ナイトメア・・・悪夢








神の都




















オズは先に砦を出てガリウスに戻った姉を追いかけて、山道を馬で駆けていた。剥き出した岩肌に潅木の茂みが点在する乾いた山だ。この山を越えて広がる荒地の真中に天を目指す塔の都がある。

自分らが生まれ育った神都。
ザナムも魔道院も完全寄宿制だった。同じ町にいながら、自分たちは年に数回しか顔を見合わせることはなかった。会う度に姉と自分の違いを突きつけられ、どんどん姉から離れていく気がした。

いつまでも姉と同じでいたかった。
子供の頃のように。

ずっとずっと
生まれてからずっと
自分は姉を追いかけるだけだ・・・・・・

力を手に入れても本当に欲しいものは手に入らない・・・・・・。

それがわかっていてもオズは姉を求める気持ちを抑えることは出来なかった。
姉に嫌われても憎まれても
―――姉に殺されてもだ・・・。

姉に殺されるなのなら―――本望だと思えた。








今、
オズの目の前に姉が立っていた。
地面に横たわる騎士の死体・・・
何があったかオズは理解する。

「姉さん・・・・・・。」
姉を呼んだ。
オズマは弟を無視して自分が殺した騎士たち、一人一人に跪き、祈りを捧げた。死後の世界の平安を。
オズはじっと姉を眺めていた。
転がっている死体全部に祈りを捧げると、オズマは弟を無視して馬に跨ろうとした。
「姉さん!」
オズが再び姉を呼ぶ。オズマが低い声で弟に言った。
「・・・わたしを追うなと言っておいたはずだわ。」
自分を見ようともせず、冷たく言い放った姉の態度にオズはかっとなった。

この姉は――
自分がどんなに

今しがたもだ。
向うで姉が戦っているのがわかった。姉の緊張感と殺気と魔力を空気の微かな振動で感じた。

闇の中で、姉が一人で。

グリフォンの衝撃波にずたずたにされた姉の姿が脳裏にフラッシュバックする。心臓が凍りつきそうだった。
また、姉がそうなったら―――

ここにたどり着くまでがどれほどの時間に思えたか。



オズは大股で荒々しく姉の目の前に歩いてくると姉の頬をひっぱたいた。
「オレを振り回して楽しいのか、姉さん!」

怒鳴る弟を見上げてオズマもまた弟の頬を叩き返した。
「わたしは追ってくるなと言ったはずだ!」
そう言うと、オズマは弟に背を向け立ち去ろうとする。

姉の手首をオズが掴む。
オズマが振り払おうとした。が、オズは姉の手首を掴んだまま離そうとしなかった。

「手を離せ、オズ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「聞こえなかったか?わたしは手を離せと言っている!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「オズ!!」

オズが姉の手首を持ち上げて無理やり自分の方に向かせた。
睨みつける姉の目、
グラシャスの赤灰色。

自分の目と同じ色だ。怒りに燃えるその色の中に暗い焔が宿る。
姉の目に自分が映っていると思った瞬間、

オズは姉をその腕の中に抱きしめた。鎧のぶつかる金属音がした。








姉の赤い髪に顔を埋めて苦しげに言う。
「姉さんが好きだ・・・。姉さんだけだ・・・・・・。」

「オレが憎いんだろ? オレ姉さんに迷惑かけてばかりで・・・、馬鹿だし・・・・・・。でも、オレ・・・」
「オズ・・・・・・」
「姉さんを愛している・・・・・・。」













 

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