『 アメイジング・ グレイス  − 2 − 』






     
             ****  お断りとお願い  ****
     恐らく、お読みくださる方々の中には緻密な頭脳と専門の知識に溢れていらっしゃる方も
     多いと思います・・・が。 どうぞこの穴だらけのミッションにつきましては
     寛大にもお目を瞑ってくださいませ <(_ _)> 作者二人からの心からのお願いであります。





コトコトコト ・・・・ トントントン ・・・・ ジャ〜ジャ〜〜・・・
キッチンからはいつだって賑やかな音が聞こえてくる。 もちろんいい匂いも一緒だ!
ぐつぐつ シュウシュウ お鍋の中味の音も混じっているし、カチャカチャお皿やカップが触れ合う音もする。
でも、でもね。
なにより好きなのは そんな音と匂いのなかでくるくる動きまわっている真っ白なエプロン姿の。
なにより素敵なのは そんな美味しい御飯を作っている細い手の。
・・・・ おかあさん ・・・・ !
アタシの、 僕の、 おかあさん!


「 あら? なあに。 オヤツはもう食べちゃったでしょう? お腹空いたのかな。 」
フランソワ−ズはシンクの前から振り返った。
キッチンの入り口には 彼女のちっちゃな娘と息子が神妙な顔をして並んでいた。
「 うん ・・・ あの ・・・ ね、 」
「 しっ! すばる、だめじゃない! 一緒に言おうって約束だよ。 」
「 う ・・・ ご、ごめん。 すぴか。 」
双子の姉と弟は 互いに突っつきあってもじもじして ・・・ でもほっぺはピンク色だ。

「 ? どうしたの?  ・・・ あ〜〜 なにかイタズラしたの〜〜
 まさか ・・・ お祖父ちゃまの大事な盆栽をひっくり返したんじゃないでしょうね?! 」
フランソワ−ズは 慌ててエプロンで泡だらけの手を拭った。
「 こら! なにをやったの〜〜 二人とも。 」
今年小学二年になった島村さんちの姉弟は 毎日 <なにか> をやらかす。
どうも元気が余っているらしいのだが・・・ 母はもう大抵の事では驚かなくなっていた。

「 え! ち、ちがうよぉ〜〜 ねえ、すばる? 」
「 ・・・う、 うん ・・・ でも 昨日 ・・・ ぼんさい、蹴飛ばしちゃった・・・ 」
「 し〜〜〜! 上手にまた鉢に詰め込んだじゃん? 」
「 なんですって〜〜 ?! 」
「 ・・・ あの、ね。 あのね ・・・ お母さん! 」
「 だから、なあに? 」
「 あの〜〜〜ぉ  ・・・・ すぴか〜〜 」
「 う、うん。  えっと。 お母さん。 」
「 はい、なあに? さっきからどうしたの、二人とも。 」
「 どうもしない。  え〜・・・ いい? すばる。 」
「 ・・・ う、うん! 」
「 いっせ〜のせ! < お母さん、 いつもありがとう! 母の日のぷれぜんと です! > 」
よく似た声の二重奏がキッチンに響き渡った。

「 ・・・ 母の日って ・・・  まあぁ〜〜 」
双子の母は 目をぱちぱちさえ、目の前に差し出された小さい包みを眺めていた。
「「 お母さん、 ありがとう!  はい! 」」
「 ・・・ まあまあ ・・・ ありがとう!  ありがとう、すぴか。 ありがとう、すばる〜〜 」
母は膝を折って我が子の側に身を低くし 代わる代わる姉と弟の頬にキスをした。
「 あけてもいい? 」
「「 うん ♪ 」」
「 なにかしら・・・ わあ、お母さん、どきどきしちゃってお指が震えてしまうわ。 」
にこにこして小さな包みを開く母の手元を 二人はじ〜〜っと見つめている。

  お母さん ・・・ 好き、かな。 好きな色だよね!

  手鏡の方がよかったかも。 だって・・・・ お母さん あれはたくさん持ってるもん。


どきどきどき。  とっくんとっくんとっくん ・・・!
姉弟はなんだか心臓が口から飛び出しそうな気分になっていた。

「 ・・・ ? あらぁ〜〜 可愛い! カット・ワ−クね〜 大好きよ。 刺繍も可愛いわ。
 なんて素敵なハンカチなの!!  すばる、 すぴか〜〜 ありがとう!
 お母さん う〜〜〜んと大事にするわね。 」
「 えへへ・・・・ えへへ・・・・お母さん ・・・ いい匂いだなあ・・・・ 」
「 ・・・ よかった〜〜 お母さん、コレが好きでよかったぁ・・・ 」
きゅう〜〜っと母の細い腕に抱きしめてもらって 二人はお母さんと同じくらに嬉しかった。

   ・・・ そうさ。 母さんは ず〜〜っと大事にしてた。
   それも、タンスの引き出しの奥に仕舞いこんでおくんじゃなくて ・・・ いつも持ってたっけ。
   わたしの御守よ・・・・って言ってた ・・・

お母さん ・・・ お母さん ・・・ オレ、あのハンカチ、見たんだ・・・ なあ、 母さん・・・


「 ・・・ 母さん ・・・ ・・・??   う ・・・ あ・・・・ ああ。 ・・・ 夢、かあ・・・ 」
すばるは自分自身の声で 目が覚めてしまった。
目に映るのは 子供の頃から見慣れた天井・・・  ここは ・・・ うん、オレの部屋だよな。
ぼんやりとした視界が だんだんとクリアになってきた。
・・・ ああ。 よく寝たな〜〜  お天気、いいのかな、カ−テンの隙間から光が漏れてるよ・・・

ごそごそ・・・ 
すばるは相変わらずぼ〜〜っとしたまま ベッドから身を起こした。

   ・・・ ヤだなあ・・・ オレってやっぱかなりのマザコンなのかなあ。
   いいトシして お母さん ・・・ か。  なんだって今頃・・・ あ〜ああ・・・

「 ・・・ ハンカチだ。 」
特大のアクビが止まった。 すばるはぼそり、と呟いた。
そう ・・・ あんな夢を見たのは あのハンカチ。 昨日 あの女性が持っていたあの・ハンカチ。
あれは 確かに、いや絶対に小学二年の彼が姉と一緒に母に贈ったものなのだ。

   あの患者サン ・・・ そうだ! 飛行機事故でって言ってたっけ・・・

「 ああ、そうか!  父さん ・・・ 母さん ・・・ ありがとう! 伯父さん達もきっと! 」

・・・・ !!  今、何時だよッ??? えッ?!

すばるは ガバッ!!! っと毛布を蹴飛ばしベッドから飛びおりた。

「 ヤバい〜〜〜〜 また遅刻だぁ〜〜 !! 」

しんみりしていた気分はどこへやら、島村すばるは脱兎のごとく寝室を飛び出した。
跳ね上がるクセっ毛が ひょろり、とした後ろ姿が ・・・ どこかかつてここに暮らしていた
茶髪の青年と重なりあうのだった。



「 お前なあ・・・ いい加減であんな辺鄙なトコから引っ越せよ? 」
「 ・・・ す、すみません 教授 ・・・ 寝坊して・・・ 」
「 まあなあ・・・ お前達は一番忙しい時だから寝過ごすことだってあるだろうよ。
 だがな〜 連日ってのはちとマズいぞ?  」
「 ・・・ すみません!! 」
「 明日は絶対!!! 時間厳守だぞ! それにしても。 あそこからじゃ通勤にだって
 普段の生活だって不便だろ? 」
「 は ・・・ いえ・・・ 」
渡瀬教授は目の前でかしこまっている若手医師に呆れ顔で、でも暖かい視線を投げかけていた。
医師のたまご と 赤ちゃんの時代をようやっと卒業したこのワカモノの 日頃の頑張り振りを
よく知っているのだ。

   たまの寝坊は仕方ないだろうさ。 コイツだって人間だからな・・・・
   しかし ・・・ いつまでもあの一軒家で一人暮らしってものもなあ・・・

「 どうだ、市内にいいマンションがあるんだ。 紹介するぞ。 」
「 ・・・ あ。 ありがとうございます。  でも ・・・ あそこはオレ、あ、いえ僕が子供の頃から
 育った家で ・・・ 祖父の墓とかありますから引っ越すのはちょっと。
 それに 教会のことも・・・  」
「 教会? ・・・ ああ、お前 併設の施設でボランティアしてるって言ってたな。 」
「 はあ・・・ボランティアってか・・・ただの子供達の遊び相手ですけどね。 」
「 ・・・ 仕事も大変なんだからな。 無理するな、身体、壊すなよ。 」
「 オレ、いえ、僕、身体だけは丈夫っすから平気ですよ。 」
「 まあ、頑張れや。 」
渡瀬教授は大学の後輩でもある、この気のいい若者を頼もし気に見つめた。
「 ああ、それでな。 その・・・お前の祖父上のことなんだが。」
「 はい? 祖父がなにか。 」
「 うん ・・・ 祖父上の残されたデ−タについて紹介があった患者さんがいてなあ。」
「 祖父の? ・・・ あの ・・・ それは生体工学・・・ つまり人工臓器の、ですか。 」
「 そうなんだ。 祖父上、ギルモア博士の功績はこの分野で最大のものだ。
 20年以上経った今でも 貴重なデ−タなんだ。 」
「 はい。 僕、先輩が祖父が携わった分野の第一人者だから・・・この病院を選びました。 」
「 はん、オレなんかまだまださ。 ・・・まあ、でもこんな貧乏医療機関にお前みたいな
 優秀な人材が来てくれて感謝しているよ。 」
すばるは高名な病院や大学付属の研究機関ではなく、あえて、ココに就職したのだった。
以来、彼は日夜仕事に全身全霊を捧げている。

「 博士のデ−タの中で人工声帯についてのファイルはなかっただろうか。 」
「 人工声帯、ですか。 」
「 そうなんだ。 昨日紹介したろ。 服部歌帆さん。 」
「 ・・・ああ、あの方ですか。 ひどい擦れ声でした。 」
すばるはどきん・・・としたが 一生懸命平静を装った。
何気なく足元に視線をおとしたが、彼の脳裏にははっきりと思い浮かんでいた。

・・・ そう、 あの女性が持っていたちいさなハンカチが。




「 ・・・ あの事故、よく爆発炎上しなくてよかった、奇跡だなってココでも話題になりましたよ。 」
「 そうですか。 でも私の父は死んでしまいました。 」
すばるの前に座った女性は 一点を見つめたきり彼の顔を見ようともしなかった。
新患さんです、と案内されてきた若い女性にすばるははっとした。

    あれ。 ・・・たしか ・・・ さっきロビ−でぶつかっちゃったヒトだよな?
    ・・・ そうか。 声帯を傷めてたのか。

「 それは・・・ お気の毒でしたね。 」
「 ・・・ すぐ隣の席の私や 前後の人たちは助かっているのに! 父だけが・・・ 」
「 服部さん。 あなたの咽喉も奇跡ですよ。 普通ならあれほどの至近距離で爆破が起きれば
 熱風と煙で完全に声帯を損なってしまうことが多いです。 あなたは本当にラッキ−です。 」
「 ・・・ ラッキ−なんかじゃありません。 
 父も ・・・ 声も失って ・・・ 私ももう死んでしまいました。 」
「 服部さん! そんなことをおっしゃってはいけません。 」
「 ラッキ−じゃないです。 私の咽喉は見知らぬ方が守ってくださったのです。 」
歌帆はバッグをさぐりちいさなハンカチを取り出した。
「 これを、どなたかが私の口に当てておいてくれました。 
 私、はっきり覚えていないのですが、どうも外国の方だったみたい。 金髪かしら、とても
 綺麗な光る髪の方でしたから。 」
「 この ・・・ ハンカチを、ですか・・・・・・ 」
「 はい。 私は事故の衝撃で気を失っていました。 すごい熱気で気がついたとき、
 私を介抱してくれていた人がいて・・・ その方は男性だったのですが。 
 一緒にいた女性の、その綺麗な髪の人がこのハンカチで私の咽喉を守ってくださいました。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 ・・・ 先生? あの ・・・ どうか? 」
「 あ ・・・! え、 いえ ・・・な、なんでも・・・・ 」
「 ?? 」
向かいあっている年若い医師は 食い入るようにじっと・・・歌帆がとりだしたハンカチを見つめている。

   なに?? これ・・・普通の、それもかなり使いこんだハンカチよねえ?
   私にとっては大切なお守りだけど。

「 ・・・ ちょっと ・・・ 拝見してもいいですか。 」
「 ええ、どうぞ。 」
彼は受け取ったハンカチを そっと・・・壊れ物を扱うがごとく、そうっと拡げた。
長い指が ほんの微かに震えているのを歌帆は不思議な思いで見つめていた。

   なんなの。 ただの使いこんだハンカチよ?
   他人 ( ひと ) にはこんなモノ、どうでもいいでしょうね、そんなに興味があるの?

「 ・・・ ああ ・・・ すみません、どうもありがとう。 」
彼は丁寧に畳みなおすと歌帆にハンカチを差し出した。
「 どうぞ大切に・・・ 大切にしてあげてください。 
 貴女の咽喉を守ってくれたヒト達 ・・・・ も喜んでくれると思います。 」
「 ・・・ はあ。  」
青年医師は一瞬俯いたけれどすぐにまだ穏やかな顔つきに戻っていた。
「 あの事故・・・・ 父のせいかもしれません。 」
「 え?? なんですって。 」
「 事故の原因は自爆テロ、と発表されていますけど。 あれ・・・私の父を狙ったものだったのです。 」
「 ・・・ あなたの父上・・・ 服部正道教授を、ですか。 」
「 ええ。 父の研究を狙っていた組織が・・・
 実はその直前にヘンなヤツラが近寄ってきて父を脅していました。 」
「 服部さん。 事件の真相究明は警察に任せて私達は貴女の声帯に集中しましょう。 」
「 ・・・・ だってもうこれ以上は治らない、と言われてますわ。 」
「 だとしても。 少しでも現状を改善することを考えましょう。 」
「 ・・・・・ 」

   ・・・ 改善? どうあがいたって 何をしたって ・・・ 以前のあの声は戻ってこないわ。
   <声> を失って歌手って・・・ なに。 
   天使の声 を失くした服部歌帆は ・・・ もう私じゃないのよ。

歌帆は再び視線を落とし 固い表情に戻ってしまった。




「 ・・・ わたしのせいだわ。 わたしのミス。 透視しきれなかったから・・・ あんな・・・ 」
「 フランソワ−ズ。 それは違うよ、君のミスなんかじゃない。 」
ピュンマが思い切り首を振っている。
「 新素材だね、あれは。 実に巧妙にカモフラ−ジュされてて・・・
 現在のあらゆるスキャン技術から逃れられるんだ。 <なにかがある>と気がついた君の
 能力はやはり凄いよ。 あそこでまた爆発があったら大惨事だったよ。
 君の経験とカンの勝利だね。 」
「 ううん、わたしが悪いの、わたしのせいなのよ。
 気がついても事故を未然に防げなかった。 教授は亡くなってしまったわ。 」
フランソワ−ズはきつく唇を噛み、また項垂れてしまった。
爆発・炎上した飛行機から脱出し、ジョ−とフランソワ−ズはドルフィン号に合流していた。
服部教授の拉致を阻止する、というミッションは惨憺たる結末になった。
敵方のアンドロイドの一体はなんとかジョ−が破壊したが、もう一体が自爆、
飛行機は大破し、ドルフィンのフォロ−もあり辛うじて墜落は免れたが多くの怪我人を出してしまった。
そして 肝心の服部教授は死亡。
ミッション終了後とはいえ ドルフィン号は重い空気でいっぱいだった。

「 フラン? きみのおかげだ。 機が空中での爆発を免れたのはね。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ どういうこと? 」
ジョ−は最後にコクピットに戻ってきてゆっくりと自分のパイロット・シ−トに腰を落とした。
「 ああ・・・ やっぱり操縦するほうがいいな。 」
「 ねえ、ジョ−? 」
「 フラン。 そんな顔はおよしよ。  あの時、きみが正確にスキャンしてくれたからさ。 」
「 あの時? 」



パン ・・・ !! 
前方の座席で再び軽い破裂音がした・・・と思った次の瞬間、 グラリ、と機体がさらに大きく揺れた。
すでにパニック状態の客席から また大きな悲鳴が上がった。
・・・ なに? 爆発物・・?
フランソワ−ズは焦る気持ちを抑え、慎重に目と耳を同時に使った。

   ・・・ ジョ− ・・・ どこ? あ! 操縦室の前 ・・・ 
   あれは? ・・・ ああ、アイツもアンドロイドね。 ようし・・・!

「 ふん。 撃つなら撃ってみろ。 オレを撃てば自動的に体内の爆弾にスイッチがはいる。
 どのみち、この飛行機は大破、墜落さ。 はははは・・・・ やれるものならやってみろ! 」
「 ・・・ くそゥ〜〜 そんなハッタリ、本気にするか! 」
「 さあな。 本当かどうか撃ってみろよ? おい、サイボ−グさんよ? 」
「 ・・・ く ・・・ ! 」
ジョ−が操縦室の前で黒服のアンドロイドと睨みあっている。

< 009、聞こえる? ソイツの言葉は本当よ。 >
< 003? なんだって! >
< どうしてもスキャンできない部分があるの。 ・・・ そこになにか・・・
 多分、爆発物を格納しているわ。 周囲を細部までスキャンして確信したの。 >
< チクショウ! アイツら どんどん巧妙になって行くな! >
< 009 いい? よく聞いて。 今から正確なデ−タを送るから。 そこを撃てばレッド・ゾ−ンは外れる。
  1mmの狂いも許されないわ。外したら恐らく爆発する・・・ あなたの腕を信じてるわ。>
< ・・・ オ−ライ! 任せろ。  デ−タを頼む、003。 >
< D’accord !  送るわ・・・! これを補助脳に落として! >
< ・・・  サンキュ ・・・ >

ジョ−の左目にフランソワ−ズからのデ−タが補助脳から映しだされた。
009はす・・・っとスーパーガンを構え ・・・・ そして トリガ−を引いた。

   ガァ −−−−−− !!!

一条の光線がアンドロイドの眉間を撃ち抜いた。 
機械の身体は吹っ飛び・・・ 爆発はおこらなかった。

< ・・・やったな! 009。 あとの処理は僕に任せろ! >
< 008! ・・・ ありがとう! こっちの機のフォロ−を頼む。 >
< 了解。 >



「 あの時、もう一回爆発が起こっていたら完全にあの機は墜落していたよ。
 いや、空中爆発していたかもしれない。 」
「 ・・・ でも ・・・・ 服部教授は亡くなってしまったわ。 」
「 うん。 しかし教授の死亡の原因は爆弾ではないな。 
 彼の周囲の人々はほとんど助かっている。 隣の席のお嬢さんもね。 」
「 ああ、そうだったね。 彼の死因は・・・ 放り出されて全身打撲だったはずだ。 」
ピュンマがデ−タを調べている。
「 やっぱりね。 どうも彼のシ−ト・ベルトは壊されていたようだ。 」
「 え・・・・ じゃあ、あのアンドロイドに? 」
「 おそらくね。 ぼくが行く前に多分。  それに教授のお嬢さんは無事だった。 」
「 そうね、生命に別状はないって。 でも・・・ あの方の声は大丈夫かしら。 」
「 ・・・ それは難しいかもな。 」
「 ・・・ そう・・・・ 」
フランソワ−ズはまた深い溜息をついた。
「 それにさ、 なによりも・・・こりゃやられたアって思ったのはさ。 」
ピュンマは殊更明るく言葉を繋いだ。
「 え・・・・? ああ、ジョ−の射撃の腕でしょう? さすがよね。 」
「 うん、勿論。 でもな〜〜 それよりも。 君たちが、さ。 
 さすが 夫婦のキャリアだなあって。 二人の絶妙なタイミング、ありゃ他人には真似できないよ。 」
「 ・・・ま・・・ ピュンマったら・・・ 」
「 おい〜〜 からかうなよ、ピュンマ〜 ぼく達は別にそんな・・・  」
「 ほ。 相変わらずお熱いこって、お二人サン♪ 」
もう口癖になっているらしいジョ−の言い草に コクピット中に笑いが広まった。

   ・・・ ありがとう ・・・ ピュンマ。 慰めてくれて・・・





          





ぎこちなく微笑みを浮かべ フランソワ−ズは仲間の気使いに感謝した。
なんとも後味の悪いミッションだった。 
ジョ−やピュンマがフォロ−してくれたけれど、やはり自分に非がある・・・と
フランソワ−ズはそっと唇を噛んだ。

  ・・・ 目と耳を有効に使えなければ わたしの存在価値は ゼロに等しいわ。
  <見つけられなかった> では済まされない・・・
  
何十回めかの溜息で 涙まで滲んできた。
・・・ あ。 
半ば習慣的に防護服のポケットをさぐり、一瞬指が止まってしまった。
あのハンカチ ・・・! わたしの御守は・・・?

「 どうかしたかい。 」
ジョ−が低い声で尋ねた。
「 ・・・ え ・・・ あの。 ハンカチを・・・どうしたかな、と思って 」
「 ? きみ、服部教授のお嬢さんの口に当ててたじゃないか。 」
「 あ ・・・・ ああ、そうだったわね・・・  」
「 あの熱気だもの、きみの処置は正しいよ。 」
「 え、ええ・・・ そうね。 」
フランソワ−ズは 小さく微笑んでそれきり黙り込んでしまった。

   ・・・ すぴか。 すばる。 ・・・ ごめんなさい!
   あなた達からもらったハンカチ ・・・ 手放してしまったわ。
   お母さん、一生持っているつもりだったのに・・・

盛り上がってきた涙を紛らわしたくて、フランソワ−ズは舷側の窓に目をやった。
晴れ上がった空に ところどころに羊みたいな雲が浮いている。
ああ・・・ こんな季節、よく皆でピクニックに行ったわ。
お弁当を持って ・・・ オヤツを持って ・・・・ 皆でお日様と遊んだわね。
誰かのために役立ったのなら、あの子達も喜んでくれるだろう・・・
ジョ−にも内緒で持ち歩いていたハンカチ、 子供達との思い出のハンカチ。

フランソワ−ズの頬に涙の筋が一筋、ひっそりと流れ落ちていった。



「 ・・・ だめだ・・・! これも ・・・ これも ・・・ 」
すばるはモニタ−前で激しく舌打ちをし声をあげていた。
彼が一人で住んでいる岬の古びた洋館は じつは万全のセキュリティ−で核シェルタ−にも近い。
内部はごく普通の住居だけれど 地下に特殊な研究設備があった。
そこの主の老人が鬼籍に入ってすでに30年近くなるだが 彼の残したデ−タは現在でも
関係学会や医療機関で非常に役立っているのだ。

その老人、 いやギルモア博士は彼の研究成果を惜しみなく公開していた。
しかし、ある分野のものだけはその存在すら極秘であり、知っている人物はおそらく二人きりだ。
二人の中の <片割れ>、島村すばるは埃っぽい部屋で一人、唸っていた。
いくら検索しても目的のファイルはみつからなかった。
それどころか その項目すら見当たらない。
すばるは祖父の残したデ−タの中になにか参考になるものがあるかもしれないと予測していたのだ。
しかし・・・


「 服部歌帆さんの症例だがな。 現在の治療ではあれ以上の回復は望めない。 」
「 はい。 カルテを見ました。 完全に発生が不可能にならなくてよかったです。 」
「 そうなんだが。 ただ ・・・ 彼女は<天使の声>と賞賛される美しいソプラノの持ち主だった。
 それで ・・・ もし、ギルモア博士の残されたデ−タの中に人工声帯についてのファイルが
 あるかもしれない、と思ってな。 」
「 先輩。 祖父は生前の全ての研究デ−タを公表しています。 」
「 うん。 これは噂・・・ いや、もう一種の伝説に近いのだが・・・ 博士の功績についてなんだが。 」
「 伝説?? なんですか、それは。 」
「 ギルモア博士は人工臓器についての大きなデ−タをそっくり封印した。 それはいつかしかるべき時が
 来たら開示される・・・ってな。 誰が言い出したかもわからんが。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 なにも故人の遺志に背いて穿ろうというのじゃない。 ただ、彼女の治療になにか・・・
 有効な方法があれば、と思ったのだが。 」
「 ・・・ わかりました。 出来る限り調べてみます。 」
「 そうか・・・ すまんな。 」
「 いえ、患者さんのためですから。 」
固い表情をして 口を閉ざしてしまった歌帆の姿がなぜか すばるの心に残っていた。
 


「 ・・・ こんな強固なガ−ドがあるなんて・・・! 」
すばるはパン・・・とキ−ボ−ドを苛立たし気に叩いた。
生前の博士の研究室ですばるは、博士の残したデ−タを検索し始めたのだが
 人工臓器  − サイボ−グ技術に関するデ−タは全て強固にロックされており
アクセスしようとすると *** Ask to Ivan *** のポップアップが読み取れるだけなのだ。

   イワン兄さん・・・? 教えてくれよ・・・ 頼むよ・・・

すばるはパソコン・デスクに突っ伏してしまった。
イワン兄さん ・・・ いま、どうしてる・・・?
彼の脳裏にはよちよち危なげな足取りの幼児の姿が浮かぶ。
もう ・・ 何年会っていないのだろう。 
すばるはごくゆっくりと年を取る、不思議な <兄> の姿が、とても懐かしかった。
カツン ・・・  
いつの間にやらすばるの亜麻色のアタマはモニタ−の前で沈没してしまった。

  《   ・・・・  すばる。  すばるってば・・・! 》

・・・ うん ・・・? 誰だよぉ・・・ 今、留守です〜〜

  《 なに寝呆けているのサ。 僕だよ、イワンだ。 》

え ・・・? イワン兄さん??  どこ、どこにいるのかい?

  《 いいかい、すばる。 たった一回だ。 一回だけアクセスさせるから。
    博士の残したデ−タを読むんだ。 人工臓器・・・ 人工声帯についての
    サイボ−グ技術のファイルを開けるよ。 》

な・・・なんだって? イワン兄さん、本当なの。 あ・・・!

  《 しっかり読んで頭に叩き込むんだ。 そして・・・そのヒトの幸せのために役立てるんだ。 》

わかった・・・!  ・・・・・・

すばるは夢とも現もわからない状態で、 ただ無我夢中で目の前に開示されたファイルを
貪り読み始めた。

やがて 
地下の研究室に 明り取りの窓から朝日が差し込んだ時・・・・
点けっ放しのモニタ−、何も映してはいない画面の前で亜麻色の髪の青年が昏々と寝入っていた。



「 ・・・ 以上が現在可能かもしれない人工声帯についてです。 」
「 ・・・・・・・・ 」
服部歌帆は 大きく目を見開いてまじまじと目の前の青年医師をみつめていた。
「 全てが巧くゆく保証はありません。 失敗するかもしれません。
 ただ・・・ あなたが望むなら 美しいソプラノの声が蘇る可能性はあります。 」
「 ・・・ ソプラノ ・・・ 」
容姿に似合わない掠れた声が ますます低くぼそり、と一つの単語を発した。
「 そうです。 それで どうなさいますか。 」
「 ・・・ どう、って? 」
すばるは大きく息を吸いしっかりと歌帆を見つめた。
「 人工の美声を得ますか。 それとも、今のまま、貴女自身の声で生きてゆきますか。 」
「 私に決めろ、とおっしゃるのですか。 」
「 貴女の声です。 ・・・ 貴女の、貴女だけの人生です。 」
「 ・・・・・・・・ 」

考えさせてください ・・・ その一言を残し歌帆は帰っていった。
固い表情と暗い瞳の彼女の後ろ姿を すばるはただじっと見つめているだけだった。

   ・・・・ チクショウ!  オレにはなにも・・・・ なんも出来ないのか!
   彼女の唇に笑みを、彼女の瞳に希望の光を浮かべる手助けは・・・ 出来ないのか・・・!




都心は最近、再開発ブ−ムとかで高層のマンションの建築が目立つようになっていた。
所謂セレブなどと称される人々が出入りしているらしい。
彼らが本当に <選ばれし人々> なのかどうか・・・ それは誰にも不明だけれど、
特徴的な共通点は 他人に干渉しない、といことかもしれない。
彼らの関心事は徹頭徹尾 自分自身 なのだ。

「 へえ・・・ すごい眺めねえ・・・ ここって完全に雲の中、なのね。 」
「 ははは・・・ 雲の中、か。 そうだね。 今度の部屋は50階だからほぼ中間ってとこか。 」
「 雲の中のお家、ね。 わたし達の隠れ家にはぴったりじゃない? 」
「 確かにね。 」
茶髪の青年と亜麻色の髪の乙女は声を上げて笑った。

木の葉を隠すなら森にって言うだろ?  トウキョウほどヒトが埋もれやすい場所はないよ。
そんなジョ−の提案で島村さんちの旦那さんと奥さんは都心でセレブ・マンション住まいとなった。
久し振りの日本、二人はひっそりと <新しい生活> を始めた。
表向きは イワン・ウィスキ−氏が経営している投資顧問会社の東京支店 ― そんな振れ込みで
若き支店長・島村氏は 美人の秘書だけを置いて小さなオフィスを構えた。
ジョ−とフランソワ−ズは ごく自然に大都会の喧騒の中に紛れ込んでいた。

「 さあて・・・と。 本店からなにもレポ−トが入ってないな・・・ 」
ジョ−はぼわぼわアクビをして PCメ−ルを覗き込んでいる。
「 支店長? しゃきっとしてくださいね。  ウィスキ−氏は今週は、<お昼寝時間> です。 」
「 あ ・・・ そうか。 すまん、有能な秘書くん。 」
「 どういたしまして。 今週の支店からのレポ−トはメ−ルしておきました。 」
「 めるし〜♪  ・・・ そうだ、イワンってば先週の連絡でさ。 すばると久し振りに話したそうだよ。 」
「 え? どうして・・・?  」
「 うん、アイツな。 博士のデ−タ、サイボ−グ技術のデ−タを必死で探してたらしい。 」
「 だってあれは。 封印されててイワンしか閲覧できないのでしょう。 」
「 そうなんだけど。 すばるが捜していたファイルな、 人工声帯 だったそうだ。 」
「 人工声帯・・・ あ・・・! もしかして・・・ あの事故の時の? 」
「 うん。 イワンも気になって調べたそうだ。 すばるな、服部教授のお嬢さんの治療に
 関わっているよ。 それで博士のデ−タを捜したらしい。 」
「 ・・・ そうなの・・・ それで・・・ イワンは? 」
「 うん。 一回だけアクセスしたそうだよ。 」
「 ・・・まあ ・・・  すばる、喜んだでしょうね。 よかったわ・・・ 」
「 よかったかどうか。  ツクリモノの身体が素晴しいって ・・・ きみには言えるかい。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・・ 」
「 ぼく達が関与できる問題ではないけれど。 」
「 そうね。 ・・・ わたしは。 すばるもあのお嬢さんもどうぞ幸せになってと祈るしかないわ。 」
「 うん。   なあ、気晴らしにちょっと出かけないか。 」
「 あら。 まだ勤務時間中ですわよ、支店長? 」
「  え〜〜 おっほん。 本日は社外研修です。 アルヌ−ル君?ついてきたまえ。 」
「 はい、島村支店長。 」


「 ・・・ それで。 どうして東京タワ−なの?? 」
「 うん・・・? 別に特別な理由なんかないんだけどさ。 アイツが・・・ ずっと東京の近くに住んで 
 いるのに行ったことないのかって言ったから・・・・ 」
「 まあ、それだけの理由なの?  そのアイツってだあれ。 お仕事上でのお友達? 」
フランソワ−ズはちょっと呆れ顔である。
すっきりと晴れ上がった空のもと、ちらちら風に桜の花びらが流れてくる。
優しい春の空気のなか 人々は賑やかに行き交っている。
日曜日の昼下がり ・・・ ジョ−とフランソワ−ズはのんびりと都心の街を散歩していた。
「 う・・・ うん。 ま、話の種に一回くらい昇っておこうかな〜〜って思ってさ。 
 ・・・ きみだって凱旋門やらエッフェル塔に登ったかい?  」
「 ええ、勿論。 凱旋門は ほら、一緒に登ったでしょう? 覚えてないの。 」
「 ふふふ ・・・ 随分昔の話だからさ。 」
「 ま。 ・・・ そうだわねえ。 結婚する前だったわね・・・ 」
「 最近の東京をざ〜〜っと眺めるのも面白いさ。 」
「 それはそうね。 ほんと・・・久し振りですもの。  で、アイツってだあれ。  」
「 ・・・・ すばるだよ。 」
「 あら。  ・・・ ああ、そうよ、あの子達、確か小学校の遠足で行ったはずよ。 」
「 そうだろ。 僕はちゃ〜んと登ったのに〜ってさ。 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ それじゃお父さんとしては一回は登っておかなくちゃねえ。 」
「 だろ? 」
二人はごく低い声で話していたので たとえすぐ後ろを歩く人がいても聞こえなかっただろう。


「 ジョ−さん? <登る> のじゃなかったの。 階段はアチラよ。 」
フランソワ−ズはエレベ−タ−の前で並んでいるジョ−の肩をちょんちょん突いた。
「 あ〜〜 意地悪言うなよ〜〜 もうトシなんだぜ。 」
「 ふうん? 息子に負けてもいいんだ。 小学生の息子にね・・・・え 」
「 ・・・・ ! 」
急に頬を引き締めると ジョ−は列をはずれずんずん階段の上り口へ歩いていった。

   ・・・ あ〜らら。 ふふふ・・・ 相変わらず、ねえ。
   いつになっても ジョ−、あなたの一番のライバルは すばる なのね

フランソワ−ズは笑いをこらえるのに苦心してしまった。

「 お疲れ様〜〜〜 」
「 ・・・・ ふん。 丁度いい足慣らしさ。 ・・・ふん、こんなもんさ。 あんな階段くらい・・・ 」
「 まあ・・・ 」
展望台で合流したとき、 ジョ−の得意気な様子に彼の奥さんはまたまた笑いを噛み殺した。
「 あ、ほら。 望遠鏡よ? 」
「 ふうん ・・・ へえ、かなり精度がいいみたいだよ? 」
ジョ−は横の説明書にちらり、と目をはしらせた。
「 先に見て、いいかしら。 」
「 ああ、どうぞ。 」

   カチャリ ・・・

シンプルな音とともに ぐっと視界が広がりはじめた。
「 ・・・ あ ・・・  ああ ・・・ あそこの ・・・ ああ ・・・  」
ひくく呟き続ける妻の肩に ジョ−はそっと手を当てた。

・・・ そう、わかってる。 望遠鏡の向かう方向は 聞かなくてもわかってる。
勿論ここから見える距離ではない。
でも。
今、彼女の心の中に拡がる景色が ジョ−の脳裏にも思い描くことができた。

  ・・・ きっと 随分変わっているんだろうなあ・・・ 

そう、あの街。 あの海沿いの、辺鄙な街はずれ。 崖っぷちにあるのは・・・・
・・・ ああ ・・・! あの通り。 あの路 ・・・ ウチが・・・ わたし達のウチ・・・

「 ・・・ もう半分散っている頃よね。 」
「 え。 ・・・ ああ、門のとこの桜か。 」
「 ええ。 随分大きくなって。 枝も広がって ・・・ 綺麗でしょうねえ・・・
  ふふふ ・・・ 誰かさんはお掃除が大変なんじゃない?  」
「 あは♪ そうだなあ・・・ ちょっと、いいかい。 」
「 ええ、 どうぞ。 」
ジョ−はしばらく 黙ってじっと望遠鏡を覗きこんでいた。
あの山の向こう、 あの街のむこうに・・・・ <ウチ> がある。
「 ありがとう。 もうちょっとだ、きみ、見てろよ。 」
「 いいの? ・・・ ありがとう ・・・・ 」
フランソワ−ズは再び場所を変わった。

   ・・・・ カチャリ。

今度も小さな音がして。 二人の心の旅は終ってしまった。


「 ・・・ いこうか。 」
「 ええ ・・・ 」
「 来て よかったな。 」
「 ・・・ ええ。  よかった・・・! 本当によかったわ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は長い腕を彼の細君の腰に回し 二人はぴたりと寄り添って展望台から降りていった。



「 どこか ・・・ カフェにでも入ろうか。 この辺りは結構みどりが多いなあ。 」
「 そうね。 道幅も広いし・・・ あら、公園・・・ 」
「 行ってみようか。 」
二人は午後の街をゆっくり歩いていった。  
そろそろ次の季節が 顔を覗かせ始めた。
足元を抜けてゆく風に まったりとした温気が篭っている。
季節の主役は 花々から 青葉・若葉に ゆるゆると交代しているらしい。
道の両側から伸び盛りの木々が枝をのばし、緑のトンネルにも見える。

「 ここで渡る? 随分長い歩道橋ね。 」
「 周りに木が多いから ホンモノの橋みたいだな。 」
下を流れる車の量のわりに周囲に人影はなかった。
ジョ−とフランソワ−ズは腕を絡めあい、寄り添ってあるく。
前方、ほぼ歩道橋の中央に誰か立っていた。
手すりに身をあずけ ぼんやりと通り過ぎる車の波を眺めている・・・ ように見えるのだが。

「 ・・・ あら? あのヒト・・・ 危ないッ!! 」
「 ・・・ ! 」
フランソワ−ズの悲鳴と同時にジョ−は駆け出していた。

「 ・・・ きゃッ!! 」
「 危ないよ、君!! ここから落ちたら・・・ ひとたまりも無い。 」
「 ・・・ それでも よかったのに・・・ 」
「 なんだって? 」
ジョ−が咄嗟に抱きとめた女性は 長い黒髪の陰でひっそりと呟いた。
その声は若い女性とは思えない、擦れた聞き取りにくいものだった。
「 ジョ−! よかったわ・・・ ねえ、あなた、大丈夫ですか。 」
「 ・・・・・・・ 」
駆け寄ってきたフランソワ−ズに虚ろな一瞥をなげ、その女性はまた俯いてしまった。

  あら ・・・? この女性 ( ひと ) どこかで・・・? 

  え。 ・・・ あ、もしかしたら・・・・

ジョ−とフランソワ−ズは目顔で頷きあっていた。





Last updated : 03,25,2008.                 back   /   index   /   next



*******  途中ですが : すみません〜〜〜 あと一回続きます〜〜〜