『 薔薇に降る雨 ― (3) ― 』
シュ − ・・・ ! 張々湖飯店の自動ドアが軽快に開いた。
「 ああ すんまへん〜〜〜 今夜はもうカンバンですねん〜〜 」
すぐにマスターの愛想のよい声が飛んできた。
「 大人 ・・・ わたし・・・ 」
「 おわ?? フランソワーズはん〜〜 ! アンタ 何処に居てはったんや!? 」
「 ごめんなさい ・・・ 」
ぱさ。
店のカウンターに 白い花束が置かれた。
「 ?? ナニね?? 」
「 ・・・ 頂いたの。 これ ・・・ < もの想い > という名前なんですって。」
「 ハア?? コレ 薔薇やろ? まあ〜〜 ごっつぅ高そうな花やなあ ・・・
と! そんなコトより! も〜〜〜 連絡もせんと、どこに居てたネ ?
ジョーはん、えろう心配してはるで? 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ お友達を送っていって お茶をご馳走になって ・・・
この花を頂いてきたの。 」
「 カ〜〜〜〜 !!! エマージェンシー・コール、しはったんは あんさんやで! 」
「 あ ・・・ そ そうだったわね ・・・
」
「 う〜〜 しっかりしなはれ! お〜〜い ジョーはん! フランソワーズはんが 」
「 ああ 聞こえたよ。 」
大人が店の奥へ振り向くと そこにはジョーがまだ防護服のまま立っていた。
「 ・・・あ ・・・ ジョー ・・・ 」
「 お帰り フランソワーズ。 きみが無事でなにより だ。 」
「 あ あの ・・・ご ごめんなさい ・・・ あの わたし ・・・ 」
「 さっきの会話、店の奥にいても聞こえたよ。 」
「 そうなの? あの ・・・ ごめんなさい。 あの後 なにかあったの? 」
「 いや。 きみがアナウンスした通り、 ヤツは突如消えてしまった。
いや ・・・ ナヴィゲート・システムに反応しなくなった。
東北東に進んだことまでしか追い切れていないんだ。 」
「 そう ・・・ わたしにも全然見えないもの。 」
「 そうか。 ヤツのことだ、 また必ず乗り込んでくるだろう。
皆 ・・・ といっても4人しかいないけど気を引き締めてゆこう。 」
「 了解。 ・・・ あの ジョー ・・・? 」
「 どうかしたのかい、フランソワーズ 」
「 ・・・ あの ひとつ聞いてもいい。 」
「 なにを? 」
「 ええ あの・・・ やはり ― 闘いがあったのね? 」
「 なにもないよ。 どうしてそう思うのかな ・・・ 」
「 その服よ。 どうして・・・ずっとその赤い服を着ているの? 」
え? ・・・ っと ジョーは一瞬目をぱちぱちさせた。
「 あは? だって・・・ きみになにかあったら !
この服だったら きみを取り戻せる。 たとえ一人でも 死にもの狂いだったら
きっときみと守る! と思うから さ。 だからきみの無事が確認できるまで
ぼくはこの服を脱ぐことは ないよ。 」
「 ・・・ ジョー・・・! ジョーったら ・・・! 」
フランソワーズは ぱっと彼の首ったまにかじりついた。
「 ああ? おいおい ・・・ なんだよ、子供みたいだなあ〜 」
「 いいの、 どうせわたしは お子ちゃまですよ〜〜だ。
ありがとう ・・・ ジョー・・・! 」
「 ぼくこそ きみが無事で本当によかった・・・ ! 」
「 さ。 着替えてくるから ・・・ きみも顔を洗ってこいよ?
涙でべとべと・・・ 美人が台無しさ。 」
「 あら やだ・・・ わたし、いつ泣いたのかしら ・・・ヘンねえ ? 」
「 おいおい? 大丈夫かい? 本当に夢の国にでも行ってきたみたいな目つきだよ? 」
「 ・・・ 夢の国? ・・・ そうね ・・・ あそこは ・・・
あの庭は 夢の国の庭 だったわ。
二人の愛が薔薇を育んで ・・・ そして薔薇がまた 二人の愛を見守っていたの ・・・ 」
「 ??? 夢の庭? あの ・・・ 白い花束をくれたヒトの庭かい? 」
「 ええ そうなの ・・・ また 行きたいわ ・・・
本当にね 薔薇だらけなの。 きっとあの庭を散歩したら身体中に薔薇の香が
移るのじゃないかしら。」
「 へえ 〜〜 で なぜきみはそこに行ったのかい。 」
「 あ あのね ・・・ 道で怪我をしたヒトを助けて…おウチまで送っていったのよ。
そしたら その家が 」
「 薔薇邸だったってわけ? 」
「 ばらやしき ・・・ そうね 本当にそんな感じのお家だったわ。 」
「 場所はどのあたり? 」
「 あ モトマチから山の手に登ったところ。 大きなお家が多かったわ。 」
「 あ〜〜 わかったよ、 あの辺りは広い庭園をもつ家も多いしね。 」
「 ね! ジョー 今度一緒に訪ねてみましょうよ。 素敵な薔薇のアーチもたくさん見えたの。 」
「 ふうん ・・・ ま この事件が片付いたら な。 」
「 ・・・ そうでした。 ごめんなさい。 」
「 きみが謝ることはないよ。 ともかくXの動向に厳重に注意しよう。 」
「 はい。 」
「 さあ もうそんな顔はお終だ。 ・・・ 顔と手を洗ってこいよ。 」
「 ええ ・・・ 」
「 ほっほ〜〜〜 今夜はナ 宴会〜〜やなくて 作戦会議 やで。
美味しいもん、た〜〜んと食べて知恵、絞らなあかんし。 」
「 そう ね。 あ 博士とイワンは?? ウチのリビングが滅茶苦茶になってしまったの。
ほら・・・ あの円盤が突然飛び込んできて ・・・ 」
「 リビングの方は イワンが直してくれたそうだよ。 」
「 まあ ジョー・・ よかったわ〜〜 」
「 今 グレートが博士たちを迎えに行ってる。 今晩は張々湖飯店でミーティングだ。
あの円盤 ・・・ サイボーグX といかに対峙するか・・・ 」
「 そうね。 」
「 ほいほいほい〜〜 そんなら準備、手伝うてや〜〜〜 ほい ジョーはん、
奥のテーブル、片してや。 フランソワ―ズはん、飲茶の用意、頼んまっせ〜〜 」
「「 了解 〜〜 」 」
ゼロゼロナンバー・サイボーグたちは てきぱきと動き始めた。
その頃 ―
東北東遥かな洋上に 奇岩ばかりで固められた島があった。
その他には植物などは全く見当たらず、 生命の営みはあまり感じられない。
シュヴァヴァヴァ 〜〜〜〜
突然南の方からなにかの実験機器とも見える物体が飛んできた。
ガタン ・・・ 岩の一部が引っ込みぽっかりと口を開けた。
シュ −−−− ・・・・・
その中に飛行物体は吸い込まれるがごとくに姿を消した。
カツカツカツ ・・・ コツコツコツ ・・・
白衣のオトコが苛立たし気に そこいらをウロウロと歩き回っている。
天井からは煌々とライトが広い空間を照らし出していた。
「 それで おめおめとお前は逃げ帰ってきたというのか!? 」
彼は足音より数倍イラついた声で目の前に停止した飛行物体を詰る。
「 逃げたのではありません。 偵察を終えて帰還しただけです。 オメガ博士。 」
「 ふん! ヤツらの一人にでも損傷を与えられたのか??
破壊したのは研究所の一部だけだろうが! 」
「 ゼロゼロ・ ナンバー サイボーグらに会いました。 会って ・・・ その顔を
しっかりと脳裏に刻みつけました。 」
「 ふん ・・・ そんなモノは写真が映像で十分じゃ!
よいか 次の襲撃では確実に奴らの何人かを やれ。
最終的には あのギルモアめを拉致し、ワシの前でヤツの学説の敗北を認めさせるのだ。
そのために X、 お前を作ったのだからな! 」
「 ・・・ どうして闘わねばならないのですか。 」
「 は?! 今さらなにを寝ぼけたコトを言っているのかね?
お前はワシが造ってやった 闘うマシーン だからだ。 理由はそれだけじゃ。 」
「 ・・・ 闘うマシーン ・・・・ 」
「 その通りだ。 よし、データ収集は終わった。 次の作戦を考えるぞ ! 」
カラン ・・・
オメガ博士は円盤から取り出した小さなチップを ぽい、と脇のゴミ箱へ放り投げた。
「 次の作戦開始まで少し休息を ― 」
Xが 飛行物体から降りようとケーブル類やらスイッチを操作している。
「 休息? ふん・・・ くだらん! 機械に休息なんぞ不要じゃ!
作業が終わったらシステム・ダウンして 倉庫 だ。 それで十分じゃ。 」
「 ・・・ 機械 ですか。 」
「 そうだ。 それ以外のなんだというのだ? 」
カチリ。 オメガ博士がパネルを操作すると Xはコードやケーブルを
引きずったまま 動作を停止した。
「 機械は機械じゃ。 必要な時に稼働すればそれでよい。 」
オメガ博士は 動かなくなってXに一瞥も与えず、そのまま部屋をでて行った。
計器類のセイフティ・ランプだけが あちこちで光る暗闇の部屋の隅に
サイボーグXが ・・・ 転がっていた。 捨てられた玩具のごとくに。
コロン コロン 〜〜
玄関の中から軽やかな音が聞こえた。
「 あら ・・・ 随分可愛いチャイムねえ。 あは このお家に相応しいわね〜 」
フランソワーズは 薔薇邸の玄関ポーチで思いっ切り深呼吸をした。
「 ふ〜〜〜〜〜 ・・・・ あ ・・・ 空気が甘いわ〜〜
これって ・・・ もしかしたら ・・・ 花の香 かしら ・・・ 」
「 はい? 」
まもなく穏やかな声が応じてくれた。
「 ボンジュール? フランソワーズです〜〜 みつこさん。 」
「 まあ お待ちしていました、 どうぞ。 」
カタン ・・・ 実に簡単に 軽い簡素なドアが開いた。
「 こんにちは! みつこさん、おかげんはいかが? 」
「 ありがとうございます。 ええ 大丈夫ですわ、 薔薇の世話もゆっくりならできます。 」
「 ああ それはよかったわねえ ・・・ ふふふ 図々しくまたお邪魔します。 」
「 ええ ええ どうぞ どうぞ。 さあ お入りくださいな。 」
「 あの ・・・ よかったらお庭を見せてくださいませんか?
お玄関までの小路で もう〜〜 わたし 薔薇の香にくらくらしてしまったの。 」
「 まあ ・・・ そうね、ちょうど雨上がりですから香も一層引き立ちます。
さあ どうぞ。 ウチの薔薇園にようこそ。 」
みつこはにっこりほほ笑むと 先に立って玄関を出、横にある小さな枝折戸を押した。
「 お邪魔します ・・・ こんにちは。 ! わあ 〜〜〜〜 ・・・ ! 」
一歩 この家の庭に足を踏み入れ ― フランソワーズは棒立ちになっていた。
「 ・・・ す すごい ・・・ ! 」
そこは ― 薔薇が 大海原のごとくにうねり 波打っていた。
折からの雨上がり、白っぽい空の下、濃く艶やかにその香を振りまき始めていた。
「 ・・・ ああ ・・・〜〜〜 このままとろけてしまい そう ・・・ 」
「 フランソワーズさん? 大丈夫ですか? 」
不意に声がかかり ひんやりとした手がそっとフランソワーズの額に伸びてきていた。
「 ・・・ え ? ええ 大丈夫ですわ。 ほら 〜〜 」
フランソワーズは立ち上がり 踊るみたいなステップで歩いてみせた。
「 それならいいけど ・・・ では ご案内いたしますね。 」
カツン カツン ・・・ 薔薇たちの間を細い敷石がめぐっている。
「 あ ・・・ この石を踏んでいってくださいね。 土壌は柔らかい部分が多いので
靴が汚れてしまいますから ・・・ 」
「 はい ありがとうございます。 この道は薔薇たちを守る道でもあるのね。 」
「 ええ そうなんです。 根本を傷めないようにって。 ふふふ ・・・ ウチの庭は
ヒトのためじゃなくて薔薇のために存在しているらしいですわ。 」
「 ずっと・・・ お父様やその前の方々も 薔薇つくりをなさっていたの? 」
「 代々庭師とか植木職だったらしいのですけど・・・ 祖父が初めて薔薇作りを始めて・・・
それ以来、父も填まってしまったみたいです。 」
「 まあすごい〜〜 それで お父様はあの白い花を作られたのね? 」
「 ええ ・・・ < もの想い > は 父の遺作なんです。
父は ・・・ 家族よりも薔薇の方が大切だったみたい ・・・ ウチの家系は
皆 薔薇にのめり込んでしまうの ・・・ 」
「 ふふふ ・・ みつこさん、あなたも でしょ? 」
「 あ ・・・ そうですね ・・・ 私も薔薇にとらわれているかもしれません。 」
「 あら 花の囚われ人 なんて素敵だわ。 」
二人は 薔薇の花壇に沿って歩いて言った。 いくつもの花壇が庭中に広がっている。
湿った空気が すこし重く漂っている。
「 ・・・ うわあ 〜〜 すごい香〜〜 甘い、というか ちょっと涼しい香も?
あら ・・・ ここに立つととても濃い香り ちょっとくらくらするかも・・・ 」
「 この辺りは香の強い花を集めてありますの。 花の種類によって香も違います。 」
「 すごいわあ〜〜 香水なんか負けてしまうわね。 」
「 香水のモトは 花の香油なんですって。 」
「 そう ・・・ あ それで思い出したわ。 アナタのお名前の香水があるわね。 」
「 あ ・・・ 知ってます、 いえ教えてもらっただけで・・・私は見たことも
嗅いだこともないのですが ・・・ 」
「 ゲランのね ミツコ という香水。 わたしの母がパーティーなんかで
ドレス・アップする時だけ・・・使っていましたもの。 」
「 まあ ・・・ 素敵なお母様ですね。 」
「 ふふふ わたしは子供でしたから ・・・ 母のいい香にうっとりしていただけなの。」
「 素敵な香なのでしょうね ・・・ 」
「 そうね。 でもわたし、ホンモノの花の香がもっと好きよ。 」
「 あ 私も・・・ 彼もそういっていました。 」
「 新しい赤いバラを作ろうとしていた方? 」
フランソワーズは周囲の薔薇の群れを見渡した。
赤系 というだけでもさまざまな薔薇があった。
黒っぽい妖艶な赤、 真紅、 明るい赤、 朱色 ・・・ グラデーションになっている
花びらをもつものもある。
赤 ・・・ わたし達の纏う特殊な赤は ここにはないわね
ええ あってはならないわ ・・・ ここには ・・・
花の中に 一際愛らしい 赤 が見えた ― みつこの蒼白かった頬は赤くあかく染まってゆく。
「 ええ。 彼は ミツコ という名前の香水を知っていて ・・・
香の高い紅薔薇を作って … それで ミツコ って名前にするんだ ・・・って 」
「 きゃあ〜〜素敵! ・・・ あ ご ごめんなさい ・・・ 」
「 いいんです。 きっと ・・・ 天国で頑張って作っているのじゃないかしら ・・・
私があちらに行くころには キレイに咲いてるでしょう。 」
「 みつこさん。 元気だして! これからきっといいことがあるわ。 」
「 うふ ・・・ ありがとうございます。 私の人生は ・・・ 彼と共に終わって
しまいました。 あとは ・・・ ただこの薔薇園の世話をしてゆくだけ ・・・ 」
みつこは 愛を込めた眼差しで広がる花たちを眺めている。
フランソワーズはその淋し気な横顔に しん・・・と胸を打たれた。
ここは ・・・ 素晴らしいけれど ・・・
なんだか花に精気を吸い取られるみたいな気持ちになるわ
そう・・・ なんだかこの妖艶な香に酔ってしまって
幾重にも重なる花びらの奥に 引き込まれてしまいそう ・・・
いえ! ・・・ だめよ、 そんなの。
みつこさん! あなたの人生はこれからよ!
「 ねえ みつこさん。 お願いがあるのですけど? 」
「 はい? なんでしょう・・・ 」
「 あのね、ウチでも蔓薔薇を植えたの。 でも育て方とか全然わからなくて・・・
一度 是非ウチにいらして・・・そして指導してくださいな。 」
「 まあ 指導 だなんて ・・・ 」
「 ううん、 わたし、庭いじりは好きですけど、薔薇は初めてだし・・・
ジョー・・・ あ、一緒に薔薇を植えた相手は ― もう全くの花オンチ! 」
「 花オンチ? ふふふ 面白い言い方ね? 」
「 だってねえ〜〜〜 花の名前なんて知っているのは バラとチューリップとユリと・・・
そうそう あとはひまわりだけだって言うのよ〜〜 」
「 うふふふ ・・・ そういう男性って多いわ。 ねえ ・・・あなたの彼氏さん ?
あ・・・この前伺いましたよね。 羨ましいわ ・・ 」
「 え ・・・ ちが ・・・ わなくないと いいなあ〜〜って 思ってるの・・ 」
「 ステキ♪ 是非仲良く薔薇を育ててくださいな。 」
「 そうしたのですけど ・・・ ね、きっと 遊びにいらしてくださいな。 」
「 ありがとうございます ・・・ 」
「 ね? 約束。 ・・・ この国ではこうやるのでしょう? 」
フランソワーズは すっとみつこの手を取ると小指と小指を絡めた。
「 あら ・・・ まあ 懐かしいわ 」
指切りげんまん〜〜 ♪ 小さな少女達みたいに二人は声を上げて げんまん をした。
碧い瞳と糖蜜色の瞳が みつめあって微笑んだ。
ふぁさ ・・・ すこし湿り気を帯びた風に 盛りをすぎた花たちがゆっくりと揺れた。
ヴィ −−−−−− ・・・・! カチリ。
メーターの指針が最終の目盛を示して 止まった。
「 よし。 起動しろ、サイボーグ X ! 」
音声に反応し 処置台の置かれていた < 機械 > が ゆっくりと動きだした。
「 ふん ・・・ 立ちあがれ。 」
「 ・・・ あ ああ ・・・ 」
< 機械 > は アタマをめぐらせ低い声を発した。
「 反応が遅いな! 立て! ワシの前にさっさと直立せよ。 」
ピンッ カチ ・・・ カチリ。
接続されていたコード、ケーブルの類を引き抜き < 機械 > は いや
サイボーグ X は起動し立ち上がった。
「 よし。 X、覚醒したか。 」
「 はい オメガ博士。 」
「 ふん。 出撃じゃ。 ギルモアの処に飛び、 ゼロゼロナンバー・サイボーグ共に
闘いを挑むのじゃ! そして ― 必ず勝て。 」
「 ・・・ 戦う のですか。 」
「 そうだ。 そしてその闘いに勝て。 ゼロゼロ・ナンバー共を皆殺しにせよ! 」
「 なぜそんな無駄な戦いを ・・・ この手で生命を奪わねばならないのか ・・・ 」
立ち上がった新人サイボーグは 呆然と自身の手を眺めている。
「 ごたごた言っておらんで はやく行け! 」
「 なぜ ・・・ そんなコトを ・・・ 」
「 いちいちうるさい。 お前はワシの造った機械じゃ。
機械は黙って主人の言う通りに動け。 逡巡したりぶつぶつ言う資格はない。 」
「 しかし ・・・! 」
「 まだガタガタ言うのか! ふふふ ・・・ お前に身体にはなにが装備されているか
よく考えるのだな! 」
「 ・・・・・・ 」
「 早く行け! ワシは死にかけていたお前を蘇らせてやったのだぞ!
それも世界最強の サイボーグ X として な! 」
「 え ・・・ それじゃあの事故の後で ? 」
「 そうだ。 交通事故で瀕死の重症、 いやすでにほとんど死にかけていたお前の身体を
秘密裡に運び出し 改造手術を施したのだ。 」
「 ・・・ そう だったのか ・・・ 」
「 そうしてお前は蘇ったのだ! ワシに感謝して欲しい。 」
「 … 亡者には殺人鬼が相応しい ということか ・・・ 」
「 なんだと? 」
「 ・・・ いや。 」
「 ふん。 さっさと行け! 今度こそ奴らをしとめろ! いいな! 」
「 ・・・・ 」
Xは メットを被ると無言のまま円盤に乗り込み ― いや 彼自身の下半身を
きっちりと 巨大な円盤の中に埋めこんだ。
「 よし 行け! しかし忘れるなよ ・・・ははは お前の身体にはなにが
仕込んであるかってことをな! ははは ははは とっとと働け! 」
「 ・・・・ 」
シュババババ −−−− ・・・ 円盤はふわり、と宙に浮いた。
そしてそのまま 天井ドームの開閉部から飛び出していった。
「 わははは・・・・ ギルモアとヤツの造ったサイボーグどもさえ始末できればいい。
証拠隠滅のためにも X、お前には自爆してもらうからな〜〜
ははは 真の最強サイボーグはすぐにまた造ればいいのだ! ははは ははは〜〜 」
がらん、としたラボラトリーに 陰気な笑いだけが反響していた。
翌日は すっきりとした青空がひろがり、からりとした上天気となった。
「 え〜〜と ・・・ オーツ・ビスケットは焼きあがって保温中〜〜
お茶せっと おっけ〜 ふふふ 久しぶりにお客様用 なの〜〜♪ ああ ウチにも
ウェジウッド とかあるといいのに ・・・ でもね これもお気に入りなのよ〜 」
フランソワーズはキッチンでお茶の用意に没頭している。
朝からの晴天であるのに ― 邸には誰もいない。
まず ・・・ ご当主であるギルモア博士はコズミ博士の研究室に出張しなにやら
< 特別ミーティング > なのだそうだ。
この老人たちは底なしのエネルギーの持ち主らしく、おそらく世を徹しての作業となっても
平気の平左なのだろう。
ご老齢なのに・・・ご苦労さまです〜〜 すごいわよねえ ・・・
フランソワーズはちょっぴりため息をはく。
「 えっと・・・お掃除 おっけ〜 っと。 あとは〜〜 う〜〜ん・・・?
あ そうだわ〜〜 ウチの花もすこし飾ってみようかしら ・・・ えっと花瓶は〜〜 」
パタパタと駆けてゆき 流し台の下から花瓶をひっぱりだした。
「 この季節だとなにがいいかしら。 ・・・ あ そうだわ!
庭の雑草の花とか・・小さなのをいっぱい活けてみようかな。
そして お茶タイムには グレートが送ってくれた本場のお茶と今年最後のいちご。
いいわ いいわ〜〜 これで決まり! ね 」
フランソワーズはご機嫌で 庭に出て行った。
花壇とは別に まだ整地していない庭に隅にはいろいろな草が自生している。
自然のままの小さなポピーや 雛菊 そして花壇からは自慢の矢車草を摘んだ。
「 さあ〜〜 これでいいわ。 薔薇みたいに豪華じゃないけど ・・・
これも春の祭典よね〜 ふふふ♪ 」
彼女は自然の花束を抱いて リビングに戻った。
ジョーはヨコハマ市にある大学へ 説明会 に出席している。
説明会 とは ・・・ この付近では進学説明会を意味する。
「 ジョー・・・がんばって! あなたもあなたの夢へ 第一歩よ〜〜 」
説明会の後にはキャンパスを見学、そしてもうひとつの公立大学にも寄ってくる、と言っていた。
「 ウチの皆 ・・・ 目標に向かってまっしぐら、ね。
わたしも ― わたしも また ・・・ 踊りたい な ・・・ 」
・・・ トン。 スリッパを脱いで床をちょっと蹴ってみた。
「 あは ・・・ 少し蹴ればすぐにくるくる回れたのに・・・
そうよね・・・ もうバレリーナを目指していたフランソワーズは ・・・ どこにもいないのよね ・・・ 」
じんわりと涙が盛り上がってきた。
「 ねえ ・・・ また夢をみては いけない? わたし また踊りたいの ・・・! 」
ピピ ・・・ ごく低いアラーム音が鳴った。
「 ? ・・・ あ みつこさん ね! 門まで迎えに行かなくちゃ! 」
フランソワ―ズはエプロンを取ると 小走りに玄関から出ていった。
ギルモア邸は崖の上 ― 急な坂道を上りきった台地に建っている。
その坂道の入口に 小さなセンサーが仕掛けてあり、来訪者をチェックしているのだ。
「 ようこそ〜〜 みつこさん! 」
「 こんにちは フランソワーズさん。 海のすぐ近くで素敵なお家ね。 」
「 ふふふ すごい田舎でびっくりなさったでしょう? 」
「 あの・・・ これ お土産です。 ウチの庭から持ってきました。 」
みつこは 根本をくるんだ薔薇の苗を差し出した。
細い茎に柔らかい緑の葉・・・そして 白地にピンクを染めた花が2つ3つ咲いている。
「 わあ〜〜〜 可愛い・・・ ありがとうございます〜〜 みつこさん・・・ 」
フランソワーズはそう・・・っと その花びらに触れてみた。
ふわり ふわ〜 ・・・ 重なりあった花びらがゆるく揺れた。
「 かわいい ・・・ これ スカートみたい ・・・ 」
「 これは蔓薔薇なんです。 舞姫 という名前なの。 」
「 ・・・ 舞姫 ・・・! 」
「 ええ。 あの ね、あなたが ・・・ この前、薔薇たちの中で踊っている風に見えたの。
花の精が 踊っている・・って思いましたわ。 」
「 ・・・ まあ ・・・ 」
「 だから この花がいいかな・・・って。 フランソワーズさんにぴったりに思えて・・・ 」
「 メルシ〜〜!! この花に わたし・・・勇気をもらえました。 」
「 勇気? 」
「 ええ。 ふふふ・・・ ナイショなんだけど ・・・ みつこさんにはお話しますね。
さあ〜〜 お茶にしましょう。 わたしのお得意、オーツ・ビスケットをどうぞ? 」
「 まあ うれしいわ〜〜 ね フランソワーズさんは パリの方? 」
「 ええ そうなの。 ・・・ もうずっと帰っていないけれど ・・・ 」
「 そう ・・・ 私は母がイギリスの女性でした。 」
「 まあ〜〜 薔薇の国からいらした方だったのね。 それでみつこさんの瞳は
糖蜜色なのね。 ステキ ・・・ 」
「 自分じゃ見えませんもの。 フランソワーズさんは碧い目ね、綺麗だわ ・・・ 」
「 わたしには見えないもの〜〜 」
うふふふ ・・・ クスクスクス ・・・
ギルモア邸のリビングに 珍しくも若い女性達の華やかな笑い声が溢れていった。
ふう〜〜〜 ・・・ ジョーは思わず大きく吐息をついた。
「 ・・・ ここに通えたら なあ ・・・ ここで勉強したい。 」
たった今 出てきた門を、 大きな正門を振り返る。
説明会がやっと終わった。 参加していた似たような年頃の者たちの多くは親と一緒だった。
友達同士で来ている者、高校の制服姿の者もいた。
一人で座っていたジョーは 少し異彩を放っていたが本人は全然気にもとめていなかった。
ジョーは 熱心に話に聞き入った。
渡された資料の重みが ― なぜかちょっとうれしい気もする。
「 ― 挑戦だな。 うん ・・・ やって みる! 」
自分自身に宣言し もう一度キャンパスを振り返り学舎を眺めていた ・・・ その時。
プワ〜〜〜〜 プワ〜!!
「 お〜〜い 君! しまむらくん〜〜〜 島村くん! 」
派手なクラクションと共に 彼の名前が連呼された。
「 !? 」
ジョーは一瞬 ・・・ ほんの一瞬 009 になりかけてしまった!
「 ・・ はい? ! わあ〜〜 コズミ博士〜〜〜 あれ。 ギルモア博士も!? 」
彼を呼び止め すう〜っと寄ってきた車は なんとコズミ博士が運転をしていたのだ!
「 うわわ ・・・・ う 運転なさるんですか?? 」
「 ふん これでも長年のゴールド・ライセンス保持者じゃ!
今でも週に一回は高速をぶっちぎり〜〜・・・ と あ いやいや〜〜
今はともかく 乗りたまえ、ジョー君。 」
「 え ・・・ぁ でも ・・・ 」
「 いいから 乗れ、ジョー。 」
「 ギルモア博士? うわあ〜〜〜 ・・・ 」
後部座席からギルモア博士が降りてきて ジョーを車に押し込めた。
「 ・・・ うわ ・・・ 博士に拉致されてしまった ・・・ 」
「 いいかな? 出るぞ? ちょいと飛ばすからな〜〜しっかり掴まっておれよ〜〜 」
「 は はい ・・・ ( うわあ 〜〜〜〜 ) 」
その後 20分ほど ・・・ ジョーは文字通り 真っ青になり固まっていた。
キキ −−− ッ ! どん。
国産の人気車種は 派手な音を立てて止まった。
「 ふむ ・・・ ギルモア君から事情を聞いての・・・
ワシもオメガ博士の件は知っておる。 あやつめは 必ず再襲来してくるぞ。 」
「 え ?! 」
「 ジョーよ、 それでなあ コズミ君とちょいと共同作業をしてみたのじゃ。 」
「 きょ 共同作業??? 」
「 さよう さよう ・・・ ヤツのサイボーグの攻撃に対峙するために な〜〜
うむ、 ジョー君、 君のためのクルマを改造してみたんじゃ。 」
「 !? そ それって ・・・ 魔改造 ・・・?? 」
「 なんでもいいじゃないか! それよりも早く試運転してほしいのじゃ! 」
「 そうじゃよ! 機能の説明もあるしな。 ほれ はようせんか〜〜 」
「 あ ・・・ は はい ・・・ ( なんなんだ〜〜〜 ) 」
ジョーは 血気盛んな?老科学者たちに背を押され急かされ ・・・ 古びたガレージに
拉致 ・・・ いや! 案内されていった。
Last updated : 20,05,2014.
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********* またまた途中ですが
え〜〜 まだ続きます ・・・
ゲランの ミツコ、 蔓薔薇の 舞姫 は
実在です〜〜〜〜 よ♪