オズ・モー・グラシャス、
ザナムへ進み、最強の騎士を目指すのだ。
わたしのために、
ローディスのために。
その手に力を持つ者だけが
全ての望みを手に入れることが出来る・・・
「全てを・・・・・・?」
そうだ、全てだ。
「全てはいらない。」
サルディアンは慈愛の目でグラシャス家の姉に比べて劣ると言われた少年を見つめた。
「欲しいものは一つだけ・・・・・・」
ずっとずっと前から
たった一つだけだった・・・・・・
姉と別れ、ザナムへ行ったのは教皇の言葉を信じたからだ。
オズは両手に握りこんだグラムロックを厳しい表情で睨んでいた。ザナムをトップの成績で卒業した時に、教皇自らがオズに授けた、天空の火山ムスペルムで作られたという炎の戦斧だ。
オレはこの斧を手にするにふさわしいか?
欲しいものを手に入れることが出来るくらい、強くなったのだろうか?
「姉さん・・・・・・!」
オズは炎の戦斧を手にしたまま部屋を出て行った。
姉がいる部屋へ入った。
「オズ!」
弟を見てオズマが笑顔で呼んだ。
「ちょうど良かった。こっちへ来て。ほら・・・!おまえの新しい鎧だ。きっと似合うわ。」
オズのために作られた暗黒騎士の鎧だった。
黒のバルダ―金属で作られた全身を被う鎧と、緋色の外衣にはローディスの紋章が記されていた。
その隣りに同じデザインの一回り小さい鎧があった。姉が説明する。
「ついでにおまえとおそろいでわたしの鎧も作らせていた。前の鎧がグリフォンにずたずたにされたのでこれをさっそく着ることになるわね。さすがにあの村から着ていたこの格好でガリウスに入るのはどうかと思っていたので助かったわ。」
新しいものが大好きな姉らしい喜びようだ。姉が喜ぶ顔を見るのは嫌いではない。自分まで嬉しくなる。が、オズマが発した一言がオズの心を冷たくした。
「おまえもバールゼフォン殿に感謝することね。」
「バールゼフォン?」
知らないふりをしてオズは眉をひそめた。
「暗黒騎士団の副団長だ。わざわざ副団長がこの2対の鎧をここに運んで下さったのよ。」
姉を出迎える口実か?
オレたちの鎧が。
で、オレは何も知らずに姉の恋人に感謝するはずだったというわけか?
グリフォン退治で足止めをくらわなかったら。
オズマのにこやかな顔がオズをいらだたせ、わざと姉を怒らす態度をとってしまう。
「何で副団長がわざわざそんなことをするんだよ?部下にやらせりゃいいだろうが。よっぽど仕事が無いのか、ロスローリアンは。」
「オズ!」
ぴしゃりと姉が弟を制した。
「・・・・・・・・・ごめん・・・。」
姉に睨まれるとつい身を引く悲しい習性だった。
そんなオズの心中などお構いなしにオズマは言葉を続けた。
「ロスローリアンを舐めているとひどい目にあうわよ、オズ。おまえなぞ、コマンドの中では一番の下っ端だ。」
「・・・まさか? このオレが? ザナムのエリートでグラシャスだぜ?」
身体から滲み出る不機嫌さを隠そうともせず、オズが言った。
「団長の強さはおそらくローディス最強・・・いや、ゼテギネアで1,2を争うだろうし、バールゼフォン殿、ヴァラック殿はもちろん、バルバス、マルティム、アンドラスだっておまえより強いわ。」
そう断言する姉にますます不機嫌になる。
「戦ってみないとわからないだろう?」
「わかるわ、オズ。」
「何でだよ、姉さん。」
「おまえはわたしに勝てないからよ。」
「・・・・・・・・・・・・!」
「わたしに勝てないおまえが他の者に勝てるはずがないだろう?」
姉と別れ、ザナムへ進んだのは強くなるためだった。
教皇は言った。
ガリウス魔道院にはおまえを強くするものはない。
ザナムで最強を目指すのだ
強くなれば望みがかなう・・・・・・・・・
たった一つの
―――望みだ。
オズの目が暗い焔に包まれる。
その暗い焔を映して
オズマの目にも同じ焔が浮かんでいた。
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