Part 9. 戯言 >

 

 

 

「 ・・・・あら? えっと・・・ティ−スプ−ンは、っと? 」

食器棚の引き出しを開けたり閉めたり、ハッチの引き戸の中を覗き込んだり、

フランソワ−ズはギルモア邸のキッチンでうろうろと動き回っていた。

 

「 ・・・あった! やあねえ・・・なんでこんな所に放り込んであるのかしら。 」

やっと見つけたスプ−ンを人数分つかみ出した。

・・・ちゃんと洗ってあるの・・・?

 

そんなに長い間いなかったかなあ・・・

しばらくぶりにこの邸のキッチンに立ったとき、フランソワ−ズはちょっと溜息をついた。

・・・なんか、違う・・? 

少々雑然としているのは仕方がないと思ったが 一番慣れ親しんだはずの場所は

あの頃とは ちょっとちがった表情を見せている・・ような気がした。

そんなはず、ないわね。 気のせいよ・・・ わたしが忘れちゃっただけ。

さあさ、お茶を淹れましょう。 みんなのお気に入りはっと・・・・

 

お茶の用意を始めて すぐにその違和感が気のせいではないことがわかった。 

食器のしまってある場所が 変わっている。

お茶のストックやら砂糖の買い置きがどこにも見当たらない。

冷蔵庫の中は・・・ 閑散としていた。

やりやれ・・・と 習慣的に使い易い風に、入れ替えようとしたが ふと、手が止まった。

 

・・・ 余計なお節介、かしら・・・?

そうよ、そうよね。 ココはもう<わたしの家>じゃないんだもの。

自分で決めて、そうしたワケでしょう? 今度<来た>のもわたしの意志だわ。

わたしは・・・ そうよ! 仕事に来たんですものね。

・・・ ね ?  003、でしょ?

 

隅っこに溜まったホコリやら 収納場所の出鱈目ぶりには ・・・ 目を瞑った。

とにかくソコにある材料をかきつめ、なんとかフランソワ−ズは人数分のお茶を淹れた。

 

 

「 ・・・さあ、お茶がはいったわ。 」

「 おお、これは我らが姫君、 お帰りになる早々申しわけありませんな。 」

グレ−トが恭しく会釈をし、ピュンマがその間に黙ってポットを受け取ってくれた。

「 君のお茶は・・・久し振りだね。楽しみにしてたよ。 ああ このカップ、好きなんだ。 」

「 ありがとう、ピュンマ。 さ、熱いうちに ・・・ どうぞ? 」

温かなお茶は 香りといっしょにやわらかな空気もリビングに運んできた。

 

 − やっぱり・・・ 彼女がいると、ちがうな・・・

 

居合わせた誰もが同じことを思ったが あえて口にするほど不粋な輩はいなかった。

心地好い沈黙を 誰もがしばし楽しんで味わっていた。

 

 

「 それで。 現在の状況はどうなんですか、博士? 」

「 ああ、それなんだが。 ピュンマとジョ−の情報を総合して検索してみたのじゃが・・・ 」

ソファで寛いでいたギルモア博士は フランソワ−ズの問いかけにしゃんと身を起こした。

モニタ−の大画面が広げられ、皆の視線が集中するとそこはたちまちカンファレンス・ル−ムになった。

 

「 ・・・まあ、そんな訳で一応皆に集まってもらった。 なにか他にデ−タはあるかね? 」

博士の解説が終わると 一同に少しほっとした雰囲気が流れた。

・・・今すぐにどうこう、ということはないだろう。

臨戦態勢の覚悟は出来ているが、平穏であるに越したことはない。

 

あ・・・、と小さく声をあげたフランソワ−ズに皆の視線があつまった。

「 なんだ? 」

「 ・・・ええ、あの。今回の異変に関係があるかどうかは・・・わからないのだけれど。

 ちょっと気になることが、・・・ある人に再会したのよ、パリで。 」

皆の沈黙が 彼女に続きを促す。

「 その人は・・・ほら、グレ−ト。覚えているでしょう? あの時、わたしが捕らえられていた

 <トワイライト・ゾ−ン>に居た・・ヒト。 わたしを、わたし達を逃がしてくれたわ・・・ 」

・・・フィリップ。

何処に行ったの、どうしている・・・? <むこう側>へ帰ったの・・・?

フランソワ−ズは膝に組み合わせた自分の指をじっと見詰めた。

「 おお、おお! あの未来人の坊やだな。 ・・・ちょっとジョ−に似てた、な? 」

「 そ・・・そう、かしら・・・ 」

グレ−トの口調に アルベルトがちらりとフランソワ−ズに視線をながした。

「 ジョ−ってばよ、アイツは? 俺、まだ会ってないぜ。 」

それまで珍しく口を挟まずにいたジェットが 頓狂な声を上げた。

 

「 ああ・・・。 なんか先輩が事故に遭ったらしいのだが、それがどうもな・・・ 」

「 どうも? 」

やっとフランソワ−ズが顔をあげた。

「 いや、これはジョ−が俺にメ−ルしてきた。 その人はレ−シング・チ−ム時代の

 先輩だそうだ。 それでその人自身ではないのだが、どうも関係者に<ヒトが変わったような>

 人物がいるらしい。 」

「 アルベルト、我輩も聞いたぞ。 そうだ、新聞にも出てたなあ。 その先輩なる人物は亡くなったよ。

 たしか・・・ モリヤマ、とかいっていたな。 」

「 ・・・・ モリヤマ!? 」

フランソワ−ズが 一瞬息を呑んだ。

「 なんだ、マドモアゼルも知っているのかね? 」

「 いえ、その人自身じゃなくて・・・ 奥様が ・・・・ お友達、なの。 」

「 ほう・・・ じゃあ、お前たちの共通の友人なのか? 」

「 え? ・・・ええ・・・。 亡くなったって、ほんとう? いつ? 」

「 2-3日前だったと思うがな。 ジョ−から聞いてないのかい? ヤツはその先輩の

 家に行ってるはずだぞ。 」

「 ・・・・そ、そうなの・・? ・・・昔、お世話になった方だから・・・いろいろお手伝い

 してるのよ ・・・・ きっと。 」

 

 − どうぞ 声が震えませんように・・・

 

フランソワ−ズは また目を伏せ組んだ手でしっかりと自分の膝をかかえた。

俯いたのは 唇を噛んでいるのを見られたくないから・・・ 

 

「 ともかく。 今晩には戻るだろう。 脱線してしまったが、フランソワ−ズが会った

 その人物が・・・ なにかあったのか? 」

「 あ・・・ そうなの、それがね・・・ 」

さり気無く話題を戻してくれたアルベルトの気配りに フランソワ−ズは心底ありがたかった。

ちら、と目礼を送ると しゃんと顔をあげフランソワ−ズは語りだした。

 

 

 

・・・・ ふう ・・・・

ジョ−は ただ 仰向けになって天井を見ていた。

うとうとしていたのだろう、遠くに雨の音をきいた気がして目がさめた。

・・・・ 雨が降ってる・・・のかな・・・・ 

やがて ひそやかなその水音は 微かに聞こえてくるシャワ−の音だと気が付いた。

 

 − ああ・・・ そうだ・・・。 ここは。

 

けだるさと爽快さが入り混じった 不思議な感覚がまだ身体から去らない。

なにも考えたくない、考えられない・・・ 

このまま 世界が消滅しても ・・・ それはそれでいい ・・・

今はただ、この陶酔した想いの海にゆらゆらと漂っていたかった。

 

気がつくと水音はいつの間にか止んでいた。

バス・ル−ムの気配を察し、ジョ−はゆっくりと起き上がり床に散らばった服に手を伸ばした。

 

 

「 ・・・・淹れなおしたわ。 はい・・・ 」

「 ・・・・・・・ 」

夜も更け周囲の物音も絶えたキッチンで ジョ−と理恵子夫人はコ−ヒ−の湯気を眺めていた。

「 やっぱり、聞いて欲しいの。 ・・・・森山の事故のこと。 」

「 理恵子さん・・・ 」

ガウンの襟をきっちりと掻きあわせ、理恵子夫人は背筋を伸ばした。

「 ・・・あの事故の前日、森山は珍しく早く帰って来て・・・ ウチで夕食を食べたの。

 もうずっと、ただ寝に帰るだけでね・・・ 忙しいのはわかっているつもりだったけど

 私にだって限界があるわ。  仕事柄仕方がないっては思えなくなっていたの。 

 これじゃ、一緒に居る意味はないってね。 」

「 先輩は・・・ 本当にあの仕事が好きだったんですよ。 アナタのこととは別に。 」

「 ええ・・・ あのヒトは仕事に恋したわ。 それがわかったから・・・私の居場所はなくなった・・・ 

 ああ、そんなコトよりも。 それで・・・その時。 今回のテスト・ドライバ−について

 どうも変だ、って言ったの。 」

「 変? 」

「 そう。 そのドライバ−は最近体調を崩してちょっと休んでいたのね、でも何とか今回の

 試験走行には復帰してたんですって。 それで・・・ その人が・・・ 」

「 <ヒトがかわったようだ>って?  」

一段を低いト−ンで口を挟んだジョ−に 理恵子夫人は目を見張った。

「 そうなの! ・・・どうして わかるの? 」

「 ・・・ いや・・・ 似たようなケ−スが あって・・・ 」

「 ふうん? ・・・それでね、私、家に帰ってまで仕事のことばかりの彼にいらいらして・・・

 そんなに気になるなら あなた、自分で乗ったらどうなの? って

 なんの考えもなしに 私、言ったのよ・・・ 」

テ−ブルの上に置かれた夫人の手が きゅっとカップの取っ手を握り締めた。

「 あのひと・・・ちょっと驚いた風に私を見たけど・・・ ああ、そうだなって独り言みたいに言ってた・・ 

 だから・・・。 私が あんなコト、言ったから ・・・ 公一は ・・・ 」

・・・・ ぱた ・・・・ 音をたてて涙が洗いたてのテ−ブル・クロスに落ちる。

「 理恵子さん。 それは違う。 先輩は全ての状況を考えて、ああいう判断をしたんですよ。

 ドライバ−の経験とメカニックの知識が あの結論を導いたのだと思います。 」

「 ・・・・ 島村君 ・・・・ 」

「 あれは 事故です。 誰の責任でもありません。 あなたが気に病む必要はないです。 」

ジョ−はきっぱりと言って 夫人の顔を見詰めた。

「 ただ、そのこととは別に、その<ヒトがかわったようだ>っていうドライバ−のこと、

 教えてくれませんか? ちょっと気になることがあるんです。 」

「 え、ええ・・・いいわ。 たしかデ−タが主人のデスクにあった筈よ。

 明日中に お送りするわ。 」

「 お願いします。 ・・・・ あの・・・ 帰ります。 」

「 ・・・・・ 」

ぶっきら棒に、かなり唐突に。 

椅子を鳴らして立ち上がったジョ−に 夫人はしずかに微笑み黙ってうなずいた。

 

 

・・・・ 島村君 ・・・

・・・え ? 

送らないで欲しい、と独り玄関口で靴を履いていたジョ−の背に 

ふわり、と暖かい身体が寄り添った。

 

・・・  これっきりね。 君には flirt ( フリ−ト・火遊び )は ・・・ 似合わない。

ありがとう ・・・・ ジョ−。  さようなら・・・・

 

理恵子さん・・・!

 

熱い吐息が耳元に漏れ、やさしい手がそっとジョ−の背を押した。

ちいさな足音が遠ざかるのを確認して、ジョ−は静かに明け方ちかい闇の中に出ていった。

 

 

 

「 お帰りなさい。 」

「 !? ・・・ フランソワ−ズ ! 」

静まり返ったギルモア邸の玄関をぬけ、二階へ行く前にふと思いついてキッチンへ足をむけた。

常夜灯も消えているなか、冷蔵庫を開けた途端に暗闇から声を掛けられ、ジョ−は取り出した

水のペットボトルを落としそうになった。

「 ・・・・ お帰りなさい。 お仕事は終わったの? 」

冷蔵庫の灯りに キッチンのテ−ブルに頬杖をついているフランソワ−ズの姿がぼんやりと

浮かびあがった。

「 ・・・ こんな時間に・・・ 眠れないのかい。 」

「 いいえ? 眠くってしょうがないけど・・・ お忙しい誰かさんを待っていたの。 お疲れさま〜 」

フランソワ−ズは自分の前にあるグラスを 取り上げて振って見せた。

「 嫌味かい。 」

「 さあ? そう思えるのはご自分が原因じゃなくって? 」

「 ・・・ 何が言いたいんだ。 はっきり言えよ。 」

普段よりいっそう低いジョ−の声が びん・・・と響く。

「 あら。 言ってもかまわないのかしら。 」

「 ・・・ だから。 言えよ、黙って耐えてますっていうきみのスタンスにはうんざりだ。 」

「 そう。 わたしだって。 アナタの余所見には ・・・ ウンザリよ? 」

ぱっとジョ−を振り仰ぎ フランソワ−ズは音をたててグラスをテ−ブルにおいた。

「 ・・・ あ? きみ、髪が・・・? 」

真向かいの椅子を引いて座り、ジョ−はしばらくぶりで見るフランソワ−ズの姿に言葉を途切らせた。

背の半ばまで覆っていた豊かな巻き毛は 今は肩先でぴんぴん跳ねている。

「 気が付いたの? へえ・・さすが見慣れないオンナにはすぐ目が行くのね。 」

「 フランソワ−ズ。 きみ、酔ってるのか・・・? 何を飲んでるんだ。 」

「 ただの水割りよ、お酒でも飲まなくちゃアナタの相手はできないもの。 

 ほうぼうでもてる方とオハナシするのは 緊張してしまうわ、ねえ? 」

普段の彼女には似合わない口調に、ジョ−は眉を顰めた。

「 ぼくは石でも木でもないんだぜ?

 生きて・・日々すごしていれば こころを惹かれるモノとか・・・ヒトに出会うのって当然だろ。

 そんなヒトが・・・辛い想いをしていれば 慰め、力になるよ、ぼくは。」

「 ・・・そうやって あなたは・・・他の女のヒトを愛するわけ?! 」

「 きみが一番大事だって、一番・・・愛してるって 何回も言ってるだろう?」

「 一番って。他にも沢山いるってこと? そんな中で<いちばん>になっても嬉しくなんかないわ!

 もう、疲れたわ、わたし。 アナタに振り回されるのは・・・もうたくさんなの!」

「 振り回すって・・・勝手にそっちが誤解して騒いでるんじゃないか!」

「 誤解? 騒いでる、ですって?! 」

夜の闇は次第にその色を薄めはじめていたが、キッチンの狭いテ−ブル越しに言い合っている

二人は まったく気がついていなかった。

 

 

「 ・・・ ねえ? あのままで大丈夫かな? 」

リビングのソファに身を沈めたピュンマが 誰にともなく呟く。

「 ほっとけ。 あいつらの痴話喧嘩は ・・・ もう慣れっこだが、こんな時間にやられるとなあ・・・ 」

アルベルトが欠伸を噛み殺した。

「 深夜のキッチンで二人して喚けば・・・ココは吹き抜けだからよ。 まあ、よく響くわ・・・ 」

ぼりぼりと背中を掻いてジェットが うんざりとぼやいた。

夜明け前のただならぬ気配に 全員が飛び起き密かにリビングに集まってしまった!

「 痴話喧嘩、とはちがうアルね。 」

まるまっちい手で泥鰌髭をしごき、大人がにんまりとしている。

「 さよう・・・。 ありゃ、犬も喰わないってヤツさ。 」

グレ−トはうん・・・と伸びをしてソファにひっくり返った。

「 だけどよ、あんな風に言い合って・・・マジだぜ?あの二人。 

 普段、あんまりあれこれ言わないジョ−のやつがムキになって言い募ってるし

 フランも・・・ ありゃ・・・ ほとんど泣き喚いてるじゃないか! 」

柄にも無く心配そうなジェットに グレ−トが鼻先でわらった。

「 あのなあ、坊や。 遠慮がまるでないのは、それだけお互いの絆を信頼しているからだ。

 不安定な恋人同士は あんな風な・・・ 本音のぶつけ合いはしないもんさ。

 ふふん・・・ あれは立派な夫婦喧嘩だ。 」

「 放っておけ。 ・・・ 成るように成るのが一番自然だ。 」

ぼそり、と呟いてジェロニモは リビングを出て行った。

音もたてずに立ち去る巨躯を見送って アルベルトも立ち上がって伸びをした。

「 ・・・・ああ。 雨降ってなんとやら、か。 俺ももう一回寝直すわ・・・ 」

なぜかほっとした思いを抱えて、野次馬の外野どもは自室に引き上げていった。

 

 

「 肝心なことは何も言わないでさ。 ・・・いつも黙って。 独り善がりで我侭だよ! 」

「 そうさせたのは誰? 」

悲鳴に近い自分の声に フランソワ−ズ自身びっくりして二人は呆然と顔を見合わせた。

・・・こんなコト、言うつもりじゃなかったのに。

おなじ想いが湧き上がり、そして自然にそれがお互いに察しられた。

 

「 ・・・だって! きみは・・・ぼくを捨てたじゃないか! 黙ってぼくを置いて行った・・・! 」

 

 − ジョ− ・・・・

 

フランソワ−ズは言葉もなく ジョ−の顔を見詰めていた。

初めて・・・見るわ。 ジョ−のこんな顔・・・ 泣いて・・・いるの?

 

  ボクヲステタ ・・・ 捨てた ・・・ すてた ・・・

 

そのフレ−ズが がんがんとフランソワ−ズの頭の中に響いた。

・・・そうか・・・ そうなんだ。 このヒトは。

誰よりも強い身体を与えられながら 彼のこころはいつも怯えていたのだ。

置いて行かれることに、放り出されることに・・・ 捨てられることに。

だから

独りに震えているヒトに、手を差し伸べずにはいられない・・・

 

すうっとベ−ルが剥がれ落ちて はっきり見える、とフランソワ−ズは感じた。

それがなにか、は彼女にはまだよくわからなかったけれど。

 

「 わたしはあなたを捨てたりしないわ。 」

穏やかで、柔らかい声。 いつものフランソワ−ズの声がしずかに響いた。

「 ・・・・ フランソワ−ズ ・・・・ 」

「 ジョ−。 わたし、いつもあなたの傍にいる。 置いていきはしないわ。 」

ひんやりとした白い手が ゆっくりとジョ−の手を包んだ。

 

 −・・・だから。 わたしだけを見て。

 

「 ・・・ごめん・・・ どうかしてた。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・  <ただいま>・・・ 」

「 お帰り・・・ フランソワ−ズ・・・ 」

 

一点で触れ合っているだけなのに、二人は全身にお互いの暖かさがゆっくりと

流れ込んでくるのを感じていた。

 

「 ・・・やだ、もう明るくなってきたわ。 」

「 ああ、本当だ・・・ ふふ ・・・ とんだコトで徹夜しちゃったね。 」

「 時差ボケがいっぺんで治りそうよ? ・・・ あら?! 」

 

突然、まだ薄暗いリビングから電話の音が響いてきた。

メンバ−が同じ屋根の下に揃っている今、未明の電話に二人は顔を引き締めた。

 

ぼくが、・・・と目顔でフランソワ−ズを制すると、ジョ−は静かに受話器を取り上げた。

 

「 ハロー ・・? 」

ジョ−の脇に立ち、フランソワ−ズもそっと耳のスイッチをいれる。

「 ハロ−? ギルモア研究所です。 どなたですか? 」

「 アロ−? アルヌ−ルだけど・・・ああ、ジョ−、君か! 妹は・・・

 ああ、こんな時間じゃまだ眠ってるな。 いや、いいんだ、君の方が。 」

「 ジャンさん! はい、あの・・・? 」

懐かしい声に 思わず顔をほころばせフランソワ−ズはそっとジョ−の腕に手を絡めた。

 

じつは・・・とジャンは早口に話しはじめた。

フランソワ−ズが日本へ発った翌日、フィリップが訪ねてきたという。

「 相変わらず 礼儀ただしいヤツなんだが・・・ どうもオレはひっかかってね。

 その・・・ なにかが、違う。 オレはたった一回しか会ってないからかもしれないが・・ 

 それでも、どうも・・・その、上手く説明はできないんだが・・・ 」

「 つまり・・・ 見かけは同じでも 雰囲気とかが・・・別人のよう、なんですね? 」

「 そうなんだ! 確かに悪い感じではない、でも・・・ なにか、しっくりこないってヤツだな。 」

フランソワ−ズの不在を知ったフィリップは いつ戻るかを訊いただけで帰ったらしい。

「 妹から<事件>のあらましは聞いていたから・・・ どうしても気になってね。

 こんな時間に申しわけないんだが・・・  ああ、妹はちょっと長い間田舎に静養に行った、

 といっておいたよ。 」

「 ありがとうございます、ジャンさん。 あ、ちょっと・・・ 」

ジョ−は黙って受話器をフランソワ−ズに渡した。

「 アロー? お兄さん? ・・・・うん、うん・・・・。 え?ええ、ちゃんと・・・話したわ。

 ・・・え ・・・やだ・・・そんな・・・。 ねえ、それよりフィルが来たってほんとう?

 それでフィリップは また来るって言ったのね? うん・・・・うん、わかったわ。 」

 

ありがとう、またね、とフランソワ−ズはすこし名残惜しそうに電話を切った。

 

「 ジョ−・・・。 」

「 ああ。 そうだね。 ・・・きみの推測は当たっていると思うよ。 」

 

カ−テンの隙間から 光がひとすじ、リビングに射し込んできた。

しらじらと明けはじめた空は 次第にその色の濃さを増してゆく。

今は沈黙してる電話をなかに、ジョ−とフランソワ−ズはしっかりと見詰め合っていた。

 

これは・・・ チャンスか? なにかの糸口ではないか???

 

日の出を待たずに吹き出した風が カタカタとテラスへのフレンチ・ドアを揺らし始めた。

 

 

Last updated: 12,01,2004.                 back    /    index    /     next

 

 

*****  ひと言   *****

皆様の93像を壊してしまいましたか?

たまには本気で喧嘩する二人もいいんじゃないかな〜・・って思ったので・・・(^_^;)

一番楽しんだのは・・・野次馬どもかな?赤ん坊はねんねしていました!