ナイトメア・・・悪夢








神の都





















ガリウスへ。



剥き出しの岩肌が続いた山を越え、草原の村々を通り、やがて街道は広くなる。ローディス全土に張り巡らされた神都へと続く道だ。ガリウスが近づくにつれ騎士団の詰め所が各地に見られるようになった。

グラシャスの双子の騎士のことを知らぬ者はローディスの騎士たちの間にはいない。姿を見たことはなくとも噂だけは聞いていた。

教皇が名付け親の、魔道騎士。
今度、弟が暗黒騎士団に配属される。
教皇は暗黒騎士団をさらに強くなさるおつもりだと。

教皇がクーデターに成功したのも暗黒騎士団の力があってのことだった。率いるのは隻眼の暗黒騎士―――ランスロット・タルタロス。

燃える火の色をした髪の双子は騎士団の詰め所で馬を降りることもなくひたすら神都を目指した。







ガリウスは無数の塔が天を目指す宗教都市だった。
神官と騎士の政治都市。

ローディス一の活気溢れる町はそれまで歴代の王が住んでいた別の都市だった。そしてその都市の背後にそびえる山を越えて広がる荒地のど真ん中にガリウスがあった。








辺境の村を出て数日後、オズマとオズはサルディアン教皇がクーデターによって追放した国王の居城があったかつての首都に着いた。
明日はいよいよガリウスに入る。

ローディスの三つの騎士団がこの元首都に駐屯して警備、治安にあたっていた。もちろん、暗黒騎士団もいた。

オズマたちは暗黒騎士団が駐屯する街外れの砦に向かった。
二百年ほど前の内乱の時、築かれた堅固な石の砦だ。
姉の後についてオズは砦の中に入って行った。

すれ違う騎士が自分らに一礼する。皆真っ黒の兜をかぶっていた。姉は彼らに声をかけていた。こいつらが区別できるのかと変なところで感心したオズだった。上から下まで真っ黒けの集団だ。この中で生活するのは姉が一緒とはいえ息が詰まりそうだと思った。

そんなオズの心境を察してかオズマが弟に声をかける。
「嫌そうだな、オズ。」
「・・・陰気くさそうだ・・・・・・。」
「・・・すぐに慣れる。」
「ま、姉さんがいるから我慢するけど。」
「コマンド連中はなかなか派手よ。ガリウスに着いたら紹介してあげるわ。」
「ん・・・」
気の無い返事にオズマは苦笑した。相変わらず他人には無関心な奴だと。

下っ端騎士からオズマたちが帰ってきたと連絡を受けた砦の責任者が慌てて部屋から出てきた。彼も黒い兜をかぶっていた。

「オズマ様!」
「紹介する。弟だ。」
「初めまして、オズ様。ここの責任者のアシュフォードです。以後よろしくお願いします。」
「オズ・モー・グラシャスだ。今度ガナンからロスローリアンに配属になった。よろしく頼む。」
オズに礼をした彼はオズマに向かうと笑いながら言った。
「オズマ様によく似ておいでですな。目のあたりとか瓜二つだ。」
「双子だから当然だ。昔は同じ顔で区別つかなかったわ・・・。」

この責任者は姉とはかなり親しいのだろう。姉の高飛車な口調も感じられなかった。二人の間に流れる空気は優しい。まさかこのアシュフォードという男が姉のいい人?とオズが思った時、彼がオズマに言った。

「あ、バールゼフォン様から手紙を預かっています。」
「彼がここに?」
「一昨日までおいででした。オズマ様たちをお待ちのようでしたが、昨日の早朝にランスロット様から呼び出しがありガリウスに戻られました。」
「そう・・・・・・。」

姉の顔に浮かんだ感情の変化をオズは見逃さなかった。ぱあっと広がる笑みと微かな落胆。他人にはわからぬほどのものであっても、オズは笑みの後ろに隠れた

その瞬間、オズは姉の相手が誰だかわかってしまったのだ。

バールゼフォン・V・ラームズ。

会ったことはない。
噂は聞いていた。
ロスローリアンのNO.2。
冷酷な碧眼の団長の有能な片腕。
ラームズ家の悲劇の生き残り。

ザナムを卒業する時、16の騎士団の団長は皆出席していた。ランスロット・タルタロスは記憶にある。が、隣りにいたはずの男の顔までオズは覚えてはいなかった。












 

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