
― は・・! 突如 彼女は顔を背けた。
「 ・・・ く ・・・ ! 謀られた ・・・! 」
ぱさり。 美女は再びブランケットの中に倒れこんでしまった。
「 ・・・ 静かに部屋にお連れしよう。 」
「 そうね。 城の侍医殿をお迎えにいっていますから 」
「 母上、ではお世話をお願いいたします。 」
ジャンは ブランケットに包まれた女性を丁重に居城の部屋まで抱いていった。
トン トン ・・・ !
「 お目覚めですか ? 」
客部屋の戸口で 水色のドレス姿の少女が佇んでいる。
「 ・・・・? 」
「 わたし この城の娘で フランソワーズ といいます。
旅のお姉さま ・・・ ご気分はいかが? 」
「 ・・・ あなたは この城の 姫君なの ね 」
寝台から少し物憂げな声が聞こえた。
「 はい。 あのう ・・・ すこしお花をもってきました。
お部屋に入っていいですか 」
「 ええ ええ どうぞ。 ― なんの花かしら 」
「 薔薇です。 庭でわたしが育てたの。 」
「 まあ ・・・ 美しい ・・・ 」
少女 ― フランソワーズが 花束をもってゆくと 旅の娘は寝台から置き上がっていた。
「 起きられて大丈夫ですか? 」
「 ええ ・・・ この城は素晴らしわね。 」
「 父は領主なのです。 あの お花をここの花瓶に活けておきますね。 」
「 ありがとう・・・ ねえ こちらにいらして? 」
「 ― はい? 」
フランソワーズは 手早く花を活けると 娘の側に寄った。
彼女は にこやかにソファに掛けていた。
「 あ あの ・・・お父様 お母様と離れ離れになって お淋しいでしょう? 」
「 あら 可愛い姫様ね。 大丈夫よ こんなに可愛い方と知りあえたのですもの
淋しくなんかないわ。 」
す・・・・っと 白い手がフランソワ―ズの頬を撫でた。
「 ! ・・・ あ あの ・・・・ なにか欲しいモノがおありでしたらおっしゃってくださいね 」
「 そう? ・・・ うふふ アナタがほしい わ 」
「 え? 」
「 うふふ・・・ 冗談よ 」
きゅ。 白い手がフランソワーズのほっそりした腕を掴んだ。
「 あ あの ・・・ 兄が呼んでいますから ・・・ 」
「 あら そう? またいらしてね 」
「 は はい・・・! 」
会釈をすると フランソワーズ姫は慌てて出ていった。
「 ・・・ ふふふ 可愛い娘 ( こ ) 妹にしたいわ ・・・
いいでしょう? 伯爵 ・・・ 」
娘は 虚空に向かいにんまり・・・笑った。
― その日 一日、 霧と雲が重く垂れこめ太陽が顔をだすことはなかった。
そして その夜 ・・・ 村娘がひとり なにかに襲われて死んだ。
きゃあ ぁ ぁ ぁ −−−−−− !!!
闇を劈く悲鳴に 村人たちは飛び起きた。
山狩りをして探す前に 村はずれに一人の娘が倒れているのが見つかった。
「 ・・・ こりゃ 尻軽娘の たま〜ら だ 」
「 は〜〜ん ・・・ また どっかのヤツと逢引でもしに行くとこだったんじゃないか 」
「 ふん ・・・ 自業自得さ。 大方 脚でも滑らせ打ち処でも悪かったんだろ 」
「 ま な。 森のケモノに襲われたか ・・・ 」
「 神父さまにしらせて さっさと葬っちまえ 」
「 ああ そうだな ・・・ 」
村人たちは鼻白んだ様子で 早々に引き上げようとしていた。
「 ! 吸血鬼だ! 」
一人のワカモノが声を上げた。
「 な〜に 馬鹿なこと言ってるだ。 カール、お前はたま〜らに
熱を上げてたから そんな風に思えるだけさ 」
「 そ そんなことじゃねえ ! 」
「 じゃ なんだ。 」
「 おいら 見ただ! 黒い影が こう〜〜〜 たま〜ら に覆いかぶさるのを! 」
「 そりゃ お前の見間違いさ 」
「 うんにゃ! その影は たま〜ら を襲った後 お城の方に飛び去っただ! 」
「 お城って ご領主さまの城か 」
「 ああ! あそこにゃ 旅の娘っこを預かってるっていうじゃないか。
アレは ・・・ 吸血鬼だあ〜〜 」
「 あ 待てってば 」
ワカモノは喚き散らしつつ 城へと駆け去っていった。
「 ― それで その黒い影がこの城にいる というのかい 」
ジャンは 呆れ顔で村のワカモノを眺めた。
居城の扉を夜分、 ドンドン ・・・ めったやたらと叩いていたワカモノだ。
「 そうですだ!! お城のあの窓から入るのを、おら みただ! 」
「 窓とはどこの窓かい 」
「 に 二階の東端ですだ 」
「 ? そこは客用の部屋だ。 今は旅の姫君がおられる。 」
「 それですだっ ソイツは きゅうけつき ですだっ 」
「 吸血鬼?? 」
「 んだ! おらの たま〜ら を襲った! たま〜ら は おらが作って
やった木の十字架を首から掛けてただ ・・・ でも ・・・ 銀じゃなかったから
・・・ やられちまった・・・ 若様! オラに たま〜ら のカタキを! 」
「 ・・・ それはお前の妄想だよ 」
「 うんにゃ! 」
「 わかった わかった。 それじゃ 城の廊下に入ってみろ。
その黒い影とやらが見当たらなかったら すぐに帰って寝ろ。 」
「 若様! ありがとうごぜえますだ〜〜〜 」
ワカモノは ニンニクと銀の十字架を持ち ジャンの後をついて城に入った。
カツ カツ カツ コツ コツ コツ ・・・
二人の足音が静かな廊下に響く。
「 ほうら ・・・ なにもないだろう ? 」
「 ・・・ うんにゃ。 ・・・ あ あそこにっ ! 」
「 ?? 」
ワカモノはいきなり駆けだすと 奥の部屋のドアを開けた。
「 こ こら!!! 」
「 ! ・・・ あ〜〜〜〜〜〜 !!! 」
「 え? フランソワーズ ッ!!!!! 」
客用の寝室の床には ― 白い夜着姿のフランソワーズ姫が横たわっている。
そして ― 彼女に覆いかぶさるがごとく黒い影が
「 〜〜〜〜〜 たま〜〜らのかたき〜〜〜〜 !! 」
ワカモノは蹲っていた黒い影に飛び付いた。
「 ! こ これで退治するのか? 」
「 そうですだ! 若様! この ・・・ 銀の十字架で心臓をぶち抜けば ! 」
「 ・・・ ! フランソワーズから離れろ〜〜〜〜 」
ガッ ・・・ ! ジャンは目を瞑って銀の十字架を振り下ろした。
「 !? ぎゃ ・・・ア 〜〜〜〜〜 」
― ・・・ ザ ッ −−−−− !!
娘は 砂となって散っていった。
「 うわ〜〜〜〜っぷ ・・・ ! な なんなんだ〜〜〜 」
「 若さま!! これが ! ヤツら 吸血鬼の最後ですだ!
は〜〜ははは おいらは たま〜らのカタキをうっただ〜〜〜〜〜 」
「 あの姫は ・・・ 吸血鬼だった のか ・・・ 」
「 そうですだ! 」
「 ! ふ フラン〜〜〜〜 大丈夫か ?? 」
ジャンは 倒れている妹姫の側に駆け寄った。
ふわり ・・・・ 目を閉じたままのフランソワーズの身体が宙に浮いた。
「 な なんだ??? 」
ごろごろごろ〜〜〜〜〜 ― 突然 黒い霧が空から降ってきた。
「 ?? な なにもの っ 」
ジャンは剣を手に身構えた。
ごろごろごろ。 霧の中からおどろおどろしい声が聞こえてきた。
「 我々の娘が消えた ・・・ おお そこに美しい娘がおるな。
・・・ そうか そなたを代わりにつれてゆこう。
金の髪をした碧い瞳の姫よ 」
「 美しい姫に ・・・ 永遠の命を ・・・! 」
すう 〜〜〜〜 ・・・
フランソワーズの身体はするすると霧の中に吸いこまれてゆく。
「 !! だ だれだっ 妹を返せっ!! 許さぬ !! 」
ジャンは剣を抜き、 霧に切りつけたが ― 無為に空を切るだけだった。
「 くそ〜〜〜〜〜 返せっ !! フラン〜〜〜 !! 」
「 無駄だ。 愚かなニンゲンよ ・・・ この娘は永遠の時を生きるのだ 」
ゴロゴロゴロ −−−− ! 雷鳴と共に 黒い霧は飛び去ってしまった。
・・・ 城主の金髪の愛娘を奪って。
「 フラン! フランソワーズ −−−−−− !!! 」
夜霧の中 兄の呼び声が響いていた ・・・ そう いつまでも ・・・
Last updated : 08,01,2017.
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************** 途中ですが。
・・・・ 第一世代??ですので ジョー君はでてきません★