「…ヴァイス、……ヴァイス、起きろヴァイス!」

身体を力いっぱい揺さぶられてヴァイスははっと目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。

「人の気配がする。」
デニムがあたりを窺いながら小さな声で告げる。
「…!」
外はまだ真っ暗だった。夜明けにもほど遠い。

「ガルガスタンか?」
「多分…」
声を潜めて話す。
「どうしてここが?」
「森番は一人じゃなかってことさ…、ほら。」
デニムが顎で示した先に女性用の長靴が転がっていた。
「オレが殺した男の?」
「妻か…母親かってとこだろう。」
「畜生!」
「今さら仕方ないよ。それよりも今はどうやってここから逃げるかだ。」
「強行突破するか?」
「無理だよ。むこうはきっと取り囲んでいる。」
「降伏して後で機を見て逃げ出すか?」
「ゴリアテの英雄以外は死体でいいってさ」
「……!嫌な奴らだな…」
死体でもかまわない運命のヴァイスは言った。





「敵の狙いは僕だ。僕を生かしたままで捕らえたいから夜が明けるまでは攻撃してこないよ。」
「それまでに何とか手を打たねえと…」
言いながらヴァイスは部屋を見回した。目はとうに闇に慣れている。
「ヴァイスは得意だろう?逃げるのは。いつも悪さをしては逃げ回っていたから。」
「ああっ?」
デニムが親友を見て笑った。
「……おまえは自分が殺されねえってわかっているから気が楽だな。」
「ヴァイスの悪運を信用しているんだよ。」
「・・・ちっ!」
ヴァイスは赤くなって顔をそむけた。信頼しきって自分を見るデニムは全然昔と変わっていない。
2人だけの時は上手くいくのになと一瞬ヴァイスは思ったがそんな考えはすぐに片隅に追いやって、ここから逃げ出すことに神経を集中させる。

決まってる。敵の度肝を抜いてどさくさで逃げ出す。





2人でヒソヒソと相談を続けた。







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