ナイトメア・・・悪夢








神の都

















無防備な寝息をたててオズマが眠っていた。



夜の寒さと獣から守るための火の番をしながらオズは姉の顔をじっと見た。
赤い髪に縁取られた、グラシャスの特徴を色濃く受け継いだ見る者に厳しい印象を与える顔も自分から見れば姉は随分と繊細で優しいと思う。
他人には厳しい顔しか見せぬ姉も自分にだけは限りなく慈愛に満ちた表情を見せてくれた。

オズ・・・、泣くな。グラシャスだろう・・・・・・?
小さな時からそれは変わらない。

だが、この姉が自分以外にあの眼差しで見つめる相手がいるという。
辺境の駐屯地を去る時、僚友が言った言葉。

その瞬間、ガリウスまでの姉と二人だけの旅に子供みたいに浮かれていたオズの気持ちは一瞬で萎えた。顔から血の気が引くのが自分でもわかった。

あえて冷静さを装って相手は誰だと聞く。

「・・・知らん。」
返ってきたのはその一言だけだった。

オズは友人が自分の動揺を感じ取って余計な事は言わないのだと思った。

舌打したのは彼にか、己自身にか・・・。



オズが勝手に思い描いていた遠足気分の道中は出発点からその反対の最悪な気持ちでスタートした。
あまりに黙り込むと姉が不審に思う。
彼は姉に早く両親と教皇に会いたいからガリウスまでの道のりを急ぎたいと姉に告げた。そうすれば黙々と馬を駆られる。話さなくとも不自然とは思われないだろう。

泣きたかった。姉の恋人がいるところに急いで帰る羽目になったことに。
自嘲するしかなかった。

笑顔で話し掛けてくる姉にこわばる笑みしか返せない自分に自己嫌悪に陥ってオズはますます無口になっていく。

オズマもあえて弟に話しかけようとはせず、姉と弟の間に会話はなくなっていった。



そんな時、夜盗団が襲ってきた。
怒りや苛立ちを奴らに全てぶつけ、斧で屠っていった。
殺そうと思えば一撃で殺せた。だがあえてそうせず、
恐怖に歪んだ相手の顔を見るのが楽しいと思った。

歪んだ精神、歪んだ欲望・・・・・・。

姉が叫んだ。
もう止めろ! 何人殺す気だと。

・・・・・・・・・・・・
狂いたかったのだ、血に・・・。

狂気に身を任せてそのまま姉を自分のものにしたかった・・・・・・。

足元に横たわる死体の一つ一つに跪いて姉は祈る。死後の世界への安らかな旅を。

「おまえも手伝え・・・、オズ。」
「あ・・・、うん・・・・・・。」
姉の言葉に素直に従う。
「・・・・・・何を苛ついて・・・いる?」
姉が聞く。
答えられるはずなどなく、オズは一言何もと言っただけだった。



夜盗に襲撃されて思わぬ道草を食った。
予定していた小さな宿場に日が暮れるまでに着くことが出来ず、野宿する羽目になった。
姉も自分も騎士だ。
慣れている。

眠る姉の顔を見た。

姉に軽蔑されたくない・・・・・・。
自分に対して弟が歪んだ感情を持っていると知られたくなかったのに・・・・・・、
一生封印すべき感情が漏れる。

このままでは。

夢の中で見せる姉の妖艶な顔、甘い吐息・・・・・・
オズは振り払うように荒々しく立ち上がると姉から離れて行った。

彼は姉が立ち去る自分の後ろ姿を見ているのに気が付かなかった・・・。
冷たい眼差しで。

あたりを窺いオズはどかっと腰を降ろした。
そしてゆっくりと目を閉じた。



ほんの僅かな睡眠の間に・・・・・・

「オズ、紹介するわ。おまえの義兄上になる。」

最悪の夢を見た。

「畜生・・・・・・。」
自分の叫び声で目が覚めたオズはぼそりと呟いた。








 

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