ナイトメア・・・悪夢








神の都




















「姉さん、愛している・・・。」
「わたしもだ。」
「姉さんだけだ・・・・・・。」
「わたしもおまえだけだ・・・・・・。」

同じベッドでそう言いながら手をつないで眠る双子の子供がいた。

グラシャスの栄光と名誉を生まれながらに受け、
そのために生きていくことを運命付けられた姉と弟・・・・・・

やがて成長して、ローディスの暗黒騎士になる。

グラシャスのために
サルディアンのために
ローディスのために・・・・・・・・・

手をつないで眠ったら怖い夢を見ないですむと言った弟に、同じ顔の姉がとても迷惑そうな顔をしたが、それでも彼女は弟の手を握って一緒のベッドで眠ってくれたのだ。

悪夢は見ない。
二人で手をつないで眠ったら・・・・・・。

今まではそうだった。








「姉さん・・・、声を出して・・・・・・。」
オズが言う。
自分の下で苦しげに顔を歪める姉に。

「姉さん、頼むから声を・・・・・・。」

声を出して欲しかった。
貫き、揺さぶり、己の刻印を刻むその身体が紛れもなく姉であると声で確認したかった。

辺境で見続けた悪夢はいつも女は見知らぬ顔になる。

だから声を出して、姉さん・・・。

だが、オズマは頑なにそれを拒む。これは自分の意志ではないというように。懇願する弟に流されただけなのだと。

望んだものを手に入れた歓喜は哀しみに摩り替わる。
心は張り裂けそうなのに、
身体はますます熱を帯び、姉の身体を蹂躙した。

同じ血で交わる禁忌、罪の意識から逃げたかった。
姉が愉悦の声をあげてくれたら、フィラーハにだって逆らって生きていけるのに―――

姉を闇の中に引きずり込んだのだ。
神の救いのない業の深さに―――

「姉さん、ごめん・・・ごめん・・・、オレきっと地獄に落ちる・・・。」

泣きたかった。
抑えようとしても抑えきれなかった己の歪んだ欲望に―――



姉の苦しげな顔を見ることが出来なくてオズは目を閉じてひたすら腰を動かしていた。
姉の目に浮かぶ軽蔑の色を見たくなかった。
姉の口から拒絶の言葉が出るのを恐れて乱暴に唇を奪った。
姉の手首を取り自分の背中に導く。
姉に抱きしめて欲しかった。

背中に感じた姉の手が微かに動いた。

「・・・・・・?」

オズが動くのを止め、そっと目を開けた。

汗で張り付いた髪の下から、姉の赤灰色の目がじっとオズを見ていた。
荒い息をはく口が微かに笑う。

「・・・・・・!」

「安心しろ・・・、オズ。・・・わたしがおまえを地獄に送ってやる・・・・・・。」
「姉さん?」
「そして・・・、その後すぐにわたしも地獄に行くわ・・・・・・。」

オズマから唇を求めた。舌を差し入れ、絡める。

「姉さん・・・!」

オズはあらん限りの力で姉の身体をかき抱いた。








弟の上でオズマが彼の動きに腰を合わせる。
漏れそうになる声を必死に堪えて。
オズマの乳房が揺れる。

弟に貫かれ快楽を感じるこの身体が嫌だと思った。

オズマは泣いた。

誰よりもグラシャスの血を濃く受け継いだオズの魂を身体で縛ろうとする己のあさましさに―――。

オズを支配する暗い悦びに―――。

オズはきっとわたしのためなら教皇にだって刃を向けるだろう。

「姉さん、泣くなよ・・・・・・。オレが姉さんを守ってやるから・・・・・・。」
姉さんを罰しようとするすべてのものから。

弟の声にオズマは微かに笑った。

わたしの気持ちも知らずに、
だからおまえは馬鹿なのだと・・・・・・

馬鹿な弟、
わたしにだまされて・・・・・・



地獄に落ちるのはオズじゃない。
自分の方だとオズマは思った。



「姉さん・・・・・・、姉さん!」



馬鹿なオズ・・・・・・
わたし以上にグラシャスの血を才を受け継いだ憎い弟・・・



憎くて・・・そして・・・・・・・・・








夜が白みだす。

二人が身体を重ねる朽ち果てた山城の窓から
北に広がる荒野が見えた。



闇が消えてゆっくりと世界が光に覆われる。

その中に遠く、
天を目指す無数の尖塔が林立する神の都が姿を現してきた。







ローディスの聖地

神都ガリウス―――。









<後書き>

結局弟より姉の方が黒かったと言う話。
最初考えていたのはオズマと副団長に嫉妬するオズが
姉の一言に幸せを感じる微笑ましい話だったのですが、
ガリウスのイメージを頭に思い浮かべたら
ひたすら暗くて救い様のない話になりました。
途中で投げ出さずに何とか最後までこぎつけてよかったです。
(2005.1.31)






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