< Part 2   抱擁 >

 

 

 

本格的な暑さがやってくる前  季節はいったりきたりいつも不安定な顔を見せる。

その年も 初夏とは思えない肌寒い日やぎらぎらの真夏日が交互に訪れていた。

 

海に近く臨むここ、ギルモア邸は見かけは少々古風なのだが

計算しつくされた設計のお陰で 海風が爽やかに吹き抜けて夏でも快適に過ごす事が出来た。

夜には見事な銀河が 中天に流れるのが見渡せる。

 

 

そんな ある夜・・・・

 

 

「 ・・・・暑いな・・・ エアコン、いれてもいい? 」

「 ・・・・ え ・・・・? 」

「 暑くない? 」

「 ・・・ううん・・・ あ、テラスも少し開ける? 風が抜けて結構涼しいわ 」

「 うん・・・ 」

 

 − あ、やだ・・ジョ−ったら・・・!

 

自分の側からするりと身体を抜いて そのまま部屋を横切ってゆくジョ−の姿に

フランソワ−ズは思わずひとりで頬を染めた。

目を逸らせたいのに、なぜかその広い背中に視線は張り付いたままだ。

 

 − やだ・・・ わたしって・・・

 

背中に赤いスジが 二本、三本・・・ あれって・・・わたしの 爪の・・・跡・・・

・・・ やだ ・・・ 夢中になって・・・ それで ・・・・

ついこの前までシ−ツを握り締めていた手は いつの間にかジョ−の背に廻されるようになった。

ジョ−の広くて逞しい背中はなんとも心地好く この頃ではしっかりとすがり付いていることさえある。

・・・でも、だからって・・・ わたしったら・・・・

ぱふん・・・あわてて上掛けの下にもぐりこんで。 そこでまた ひとりで赤くなった・・

 

「 う〜ん・・・ きみの部屋は風通しがいいんだね。 ああ、角だからな・・・ 」

「 ・・・・・ 」

「 なに、潜ったりして? ほら〜・・? 」

「 ・・・・ きゃ・・・・ 」

わざとばさりと上掛けを剥がれ、フランソワ−ズはその裸身のほとんどを晒してしまった。

「 やだ・・・! ジョ−ったら〜 わざと・・・ 」

「 いいじゃん♪ 暑いだろって・・・。 ・・・・ねえ・・? 」

「 ・・・あ・・・・ や・・・ ねえ、今夜は・・・もう、イヤ・・・ 」

彼女の横に滑り込んで来たジョ−は軽口をたたきながらも でもかなり本気でその重みを掛けてきた。

頬から首筋へ辿る指先は うっすらとピンクにそまったままの胸をまさぐりはじめた。

「 ・・・・ やだってば・・・ もう、お終い・・・ 」

「 ・・・・ 」

ぎゅ・・っと押し返して来た彼女の真剣さに鼻白んだのか、ジョ−はくるりと仰向けに寝転がった。

 

「 ・・・ねえ? 」

「 ・・・・・ ん ・・・? 」

 

こそっとジョ−に寄り添って フランソワ−ズは彼の脇にすっぽりとはまり込んだ。

ふう・・・ん・・・

まだ青い柑橘類に似た匂いが かすかに鼻腔をくすぐる。

 

 − ジョ−の・・・ におい。  わたしだけが知ってる・・・彼の匂い・・・

 

男の子って着痩せするのかしら、とフランソワ−ズはくすり、と笑った

すべすべと張りのある彼の胸板は 服に包まれている時よりも遥かに厚く精悍なのだ。

そう、あの赤い服の下にこんな逞しい身体が隠されていたなんて 全然わからなかった・・・

ふふ・・・ 003の眼をも誤魔化してたってわけ? 最強の戦士さん?

 

・・・ねえ・・・

吐息のように またフランソワ−ズは小さく呟いた。

わたし・・・ こうしているのが いちばん好き・・・・

ジョ−の胸にぴったりと頬を摺り寄せると フランソワ−ズはゆっくりと息を吸った。

亜麻色の豊かな髪が ふわりとジョ−の胸に広がり彼の頬をもやわらかくくすぐる・・・

 

いいけどね・・・ 男はソレだけじゃあすまないってこと・・・わかってる?

こころの中に溜息をもらし、ジョ−はそのまろやかな白い肩に腕をまわした。

 

彼女と夜を共にするようになったのは この春になってからだ。

はじめて抱いたその身体は 彼が今までに知っていたどんな身体よりも白く細くて

ジョ−は 繊細なガラス細工を手にとるように細心の注意をはらった。

戦闘中には何回も抱きかかえたり 庇って抱きしめたりしていたのに・・・

知らなかったっていうか・・・気が付かなかったな・・・

彼女は こんなにも華奢な身体をあの赤い服で覆っていたのだ。

 

そうっと腕に抱いた輝く裸身、でもジョ−はすぐにその身体が決して脆弱とか羸弱とかいう

もろい細さではないことに気付いた。

細く、でもしなやかで・強靭で・・・・・そう、鍛えられた鞣革のように彼女の身体は

ジョ−の身にしっとりと纏わった。

かぎりない優しさと強さを秘めたその身体に ジョ−は感動すら覚えた。

 

そして。 

 

すぐに夢中になった。

固く眼を閉じ、かすかな震えと一筋の涙で開かれたその蕾は

夜ごと日ごとに魅惑の花弁を拡げはじめ、芳醇な香りで彼を魅了する。

 

もっと 愛したい・・・ もっと もっと きみを味わいたい・・・!

 

そんなジョ−の望みは 肝心の御本尊にはどうもあまり通じていないようだった。

きつく夜具をつかんでいた手は おずおずと彼の背に廻されるようになったが、

彼女自身の悦びを 紡ぎ出すにはまだ至っていない・・・。

ジョ−が喜んでいるから 自分も嬉しい・・・そんな気持ちのこの類稀な名花は

自分の美しさに気付いてはいないらしい。

 

 − まあ、まだ、いいけど、ね・・・。

 

もう一度そっと吐息を呑み込んで ジョ−は自分のすぐ顎の下にひろがる豊かな髪を愛撫する。

ほのかに立ち昇る甘い香り・・・

どんなフレグランスともちがう、彼女自身のにおい。 ジョ−だけが知った、この匂い。

 

ふう・・・

火照った身体を持て余し ジョ−はこんどはかなり大きく息を洩らせた。

 

「 やっぱり暑いの? ・・・ エアコンを入れる? 」

「 え・・・ ああ、大丈夫・・・ このままでいいよ。 」

「 そう? よかった・・・・ 」

 

 − ほんとは よくないんだけど・・・

 

口の中でだけで呟いて、ジョ−はゆるゆるとフランソワ−ズの髪の、そのやわらかな

感触を楽しんだ。

 

「 ・・・・でね・・・、聞いてる?ジョ−ってば・・」

「 ・・・え、あ、なに・・ 」

「 もう・・・! 今度のパ−ティのこと。 付き合って?  」

「 う〜ん・・パ−ティ−・・・? 」

「 そうなの、ほら、今通ってるバレエ団の創立記念パ−ティ−があるの。 

 ね ・・・ 一緒に ・・・ 出かけたいもの・・・ 」

「 う・・・ん・・・ 」

「 いろんなヒトが来るのよ。 あ、そう、バイクに乗る女性( ひと )もいるのよ〜 

 えっと・・・なんだっけ、あの凄く大きなバイク・・・・ なんとか・・ハンっていうの、ある? 」

「 ? ・・・・ああ、 ナナハン だろ? 」

「 う・・ん 多分。 それでね、その人とっても素敵なの。 元モデルさんで、わたしがお手伝いしてる

美容クラスにいらしたのよ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ 」

「 とにかくね、かっこいいの♪ 奥様で・・・確か・・御主人が自動車関係のお仕事だったと思うわ。 」

「 ・・・・ そう ・・・ 」

「 ね、だから。 一緒に来て? 」

「 ・・・ う〜ん ・・・・ 」

 

生返事ばかり繰り返してるジョ−に フランソワ−ズも少々気がそがれたようだった。

 

「 ・・・ やっぱり・・・ こうしてるのが・・・一番好き ・・・ 」

吐息まじりの呟きと一緒に 細い腕がジョ−の首に絡んできた。

おやおや、これは・・と 彼女の顔をちら、と覗えば 

ぱたっと止まったお喋りの後にはすぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

 

・・・ちぇ・・!

 

舌打ちとともに覗き込んだその顔は まったくの無防備であどけなさすら感じられる。

 

 − まだ コドモだもの、な・・・・。

 

おやすみ・・・と、その頬にそっとキスを落として、ジョ−もゆっくりと眼を閉じた。

 

 

ほそいほそい三日月が 浅い初夏の夜空に懸かる。

やがて迎える華やかな季節を前に やさしい夜がしずかに更けていった。

 

 

Last updated:10,03,2004.           back  /  index  /  next

 

 

*****   ひと言  *****

やっと話が始まりました。(^_^;)  時間的には逆戻りしています。

ややこしい書き方ですみません。 季節はゆっくり巡ってゆきます〜〜