死ぬまでに一度でいいから食べたいもの


幻のドラゴンステーキ…






ずっと昔、まだ子供だった時だ。

ヴァイスはガルドキオオトカゲを捕まえてきてそれを焼いてドラゴンステーキと言って売ったことがあった。彼一人なら誰も信用しなかっただろうが、人望のあるプランシー神父の息子が一緒だったのでゴリアテの人間は信用したのだ。

ドラゴンステーキはそれを食べた者の力をアップさせる食品だった。その存在は幻とさえ言われていて、誰も見たことも食べたこともなかったので、ヴァイスはまんまと町の人間を騙したのである。

100GOTH硬貨をジャラジャラさせながら彼は得意げにデニムに自慢した。
「世の中の連中はバカだから、ちょっとここを使うと大もうけできるしくみさ。」
にっと笑って自分の頭をちょちょんとさす。
「バカなの?」
「オオトカゲの肉をドラゴンの肉と勘違いする連中はバカだろう?」
「え〜っ、じゃあ…?」
「何だよ、おまえもアレがドラゴンの肉だと思っていたのかよ?」
コクンと肯く。
「じゃあヴァイスはみんなを騙したのか?」
「騙される奴が悪いのさ…」
納得しないデニムにヴァイスは言った。
「おまえは素直だから注意しろよ。ま、オレ様が一緒だから、まず騙される心配はないけどな。」
「ん…」

2人はゴリアテの市場に向かった。そこの親父たちがヴァイスを胡散臭そうな目で見た。
「よう、ヴァイス。また今日は何を盗みにきたんだ?」
「デニムもこんな悪ガキとつるんでねえで、姉さんと遊べよ。」
2人の子供に声をかける。
「金はあるぜ、ほら。」
ヴァイスはそう言って100GOTH硬貨を親父に見せる。それを見た彼は言った。
「どこの家から盗んだんだ?」
「ちゃんと自分で稼いだ。それよりも…、パンとチーズくれよ」
「母さんの調子はどうだ?」
「ぼちぼち…」
「親父は相変わらずか?」
「ああ…。」
「ほらよ…、おめーも悪さして母さんを泣かせるなよ。」
「ふん…」

市場の親父とそのような会話を交わしながらヴァイスは病気の母親のためにパンとチーズを買ってデニムと別れて自分の家に帰っていった。

彼の家はゴリアテの下町でも特に貧しい者たちが住んでいる地区の一角にあった。
昼間っから酒を飲んで働こうとしない父親のかわりに病気がちの母親が働いてわずかな金を稼いでいたが、その金も父親が酒代に使っていた。

母はパンとチーズに驚いて息子がまたどこからか盗ってきたのかと心配したが、そうでないとわかると安堵のため息をついたのだった。





結局すぐにヴァイスがドラゴンステーキと言って売った肉がただのガルドキオオトカゲの肉だとばれて一騒動があったのだが。










母は彼が10歳の時に亡くなった。









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