グラシャス家の双子がガリウスに出発して行った後、新しい守備隊長はオズから引きついだ書類に目を通していた。
オズがこの辺境一帯での事件などを神経質そうな字で細々と記録したものだった。
その中にいくつか気になる事件があった。
若い女性の行方不明。
辺境の村々で起こったこの事件は何れも未解決のままのようだった。
茶を運んできた兵士に聞いてみた。
遺体とかも見つからなかったのか?
兵士は首を振る。
「隊長はその都度必死で捜索したのですが、女性は誰一人見つかりませんでした。
森の奥で獣に食われたのだろうって、最後はそういうことになって・・・。」
「そうか・・・、もうおまえは下がっていいぞ。」
そう言われ兵士は部屋を後にしようとしたが、立ち止まると彼は新しい隊長に疑問に思っていたことを尋ねた。
「一緒に来られた女の人はオズ様の双子のお姉さんなんですか?」
そうだと答えると兵士はあんな美人は初めてみましたと嬉しそうに言った。
「おまえ・・・、言ったのが俺の前で良かったな。」
「・・・・・・?」
彼の言葉の意味がわからず怪訝な顔をした兵士に再び下がれと言うと、オズの僚友は砦の窓から外に目をやった。
今ごろあの二人は山脈の西、なだらかな丘陵地帯だろうかと思った。
ガリウスのやはり名家出身の彼はグラシャス家の双子のことは昔から知っていた。そっくりの外見の気難しい姉弟。特に弟の方が姉への独占欲が強すぎて、グラシャス家に呼ばれて遊びに行った知り合いが姉としゃべったというだけで弟からひどい目に会わされたとか・・・いろいろ噂を聞いていた。
だから、弟とザナム士官学校で一緒になった時は驚いたものだった。当然、グラシャス家の者は魔道院の方に進むと思っていたからだ。
何故ここにいるのかと聞くと、彼は力を手に入れるためだと言った。わざと姉と別れて淋しくないかと聞くと、無視された。
ザナムとガリウス魔道院、グラシャス家の双子はそれぞれで常にトップの成績を取り続けていた。その頃サルディアン様が教皇となり、クーデターでローディスの頂点にたった。双子の名付け親が教皇だと知って皆は納得したものだった。
彼が見たところ、弟の姉に対する独占欲は子供の頃ほど激しいものとは思えなかった。数日前3人で再会を祝して酒を飲んだ時もオズは穏やかだった。離れていた年月が長かっただけに執着心も薄れていったのかと思った。
突然のオズの暗黒騎士団への転任、彼と変わりに辺境に赴任する自分に同行すると言って来たオズマは、聞くところによると教皇直々に弟を迎えに行くようにと言われたらしかった。
ガリウスの様子や流行のこと、政治や他国のことを語り合って、気がつけば酔いつぶれていた。二日酔いでがんがんする頭を抱え、双子を送る。彼らは普段どおりだった。
オズに言った。
「昨日言うの忘れたが・・・、オズマに恋人が出来たって噂があるぞ。」
その瞬間、彼の顔色がはっきりと変わるのが判った。
離れていた年月が長かったから、だから執着心は薄れていったと思っていたのに・・・。
逆なのだろうかと兵士が運んできたお茶を飲みながら彼は考えていた。
暗い焔が、オズの目に宿るのが判った・・・・・・。
|