息をひそめて時を待つ
月が雲に隠れる時

一か八か、夜が白みだす前のわずかな時間の賭けだった。
より確実に逃げ出すために



月が雲に隠れ、暗闇が濃くなる。いつまでもつのか?ぐずぐずしている暇はなかった。



「行くよ、ヴァイス。」
「ああ、気をつけろ。」
「君もね…」



さあ、始まりだ。

デニムはド派手に小屋の戸を開け、転がるようにして外に飛び出した。静寂の黒い森に響きわたる音…。

“ガルガスタン兵よ、のって来い!”
デニムは祈った。

突然の音に異変を感じたガルガスタン兵が数名小屋に近づいて来る。月は雲の後ろだ。遠目からは何が起こったか把握出来ない。枯葉を踏む音が近づいて、デニムは身を固くした。小屋の中でヴァイスも緊張してるはずだ。

デニムはうつ伏せのままで唸った。

「……っ、助…け……」
「森番か!」
ガルガスタン兵がその声を頼りに駆け寄ってくる。

「何があった。奴らは何人だ?」
一人の兵が手に松明を持っていた。彼はデニムの方にそれをかざした。デニムは明かりを避けるように顔を小屋の方に向けて、弱々しい声で切れ切れに答える。
「小屋の中に…若い男が…3人、ウォルスタ人で・・…。」
「…!!」
「突然…言い争いを始めて…、一人がもう一人を…剣で……」
「隊長に伝えて来い!」
年配の兵が下っ端に言った。言われた方は捜索隊の隊長に言いに走って行った。

「ううっ…。」
そう苦しげに唸る。
「やられたのか?」
「最初に少し…」
「奥さんが心配していたぞ…、小屋の中が何か変でこっそり覗いたらあんたの姿が見えなくて、知らない男が居ると出会った我々に言ってきたのだ。」
「…妻は?」
と尋ねると男は向こうを指差した。





ガルガスタン兵が10人近くであろうか、森小屋を取り囲んだ。
デニムと話していた男も彼らと合流した。デニムはすばやく彼らがこれで全員だと確認した。

“ヴァイス…!”

兵が森小屋の戸を開けて中になだれ込む。

彼らが見たのは2人の男の倒れた姿だった…。



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