祭壇の前に跪き祈りを捧げる。
父なる神と聖者ローディスに。
日々の平穏と教国の繁栄、
そしてグラシャスの栄光を・・・・・・・・・
ぎいっと教会の重い扉が開く音がしてオズマは祈りを中断して振り返った。弟の黒い陰が月光の淡い闇の中に浮かぶ。
「オズ・・・・・・?」
明らかに普段と様子が違う弟にオズマは眉をひそめた。
「おまえ・・・、酔っているの?」
ふらふらとした足取りでオズが歩いてくる。立ち上がった姉の所まで来るとオズは、天窓からの光を浴びて自分たちを見下ろす聖者の像に仰々しく一礼をすると叫んだ。
「ローディスに栄光を!」
「オズ!」
姉がオズの無礼を咎める。酔っ払いが来る場所ではない。
酒の匂いをぷんぷんさせたオズが姉に言った。
「祈りを続けてくれ、姉さん。」
そう言って慇懃に姉にも礼をした。
その態度に、
「おまえがここから出て行くのが先だわ。頭を冷やしてさっさと寝なさい!」
オズマが怒鳴った。酔っ払いが教会に入り、ローディス像の前に立つなど冒涜もいいところだ。
だがオズは姉の言葉を無視して聖像を見上げて言った。
「立派な教義ありがとうございます。」
「オズ!いい加減にしろ!!」
姉が酔っ払いの弟の頬を思いっきりはたいた。オズの前髪が額に落ちた。オズは俯いたまま無言で姉の前に立っていた。
オズマが突き放して弟に言った。
「何があったのかは知らないし、おまえの行動に干渉しようとも思わない・・・。だがおまえはローディスの騎士で、何よりもグラシャスだ。忘れるな・・・!
・・・・・・わたしの祈りは終わった。・・・寝る!」
動かない弟にそう言うとオズマは祭壇の裏にある部屋に行こうとしたがそれはかなわなかった。
オズが姉の腕を掴んだのだ。
オズマが離せと言う。だがオズは手を離さず掴んだまま、俯いて消えそうな声で告げた。
「・・・一緒に寝よう・・・・・・。」
「オズ?」
「怖い夢を見ないですむ・・・。」
「オズ・・・・・・」
「昔みたいに・・・姉さん・・・・・・。」
オズマが呆れた口調で弟に言った。さっきまでの刺々しさは無かった。
「おまえ・・・、幾つになったと思っているの?」
「幾つになっても姉さんの弟だ・・・。」
ふっと口元が緩んだ。
オズマは弟を抱き寄せぽんぽんと背中を優しくたたいた。
「ほら、これで怖い夢は見ない。」
「・・・・・・・・・。」
「いい大人だろう?これで我慢しなさい。」
姉はそう言うと弟から身を離した。
「姉さん・・・!」
オズが姉を呼び止めた。
姉が弟を見上げた。弟は泣きそうな顔をしていた。
弟の手が姉の顔に伸びる。
指先がオズマの顔をなぞっていった。
ゆっくりと静かにそっと姉を確かめるように。
「・・・同じだったのに・・・・・・、小さいころは姉さんと全部同じだったのに・・・・・・。ほら手だって・・・。」
「・・・・・・おまえが大きくなりすぎたのよ。」
オズマの手に自分の手を重ねた。
剣を握る姉の手はそれでも白く柔らかく自分とは大きさも何もかもが違っていた。
指を絡める。オズマは弟の好きにさせた。
「姉さん・・・・・・。」
姉の身体を抱きしめて姉の髪に顔を埋め、たった一つの言葉を告げる。
「・・・・・・愛している・・・・・・。」
そして、
オズはがくっとオズマの肩に倒れこんだ。
「・・・・・・・・・・・・。」
眠りこけた弟のでかい図体を引きずるようにしてオズマは寝台に運んでいった。
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