ナイトメア・・・悪夢








神の都




















オズマは旧首都の背後にそびえる山を越えていた。
神都への唯一の道だ。山道とはいえ整備され、闇の中でも月明かりと手にした松明の明かりで先を進むことが出来た。

弟はわたしがいないことに気がついただろうか・・・・・・。
気がついて、追いかけてくるのだろうか・・・・・・。

「姉さん、何でオレを置いていくんだよ!?」
顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながらわたしに食って掛かるところが想像できて、オズマはふっと唇を緩めた。

オズ・・・・・・
いつもわたしから離れようとしなかった双子の弟。

グラシャスの名誉と栄光のために生きることを生まれた時から運命付けられて、その力と魔力があたりまえのように備わっていると思っていたのに、神は双子の姉ではなく、弟に才能を授けたのだ。

姉に比べて出来の悪いといわれたオズに・・・・・・。

弟が魔道院でなくザナム士官学校に進むのはサルディアン教皇の意向だった。
絶対にわたしと離れないと言い張っていたオズを説得するために教皇自らグラシャス家に足を運んでオズを説得した。

覚えている。今でもあの時のことを。

ばたばたと慌しく家の者たちが騒いで両親が教皇を飛んで出迎えた。
わたしは両親の横に一緒にいたが、オズは部屋にこもったままだった。オズが癇癪を起こすと手がつけられないのは誰もが知っていた。わたしはオズの無礼さに教皇が立腹したらどうしようかとそれを心配したが、教皇は両親と言葉を交わすとすぐにオズの部屋に入って行った。

暫くして教皇が出てきてオズはザナムへ行くこと決めたと両親に告げた。両親が教皇に頭を下げているよこでわたしはオズの部屋に入ろうとした、その時。

「オズマ・モー・グラシャス。」
教皇がわたしを呼び止めた。わたしは教皇を振返る。
彼がゆっくり近づいてきてわたしの頭に大きな手をのせて言った。

「神に選ばれた子よ、この国のために魔道院で己の才を磨くが良い。」

わたしは嬉しかった。教皇に期待されていることが、誇らしかった。

部屋に入り、弟の顔を見る。ザナムに行くことを決めた弟の顔は暗かった。とても進路を決めた晴れやかな顔ではなくてわたしはオズに教皇に何を言われたのかと聞いた。オズは何も答えなかった。ただ、じっとわたしの顔を見つめるだけだった。

「姉さんと・・・、離れたくない。」
ぽつんと言った。
「おまえはザナムで、わたしはガリウスで、グラシャスとこの国のために己の才を磨くのよ。それがサルディアン様の願いだわ。」
わたしは先ほど教皇に言われた言葉をオズに言う。
「でも・・・、姉さんと離れるのは淋しい。」
「オズ、男の子だろう?もうわたしよりも背も高い。ザナムで強くなっておいで。そしてわたしと二人力を合わせてグラシャスのために働くの。」
「姉さん・・・。」
「・・・・・・?」
「もし・・・もしもオレが・・・・・・。」
「何?」
「強くなったら・・・・・・・。」
「強くなったら?」
「・・・・・・・・・」

オズがその先を言うことはなかった。
弟の側に近づき、彼の赤い前髪をわけて彼の額にキスをした。
弟の背中に手を回す。オズもわたしの背中に手を回してわたしたちはお互いの進む道を祝福しあったのだ。



そのまま、何も知らずにいたら幸せだったのに・・・・・・。



魔道院で教授たちの会話を聞いたのだ。

グラシャスの双子のうち、本当に才能があるのはザナムにいる弟の方だと。教皇は姉ではなく弟の方を高く評価しているのだと。



わたしは
わたしのすべてが否定された気がした。










 

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