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   夜 明 け の 同 窓 会 

★ プレストーリー 1998年8月12〜13日 ★


 第一章 7月…CCD全天カメラ


ことの発端は、その年の夏のことだった。前期試験が終わってほっとしていたある日、旧友の篤志から、弘希のもとに電話があったのだ。
「…えっ、全天を撮影可能なCCDカメラを作ってくれって?」
「そう。できれば、データをパソコンで管理できるような奴なら一番いいんだけど、お願いできるかな?」
「ふむ、高校のときに作ったあれみたいに、か?」
そう言って、弘希はくすくす笑った。CCDカメラと聞いて、すぐにピンときたのである。もともと、高校の科学部で篤志は、天文の専門にやっていたのだ。
彼の言う'あれ'とは、高一のときに篤志に作ってやったCCD内蔵天体望遠鏡のことである。懐に余裕のない篤志が、眼視観測と写真撮影を同時にできるものを、という願いを容れて作ったものだったが、その年の冬にやってきた大彗星の観測に大活躍したのだった。
「うん。あれは、今でも大切に使ってるよ。何しろ、高校のときに一番の思い出を作ってくれた望遠鏡だからね。それに、お金がないのは今も同じだし」
電話の向こうで、篤志はそう言って懐かしそうに笑った。その思いは、弘希も同じだ。あの彗星のことは、天文にさして興味のない弘希もよく覚えている。
弘希はすぐにOKした。簡単なことではないが、それだけに、篤司の依頼は、弘希の意欲をかき立てるものだったからだ。
「…で、スペックはどの程度必要だい? 今は、俺も高感度のCCDをいくつか持ってるし、うちの学校には、使えそうなガラクタがたくさんあるから、作るのにはそう手間はかからないと思うぜ」
「うん。でも、感度はあれほど必要はないよ。せいぜい、肉眼と同程度でいいと思う。ただ、180度すべてを同時に撮影できること。それから、一分角の分解能を持つこと、そのぐらいかな」
「ふむ…」
弘希は考え込んだ。思ったよりも、要求がかなり厳しい。
「一台のカメラで、それだけの能力を持たせるのは、かなり難しいぞ。第一、並の銀塩写真じゃ、どうやったってそんな精度を出すのは無理だよ」
「うん。それはわかってる。だから、別に一台のカメラじゃなくてもいいんだよ。複数のカメラで撮影した画像が、最終的に一枚の全天写真になってくれればOKなんだ。パソコンで画像処理すれば、不可能じゃないと思う」
「なるほど」
弘希は納得した。それならば、話はわかる。アイデアそのものは、さして奇抜なものではない。しかし、全天を観測しなきゃいけないようなやつとなると…。
不意に、弘希はいたずらっぽく笑った。
「おい、篤志」
「何だい?」
「お前さん、一体何を狙ってる?」
弘希の意図を察したのだろう、篤志も同じ口調で返してきた。
「流星だよ。もう夏だからね。大学にも入ったし、今年はちょっと本格的にやってみようかなって」
「なるほどな、本格的に、か…」
弘希はからからと笑った。結局、こいつも好きなことはやめられないってわけか。そう思うと、何だか嬉しくなってくる。
「OK。じゃ、今月中に仕上げないといけないな。8月の初めにはできたやつを持っていくから、楽しみにしててくれ」
「うん。ありがとう、冴草くん」
相変わらず穏やかな声の余韻を感じつつ、弘希は篤志からの電話を終えた。さて、これからが楽しみだぞ、と弘希は思う。CCDカメラのような電子器械を作るのは、本当に久しぶりのことだ。要求は決して易しいものでないが、弘希には自信があった。きらめき高校で(あの紐尾結奈に匹敵する)一番の科学者と言われた彼の実力は、大学に入ってさらに磨きがかかっている。
そんな科学力を、久しぶりに発揮できそうだった。

                                            



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